2005 年 2 月 - PwC

「月刊 国際税務」 2005 年 2 月号収録
Worldwide Tax Summary
監修 プライスウォーターハウスクーパース マネジメント株式会社
会長
五味 雄治
2004 暦年中の取引に関する税務当局への報告義務(米国)
2004 年 7 月 1 日付で源泉税に関する新日米租税条約の規定が発効したため、日系企業については Form
8833 の提出義務に以下の通り実質的な変更がでている。8833 については既に昨年本欄でご紹介済みであ
るため簡単に紹介する。また、8833 以外でも下記にあげる届出書の開示漏れは、場合によっては多額のペ
ナルティーや租税条約の恩典の否認等に繋がる可能性があるので注意したい。
様式 1120-F 及び 8833(外国法人用法人税申告書)
一般的に、租税条約の恩典を受ける納税者は様式 8833(租税条約による恩典を適用する場合の情報開示の
ための様式)を提出する必要がある。財務省規則では、米国(法)人からの配当、利子、使用料等に対する源
泉税について租税条約に基づく軽減税率の適用を受ける外国法人は、条約に規定された条件に該当する場
合には、原則として米国で事業を営んでいない場合でも、外国法人用連邦法人税申告書(様式 1120-F)に様
式 8833 を添付して提出することが義務づけられている。
従って、一般に年間の配当、利子、使用料等の受取額が 50 万ドルを超える場合や、米国子会社から日本の
親会社に対する配当があった場合には、日本の親会社が様式 1120-F ならびに様式 8833 を提出しなければ
ならない可能性がある。申告書の提出義務が履行されていない場合、租税条約の恩典の開示漏れ一件につ
き$10,000 のペナルティーが課され、さらに租税条約の恩典を否認される(すなわち日米租税条約に規定され
ている軽減税率の適用が受けられず、米国国内法の 30%の税率が適用される)可能性がある。
Form8833 の提出期限:下記はいずれも申告期限延長申請が可能となっている。
①米国内に事務所を保有する外国法人:会計年度終了後 3 ヵ月目の 15 日(3 月決算場合 6 月 15 日)
②米国内に事務所を保有しない外国法人:会計年度終了後 6 ヵ月目の 15 日
様式 1096 及び 1099(国内不労所得報告書)
一般的に、米国法人、支店等が暦年 2004 年中に法人以外の受取人(主に個人もしくはパートナーシップ)に
利子、配当金、リース料、サービス料等を年間 600 ドル以上(使用料の場合は 10 ドル以上)支払った場合、報
告義務が発生する。典型的な報告対象取引は、弁護士事務所、会計事務所、コミッション契約の販売代理人
等への支払いで、2005 年 2 月 28 日まで内国歳入庁(IRS)に提出しなければならない。
様式 1042 及び 1042-S(非居住者、外国法人への支払報告書)
一般的に、米国法人、支店等が暦年 2004 年中に利子、配当、家賃収入、使用料(ロイヤリティー、ライセンス
料、リース料等)等を外国法人又は米国非居住者に支払った場合、報告義務が発生する。2005 年 3 月 15 日
迄に IRS に報告書を提出する。
様式 TD F 90-22.1(外国口座報告書)
米国法人及び米国居住者が暦年2004 年度中に米国外の金融機関に保有していた銀行口座や証券口座の残
高総額が$10,000 を超える場合、それぞれの口座に関する情報を財務省に報告する必要がある。例えば、米
系銀行の日本支店に保有する口座は報告の対象となるが、日系銀行の米国支店に保有する口座は報告の対
象とはならない。提出期限は 2005 年 6 月 30 日 。
Source: PwC 米国日本企業部 http://www.japan-bus.pwc.com/zeimu/daily/4dec.html#1-1
法人税率の引下げを含む大幅な改正(メキシコ)
2004 年 11 月に国会は以下の項目を含む 2005 年の税制改正案を採択した。改正の多くは、2005 年 1 月 1
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日付けで発効する。
1) 連邦法人税率の引き下げ:今後3年間で段階的に法人税率を引き下げ、現行の33%を28%まで引き下げ
る。2005 年は 30%とする。併せて個人所得税の引き下げも行う。
2)利益配分(Profit Sharing):メキシコ企業に課税所得の 10%を利益配分として、従業員に支給することを義
務づける。2005 年以降、この利益配分を行った額は、支払いが行われた年のメキシコ法人所得税の控除
対象とする。
3)連結納税:2005 年1 月1 日より、連結対象グループは、グループ企業の課税所得あるいは損失について、
組織上トップにある持ち株会社の当該子会社の持分の比率に応じて、最大 100%(現行 60%)までを連結
することができる。一定の経過規則を適用する。
4)間接税額控除:外国の孫会社(second-tier foreign subsidiaries)が行った配当について、一定の要件を満
たす場合、メキシコ法人は間接税額控除を行うことができる。
5)過少資本税制:借入金に関わる利息は、メキシコ法人の総借入額に対する関連会社および外国の非関連
