4.デジタル航空カメラ(DMC)の導入と運用 - 日本測量調査技術協会

2004年9月
APA No.87-4
日本測量調査技術協会
財団
法人
第26回 技術発表会論文特集
4.デジタル航空カメラ(DMC)の導入と運用
石 垣
1.はじめに
航空測量用デジタルカメラは、技術面や価
格の問題により製品化が困難とされていたが、
この数年の間に諸問題が改善され実用化され
た。弊社では2003年9月にデジタル航空カメ
ラDMC(Digital Mapping Camera: Intergraph
社製)を導入した。本報告では、DMCについて、
従来のアナログ航空カメラとの比較、自動画
像マッチングへの優位性の検討を報告する。
また、利点と課題を踏まえた今後の運用につ
いて述べる。
智明※
航空カメラである。図-1にカメラヘッドの
配置を示す。8つのカメラヘッドのうち中央
4つのヘッドが、7K×4Kのパンクロデー
タ(PAN)、外側4つのヘッドで3K×2Kのマ
ル チ ス ペ ク ト ル デ ー タ (MS: 構 成 は
R/G/B/NIR)を取得する。DMCは、各カメラヘッ
ドの画像を合成しアナログカメラに匹敵する
画像サイズを確保している。図-2はDMCシス
テムの標準構成を示している。左側がDMCの外
観、右側の3段に積み重なっているものが大
容量記憶装置MDR(840GB)である。中央のノー
トPCを用いて撮影計画データおよび取得デー
2.DMCの概要
2.1 DMCの構成
DMCは、CCDアレイを用いたエリアセンサ型
図-1
タなどの確認作業を機上で行う。
カメラヘッドの配置
図-2
DMCシステム標準構成
表-1に示すように合成後の画像は、1億
TDI)およびApplanix社の直接定位システム
画素を超える高解像力、12bit(4096階調)の多
(Position and Orientation Systems: POS)
階調のデータ生成が可能である。また、アナ
を標準で装備している。表-2に撮影縮尺・
ロ グ カ メ ラ の 像 ぶ れ 補 正 機 能 (Forward
高度・地上解像度の関係を示す。従来のアナ
Motion Compensation: FMC)と類似の電子的な
ログ航空カメラの場合、1/4,000縮尺による撮
画像補正機能(Time Delayed Intergration:
影でスキャニング解像度10μmの画像データ
-31-
の地上解像度は約4cmである。同撮影縮尺時
の解像力を有していることが分かる。
のDMCの地上解像度は4.8cmであり、ほぼ同等
表-1
画像サイズ
焦点距離
撮影画角
シャッター・絞り
最短シャッター間隔
ラディオメトリック
DMCの性能諸元
13824×7680ピクセル(合成後)
PAN:120mm MS:25mm
74°(飛行方向に直角)×44°(飛行方向)
可変式1/50~1/300秒 f/4~f/22
2秒
12ビット
表-2
撮影縮尺
撮影高度
地上解像度
撮影縮尺と地上解像度
1:4,000
480m
4.8cm
1:8,000
960m
9.6cm
2.2 DMCの撮影工程
1:12,500
1,500m
15cm
を航空機に搭載されている運行管理システム
撮影計画から画像合成までの処理工程を述
(Airborne Sensor Management System: ASMS)
べる。CADを用いて作成した撮影計画のデータ
に直接デジタルデータとして取り込む。
機上でのデータ取り込み
CADによる撮影計画
GPSを用いた運行支援
地上後処理システムによる画像合成
機上でのサムネイルによるデータ確認
図-3
DMCの処理内容
-32-
撮影飛行時には、航空機搭載のGPSと連動さ
3.2 色深度の比較
せることによって正確な位置でシャッターを
空中写真撮影では、冬季の陰影部などの明
切ることが可能である。撮影データは、840GB
瞭な撮影が困難なことがある。アナログ撮影
の大容量記憶装置に格納される。撮影後に地
方式の場合、撮影工程により得られるデジタ
上の画像合成処理装置によって各カメラヘッ
ル画像の品質は、現像処理やスキャニング処
ドの画像の合成を行うことにより、単一のカ
理の良否に大きく左右される。これらの工程
ラー画像データが生成される。
は、作業者の熟練度により人的較差が大きく
このように、DMCの撮影工程は、これまでの
現れることが知られている。また、通常のス
ような紙出力した撮影計画図やフィルムロー
キャニングでは、機器の出力仕様により
ルのようなアナログ媒体を介さず、撮影計画
8bit(256階調)のデータに劣化する。加えて、
から画像データの生成までデジタルデータの
フィルム自体に傷があることやスキャニング
受け渡しにより行われる。
時に埃が付着することもあるため、画像の品
質に斑が出やすい。
3.DMC導入による効果
DMCの導入に際して、写真測量作業工程およ
び色深度についてアナログ式カメラと比較し
た。また、通常の空中三角測量およびPOS解析
