172( 38 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 Apr. 2004 岐阜県下における肺炎球菌の疫学解析 ϳ2002 年 ϳ 岐阜耐性菌フォーラムワーキンググループ 三鴨廣繁 末松寛之 岐阜大学医学部臓器病態学講座女性生殖器学分野 岐阜県厚生農業協同組合連合会中濃病院検査科 (現:岐阜大学生命科学総合実験センター 嫌気性菌実験分野) 松原茂規 田中香お里・渡邉邦友 松原耳鼻いんこう科医院 岐阜大学生命科学総合実験センター 嫌気性菌実験分野 松川洋子 澤村治樹 岐阜県立多治見病院臨床検査部細菌検査 岐阜大学医学部附属病院検査部 石郷潮美 宮里正嗣・市川悦司 大垣市民病院診療検査科 明治製菓株式会社 (2004 年 1 月 19 日受付) 岐阜県下の 6ヵ所の医療施設において 2002 年 5 月から 8 月の 4 か月間に 254 症例から分 離・同定された肺炎球菌254株の各種抗菌薬に対する薬剤感受性およびペニシリン結合蛋 白 (PBP) の遺伝子変異の有無を検討した。分離菌の由来は ,小児科 90 株 ,耳鼻咽喉科 83 株,内科 65株 ,その他 14株,不明 2 株であった。PBPの遺伝子変異の有無を検討した結果 は ,pbp1a, pbp2x, pbp2b いずれも変異していた株が 121 株(49%), pbp1a, pbp2x が変異して いた株が 30 株(12%), pbp2x, pbp2b が変異していた株が 16 株(6%), pbp2x のみが変異して いた株が 61 株(24%), pbp1a のみが変異していた株が 1 株(1%), pbp2b のみが変異していた 株が 1 株 (1%),変異のなかった株は 24 株(9%) であった。これらの菌に対して優れた抗菌 力を示した抗菌薬では,セフェム系経口抗菌薬のcefditorenおよびcefcapeneであり,また, panipenem, biapenem, imipenem および meropenem のカルバペネム系薬であった。また , ニューキノロン系薬では tosufloxacin および sparfloxacin であった。マクロライド薬の耐性 に関わるmefA, ermB遺伝子を解析した結果,全体で,mefAを保持する株は74株(29%),ermB を保持する株は 134 株 (53%), mefA および ermB の両者を保持していた株は 10 株(4%),耐 性遺伝子を認めなかった株は36株 (14%) であった。検討した55株の肺炎球菌の血清型は, 6 型(17 株 ,30.9%),40 型(8 株 ,14.5%),9 型(6 株 ,10.9%),15 型(5 株 ,9.1%) Apr. 2004 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 173( 39 ) の頻度が高かった。Penicillin resistant Streptococcus pneumoniae (PRSP) に限ると ,6 型 (11/29 株 ,37.9%),9 型(3 株 ,10.3%),15 型(3 株 ,10.3%)の頻度が高かった。松 原耳鼻いんこう科医院から分離された PRSP 29 株は ,遺伝子の Pulsed Filed Gel Electrophoresisの泳動パターンにより 15タイプに分類され,家族内感染の症例は認められなかっ た。したがって ,地域で流行した株であることが判明した。 肺炎球菌は,肺炎,髄膜炎,敗血症などの感染症 ら患者紹介・搬送を受ける中心的医療機関である。 の病原体として広く知られており ,現在でも高い なお,症例の個人情報については,年齢,性別,診 罹患率と死亡率をもたらしているため ,耐性肺炎 療科のみの報告を受けた。 球菌による重症感染症は世界的に重大な問題と な っ て い る 1)。 日 本 で は , penicillin-resistant 2. PCR による遺伝子検索 Streptococcus pneumoniae (PRSP) による化膿性髄 Polymerase chain reaction (PCR) による遺伝子検 膜炎の第 1 例目が1988年に報告され 2),その後 ,急 索は ,「ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP) 遺伝子検 速に増加していることが報告されている3,4)。しか 出試薬」 (湧永製薬)のキット製品を用いた。被験 しながら,耐性肺炎球菌の出現頻度には,国家間の 菌は PCR 法により自己融解酵素遺伝子(LytA)の存 みならず ,同一国家でも地域差があることも報告 在を確認できた株とし ,耐性遺伝子の検索は PCR 5) されており ,地域ごとのサーベイランスを行い , による検索法の既報論文に準じて耐性遺伝子の検 その結果を患者の治療に役立てることは ,きわめ 索を実施した3,4,6)。なお,遺伝子解析に基づくPCR て重要な意味を持つと考えている。我々は,岐阜県 の結果から ,本報告における PSSP, 下における肺炎球菌の現状について医療圏 ,施設 PRSPの区別は,生方らの論文に従い行った。すな による違いを把握し ,抗菌薬の適正使用に役立て わち ,ペニシリン結合蛋白質に関与する遺伝子 ることを目的として ,今回の検討を実施した。 