杉田 正明さん - エーザイの一般生活者向けサイト

2011 Vol. 21 No.1
1
慶
かい たい
神判に勝った解 の胸に
ぶんしん
「心」字形の文身をし、
吉慶の印とした。
「よろこぶ」を表す
勝訴を意味し、
字となる。
解 … 神判に用いる神羊の象形
文身…彫り物、入れ墨の意
Pharmacist Eye
My Stance
Hot Field
CODE PB (1) 132
2011年2月作成
From Doctor
症例を考察する チーム医療で行う脳梗塞治療 財団法人 脳血管研究所 美原記念病院
巻頭インタビュー 2010 FIFA ワールドカップ日本代表 高地トレーナー
チーム医療の現場から 診療科 へようこそ 杉田 正明さん
患者さんに寄り添う緩和医療 恩賜財団 済生会 横浜市南部病院
精神科 信州大学医学部精神医学教室
専門家として、
言うべきことは必ず 伝える。
それが、
チームの力を高めます。
昨年のFIFAワールドカップ 南アフリカ大会は
10 会場のうち 6 会場が標高1300 〜1750mという高地で行われました。
日本代表の活躍を支えた高地トレーナーの杉田さんに
トレーニングや、選手・スタッフとのコミュニケーションについてお話をうかがいました。
何を言われてもブレない信念
同じようにパフォーマンスを発揮で
きるようにする、筋肉の質的改善が
大会前には「たった 2 週間足らずの高地トレーニン
目的でした。赤血球を増やす必要は
グでは意味が無い」
「 高地対策失敗か」といった記事が
なく、低酸素の状態でも筋肉が酸素
メディアに載りました。自分たちの準備に自信と手ごた
をうまく使えるようになればいい。
えはありましたので、僕を推してくれた早川直樹トレー
この場合、滞在期間は 2 週間以内
ナーとは「何を言われてもブレないでいこう」と粛々と
でよいとされています。だからスイ
準備を続けました。ただ、完璧な準備をしても負けるこ
スでの高地トレーニング期間は 11
とだってあったわけです。だから
「高地対策が大成功!」
日で理にかなっていたと言えます。
と言われるより、
「失敗しなかった」という表現が妥当
今回、スイスへ行く前に低酸素マスクを使って身体を
から、コミュニケーションにはとても気を使いました。
よいと僕は思っています。サッカーの場合、最終的なすべ
かなと思います。
慣らすこと、コンディションチェックの血液検査、尿検査、
高地トレーニングの専門家として信用はされていたで
ての決定権は監督にあります。専門家として提案する
スポーツ科学者としてサッカーに携わるのは初めての
疲労回復のための高酸素吸入などを提案しました。低
しょうが、
「信頼」にはいたりません。自分の仕事だけで
ばかりではなく、時には監督に判断材料を渡して議論
ことでしたが、20 年間の研究生活や海外の情報から、陸
酸素マスクや、毎日の採尿など選手たちにとっては面倒
なく、ボール拾いや荷物運びなど何でもやりました。そ
もしました。チームは表立って活躍している人だけでなく、
上競技での高地トレーニングのノウハウを十分に応用で
だったはずですが、いずれも問題なくやってくれました。
のうち、自然とコーチや選手から「今日(の尿検査は)
ど
その裏で控えの選手やスタッフなどそれぞれがプロの
きるという確信はありました。マラソンとサッカーでは、
彼らは勝つために自分たちが何をすべきなのか、何が
うだった?」と声をかけられるようになりました。ネガ
仕事を全うして、それが強さとなる。
「サムライたち」
高地トレーニングの目的が違います。マラソンでは高地
プラスになるのかを判断できる力を持っています。さすが
ティブなコンディション情報は、試合前の選手にとって
を見ていてそう思いました。
でトレーニングしますがレースは平地で行われます。高
にプロフェッショナルです。高酸素吸入器の使用は強制
は知られたくない情報です。それでも結果を聞いてく
ワールドカップをきっかけに他のスポーツでもスポーツ
地の低酸素下でトレーニングすることで造血ホルモン
ではなかったのですが、みんなが使っていましたからね。
れる。やっと信用から信頼へ、信じて「用いられる」から
科学の導入が始まっています。今回のデータ
「頼られる」になったと感じました。
であるエリスロポエチン量を増加させ、赤血球を増
やし、体の組織への酸素供給力を高めるのが狙いです。
造血作用が関係するのでトレーニング期間も長く、3 週間
信用から信頼へ
監督への報告も最初は早川トレーナーを介していま
義務があると思っています。そして、スポーツ
したが、途中からは監督が直接部屋に来られることも
科学者がもっと現場で活躍できるように応援
していきたいです。
以上必要になります。しかし、今回のサッカーの狙いは
僕以外のスタッフや選手はほぼ 4 年近く一緒に活動
ありました。さすがに W 杯本番直前のコートジボワール
「高地順化」。標高の高い低圧低酸素の場所でも平地と
しています。その中へ大会の直前にポンと入りました
に負け、4 連敗という状況だったので、
「選手たちの疲
労度が高いので、明日から3日間練習量を落としてほ
しい」とは言い辛かったですね。でもこれは専門家とし
2010 FIFA ワールドカップ日本 代 表
高地トレーナー
三重大学教育学部保健体育科准教授
2
2011
No.1
杉田 正明さん
も早いうちにエビデンスとしてまとめておく
て絶対に伝えるべきこと。伝えずに次の試合で負けて
しまえば一生後悔すると思い、早川トレーナーから監督
当初はスイスキャンプのみの参加予定でしたが、
急遽、本大会にもと要請が。大学関係者のご協
力、また早川トレーナーの「腹をくくって一緒に
行きましょう 」という一言のおかげで、最後まで
帯同することができました。本当に感謝しています。
に伝えてもらいました。自分で直接伝えられなくても、
チームプレイで最終的に監督に伝えられればそれで
カメルーン戦のユニフォーム。帰国後、
