松本分子昆虫学研究室 - 基幹研究所 RIKEN Advanced Science Institute

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生化学/分子生物学/細胞生物学/生物有機化学/昆虫科学
いかなる分子機構を介してガは種固有の性フェロモンを生み出すか
主任研究員研究室
主任研究員研究室
1959 年、フェロモンとして初めてカイコ
ガ雌成虫の放出するボンビコールの化学構造
が決定されて以来、500 種以上のガ類の性
Molecular Entomology Laboratory
フェロモンが同定されている。ガ類のフェロ
松本分子昆虫学研究室
モン成分は比較的シンプルな直鎖脂肪族化合
物であるため、多くのガは複数の成分をブレ
ンドし、その割合を厳密に規定することで種
固有の性フェロモンを生み出している。しか
し、これらのフェロモン成分が産生細胞でい
かなる制御機構のもと、いかなる機能分子
のカスケードを介して合成・輸送・放出さ
れるのかといった分子機構の詳細は理解さ
キーワード 昆虫、バキュロウイルス、キイロショウジョウバエ、アブラムシ、フェロモン産生系、
性決定、個体発生、複合内部共生系、脂肪滴ダイナミクス、トランスジェニックカイコ
れていない。我々はカイコガのフェロモン
研 究ユニット
研 究ユニット
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図 1 カイコガ個体(蛹、成虫)における蛍光タンパク質遺伝子の組織(複眼、フェロモン腺)特異的な発現
腺細胞をターゲットとし、有機化学、生化
全動物種の7割以上を占め、脊椎動物とは全く違った方向に進化してきた
昆虫は、4億年という長い年月の間、様々な環境に適応する過程で独自の多
主任研究員
松本 正吾
農学博士
Shogo Matsumoto (Ph.D.)
様性と数多くのユニークな機能や能力を獲得してきた。昆虫が持つ多様な機
能や能力に着目し、それが成り立つメカニズムを分子レベルで解明すること
学、分子生物学、細胞生物学の手法を用いた
包括的な解析を進め、ボンビコール生合成酵
の流れを、遺伝子のクローニングと RNA 干
脱リン酸化を介してボンビコール産生経路に
素(Bmpgdesat1, pgFAR)、フェロモン生
渉法を用いた遺伝子の機能解析を通して検証
おける脂肪滴のリポリシスおよびアシル基の
合成活性化神経ペプチド受容体(PBANR)と
し、PBAN 刺 激 を 受 容 し た PBAN 受 容 体 が
還元過程を活性化する機構を提示し、ボンビ
は、普遍的な生命原理を理解するとともに、それらの理解に基づいて環境保
略歴
いうボンビコール産生でキーとなる分子の解
三量体 G タンパク質の Gq を介してホスフォ
コール産生細胞におけるフェロモン産生過程
全、食糧確保や有用物質生産など応用面での展開を可能にする。当研究室で
1980 東京大学大学院農学系研究科 博士課程修了
明に成功した。また、我々が確立したカイコ
リパーゼ C(PLC β 1)を活性化し、産生され
(フェロモノジェネシス)の分子機構の概要
ガ個体での RNA 干渉法は、個々の機能分子
たイノシトール 1,4,5- トリスリン酸(IP3)が
のフェロモン腺での役割を in vivo で検証す
IP3 受容体(IP3R)を介して小胞体 Ca2+ スト
る上で極めて有効で、フェロモン腺細胞特異
アの枯渇を促すこと、その結果、Ca2+ セン
的または優先的なタンパク性分子(BmFATP,
サー(BmSTIM1)が小胞体から細胞膜へ移
pgACBP, mgACBP)が脂肪滴(細胞質に存
行し、チャネル分子(BmOrai1)と共局在す
(2)昆虫ウイルスと宿主昆虫細胞との分子応答機構の解明、
(3)昆虫遺伝子
在するフェロモン前駆体脂肪酸の貯蔵オルガ
ることでストア作動性 Ca2+ チャネル(SOC
の機能解析・機能発現のための遺伝子導入・ターゲッティング系の構築を進
ネラ)の形成過程で重要かつ固有の役割を果
channel)を 開 口 す る と い う PBAN の 細 胞
めている。さらに、これらの成果に基づき、農学、医学、生命科学の分野で
たしていることを実証した。さらに、我々は
内シグナル伝達の流れを解明した。さらに、
の応用面への展開もはかる。
神経ホルモン PBAN の細胞内シグナル伝達
Ca2+ の細胞内流入がタンパク質のリン酸化、
は、モデル昆虫として知られるカイコガやショウジョウバエを用いて、昆虫
あるいはそれを構成する組織・細胞が示す固有の機能発現の分子機構を解明
