税 務 セルサイドサポート ■図3 過少申告加算税が賦課される場合 年 次 報 告 書の修 正 修 正 申 告 書の提 出 課 税 当 局 担 当 者の臨 場など 年 次 報 告 書の提 出 6月30日 アーンスト アンド ヤング・トランザクション・アドバイザリー・サービス(株) トランザクションサポートチーム マネージングディレクター 公認会計士 戸田 彰 8月10日 7月31日 該当するとして、 課税当局担当者の検討前後 <お問い合わせ先> で過少申告加算税の賦課の有無が異なること 新日本アーンスト アンド ヤング税理士法人 となっていますが、 年次報告書の検討の有無 移転価格コンサルティンググループ について事前確認申出者が認識するのは困難 Ⅱ セルサイドサポートとは Ⅰ 今日の M&A取引の環境 過去15年ほどの間で、M&Aを取り巻く環 セルサイドサポートとは、セルサイド・デュー TEL :03-3506-2433 境は大きく変化してきました。プライベート・ デリジェンス( 買い手が価格決定のために実施 であるため、申出者が認識することが 容易な FAX:03-3506-2413 エクイティのように、 新たなタイプの投資家を するデューデリジェンスに備えて、売り手側が第 事項を過少申告加算税の賦課の基準にすべき E-MAIL:[email protected] 含む潜在的な買い手の数は急増しており、 財 三者と契約し、あらかじめ自社側で行うデュー 務諸表の信頼性に基づく買い手の意思決定の デリジェンス)を通じて、対象事業の価値決定 内容やスピードが重要になってきています。同 要因に関する情報を買い手に明確に示し、 買 時に、取引が不成立に終わるリスクが高くなっ い手の価格決定プロセスにおける不確実性を減 たり、各種規制・関連当局の監督強化の結果、 らして提示価格の上昇を図ったり、そのほか、 の対象となるかどうかの判定については、事務 売り手側にも高い透明性が求められるように 売却過程そのものを効率的に運用するために必 運営要領5-18 を「局担当者による報告書等の なっています(<図1>参照)。 要なサポート業務をいいます。 であるとの要望が出されていました。 ② 通達の改正 確認対象事業年度に係る修正申告が加算税 検討のための確認法人への臨場又は当該事実 このような状況下で、 売り手が正確かつ手 欧米などでは、買い手にとっても、売り手が の指摘等によって当該確認法人が局担当課に 際良い売却プロセスを構築することが M&Aの セルサイド・デューデリジェンスを実施するこ よる報告書等の検討があったことを了知したと 成否を大きく左右するようになっています。 とが大きな意味を持ってきています。つまり、 認められる以前に自主的に修正申告書を提出 した場合には、当該修正申告書は、国税通則 法第65条第5項に規定する『更正があるべきこ ■図1 M&Aをめぐる取引環境 とを予知してされたもの』には該当しない」と 現在の M&A 取引においては、さまざまな要因から取引完了(クローズ)が困難になってきている。 修正しました。 事前確認の領域に過少申告加算税の概念が 持ち込まれ、 課税当局担当課が年次報告書な どを検討した後は過少申告加算税を賦課する ことが、近年は実務的に行われていましたが、 • • • • 規制 税制 取引形態に係る諸規制 海外の諸規制 SOX Section 404 M&A 取引環境 取引規模の拡大・グローバル化 企業統合の大規模化 プライベート・エクイティの台頭 競争入札の一般化・短期化 この取り扱いが通達上、 明記されました。 事 前確認法人が年次報告書の誤りに気付いた場 合には、 課税当局担当課が臨場などをする前 に修正申告をしなくてはならないという点に留 意する必要があります(<図3>参照)。 54 • • • • • • • • ガバナンス 取締役会改選 取締役会による監督 取引承認 リスク管理 リスク統制 取引要件の不履行 戦略目標の未実現 レピュテーションリスク 潜在的な人的負担 55 TREND WATCHER 買い手としてプライベート・エクイティのように を検討しただけでは、 売却対象事業の売却前 トをカバーして調査・報告書作成を行うことが 財務諸表の信頼性を厳密に要求する投資家が の収益力が売却後どのように向上するかにつ 重要であるといえます(<図3>参照)。 