「ラプラス変換とフーリエ 解析要論(第 2 版)」 サンプルページ この本の定価・判型などは,以下の URL からご覧いただけます. http://www.morikita.co.jp/books/mid/002612 ※このサンプルページの内容は,第 2 版 1 刷発行当時のもので す. i まえがき ラプラス変換・フーリエ級数は微分方程式等の解法に関連して,従来から機 械工学・電気工学・化学工学・熱伝導理論・振動理論に広く応用され,いわゆ る応用解析学の中心的話題となってきた.とりわけ,最近の自動制御理論・組 織工学はそれらの理論に負うところが極めて大きく,それぞれの技術分野にお いてラプラス変換・フーリエ級数の実際的応用を取り扱っている書物や文献は 列挙しがたいほど多い. したがって,大学および高専の技術科学・応用理学系の教科の中で,ラプラス 変換・フーリエ級数の応用面を考慮した講義が非常に強く要望されている.本 書は,その要望に応じて,理論と計算の主要な部分を,比較的基礎の課程にあ る学生が短かい期間に修得できることを目標に編集している.予備知識として は,無限積分・重積分を含めた微分積分学だけを想定しているが,簡単な徴分 方程式の求積法を知っていることは,ここでの解法と比較する意味で望ましい. また,ほとんど実数の範囲で考えているので,複素関数についての知識は必要 としないが,計算を簡単化できる場合にオイラーの公式を用いている.応用面 では,各専門分野の特色ある理論はそれぞれの専門書に譲って,ここでは歴史 的な基本的な問題と最近のトピックスである自動制御の手法を解説するにとど めた. いわば本書の内容はラプラス変換・フーリエ級数の応用のためのミニマム・ ニーズを簡明にしかも理解しやすく述べることを心がけているつもりである. 例題の解についてはかなり詳しく述べているので,その一部分を学生の自習に 任せるよう指示すれば,ページ数の割には少い授業時数で全巻を終えることも 可能であろう.さらに,基礎概念だけを必要とする場合,たとえば将来専門分 野でそれぞれの必要な形態で詳述されることが予想される学生に対しては,割 愛することもできる個所には 印を付してある. 以上のように,本書は簡潔であることに主眼をおいたが,それだけに不備不 ii まえがき 足な点が多々あろうかと思われる.学習使用に当たっての意見・感想を寄せて 下されば幸である.本書の編集の過程で,数々の有益な御意見を下さった大学 および高専の教官各位にここに厚く感謝の意を表したい. 1977 年 1 月 田 代 嘉 宏 第 2 版のまえがき 本書の旧版は大変ご好評を頂いて約 30 年近く増刷を重ねてきた.洛陽の紙 価を高めるまでに到ったかは疑問だけれど,紙型がかなり古くなり改訂するこ とになった. この類の教科書,学習書として適合の度が高かったと思っているので,大学 などの実状を考慮して,内容のさらに平易化と詳しい説明に努めた.とくに問 題は各自がみずから解答してはじめて理解できるが,計算は結構複雑なものが 多い.そのため解答欄にヒントまたは指針になるよう計算の経過を[ ]の中に 記載している.ただしこれはいろいろある解法の中,1 つの方向を示してしま う危険を犯すことになる.なるべく自分自身で着想し解いて,結果を比較する ことを期待している. 旧版にも増して読者の学習に有効に役立つならば幸いである. 2004 年 4 月 田 代 嘉 宏 iii 目 次 第 1 章 ラプラス変換 ...................................................... 1 §1. ラプラス変換 2 §2. ラプラス変換の基本法則 §3. ラプラス逆変換 演習問題 1 7 20 29 第 2 章 ラプラス変換の応用 ............................................ 31 §4. 常微分方程式の初期値問題 32 §5. 常微分方程式の境界値問題 36 §6. 物理系への応用 §7. 電気回路系 42 47 §8. 積分方程式などの解法 §9. 自動制御系 演習問題 2 53 58 65 第 3 章 フーリエ級数 ..................................................... 67 §10. フーリエ級数 68 §11. フーリエ余弦級数・正弦級数・複素形フーリエ級数 §12. 一般区間におけるフーリエ級数 §13. 正規直交列とパーセヴァルの等式 §14. フーリエ積分 演習問題 3 100 90 80 84 75 iv 目 次 第 4 章 偏微分方程式 .................................................... 103 §15. 波動方程式 104 §16. 熱伝導方程式 116 §17. ラプラス微分方程式 演習問題 4 120 127 問題・練習問題の解答 129 三角関数・双曲線関数に関する公式 ラプラス変換の基本法則表 ラプラス変換表 索 引 160 156 155 152 1 第1章 ラプラス変換 ラプラス変換は,ラプラス (Laplace) より以前にオイラー (Euler) によっ て微分方程式の解法に応用されたが (1737),それとは独立にラプラスが確率 論の中で微分方程式および差分方程式の解法にこの変換を用いており (1812), 名称はそれに由来する. 