pbp1a, pbp2x, pbp2b のいずれにも耐性を与える変 PISPS 及び 異をもたない株は PSSP,前遺伝子の 1ヵ所あるい I. 材料と方法 は2ヵ所の変異菌株はPISP及び3ヵ所の変異菌株を PRSP とした。 1. 収集菌株 対象は ,2002 年 5 月から 8 月の 4 か月間に ,岐 3. 薬剤感受性測定 阜大学医学部附属病院,大垣市民病院,岐阜県厚生 各種抗菌薬に対する薬剤感受性は ,日本化学療 連中濃総合病院,岐阜県立多治見病院,高山赤十字 法学会の微量液体希釈法に従い ,フローズンプ 病院,松原耳鼻いんこう科医院の6施設の254症例 レート栄研(栄研化学,東京)を用いた微量液体希 か ら 分 離 ・ 同 定 さ れ た penicillin-susceptible S. 釈法によって測定した。被験薬剤は ,penicillin G pneumoniae (PSSP) 24 株及び penicillin-intermediate (PCG), piperacillin (PIPC), amoxicillin (AMPC), S. pneumoniae (PISP) 以上のカテゴリーに入った肺 cefaclor (CCL), cefixime (CFIX), cefdinir (CFDN), 炎球菌230株とした。病院の規模から見ると松原耳 cefteram (CFTM), cefpodoxime (CPDX), cefditoren 鼻いんこう科医院は開業医であることから 1 次医 (CDTR), cefcapene (CFPN), imipenem (IPM), 療機関であり,他の5施設は各地域の開業医などか panipenem (PAPM), meropenem (MEPM), biapenem 174( 40 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 (BIPM), levofloxacin (LVFX), ciprofloxacin (CPFX), Apr. 2004 クトン),岐阜県立多治見病院が微量液体希釈法 (SPFX), (SEPTOR System, 日本ベクトン) ,高山赤十字病院 clarithromycin (CAM), azithromycin (AZM), がディスク拡散法(SN ディスク ,日水),松原耳 minocycline (MINO), clindamycin (CLDM) の22薬剤 鼻いんこう科医院がディスク拡散法(センシディ とした。 スク ,日本ベクトン)であった。 tosufloxacin (TFLX), sparfloxacin 被験菌は 5% スキムミルクに懸濁後 ,Ϫ80°C に 保存した。MIC測定時,被験菌株は,血液寒天培地 (日本ベクトン・ディッキンソン,東京)に塗布し, 2. 送付された検体の背景 診療科別にみると小児科 90 株(34%), 耳鼻咽喉 37°C, 5% 炭酸ガス濃度の培養条件で前培養を 2 回 科 83 株 (33%), 内科 65 株(26%), その他 14 株 (6%), 繰り返し ,単一コロニーを使用した。 不明2株(1%) であった。患者の年齢は,0ϳ5歳139 株(55%), 6ϳ10 歳 15 株(6%), 11ϳ64 歳 40 株(16%), 4. 血清型別 65歳以上53株 (22%), 不明7株 (3%)であった。0ϳ5 被験菌の血清型別は ,肺炎球菌莢膜型別用免疫 歳の内訳をみると,0歳25株(10%), 1歳45株 (18%), 血清(デンカ生研,東京)を用いて,松原耳鼻いん 2 歳 15 株(6%), 3 歳 31 株(12%), 4 歳 19 株(7%), 5 こう科医院から分離された肺炎球菌55株の血清型 歳 4 株 (2%) となっていた。検体の内訳は ,咽頭 60 を判定した。 株(24%), 鼻腔 106 株(41%), 喀痰 62 株(24%), 耳漏 9 株(4%), その他 17 株(7%) となっていた。 5. 分離された PRSP の遺伝子多形性 PRSPの流行状況を遺伝子学的に調べるために, 3. 各施設別の遺伝子変異菌の分離頻度 松原耳鼻いんこう科医院から分離された PRSP 29 各施設におけるPCG感受性菌と耐性菌の分離頻 株について,制限酵素Sma Iを用いて,既報にした 度は ,岐阜大学附属病院で PSSP 4 株(21%) 及び 7) がって ,Pulsed Field Gel Electrophoresis (PFGE)法 PISP 以上 15 株(79%), 大垣市民病院で PSSP 64 株 を施行し ,遺伝子多型性を検討した。 (45%) 及び PISP 以上 77 株(54%), 岐阜県厚生連中 濃総合病院で PSSP 23 株(15%) 及び PISP 以上 96 株 II. 結果 (85%), 岐阜県立多治見病院で PSSP 7 株(14%) 及び PISP以上45株(86%), 高山赤十字病院でPSSP 18株 1. 被験菌株の施設構成と各施設の感受性測 定法 対象となった菌株は ,岐阜大学医学部附属病院 (56%) 及び PISP 以上 14 株(44%), 松原耳鼻いんこ う科医院で PSSP 93 株(18%) 及び PISP 以上 434 株 (82%) であった。 15 株 ,大垣市民病院 56 株 ,岐阜県厚生連中濃総合 これらの分離菌の中から PSSP を 24 株と各施設 病院 57株,岐阜県立多治見病院52株 ,高山赤十字 のPISP以上の菌は,施設間で異なるため約50株を 病院 19 株 ,松原耳鼻いんこう科医院 55 株の 254 株 無作為に選び230株を収集し,遺伝子変異を検討し であった。