ACS樹脂(難燃)の成形加工上の注意 はじめに A C S 樹 脂 は 、優 れ た 耐 光 (候 )性 、耐 埃 付 着 性 を 有 す る ユ ニ ー ク な 難 燃 樹 脂であります。 A C S 樹 脂 は 、他 の 難 燃 樹 脂 と 同 様 に ハ ロ ゲ ン 系 化 合 物 を 含 ん で い ま す の で 、成 形 条 件 の 設 定 や 金 型 の 保 守 管 理 な ど 、適 切 に 対 応 し て 頂 く 事 に よ り 、 トラブルを未然に防ぐ事ができます。 成形上のポイントは、 ①適切な金型設計 ②適切な成形条件の設定(熱、滞留による劣化を未然に防ぐ事) ③金型の保守管理 の 3 点を抑えて頂く事です。 A C S 樹 脂 の 優 れ た 特 性 を 、十 分 に 活 か し て 頂 く 為 に 、射 出 成 形 と 金 型 設 計 に お け る 留 意 点 を ま と め ま し た の で 、ご 参 照 頂 け ま す 様 お 願 い 申 し 上 げ ます。 2001 年 12 月作成 1/7 1.射出成形機の選択 A C S 樹 脂 は 、通 常 の イ ン ラ イ ン ス ク リ ュ ー タ イ プ の 射 出 成 形 機 で 成 形 で きます。 そ の 中 で も 特 に 、① 成 形 機 の 大 き さ ② ノ ズ ル ③ ス ク リ ュ ー デ ザ イ ン 等 を選択頂く事で、より広い成形条件を得る事が可能となります。 以下に、その概要を説明致します。 ①成形機の大きさ a)型 締 め 力 型 締 め 力 は 、 金 型 内 圧 を 3 0 ∼ 4 0 MPa( 3 0 0 ∼ 4 0 0 kgf/cm 2 ) と して計算します。 型 締 め 力 = 金 型 内 圧 ×成 形 品 の 投 影 面 積 b)シ リ ン ダ ー の 容 量 シリンダー容量は、成形品の容積に合わせて選択します。 成形品の容積が最大計量容積に対して60∼80%程度になる様なシ リンダー容量が最適です。 50%以下となる様な大きなシリンダーでは、滞留時間が長くなり好 ましくありません。 ②ノズル 標準ノズル(オープンノズル、フリーフロータイプ)が適しています。 バルブノズル、二一ドルノズル等、構造の複雑なタイプは、ACS樹脂 が滞留し易く、好ましくありません。 ま た 、ノ ズ ル 径 は 汎 用 A B S 樹 脂 、ポ リ ス チ レ ン の 1 .5 倍 程 度 、ノ ズ ル 長さはできる限り短いものをお勧めします。 径が小さいノズル、ロングノズルを使用しますと、樹脂の剪断発熱量が 大きくなる為、成形条件が狭くなる可能性があります。 さらに、ノズルの温度コントロールは独立とし、確実に制御できるもの を選択します。 ③スクリューデザイン スクリューは、標準タイプをお勧めします。 (L/Dは20以下 圧縮比は2∼3) 極端に溝が浅いタイプや急圧縮されるタイプのスクリューは、ACS樹 脂可塑化時の剪断発熱量が大きくなる為、好ましくありません。 また、スクリュー先端の逆流防止リングは通常は問題ありませんが、構 造が複雑なタイプは、ACS樹脂が滞留する可能性がありますので不適 切です。 ④その他 シリンダーの温度制御を確実にし、また成形休止や終了時の冷却効率を 高める為、シリンダー冷却用ブロアーの設置が有効です。 また、シリンダーを保温材で覆っている場合は、蓋を開放し(可能なら 取 り 外 す )、 シ リ ン ダ ー の 冷 却 効 率 を 高 め る 様 、 ご 配 慮 願 い し ま す 。 2001 年 12 月作成 2/7 2.金型の設計 ①金型鋼材の選定 金型鋼材の選定は、保守管理方法や成形品形状、ショット数等を考慮し て行います。 金型の保守管理が適切に行われていれば、通常のプリハードン鋼で成形 可能です。 しかし、金型形状が複雑な場合は、S55C系の鋼材では金型の保守管 理が煩雑になりますので、好ましくありません。 特に、成形が長期に渡る、ショット数が多い、形状が複雑である等の場 合は、耐食鋼の使用をお勧めします。 また場合により、メッキ処理も有効です。 ②金型内のガス抜き ACS樹脂用の金型は、金型内のガス抜けを良くする事が必要です。 キャビティ内のガスは、金型のパーティングラインやエジェクタピンの 間隙から、外部へ排除されます。 このガスが、キャビティ内に閉じ込められますと、断熱圧縮されて焼け を生じますので、ウェルド部、流動末端部等、ガス溜まり、ガスの巻き 込 み が 発 生 す る 部 分 は 、必 ず ガ ス の 逃 げ 道 を 用 意 し な け れ ば な り ま せ ん 。 