一方,演算子法とは広い意味では演算子を用いる計算方法全般を意味する が,狭くはヘヴィサイド (Heviside) が電気工学で用いた微分積分を記号化し て微分方程式などを代数的に簡単に解く方法 (1899) を指している.ヘヴィサ イドの手法は実験的であって厳密な数学的基礎が与えられていなかったため, 解析学者の議論の対象となり,それに代わってラプラス変換およびその逆変換 を用いる演算子法が標準的な方法とされ,電気回路,自動制御などの工学にも 広く用いられている.なお,ヘヴィサイドの演算子法を厳密に理論付ける新し い方法がミクシンスキー (Mikusinsky) によって見出されている (1953). [本章の目的] ラプラス変換と逆変換の計算と公式を述べる.これは第 2 章の微分 方程式の解法の基礎になる. §1. 関数 f (t) のラプラス変換 L[f (t)] = F (s) は無限積分 (1 ) で定義される.よく 用いられる関数のラプラス変換は多くの場合,分数関数になる. §2. いろいろの関数のラプラス変換が §1 の結果と基本法則によって導かれる. §3. 関数 F (s) が与えられたとき L[f (t)] = F (s) であるような関数 f (t) を求め −1 ることをラプラス逆変換といい,f (t) = L [F (s)] で表す.f (t) を原関数, F (s) を像関数という. 原関数と像関数を対応させるラプラス変換表と基本法則の表の簡単なものは 21 ページに,詳しい表は巻末に揚げている.この表によってラプラス変換と逆変換を スムーズに手際よく計算できるようにしたい.この関係は微分と積分の関係と類似 している. 2 第1章 ラプラス変換 §1. ラプラス変換 変数 t について区間 [0, +∞) で定義された関数 f (t) に対して,s を t と無 関係な実数または複素数として,無限積分 ∞ T e−st f (t) dt = lim T →∞ 0 e−st f (t) dt 0 が存在するとき,この値は変数 s の関数と考えられる.この関数を F (s) また は L[f ] で表し, (1 ) L[f ] = F (s) = ∞ e−st f (t) dt 0 と書く.これを f (t) のラプラス変換またはラプラス積分という.今後,被積 分関数の中にいくつかの変数が含まれていることが多い.どの変数について積 分しているか注意しなければならない. 2 ex の指数 x が複雑なとき,exp x と書く.例えば e−x を exp(−x2 ) と書 x y x+y く.指数法則 e e = e は次のように表される. exp x exp y = exp(x + y ) 一般に,関数 f (t) の点 t0 における左側および右側極限値をそれぞれ f (t0 − 0) = lim f (t0 + h), h→−0 f (t0 + 0) = lim f (t0 + h) h→+0 で表す.関数 f (t) が t0 で連続であるというのは,f (t0 ) が定義され,かつ左 右両側の極限値が f (t0 ) に等しい場合である. また,区間 [a, b] で定義された関数 f (t) が,次の条件 (i),(ii) を満たすと き,f (t) は [a, b] で区分的に連続であるという (図 1.1). (i) f (t) が [a, b] の有限個の点を除いては連続である. (ii) f (t) の不連続な点 t0 では,左側および右側極限値 f (t0 − 0),f (t0 +0) が存在する. 無限区間 [a, +∞) で定義された関数 f (t) については,それが任意の有限区 間 [a, b] で区分的に連続であるとき,f (t) は [a, +∞) で区分的に連続である という.応用上,考える関数は区分的に連続な関数に限っておいて十分である から,とくに述べない限り,以下このような関数のみ取り扱う. §1. ラプラス変換 3 図 1.1 また,変数 s を主として実数の範囲で考えていくが,s を複素数の範囲で考 える方が理論の内容も広くなり,計算上も便利なことがある.その場合,ラプ ラス変換 F (s) は複素変数関数である.計算においてオイラーの公式 eit = cos t + i sin t (2 ) およびこれから導かれる公式 (3 ) cos t = eit + e−it , 2 sin t = eit − e−it 2i がしばしば用いられる. ガンマ関数 Γ (x) も必要となるので,その定義と性質を述べておく. (4 ) Γ (x) = で定義され,Γ (1) = 1,Γ 1 2 = ∞ e−t tx−1 dt 0 √ π である.等式 Γ (x + 1) = xΓ (x) が成り立ち,とくに x が自然数 n または Γ 例 1.1 2p + 1 (p: 自然数) のとき 2 Γ (n) = (n − 1)! √ 2p + 1 π = 1 · 3 · 5 · · · · · (2p − 1)! 