産科医療補償制度の現状 日産婦医会常務理事 石渡 勇 2012‐4‐11 1 産科医療補償制度 理念: ○脳性麻痺児と家族に対して補償:一定の条件を満たす場合に は、その看護・介護の費用が無条件に補償される ○原因分析をし、再発予防と紛争の防止・早期解決と産科医療の 質の向上を図る ○産科医の確保と周産期医療の安定 運用:平成21年1月1日開始 ① 分娩機関が保険料を負担することに なれば、分娩機関の分娩費用増額が 想定され 国は 出産育児 時金に 想定され、国は、出産育児一時金に 3万円を上乗せし、公的性格をもつ制度 として、積極的に支援する。従って、 分娩機関負担なし。 本制度はここに光 CPの真の原因は不明な場合が多い ②補償金は3,000万円 2 ☆医療側・患者側双方にとって精神的・肉体的苦痛は筆舌に尽くしがたい 1 CPの原因 CP110例の検討(杉本健郎) Sugimoto T, et al: Dev Med Child Neurol 37: 285, 1995 1. 2. 3. 4. 5 5. 遺伝障害・脳発達障害 脳血管障害 ウイルス感染症 分娩時仮死 原因不明 37例 51例 7例 13例 2例 (34.0%) (46.6%) ( 6.4%) (12.0%) ( 2.0%) 2 0%) 本制度は分娩周辺に起因する脳性麻痺のみを補償の対象 としたので、原因分析報告書、再発防止に関する報告書を 見たマスコミは脳性麻痺が分娩によって起きると誤解される 記事を報道した。 3 産科医療補償制度における原因分析で 見えてきたもの 1.その原因は、現在の医学では、まだ明らかにすることができ ない事例が、21/79例(26.6 %)であった。 2.常位胎盤早期剥離や、臍帯脱出、子宮破裂など、発見され、 直ちに児の娩出を試みても、不可逆的脳低酸素状態を改善で きない状況も、23/79(29.1%)存在する。 3.複数の原因が関与している事例が15/79(19%)あり、その中に は、臍帯因子、常位胎盤早期剥離、絨毛膜羊膜炎、胎盤機能 不全、帽状腱膜下血腫などがあった。 4.分娩管理を改善すべき事例は、25/79(31.6%)であり、吸引分 娩の適応や要約、さらに手技上の留意点の再考や、臍帯因子 による低酸素状態の早期発見など、再発予防のための施策を 考察することも、今後の重要な課題である。 2 補償金支給 (3千万円) 運営委員会:制度全般企画調整 原因・ 分析 申請 受給資格あり 賠償は 医師賠償責 中立・公平 患者側満足度 原因分析 任保険 一時金600万円 話し合いの場 報告書 権威 20年間分割2400万円 早期救済 問題程度 原因分析委員会 訴訟 不満足 医学的に 敗訴・賠償 E 審査委員会 和解不成立 問題あり 勝訴・賠償(-) 解決 歳 降 1歳以降 D 脳性 審 麻痺 分 不満足 C 賠償 発生 娩 和解成立 査 訴訟回避 機 解決 医学的に 関 B 問題なし ※ 分析が不十分であれば 小児 満足 患者は裁判に進むと思わ A 解決 れる。 神経 専門 医 調整委員会 報告書は患者側・医療側に通知 再発防止委員会:事例を 異議審査委員会 十分な調査・分析 体系的にまとめ、広く公開 日産婦学会・医会ガイドライン・ 診断書 ACOG基準等 医学的判断 訴訟の減少へ、再発防 脳性麻痺 5 止・周産期医療の向上 1級・2級 イメージ図 受給資格なし 原因分析の流れ・原因分析報告書の作成 1.分娩機関および 児・家族からの情報収集 2.原因分析報告書の作成 分娩機関 診療録、助産録、 検査データ等 児・家族 原因分析委員会 部会 提出 確認 提出 原因分析報告書 の公表 運営組織 事 務 局 「事例の概要」の作成 診療体制等の 追加資料 本委員会 第一 部会 第二 部会 第三 部会 第四 部会 第五 部会 第六 部会 報告書 案 報告書 (承認) 報告書 z 妊娠・分娩等の経過 z お産について感じた こと、疑問や知りた いこと z その他ご意見 分娩機関および 児・保護者への フィードバック 確認 産科医等は医学的評価を行い、法律家等は、 論点整理をすることや報告書が児・家族に とって分かりやすい内容となるようにする。 3 分娩機関および 児・保護者への フィードバック 個人情報、分娩機 関情報に配慮の上、 公表 z 要約版をHPに 掲載 z マスキングした 全文版を開示請 求者に開示 6 分析のイメージ 医学的な観点による 原因分析報告書 <個々の事例の分析> 再発防止委員会 再発防止に関する 報告書 原因分析委員会 <集積された事例の分析> 複数の事例の分析から見えて きた知見などによる 個々の事例の分析から 再発防止策等を提言 報告書:児・家族および当該分娩機関に送付 要約版:ホームページでの公表 全文版:学術的研究、公共的利用、医療安全 の資料のため請求者に開示 複数の事例の分析から 再発防止策等を提言 国民、分娩機関、関係学会、 行政機関等に提供 ・ホームページでの公表 ・報告書の配布 7 産科医療補償制度の動向についての現状 1)制度加入状況(平成24年4月3日現在):分娩機関数3,333 加入率99.8%、7つの未加入診療所あり 分娩機関数 加入分娩機関数 加入率(%) 病 院 , 1,200 1,200 , 100.0 診療所 1,691 1,684 99.6 助産所 440 440 100.0 合 計 3,331 3,324 99.8 2)妊産婦情報登録状況(平成24年4月3日現在) 分娩済等(掛金対象)件数(①) 平成22年 平成23年 1,081,842 1,060,576 3)審査および補償の実施状況等について(平成24年3月8日現在) 審査件数:296件 補償対象:271件、補償対象外:24件、継続審議: 1件 8 ☆平成21年生まれ 164件、平成22年生まれ 101件、平成23年生まれ 6件 4 産科医療補償制度の動向についての現状 4)原因分析の実施状況等について 34回(平成24年2月)開催 (1) 原因分析報告書審議 載 これまでに102件の原因分析報告書<要約版>をHPに掲載 個人情報等をマスキングした全文版は70件開示請求 (医療機関12件,医療関係団体33件,報道関係12件,その他13件) (2) 「原因分析の解説」:原因分析の基本的な考え方や原因分析報 告書作成の流れ等について詳細を記述し、加入機関へ配布。 (3) 「原因分析のご案内」:補償対象となった児の保護者に送付。 原因分析のご案内」 補償対象となった児の保護者に送付。 (4) 診療録の不正記載等が疑われた場合:分娩機関に確認を行う とともに追加資料の提供を求める。 その後も不正記載が強く疑われると判断された場合は原因分析 報告書に記載。 9 5
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