会社からの総借入額が、財務諸表上の株式資本の 3 倍を超えない範囲まで、損金算入できるものとする。
この規則は、今後5年間において段階的に導入する。また、過少資本規則は、金融機関には適用されない。
さらに、当該法人の借入れについて独立第三者規則を適用することを確認することでメキシコ税務当局と
のルーリングを行っている企業にも適用されない。
6) タックスヘイブン規則(CFC)が修正され、その名称を Preferred Tax Regime, “PTR”とする。PTR におい
て、メキシコの税法に基づく税額計算を行う場合と比較して、メキシコ税法より 75%未満の税額となる場合、
その法人の居住国に関係なくあらゆる組織(entity)を対象とする。
7) 会社の株式を交換するあるいは売却する場合には、その会社がメキシコ居住者であっても非居住者であ
っても、その会社の簿価の 50%超が不動産である場合、メキシコ源泉の所得が発生したとみなし課税対
象とする。
上記の改正税法の最終規則は、官報においてまだ公示されていない。
Source: PwC メキシコ
100% 外資の法人に係わる VAT 登録上の問題点の改正(中国)
中国では、商務省通達(Decree# 8)により 2004 年 6 月 1 日から販売子会社についても 100%外資による会
社設立が可能となっている。実質的には関連規則の整備が 2004 年 12 月 11 日付けで発効しため、実質この
日以降の 100%外資による販売子会社立は可能となっている。
一方、企業活動を行うためには VAT の登録をする必要があるが、VAT 登録は、一定の要件(登録資本金が
500 万 RMB でかつ、50 名超のスタッフの雇用)を満たし、さらに年間売上が 180 万 RMB を越えていること
の証明を行い、その後 6 ヶ月の監視期間を経て登録されるというシステムになっていた。すなわち、要件を満
たし会社が設立されてもその後 6 ヶ月、長い場合は最大 18 ヶ月の期間 VAT 登録ができず、実質的に活動に
支障をきたすという制度上の問題が生じていた。
これについて中国税務総局(SAT)は、2004 年 12 月 1 日付けで通達 62 を発行し、VAT 運用上の問題を明確
にするとともに、新規設立企業について VAT 登録上の手続を緩和した。その結果 100%外資の新規設立企業
でも、一定の要件を満たしている場合には、監視期間を経ずに即座に VAT の登録が可能となった。
Source:PwC China Tax/Business News Flash
税務当局の関心事のトップは、オフショア取引(香港)
香港では、内国歳入省(Inland Revenue Department “IRD”)は、企業に対して、当該企業が税務申告等にお
いて開示した情報や、税務申告において納税者が採用したポジションなどについて確認するための質問書を
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送り調査を行っている。経営者は、この IRD の質問に適切に対応するためかなりの時間を使い、またプロフェ
ッショナルコストもかかっているのが実情である。
プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、最近の IRD の関心事項や、新たな調査の傾向について
PwC のクライアントに対してモニタリング調査を行った。その結果IRDから出された約 1200 件の質問事項は
以下の通りであった。
オフショアクレーム
クロスボーダーの支払い
引当金の損金算入
その他の損金不算入項目
ロイヤルティ
減価償却
その他
21%
17%
9%
18%
5%
6%
24%
上記調査は新たな傾向を把握できるほどで長期間行われてはいないが、少なくとも 1 年前と比べ上記項目の
割合に大きな変化はみられない。個別にみると、オフショアクレーム(非課税となるオフショア所得)に関する
申告については、2−3 年ごとに調査が行われ、新規案件は全て調査されているように見受けられる。また、
IRD は、主に営業利益、役務の提供による所得、製造所得および利息について、質問項目を作成しているよう
である。特に証拠の要求を厳格に求めており、例えば製造所得の申告においては、外国法人(通常中国)との
正式な委託加工(来料加工)契約が不可欠であり、一方、営業利益(trading profit)の場合に、例えば香港にお
いて信用状を締結するような活動は、この申請が否認される可能性もあり注意したい。クロスボーダー取引に
ついては、特に関連者間のモノとサービスに対する支払い、移転価格税制が当局の関心を集めている傾向
が覗える。
Source: PwC Hong Kong Tax Update
投機利益課税の違憲判決 ― 2004 年 3 月 9 日付ドイツ連邦憲法裁判所判決 ―
「ベルリンの『連邦政府』ではなく、カールスルーエの『連邦憲法裁判所』が政治をやっている」、ということが言
われ始めて久しい。再度それを裏付ける同裁判所の違憲判決が 2004 年3 月9 日に公表された。当該判決は、
提訴人がドイツ税法学界の「大御所」とも言えるケルン大学の Tipke 名誉教授であり、同氏が自らの個人的な
