結核患者の治療継続を支援する看護介入プログラム - 大阪市立大学

【
重点研究報告 4 】
大 阪市 立大学看護学雑誌
第 8 巻 (2012 .3)
結核患者の治療継続 を支援す る看護介入 プログラム
秋原
志穂
Shiho A kihara
Ⅰ患者対象調査
はじめに
1 . 結核病棟 で行われる患者教育に対す る患者の受けと
結核雁息率は年 々減少傾向にあ り、 2010年 に18.2 (10
め (本誌に掲載)
万対) と大幅に減少 したが、 先進国に比較す ると数倍の
高 さである (厚生労働省, 2011)。 結核患者 は感染症法
2 . 結核患者の治療 ・ D O T S に対する認識 (2012年 日本
により入院により治療 を受ける必要がある。 結核患者の
入院期間は長期で2009年 は平均69.1 日である (結核予防
結核病学会発表予定)
会. 2010)。 入院後は感染拡大防止のため病棟 での隔離
1 ) 目的 : 患者の疾患や治療 に対する認識 ・ 態度 ・ 思
を受けなが ら、 抗結核剤による治療 を行 う。 結核患者は
い、 受けた指導や説明についての考 え、 患者 自身が
高齢者、 路上生活者を含む生活困窮者や外国人などの社
求めている支援、 ア ドヒアランスを向上 させ るため
会的弱者が多 く (石川, 2009, 日本結核病学会, 2009)、
に必要 とされることな どを明かにす る。
2 ) 方法 : 大阪府内の 4 施設において、 結核で入院 し
患者への治療および看護において配慮が必要になる。
点者は 6 ケ月以上の服薬が必要で、 退院後 も長い服薬
1 か月程度経過 している患者 11名を対象 とした。 調
期 間がある。 結核 の治療 では確 実 な服薬が絶対的 に必
査期間は平成21年 12 月∼平成22年 7 月であった。 病
要であることか ら、 多 くの病 院で院内D O T S (D irectly
気や治療、 説明の受け止め、 入院生活 などについて
O bserved T reatm ent Short-course : 直接監視下短期化
半構造化面接 を行い、 質的帰納的に分析 した。
3 ) 結果 : 対象者 は治療 について 【
内服 は仕事の よう
学療法) を取 り入れている。
結核 は確実な治療 により、 ほぼ完治が見込 まれる。 結
な もの】 とい うように解釈 し、 D O T S については、
核看護において看護師は、 長期 間の服薬が必要 になる患
【
D O T S に慣 れて生活 の一部 になる】、 【
言 われて飲
者 に対 して、 入院中か ら退院後 まで服薬が継続で きるよ
んでいるだけ】 などの カテゴリーが表わされた。
うに支援することが重要である。 また長期間隔離 された
4 ) 考察 : 結核患者の語 りか ら治療、 D O T S に対 して
入院生活 を送る患者はス トレスが高 く、 抑 うつ的にな り
は 「慣れる」、 「苦 じゃない」 とい うサブカテゴリー
やすいこと (畠山, 1999, 石川 ら, 1998) が明 らかになっ
か らD O T S が入院生活の習慣 になっていることがわ
ている。 看護師は患者の治療 を支えなが ら、 患者が抱 え
かったが、 治療 に前向 きとは言えないことが示唆 さ
る心理的負担 を軽減することが求め られる。 我が国にお
れるカテゴリー もあ り、 患者の理解 を深めるための
いて結核看護に関する先行研究は十分ではな く、 有効な
支援の必要性が示唆 された。
看護介入について明 らかではない。 そこで、 本研究では
Ⅱス トレス緩和プログラム
患者の治療継続 を支援す る看護介入 プログラムを作成
し、 その効果について検討することを目的 としている。
平成21年度からプログラムを作成するための基礎的研究
1 ) 目的 : 結核患者 は最初の約 2 か月は結核病棟での隔
を開始 し、 その結果を踏まえて平成23年度はス トレス緩和
離入院が必要なことか ら、 ス トレスが高いことは報告
を目的 としたプログラムと患者教育プログラムを作成 し
されている (石川 ら, 1998, 坂本 ら, 2001)。 本研究
た. ここでは、 Ii23年度に行った患者対象の基礎的研究の
ではゲームを用いての集団 レクレーションの開催 によ
結果のまとめとプログラム作成について概要を述べる。
り運動によるス トレス発散お よび患者同士のコミュニ
大阪市立大学大学院看護学研究科
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おわりに
ケ- シ ョンを促進す ることで患者のス トレスの緩和 を
目指す。
プログラム実施 に関す る研 究 は現在進行 中のため、 プ
2 ) 方法 :
研 究対象 : 結核 病棟 に入 院後 2 週 間 目で、 症状 の
ログ ラムの有効性 につ いて は今 回述べ る こ とが で きな
い。 今後介入群 のデー タを収集 し、 結果 を報告 したい。
安定 している患者
研 究方法 : コン トロール群 に通常通 りの看護 プログ
ラムを行い、 入 院 2 週 目と 4 週 目に心理状況等 を測定
引用文献
す る質問紙調査 を行 う。 介入群 はゲーム等 を用 いた団
体 レクレー シ ョンプログラムを試行 し、 コン トロール
群 と同様 に入 院 2 週 目と 4 週 目に質問紙調査 を行 う。
畠山鰻子 (1999):結核患者の隔離下 における心理的特徴,
秋 田桂城短期大学 紀要, 6, 47-53.