2 2p 次の関数のラプラス変換と存在する s の範囲を求めよ (λ は実数). (1) 定数関数 1 (t 0) (2) ヘヴィサイドの単位関数 (図 1.2) (図 1.3) 4 第1章 ラプラス変換 0 (t < λ) 1 U (t − λ) = (t = λ) 2 1 (t > λ) (λ 0) (3) eλt (4) tλ (λ > −1) (5) cos λt (6) sin λt 図 1.2 T 解 (1) 0 図 1.3 e−st · 1 dt = − T 1 −st e s = 0 1 1 − e−sT s (s = 0) T → +∞ とするとき,s > 0 ならば e−sT → 0,s < 0 ならば e−sT → +∞.ゆ えに s > 0 のときそしてそのときに限って上の積分は収束し, F (s) = L[1] = L[U (t − λ)] = (2) 1 s (s > 0) ∞ e−st dt λ 変数の置換 τ = t − λ を行えば,t = τ − λ,dτ = dt であり,s > 0 のとき L[U (t − λ)] = e−λs ∞ 0 e−sτ dτ = e−λs L[1] = e−λs s λ = 0 のときは,U (t) は t = 0 以外では (1) の定数関数 1 と一致しており,それら のラプラス変換は同じである. (3) e−st eλt = e−(s−λ)t であるから,s − λ > 0 のとき L[eλt ] = ∞ e−(s−λ)t dt = 0 1 s−λ (s > λ) (4) tλ (λ > −1) のラプラス変換で,変数の置換 st = τ を行えば L[tλ ] = ∞ 0 e−st tλ dt = ∞ 1 sλ+1 0 e−τ τ λ dτ = Γ (λ + 1) sλ+1 §1. ラプラス変換 5 とくに λ が 0 または自然数 n のとき L[tn ] = n! sn+1 e−st cos λt dt とおき,2 回部分積分を繰り返せば (5) I = 1 −st s sin λt + e e−st sin λt dt λ λ 1 −st s s2 = e−st cos λt dt e sin λt − 2 e−st cos λt − 2 λ λ λ s2 1 = 2 (λe−st sin λt − se−st cos λt) − 2 I λ λ 1 −st e (λ sin λt − s cos λt) I = 2 s + λ2 I = ∴ s > 0 のとき, |e−st (λ sin λt − s cos λt)| e−st (|λ| + s) → 0 (t → ∞) であるから L[cos λt] = lim I T →∞ T 0 = s s2 + λ2 (s > 0) 公式 (3 ) と (3) の結果を用いて,次のようにして同じ結果を得る. ∞ 1 2 1 = 2 ∞ e−st cos λt dt = 0 ∞ e−(s−iλ)t dt + 0 e−(s+iλ)t dt 0 1 1 + s − iλ s + iλ = s s2 + λ2 (6) (5) と同様に 2 回部分積分を繰り返せば e−st sin λt dt = ∴ L[sin λt] = lim T →∞ −e−st (λ cos λt + s sin λt) s2 + λ2 T λ e−st sin λt dt = 2 (s > 0) s + λ2 0 また公式 (3 ) と (3) の結果を用いて ∞ 0 例 1.2 1 2i 1 = 2i ∞ e−st sin λt dt = 0 e−(s−iλ)t dt − 1 1 − s − iλ s + iλ ∞ e−(s+iλ)t dt 0 = λ s2 + λ2 次の関数のラプラス変換が存在する s の範囲を調べよ. (1) f (t) = exp(−t2 ) (2) f (t) = exp t2 終 6 第1章 ラプラス変換 T 解 (1) T exp(−st) exp(−t2 ) dt = 0 0 exp(−st − t2 ) dt s を任意の値に固定する.t > 1 − s かつ t > 0 であるような t に対して s+t>1 ∴ (s + t)t > t 1 − s と 0 の大きい方を t0 とすれば T t0 exp(−st − t2 ) dt < T t0 e−t dt = e−t0 − e−T であり,T → ∞ のときこれらの積分は収束する.したがってこの関数のラプラス変換 は −∞ < s < ∞ の範囲で存在する. T (2) T exp(−st) exp t2 dt = 0 0 exp(t2 − st) dt t > s の範囲で t2 − st > 0,exp(t2 − st) > 1 であるから T 0 = 0 s exp(t2 − st) dt > s 0 exp(t2 − st) dt + T dt s exp(t2 − st) dt + (T − s) → ∞ (T → ∞) ゆえに,どのような s についてもラプラス変換は存在しない. 