選手から届いたサプライズプレゼント。
2011
No.1
3
3
∼ 症 例 を考 察 する ∼
チーム医療で行う脳梗塞治療
一 血栓溶解療法とワルファリン療法における薬剤師の役割 一
阿久澤 政美
財団法人 脳血管研究所 美原記念病院 薬剤科長 20 時 30 分
21 時 40 分
入浴時突然右半身麻痺で転倒。救急搬送。
救急外来到着。
発症時間が明確な脳卒中を強く疑われた症例のため、
rt-PA シフトで対応
医師
救急隊および家族より発症時の詳細な情報収集。
NIH Stroke Scale 評価実施。胸部痛などの大動
脈解離の症状が無いことを確認。
看護師
点滴ルートの確保。各種モニター準備。
臨床検査技師
症 例
50 歳代後半。 男性。
近医で高血圧・糖尿病について内服治療中。
経 過( 入 院 )
脳梗塞超急性期治療
(血栓溶解療法:rt-PA 療法)
はじめに
1
血栓溶解療法(rt-PA 療法)
における
各職種の役割
①服用薬剤の確認
②抗血小板薬・抗凝固薬を服用していないことを
医師に報告
お薬手帳 より
アムロジピン錠 5mg 1 日 1 回朝食後
バルサルタン錠 40mg 1 日 1 回朝食後
グリメピリド錠 3mg 1 日 1 回朝食前
病院到着時所見:右片麻痺、血圧 175/90、脈拍 90 回 / 分、
Japan Coma Scale 3、NIH Stroke Scale 18 点、心房細動あり。
● 薬剤師は、rt-PA 療法時には、適格基準・除外基準の再確
認、脳梗塞評価の実施の有無、投与前確認事項の最終
当院では発症時間が明確な脳卒中患者が救急搬送された
脳梗塞急性期治療は、発症から治療開始までの時間をいかに短縮するかが Key となっています。そ
チェック、検査データの再確認、投与量の計算、注射薬
場合には、医師 ・ 看護師 ・ 薬剤師 ・ 臨床検査技師 ・ 放射線
ミキシング、投与後の注意点の確認など治療コーディ
のなかでも脳梗塞発症から 3 時間以内の超急性期では、血栓溶解療法(rt-PA 療法)を実施できるか
技師からなる rt-PA シフトをしき、各職種が専門性を発揮し
ネータ業務を担っています。
どうかにより予後が大きく変わるため、救急搬送の現場では 1 分 1 秒を争います。この血栓溶解療法
救急医療に対応しています。
は、禁忌・慎重投与事項が非常に多く業務内容が煩雑であるため、医師・看護師のみならず薬剤師・
当院の救急搬送時 rt-PA シフトにおけるコメディカルの
臨床検査技師・放射線技師から編制された習熟したチームで行うべき治療といえます。
役割を次に説明します。
次に脳梗塞再発予防のワルファリン療法は、脳卒中治療ガイドラインでは、心房細動を伴う脳梗塞
の再発予防に第一選択として推奨されています。しかし、ワルファリン療法では、血液検査(PT-INR)
2
「お薬手帳」の重要性
● 臨床検査技師は、救急搬送直後に採血を行い、迅速に血液
血栓溶解療法では、現在服用している薬剤を調査するこ
の測定を行い、INR の値に応じて投与量の調節が必要です。特に導入時には、ワルファリンの投与量
検査を行います。また、必要に応じて搬送直後に心電図検
とが非常に重要です。なぜならば、血栓溶解療法では、ワル
と INR の関係は、患者ごと、さらには、同一の患者であってもその日の状態により異なるため、より
査を実施します。
ファリンを服用している場合には、直ちに INR を測定し、
頻回に INR を測定し、ワルファリン投与量の微量調節が必要です。また、ワルファリンは、納豆など
の食事との相互作用があり、在宅に関しての患者教育が非常に重要となっています。そのため、ワル
INR が 1.7 以上の場合には、投与禁忌となってしまい治療を
● 放射線技師は、脳梗塞超急性期の MRI 撮影について、
行うことができません。また、抗血小板薬を服用している場
ファリン療法は、医師のみならず薬剤師 ・ 臨床検査技師 ・ 看護師 ・ 管理栄養士などのさまざまな職
撮影時間を短縮し、より良い画像を撮影できる MRI シー
合には、慎重投与にあたるため服用の確認が必要です。
種で編制したチームで実施すべき治療です。
ケンスの検討を行っています。また、脳卒中の各疾患に合
薬歴の確認は、迅速かつ正確な情報を収集する必要があ
今回は、脳梗塞治療で非常に重要な 2 つの治療法である血栓溶解療法とワルファリン療法につい
わせた適切な撮影方法を提供しています。
ります。そのため、
「お薬手帳」が非常に重要な情報源となり
てチームで実施するためのポイントを、症例を通じて考えていきたいと思います。
4
薬剤師
血糖値を簡易血糖測定器で簡易測定(血糖値
145mg/dL)。低 血 糖・高 血 糖を否 定。採 血。
血算、生化学、血糖値、凝固を直ちに測定開始。
心電図測定(心房細動あり)。
2011
No.1
ます。
「お薬手帳」を持参し、提示することで正確な情報を
2011
No.1
5
把握し、治療までの時間を短縮することができるため、血栓
溶解療法では非常に重要なアイテムです。
3
家族をチームに加える必要性
「お薬手帳」を配布するときの指導として、救急時にはいつ
救急搬送時の患者は、意識レベルが低下しているケース
でも医療機関に提示できるよう説明しておくことが求めら
が多いため、家族から発症時の状況・アレルギー歴・病歴・
れます。
薬歴などの詳細な情報を収集する必要があります。その
また、
「お薬手帳」に記載する薬剤についても、同じ薬剤
ため、当院では、患者家族をチームの一員と考え、治療を
が繰り返し処方されていても必ず記載する必要があります。
行っています。
がありますが、投与直前まで、症状がないことの確認が
重要です。
これは、救急搬送時に薬剤師が、お薬手帳を確認するときは
処方日や調剤日についても確認し、現在、実際に服用してい
るかどうかについて判断しています。
もし仮に、患者が「前と同じお薬だからお薬手帳に記載は
