労務管理のリスクマネジメント ⑭60歳定年後の給与を決定するにあたりどのような制 度が活用できるのでしょうか?どのように推移してい くのでしょうか? 1.高年齢雇用継続給付金と老齢厚生年金の併給調整 (1)高年齢雇用継続給付金 高年齢雇用継続給付金 高年齢雇用継続基本給付金 高年齢再就職給付金 条 ①60歳以降も引き続き雇用され、賃金が60歳 時点の75%未満に低下した場合 件 ②被保険者期間が5年以上 ①失業後、基本手当を受給し、再就職時に支 給残日数が100日以上あり、かつ、再就職後 の賃金が再就職前の75%未満に低下した場 合 ②被保険者期間が5年以上 60歳以降の賃金の最高15%相当が65歳になる 給 付 まで支給 内 容 再就職後の賃金の最高15%相当が、基本手当 の残日数に応じて最長2年間 (支給残日数が200日以上の場合は2年間、 100日以上の場合は1年間) 高年齢雇用継続給付は65歳までの制度です。本制度を利用しても、従業員が退職した場合の 基本手当(失業保険)は、申請することができます。 (2)60歳台前半の在職老齢年金 在職老齢年金(60歳から64歳) 総報酬月額 相当額 基本月額 46万円以下 28万円以下 28万円超 46万円超 28万円以下 28万円超 年金停止額(月額) (総報酬月額相当額+基本月額 -28万円)÷2 総報酬月額相当額÷2 (46万円+基本月額-28万円)÷2+ (総報酬月額相当額-46万円) 46万円÷2+(総報酬月額相当額-46万円) 基本月額:加給年金を除いた60歳台前半の老齢厚生年金の年額÷12 総報酬月額相当額:その月の標準報酬月額+直近1年間に受けた賞与総額÷12 (3)高年齢雇用継続給付の支給率と年金支給停止の早見表 60歳台前半の在職老齢年金については、給与額(総報酬相当月額)と年金の月額(基本月額) により支給停止となる仕組みに加えて、高年齢雇用継続給付金を受給したばあいはさらに年 金が支給停止されることとなっています。 年金の支給停止率は最大で6%です。高年齢雇用継続給付金の支給額に比してほんの少しですので 請求できる条件を満たしている場合は請求した方が得です。 高年齢雇用継続給付の支給率および年金支給停止の早見表 賃金割合 高年齢雇用継続 給付支給率 0.00 0.88 1.79 2.72 3.68 4.67 5.68 6.73 (低下率) 75%以上 74% 73% 72% 71% 70% 69% 68% 年金停止率 0.00 0.35 0.72 1.09 1.47 1.87 2.27 2.69 賃金割合 (低下率) 67% 66% 65% 64% 63% 62% 61%以下 高年齢雇用継続 給付支給率 7.80 8.91 10.05 11.23 12.45 13.70 15.00 年金停止率 3.12 3.56 4.02 4.49 4.98 5.48 6.00 高年齢雇用継続給付金支給率・・・みなし賃金月額(60歳到達時における賃金日額×30日)に 対する賃金額の低下率に応じた支給率 年金停止率・・・みなし賃金月額(60歳到達時における賃金日額×30日)に対する標準報酬 月額の割合に応じた停止率 2.60歳以降の賃金 前提条件 ①定年(満60歳】直前の賃金の月額 400,000円 年間賞与 900,000円 ②老齢厚生年金額(報酬比例部分):1,200,000円(年額) ③料率、給付率:平成25年1月現在のものを使用 ④昭和28年4月15日生 男性 ⑤扶養:1人 *住民税は考慮しません (1)検証1 ~年齢による推移~ *定年後の賞与の支給なし 高年齢雇用 在職老齢年金 継続給付金 月額給与 社会保険料 雇 用 保険料 所得税 定年前 400,000円 58,170円 2,000円 8,370円 ー ー 331,460円 60歳 240,000円 34,051円 1,200円 3,290円 36,000円 ー 237,459円 61歳 240,000円 34,051円 1,200円 3,290円 36,000円 55,600円 293.059円 手取り *厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢の段階的引き上げは、女性 については男性の5年遅れ で開始いたします。女性については昭和33年4月2日以降生まれの方が該当します。 男性と女性について年金開始時期により給与に差をつけることは、男女雇用機会均等法、労働 基準法等に抵触します。 (2)検証2 ~給与額による推移~ 定年前 60歳 80% 60歳 70% 60歳 65% 60歳 60% 月額給与 社会保険料 雇 用 保険料 所得税 高年齢雇用 在職老齢年金 継続給付金 400,000円 58,170円 2,000円 8,370円 ー ー 331,460円 320,000円 45,402円 1,600円 5,780円 ー ー 267,218円 280,000円 39,726円 1,400円 4,490円 13,076円 ー 247,460円 260,000円 36,889円 1,300円 3,950円 26,130円 ー 243,991円 240,000円 34,051円 1,200円 3,290円 36,000円 ー 237,459円 手取り *月額給与が異なっても、社会保険料負担額や高年齢雇用継続給付金額により手取り額に それほど大きな差は生じません。 (3)検証3 ~(1)の方が61歳になり年金を受給開始した場合~ 雇 用 高年齢雇用 月額給与 社会保険料 所得税 在職老齢年金 保険料 継続給付金 定年前 61歳 80% 61歳 70% 61歳 65% 61歳 60% 手取り 400,000円 58,170円 2,000円 8,370円 ー ー 331,460円 320,000円 45,402円 1,600円 5,780円 ー 30,000円 297,218円 280,000円 39,726円 1,400円 4,490円 13,076円 44,766円 292,226円 260,000円 36,889円 1,300円 3,950円 26,130円 49,543円 293,534円 240,000円 34,051円 1,200円 3,290円 36,000円 55,600円 293,059円 *年金の受給を開始した場合は、月額給与が高いほど手取りが多くなるわけではなく逆転する 場合があります。 また、遺族年金や障害年金については給与額により支給停止等になる仕組みではありません。 3.厚生年金の長期加入者特例 ~3つの要件を満たしていれば受けられます~ 60歳台前半の老齢厚生年金は、特別支給の老齢厚生年金といい、報酬比例部分(2階)と定額 部分(1階)の2階建てになっています。昭和16年4月2日生以降のかたは、定額部分の支給開 始年齢が生年月日により段階的に引き上げられています。 ところが、長期加入者に該当すると、①報酬比例部分と同時に定額部分を受け取ることができ る、②加給年金の対象者となる65歳未満の配偶者がいる場合は、加給年金を受け取ることがで きる、などのメリットを受けられます。 定年時には長期加入者に該当しなくても、再雇用され65歳になる前に該当するケースが散見さ れます。 長期加入者特例を受けるためにはつぎの3つの要件を満たすことが必要です。 ① 年金の受給開始年齢になっていること ② 厚生年金の被保険者期間が44年(528月)以上あること ③ 厚生年金の被保険者でないこと ③の「厚生年金の被保険者でないこと」というケースは、退職だけを意味するだけではなく パートとして勤務する場合も含まれます。パートとして雇用保険にのみ加入する働き方を 選んだ場合は、年金を満額受給しつつ高年齢雇用継続給付金を受給することができるという わけです。 年金事務所等で、年金加入記録を確認しライフプラン作成の一助とするとよいのではないで しょうか?
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