終 以上の例のように,ラプラス変換は s の値によって存在したり,しなかった りする.それについて次の定理が証明される. [1.1] 関数 f (t) のラプラス変換 L[f ] = F (s) が s = s0 に対して存在す れば,s > s0 である任意の s に対して存在する. s,s0 が複素数の場合には,不等式 s > s0 を実部の大小 Re s > Re s0 でお き換えてこの定理は成立する. この定理によって,L[f ] が s > α では存在し,s < α では存在しないよ うな値 α が一意的に定まる.この α を L[f ] の収束座標といい,s > α をそ の収束域という.例 1.2 の (1) ように,すべての s の値に対して存在するとき α = −∞,(2) のように s のどんな値に対しても存在しないとき α = ∞ とす る.ラプラス変換が利用できるためには,収束座標 α が α < ∞ でなければな らない.今後,収束域をいちいち指示しないことが多いが,ラプラス変換を考 える場合収束域が存在していること (α < ∞) を暗に仮定している. §2. ラプラス変換の基本法則 ∞ 例 1.3 exp(−x2 ) dx = 0 √ π を用いて次の等式を示せ. 2 √ π = √ s 1 L √ t 変数変換 st = τ 2 (s > 0, τ 1 L √ t 例 1.1 (4) で λ = − ∞ e−st √ dt t 0 √ dt τ dτ 0) を行えば t = √ , √ = √ であるから s s 2 t √ ∞ exp(−τ 2 ) π =2 dτ = √ √ s s 0 1 L √ t 解 7 1 とおき,Γ 2 = 1 2 = √ π を用いても求められる. 終 問題 1.1 定義 (1 ) に基づいて,次の関数のラプラス変換を求めよ. (1) k (定数) (4) tet (3) t2 (2) t √ (5) t 問題 1.2 次の関数 f (t) のラプラス変換を求めよ. f (t) = 0 (0 t < a), f (t) = 1 (a t b), f (t) = 0 (t > b) §2. ラプラス変換の基本法則 多くの関数のラプラス変換は,以下に述べる方法によって,例 1.1 の初等関 数のラプラス変換から導かれる.応用上の計算のため,各種の関数のラプラス 変換の表が用意されている.主な関数についてその表を 21 ページおよび巻末 に挙げておく. [2.1] L[f (t)] = F (s),L[g (t)] = G(s),λ,µ は定数のとき (1) 線形法則 L[λf (t) + µg (t)] = λF (s) + µG(s) (2) 相似法則 L[f (λt)] = 1 F λ s λ 証明 (1) 積分の線形性から容易に導かれる. (λ > 0) 67 第3章 フーリエ級数 フーリエは熱伝導の現象が 2 階偏微分方程式で表されること,そしてそれを 種々の条件のもとで解く際に,任意の関数は三角関数の級数で表されることを 発見し,フーリエ級数論の誕生になった (1822).それ以後,弦の振動,電流 の状態などを表す偏微分方程式に関連して,物理学・工学の広い部分への応用 が研究されている. 一方,彼の理論の厳密化のために,カントールによる集合論,リーマンある いはルベーグによる積分の新しい定義などの発見を促し,実関数論・位相解 析・関数解析など現代解析学に多くの題材を提供してきている. [本章の目的] 周期関数を三角関数の級数で表すことができ,それをフーリエ 級数という.その性質を調べ,第 4 章の偏微分方程式への応用等を含めて全般 にフーリエ解析という. §10.区間 [−π, π ] で周期 2π の関数のフーリエ級数を求める.その部分和によ る関数の近似の状態をパソコン上で視覚的に検証することは,フーリエ級 数の意味と効果を知るために有効である. §11.偶関数は cosine だけの級数で,奇関数は sine だけの級数で表される.ま たオイラーの公式によって複素形フーリエ級数が導かれ,実数形に直す方 法を述べる.関数によってはこの方が簡単な場合がある. §12.一般区間 [−l, l] における周期関数に対しては適当な変数変換によって区 間 [−π, π ] の周期関数の場合に変換できる. §13.関数のフーリエ級数による近似の評価に関連して,ベッセルの不等式・ パーセヴァルの等式が理論上も重要である.また項別積分・項別微分もフー リエ級数の計算に有効である. §14.フーリエ級数の考えを全区間で定義された関数に対して拡張するために フーリエ積分が導入される.フーリエ積分とその反転公式はある種の無限 積分の値を求めたり,積分方程式の解法に適用できる. 68 第3章 フーリエ級数 §10. フーリエ級数 よく使用される公式をあげておく.