いらない」といったことから、お薬手帳に最新情報の記載し
4
投与直前の確認
投与直前には、次の事項を再確認することが重要です。
ていないケースで救急搬送された場合に、薬剤師がお薬手
帳の調剤日を確認したときには「本当に現在服用している
のか?」と判断に迷います。そのようなことが無いようにす
閉塞血管の自然開通により症状が急速に改善することが
るためにも、
「お薬手帳」には同じ処方薬であっても最新の
あります。rt-PA 療法の適応外となります。
情報を記載する必要があり、また、患者にも最新の情報を記
載する必要性を説明し、納得させることが重要です。
6
①症状の急速な改善がないこと
2011
No.1
②大動脈解離の症状がないこと
一般的に発症時に胸部痛などの大動脈解離を疑う所見
2011
No.1
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3
∼ 症 例を考 察 する ∼
チーム医療で行う脳梗塞治療
入院 4 日目
入院 6 日目(ワルファリン導入 3 日目)
入院 9 日目(ワルファリン導入 6 日目)
入院 13日目(ワルファリン導入 10日目)
退院 ワルファリン療法※導入。
ワルファリン導入前 INR:1.0
INR:1.5(目標値 2 ∼ 3) INR:2.2
回復期リハビリテーション病棟に転棟。
INR:2.4
INR:2.6(目標値:2.0 ∼ 3.0)
入院 2 日目
右上下肢麻痺、顔面麻痺、
Japan Coma Scale 3、
NIH Stroke Scale 6 点。
rt-PA 療法から 24 時間後の頭部 CT
で出血性所見が認められなかったた
めヘパリン抗凝固療法開始
ワルファリン新規導入患者チェックノート
使用。
ワルファリン 2mg 1 日 1 回 夕食後 2 日
分処方。
医師
INR を確認し、チェックノート
に記載し、確認サインする。
ワルファリン 3mg 1 日 1 回
夕食後 3 日分処方。
医師
医師
INR を確認し、チェックノー
トに記載し、確認サインする。
ワルファリン 3mg 1 日 1
回 夕食後 4 日分処方。
INR から目標値で安定した
ことを確認し、ワルファリン
3mg を継続投与。
2 ∼ 4 週ごとに INR オーダー
※ワルファリンの用法について
当院では、INR の結果を確認して当日から
ワルファリンの用量を調節しています。そのため、
看護師
ワルファリンの用法は、朝食後ではなく夕食後
チェックノートの INR、医師
サインを確認。
看護師
薬剤師
チェックノートの INR、医師
サインを確認。
退院時処方:
アムロジピン錠 5mg 1 日 1 回 朝食後
バルサルタン錠 40mg 1 日 1 回 朝食後
グリメピリド錠 3mg 1 日 1 回 朝食前
ワルファリン錠 3mg 1 日 1 回 夕食後
INRが安定したことを確認し、
調剤。
としています。
経 過( 入 院 後 )
医師
脳梗塞急性期治療
(抗凝固療法:ワルファリン療法)
5
2 日後(入 院 6 日目)、5 日
後(入院 9 日目)に INR オー
ダー。
ワルファリン新規導入
患者チェックノートとは
薬剤師
看 護 師にチェックノートの
INR および医師サイン記載
の有無を確認し、調剤
薬剤師
看 護 師にチェックノートの
INR および医師サイン記載
の有無を確認し、調剤。
③患者名 ・ 導入日 ・1 回目検査予定日 ・2 回目検査
ません。また、INR が 3.0 以上になると脳出血などの頭蓋内出
※手帳の問題点
予定日の情報を検査科に連絡する。
血のリスクが大幅に上昇してしまいます。そのため、虚血性脳
現在、医療機関から発行される患者用手帳には、お薬手帳、
ワルファリン新規導入患者において薬剤の適正使用に関
④ワ ル ファリン 調 剤 後 に チ ェック ノ ートを 添 付し
卒中の予防には、INR2.0 ~ 3.0 を目標としています。また、高齢
糖尿病手帳、血圧手帳、抗凝血薬療法手帳などさまざまな手
して、他職種からのアプローチを目的としています。また、
看護師に渡す。
者では、出血のリスクが高いため、
INR1.6 ~ 2.6 を目標にします。
帳があります。そのため、患者は何冊もの手帳を持たなけれ
次のように各職種の役割を明確にしています。
⑤各 検 査 日 に チ ェッ ク ノ ート の 医 師 確 認 サ イ ン の
有無を看護師に確認する。
( 医師確認サインがない
■ 医師の役割:
①ワルファリン新規導入時は、採血オーダーを 2 回分
20
場合には、調剤を行わない。
)
■ 臨床検査技師の役割:
①ワルファリン新規導入患者に対して、INR3.0 以上の
ましい。
場合には、主治医・看護師に報告する。
②ワルファリンコントロール中の検査結果をチェック
ノートに記載し、確認サインをする。
■ 看護師の役割:
「誰が ・ いつ ・ 何を行っているか」という情報を共有する
ことができます。そのため、全ての患者に標準的な治療が行
②検査結果(INR)が出たら、検査値を医師に確認し、
うことができます。また、各職種内でも統一された手順とな
チェックノートへの記載を依頼する。
るためチェック漏れなどがなくなり、安全性が向上します。
①ワルファリン新規導入時、チェックノートの導入日・
採血予定日を記載し、薬剤師確認欄にサインする。
8
や検査データなどを一元化した手帳が必要と思われます。
頭蓋内出血
<指導内容>
10
退院後は、患者または家族の方が、食事やお薬の注意事項
を判断しなければなりません。そのため、入院中に患者およ
び家族に対して指導した事項の再確認が非常に重要です。
1
1.0
2.0
3.0
4.0
INR
5.0
6.0
7.0
8.0
心房細動患者の管理に関する ACC/AHA/AESC ガイドライン
対象:心房細動患者における抗血栓療法を検討した無作為化試験 .
抗凝固療法の強度と脳血栓 . 頭蓋内出血との関連を検討 .
