相転移と平均場近似

7.相転移と平均場近似
2次相転移の Landau 理論による磁気秩序
自由エネルギーを秩序パラメーターである磁化  の関数として展開して4次の項まで残
すと、
g  a(T  TC ) 2  u 4
g の極小値を与える  が、熱平衡で実現される。その条件は、
g
 2a(T  TC )  4u 3  0

で与えられる。従って、極小を与える秩序パラメーターは、
0  
a(TC  T )
2u
となる。このとき、自由エネルギー密度 g の極小値は、
g
a 2 (TC  T ) 2
4u
となる。
平均場近似による磁気秩序
強磁性の場合 (J < 0)
Heisenberg モデル:
 
H   J ij S i  S j
i j

各格子点 i にスピン S i があり、スピン間の交換相互作用 Jij
平均場近似:
サイト i またはjに隣り合うサイトのスピンを期待値

S k  (0,0, M ) で置き換える。
また、隣り合う最近接のスピン間の相互作用のみ考慮する。
平均場近似のハミルトニアンは以下のようになる。
 
 


M2
zJM 2
z
z
H  J  S i  S j  J  S i  S j  J  S i  S j zJ  ( S i M 
)  (2 B heff S i 
)
2
2
i j
i j
i j
i
i
z: 最近接サイトの数、有効磁場 heff  
zJM
2 B
(J<0, heff > 0)
1
z
有効磁場化の下での独立なスピン Si の期待値を計算する。
スピンの大きさが 1/2 の場合:
先ず、分配関数を求める。
Z  TreH  Tre
   ( 2  B heff Siz 
i
zJM 2
)
2
  Tre
2  B heff Siz 
zJM 2
2

i
 [2 cosh( B heff )e
i
e
2  B heff Siz 
zJM 2
2
Siz 1 / 2 , 1 / 2
zJM 2
2
]N
サイトあたりの自由エネルギーは以下のようになる。
F
1 1
1
zJM 2

ln Z   ln( 2 cosh( B heff )) 
N
 N

2
(J<0)
z
Si の期待値は、ボルツマン因子を掛けて平均することで計算できる。
2  B heff  ( S iz  )
1 Z
 ln Z
2
1
1
i
z  H
z
Tr  Si e
Tr  Si e
Z heff
heff
N
N
i
i
M



 tanh( B heff )
Z
Z
2 B N 2 B N
M
M  tanh(
zJM
2
)
秩序パラメータ-M を self-consistent に決定する方程式が得れらた。
x<<1 のとき、tanh[x] ≈x-x3/6 なので、
M=0 以外に解を持つ条件 
zJM
2
M
TC  
zJ
zJ

2k B 2k B
T
T
T
g
M  tanh( c M )  (1  c ) M  c 3 M 3  2a(T  Tc ) M  4uM 3 
T
T
6T
M
3
となり、Landau 理論と対応する。また、基底状態へと収束するダイナミクスを記述する。
2
スピンの大きさが S の場合:
Z  TreH  Tre
   ( 2  B heff Siz 
i
zJM 2
)
2
  Tre
2  B heff Siz 
zJM 2
2
i
[
e
2  B heff ( S 1 / 2 )
e
 B heff
2  h ( S 1 / 2 )
 e B eff
  h
 e B eff

i
e
2  B heff Siz 
zJM 2
2
Siz  S ,..,S
zJM 2
e
2
F
1 1
1
e

ln Z   ln(
N
 N

]N
2  B heff ( S 1 / 2 )
e
 B heff
2  h ( S 1 / 2 )
 e B eff
  h
 e B eff
zJM 2
)
2
z
Si の期待値は、ボルツマン因子を掛けて平均することで計算できる。
2  B heff  (  Siz  )
1 Z
 ln Z
2
1
1
i
Tr  S iz e H
Tr  S iz e
Z heff
heff
N
N
i
i
M



Z
Z
2 B N 2 B N
M
 (2S  1) coth((2S  1)  B heff )  coth( B heff )  2SBs(2S B heff )  2SBs( zJSM )
ただし、BS[x] = (2S+1)/(2S) coth[(2S+1)x/(2S)] – 1/(2S) coth[x/(2S)]
x<<1 のとき、BS[x] ≈(S+1)x/3S
T  TC  
2 zS ( S  1) J 2 zS ( S  1) J

kB
kB
のときに M ≠ 0 の解を持つ、つまり、強磁性。
T << Tc では、M = S - e-3/(S+1) (Tc/T)
T ≈ Tc
では、M2 = 10S2(S+1)2/{ S2+(S+1)2} (Tc/T - 1)
T ≈ Tc
で帯磁率が発散する。つまりスピン揺らぎの相関関数が発散する。
反強磁性の場合 (J >0)
2つの副格子に分けて、各副格子について上記と同様の平均場近似を行う。
2つの副格子に分けることのできる格子を bipartite と呼ぶ
3
スピンが周期 2/q で回転する秩序(らせん秩序:反強磁性秩序の一種)を持つ場合
 
H   J ij S i  S j
Heisenberg モデル
を考える。
i j

 
 
S k  ( M cos(q  Rk ), M sin(q  Rk ),0) という期待値で置き換えて、
サイト k のスピンを
さらに、 J q 
 J ij e
  
iq ( R j  Ri )
とする。
j
 
 


 
 
H   J ij S i  S j   J ij S i  S j   J ij S i  S j  J ij ( S ix M cos(q  R j )  S iy M sin(q  R j )  M 2 )
i j
i j
i j
i, j
JqM
 
