カイコはヒト疾患治療薬開発および治療法の発展に 寄与できるか Can a

カイコはヒト疾患治療薬開発および治療法の発展に
寄与できるか
Can a silkworm be contributed to development of a cure for
human diseases?
(農学研究院・生物生産専攻)天竺桂弘子*、渡辺和成、横山岳、蜷木理、普後一
*連絡先
1.
はじめに
昆虫は地球上の生命の70%を占める生
物種であると言われているが、研究など
で利用されている昆虫はごくわずかで、
莫大な昆虫未利用資源が地球上に手つか
ずのまま眠っている。その中にはヒト疾
患モデルや医薬品および農薬のシードと
して有用なものが存在する。
我々はカイコとヒトで共通する遺伝子
の機能解析から、ヒト疾患遺伝子解析モ
デルとして利用可能なカイコ変異体系統
を見出すことに成功した。
2.パーキンソン病とカイコ変異体
パーキンソン病(Parkinson’s disease;
PD) はミトコンドリア機能障害による
酸化的ストレスが主な原因で中脳黒質緻
密質のドパミン分泌細胞の減少によりド
パミン産生が不足し、運動障害を引き起
こす疾患である。PD では血中尿酸値の
低下が PD の重症度と相関することが報
告されているが、その理由はこれまで不
明であった。PD 研究で用いられている
モデル生物種には、尿酸代謝系に異常を
持つ変異体はこれまで発見されていなか
った。
一方、カイコ(Bombyx mori)の幼虫は皮
膚の真皮細胞に尿酸を蓄積することが知
られている。そのため、皮膚の色は白い。
カイコには尿酸代謝系が異常な変異体が
26 種類存在し、見た目には皮膚が油紙の
ように透けた状態で、通称油蚕(あぶら
こ)と呼ばれる。皮膚が油紙のように見
えるのは真皮細胞に尿酸を蓄積できない
ためで、古典遺伝学的手法により油蚕の
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原因は、(1)キサンチンオキシダーゼ遺伝
子の変異による尿酸生成異常型または
(2)尿酸運搬タンパク質遺伝子変異によ
る尿酸蓄積異常型の 2 通りに区分されて
いる。しかしながら未だ多くの油蚕原因
遺伝子が不明である。
3.カイコ変異体を用いてパーキンソン
病で尿酸が減少する原因を解析できるの
か?
我々はカイコ遺伝子発現大規模解析手
法“カイコ遺伝子機能アノテーションパ
イプライン”を開発し、パーキンソン病
の症状に似た特徴があり、なおかつ尿酸
代謝系に異常を持つユニークなカイコ変
異体系統の DNA マイクロアレイデータを
解析した。その結果、このカイコ変異体
系統ではパーキンソン病原因遺伝子の1
つが尿酸代謝を制御している可能性が示
唆され、これまで知られていなかった尿
酸代謝調節機構を発見した。
この成果はパーキンソン病の病態進行
メカニズムの解明に役立つだけでなく、
カイコ変異体がパーキンソン病モデル動
物として医薬品開発研究で応用できる可
能性がある。
4.掲載論文
“Identification of key uric acid synthesis
pathway in a unique mutant silkworm
Bombyx mori model of Parkinson’s disease”
Tabunoki H et al, (2013) Plos ONE e69130