鳥取県農林水産部農林総合研究所林業試験場 Ⅶ 1 目 平成 21 年度業務報告 ショウロ菌感染苗木生産技術の開発 的 海岸の松くい虫被害跡地のクロマツ植栽で活着不良等による枯損が見られる。この原因の一つに、 クロマツと外生菌根菌との共生関係が不十分なことが指摘されている。鳥取大学ではこの菌根菌につ いて強感染性のショウロ菌株を選抜し、本菌を人工的に感染させたクロマツ苗木の作出に成功した。 しかし、ショウロ菌感染苗木の安定した増殖法は未確立であるため、本菌を大量の苗木に感染させる ための諸条件を明らかにし、通常の育苗に適用できる実用的な感染法を確立する。 2 材料と方法 2.1 実施期間:平成 21∼23 年度 2.2 担当者:有吉邦夫、西垣眞太郎、池本省吾 2.3 場 所:林業試験場、鳥取大学 2.4 方 法 強感染性ショウロ菌株を無菌的に感染させたクロマツ 1 年生実生苗(母樹)と発芽直後のクロマツ実 生(稚苗)を一緒に育成することで、母樹のショウロ菌を稚苗に感染させる母樹感染法を行い、稚苗 の伸長量及び菌根形成数を調べるとともに、本母樹感染法で形成された子実体の遺伝子型を調べた。 母樹は Rhz8-1 及び SadoN7 の 2 種類の菌株から菌根を形成させたものを用いた。用土は、Rhz8-1 ではバーミキュライトと滅菌バーク堆肥の混合割合を 9:1 とした貧 栄養土壌を、SadoN7 のそれは 7:3 の富栄養土壌とした。 2009 年 5 月に、35cm×50cm×15cm のプランターに母樹 1 本・ 稚苗 80 本ずつ定植し母樹区とした(図−1)。同時に、母樹の代わ りに一般のクロマツを植栽した対象区を設けた。プランターはガラ ス室内で適宜灌水し管理した。翌年 4 月に当年シュートの伸長量を 調べるとともに、全稚苗に番号を付けて掘り取り菌根数を調べた。 また、実験中に母樹区 SadoN7 に形成された子実体の SSR 多型解 図―1 母樹と稚苗の配置 析を行った。 結 3.1 10 果 8 シュート伸長量 調査結果を図−2に示した。稚苗のシュート伸長量は Rhz8-1、 SadoN7 とも母樹区が対象区を上回った(P<0.01)。また、対象 区では富栄養土壌の伸長量が貧栄養土壌を上回った(P<0.01)。 3.2 伸長量(cm) 3 6 Rhz8-1 SadoN7 4 2 0 対象区 菌根形成数 調査結果を表−1、図−3に示した。稚苗に形成された菌根 15 図−2 母樹区 稚苗のシュート伸長量 鳥取県農林水産部農林総合研究所林業試験場 平成21年度業務報告 数は Rhz8-1、SadoN7 とも母樹区が対象区を上回り(P<0.05)、Rhz8-1 では 4 倍、SadoN7 では 2 倍に増 加した。また、稚苗の生育場所別菌根数は図−3のようであり、母樹区 SadoN7 ではプランターの最も 外側に位置する稚苗の平均菌根数が 285 個であるのに対し、それより内側 の稚苗のそれは 184 個であり、両者に 表−1 稚苗に形成された菌根数 対象区 貧栄養土壌(Rhz8-1) 31.1 ± 20.2 富栄養土壌(SadoN7) 111.6 ± 78.7 (個/個体) 母樹区 128.8 ± 77.2 224.5 ± 193.0 有意な差が認められた(P<0.05)。 この実験で、母樹感染法に おける稚苗の伸長促進及び菌 根形成数の増加が確認できた が、一方で、対象区でも菌根 形成がみられた。したがって、 形成された菌根の遺伝子型を 早急に解析し、ショウロ感染 の有無を明らかにする必要が ある。 3.3 子実体の SSR 多型解 対象区 Rhz8-1 25 63 18 56 60 25 4 39 6 24 49 46 96 19 33 6 3 7 26 58 35 10 40 33 14 19 17 65 37 17 24 57 48 対象区 SadoN7 28 92 58 117 130 69 92 253 42 132 43 126 63 49 137 20 37 204 53 108 125 227 337 110 248 99 106 154 97 218 160 40 145 123 61 41 153 89 116 29 20 58 21 34 45 13 25 31 78 3 18 33 11 49 10 38 35 39 21 21 13 11 14 57 39 69 29 52 1 27 14 9 63 10 34 32 23 152 186 228 123 55 75 249 161 15 82 106 183 269 78 115 205 30 103 89 40 56 32 18 245 54 39 34 179 5 75 22 7 64 14 121 378 144 34 70 178 母樹区 Rhz8-1 118 114 215 107 50 32 109 114 63 104 154 129 75 119 84 207 118 332 59 122 283 113 66 23 96 29 297 154 136 127 232 母樹 257 54 22 116 170 216 132 161 183 216 145 385 229 77 125 93 81 164 148 31 90 115 97 17 72 143 298 77 163 197 244 46 75 95 115 母樹区 SadoN7 533 171 110 222 444 315 85 243 239 296 266 120 269 96 117 598 61 345 143 156 131 86 139 82 母樹 453 94 118 189 346 68 146 54 146 118 108 115 106 228 197 68 158 141 169 62 227 196 98 189 62 977 149 295 104 238 273 478 183 330 126 632 141 263 392 149 136 69 205 148 185 1197 161 72 107 22 28 160 80 191 25 71 78 272 69 266 299 103 268 123 617 凡例(菌根数/個体) 1 100 析 図−3 200 300 400 500以上 プランター内稚苗の生育場所別菌根形成数 ショウロ菌株同定用のマイ クロサテライトマーカー5 種類(Ros4,Ros5,Ros6,Ros9,Ros11)を用いて、SadoN7 の培養菌糸体 DNA と採取した子実体 DNA のピークパターンを比較した結果は完全に一致した(図−4)。このことか ら、採取したショウロ子実体は高い確率で SadoN7 と同一菌株であることが判明した。 図上:SadoN7 培養菌糸体 図下:サンプル子実体 図−4 採取したショウロ子実体の遺伝子型の同定 16
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