倫理的配慮 : 本研究 は、 大 阪市立大学大学院看護学
石川 ま り子他 (1998) : 隔離 上況下 にお ける結核患者 の
心理的変化 (1) - P O M S を用 いた気分変動 の分析 - .
研究科倫理委員会の承認 を得 た。
北 日本看護学会誌 , 1(1), ト8.
3 ) 結果 : 現在、 コン トロール群のデー タ収集中で、 4
週 目の質問紙調査 まで終 えた対象者 は分析 に十分 な数
ではないが、 抑 うつ、 不安 な どの気分 は 2 週 日と 4 週
日で大 きな変動 は見 られなか った。 まだア ドヒアラン
スについては、 服薬 についての不快感情、 薬へ の信頼、
医療者への信頼、 知識等 について聞いているが、 服薬
への不快感情 は 「副作用の心配」 が 2 週 目よ り4 過 日
が高 くなっていた。 薬への信頼 は 「薬 を飲み続 けるこ
石 川倍 克 (2009) : 社 会 的弱 者 の結核. 結核 84 (7) :545
-550.
結核 予 防会 (2010) : 結核 の統 計2010. 122, 結 核 予 防
会, 東京.
厚 生労働省 (2011) : 平成22年結核 登録者情 報調査年報
集計結果 (概要).
とで治 る」、 「薬 を飲 むことで症状が安定 している」 と
http://w w w .m h lw .go.jp/bu ny a/k enk ou /k ek k ak ukansenshouO3 2011.10.15
い う項 目が上昇 していた。医療者へ の信頼 を示す項 目、
日本結核病 学会 (2009) : 結核 診療 ガイ ドライ ン. ト5,
結核 の薬、 検査、 治療 に関す る項 目も上昇 していた。
南江堂, 東京.
4 ) 考察 : まだデー タ収集の途 中で、 途 中の傾 向 を述べ
るに とどまるが、 気分 にあ ま り大 きな変動が見 られな
いの は、 入院に慣 れて きて不安が軽減 されたのではな
坂 本久美子他 (2001) : 隔離状況下 にあ る結核患 者 のス
トレス源, コ- ビング行動 の分析. 第32 回 日本看護学
会論文集. 174-175.
いか と推察 される。 ア ドヒア ラ ンスの うち薬へ の信頼
について高 くなっているのは、 症状が安定 して きて薬
研究組織
の効果が実感 で きる時期か と考 える。 今 回はデー タ数
が少 な く分析がで きないが、今後 コン トロール群のデー
藤村
一美
兵庫 医療大学看護学部 (平成 21度∼)
タ収集 に引 き続 き、 介入群 を開始 し、 プログラムがス
田村
直美
国立病 院機構近畿 中央胸部疾患 セ ンター
(平成23度∼)
トレスやア ドヒアランスにどう影響す るかを検討する。
笹 山久美代
Ⅲ患者教育プログラム
国立病 院機構近畿中央胸部疾患 セ ンター
(平成21度 ∼ 22年度)
冨 田ひ とみ
(平成21年度)
結核患者が退 院後 も治療 に積極 的にかつ継続 して関わ
れるためには、 結核患者特有の心理的 ・ 社会的背景 を考
吉 田ヤ ヨイ
元 国立病院機構刀根 山病 院
園田
大 阪市立十三市民病 院
(平成21度 ∼ 22年度)
慮 しなが ら、 患者のア ドヒアラ ンスの向上 を目指 した患
者教育が重要である と考 える。
恭子
(平成21年度, 平成 23年度∼)
これ までの研究 において、 病棟 で患者教育 を受 けた患
者 は 「指導受 けて も簡単 に理解 で きない」 と考 えている
国立病 院機構近畿中央胸部疾患 セ ンター
森迫
京子
元呼吸器 ・ ア レルギー医療 セ ンター
(平成21年度)
ことや、 「 自ら学 びたい とい う希望がある」 患者 もいるこ
とな どが明 らかになった。 これ らの結果や先行研究 をも
長谷川富美子
大 阪府茨木保健所
とに患者教育 プログラムを検討 し作成 した。 現在、 研究
溝 田 啓子
大 阪府茨木保健所 (平成22年度)
を大阪府の 1 施設 において研究 を開始 した ところである。
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(平成22年度)