一畑電車デハニ50形の活用に向けた提言(案) - 島根県

資料2
一畑電車デハニ50形の活用に向けた提言(案)
平成21年12月
一畑電車デハニ50形活用検討協議会
一畑電車デハニ50形活用検討協議会
委員
島根大学法文学部准教授
飯野
公央
松江しんじ湖温泉振興協議会理事
大西
孝朋
出雲市地域振興部長
梶谷
基雄
松江市政策部長
川原
良一
松江商工会議所専務理事
木村
和夫
島根県連合婦人会副会長
佐々木
平田商工会議所専務理事
立石
康夫
島根県商工労働部観光振興課長
玉串
和代
島根県地域振興部長
長谷川
出雲商工会議所専務理事
福間
泰正
株式会社山陰中央新報社論説委員
藤原
秀晶
NPO法人菜の花鉄道をつくる会副代表
矢田
睦美
(会長)
日出子
眞二
(50音順)
1.はじめに
一畑電車デハニ50形活用検討協議会は、平成21年3月末で引退したデハニ
50形を、貴重な地域資源と捉え、その活用策を検討・議論することを目的とし
て設置された。
協議会では、これまで、4回の会議の開催(6月、9月、10月、12月 )、
雲州平田駅車庫での現地調査(7月 )、沿線住民・県民・鉄道ファン等を対象に
したアンケート調査(8月 )、活用案の意見募集(11月)等を実施し、デハニ
50形の活用策について、検討を進めてきた。
今般、これらの検討を踏まえ、デハニ50形の活用策についての提言をまとめ
たところである。
2.検討経過
第1回の協議会(6月)では、デハニ50形の車両の状態について、第3者に
よる調査結果の報告を受けるとともに、フリーディスカッションを行った。
夏には、車両の現地調査を行うとともに、アンケートを実施し、幅広い層から、
多くのご意見や活用のアイディアをいただいた。
第2回協議会(9月)では、アンケート結果の分析等を行い、さらに議論を深
めた。
それまでの議論等を踏まえ、改造の有無や走行方法に着目し、以下の7つの類
型に整理した。
①法令に適合するように大規模改造し、旅客営業として運行
(ただし、1両当たり2億4千万円必要との試算)
②大規模改造せず、原形を残した上で乗車走行
③乗車なしで走行(見学・撮影等)
④車庫、引き込み線等での体験運転
⑤原形を保ち静態保存(見学・撮影等)
⑥原形を活かし別目的利用
⑦レプリカを製作し旅客営業
第3回の協議会(10月)では、これらの類型について、ポイントや課題、効
果等を整理し、意見募集に向けた案づくりを行った。
この中では、それまでの議論、アンケート結果等から導かれる大きな方向性と
して 、「車両の原形を残すべき 」、「走る車両に乗りたい・見たい」ということが
あることから、本協議会の活用案として上記②③④⑤を中心に、3つの案をまと
め、11月に意見募集を行った。
なお、上記類型のうち、①⑥は車両の原形が喪失される恐れがあること、⑦は
デハニの保存とは別問題として考えるべきであることから、活用案からは除外し
た。
意見募集では、活用策1を支持する声が多かったが、実現可能性等の観点で活
用策2や活用策3も推す声もあった。自由記述では、市民やサポーターの参加、
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地域資源とのタイアップ等に関する意見が多くあった。
第4回の協議会では、意見募集の結果について報告・議論するとともに、活用
策の提言案について議論し、これを受け、最終的に本提言をまとめたところであ
る。(P)
3.活用策
活用策1;車両の原形をできるだけ残し、人を乗せて運行できるようにする。
臨時列車等として運行し、出雲大社や周辺のまちづくり、宍道湖の風景
との連動を考え、地域の活性化・観光振興にもつなげる。
<ポイント>
・安全性の確保を大前提に、デハニの原形をできるだけ保つこと、人を乗せて本線
を走ることを両立させる。
・運行に当たっては、出雲大社の神事や、旧大社駅舎・SL見学、宍道湖の風景等
とセットで売り出すなど、地域資源とのタイアップを工夫し、運行する。
・現行の法令の基準(防火対応の車体更新、自動扉化も含む)に全て適合するよう
車体も含め大規模改造を行えば(1両当たり2億4千万円必要との試算あり。)、
通常の営業運転も含め様々な運行方法が可能にはなるが、車両の原形を喪失する
可能性が大きく、デハニの魅力を失うことになるため、そのような大規模改造は
行わない。
・車両の原形をできるだけ残すことを優先し、法令の許容する範囲で可能となる運
行方法を模索する。
<課題>
・人が乗車した状態で本線を走行するために安全性の確保が重要。その前提に立っ
て、どこまで老朽化対応、保安基準対応が必要か、具体的にはできる限り長い区
間人を乗せて走行しようとするのに対しできるだけ車両の原形を残すよう修繕の
程度を抑えることができないか、中国運輸局と協議・調整が必要。
・これらのことは、安全性確保等に向けた修繕の程度と費用、それによる原形保持
のバランスを考慮する必要があり、実現に向けてクリアする課題が多く、ハード