区間 [−a, a] で関数 f (x) が a 偶関数ならば −a a 奇関数ならば a f (x)dx = 2 f (x)dx 0 f (x)dx = 0 −a 区間 [−π, π ] で三角関数の定積分について,m,n を自然数として, π dx = 2π −π π π cos nx dx = 0, −π sin nx dx = 0 −π π (m = n) cos mx cos nx dx = 0 (m = n) −π π (1 ) π (m = n) sin mx sin nx dx = 0 (m = n) −π π π cos mx sin nx dx = 0 −π 問題 10.1 積を和に直す公式 (巻末参照) を用いて,公式 (1 ) を証明せよ. さて,周期 2π をもつ関数 f (x) が三角関数によって ∞ a0 + (an cos nx + bn sin nx) 2 n=1 a0 + a1 cos x + a2 cos 2x + · · · + an cos nx + · · · = 2 + b1 sin x + b2 sin 2x + · · · + bn sin nx + · · · f (x) = (2 ) の形に表されたとする.この式を三角級数という.両辺に 1,cos mx,sin mx を掛けて,形式的に項別積分ができるものとすれば,式 (1 ) を用いて π −π f (x) dx = a0 2 π −π dx = πa0 §10. フーリエ級数 π −π π f (x) cos mx dx = am f (x) sin mx dx = bm −π π −π π 69 cos mx cos mx dx = πam sin mx sin mx dx = πbm −π となり,これから係数 a0 , a1 , a2 , · · · , b1 , b2 , · · · が決定される. しかし,上記の計算は形式的に項別積分をしたものであって,このようにし て定められた係数をもつ式 (2 ) の三角級数が収束するとは限らないし,収束す るとしてももとの関数 f (x) に一致するとは限らない.それゆえ,関数 f (x) と このようにして定められた三角級数との関係を,等号 = の代わりに ∼ で表す ことにする.以上をまとめれば [10.1] 周期 2π をもつ関数 f (x) について, ∞ (3 ) f (x) ∼ a0 + (an cos nx + bn sin nx) 2 n=1 であり,右辺の係数は次の式で与えられる. an = (4 ) bn = 1 π 1 π π −π π −π f (x) cos nx dx (n = 0, 1, 2, · · ·) f (x) sin nx dx (n = 1, 2, · · ·) 式 (3 ) の右辺の三角級数を関数 f (x) のフーリエ級数またはフーリエ展開と いい,その係数 (4 ) を f (x) のフーリエ係数という.とくに an をフーリエ余弦 a0 としたのは,式 (4 ) を統一 2 的に表すためである.以下フーリエ級数の第 n 部分和を Sn で示す.すなわち a0 + a1 cos x + a2 cos 2x + · · · + an cos nx Sn = 2 + b1 sin x + b2 sin 2x + · · · + bn sin nx 係数,bn を同じく正弦係数という.定数項を 例 10.1 周期 2π をもち,区間 (−π, π] で次の式で与えられる関数 f (x) のフーリエ 級数を求めよ.また第 n 部分和 Sn のグラフを調べよ. (1) f (x) = π − |x| 70 第3章 フーリエ級数 1 (−π − x) (−π < x 0) 2 (2) f (x) = 1 (π − x) (0 < x π) 2 (3) f (x) = (4) f (x) = 解 0 (−π < x < 0) 1 (0 x π) 0 (−π < x < 0) 2 cos x (0 π) (1) f (x) が偶関数であり,cos nx も偶関数であるから f (x) cos nx は偶 関数である. an = 1 π π f (x) cos nx dx = −π π 2 π 0 (π − x) cos nx dx n = 0 のとき,部分積分により an = = 2 π (π − x) 1 sin nx n 2 − cos nx πn2 π 0 = π + 0 1 n π sin nx dx 0 0 2 {1 − (−1)n } = πn2 図 10.1 (n が偶数) 4 (n が奇数) πn2 §10. フーリエ級数 71 n = 0 のとき,上式の分母が 0 となるから,別に計算する. a0 = π 2 π 0 (π − x) dx = 2 π πx − π x2 2 =π 0 一方,sin nx が奇関数であるから,f (x) sin nx も奇関数であり π 1 π bn = −π (π − |x|) sin nx dx = 0 ゆえに f (x) ∼ 4 π + 2 π = π 4 + 2 π cos x + ∞ n=1 1 1 cos 3x + 2 cos 5x + · · · 32 5 1 cos(2n − 1)x (2n − 1)2 (2) f (x) が奇関数であるから,f (x) cos nx は奇関数,f (x) sin nx は偶関数である. 