Fuster V, et al : Circulation 2001; 104 : 2118 -2150
③全ての記載が終了後、紙カルテに保管する。
■ 薬剤師の役割:
ります。とりわけ薬薬連携においては、手帳を統合し、薬歴
5
こ の よ う に 各 ス タ ッ フ の 役 割 を 明 確 化 す る こ と で、
①原則としてこのノートは与薬台帳
(病棟用)
に管理する。
に記載されているため情報が一元化されていない問題があ
虚血性脳卒中
15
オッズ比
入力する。導入前検査については実施することが望
ばならないケースがあります。さまざまな情報が別々の手帳
図 非弁膜症性心房細動のワルファリンコントロール
6
ワルファリンコントロールの
目標となる INR
<再確認事項>
■ 薬剤の必要性( 作用)
と副作用
①血液を固まりにくくすることで、脳梗塞を予防して
いること。飲み忘れることで、脳梗塞再発のリスク
が高まってしまうこと。
②あざができやすくなったり、鼻をかんだときに鼻血
7
退院時の指導
が出やすくなったりすることがあること。
■ 食事およびサプリメントについて
②薬剤部保管のワルファリン新規導入患者日程表に、
ワルファリンは投与量を上げることで INR が延長し、虚血性
患者名 ・ 導入日 ・1 回目検査予定日 ・2 回目検査
脳卒中を予防することができます。しかし、INR が 2.0 以上とな
抗凝血薬療法手帳( ワルファリン手帳)
に検査データを記
納豆やセントジョーンズワートなど一部のサプリメント
予定日・担当医師名を記載する。
ると虚血性脳卒中の予防効果がそれ以上よくなるわけであり
載し交付する。
を摂取してはいけないこと。
2011
No.1
2011
No.1
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3
∼ 症 例を考 察 する ∼
チーム医療で行う脳梗塞治療
【 野菜の摂取量とビタミン K 】
■ 退院時処方の調剤方法について
ほうれん草などの緑黄色野菜にはビタミン K が多く含
脳卒中患者では、
「薬剤の取り出し易さ」
を確認すること
まれているため注意が必要です。しかし、栄養学的に野
が重要です。麻痺などの後遺症から患者ごとに PTP 包装
菜の摂取量を控えるのは好ましくありません。
と分包では「薬剤の取り出し易さ」が異なっています。
そのため、患者指導には、
そのため、どちらがよい調剤方法かを確認します。
①通常の食事で野菜の制限はなく、ビタミン K 含有量
② 一 度 に 大 量 摂 取 を 控 えることを 説 明 する 必 要 が
あります。
イ 古くから暖地で栽培されてきました。夏の
ンドネシア原産でミカン科の常緑低木です。
外来におけるポイント
については細かく気にしないこと。
※Time in Therapeutic Range(TTR)
初めに香りの良い白い花が咲き、冬に熟
Time in Therapeutic Range( TTR )とは、INR が至適範囲
過去にあった事例では、
「緑黄色野菜にはビタミン K が
に入っている時間( 期間 )をあらわしたもので、Rosendaal
多く含むものがあるので注意してください。
」と指導した
らにより提唱されたワルファリンコントロールの指標です。
ところ、全く緑黄色野菜を食べなくなってしまったケー
スがありました。特に注意するのは、大量摂取について
であり、日常で摂取する量では問題ないことを指導す
ることです。また、管理栄養士と共同で指導する必要が
あるため、指導内容を事前に決めておくことが重要です。
■ 飲み忘れ時の対応について
当院のワルファリンの処方は 1日 1回夕食後とのルール
があるため、飲み忘れた場合には寝る前までに服用す
ることを説明しています。
■ 他の医療機関受診時の注意点について
して橙色になります。木に残っている実
はいつまでも落ちないで、翌年の夏
横軸に診療日、縦軸に PT-INR をとり、各診療日の PT-INR を
には緑色を帯びます。
「代々」に音が
プロットし、各診療日の PT-INR を線で結び、目標 PT-INR 範囲
通じることから、末代まで繁栄を
(図では 2.0-3.0)に何%の期間入っているかを算出します。
願う縁起物として、お正月の注連
ワルファリン療法継続のための薬薬連携のポイント
飾りや鏡餅にダイダイを用いて
●保険調剤薬局の ワルファリン療法への積極的な関与
きました。
外来患者の場合では、保険調剤薬局がワルファリン療法へ
ダイダイの皮を乾燥したもの
積極的に関与することが求められています。ワルファリン療
法では、INR により投与量が決まるため、保険調剤薬局にお
を橙皮( とうひ)といい、リモネ
りても、INR を確認しなければなりません。INR が治療域に
ンを主とする精油、苦味質、ヘス
あるにもかかわらず、ワルファリンが増減された場合など
ペリジン、ビタミンA、B、Cな
医療機関に受診する場合は、必ずワルファリンを服用
は、疑義照会を行う必要があります。
していることを伝えるように指導します。現在、抜歯な
現在は、INR の確認手段は、患者に配布された検査結果用
どを含み、食欲を増進する作用が
紙またはワルファリン手帳となっています。情報の一元的
あります。このため、芳香性健胃剤
ど止血が容易なケースでは、抗血小板薬やワルファリン
を中止せず、服用継続下で実施することが推奨されて
います。
な管理を行うためには、お薬手帳へ INR の記載が必要と思
として消化不良などの治療に用いら
われます。
れるほか、苦味チンキの原料の一つと
されます。漢方では未熟果実の小さいも
のを枳実(きじつ)、やや大きいものを枳殻
おわりに
(きこく)
と称します。健胃剤として消化不良、
チーム医療で行う脳
脳
胃のもたれ、胃痛、胸痛などの治療に用いられます。
塞治療として、血栓溶解療法とワルファリン療法について症例を通じて紹介しました。
塞超急性期医療で非常に重要な治療である血栓溶解療法は、医師・看護師のみならず薬剤師・臨床検査技師・
放射線技師から編制された習熟したチームで行うべき治療です。その中で薬剤師の役割は、適格基準・除外基準
の再確認、脳
塞評価の実施の有無、投与前確認事項の最終チェック、検査データの再確認、投与量の計算、注
射薬ミキシング、投与後の注意点の確認など非常に大きく、薬剤師としての専門性を発揮する必要があります。
また、ワルファリン療法においても、患者に適したテーラーメイドの医療を提供するために、医師・看護師・
薬剤師・臨床検査技師・管理栄養士などのさまざまな職種で編制したチームで実施すべき治療と考えられます。
チーム医療を行うには、各スタッフの役割を明確にし、お互いの業務を理解し、その専門性を十分に発揮して
いくことが非常に重要です。
ダイダイ
科 名:ミカン科
生 薬 名:トウヒ(橙皮)
原 産:インド
用 途: 暖地で栽培される常緑低木。果皮を乾
燥したものが橙皮で、芳香性健胃に、ま
た香料・調味にも用います。冬になると
果実が橙黄色になり、夏を過ぎた頃か
ら緑色になって、果実が 2 ~ 3 年は落
ちません。次の年も代々、果実がつい
ているのでダイダイの名がつきました。
縁起担ぎとして新年に飾られるように
なりました。
学 名:Citrus aurantium L.