ルが高いことが想定されるため、地元自治体や一畑電車の努力が必要。
・地域のまちづくりを考え、持続可能なものにするには、地域で活動する個人や団
体との連携も重要。
<展開シナリオ>
①出雲大社の神事や沿線での催し物や関連イベント等の開催日、また、春・夏・秋
の土日祝などを考慮して、臨時列車として運行する。
②デハニ50形の車両解説、駅舎ガイド、車両撮影、さらに旧大社駅舎やSL見学等
を含めた、デハニ車両に乗車する鉄道ツアー商品を開発する。
③デハニ50形での宍道湖の夕陽鑑賞、出雲大社参拝など、松江しんじ湖温泉・平田
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木綿街道・出雲大社等の沿線の地域資源と連携した旅行商品を開発する。
④鬼太郎列車、トロッコ列車奥出雲おろち号など、山陰エリアのユニークな鉄道車
両と連携した周遊型・滞在型旅行商品を開発する。
⑤映画「RAILWAYS」をはじめ 、「白い船 」「うん、何?」「砂時計」など、山陰の映
画ロケ地を組み合わせた「懐かしい日本の風景」をめぐる旅行商品を開発する。
⑥沿線や駅周辺で植樹等の景観づくりを行い、運行中に景観スポットや撮影スポッ
トとして紹介する。
<費用> ※金額は目安であり、変動する。
・活用方法や当局との調整等により必要となる設備等が変わる可能性があるため、
金額は未定だが、1両当たり数千万円必要になる可能性もある。
・車検等車両保守費用、運行経費等;年間100∼200万円程度
<効果>
・仮に、
・年間16回、1日2往復、2両で運行すると、乗客は5,100人程度、
・鉄道ツアー商品を開発し、1回あたり40人、年間2回実施すると80人程
度、
・沿線の地域資源と連携した旅行商品を開発し、1回あたり40人、年間3回
実施すると120人程度、
集まるとすると集客は年間5,300人程度と想定され、観光消費額は6,00
0万円程度の効果と仮定。
・加えて、グッズ・土産物、飲食サービス、記念入場券といった直接効果や、新聞
・雑誌等によるPR効果、地域の活動との連携などのまちづくり効果の創出が期
待される。
活用策2;車両の原形をできるだけ残し、期間を限り、雲州平田駅から人を乗
せずに走行させて、出雲大社前駅や松江しんじ湖温泉駅等に展示する。また、
途中駅で停車中の車内を見てもらう。
<ポイント>
・デハニの原形を保ち、車両を保存することができ、多くの人に見て触れてもらう
ことが可能となる。
・人を乗せないことから、費用が安く抑えた上で、走行することもできる。
・展示する駅とその周辺を一体のまちづくり、観光地域づくりとして売り出すこと
ができる。
<課題>
・人を乗せないことから、鉄道の魅力をどこまで伝えられるかが課題。
・回送運転を行うために必要となる車両の安全性の確保や、通常の保守等の負担を
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どのようにクリアするか。
・出雲大社前駅(3番線)や松江しんじ湖温泉駅で展示するための屋根、ホーム、
通路等の整備。
<展開シナリオ>
①沿線駅での展示にあわせた車両解説、車両撮影など、見学会の開催。
②沿線の催し物や菜の花鉄道祭等の関連イベント等と連携した車両見学やイベント
の開催。
③展示場所への回送運行時にあわせた車両見学、車両撮影、駅舎ガイド等の鉄道見
学旅行商品の開発。
④デハニ車両の見学・解説にあわせて、映画「RAILWAYS」に関連する撮影スポット
を巡るフィルムツアーの開発。
⑤途中駅で植樹等の景観づくりや車両展示にあわせた駅構内での写真展、特産品や
土産等の買い物、飲食など、幅広い楽しみを提供。
<費用>※金額は目安としての見込みであり、変動する。
・展示場所の屋根、ホーム、通路等の整備費用;未定
・雨漏り対策等の車両修繕費;200万円∼300万円程度
・車検等車両保守費用、運行経費等;100∼200万円程度
<効果>
・仮に
・年に12回展示し1回当たり30人程度とすると見学に360人程度、
・沿線の催し物や関連イベント等での展示に900人程度、
・鉄道見学旅行商品を開発し、1回30人、年間2回開催すると60人程度、
・フィルムツアーを開発し、1回30人、年間10回開催すると300人程度、
集まるとすると、集客は年間1,600人程度と想定され、観光消費額は1,8
00万円
・加えて、グッズ・土産物、飲食サービス、記念入場券といった直接効果や、新聞
・雑誌等によるPR効果、地域の活動との連携などのまちづくり効果の創出が期
待される。
活用策3;車両の原形を残し、雲州平田駅構内等の側線で、体験運転を行う。
(本線上は走行させない。)
<ポイント>
・デハニの原形を保ち走行する動態保存が可能となることに加え 、「体験」という
付加価値がつく。
・改造費用はほとんどかからない。
・車籍の有無は問わない。
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<課題>