増加してきており、また競争の激化とともに売 いて、明確なビジョンや提示価格算定の方針を 却スケジュールが短縮される中で、短期間で信 持つことはできません。 頼性と一貫性を兼ね備えた財務情報を求める 事業売却においては、 将来事業計画上は対 また、<図4>は、買い手が持つであろうと セルサイド報告書の作成に要する期間は、対 分かりやすくセルサイド報告書に盛り込む必要 象事業の規模や内容に加え、 資料の準備状況 象事業の収益やキャッシュ・フローは増加見込 セルサイド・ デューデリジェンスを通して売り みである場合が多いのですが、この点を買い手 手が事前準備を行うことが一般的になってきて が納得し、買い手の事業評価・バリエーション いるわけです。 に盛り込んでもらうために十分に説得力のある 事業 説明や情報開示をすることが、売り手にとって 市場 ■図3 セルサイド報告書の内容 事業売却という行為の価値向上につながる重 税金 要なポイントといえます。 <図2>は、 このた 人事 めに必要なプロセスを示しています。 が発生しますが、 その最たるものが、 当該事 業が持 っている潜在価値を買い手に正しく認 識してもらえず、本来あるべき価格を下回る価 格提示を受ける可能性があるという点です。 Ⅳ セルサイド報告書 • 収益性分析 • 調整後の税引前償却前利益 (EBITDA) • EBITDA ブリッジ • ビジネスドライバー • 今期予測 • スタンドアローンイシュー • シナジー効果 • 為替変動効果 • 感応度分析 対象会社の概要 市場の状況・魅力 競合他社の状況 将来収益力 その他 1. 一般事項 ビジネスレビュー セルサイド・デューデリジェンスの報告書(以 財務情報の信頼性 ものよりも、取引上の重要なポイントを要領良 売却対象事業を買い手に対して、 どのように くまとめたものが 売り手・ 買い手双方にとっ 魅力的にプレゼンテーションするかを十分に考 て有用です。つまり、事業内容に加え、事業 慮する前に、まず売却のスケジュールや手続き 価値の源泉となる要因などに焦点を当て、 さ を決定しようとする点が挙げられます。買い手 らにデューデリジェンスの過程で買い手が疑問 としては、 当該企業全体の監査済み財務諸表 を持って質問を出してくると予想されるポイン • • • • データソースとデータの照合 主要な会計処理と方針 経営情報の質 財務数値予測のプロセス キャッシュ・フロー分析 純資産分析 • • • • 連結貸借対照表 固定資産 その他資産・負債 純負債およびオフバランス項目 • • • • フリー・キャッシュ・フロー 設備投資 運転資本分析 キャッシュ・フロー感応度分析 ■図4 ■図2 セルサイドサポート 事前準備 報告書 交渉および取引完了 • 売却対象事業の財務諸表の 作成 • プロフォーマおよび正常収益 力の調整 • 財務および税務報告書 • 売却対象事業の市場および事 業実績に関するリポート(コ マー シャ ル お よ び オペレー ショナルな観点) • 専門家(IT、人事、年金など) による報告書 • 報告書の更新 • 投 資 家の Q&Aおよびマネジ メントプレゼンテーション • 契約書の交渉 【目標】 売却対象事業を明確にし、妥 当な事業価値を評価すること 56 • • • • 損益分析 IT 下、セルサイド報告書)は、単に長くて詳しい わが国では、 売り手の一般的傾向として、 事業の概要 退職給付 事業売却について売り手が十分な事前準備 を行わずに臨んだ場合、さまざまなデメリット 2. 報告書のポイント・費用負担など 想定される疑問点の例であり、これらの事項を 買い手の要請が高まっています。そのために、 Ⅲ 事業売却のプロセスおよび 事前準備の重要性 があります。 【目標】 投 資 家が自 信を持 っ てビッド できるように信 頼 性のある情 報を提供すること 【目標】 売 却の交 渉を売り手に有 利に 進めること コスト削減の可能性と シナジー効果 事業の成長可能性・ 将来事業計画の 達成可能性 為替レートの変動が ビジネスに与える影響 臨時発生項目・ 非反復的発生項目除去後の 正常収益力 買い手の 主な質問 過去の収益力の主要な 源泉の特定・数値化 貸借対照表上の 重要なリスク項目の特定 事業の運転資本を 創出する原動力の特定 事業切り出し後の取引条件 などの変化による影響の特定 (スタンドアローンイシュー) 57 TREND WATCHER などによっても異なりますが、 だいたい6 ~ 8 却プロセスの構築が容易になります。 