 
  J q ( S ix M cos(q  Ri )  S iy M sin(q  Ri )) 
)
2
i
2
強磁性の場合と同様の計算を行うと、
M  2SBs(J q SM )
T < TN = 2Jq S(S+1)/3kB のときに M ≠ 0 の解を持つ。
らせん秩序の反強磁性状態では、スピンの大きさは一定で方向が変化することに注意。
例えば 1 次元の場合、第1近接の交換相互作用 J1、第2近接の交換相互作用 J2 として
Jq = J1cosqa+ J2cos2qa となる。
磁性体での磁気秩序の例:
Rocksalt 構造(稜共有、頂点共有)
EuO: 強磁性絶縁体
Eu2+
4f7
S=7/2
TC=69.1 K, 3次元 Heisenberg 的
 ~ 0,  ~ 0.35,  ~ 1.3
Eu1+xO: x > 0.03 で、強磁性金属
T < TC で急激に抵抗率が減少する。
MnO: 反強磁性絶縁体 Mn2+
3d5
S=5/2
TN=106 K, 1次転移
FeO: 反強磁性絶縁体 Fe2+
3d6
S=2
3d7
S=3/2
TN=206 K
CoO: 反強磁性絶縁体 Co2+
TN=271 K
NiO: 反強磁性絶縁体
Ni2+
3d8
S=1
TN=520 K, 2次転移
4
NiO, MnO の磁気構造
金属イオン―酸素イオン―金属イオンの結合角度が 180o の第2近接間超交換相互作用 J2
が最も大きく反強磁性的である。遷移金属イオンのスピンは面心立方格子(fcc lattie)を成し
ているため、この反強磁性的交換相互作用のみでは磁気構造が決まらない。
1次相転移の Landau 理論
1次相転移(first order phase transition)では、秩序パラメーターが不連続に変化する。
自由エネルギーを秩序パラメーター  の汎関数として展開して6次の項まで残すと、
G   dV { A() 2  r 2  u 4  c 6  h}
となる。ただし、 r  a(T  T0 )
  0 、つまり、 が一定で、G が  の関数となる場合のみを考える。
外場 h = 0 のとき、
g  a(T  T0 ) 2  u 4  c 6 , u  0, c  0
T = TC にて、g = 0 を与える  が三つ存在する筈である。それらを 0,,とすると、

0,,はそれぞれ、  a(T  T0 )  u  c
2
 a(T  T0 ) 
0   C

c


1
4
2
4
 0
u2
かつ TC  T0 
4ac
の重解であるから、
が成り立つ。
g の極小値を与える  が、熱平衡で実現される。その条件は、
g
 2a(T  T0 )  4u 3  6c 5  0

5
 以外に以下の解を与える。
1
 u
3ac(T0  T ) u  2
 0   
1
 
3c 
u2
 3c
T < T0,
ただし
T  T1  T0 
u2
3ac
でgは最小になる(安定)。
T0 < T < TC, でgは最小になり(安定)、でgは極小になる(準安定)
。
TC < T < T1, でgは最小になり(安定)
、でgは極小になる(準安定)
。
T1 < T,
T
でgは最小になる(安定)
。
= T0 で感受率は発散するが、これは過冷却によってのみ到達可能。
u の符号が負から正に変化すると転移は1次転移から2次転移に変化する。
1
 a(T  TC )  4
u = 0 のときを3重臨界点と呼ぶ。このとき、  0  
 となる。
3c


相分離、ドメインの形成
スピノーダル分解 (spinodal decomposition)
速やかに1次転移点 TC を通過し、過冷却状態で T0 に至る場合。
T < T0 では自由エネルギーは唯一の極小を持つので、系全体が秩序相へと移行する。
核生成 (nucleation)
T0 < T < TC では、自由エネルギーにふたつの極小が存在する。無秩序相の中に秩序相の液
滴 (droplet) が発生する。その液滴が成長してドメインを形成するかどうかは、秩序相と無
秩序相との自由エネルギーの差(体積に比例する)
、境界のエネルギー(表面張力、表面積
に比例する)によって決定される。
このとき自由エネルギーは以下のようになる。
Fn  hn  jn
d 1
d
 (d  1) j 
nc  

 dh 
d : 系の次元、j : 表面張力、n : 液滴の体積
d
よりも大きな液滴は成長する。
核生成によって無秩序相の海のなかに秩序相の島状ドメインが形成される。この島状ドメ
インは、ドメイン表面での成長とドメイン同士の衝突・合体によって成長する。
また、ドメイン間の長距離に及ぶ相互作用が重要な場合、この島状ドメイン同士が繋がり、
縞状(ストライプ状)ドメインが形成される。
6
秩序相でのドメイン
外場をかけることなく秩序相に至った場合、複数のドメインに分かれる。
例えば、ベクトル を秩序パラメーターとして、

g  a(T  T0 ) 2  u 4 1  ( 1   2   3 )
4
4
4

を考える。この自由エネルギーは cubic な対称性を持つ。
3種類の極小が存在し、それぞれ以下のような対称性とドメイン数を持つ。
1. tetragonal
g = 1+ドメイン数
6
2. orthorhombic  g = 1+ドメイン数 12
3. trigonal
 g = 1+ドメイン数 
レポート問題4
(1)以下の2次元格子のうち、2つの副格子に分けることができるものを選べ。
(2)以下の3次元格子のうち、2つの副格子に分けることができるものを選べ。
(3)反強磁性的 Heisenberg モデル H = 2J∑Si•Sj (J>0)に平均場近似を適用し、
分配関数 Z = Tr[e-H] を求めよ。
7