以下に、一般的なガス抜きの例を記載致します。 a)成 形 品 外 周 の パ ー テ ィ ン グ 部 成 形 品 外 周 の パ ー テ ィ ン グ 面 に は 、ガ ス 道( 幅 1 0 mm、深 さ 1 ∼ 3 mm) を設けます。 特 に ウ ェ ル ド 、 ガ ス の 巻 き 込 み が 発 生 す る 場 所 で は 、 0 .0 2 mm 程 度 のクリアランスを設け、その先をガス道で外部に開放致します。 ま た 、パ ー テ ィ ン グ 面 の 密 着 部 を 成 形 品 外 周( 2 0 ∼ 4 0 mm 程 度 )の み と し 、 さ ら に そ の 外 周 は 、 全 て 0 .0 2 mm 程 度 の ク リ ア ラ ン ス を 設 ける方法も有効です。 b)ピ ン リブ、ボス、成形品内側でのウェルド部等、ガス溜まりが発生し易い 場所には、ガスベント用ピン、突き出しピンを設け、ガスを外部へ排 除します。 C)ラ ン ナ ー 大型の成形品やランナーが長い時等は、ランナーにもガス抜きが必要 となります。 通 常 は 、ラ ン ナ ー の 先 端 部 や 流 動 の 変 更 部 に 設 け た 溜 ま り の 先 端 部 で 、 ガスがパーティングラインから外部へ開放される様、ガスペント用の 隙 間 ( 0 .0 2 mm 程 度 ) を 設 け ま す 。 d)そ の 他 キャビティ内に発生したガスは、できるだけ成形品の外側へ押し出さ れる様、ゲート配置や成形品の肉厚バランスを設計します。 成形品中央部に極端なガスの巻き込みが発生しますと、突き出しピン のみではガスの排出が追いつかず、成形条件に制約を受ける事があり ます。 2001 年 12 月作成 3/7 ③スプルー、ランナー、ゲート スプルー、ランナー、ゲートは、汎用ABS樹脂用と比較し、全般的に 径を大きく設計する必要があります。 これらの断面積が小さすぎる場合は、ヤケやシルバーストリークを発生 する事があります。 a)ス プ ル ー ス プ ル ー の 径 は 、 汎 用 A B S 樹 脂 用 の 1 .3 ∼ 1 .5 倍 を 目 安 と し て 設 計します。 また、スプルーの途中に段差を付ける、急激に径が小さくなる様な設 計は、好ましくありません。 さらに、ノズルタッチ部の径は、ノズル径より大きくします。 さらに、ランナー側には、充分な溜まりが必要です。 b)ラ ン ナ ー ランナー形状は、通常、丸形かもしくは台形が使用されています。 基本的には、流動抵抗が小さくなる様な形状(できれば丸形が良い) に設計します。 ラ ン ナ ー の 径 は 、 汎 用 A B S 樹 脂 の 1 .2 ∼ 1 .5 倍 を 目 安 に 設 計 し ま す。 また、ランナー内での圧力損失、剪断発熱を極力抑える為、ランナー 長はできるだけ短くなる様、設計します。 C)ゲ ー ト ACS樹脂は、ダイレクトゲート、ピンゲート、サイドゲート、トン ネルゲートで成形しております。 ゲ ー ト 径 は 、 汎 用 A B S 樹 脂 の 1 .3 ∼ 1 .8 倍 を 目 安 に 設 計 し ま す 。 各ゲートにおける形状のポイントを以下に記述します。 ●ダイレクトゲート、ピンゲートは、成形品裏側に必ず溜まりを設 けます。 ●サイドゲートは、ゲートと成形品をオーバーラップさせます。 ●トンネルゲートは、成形品側に捨てピンを立て、これにゲートを おとします。 ④コーナーR ランナー、成形品のコーナーRは、大きくとります。 成 形 品 の 強 度 と 成 形 性 に 大 き く 影 響 し ま す の で 、必 ず ご 配 慮 頂 け ま す 様 、 お願い致します。 リブ、ボス根元にコーナーRをつける事で、ヒケが懸念される場合は、 予め部分的に薄肉化します。 ⑤成形収縮率 成 形 収 縮 率 は 0 .4 ∼ 0 .7 % を 目 安 と し て 金 型 を 設 計 し ま す 。 2001 年 12 月作成 4/7 3.成形条件 ①予備乾燥 ACS樹脂は、ABS樹脂と同様の吸湿性がありますので、予備乾燥が 必要です。 乾燥は、以下の条件が適当です。 ●乾燥温度:70∼80℃ ●所要時間:3∼4時間 乾燥温度が60℃以下では乾燥不足、85℃以上ではブロッキングのお それがあります。 ②熱安定性について ACS樹脂は他の難燃樹脂と同様に、高温度で長時間滞留させると熱分 解します。 