1 π 1 = π 1 = π an = bn π f (x) cos nx dx = 0 −π π f (x) sin nx dx = −π π 0 2 π π f (x) sin nx dx 0 (π − x) sin nx dx 1 1 − (π − x) cos nx π n π 1 1 1 = sin nx = − 2 0 n πn n π = 0 − 1 n π cos nx dx 0 ゆえに f (x) ∼ sin x + ∞ = n=1 1 1 1 sin 2x + sin 3x + sin 4x + · · · 2 3 4 1 sin nx n (3) f (x) = 0 (−π < x < 0),f (x) = 1 (0 1 a0 = π 1 an = π 1 bn = π x π) であるから π dx = 1 0 π π 1 sin nx = 0 0 πn 0 π π 1 − cos nx sin nx dx = 0 πn 0 0 (n が偶数) 1 = {−(−1)n + 1} = 2 πn (n が奇数) πn cos nx dx = 72 第3章 フーリエ級数 図 10.2 図 10.3 f (x) ∼ 1 2 + 2 π = 1 2 + 2 π 1 (4) a0 = π 1 a1 = π = 1 π sin x + ∞ n=1 1 1 sin 3x + sin 5x + · · · 3 5 1 sin(2n − 1)x 2n − 1 π π 2 sin x = 0 0 π 0 π π 1 2 cos2 x dx = (cos 2x + 1) dx π 0 0 2 cos x dx = 1 sin 2n + x 2 π =1 0 §10. フーリエ級数 an = 1 π = 1 π π 2 cos x cos nx dx 0 π 0 {cos(n + 1)x + cos(n − 1)x} dx 1 π 1 1 sin(n + 1)x + sin(n − 1)x n+1 n−1 1 π π b1 = bn = 1 π = 1 π = 2 cos x sin x dx = 0 1 sin2 x π π = 0 (n = 1) 0 π 0 =0 π 2 cos x sin nx dx 0 π 0 {sin(1 + n)x − sin(1 − n)x} dx π 1 −1 cos(n + 1)x − cos(n − 1)x n+1 n−1 0 4n (n が偶数) 2n 1 n π(n2 − 1) {(−1) = + 1} = 2 π n −1 0 (n が奇数) = 1 π ゆえに 図 10.4 73 103 第4章 偏微分方程式 [本章の目的] 本書の最終目標として,物理学や工学の中によく現れる代表的な 2 階偏微分方程式の解法を述べる.共通の解法として重ね合せの原理があり,フー リエ級数が用いられる.また,1 つの変数を媒介変数とみることによってラプラス 変換を適用することもできる. §15. 波動方程式にはストークスの波動公式も重要である. §16. 熱伝導方程式を取り扱う. §17. ラプラス微分方程式を取り扱う. 104 第 4 章 偏微分方程式 §15. 波動方程式 一様な線密度 ρ の弦を,原点 O と距離 l にある x 軸上の点 A との間に張 る.x 軸に垂直に u 軸をとる.最初 t = 0 のとき,xu 平面内で弦の各点 x に u 軸方向に変位 u = f (x) と初速 g (x) を与えれば,弦はこの平面内で振動す る.時刻 t における弦の各点の u 軸方向の変位を u(x, t) とする (図 15.1). 図 15.1 弦上の十分近い 2 点を P,Q とし,それぞれの x 座標を x,x + ∆x とし, 点 P,Q における弦の張力をそれぞれ T1 ,T2 とする.張力の方向はそれぞれ P,Q における弦の接線方向である.接線が x 軸となす角を α,β とする.弦 は x 軸方向には運動しないから,P,Q における張力の x 成分は互いに等し い.すなわち T1 cos α = T2 cos β = T また u 軸方向の成分はそれぞれ −T1 sin α,T2 sin β であり,この 2 つの力の 合成力はニュートンの運動の第 2 法則により,微小部分の質量 ρ∆x と加速度 ∂2u の積に等しい.すなわち ∂t2 T2 sin β − T1 sin α = ρ∆x ∂2u ∂t2 が成り立つ.この両辺を T で割れば tan β − tan α = を得る. ∂2u ρ ∆x 2 T ∂t §15. 波動方程式 ∂u ∂x tan α = x , tan β = ∂u ∂x ∂u ∂x = 105 x+∆x であるから 1 ∆x ∂u ∂x x+∆x − x ρ ∂2u T ∂t2 となり,ここで ∆x → 0 とすれば,2 変数 x,t の関数 u(x, t) についての偏 微分方程式 2 ∂2u 2 ∂ u = c ∂t2 ∂x2 (1 ) c2 = T ρ が導かれる.これを 1 次元の波動方程式という. まず,波動方程式 (1 ) の一般解を次のようにして求めよう.