10
2011
No.1
本ページに掲載の薬草の概要は、
下記ホームページに掲載されています。
くすりの博 物 館
h t t p : // w w w . e i s a i . c o . j p / m u s e u m /
逸見誠三郎 画
2011
No.1
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チームの構成は、医師( 緩和医療科専従 1 名、内科 1 名、精神
な対応ができる」とその舞台裏を明かします。
科 1 名 )、薬剤師( 専従1名、兼務3名 )、看護師( がん専門看
「初回コンサルテーションやラウンド時以外にも、医師、薬剤
護師1名、がん性疼痛看護認定看護師 2 名 )、栄養士、MSW、医
師、看護師それぞれが日 々患者さんのもとに赴き、こまめに状
事課職員――となっています。
況を確認するようにしています。そこで得た情報は毎朝行う
介入の流れは以下の通りです。
ショートカンファレンス( 医師、薬剤師、看護師が参加 )で報告
ラウンドの際に薬剤師が果たす役割について、専従の薬剤師
するほか、電子カルテに入力します。患者さんの日 々の状況を
常に共有することでラウンドが円滑に行えるわけです」
服薬指導後の電話モニタリングで
ドロップアウトを防ぐ
外来患者への対応は、まず、医療用麻薬が新規に導入される
患者さんがいた場合、各科の外来から遠藤先生が携帯している
院内 PHS に連絡が入ります。同院は医療用麻薬に関して初回
はすべて院内処方であるため、処方薬を受け取 った後で初回の
服薬指導が行われます。指導の際は処方薬の効能 ・ 効果の説明
はもちろん、レスキュードーズや副作用対策薬の具体的な使い
方、医療用麻薬の安全性などについて視覚的な理解を促すツー
つまり、仮に痛みを放置するということになれば、それは医療
ルを用いて解説します。一方、初回以降に関しては、再度外来を
者の怠慢ととらえられてもおかしくないわけです」
訪れた際に患者さんや同伴のご家族から副作用の有無などを
済生会横浜市南部病院で薬剤部長を務める加賀谷肇先生は、
聞き取り、必要に応じて医師に処方提案を行います( 表 )。
緩和医療に対する自身の考え方をこのように語ってくれました。
こうした丁寧な服薬指導に加え、同院薬剤師の医療用麻薬導
そのうえで「がん領域における緩和医療の重要性は年 々高まっ
入患者への対応には、もうひとつ大きな特徴があります。
ています」と続けます。
「来院の翌日あるいは翌 々日に患者さんに電話をして、副作
「緩和医療といえばかつては終末期に行うものという考え方が
用やレスキュードーズ使用の有無を確認します。たとえばレス
定着していました。しかし 2007 年にがん対策基本法が施行さ
キューがうまく使えていない場合はあらためて服薬のタイミ
れて以来、より早期の段階から疼痛のコントロールを行うべき
ングを指導するなど、状況に合わせたアドバイスを行います。
という考え方に変わってきています。さらに 2008 年 4 月の診療
報酬改定では、緩和ケア診療加算の算定要件に〔 専任薬剤師の
配置 〕が明記されて、いまや緩和医療における薬剤師の診療貢
献は広く認められています」
この診療報酬改定以降、緩和医療に関わる薬剤管理指導業務
重要性が増す緩和医療
充実する患者対応のあり方
「昨年の The New England Journal of Medicine(Jennifer S :
2010, 363(8)
, 733)
に、がん患者を対象に化学療法と並行してオ
ピオイドによる除痛を行 った群と化学療法のみの群の生存期
間を比較した論文が掲載されました。これによると前者のほ
12
やチーム医療に薬剤師を配置したり、あるいは医療用麻薬が処
としてチームに関わる遠藤理香先生は次のように説明します。
方された外来患者に対する服薬指導に力を入れる医療機関は
「患者さんの状況を診ながら、副作用や相互作用の有無など
増えてきています。
を見極め、必要に応じて医師に処方の見直しを提案します。
今回紹介する済生会横浜市南部病院もそうした医療機関の
また、チームが関与していないオピオイド使用患者を事前にリ
ひとつです。
ストアップし、ペインコントロールがうまくいっていない患者
多職種でささえるラウンドによる
入院患者への介入
さんがいないかどうか各病棟のナースステーションに確認す
る、いわゆる発掘作業も行 っています。仮にここでチームの関
与が必要な患者さんが見つかった場合は、後日あらためて介入
うが3カ月ほど生存期間が長いという結果が示されています。
一口に緩和医療といっても、入院と外来で患者さんへの対応
することになります」
痛みが緩和されれば食欲も増進しますし、QOL や ADL も改善
は大きく異なります。同院の場合、入院患者に関しては基本的
患者1人あたり約5分という所要時間で進むラウンド。遠藤
するでしょう。それが生存期間の延長につながると考えられる。
にチームで関与しています。
先生は「職種ごとの個 々の活動があるからこそ、短時間で適切
2011
No.1
2011
No.1
13
吐き気などの副作用が強く出てしまって追加薬剤が必要と判
なるんじゃないか〕
〔 寿命が縮むのではないか〕などさまざま
断したときは、再度受診をしてもらい、医師に処方を依頼した
な質問が寄せられます。もちろん不安を抱えているのは新規の
りもします」
患者さんだけではなく、医療用麻薬を一定期間使われている患
以前は1カ月後に外来に訪れた際にあらためて指導をすると
者さんでも、たとえば〔 量が増えるということは病気が進行し
いうスタイルだったためか、
「〔気持ち悪い〕
〔 痛みがとれない〕な
ているのでは〕といった新たな不安が生じることもあるよう
どの理由から服薬を中断してしまうケースが少なからずありま
です」
した」と遠藤先生は振り返ります。しかし、電話モニタリングを
冒頭で加賀谷先生が述べられたように、苦痛からの解放は生
行うようになってからは自己中断の数はかなり減 ったそうです。
を豊かにします。しかし解放するための手段が不安をかき立て
患者さんの不安を取り除く
『がんの痛みの教室』
がん患者にとって「痛み」は不安のもととなるもの。QOL を
保ちながらがんとともに生きるためには、痛みを正しく理解し
なければなりません。このため、同院では医師、薬剤師、看護師、
「 緩和医療 に 対 する 理解 は、
まだまだ 不十 分 です」
アートのマインドと
死生観
解は未だに根強く残 っています。“ 医療
初めて医療用麻薬を使用する時に手が
薬という言葉から想起されるマイナスイ
震える感覚を医療者がどこまで想像でき
