極めて柔軟な沈水植生の存在する流れに関する室内実験 - 土木学会

2-259
土木学会第59回年次学術講演会(平成16年9月)
極めて柔軟な沈水植生の存在する流れに関する室内実験
東京工業大学大学院
〇学生会員
古賀智之
東京工業大学大学院
フェロー会員
池田駿介
農業工学研究所
正会員 中矢哲郎
1.研究目的
実河川や開水路底面に群生しているセキショウモ,エビモに代表される沈水植生は,植生自体が持つ柔軟性から流れに対して
複雑に変形し揺動する.流れが柔軟な沈水植生にどのような影響を与えるのか,またその揺動が流れにどのように影響するのか
といった問題は,治水を考慮に入れつつ河川環境を保全していく上で非常に重要である.そこで本研究では柔軟な沈水植生のモ
デルとして毛糸を用いた模型水路実験を行うことにより,大きな変形を生じる沈水植生の揺動構造の解明と,流れと植生の揺動
の相互作用を明らかにすることを目的とする.
2.実験概要
実験に用いた水路の概要, 座標の定義を図-1 に示す.長さ
堰
15m, 幅 40cm の循環式可変勾配直線水路を用い,沈水植生のモ
模擬植生
Flow
デルとしては手芸用毛糸を用いた.
これを 10cm の長さに切り,
15m
y 方向の間隔(Ly)=2cm,x 方向の間隔(Lx)=2cm の正方格子状に
縦断方向 6m にわたって水路床全幅に配置した.各実験ケース
6m
z(w)
の水理条件を表-1 に示す.流速の測定は流れが平衡に達したと
判断される植生設置開始地点から 5m 付近の断面で行った.ま
ず主流速の鉛直方向の分布を 1cm 間隔でピトー管により測定し
揺動に大きな影響を与えるものと予想されるため, 植生層上部
図-1 水路概略図,座標の定義
ゴンレーザー流速計(TSI 社製,以下 LDV)を用いて乱れの計測
オカメラにより追跡した.植生群中の一本の植生の色を変え,
その根本が原点になるように水路側面に透明の方眼紙を貼り付
x(u)
表-1 実験ケース
を行った.データは 100Hz で 8192 個を採取した.また,複雑に
ことを目的として,模擬植生の変位の経時変化をデジタルビデ
H
模擬植生
から水面付近の範囲(測点間隔:5mm)については 2 成分アル
変形し揺動する植生の特性を定量的な実測データから説明する
h
ξ
た.また,植生層上部では組織的な乱れの構造が流れ場や植生の
Case
1
2
3
水深
h(m)
0.15
0.13
0.11
植生
直径
d(m)
0.003
0.003
0.003
植生
密度
λ(1/m)
7.50
7.50
7.50
流量
Q(㎥/s)
0.012
0.010
0.006
エネルギー
勾配
I
0.001
0.001
0.001
け,撮影されたビデオ静止画像中の座標値を目視で読み取った.
3.実験結果と考察
まず流れと植生の運動の概要を把握するために植生の揺動の
様子を観察した.この様子を写真-1 に示す. 植生の運動の様子
が観察し易いように手前の模擬植生だけ異なる色のものを用い
ている.穂波現象と思われる植生の周期的変形が見られ,穂波の
通過と共に大きく変形し高次の振動モード形を有することが目
視による観察から推測された.
図-2 に Case2 における主流速分布,Reynolds 応力分布を示す.
