情報機器やネットワークを活用した教育の実践 ― 地域教材「今治のくらし」のデジタル教材化を通して ― 今治・越智支部１はじめに毎年、今治・越智支部として、この情報教育委員会研究紀要を作成するにあたり、各支部の活動報告と実践事例の原稿を掲載しなければならない。活動報告は、例年、部長が原稿を作成している。実践事例については、５月初旬に開催される今治・越智支部教科等委員長会において、候補者を話し合い、その区の部長に依頼している。しかし、候補者がいない場合や断わられた場合は、必然的に部長の仕事になることが多い。様々な会合の企画や世話に追われ、時間的にゆとりがない状態では、満足できる実践事例の原稿を仕上げることは難しい。そのため、今年度は、今治・越智支部教科等委員長会の場において、４つの区で実践を分担し、それを持ち寄ることで実践事例の発表をしてみようということになった。本稿では、その中心的な活動となった、地域資料「今治のくらし」のデジタル化作業の様子を紹介したい。２活動計画と内容今治・越智支部教科等委員長会において、今年度の活動計画について話し合った。愛媛県教育研究協議会「研究の手引き」情報教育をもとに、各区の部長、副部長で協議した結果、本年度は、以下の４点について活動することになった。 ① 情報機器やネットワークを活用した多様な教育 ② コンピュータやインターネットに関する正しい知識やそれらを活用する技術 ③ ネットワーク上でのルールやマナー等の情報モラルの育成 ④ 校務の情報化の推進そして、それぞれの活動で具体的にどのようなことができるか話し合い、表に書き出した後、各区で相談し、受け持つことになった。研 ① 修内容区情報機器やネットワークを活用した多様な教育授業における「 e-ライブラリ」の効果的な指導事例授業における「キューブ」の効果的な指導事例１授業における「スカイメニュー」の効果的な指導事例オアシスプロジェクトを活用した授業改善「今治のくらし」のデジタル教材化２授業に役立つソフト集の作成 ② 授業に役立つリンク集の作成４授業に役立つビデオクリップの作成２コンピュータやインターネットに関する正しい知識やそれらを活用する技術コンピュータリテラシーの指導についてタッチタイピングの指導について授業における効果的なネットサーフィンの活用について ③ ネットワーク上でのルールやマナー等の情報モラルの育成「あんしん・あんぜん情報モラル」を活用した指導事例２「インターネット上のトラブルにかかる対応マニュアル」の活用３「春野家のケータイ物語」を活用した指導事例１保護者向けの情報モラル啓発実践事例 ④ ４校務の情報化の推進 Excel を活用した校務ソフトの開発３ Word を活用した校務ソフトの開発校務の情報化ソフト集の作製「一太郎」の効果的な活用事例３「今治のくらし」のデジタル教材化について ⑴ 「今治のくらし」について「今治のくらし」はＢ５版 139ページの書籍で、今治市の各小学校に配布されている。社会科の授業で小学校３・４年生が活用している地域教材である。今治・越智社会科主任会が編集しているが、昨年度、５年ぶりに改訂された。社会科主任会においては、有効に活用するための実践を行っているが、より効果的に活用できるように、社会科主任会と情報教育部会とが連携することになった。 ⑵ 電子黒板の導入平成 21年５月 29日、「スクールニューディール」構想を含む平成 21年度補正予算が成立し、「学校 ICT環境整備事業」として、次の内容が盛り込まれた。 ① 電子黒板機能付きデジタルテレビを原則として、小・中学校と特別支援学校に各１台ずつ配備すること。 ② 現在教育で活用されているテレビを、50インチ以上のデジタルテレビへ買い換えること。 ③ モデル実践事業として、全国 130校の小・中学校全教室に電子黒板を導入すること。しかし、平成 21年９月 16日に誕生した民主党鳩山政権のもと、この補正予算は見直され、電子黒板の導入が難しい状況になった。幸いなことに、今治市においては、学校教育における情報機器の価値を認める声が強く、計画通り各小中学校に 1台ずつ、電子黒板が導入された。 ⑶ デジタル化のメリットデジタルデータ化すれば、コンピュータで扱うことが容易になり、プロジェクタや電子黒板を使って資料を大画面で提示したり、インターネット上の他の情報へのリンクを使って、調べ学習の幅を広げたりすることができやすくなる。音声や動画、アニメーションなどを組み込むこともできるので、児童の興味・関心を高め、理解を深めることにも役立つ。資料のコピーや印刷が簡単で、児童のノート作りやまとめ学習の際に利用がしやすい。また、データの修正や加工などの編集作業が手軽にできるので、児童の実態に合わせたきめ細やかな指導がやりやすいことも利点である。 ⑷ 教材作成のソフトウェアの決定マルチメディア教材を作成するためのツールとして、様々なソフトウェアが考えられるが、今回は、スズキ教育ソフトの「キューブきっず２」に含まれている「電子かみしばい」というソフトウェアを使用した。「キューブきっず２」は、今治市内のほぼすべての小学校のコンピュータにインストールされており、いつでもデータの追加や編集作業をすることができる。また、操作が非常に簡単で、小学生以上ならだれにでも扱える上に、販売元からビューアが無償でダウンロードできるので、完成した教材はどのコンピュータでも見ることができる。「キユーブきっず２」に含まれているマルチメディアソフトには、他に「キューブプロジェクター」、「キューブページ」があるが、画面表示の鮮明さ及び作成の手軽さから、「電子かみしばい」を選択した。 ⑸ 「電子かみしばい」とは ○ 絵や写真などの画像を組み合わせて、ストーリーを作成するソフトウェアである。 ○ ストーリーに音や動画を組み込んだり、ボタンやアニメーションを設定したりすることができる。 ○ 物語や電子アルバムの作成、調べてきたことをまとめて発表するツールとして活用できる。 ① 「電子かみしばい」を始めるまでの準備・ストーリーの内容を考える。（どんなことを発表しようか？）・絵コンテを作成する。（どんなストーリーにするのか流れを考える。）・「お絵かき」でストーリーに使う絵を作成し、保存する。 ② 「電子かみしばい」でストーリーを作成・ポケットバーから、ストーリーの部品が保存されているポケットを選択する。【図１】【図１・ポケットバー】１枚目に表示したい画像をドラッグして、１フレーム目の「組み立て」列に配置する。【図２】【図２・組み立て画面】「見る」ボタンをクリックして、ストーリーを実行する。【図３】【図３・ ③ 見る】同様の操作で２枚目、３枚目と絵を配置する。その他の効果・フレームの表れ方を設定できる。・音やボタンを設定できる。・アニメーションを設定できる。「電子かみしばい」は、絵や写真などの画像を組み合わせて、ストーリーを作成するソフトウェアで、音声や動画を組み込んだり、ボタンやアニメーションを設定したりすることが簡単にできる。また、ボタンのジャンプ先として URL を指定することで、インターネットともシームレスにつながり、マルチメディア教材を作成するには適したソフトウェアである。 ⑹ デジタルデータの準備次のデータをサーバの共有フォルダに保存し、ネットワークに接続しているコンピュータから使用できるようにした。 ① 「今治のくらし」のスキャンデータ見開き２ページが 1枚の画像となるように、スキャナで取り込んだ。ファイル形式は jpgで、解像度は 2043×1462ピクセル（ 150dpi）とした。また、ファイル名は、 im gに３桁の数字を連番で続け、 imgXXX.jpgとした。【図 4】 ② 写真や図本文中に使用した写真や図のデータの他、ページ数に制限されないデジタルの利点を生かして、未使用写真も参考として活用できるよう準備した。【図4 ファイル名のつけかた】作業の分担平成 21年 11月 19日に今治市立立花小学校で情報教育研修会を行い、今治市内の 19校から情報教育主任及び社会科主任が参加した。研修会では、授業に役立つビデオクリップの作成、情報モラルの教育実践事例報告、授業に役立つリンク集作り、 CMSを活用したホームページの運用について研修した他、「今治のくらし」のデジタル化の作業を共同で行った。