メージを払しょくしようと努めています
るだろうか――。ある患者会に対し行 っ
が、覚せい剤や大麻、合成麻薬などと混
た緩和医療に関するアンケートに寄せら
同してしまっている患者さんやご家族は
れたコメントのひとつです。非常に印象
少なくありません。
に残りました。医療用麻薬を投与される
誤解しているのは医療者も同様です。
患者さんには、大きなためらいがある。患
たとえば、痛みのある患者さんに対して
者さんの気持ちというものをあらためて
医療用麻薬の増量を提案したとき、
「こ
考えなければならないと強く感じました。
れ以上増やすと呼吸抑制が起きる」とい
薬剤師は雪がとけると水になるという
う誤 った見解を示す医療者が少なからず
ように、いわばサイエンスのマインドで
います。痛みがとれる量を超えた量を投
考えがちです。しかし、上述したような患
与した段階で鎮静( 眠り)に至り、そこか
者さんの気持ちは数字で計ることはでき
らさらに増量してはじめて呼吸抑制が
ません。患者さんの心に寄り添う、すな
起きる。薬剤師も含めて、こうした特性
わち患者さんの不安に共感し、支えてい
を理解していない医療者は少なくありま
くためには、雪がとけると春になるとい
せん。
うようなアートのマインドが必要になる
2007 年に発足した緩和医療薬学会の
と思います。
会員数はこの 4 年間で約 3200 人( 平成
また、死生観を持つことも大切です。
22 年 12 月現在 )になり、関心を持つ医
自分が関わった患者さんが亡くなられた
療者は増えてきています。これを一過性
ありません。在宅における緩和医療が広がってきていること
ときには、さまざまな思いが去来します。
のブームで終わらせないためにも、また、
は確かですが、まだまだ十分な環境が整 っていないのが現状
「自分の提案ははたして適切だったのか
チーム医療で薬剤師がもっと貢献できる
なのです」
…」。こうした患者さんとの関わりを繰り
ためにも、緩和医療を専門分野のひとつ
加賀谷先生は「緩和医療に対する保険薬局のスタンスが前向
返すことで、死生観は成熟し、心に寄り添
としてさらに成熟させていかなければな
きになれば、状況はもっと好転するはず」と言います。では、緩
う医療により近づくと私は考えています。
りません。
和医療の専従薬剤師である遠藤先生は、こうした状況をどのよ
アートのマインドと死生観。この 2 つ
2 人に 1 人ががんに罹患する時代であ
うに考えているのでしょう。
を持ち合わせた薬剤師が関わってこそ、
ることを考えれば、いつかは皆さんも医
「確かに近隣の保険薬局の受け入れ態勢は十分とはいえま
患者さんが望む緩和医療が醸成される
療用麻薬を服用する可能性があるという
せん。薬剤師同士の連携も視野に勉強会の開催を通じて、緩和
のではないでしょうか。
ことです。今は緩和医療の発展のために
るようでは、望ましい経過を得るのは難しいでしょう。緩和医
療をより円滑に、効果的に行ううえで、この痛みの教室は非常
に貴重な場といえるでしょう。
緩和医療をもっと充実させるために
保険薬局との連携を強化
MSW が協力して患者さんおよびご家族向けの勉強会『がんの
同院の平均在院日数は 10.5 日で、緩和医療を受ける患者
痛みの教室』を開いています。
さんのほとんどは概ね2週間で退院となります。退院後の
「毎月第2・ 第3水曜日の2回1コースで、初回は医師と薬剤
対応は、長期入院を受け入れてくれる病院や在宅医療を行 っ
師、2回目は看護師と医療ソーシャルワーカーが担当します。
ている開業医に依頼し、疼痛コントロールがうまくいかない、
所要時間は 1 回が1時間 ~1時間半程度です。医療用麻薬に対
あるいは容体に変化が見られたときは再度受け入れるという
する患者さんの不安や誤解を取り除くことが、薬剤師の主な役
連携体制が築かれているそうです。
割になります」
しかし、加賀谷先生は「まだまだ課題も残されている」と表
このように教室の概要を説明してくれた遠藤先生は「医療用
情を曇らせます。
麻薬に対する患者さんやご家族の不安は小さくありません」と
「入院時と同レベルの緩和医療が提供できているかといえば、
言います( 図 )。
必ずしもそうではないと思 っています。たとえばレスキューの
「とりわけ導入が決まったばかりの患者さんからは、〔 中毒に
残りが少なくなってきたとき、それが休日であれば医師と連
絡をとることが難しくなります。仮に麻薬処方箋を入手できた
としても、土日に調剤をしてくれる保険薬局はほとんどない。
そもそも医療用麻薬をストックしていない保険薬局も少なく
精力的に活動していくことしか考えてい
医療に対する意識を高めていければと考えています。それと連
誤解をとき、成熟させる
ませんが、がんやがんの痛みに対する対
師に対して看護サマリーを出す。薬剤師も同じような取り組み
がん患者の治療において緩和医療が重
ります。
ができればと思 っています」
要視され始める一方で、麻薬に対する誤
携ということに関して言えば、たとえば医師は患者さんを紹介
する際に別の医師に紹介状を書きますよね。看護師も訪問看護
14
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用麻薬 ” という呼称を用いることで、麻
応については考えておく必要を感じてお
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ビジュアル de 病態
監修
関節リウマチ
骨
パンヌス
慶應義塾大学医学部 リウマチ内科 教授
竹内 勤
関節リウマチ(RA)とは、多発性関節炎と関節破壊を主な症状とす
る自己免疫疾患である。原因は未だ不明であるが、遺伝子因子に、細
菌やウイルスの感染、あるいはストレスなどの環境因子が複雑に絡
み合うことで免疫の異常反応が起こり、関節の炎症反応が引き起こ
されると考えられている。
RAは、
免疫異常により免疫細胞が自己を攻撃し、
滑膜に炎症が起きることから始まる。
炎症が続くと、滑膜細胞 が増殖し、炎症細胞とともに肉芽(パンヌス)を形成する。
その過程では、炎症性サイトカインなどの種々の炎症性メディエーターが産生さ
れる。肉芽は軟骨や骨に入り込み、やがて軟骨破壊 ・骨破壊 を引き起こす。
滑膜
(肉芽組織)
新生血管
滑膜細胞の増殖
関節空
関 節 滑 膜で は、リンパ 球 が 新 生 血 管 から浸 潤し、
滑膜細胞が増殖する。
種々の炎症性メディエーター産生
リンパ球の浸潤
MMP誘導
炎症性サイトカインがタンパク分解酵素であ
るマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を