各施設のルーチン検査における薬剤感 た。b - ラクタム薬の耐性に関わる pbp1a, pbp2x, 受性測定方法は ,岐阜大学医学部附属病院が微量 pbp2b 遺伝子を解析した結果を Table 1 に示した。 液体希釈法(MIC2000, 栄研) ,大垣市民病院が微量 検討した菌株全体では ,pbp1a, pbp2x, pbp2b すべ 液体希釈法(MIC2000, 栄研) ,岐阜県厚生連中濃総 て変異していた株 (PRSP) が 121 株(48%), pbp1a, 合病院がディスク拡散法 (センシディスク,日本ベ pbp2x が 変 異 し て い た 株 (PISP) が 30 株 (12%), Apr. 2004 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 175( 41 ) Table 1. Isolation frequency of abnormal penicillin binding protein (PBP) genes in Streptococcus pneumoniae isolated from hospitals in Gifu area. Table 2. Isolation frequency of macrolide-resistant genes in Streptococcus pneumoniae isolated from hospitals in Gifu area. pbp2x, pbp2b が変異していた株 (PISP) が16株(6%), 子の有無を解析した結果をTable 2に示した。全株 pbp2x のみが変異していた株 (PISP)が 61 株 (24%), において,mefAが認められた株は74株(29%), ermB pbp1a のみが変異していた株 (PISP) が 1 株 (1%), が認められた株は 134 株(53%), mefA, および ermB pbp2b のみが変異していた株 (PISP)が 1 株(1%), 変 の両者が認められた株は 10 株 (4%), 耐性遺伝子の 異のなかった株 (PSSP)は 24 株 (9%) であった。大 認められなかった株は 36 株(14%)であった。施設 垣市民病院,中濃総合病院,松原耳鼻いんこう科医 別にみると ,mefA, ermB の保有状況には ,施設間 院では ,pbp1a, pbp2x, pbp2b すべて変異していた で大きな違いは認められなかった (pϾ0.05)。 株が50%を越えていた。pbp1a, pbp2xおよびpbp2b すべて変異の保有率は ,岐阜県厚生連中濃総合病 院 ,松原耳鼻いんこう科医院と岐阜県立多治見病 院 ,高山日赤病院の間には有意な差が認められた ( pϽ0.05)。 マクロライド薬の耐性に関わる mefA, ermB 遺伝 4. ペニシリン耐性遺伝子保有 S. pneumoniae に 対する各種抗菌薬の抗菌力 遺伝子変異のない PSSP, それぞれの変異した遺 伝子をもつ PISP およびすべて変異した PRSP に対 する各種抗菌薬の抗菌力をTable 3にMIC50, MIC90, 176( 42 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 Apr. 2004 Table 3. Antibacterial activity of antibacterial compounds against Streptococcus pneumoniae clinical isolates of normal and harboring abnormal penicillin binding protein (PBP) genes. Apr. 2004 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 Table 3. (Continued) 177( 43 ) 178( 44 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 Table 3. (Continued) Apr. 2004 Apr. 2004 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 Table 3. (Continued) 179( 45 ) 180( 46 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 Table 3. (Continued) Apr. 2004 Apr. 2004 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 Table 3. 181( 47 ) (Continued) MIC rangeで示した。なお,PBP1aおよびPBP2bの 子を持つPISPおよびPRSPには弱いものであった。 変異菌はそれぞれ1株であったためMIC rangeの項 CFDN と CPDX の抗菌力はほぼ類似しており , に記載した。 PSSPと一部の変異のPISPにのみ抗菌力を示した。 