熱による劣化を未然に防止する為、温度条件と滞留時間には十分ご注意 願います。 樹脂温度が230℃以上になりますと、短時間で分解するおそれがあり ますので、特にご注意願います 通常は、以下の温度条件で成形しております。 表 ACS樹脂の成形温度と対流可能時間の関係 温度条件(℃) シリンダー温度 *1 *2 *3 *1 樹 脂 温 度 安全と思われる *2 *3 滞留時間(分) 170 185∼205 30 180 195∼215 20 190 200∼220 15 200 210∼225 10 シリンダー温度:シリンダーの設定温度 樹脂温度:ノズルからパージした樹脂の温度 滞留時間:成形を休止している時間 シリンダー温度と樹脂温度との関係は、成形機の大きさ、タイプ、成形 条件によって異なりますので、ご確認をお願いします。 上記の滞留時間以上、成形を休止する場合には、ヒーターを切る、シリ ンダー内の樹脂を非難燃性樹脂に置換する等、所定の処置をお願いしま す。 また、上記の温度、滞留時間内においても、ACS樹脂が黄変する場合 がありますので、成形再開時には2∼3ショットのパージをして、滞留 した樹脂を予め置換して下さい。 2001 年 12 月作成 5/7 ③成形条件の設定 適正な成形条件は、成形機種、金型構造、成形品形状によって変わりま すので、下表の様な考え方で条件設定を行って下さい。 表 ACS樹脂の成形条件設定について 項 目 シリンダー温度 設 定 方 向 170∼200℃ 成形機の容量、樹脂温度を配慮して決定し ます。 射出圧力 中圧 射出速度 低∼中速 スクリュー回転数 低∼中回転 スクリュー背圧 低圧(通常 0 .5 ∼ 1 MPa) 成形サイクル 充分冷却が行われ、かつ滞留時間が永くな らない様に配慮します。 金型温度 40∼50℃ 金 型 温 度 が 高 い 時 の 防 錆 処 理( 成 形 終 了 時 ) は、金型が冷えた事を確認して行います。 ④シリンダー内の樹脂置換、並びに洗浄 a)A C S 樹 脂 投 入 時 ACS樹脂の投入は、シリンダーの実温度が適正な温度になっている 事を確認した後に行って下さい。 他樹脂をACS樹脂の成形温度域より高い温度で成形した後は、AC S樹脂を投入する前に、非難燃性のABS樹脂やAS樹脂で予めシリ ンダー内を置換後、適正な温度に設定して下さい。 b)成 形 終 了 時 成形終了時や長時間休止する場合には、シリンダー内を非難燃樹脂に 置換して下さい。 置換は、ACS樹脂の成形温度範囲内で行う様ご注意願います。 C)シ リ ン ダ ー 内 の 洗 浄 成形品に異物の混入が頻繁に見られる時には、市販の洗浄材でシリン ダー内を洗浄して下さい。 シリンダー内の洗浄は、ACS樹脂の成形温度範囲内で行います。 洗浄材としては、以下の物をお勧めします。 ● ア サ ク リ ン / 旭 化 成 ケ ミ カ ル ズ (株 ) 2001 年 12 月作成 6/7 ⑤金型の洗浄剤、防錆剤 成形終了時には、金型の洗浄並びに防錆処理を行います。 防錆処理が適切に行われないと、金型が錆びる可能性があります。 以下に、通常使用されております洗浄剤、防錆剤の一例を記載致します が 、ご 使 用 の 場 合 に は 、各 メ ー カ ー の 使 用 上 の 注 意 事 項 を 充 分 確 認 の 上 、 ご使用下さい。 a)金 型 の 洗 浄 剤 一般に金型の洗浄剤としては、以下の溶剤が使用されています。 ●エステル類 ●イソプロピルアルコール ●ヘキサン/アルコール これらの洗浄剤は、金型温度を30℃以下にして使用します。 b)防 錆 剤 市販されている防錆剤の例としては、以下の様な物があります。 ●タフガード 弱浸透性 東洋化学会 スプレータイプ ● ス ミ コ ー T F P 薄 膜 形 成 性 住 鉱 潤 滑 剤 (株 ) ス プ レ ー タ イ プ ●カタガード 弱浸透性 ソマール スプレータイプ ●キレスガード 気化性 日本化学産業 スプレータイプ なお、金型温度か高い時は、充分冷却した後、これらの防錆剤を吹き つけます。 金型が熱い状態で吹きつけた場合は、防錆効果が得られません。 また、防錆剤を吹き付けた後に、非難燃性樹脂で数ショット成形しま すと、防錆剤が金型の隙間に良く浸透します。 成形再開始時には、上記の防錆剤を確実に除去して下さい。 以上 2001 年 12 月作成 7/7
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