「今治のくらし」のデジタル化については、スズキ教育ソフトより講師を招いて研修した。その際、ソフトの操作方法を解説した一般的な講習会テキストの他、教材作成について具体的に解説したマニュアル『「今治のくらし」提示画面の作成方法』（Ａ４版 15ページ）を用意し、研修がスムーズに進むよう配慮した。「今治のくらし」全ページ及び年表、目次、航空写真を研修会の参加者 19名で分担すると、一人およそ８ページ分の作業となった。 ⑻ 教材の作成 ① 簡単な英語マルチメディア教材の作成最初に練習課題として、目や耳、口など、顔の各部分の英単語を学習するための、簡単な英語マルチメディア教材「英語で話そう」を作成して、ソフトの操作方法について共通理解を図った。「電子かみしばい」の１枚目に顔の絵を配置する。目や耳の部分にボタンを作り、ボタンをクリックすると、それぞれの単語を解説するページにジャンプする。もう一度クリックすると、１枚目に戻る構成となっている。 ⑺ ② 「今治のくらし」の基本構成の確認と教材作成見開き２ページを１画面とする。画面の下左隅のページ番号をクリックすると前のページへ戻り、画面の下右隅のページ番号をクリックすると後ろのページに進むようにして、本をめくるような感覚で画面が切り替わるようにした。ページの中にある写真をクリックすると、写真が画面いっぱいに表示され、もう一度クリックすると、元のページに戻る。ページによっては、図の中に書かれている言葉にボタンを設定し、当該写真にジャンプするようにするなど、児童が直感的に操作できるように工夫した。画面の見え方を一定にするために、基本となる画像の大きさは 1228×859ピクセルに統一した。各自が分担した８ページ分の「電子かみしばい」のファイルを作成し、最後に全ファイルを結合する。ファイルの作成者以外の人が見ても、どのデータがどこに使われているかがはっきりと分かるように、ファイル名のつけ方を統一した。基本となる画像は、スキャンデータのファイル名をそのまま用い、そのページ内の画像は、ファイル名に続けて順に番号をつけた。 51， 52ページを例にとると、基本となる画像は、 i mg059.jpgとなり、写真のファイル名はそれぞれ img059-1.jpg,img059-2.jpg,img059 -3.jpg,img059-4.jpgとなる。【図５】サーバに、研修会参加者名簿の番号に合わせて、01から 19までの名前をつけたフォルダを作成し、その中に、完成した「電子かみしばい」のファイル及び作成に使ったデータを一括して保存した。「電子かみしばい」のファイル名は参加者名簿の番号に準じ、例えば、 07.qpfのようにした。（ qpfは、「電子かみしばい」の拡張子）【図５ ⑼ 各ページのファイル名】「今治のくらし」の完成手順説明も含めて、約２時間の研修時間で、ほぼ完成させることができた。一部、完成できなかったところについては、学校に持ち帰っての作業となった。全員分のデータが揃ったところで、ファイルを結合し、一本の教材にまとめ、CD-ROMにして今治市内の各小学校に配布した。今後は、授業での実践を積み重ねながら、より使いやすい教材へと改善していきたい。さらに、社会科同好会とも協力しながら、音声や動画データなどの多様な資料を収録したり、関連語や関連ページ、発展教材へのリンクを充実させたりして、デジタル教材としての完成度も高めていきたいと考えている。４社会科地域教材「今治のくらし」の電子データを用いた授業実践 ⑴ 仮説資料を多用する社会科の学習に於いて、情報機器を活用した資料提示の工夫を行うことで、児童の興味や関心が高まり、学習効果の定着が図れるであろう。地域素材の学習を進めていく中で、調べ学習を行わせる工夫をすれば、個々の調べたいことや疑問を追究する態度が身につくであろう。 ⑵ 「地域に伝わる願い」（市に残る古いものを調べよう。）市に残る史跡を見学して、昔の様子を調べる。