図中の点線は植生の平均高さであり,どの実験ケースにおいて
写真-1 模擬植生の揺動の様子(流れ方向は右から左)
キーワード;柔軟な沈水植生,穂波,振動モード
連絡先;東京工業大学土木工学科
〒 152-8552
目黒区大岡山二丁目 12-1 TEL
-517-
03-5734-2597
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土木学会第59回年次学術講演会(平成16年9月)
ピトー管
レーザー
0.16
では植生層上部付近に流速分布の変曲点が見られることが知られ
0.14
0.14
ているが,本実験における流速分布では剛性の高い場合程度の明瞭
0.12
0.12
0.1
0.1
な変曲点は見られなかった.この傾向は全ての実験ケースに共通し
て見られた. また Reynolds 応力の鉛直分布より植生層の頂部付近で
h(m)
0.16
h(m)
も約 0.05m の高さとなった. 比較的剛性の高い植生層を有する流れ
0.08
0.06
大きな運動量輸送が生じていることがわかる.この植生層の頂部付
0.04
0.04
近での流速変動値(主流速)を図-3 に示す.この図より流速変動の
0.02
0.02
0
0
0
0.1
Case2 における植生頂部の流下方向変化ξと,植生高さ H の時間
0.15
が倒れ込み,ξ が小さく変形が小さい時 H は起きあがってくる傾向
0.05
穂波に対応する現象であると予想される.この周期を上記の時系列
u´(m/s)
変化を図-4 示す.ξ が大きくなり変形が大きい時は H が減少し植生
を示している.この倒れ込みと起きあがりは周期性を持っており,
0.2
u(m/s)
0.3
-0.15
1
1.5
ξ´(mm)
40
60
15
0
-15
-30
0
20
time(s)
40
60
図-4 頂上変位(Case2)
ξを振動モード形 fn(z)(n=1,2,・・N)の重ね合わせで近似する.ここで
1
は各モードの比率を表し,N は考慮するモードの数を表す.本実験で
0.8
図-6 に Case2 における各振動モード関数の足し合わせにより再現さ
(N/㎡)
図-3 流速変動データ(Case2,z75)
することが推定されたため,図-6 中の式(1)のように,各高さの変位
はその比率を実際の変位と ξ(z,t)の誤差が最小となるように同定した.
0.5
time(s)
20
30
いても約 4∼6 秒の同様の周期的変形が見られた.この周期は流速
目視による観察から今回の植生模型は高次の振動モード形を有
0
-0.05
0
関係することが推定される.
0.4
図-2 流速,Reynolds 応力分布(Case2)
波形から求めると,約 4∼6 秒であることがわかった.Case1,3 にお
変動の周期とほぼ一致しており,植生の運動は流れの構造と密接に
ρghI
0.08
0.06
周期を算出したところ,約 4∼5 秒の周期を持つことがわかった.
Reynolds応力
z/H
f1 ( z ) = exp(α
f1
f3
0.6
f 2 ( z ) = sin(
f2
0.4
f 3 ( z ) = sin(
0.2
れた植生の変形形状を示す. 3 次までの振動モード形の重ねあわせで
0
-1.5
その植生の変形形状を十分再現できるものと判断する.また比率の時
図-5 振動モード形
-0.5
0.5
πz
H
1.5
α n : α 1 = 0.13, α 2 = 0.02 , α 3 = −0.0035
0.06
る.Case2 における各モード形の比率の 10 秒間の時間変動値を図-7
N
ξ ( z, t ) = ∑ α n (t ) f n ( z )
0.05
に示す.図-7 より各モードの比率は周期的に変動していることがわ
式 (1)
n =1
H(m)
0.04
かる.時間平均値は 1 次モードの比率が最も大きく 3 次モードの比率
0.03
は負の値を取る特徴があることがわかった.詳細に見ると,起きあが
0.02
りの時に 2 次モードの比率が大きくなり,倒れ込みのときに負の 3
0.01
実測値
f1+f2+f3(R=0.99)
0
次モードの比率が大きくなっている.このように揺動に伴い高次のモ
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
ξ(m)
ードが周期的に生ずることが明らかになった.
図-6 植生の変形の再現
4.結論
1)
0.18
剛性をほとんど持たない沈水植生模型を使った水路実験におい
て,流速変動に対応した植生の組織的揺動(穂波)が観察された.
2)
剛性をほとんど持たない沈水植生は高次の振動モードを有し,そ
の変形形状は概ね 3 次モードまでの関数で表現できる.
0.16
0.14
0.12
0.1
α1
α2
α3
0.08
0.06
0.04
0.02
0
-0.02 0
2
4
6
8
time(s)
参考文献
図-7 モード比率の時間変化(Case2)
・
中矢・池田・戸田・古賀:極めて柔軟な沈水植生層内外の流れと植生の運動に関する研究,水工学論文集,第 48 巻
・
日野・歌原:水草のある流れの水理的研究,土木学会論文報告集,第 266 号,pp87-94
-518-
)
2π z
)
H
図-5 振動モード形
間変化を把握することで各高さの変位 ξ(z,t)と揺動の特性を把握す
z−H
)
H
10