PCG に対する肺炎球菌の感受性の分類は ,変異 遺伝子無しを PSSP 24 株,1ϳ2ヵ所の変異を PISP (pbp1a; 1 株 ,pbp2x; 61 株 ,pbp2b; 1 株, CFTM は PSSP と PISP に 強 い 抗 菌 力 を 示 し た 。 CDTR の PSSP, PISP および PRSP に対する MIC90 は ,それぞれ 0.03 m g/mL, 0.25 m g/mLϳ1 m g/mL お pbp1aϩpbp2x; 30 株 ,pbp2xϩpbp2b; 16 株)および よび1 m g/mLであり,CFPNの抗菌力もほぼ同等で 3 箇所の変異を PRSP 121 株とした。PCG の PSSP, あった。しかし,CDTRではPRSPにおいてMICの PISP および PRSP に対する MIC 90 は ,それぞれ 8 m g/mLが2株,4 m g/mLが 3 株検出された。CFPN 0.03 m g/mL, 0.06 m g/mLϳ0.5 m g/mL および2 m g/mL では PISP において MIC の 4 m g/mL が 1 株 ,PRSP であった。このような被験菌に対しPIPCとAMPC で16 m g/mLが5株,8 m g/mLが3株検出された。カ は ,PCG とほぼ同等な抗菌力を示した。一方 ,経 ルバペネム系薬は ,全体的に PSSP, PISP および 口用セフェム系抗菌薬の抗菌力は ,それぞれの抗 PRSP に対して強い抗菌力を示した。しかしなが 菌薬で大きく異なっている。CCL および CFIX は ら,PSSPのMIC90値がϹ0.015 m g/mLに対し,PRSP PSSP に抗菌力を示し ,1ヵ所以上の変異した遺伝 の MIC90 値は 0.125 m g/mL から 0.5 m g/mL を示して 182( 48 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 Apr. 2004 おり,PSSPの8ϳ16倍以上の値である。また,pbp1a PSSP と同じ抗菌力示した。しかし ,CAM および のみの変異株も低感受性になる傾向が認められ AZMの抗菌力は劣っていた。さらに,ermBおよび た。ニューキノロン系薬の抗菌力は2グループに分 mefA と ermB の両者を保持する肺炎球菌はすべて けられる。1 群は LVFX と CPFX であり ,MIC90 は の抗菌薬に耐性であった。 1 m g/mLϳ2 m g/mLであった。他方,TFLXとSPFX のMIC90 は,0.125 m g/mLϳ0.5 m g/mLであり,前者 6. 血清型 より強い抗菌力を示した。マクロライド系薬の 松原耳鼻いんこう科医院における分離菌の莢膜 CAM と AZM は PSSP に対する MIC50 がそれぞれ 血清型をTable 5に示した。分離された55菌株の血 0.03 m g/mL および 0.125 m g/mL であった。しかし , 清型は17種類に分類された。これらのうち,肺炎 その他の菌株は耐性菌であった。同様な傾向は , 球菌全体では ,6 型 (17/55, 30.9%), 40 型 (8/55, CLDM および系統の異なる MINO においても認め 14.5%), 9 型(6/55, 10.9%), 15 型 (5/55, 9.1%) の頻度 られた。 が高かった。PRSP に限ってみれば ,6 型 (11/29, 37.9%), 9 型(3/29, 10.3%), 15 型(3/29, 10.3%) の頻 5. マクロライド耐性遺伝子保有 S. pneumoniae 度が高かった。 に対するマクロライド系薬の抗菌力 Table 4に示すように,PSSPに対する CAM, AZM 7. 遺伝子多形性 お よ び CLDM の MIC90 は そ れ ぞ れ 0.06 m g/mL, 松原耳鼻いんこう科医院から分離された PRSP 0.125 m g/mLおよび0.06 m g/mLであり,強い抗菌力 29 菌株を PFGE による遺伝子解析を行い ,泳動パ を示した。また ,mefA 保有菌に対して CLDM は ターンから Table 6 に示したように 15 タイプに分 Table 4. Antibacterial activity of macrolide antibiotics against Streptococcus pneumoniae clinical isolates of normal and harboring mefA and ermB gene. Apr. 2004 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 183( 49 ) Table 5. Serotypes of Streptococcus pneumoniae isolates in Matsubara Otorhinolaryngology Clinic. 類された。タイプ H, M および B と N がそれぞれ 5 肺炎球菌による感染症は,一般的に,小児・老人 株,4株および3株認められた。しかしながら,い に多い。また ,この傾向は今回の調査でも同様で ずれも家族内発生の症例ではなかった。住居が近 あった。我々は1999年に岐阜県下から分離された 隣で地域流行株の存在が推察された。 肺炎球菌 81 株の薬剤感受性成績を報告してい る 11)。薬剤濃度設定に違いがあるが今回の結果と III. 