株式投資に関する税務署とのやり取りをもとに、在カールスルーエの連邦憲法裁判所の判断を通じて、ドイツ
の現行税法の根本的問題点を問い正し、その税法(所得税法 第 22 条 第 2 号ならびに第 23 条(1997 年∼
1998 年版))に関しての違憲判断を勝ち取ったという意味で、一般のマスコミでも話題を呼んだ判決である。
1997 年度の個人所得税申告において、提訴人は合計で DM 1,752 の株式投資の売却益を申告した。1997
年当時の所得税法では、個人が株式を取得して個人資産として保有し、6 ヵ月以内に売却して売却益を得た場
合、当該売却益は「投機利益」として全額所得税課税に服することになっていた。申告書の提出を受けた同氏
の管轄の税務署は、規定通り当該売却益を課税対象所得として査定書を送付してきた。これに対して提訴人
は、この売却益に関する申告書の記載が、納税義務者の自己申告にのみに依拠しており、税務当局側には
その記載が正しいかどうかをチェックする手段がなく、「正直者だけがバカを見る」状況になっている、というこ
とを根拠に、該当する個人所得税法上の規定の違憲性の判断を問う税務裁判を提起した。
同案件の上告を受けた在ミュンヘンの連邦税務裁判所は、やはり所得税法の当該規定が違憲であるという
見解に達し、同係争案件の審理を中止して、在カールスルーエの連邦憲法裁判所に最終的な違憲審査を要
請した。これを受けた連邦憲法裁判所は、1997 年と 1998 年の所得税法 第 22 条 第 2 号と第 23 条の規定
は、納税義務者が正直に申告した時にのみ課税が行なわれることで、同規定は違法な行為を誘因しており、
さらに、たとえ虚偽の申告であっても、それが表面的に明白な矛盾・間違いを含んでいない限り、実際的にそ
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れが発覚するリスクはなく、納税義務者に対する平等な取扱いが保証されていないという理由から無効であ
るという判断を下した。
2004 年 3 月 9 日付の当該判決は、1997 年と 1998 年の「投機利益」の課税を違憲としたものであり、1999
年以降の規定については何も言っていない。また、1999 年の税制改正により、購入から売却までの期間はそ
れまでの 6 ヵ月以内という規定から 1 年以内へと変更され、「投機利益」という言い方も「個人売却益」という表
現に変更されている。1999 年以降について、連邦憲法裁判所が判断を差し控えていることから、税務当局へ
の財政上の影響はかなり小さいと言われているが、1997 年と 1998 年の状況は、1999 年以降も根本的には
変わっておらず、もし、1999 年以降の期間を直接的に対象とする訴訟が提起された場合には、同様に違憲判
断が下されるであろうという意見もある。いずれにせよ、裁判所が歪んだドイツの税制を矯正するという、ある
いは、税制領域におけるベルリンの「政治」の機能麻痺状態に、カールスルーエの「司法」が「カツ」を入れると
いう、ここ 10 年ほどの間の基本的方向性は再度確認されたと言えよう。
Source: PwC ドイツ日本企業部ニュースより
外国契約者に係わる源泉税規定の対象拡大(ベトナム)− 速報
ベトナム側契約者(ベトナム外資法に基づく外資企業を含む)がベトナムで投資許可を得ていない外国の当事
者(外国契約者)と契約を結ぶ場合、ベトナム側から外国契約者への支払に源泉税が課されるが、この規定
が改定された。昨年改正案が提出されていたが、何度もの修正を経て、1 月 11 日付で最終規則(Circular 05)
として公表された。これは現行規則に比較し課税対象を拡大するもので、発効日以降の契約についてはすべ
て新規則が適用されるので注意したい。また、既存の契約が 1 月 1 日以降に期限延長される場合にも新規則
が適用される。最も大きな変更は、ベトナム国内のみならず、ベトナム国外での役務提供(ベトナムに関連す
るもの)が源泉税の対象となる点である。これにより、以前非課税であった国外で行われるサービスが課税対
象となり、国外で行われている役務提供に関する契約および国外での役務提供を伴う契約に影響を及ぼすこ
とになる。租税条約締結国との契約は、租税条約の締結国は条約の恩典を受けることができるが、恩典を受
けるためには当局に対して毎年申請を行い認可を受ける必要がある。
なお、この規則が官報掲載後 15 日で発効することから、2 月中の発効が見込まれている。
Source:PwC ベトナム News Brief 等
(訂正)
2004年11月号の韓国税制改正において「過少資本の廃止」と表記した部分を、「借入過多法人の利息に係わ
る損金不算入制度の廃止」に訂正いたします。この規制は法人税法に会社の財務構造の健全性を強化する
ために導入さましたが、韓国企業の財務構造の健全性が向上したために廃止されたものです。一方、韓国の
国際租税調整に関する法律で規定されている過少資本税制は、親会社の借入れおよび親会社の保証による
借入れを規定しており、今回の改正はこの規定に関するものではありません。
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