赤外域における分光反射特性を用いた物体検出の基礎検討 - 中央大学

赤外域における分光反射特性を用いた物体検出の基礎検討
鈴木 裕史
古谷 貴紀
梅田 和昇
中央大学理工学部 〒112-8551 東京都文京区春日 1-13-27
E-mail: [email protected], [email protected]
あらまし 本研究では,赤外領域における分光反射特性を利用して物体を検出する手法の提案を行っている.提
案手法では,道路標識の反射率が赤外領域で他の物体に比べ比較的高いことを利用している.アクティブに赤外光
を照射し,赤外カメラを用いて,太陽光の影響の小さい 1150nm,1400nm の波長における画像を撮影し,2 波長間
の反射強度を用いて標識を検出する手法を提案している.
キーワード 赤外光,分光反射特性,再帰性反射,太陽光の照射強度
1. 序 論
近年,自動車の周囲を認識するセンサの搭載が本格
化しつつあり,数多くの研究開発が行われている.そ
の一つに,色情報や形状情報を組み合わせることによ
り 道 路 標 識 を 検 出 す る 研 究 が あ る [1].こ れ ら の 手 法 で
の検出精度は昼夜の違いなどの影響を受ける.本研究
は,これらの影響を受けずに物体の検出を行うことを
考える.そこで,個々の物体の持つ分光反射特性の違
Fig.1
いに着目する.
再 帰 性 反 射 材 の 基 本 原 理 [2]
分光反射特性は,物体の各波長における反射率を表
し,物体ごとに固有の値を持つ.本研究では,基礎段
階として,分光器を用いて対象物体が持つ可視領域か
ら近赤外領域までの分光反射特性の特徴を調べ,その
特徴から対象物体を検出するための手法を提案する.
3. 計 測 結 果
分光器により物体ごとの分光反射特性を計測した結
果 を Fig.2, Fig.3 に 示 す .
Fig.2 は 再 帰 性 反 射 材 を 用 い た 標 識 の 分 光 反 射 特 性
を 示 し て い る .具 体 的 に は ,“ 横 断 禁 止 ”の 白 ,赤 ,青
2. 分 光 反 射 特 性 の 計 測 実 験
2.1.計 測 方 法
分光器を用いて,道路付近の物体の各波長における
の 箇 所 を 計 測 し た .一 方 ,Fig.3 は 再 帰 性 反 射 材 を 用 い
ていない標識および道路周辺の分光反射特性を示して
い る . 各 波 形 は 100 回 の 計 測 デ ー タ の 平 均 を と っ た も
反 射 率 を 計 測 す る .分 光 器 に は B&W TEK 社 製 の i-Spec
の で あ る . 950nm 付 近 で 波 形 が 不 連 続 に な っ て い る の
を 用 い た .こ の 分 光 器 は 2 種 類 の 素 子 を 搭 載 し て お り ,
は ,使 用 し た 分 光 器 が 950nm を 境 に 異 な る 素 子 で 計 測
波 長 380~ 950nm で CCD, 950~ 1700nm で InGaAs 素
を行っているためである.
子を用いている.
反 射 率 100% の 拡 散 反 射 板 を 用 い て , 各 波 長 に お け
600
る反射率の基準を求める.対象物体に光を照射したと
500
2.2.計 測 対 象
400
道路標識,および道路上の白線・黄線,アスファル
ト,マンホール,植物など道路周辺の物体を対象とす
る.道路標識には再帰性反射材を用いているものとそ
うでないものとがあるが,その両方について計測を行
う.再帰性反射材とは,光が入射してきた方向に反射
光 を 返 す と い う 性 質 を 持 つ も の で あ る .道 路 標 識 に は ,
反射率[%]
きの基準に対する反射強度を相対反射率として求める.
300
再帰_白
200
再帰_青
100
0
380
580
780
980
1180
1380
1580
波長[nm]
主 に Fig.1 に 示 す よ う な ガ ラ ス ビ ー ズ を 用 い た 再 帰 性
反 射 材 が 使 わ れ て い る [2].