誘導し、軟骨破壊 を引き起こす。
精神科
信州大学医学部精神医学教室 教授
天野 直二
精神科医療には、
「脳という臓器」に影響を与える治療と、
「精神( 心)」に影響を与える治療
の 2 つがあります。この 2 つの治療が並行して行われるべきであるという考え方は精神科医
原因不明の炎症(滑膜炎)
軟骨
■ 診療科 へようこそ
破骨細胞の活性化
TNF-α、
IL- 6 などの炎症性サイトカインが破
骨細胞の分化・活性化を誘導し、骨 破 壊 を引き起こす。
療の最大の特徴であり、身体科とは根本的に異なるところだと思います。
脳に影響を与える治療には、薬物療法と ECT( 電気けいれん療法)
があり、精神に影響を与
える治療には各種精神療法があります。薬物療法を支える薬剤師の方には、身体科と同様、
まず脳という臓器における薬剤の作用機序をしっかり学んでいただかなければなりません。
さらに精神科においては、脳への影響の結果として現れる精神症状の変化にも目を向けること
が求められます。そこに精神科医療独特の奥行きが感じられるはずです。
脳への影響、精神への影響、この 2 つの視点をぜひわれわれと共有してください。
軟骨・骨 破壊
の変形
関節
の変形
関節
病理組織学的には、滑膜組織内で ① 血管新生、② T 細胞 を中心とするリンパ球
浸潤、③ 滑膜増殖 の3つの細胞成分異常が特徴としてみられる。
ポイント
<滑膜組織内>
① 血管新生
VEGF などの増殖因子を介して
血管新生を促進させる。
新生血管
炎症性サイトカイン
リンパ球
B 細胞
RF などの
自己抗体産生
免疫細胞間の
相互活性化の持続
② -1 接着分子発現亢進
活性化
T 細胞
TNF-α、IL-1、IL-6 が 血 管 内 皮
細胞上に接着分子の発現を誘
導する。またリンパ球表面上
のインテグリン接着分子の活
性を高め、接着を促進させる。
抗原提示
抗原提示細胞
浸 潤
B 細胞あるいは抗原提示
細 胞 から T 細 胞に対し
て、強力な抗原提示が行
われ、T 細胞は持続的な
活性化を受ける。
② -2 浸潤
リンパ球が強固に血管内皮細
胞に接着した際、高ケモカイン
産生がみられると、関節局所
に濃度勾配が形成され、リン
パ球は関節局所へ浸潤する。
炎症性サイトカイン産生
T 細胞
滑膜細胞の増殖
種々の炎症性
メディエーター産生
細胞外マトリックス
活性化T細胞
マトリックス蛋白の受容体であるインテグリ
ン接着分子は浸潤T細胞に高発現しており、
それが副刺激となってT細胞は活性化される。
16
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MMP サイトカイン
誘導
産生
軟骨・骨 破壊
③ 滑膜細胞の増殖
滑膜組織内での免疫細胞
―滑膜細胞間の複合的な
相互活性化の結果、炎症
性サイトカインが産生さ
れ、滑膜細胞が増殖する。
プロスタ
グランディン
アポトーシス
関節痛
精神科医療における
アドヒアランス
用大量投与からシンプルな処方に移行す
二次性( 薬剤性)の陰性症状が軽減し、
べきであることはもはや常識です。旧来の
患者さんの表情から硬さがとれるといっ
定型抗精神病薬が一概に悪いわけではあ
た変化を目の当たりにすれば、われわれ
当院では 2 名の薬剤師の方が精神科病
りませんが、非定型抗精神病薬に切り替
と同様に新しい薬のメリットを実感でき
棟に出向いて、服薬指導などを行って
えることで、錐体外路症状などの副作用
ることでしょう。そのうえで、情熱を持っ
います。医師から薬の説明をするだけで
が明らかに軽減し、処方の減量・単純化が
て処方変更に協力していただければ、素
なく、薬剤師もベッドサイドに赴いて直
図れた症例を私も数多く経験しています。
晴らしいことだと私は思います。
接話をすることで、患者さんの薬に対す
非定型抗精神病薬への切り替えを困難
さらに言えば、薬剤師の方が主体とな
る信用度が高まるようです。服薬アドヒ
にする最大の要因は、長年慣れ親しんだ
り、シンプルな処方への移行を改革的に
アランスの向上に向けて、薬剤師の病棟
薬に対する患者さんのこだわりです。し
進めていってもよいのではないでしょう
活動は大きな力を発揮するという手応え
たがって、医師や臨床心理士、看護師な
か。医師に対してもどんどん意見を言う
があり、頼もしく感じています。
どがチームとなり、患者さんへの説得を
べきです。医師は( 特に若い医師は)
みな
服薬指導において最も重要なのは、作
重ねていかなければならないケースが
さんの提案を喜んで受け入れてくれるは
用機序の説明だと思います。精神科の患
しばしばあります。従来の薬剤を段階的
ずです。もちろんそのためには、新しい
者さんは向精神薬に対して自分なりの思
に減量しながら、非定型抗精神病薬を増
薬のこと、現在処方されている薬のこと
い込みを持っていることが少なくありま
やしていくといった調整も必要です。一
をつねに勉強する姿勢が必要であること
せん。しかし、それは往々にして表面的
挙に切り替えようとしてはいけない。半
は言うまでもありません。
なものです。だからこそ、薬剤師は薬の
年くらいはかかる地道な作業です。この
医師の処方に参加する。ひいては治療
専門家として、たとえばその薬がどうし
チームに、薬剤師の方にも積極的に参加
に参加する。薬剤師の方にはそのような
て妄想や幻聴を軽減 ・ 消失させるのか、
していただきたいのです。
意気込みを持っていただきたいのです。
脳の神経伝達物質の放出 ・ 受容をどの
そのためには、調剤室にいるだけでは
今はもうそういう時代なのですから。
ように調節するのか、ということを丁寧に
なく、病棟に出向いて、患者さんの様子
説明してあげることが大切になります。
を直に確認することが必要になります。
シンプルな処方のためには
病棟活動が必須
統合失調症の慢性期において、多剤併
錐体外路症状や眠気などの副作用がどの
〔治癒過程〕という
精神科ならではの視点
程度のものであり、それが新しい薬に切
精神科においては、薬剤師も病棟に出
り替えることでどのように軽減していく
向かなければ話にならない。私がそう考
かを知っていただかなければなりません。
えるのは副作用を確認するためだけで
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の段階では──患者さんの人生における
うつ症状の回復の順序
今この時期には、このくらいの量を使う
水準
図: 慢性患者に自分が 今どのあたり
にいるかを示すことが目的である。
べきだというサジェスチョンです。そこ
を見極めるのが精神科の臨床なのです。