考察 比較しても ,各薬剤に対する耐性化が著しく進ん でいるとは言えない。しかしながら,今回の検討で 1977 年に APPELBAUM らにより PRSP による肺炎 , 肺炎球菌に対する抗菌力が良好と言われる CDTR 髄膜炎の発症例が報告 8)されて以来 ,ペニシリン に対し MIC が 8 m g/mL(2 株)および 4 m g/mL(3 耐性肺炎球菌は ,世界各国で大きな問題となって 株) のPRSPが検出された。さらに,CFPNではMIC いる。日本では ,1988 年に初めて有益ら により の 4 m g/mL(1 株)が PISP, 16 m g/mL(5 株)およ PRSPによる髄膜炎が報告されて以来,現在,PRSP び 8 m g/mL(3 株)が PRSP から検出された。今後 の分離率が諸外国を上回っていると考えられてい の分離菌の薬剤耐性化に注目する必要がある。 2) る。一方,国内のサーベイからペニシリン耐性肺炎 セフェム系経口抗菌薬の中で PRSP に対して優 球菌の分離頻度に地域差があることも報告されて れた抗菌力を示した CDTR でも ,ほとんどの菌株 いる 3,4,11) 。 の発育を抑制するために 1 m g/mL の濃度が必要で 184( 50 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 Table 6. Diversity of PRSP isolates in Matsubara Otorhinolaryngology Clinic using pulsed field gel electrophoresis. Apr. 2004 とが推測された。肺炎球菌の感染予防にワクチン が導入されている関係もあり ,血清型の変動につ いての定期的なサーベイランスは ,肺炎球菌感染 症と対峙する上で非常に重要である。 PFGE 法を用いた PRSP の同一性検討の結果 ,し ばしば報告のある 7)家族内感染と断定された症例 はなかった。しかし,居住地が近いことが判明した 患者は,同じ PFGEのパターンを示したPRSP が分 離された。このことは地域的な流行株が存在する 可能性が高いことを示唆していた。 日本で ,急速に耐性菌が増加してきた理由のひ とつに ,外来患者における経口セフェム系抗菌薬 の処方量の多さとPK/PDを考慮していない処方内 容があげられている9)。日本では1都道府県に最低 1大学病院があるため,多くの場合,大学病院を中 心とした医療圏とでも呼ぶべき状況が存在してい る。したがって,感染症治療においても,各医療圏 で ,微妙に異なった医学教育を受けてきた臨床医 師による診療方法により ,耐性菌の出現頻度が異 なることは推察できる。このような事実から,各医 あったことは,重要視しなければならない。多くの 療圏毎に,アンチバイオグラムを作成し,それを利 経口抗菌薬の Time above MIC は ,0.5ϳ0.7 m g/mL 用することの重要性が強く示唆される。実際に,ア 程度であることを考慮すると ,CDTR を使用して ンチバイオグラムの作成により ,耐性菌の頻度を も ,現在の常用投与量では ,今回の約 30% の症例 減少させることが可能であったという報告もあ が臨床的に無効となる可能性が考えられる。薬剤 る 10)。 の pharmacokinetics/pharmacodynamics (PK/PD) を 岐阜県は,日本の人口重心があるなど,日本の真 考慮した投与法により ,この問題は解決できる可 ん中に位置するが ,北は海抜3000 メートル級の飛 能性があることからもPK/PDに基づいた抗菌化学 騨の山岳から南は海抜 0 メートルの美濃の水郷地 療法の重要性が理解できる。 帯まで ,起伏と変化に富み ,面積 10,598.18 km2, 人 生方らの報告によれば ,菌の病原性と関係のあ 口約210万人,人口密度199人/km2 とかなり広い県 る莢膜血清型について,我が国では,19型,6型, である。今回の検討により,岐阜県内でも肺炎球菌 23 型 ,14 型が多く ,9 型 ,15 型の PRSP が出現し の薬剤耐性化状況には地域間で微妙に違いがある 9,12) てきている 。しかしながら,我々の検討におい ことが示された。今後も定期的なサーベイランス て ,19 型 ,23 型 ,14 型の頻度は低く ,40 型 ,9 結果に基づいた地域のアンチバイオグラムを作成 型 ,15 型の頻度が高くなっていた。今回の 1 施設 していくことは ,より適確な化学療法を行ううえ のみのデータで断定できないが ,流行する肺炎球 で,極めて有用であり,ひいては感染症患者の治療 菌の血清型別についてもかなりの地域差があるこ に役立ち ,耐性菌を増加させないという抗菌化学 Apr. 2004 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 療法の基本である個人防衛,集団防衛,社会防衛の 概念 13)に結びつくものと考える。 7) 謝辞 岐阜耐性菌フォーラムの運営にあたり , 菌株収集にご協力いただいた施設 ,学術的ご指導 をいただいた明治製菓(株)研究所,北里大学北里 8) 生命研究所感染情報学研究室の生方公子教授に深 謝いたします。 