再帰_赤
Fig.2
再帰性反射材を用いた標識の分光反射特性
200
徐行_白
白線
マンホール
180
徐行_赤
黄線
葉
(1)再 帰 性 反 射 材 を 用 い た 標 識 の 検 出 手 法
徐行_青
アスファルト
1150nm, 1400nm の 画 像 で 極 端 に 明 る い 領 域 を , 再
160
帰性反射材を用いた標識が存在する領域とみなす.な
反射率[%]
140
お,この処理は一方の波長のみでも可能である.
120
(2)再 帰 性 反 射 で な い 標 識 と 道 路 周 辺 の 物 体 の 区 別
100
80
1150nm の 画 像 中 で 明 る い 領 域 に 標 識 お よ び 植 物 が
60
存在していると考えられる.山本らは近赤外照明にお
40
け る 2 波 長 の 比 較 か ら 肌 領 域 を 検 出 し て い る [4].こ の
20
手 法 と 同 様 に ,2 波 長 を 比 較 す る .1150nm で は 明 る く ,
0
380
580
780
980
1180
1380
1580
波長[nm]
Fig.3
標識および道路周辺物体の分光反射特性
1400nm で は 暗 い 領 域 を 植 物 ,ど ち ら の 画 像 に お い て も
明るい領域を標識とする.
以 上 の 処 理 の 流 れ を Fig.5 に 示 す .
Fig.2 と Fig.3 を 比 べ る と , 再 帰 性 反 射 材 を 用 い た 標
識の反射率が高いことがわかる.特に,赤外領域での
反 射 率 は 著 し く 高 い .ま た ,Fig.3 よ り ,近 赤 外 領 域 に
おいて,マンホールやアスファルトに比べ,標識の反
射率が高いことがわかる.植物の葉も標識と同じよう
に近赤外領域において高い反射率を示しているが,植
物 で は 1400nm 付 近 で の 反 射 率 が 大 き く 低 下 し て い る .
一 方 ,Fig.4 に 示 す 太 陽 光 の 各 波 長 に お け る 照 射 強 度 [3]
を 見 る と 1150nm 付 近 お よ び 1400nm 付 近 の 2 波 長 に お
ける照射強度は非常に小さく,これらの波長を用いれ
ば太陽光による外乱が少ないと考えられる.そこで,
標 識 と 植 物 の 葉 を 区 別 す る た め に 1150nm と 1400nm の
2 波長に注目する.この 2 波長を比較することで標識
と植物の葉を区別することが可能であると考えられる.
Fig.5
提案手法の流れ
5. 結 論
道路周辺にある物体の分光反射特性を計測し,物体
ごとの特徴を調べた.その特徴に基づき,太陽光の影
響の小さい波長の赤外光を用いて標識を検出する手法
を提案した.今後の展望として,実際にセンシングシ
ステムを構築し,本手法の有用性を実験によって検証
することが挙げられる.
Fig.4
太 陽 光 の 各 波 長 に お け る 照 射 強 度 [3]
4. 手 法 の 提 案
以上の計測結果に基づき,アクティブに赤外光を照
射し,その反射光によって標識を検出する手法を提案
する.
検 出 に は ,赤 外 光 照 射 装 置 ,波 長 1150nm と 1400nm
のバンドパスフィルタを装着した赤外カメラを用いる.
赤外光照射装置により対象方向に光を照射し,その反
射光を赤外カメラで撮影する.撮影画像から以下の手
法で標識を検出する.
参考文献
[1] 青 木 悠 他 :“ ナ ビ ゲ ー シ ョ ン デ ー タ 生 成 の た め の
道 路 方 面 標 識 の ベ ス ト シ ョ ッ ト 検 出 ”, 精 密 工 学
会 動 的 画 像 処 理 ワ ー ク シ ョ ッ プ ( DIA2007),
pp.232-237, 札 幌 , 2007.
[2] 郡 家 国 家 維 持 出 張 所 :
http://www.cgr.mlit.go.jp/tottori/koge/topic/hyousiki
/index.html
[3] Renewable Resource Data Center:
http://www.nrel.gov/rredc/
[4] 山 本 和 彦 他 :“ 近 赤 外 マ ル チ バ ン ド に 肌 検 出 手 法
の 提 案 ”, 電 気 学 会 論 文 誌 , Vol.127-C, No.4,
pp.583-590, 2007.