の精度検証結果とともに、画像合成の影響に
ついて報告する。
3.1 写真測量作業工程の比較
図-4にアナログおよびデジタル撮影方式
による写真測量作業工程を示す。アナログ撮
影方式によるアナログ撮影・現像・スキャニ
ングの工程が、デジタル撮影方式によるデジ
タル撮影のみで済むことが分かる。このよう
に、大幅な工程の削減により、工期および経
費の圧縮が見込まれる。また、災害など時間
的な制約がある場合でも迅速な対応が可能と
なる。
図-4
一方のDMCは、出力信号を劣化させずに
12bit(4096階調)で格納する。このため、太陽
光量が相対的に少ない夕刻や冬季の撮影にお
いてさえ、アナログ撮影方式による画像デー
タを大きく上回る色深度を保持している。鮮
明な画質は、陰影部の判読に極めて有利であ
り、図化精度や作業効率の向上に寄与する(図
-5)。
写真測量作業工程
-33-
図-5
色深度の違い(左;アナログカメラ / 右;DMC)
3.3 精度検証
角測量による精度検証を実施し、画像合成が
①画像合成の精度検証
起因となる突出した結果が現れることがない
か検証した。
DMCは、4枚のパンクロ画像を合成して1枚
の画像を生成している。このため、撮影縮尺
図-6に示す5コース140モデル撮影縮尺
1/8,000で約0.2ピクセルの幾何補正による誤
1/4,000の撮影を実施し、POS解析結果の外部
差を含んでいる[1]。その誤差がどの程度計測
標定要素を用いたステレオモデルとVRS-GPS
精度に影響するのか確認する必要があった。
により設置した地上検証点(34点)を比較し
そこで、デジタル写真測量システム
た。
ImageStationを用いて、POS解析および空中三
図-6
POS解析による撮影主点位置
て、POS解析のみの成果でどの程度の精度があ
表-3に水平方向および高さ方向の較差の
標準偏差と最大値を示す。公共測量作業規定
るか検証する必要がある。
では、通常の空中三角測量の基準点残差の制
限値を、標準偏差が対地高度の0.02%以内、
表-3
検証結果(検証点数34点)
水平(xyの合成)
最大値が同0.04%以内と規定している(バン
ドル法適用時)。撮影縮尺が1/4,000であると
き対地高度は480mとなる。標準偏差で0.096
高さ
最大値
標準偏差
最大値
標準偏差
0.22m
0.10m
0.53m
0.17m
m最大値で0.192mの精度が要求される。本検
証結果は、POS解析結果の外部標定要素のみの
ここで、任意の1画像を抽出しその画像が
成果でありこの制限値を満たしていない。今
画像合成の歪による、何らかの特出した影響
後、異なる撮影縮尺でも検証することによっ
が現れるかを検証した。VRS-GPSの検証点は22
-34-
点、4つの画像合成境界付近から外側にかけ
ルによる計測とVRS-GPSとの残差ベクトルを
て偏りなく配置した。図-7は、左側に
表している。残差ベクトルは、大きさ方向と
VRS-GPSの検証点位置を、右側にステレオモデ
もに突出した傾向が出ていないことが分かる。
図-7
VRS検証点位置と残差ベクトル
次に、図-8に示す5コース97モデル撮影
表-4
縮尺1/6,500、基準点15点の通常の空中三角測
Std
Max
量を行った。基準点をマニュアル観測し、パ
スポイントおよびタイポイントは自動相互標
定機能で取得した。表-4に示すようにこの
水平(m)
0.10
0.22
高さ(m)
0.15
0.27
制限値(m)
0.16
0.31
②残存縦視差の状況
精度は、作業規定の制限値を満足するもので
DMCのPOS解析結果によるステレオモデルは、
あり、先にあげた幾何補正の精度は通常の写
これまでの知見(アナログカメラや他のデジ
真測量には十分耐えうるものであることが分
タルカメラ)と比較して、残存縦視差が安定
かる。これは、DMCがアナログカメラの代替え
として精度的に問題がないことを示している。
図-8
DMCによる空中三角測量結果
空中三角測量による検証コース
-35-
して微小である。
(Μm)
14
12
10
8
6
4
図-9
05~0023+05~0024
05~0013+05~0014
05~0003+05~0004
04~0021+04~0020
04~0011+04~0010
03~0027+03~0028
03~0017+03~0018
03~0007+03~0008
02~0025+02~0024
02~0015+02~0014
02~0005+02~0004
01~0021+01~0022
01~0011+01~0012
0
01~0001+01~0002
2
(ステレオモデル)
残存縦視差の状況
図-9は、図-6で示した5コース140モデ
れていることなどが考えられる(図-10)。こ
ルのPOS解析の成果のみによるステレオモデ
れにより、相互標定をせずにPOS解析の成果の
ルの残存縦視差を示したものである。縦軸に
みによる、中縮尺の図化やオルソ作成で充分
縦視差(μm)