・短い区間の体験にとどまり、走行距離は限られる。
・1日での集客力は弱く(10人程度)、体験運転単独では収益性が乏しい。
・体験運転時の列車内外の安全性確保等に要する一畑電車の人的負担が大きいが、
一畑電車は電車体験運転の元祖であり、ノウハウも保持しているため、一畑電車
の意思次第で可能。
<展開シナリオ>
①構内の測線等での体験運転の実施。なお、体験運転単独では集客力・収益性が乏
しいため、映画「RAILWAYS」に関連したツアーと組み合わせる。
②沿線駅での展示にあわせた車両解説、車両撮影など、見学会の開催。
③沿線の催し物や菜の花鉄道祭等の関連イベント等と連携した車両見学やイベント
の開催。
④展示場所への回送運行時にあわせた車両見学、車両撮影、駅舎ガイド等の鉄道見
学旅行商品の開発。
⑤子どもや青少年を対象とした見学会や遠足などの受入れにむけて、匂い・振動・
音などを体感できる体験メニューの開発。子ども電車教室とも連携。
⑥体験運転の実施に合わせて、乗務員とともに駅員や技術員等の多様な現場業務を
体験するメニューの開発、実施。
<費用>※金額は目安としての見込みであり、変動する。
・雨漏り対策等の車両修繕費;200万円∼300万円程度
・車検等車両保守費用、運行経費等;100∼200万円程度
(車籍の有無によって異なる。)
<効果>
・仮に、
・体験運転イベントの実施に1回10人、年間12回開催すると120人程度、
・フィルムツアーを開発し、1回30人、年間10回開催すると300人程度、
・年に12回展示し1回当たり30人程度とすると見学に360人程度、
・沿線の催し物や関連イベント等での展示に900人程度、
集まるとすると、集客は年間1,600人程度と想定され、観光消費額は1,9
00万円
・加えて、地域の活動との連携や、一畑電車ファンの醸成などの効果も想定。
活用策1∼3で共通する展開例
※一部、上記記述と重複するところがある
・県内全域での鉄道資産に着目し、デハニ50形、SLやまぐち号等のレトロ車
両や、木造駅舎などをテーマとしたイベント、巡回写真展等の開催
・車両や駅舎を活用したイベントや催し物等、地域の団体・グループが行う活動
への車両の貸し出し
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・全国の鉄道車両の保存・活用や鉄道を活かしたまちづくりに取り組む地域・団
体との情報交換や交流の促進
・一畑電車の歴史・変遷やスイッチバック等の解説、出雲大社参詣関連遺産とし
て近代化産業遺産に登録されている出雲大社前駅舎、JR大社駅の見学・解説
などを組み込んだ出雲大社参詣ツアー商品の開発
・子どもや青少年を対象に、鉄道車両を題材とした鉄道や沿線の暮らしの変化な
どをテーマとした体験学習や学習旅行商品の開発
・中高年者の世代を対象に、古い車両や沿線の生活風景など、懐かしいふるさと
をテーマとした旅行商品の開発
4.提言に当たって(結論)
協議会における議論では、活用策1の 、「車両の原形をできるだけ残し、人を
乗せて運行できるようにする」ことを支持する意見が多数であった。
今後、デハニ50形の活用に向けて、世論を巻きこみつつ、鉄道事業者として
の一畑電車株式会社での検討、一畑電車の運行維持を支援している一畑電車沿線
地域対策協議会を構成する地方自治体(島根県・松江市・出雲市)での検討、中
国運輸局との協議、調整等を行い、実現していくことが想定されているが、例え
ば、活用策1について検討を進めた結果、乗車しての本線の走行には大規模改造
が必要と判断され、原形喪失の度合や費用の問題から困難である場合には、活用
策2、3について検討することも考えられる。
言うまでもなく、検討に際しては、鉄道事業において基本となる安全性の確保
がなされることを大前提に進める必要がある。今回示した複数の活用策や様々な
展開シナリオについて、社会情勢等も踏まえつつ、できるものから少しずつでも
実現されるよう、検討が進むことを期待している。
(補足事項)
協議会におけるアンケート調査等を通じて、一畑電車利用者や鉄道愛好家等を
中心に、デハニ50形の活用等に対する強い期待と関心を認識した。同時に県民
の中でも、デハニ50形の存在や価値に対する理解が十分に進んでいない面があ
ることも分かった。
こうしたことを踏まえ、沿線住民や県民をはじめとする幅広い層に向けて、デ
ハニ50形の価値や沿線の魅力等を伝える情報発信の取組や、意識の掘り起こし
・気運の醸成を行い、活用に向けた世論を高めることが必要である。その際、平
成21年5月に予定されている、映画「RAILWAYS」の公開は、大きなチャンスで
もある。
さらに、デハニ50形活用の取組は、車両の保存だけではなく、沿線のまちづ
くりや、新たな観光資源としての活用、歴史的文化の保存継承等といった側面も
併せ持つことから、これらと連携して事業効果を高めていくことも重要である。
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