今治市には、城や古墳、神社などの史跡がたくさん存在する。しかし、島嶼部をはじめ山間部に至るまで広範囲に散在し、見学調査の実施が難しいのが実情である。そこで、副教材「今治のくらし」の電子データ化を行い、今治市の地図上をクリックすることにより史跡が表示される教材を作成し、授業を行った。【図６ディスプレイ上】【図７史跡① ②③ ④クロス＆オーバーラップ】児童がインターネットを利用して調べ活動を行うにあたり、検索エンジンでキーワードを入力しても表示されたコンテンツからは、自分が本当に知りたい内容がどこにあるのかを児童が判断することが難しい。そこで児童には「何のどの部分が知りたいのか」具体的に明確に意識させてから調べ活動に入らせることが必要であると考える。しかし、現実には検索結果から自分の参考になる資料にたどり着くことはまれであり、対時間効果が認められにくいものである。また、前述のように見学や調査活動が困難であることから、教師が児童の学習に参考となるサイトをあらかじめピックアップしておき、効率的に調べ学習に使えるようなリンク集を準備した。 ⑶ 児童の感想 ○ マウスを持って行ったところで写真が出るので、何がどこにあるのかがわかった。 ○ ゲームしているみたいでおもしろかった。 ○ 全問正解できると思っていたけど、できなかった。 ○ 次々と写真が出るので、史跡がたくさんあるのだなあと思った。 ○ （ローマ字でキーワードを）打たなくても調べることができたので楽しい。 ○ たくさんの資料で調べることができた。【図８ ⑷ 児童の様子１】【図９児童の様子２】実践における成果と課題 ○ 個々の児童が、ディスプレイ上の地図から史跡を見つける操作を行うことで、地図に親しむとともに、位置情報についての感覚が身についてきている。 ○ 社会科では資料提示が授業に大きく左右する。歴史的史跡をスクリーンに提示して説明することで、資料の内容を明確に児童に伝えることができた。 ○ 史跡や文化財などへのリンク集を活用することで、検索エンジンでのキーワードの入力トラブルもなく、ワンクリックで直接資料に到達できる。そのため、児童の問題解決意欲を持続させた状態で調べ学習を行うことができた。 ● ゲーム的な感覚で資料を提示するだけで満足している児童については、地域（地図）に目を向けさせる工夫が必要である。 ● 作成当初は、副読本「今治のくらし」の紙面上に、直接、関連リンクを貼り、児童が自由に検索できるよう考えた。しかし、表示の関係で、スムーズに提示できないため、別に教材リンク集を用意した。メーカーと連絡をとり、解決したい。 ● 教材リンク集から、あらかじめ準備した資料にたどり着くものの、そのサイトに貼られたリンクにより、ネット迷子になる児童が見られた。そこで、ブラウザの使い方・教材リンク集の使い方の指導も併せて行う必要性を感じた。 ● 地域学習・調べ学習においては、自分の身の回りの現地調査を中核にした展開が望ましい。Web コンテンツを利用した調べ学習は効果的であるが、あくまでも基本を大切にした授業展開を、日々大切にしていくことが必要である。 ● 調べ学習で使用する資料が、児童によって異なってくる。そこで、「調べた内容・考えたこと、新たな疑問」などについて、個人学習がクラス全体の学習に広がり学びあいの場をもつ必要がある。そのための発表の場、学習を共有するための時間をカリキュラムに位置づけることを忘れてはならない。５終わりに地域教材「今治のくらし」のデジタル化作業は、わたしたち今治・越智支部に、様々なメリットをもたらした。まず一つ目は、作業の結果が、地域教材「今治のくらし」デジタル資料集という、成果物として残せたことである。二つ目は、研修を受けた情報教育部員のスキルが向上したことである。三つ目は、他の部会と連携したという実績である。今年度得た様々なメリットを生かして、来年度も充実した活動ができるようにしていきたい。デジタル教材作りの方向で考えるならば、どの教科においてもニーズが多いと思う。他の部会との連携を益々深め、情報教育部員のスキルアップを目指して、活動していきたいと思う。