9) 文献 1) 2) 3) 4) 5) 6) KLUGMAN, K. P.: Pneumococcal resistance to antibiotics. Clin. Microbiol. Rev. 3: 171ϳ196, 1990 有益 修,目黒英典,白石裕昭,他: b -ラクタム剤が 無効であった肺炎球菌髄膜炎の 1 例。 感染症誌 62: 682ϳ683, 1988 UBUKATA, K.; Y. ASAHI, K. OKUZUMI, et al.: Incidence of penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae in Japan, 1993ϳ1995. J. Infect. Chemother. 2: 77ϳ84, 1997 U BUKATA , K.; T. M URAKI , A. I GARASHI , et al.: Identification of penicillin and other b -lactam resistance in Streptococcus pneumoniae by PCR. J. Infect. Chemother. 3: 190ϳ197, 1997 FELMINGHAM, D.; R. R. R EINERT , Y. HIRAKATA & A. RODLOFF: Increasing prevalence of antimicrobial resistance among isolates of Streptococcus pneumoniae from the PROTEKT surveillance study, and compatative in vitro activity of the ketolide, telithromycin. J. Antimicrob. Chemother. 50 (Suppl. S1): 25ϳ37, 2002 NAGAI, K.; Y. SHIBASAKI, K. HASEGAWA, et al.: Evaluation 10) 11) 12) 13) 185( 51 ) of the primers for PCR to screen Streptococcus pneumoniae isolates, b -lactam resistance and to detect common macrolide resistance determinants. J. Antimicrob. Chemother. 48: 915ϳ918, 2001 SHIMADA, J.; N. YAMANAKA & M. HOTOMI: Household transmission of Streptococcus pneumoniae among siblings with acute otitis media. J. Clin. Microbiol. 40: 1851ϳ1853, 2002 APPELBAUM, P. C.; A. B HAMJEE, J. N. SCRAGG, et al.: Streptococcus pneumoniae resistant to penicillin and chloramphenicol. Lancet 2: 995ϳ997, 1977 生方公子 ,小林玲子 ,千葉菜穂子 ,長谷川恵子 ,紺野 昌俊: 本邦において 1998 年から 2000 年の間に分離 された Streptococcus pneumoniae の分子疫学解析。 日 化療会誌 51: 60ϳ70, 2003 HORVAT, R. T.; N. E. KLUTMAN, M. K. LACY, D. GRAUER & M. WILSON: Effect of duplicate isolates of methicillinsusceptible and methicillin-resistant Staphylococcus aureus on antibiogram data. J. Clin. Microbiol. 41: 4611ϳ4616, 2003 石郷潮美,玉舎輝彦,松原茂規,末松寛之,澤村治樹, 松川洋子,橋渡彦典,岩田幾代,三鴨廣繁: 岐阜県下 における肺炎球菌の検出状況と各種抗菌薬に対する 感受性サーベイランス。Jpn. J. Antibiotics 53: 652ϳ659, 2000 千葉菜穂子 ,長谷川恵子 ,小林玲子 ,鈴木悦子 ,岩 田 敏 ,砂川慶介: 化膿性髄膜炎例から分離された Streptococcus pneumoniaeの疫学解析。日化療会誌 51: 551ϳ560, 2003 稲松孝思: 治療前検査,早期診断,早期治療。抗菌薬 使用の手引き。日本感染症学会/日本化学療法学会 編 ,pp. 3ϳ6,協和企画 ,東京。