体温の調節

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体
温 (176)
正常体温
36.5℃(36.2 ― 36.8℃)(正常な細胞活動と酵素反応に適した温度)
体温中枢
視床下部にあり、皮膚内血管、汗腺、立毛筋に作用し温度を制御する。
1) 熱の産生と放散(177)
産熱
安静時
腹腔内臓(肝臓、腎臓)で55%
運動時
通常の活動で筋60%
食 事
タンパク質の摂取(肝臓での合成、分解による)
ふるえ
寒冷刺激(骨格筋の不随意運動)、鳥肌、立毛
ホルモン作用
筋20%
脳15%
腹腔内臓器35% その他
甲状腺ホルモン、アドレナリンは代謝を亢進
2) 皮膚からの熱の損失
輻 射(放射)
60%
伝 導
20%
対 流
不感蒸泄
20%
発汗と気化熱
低温では赤外線として放熱される熱エネルギーが最も多い。
接触する対象物への熱の損失
皮膚表面上の気流の動きによる損失
呼吸、口腔、皮膚からの蒸発による損失(400~800ml)
消毒アルコール、高温では発汗による熱損失が最も多い。
3) 体温測定と体温の変動(176)
体温の測定部位
(核心温度の測定)
腋窩 36.6℃ < 口腔 37℃ < 直腸 37.5℃の順に体温が高い。
早朝起床前の口腔(舌下)温は基礎体温測定に利用される。
性別と年齢
女性は男性より高い。子供は高く、老人は低い。
時刻と体温
朝は低く、夕方は高い、夜は低くなる。睡眠は低下する。
食事・排尿
食事によって体温が上昇する。排尿によって低下する。
排卵、月経と妊娠
精子形成(陰のう)
排卵後2週間は基礎体温は 0.5 度上昇(黄体ホルモンの作用)し、
妊娠はこの高体温を維持する。月経前高く、月経で低くなる。(2 相性)
精子形成には32℃の低温環境が必要
4) 体温調節(177)
体温の調節反応
気温低下
気温上昇
抹消血管の収縮
甲状腺ホルモン分泌促進、交感神経亢進
血液配分を変える
抹消への血液循環を抑制し核心温度を維持する。
ふるえ(鳥肌)
骨格筋を収縮・弛緩させ産熱する。(無意識運動)
抹消血管を拡張
発汗して温度を下げる。甲状腺ホルモン分泌抑制
副交感神経亢進
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5)中心温度(内臓温度)
核心温度
または
中心温度
生命維持に必要な温度は一定(37℃)である。核心温度は直腸の温度で測定さ
れる。人の生存可能な中心温度限界は33~42℃とされている。42℃を超えると
タンパクの変性が始まり、44~45℃で死亡する。33℃は酵素反応の最低限界温
度であるが手術に低体温法がある。
6) 体温調節機序
7) 発熱と体温の設定(177)
発熱とは
感染症や炎症などにより体温が正常よりも高くなった状態
甲状腺機能亢進症は基礎代謝が上昇するため体温が上
ホルモンの影響
昇。女性ホルモン、アドレナリンも上昇ホルモンである。
排卵前(低体温期)/排卵後(高体温期)=基礎体温
発熱原因
細菌毒素、免疫反応などが白血球に作用し内因性発熱物質
種々の感染症
(IL-1)が生成され視床下部に作用して PGE2 が生成されて
設定温度を上昇。アスピリンは PGE2の生成を抑制。
脳の疾患
脳出血、脳腫瘍は視床下部の体温中枢が障害。
薬物
覚せい剤、その他の薬物の影響(悪性高熱症)で筋融解
発熱は体温設定温度が上昇
解熱は設定温度が正常域に
設定温度が上昇し、悪寒(寒気)・戦慄(ふるえ)を起こす。
設定が正常になると血管は拡張し、実際の身体は発熱状態
なので発汗し解熱する。
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視床下部の体温中枢の働き
8) 発熱物質
発熱物質により体温が正常以上に上昇することを発熱という。発熱物質はリポ多糖類(多糖
類に脂肪が結合したもの)。発熱物質は視床下部に作用してプロスタグランジン E2を遊離
させる。このPGE2が最終的な発熱物質として体温中枢に作用し、設定温度を上昇する。
①外因性発熱物質
細菌が破壊する時に遊離される毒素(内毒素)や、腫瘍、
心筋梗塞など生体組織が破壊されると遊離される。
②内因性発熱物質
細菌や壊死組織を貪食した好中球など白血球からも遊離される。
9)発汗と汗腺(177)
小汗腺(エクリン腺)
大汗腺(アポクリン腺)
発汗による気化熱で体温調節に関与する。汗は Na、Cl が多く、
多量の発汗は塩分を失う。
腋下、乳輪、肛門部にある腺で体温調節に関与しない。タンパク
性分泌物で臭いの元になる。
10)発汗と水分の蒸発
発汗
小汗腺(エクリン腺)
温熱性発汗
発汗の種類
精神性発汗
味覚性発汗
不感蒸散
水分の蒸発
1日 600~700ml
体温調節作用がある。29~31℃以上で発汗
手掌、足底以外の全身の皮膚からの発汗である。
体温調節に関係しない。体温中枢と関係ない。
手掌、足底、腋窩、鼻からの発汗である。
辛いカレーなどを食べたときの顔面だけの発汗。
皮膚からの自然な水分の蒸散が1日約400~800
mlが、肺から呼吸により150~450mlが出ていく。
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8)熱中症の分類
熱中症:高温多湿の環境によって熱放散ができない環境で生じる体温調節障害をいう。
罹りやすい人:幼児、65 歳以上の高齢者、肥満者、睡眠不足
分類
Ⅰ度
旧分類
熱失神
発汗による脱水
原 因
循環血液量減少
皮 膚
正常
発 汗
( + )
熱けいれん
Na 欠乏性脱水
正常
Ⅱ度
Ⅲ度
熱疲労
熱射病
循環不全
視床下部の体温
強い脱水
中枢の障害
冷たい
( ++ )
高温乾燥
( ++ )
( - )
正常
正常
38~40℃
40℃以上
セットポイント
セットポイント
セットポイント
セットポイント
上昇なし
上昇なし
上昇なし
上昇なし
循環器症状
徐脈
頻脈
頻脈
頻脈
意 識
消失
正常
正常
高度障害
筋けいれん
なし
なし
ほとんどなし
輸液と冷却
緊急入院と冷却
体温(直腸)
治療
一過性の有痛性
輸液と冷却
解熱剤無効
けいれん
経口補水
9)悪性高体温症
悪性高体温症
麻酔時や薬物、温熱刺激によって 42℃以上に発熱する病態で、横紋筋
の融解を起こす。 熱中症に分類されない。
10)低体温
核心温度が35℃以下。アルコール酩酊、高齢者では体温調節機能が
低体温
低下しているので低体温になりやすい。
35℃意識消失
34℃精神錯乱
32℃体温調節障害
30℃体温調節停止
28℃心室細動 心拍停止
9)高熱と体温の変動
弛張熱
38℃以上で1℃以上の変動があり、平熱まで低下しない。
化膿性疾患
間欠熱
38℃以上で1℃以上の変動があり、高熱から平熱まで変化。
マラリア
稽留熱
38℃以上で1℃以内の変動を示す発熱で高熱が続く。
結核、肺炎
うつ熱
高温環境で体温調節が困難となり高体温が続く。
熱中症
二峰熱
有熱期(37℃~39℃)と無熱期(平熱期)が不規則に繰り返す)
ブルセラ
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