し、これらの手法を機能発現の分子機構解析に応用し、実践する。具体的
には、
(1)昆虫において発現される基本的生命現象を支える分子機構の解明、
1985 米国 ジョージア大学昆虫学科 訪問研究員
1988 理化学研究所 昆虫生態制御研究室 研究員
1996 同 分子昆虫学研究室 副主任研究員
2000 同 主任研究員(現職)
2002 埼玉大学大学院理工学研究科 連携教授(現職)
1 19
73
106
142
212
223 243
256
338 361 387
BmSTIM1
262-515
を明らかにした。
研究領域
研究領域
する。また、昆虫を見据え、その特性を生かした新しい系、方法論を確立
1980 東京大学農学部農芸化学科 助手
577
ERM
Signal
Peptide
EF-hand
SAM
TM
Coiled-coil
Coiled-coil
部門
部門
主要論文
1. A. Ohnishi, et al. Hormone signaling linked to silkmoth sex pheromone biosynthesis
involves Ca2+/Calmodulin-dependent protein kinase II-mediated phosphorylation of the
insect PAT family protein Bombyx mori lipid storage droplet protein-I (BmLsd1), J. Biol.
Chem. 2011, 286, 24101.
2. J. J. Hull, J. M. Lee, R. Kajigaya, S. Matsumoto, Bombyx mori homologs of STIM1 and
小胞体 Ca2+
BmOrai1B-CFP
BmSTIM1-Venus
重ね合わせ
充満
(静止状態)
Orai1 are essential components of the signal transduction cascade that regulates sex
pheromone production, J. Biol. Chem. 2009, 284, 31200.
3. A. Ohnishi, J. J. Hull, S. Matsumoto, Targeted disruption of genes in the Bombyx mori sex
枯渇
最 先 端 研 究 開 発 支 援 プロ グ ラム
最 先 端 研 究 開 発 支 援 プロ グ ラム
pheromone biosynthetic pathway, Proc. Natl Acad. Sci. USA 2006, 103, 4398.
4. K. Moto, et al. Involvement of a bifunctional fatty-acyl desaturase in the biosynthesis of
the silkmoth, Bombyx mori, sex pheromone, Proc. Natl Acad. Sci. USA 2004, 101, 8631.
5. K. Moto, et al. Pheromone gland-specific fatty-acyl reductase of the silkmoth, Bombyx
mori, Proc. Natl Acad. Sci. USA 2003, 100, 9156.
主要メンバー
コウ リン
リ
ゼミン
R 一瀬 勝紀、常泉 和秀、永峰 俊弘、松本 健、本 賢一 P 大西 敦、黄 琳、李 載旼 T 桒原 いく、
本川 久子、吉村 麻美
図 2 SOC チャネル開口に関わるBmOrai1 と BmSTIM1 の機能解析
図 3 RNA 干渉法によるカイコガフェロモン腺での遺伝子機能阻害
タプシガーギン処理により小胞体 Ca2+を枯渇させると、BmSTIM1は小胞体から細胞膜へと
移行する
(BmOrai1B はフェロモン腺で発現するBmOrai1のアイソフォーム)
。
フェロモン腺特異的アシル-CoA 結合タンパク質(pgACBP)遺伝子の発現を抑制すると、対
照と比較して脂肪滴(フェロモン前駆体脂肪酸の貯蔵体)の蓄積が顕著に阻害されている
(パ
ネル左下)
。
五十音順。2012 年 1月1日現在
R スタッフ研究員
050
独立行政法人理化学研究所 基幹研究所 2011-2012
P ポスドク
J 学生・研究生
T テクニカルスタッフ
O アシスタント、客員、その他
分 野を越え 組 織を越え 国を越えて
051