、横軸に各モデルを示している。
な精度を保持できる。
これまでPOS解析の成果のみによるモデルで
③自動相互標定
は、半数以上のモデルで残存縦視差が20μm
DMCにより生成される12bitと8bit画像を用
を超えるという報告[2]がなされている。しか
いて自動相互標定を行い、それぞれの交会残
し、DMCのこの例では、Max=13.3μm, Avg=
差を比較したところ、12bit画像の方が概ね
8.4μmであった。このよう良好な結果が得ら
5%の精度向上がみられた。12bitと8bitに
れた要因としては,1)ジャイロマウントが備
ついてタイポイントおよびパスポイントの取
わっているためにカメラの振動が比較的小さ
得数を比較したところ精度との相関はなかっ
いこと
2)内部標定の観測誤差がないこと
た。したがって、取得点数には関わらず、12bit
3)IMUがカメラ中心の真上に近接して設置さ
画像を用いた方が常に正確なポイント取得が
なされることが分かった。このように12bit
画像を用いることは、今後、あらゆる工程で
行われている自動化の精度向上およびフル
オートメーションに寄与するものと考えられ
る。
図-10
4.運用実績と課題
2003年9月の導入以来、DMCを地形図作成・
固定資産評価・環境調査など、多種多様な業
務に利用している。また、公共測量への利用
実績もあり、利用機会は拡大する一方である。
ここで、今後の運用も考慮しデジタルカメラ
の課題について整理する。
現在の航空デジタルカメラの主な課題は、
IMUの設置位置
-36-
①画角が小さくモデルおよびコース数が増加
すること
②焦点距離(レンズ)が換えられ
ないこと
③撮影間隔を2秒以下に設定でき
ないことなどが挙げられる。モデル数の増加
は、公共測量作業規定に準拠した空中三角測
量を行う際の基準点数の増加を意味しており、
対空標識の設置など現場作業の増加に繋がる。
また、アナログ式カメラでは、用途によって
焦点距離f=153mm、f=210mmなどを使い分けて
きた。デジタルカメラの場合、焦点距離の変
更ができないため、要求される撮影縮尺に対
して、対地高度のみで調整する必要がある。
したがって、飛行高度を下げられないような
場所では大縮尺撮影が困難となる。撮影間隔
5.今後の展開
デジタルカメラのメリットは、一つにス
キャニングや現像が不要なため、撮影コスト
がコース数や写真枚数に比例しないことであ
る。大容量の記憶装置を備えたDMCは一日の撮
影で2,200枚以上(ロールフィルム3本相当)
のデータが取得できる。これらの長所は、従
来の撮影手法にとらわれることなく、広域か
つ高いオーバーラップとサイドラップを適用
する撮影法[3]を可能とする。この撮影法は、
オクルージョン(建物の倒れこみによる隠蔽)
を少なくできるため、図-11に示すような
トゥルーオルソ(TrueOrtho)の生成に適して
いる。
の制限は、データ転送速度に依存し大縮尺に
よる高ラップ撮影が難しくなる。
図-11
DMCによるOrtho(左)とTrueOrtho(右)
DMCによって取得されたデータは、近赤外画
像の生成も可能であることから、地図作成以
外の分野(農業や防災など)への利用も期待
できる。
図-12に撮影縮尺1/4,000の近赤外画像を
示す。こうした近赤外画像を用いることに
よって環境調査や土地利用調査などに活用で
きる。写真右では、人影が認識できるのが分
かる。これまでの衛星画像データを主とした
リモートセンシングで表現できない、より高
図-12
解像度のデータを必要とするような分野への
利用も可能であると考えている。
-37-
海岸の近赤外画像
6.まとめ
本報告では、DMCの紹介から導入時の精度検
証結果、今後の展開について述べた。
航空デジタルカメラの導入は、スキャンレ
ス(工程削減)のみならず、図化判読の向上、
自動相互標定の精度向上、新たな市場への利
用など多くの可能性が期待できる。
アナログ解析図化機がデジタル図化機に置
き換わったように、近い将来、アナログ航空
カメラは急激にデジタル航空カメラに取って
換わられていくであろう。
今後、デジタル航空カメラの進化とともに、
取得できるデータの解像度やバンド数も変化
するだろう。高品質なデータのメリットを最
大限に活かすための処理環境の整備も重要で
ある。
(※国際航業株式会社)
-38-
参考文献
[1] Tang L, Doerstel C, Jacobsen K, Heipke C, Hinz A;
GEOMETRIC ACCURACY POTENTIAL OF THE DIGITAL MODULAR
CAMERA, ISPRS, Vol.XXXⅢ, Working Group Ⅰ/3, 2000
[2]
内田修・織田和夫・真屋学・土居原健:POS撮影精度
管理法、APA No85-3 p23~p45、2003.9
[3]
大山容一・南義彦・村井俊治:デジタル航空測量に
適した撮影手法の提案、応用測量論文集p45~p49、2004.6