変数 x,t の 1 次 変換 (2 ) ξ = x − ct, η = x + ct を行えば ∂u ∂x ∂u ∂t ∂2u ∂x2 ∂2u ∂t2 ∂ ∂ξ ∂u ∂η ∂u ∂ u + = + ∂x ∂ξ ∂x ∂η ∂ξ ∂η ∂ ∂ξ ∂u ∂η ∂u ∂ u = + =c − + ∂t ∂ξ ∂t ∂η ∂ξ ∂η ∂ ∂ 2 ∂2u ∂2u ∂2u = + u= + 2 + ∂ξ ∂η ∂ξ 2 ∂ξ∂η ∂η 2 2 ∂ ∂ u ∂ 2 ∂2u ∂2u = c2 − + u = c2 − 2 + ∂ξ ∂η ∂ξ 2 ∂ξ∂η ∂η 2 = であり,これらの式を方程式 (1 ) に代入すると ∂2u =0 ∂ξ∂η (3 ) に変換される.この方程式の一般解は u(ξ, η ) = ϕ(ξ ) + ψ (η ) と表される.ここに ϕ(ξ ),ψ (η ) はそれぞれ ξ ,η だけの任意関数である.こ れに 1 次変換 (2 ) を代入すれば,方程式 (1 ) の一般解は (4 ) u(x, t) = ϕ(x − ct) + ψ (x + ct) (ϕ,ψ は任意関数) で与えられる. 106 第 4 章 偏微分方程式 初めに述べた弦の振動の状態を求めるには,この一般解のうち問題に述べら れた条件を満たす解を見出すことである.関数 u(x, t) の定義域は 0 0 x t < ∞ であり,その条件は,点 O と A は常に固定されているから (5 ) u(0, t) = u(l, t) = 0 であること,および t = 0 のときの変位と初速が与えられているから (6 ) u(x, 0) = f (x), ∂u (x, 0) = g (x) ∂t である.式 (6 ) で x = 0,x = l とおけば条件 (5 ) により f (0) = f (l) = 0, g (0) = g (l) = 0 である.一般解 (4 ) で t = 0 とすれば条件 (6 ) の第 1 式から (7 ) ϕ(x) + ψ (x) = f (x) である.また一般解 (4 ) を t で偏微分した後,t = 0 とすれば ∂u (x, t) = −cϕ (x − ct) + cψ (x + ct) ∂t ∂u (x, 0) = −cϕ (x) + cψ (x) = g (x) ∂t ゆえに,関数 g (x) の原始関数を G(x) とすれば (8 ) ψ (x) − ϕ(x) = 1 c g (x) dx = 1 G(x) c である.式 (7 ) と (8 ) から ϕ(x) = 1 1 f (x) − G(x) , 2 c ψ (x) = 1 1 f (x) + G(x) 2 c を得る.これらを式 (4 ) に代入すれば,求める解は u(x, t) = (9 ) = 1 1 G(x) {f (x − ct) + f (x + ct)} + 2 2c 1 1 {f (x − ct) + f (x + ct)} + 2 2c x+ct x−ct x+ct g (x) dx x−ct である.この式をス卜ークスの波動公式という. この解の意味を明らかにするために,特殊解 (10 ) u(x, t) = ϕ(x − ct) = 1 1 G(x − ct) f (x − ct) − 2 2c l, §15. 波動方程式 107 を考えよう.図 15.2 で,左側の曲線は t = 0 のときの u = u(x, 0) = ϕ(x) の グラフであり,右側の曲線は t の一般の値に対する u = u(x, t) = ϕ(x − ct) のグラフである.左側の曲線を ct だけ右へ平行移動すれば右側の曲線になる. いいかえれば,式 (10 ) は,左側の波形が時間 t の間に距離 ct だけ右に移動す ること,すなわち速さ c で右方向に進行する進行波を表す.同様に ψ (x + ct) は速さ c で左方向に進行する進行波を表す.したがって一般解 (9 ) は速さ c で 左右に進む 2 つの進行波の和である.2 つの波形を決定するためには,関数 ϕ, ψ または f ,g が与えられることが必要である. 図 15.2 常微分方程式の一般解は任意定数を含んでおり,特殊解を定めるには,変数 と関数との間の特定の値についての関係を与える必要があった.同じように, 偏微分方程式の場合,その一般解は一般に任意関数を含んでおり,一意的な解 を得るためにはその偏微分方程式が定義されている領域の境界上での解の状態 を指定することが必要である.その条件として次の 3 種類があげられる. (1) 境界上での解の値が指定されている. (2) 境界上での解の偏導関数の値が指定されている. (3) 境界上で解とその偏導関数の値の間の関係式が与えられている. このような条件を偏微分方程式の境界条件といい,とくに独立変数の 1 つが 時間 t である場合に,t の初期値 t0 における境界条件を初期条件という.そ れらの条件のもとに偏微分方程式を解くことを,一般に境界値問題または初期 値問題という.前述の波動方程式の場合,条件 (5 ) および (6 ) の第 1 式は (1) の形の境界条件であり,とくに (6 ) は初期条件である.式 (6 ) の第 2 式は (2) 108 第 4 章 偏微分方程式 の形の初期条件である. 