そこで提案なのですが、NPI(neuro-
面白くない
psychiatric inventory : 神 経 精 神 科 検
根気がない
査 )や PANSS(positive and negative
syndrome scale:陽性 ・ 陰性症状評価
手がつかない
尺度)といった精神科医療における評価
うつ気分
尺度の研究に、薬剤師の方も参加してみ
てはどうでしょうか。評価尺度により、ど
不安
の症状のどういう段階と判定された場合
焦燥
には、どの薬剤をどのくらいの用量で投
与するのが妥当である──というように
時間
笠原嘉:精神科, 13(3)
, 178-183(2008)
より
のようなかたちで薬剤師の方が臨床の世
はありません。病棟で患者さんに接する
は完全に消えた、妄想も減ってきたよう
にし、医師がどのように患者さんに接し、
みます。
ときには、精神症状についても訊いてあ
だ、今は心気的で身体症状にこだわって
その精神症状をどのように捉えているの
非定型抗精神病薬への切り替えは既定
げてください。心の中の変化が、精神症
いるが、その時期を過ぎれば寛解期に入
かを知ることが大切なのです。
の路線であり、薬剤師の方もかかわらな
状が改善していく過程が、実感できるは
るだろう、というように。
医師に訊く。看護師に訊く。患者さん
ければならないテーマです。一方、評価尺
ずです。そうした[ 治癒過程]が精神科
精神科医はこのような見方をします。
に訊く。この 3 つがあって初めて、精神
度と薬物療法をリンクさせる研究は、私
においては非常に重要になります。
重要なのは、患者さんが今どの段階にい
症状の把握が可能になり、薬がどの程度
からの提案ですが、ぜひ取り組まれてみ
笠原嘉先生( 桜クリニック院長 名古屋
るかということです。all or nothing では
効いているのかを判断できるようになり
てはいかがでしょうか。
大学名誉教授)が、うつ病の治癒過程に
ありません。患者さんの精神症状がしだ
ます。これはたいへんな仕事です。しかし、
は何段階かのステップがあると説明し
いに消えていく、そうした治癒過程にこ
そこから薬剤師の新たな存在意義を築く
ています( 図)
。まず、焦燥や不安が取り
そ精神科医療の醍醐味があるのです。そ
ことができるのではないでしょうか。
除かれ、憂うつ感が消え、その後は順を
の醍醐味を薬剤師の方にも共有してほし
われわれ医師にとっても、初診の患者
追って、物事に手がつかない、手はつけら
い、共有すべきだと私は考えています。
さんに対しては、あるいは感情鈍麻など
れるけれど根気が続かない、以前のよう
精神科疾患の治癒過程を知ることで、
の陰性症状が統合失調症の精神症状な
に面白さを感じない、といった抑制的な
それがいかに薬物療法と関連しているか
のか、二次性( 薬剤性)症状なのか見極め
感情が改善していく。こうした過程を辿
が理解できるはずです。すると、薬剤師
難いような状況では、ある意味手探りで
り、すべての症状が消えるまでに 3 年ほ
さんの業務がますますおもしろくなる。
慎重に処方を行っています。そこに精神
どかかることも珍しくない、と。
おもしろくなるくらいでなければ、この
科医のノウハウがあるわけですが、薬剤
確かにそうだと思う症例を私も度々経
時代に薬剤師に求められている役割を果
師ならではの知識 ・ 評価手法をもって処
験しています。焦燥・不安が非常に強かっ
たせないのではないでしょうか。
方に参加してもらえるのであれば、われ
くなりました」と話すようになり、しだい
に「少し意欲が出てきました」
「 明日の朝、
18
評価尺度と薬物療法を
リンクさせる研究
その症状によって生活の解体が認められるのであれば、発病と認識し、抗精神病薬の少
量投与など薬物療法を開始すべきだと思います。しかし岡崎祐士先生らが研究されてい
るような精神病様症状体験(下記)の場合は、薬物療法以外の介入を検討すべきでしょう。
やはり薬は脳に影響を与えるものなのですから。
精神病様症状体験は、精神保健的早期介入の第1ポイントであるとする岡崎先生らと
私は同じ考えであり、こうした一群をいかに大事に見守っていくかが重要な研究テーマ
となっています。精神科領域におけるこのような新しい情報を薬剤師の方も知り、
医師と課題を共有すべきであると私は考えます。
■ PLEs 体験者の割合
年齢、人数(%)
年齢
PLEs(+)
PLEs(−)
合計
12
13
14
15
合計
13.4
15.9
15.4
16.1
15.2(756 人)
86.6
84.1
84.6
83.9
84.8(4,297人)
1,149
1,695
1,665
535
5,044 人
Nishida ら(2008)による
X2 = 3.8, df=3, p=0.28
岡崎祐士:精神医学,
岡崎祐士
精神医学 51(2)
)
, 151-158(2009)
)り
より
岡崎祐士先生や西田淳志先生らが、三重県津市の中学生 5000 人以上を対象
に無記名アンケート調査を実施したところ、約 15%の子どもに精神病様症状体
験(Psychotic Like Experiences:PLEs)が認められた。項目別では、幻聴 9.9%
が最も多く、
「誰かに後をつけられたり、こっそり話を聞かれたりされていると
感じたことがある」が 7.4%とこれに続く。PLEs のある子どもたちは、不安や
うつが強く、希死念慮が多く、音に敏感で寝つきや集中が難しいなど困難を抱
えており、今、相談支援が必要な子どもたちであることもわかった。
この薬の至適用量は何 mg から何 mg
の範囲内です、といった情報を提供する
患者さんに精神症状を訊くことに不安
だけでは処方提案をしたことにはなりま
と変わっていく。
を感じる薬剤師の方もいるでしょう。そ
せん。そのようなことは添付文書を見れ
統合失調症においても同様に治癒過程
れは理解できます。だからこそ、医師と
ばわかります。われわれが求めているの
という視点が成り立ちます。焦燥 ・ 不安
行動を共にし、コミュニケーションを密
は、先ほど述べた治癒過程をふまえて、こ
No.1
統合失調症に関して、現在最も話題になっているテーマが Early Intervention です。
この Early をどのような症状と捉えるかによって介入の時期と内容が変わってきます。
われとしては鬼に金棒です。
ちょっと散歩をしてみようと思います」
2011
《 統合失調症における早期介入 Early Intervention 》
薬に関係した研究が行えるはずです。そ
界に入ってきてくれることを私は強く望
た患者さんが「先生、すーっと不安がな
コラム
2011
No.1
19