これに <お問い合わせ先> 週間という場合が多いようです。セルサイド報 • 会社の資本関係 よって、人材流出など売却プロセスの長期化に アーンスト アンド ヤング・トランザクション ・ 告書のポイントは、対象事業の規模・内容や、 • 借入と返済能力 伴う事業価値の低下・ 毀損を避け、 迅速に当 アドバイザリー ・ サービス(株) 初の戦略的な目標を達成することができるとい トランザクションサポートチーム うわけです。 TEL:03-3595-8350 予想される買い手の視点の違いなどにより、さ まざまです。 例えば、 対象事業が過去に事業統合などを (3)事業投資家(ストラテジックバイヤー) • 将来の事業計画 き そん これらのセルサイドサポートの重要性や有用 繰り返している場合や、大きな事業体からカー • シナジー効果(地域、製品と顧客、購買 性について欧米では、すでに認識され、M&A ブアウト(切り出し)された事業である場合は、 力、営業力など) 時の手続きとして広範に行われています。わが 買い手が対象事業単独の将来価値を検討する • IT システム 国においても事業統合の機会が今後増加する ために、 事業の正常収益力を示す必要があり 中で、セルサイド・デューデリジェンス業務の ます。 ようなセルサイドサポートが一般化していくも また、 対象事業が複数の地域で活動をして 通常、 買収時のデューデリジェンスは買い手 いて、実質的な権限が各地域のマネジメント部 側の費用負担で行われるため、 売り手側が費 門に委譲されているような場合には、 対象事 用を負担して、わざわざセルサイド・デューデ 業について本社サイドの認識が不十分な場合が リジェンスを行うという点について、理解を得 多いので、買い手からの質問にスムーズに対応 ることが 難しい場合がしばしばあります。しか できるように、本社が把握していないような問 し、 セルサイド・ デューデリジェンスを実施す 題点の洗い出しに重点を置きます。 ることにより、見逃されていた現在あるいは将 対象事業の内容が複雑で成長の前提条件な 来の事業価値が認識され、 結果的に提示価格 どが分かりにくい場合には、 前提条件を精査 の上昇が見込めること、買い手がポイントを十 するとともに、 ほかに潜在的な価値創出要因 分に絞り込んでいない状態でデューデリジェン があれば、それらを明記します。 スを行った場合には質疑対応などで売り手が多 さらに、対象事業に対して、プライベート・ くの労力を割かれますがこれらを省いて効率的 エクイティ、 銀行あるいは事業投資家( ストラ な売却プロセスを構築できることなどを勘案す テジックバイヤー)といったように、 多くの異 れば、セルサイド・デューデリジェンスにかかる なった立場の買い手が関心を示している場合に 費用は、対価として得られる価値に対し十分に は、それぞれの立場で必要と想定される事項を 見合うものであるといえます。 E-MAIL:[email protected] のとみられています。 報告書に盛り込む必要があります。 各投資家 層が注目するポイントは個別の事例によって異 なりますが、要約すると、おおむね下記のとお りと思われます。 Ⅴ おわりに セルサイドサポートの実施により、 売り手が 財務諸表を包括的かつ詳細にレビューし、買い 手にセルサイド報告書を提供することで、買い (1)プライベート・エクイティ • 将来の収益力と成長力の源泉 • 将来事業計画とコスト削減の機会 • マネジメントチームの質 手側のデューデリジェンスの負荷を削減し、 ま た買い手が指摘するであろう問題事項に関し、 事前準備の段階で対応策を検討しておくこと で、 正しい事業価値あるいは、 それ以上の将 来的な価値を買い手に認識してもらうことが可 (2)銀行 • キャッシュ・フローの安定性 • 将来の設備投資支出 能になります。 また、 売り手は事業価値に関する情報を時 間をかけずにまとめて買い手に提示することに より、売却スケジュールの短縮など効率的な売 58 59
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