波動方程式 (1 ) について両端が固定されている境界条件 (5 ) のもとでは, 式 (4 ) で x = 0,l とおいて ϕ(−ct) + ψ (ct) = 0, ϕ(l − ct) + ψ (l + ct) = 0 となり,ct は任意の正数であるから第 1 式では ct = ξ ,第 2 式では l + ct = ξ と置けば ϕ(−ξ ) + ψ (ξ ) = 0 (ξ ϕ(−ξ + 2l) + ψ (ξ ) = 0 (ξ 0) 2l) でなければならない.これから ϕ(ξ ),ψ (ξ ) は 2l を周期とする関数であること がわかる.さらに,第 1 式から ψ (ξ ) = −ϕ(−ξ ) であるから,式 (7 ) が x < 0 に対しても成り立つものと考えれば f (−x) = ϕ(−x) + ψ (−x) = −ψ (x) − ϕ(x) = −f (x) で,f (x) は奇関数である.同様に式 (8 ) から G(x) が偶関数であり,g (x) = G (x) は奇関数であることがわかる.したがって,境界条件 (6 ) の関数 f (x), g (x) を周期 2l の奇関数であるように全区間に拡張して考える. 次に,前述の波動方程式 (1 ) の境界値問題を別の方法で解いてみよう.いま, X (x),T (t) をそれぞれ x および t だけの関数として (11 ) u(x, t) = X (x)T (t) の形をしたその方程式の解を求めよう.このような解を変数分離解という. ∂2u = X (x)T (t), ∂x2 ∂2u = X (x)T (t) ∂t2 であり,これをもとの方程式に代入すれば関係式 (12 ) X (x) T (t) = 2 X (x) c T (t) が成り立つ.左辺は変数 x だけの,右辺は変数 t だけの関数であるから,式 (12 ) が任意の x,t について成り立つためにはそれらは定数でなければならない.そ §15. 波動方程式 109 の定数を −k と置けば,X (x),T (t) についての常微分方程式 (13 ) X (x) + kX = 0 (14 ) T (t) + c2 kT = 0 が導かれる.式 (11 ) に境界条件 (5 ) を考慮すれば X (0)T (t) = 0, X (l)T (t) = 0 であるから,X (x) について境界条件 (15 ) X (0) = X (l) = 0 2 が成り立つ.そのとき,定理 [6.1] により k = λ > 0 であって,境界条件 (15 ) を満たす方程式 (13 ) の解は,固有値 λ = λn = X = Xn (x) = sin nπx l nπ に属す固有関数 l (n = 1, 2, · · ·) で与えられる.それぞれの固有値 λn に対応する方程式 (14 ) の一般解は Tn (t) = Cn cos nπct nπct x (Cn ,Dn は任意定数) + Dn sin l l である.したがって,境界条件のうち (5 ) を満たす変数分離解は (16 ) un (x, t) = Xn (x)Tn (t) nπx nπct nπct Cn cos = sin + Dn sin l l l (n = 1, 2, · · ·) で与えられる. ところで,一般に un (x, t) (n = 1, 2, · · ·) が方程式 (1 ) の解であれば,それ らの有限個の 1 次結合 N an un (x, t) (an は任意定数) n=1 もその方程式の解である.さらに,N → ∞ としたときの無限級数と偏微分の 順序が交換可能,すなわち項別微分ができるものとすれば, ∞ (17 ) u(x, t) = an un (x, t) n=1 著 者 紹 介 田代 嘉宏(たしろ・よしひろ) 1948 年 東京大学理学部数学科卒業 1963 年 岡山大学教授 1972 年 岡山大学教養部部長 1977 年 広島大学教授 現 在 岡山大学名誉教授 広島大学名誉教授 理学博士 応用数学要論シリーズ 1 c 田代嘉宏 2004 ラプラス変換とフーリエ解析要論(第 2 版) 1977 年 3 月 15 日 第 1 版第 1 刷発行 2004 年 2 月 27 日 第 1 版第32 刷発行 2004 年 5 月 31 日 第 2 版第 1 刷発行 著 【本書の無断転載を禁ず】 者 田代嘉宏 発 行 者 森北 肇 発 行 所 森北出版株式会社 東京都千代田区富士見 1-4-11(〒102-0071) 電話 03-3265-8341 / FAX 03-3264-8709 http://www.morikita.co.jp/ 日本書籍出版協会・自然科学書協会・工学書協会 会員 < (株) 日本著作出版権管理システム委託出版物> 落丁・乱丁本はお取り替え致します 印刷/モリモト印刷・製本/協栄製本 TEX 組版処理/ページ・エンタープライゼズ(株) http://www.PAGE.co.jp/ Printed in Japan / ISBN4-627-02612-9
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