2001 186( 52 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—2 Apr. 2004 EPIDEMIOLOGY OF Streptococcus pneumoniae ISOLATES IN GIFU PREFECTURE Gifu Working Group of Forum on Microbial Resistance HIROSHIGE MIKAMO Department of Obstetrics and Gynecology, Division of Organ Pathobiology, Gifu University School of Medicine KAORI TANAKA and KUNITOMO WATANABE Division of Anaerobe Research, Life Science Research Center, Gifu University HARUKI SAWAMURA Gifu University School of Medicine HIROYUKI SUEMATSU Clinical laboratories, Chuno General Hospital SHIGENORI MATSUBARA Matsubara Otorhinolaryngology Clinic YOKO MATSUKAWA Clinical laboratories, Gifu Prefectural Tajimi Hospital SHIOMI ISHIGO Depatment of Clinical Laboratory Medicine, Ogaki Municipal Hospital MASASHI MIYASATO and ETSUJI ICHIKAWA Meiji Seika Kaisha, Ltd. We analyzed Streptococcus pneumoniae isolates confirmed by direct PCR in Gifu prefecture between May 2002 and August 2002. We analyzed isolates of 254 strains from 6 hospitals to determine antibiotic susceptibility, genotype of penicillin-binding protein (PBP) genes and macrolide resistant genes, and the serotypes distribution of isolates from Matsubara Otorhinolaryngology Clinic. Isolates in which abnormal PBP genes of pbp1a, pbp2x, and pbp2b were identified by PCR were classified based on PCR results as follows; (i) penicillin-susceptible (PSSP) with 3 normal PBP genes, (ii) penicillin-intermediate (PISP) with an abnormal pbp2x, (iii) PISP with an abnormal pbp2b, (iv) PISP with abnormal pbp2x and pbp2b, (v) PISP with abnormal pbp1a and pbp2x, (vi) penicillin-resistant (PRSP) with 3 abnormal PBP genes. The overall incidence of PRSP, PISP and PSSP was 121 (49%), 109 (42%) and 24 (9%), respectively, and there was a significant difference among some hospitals ( pϽ0.05). However, there was no significant difference among the hospitals for the incidence of abnormal macrolide-resistant genes (mefA, ermB). Panipenem showed an excellent antimicrobial activity for injectable carbapenems against PRSP, following biapenem, imipenem, and meropenem. Cefditoren (CDTR) showed an excellent antimicrobial activity for oral cephalosporins against PRSP, following cefteram and cefcapene. Interestingly, there were 2 and 3 strains on MIC of CDTR for 8 and 4 m g/mL, respectively. The prevalent pneumococcal serotypes of isolates in Matsubara Clinic were 6 (17/55), following by 40 (8/55), 9 (6/5) and 15 (5/ 55). The endemic strains were observed in this study using pulsed field gel electrophoresis. These findings suggest the needs to continue the surveillance of bacterial resistance not only in the nationwide but also in the distict.
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