訪問看護における質向上システム ~ 臨床モジュール - ITヘルスケア学会

IT ヘルスケア
第 4 巻 1 号,May 24, 2009 : 66-69
B-5
訪問看護における質向上システム
~
臨床モジュール活用の有効性について
株式会社ミレニア
キーワード(Key words)
:1.アセスメント
3.OBQI
~
柳 公麿
2.ケースマネジメントフォーム
4. UR
今日ますます顕著にあらわれるであろ
ことや、2006 年度から始まった医療制度
う病院の在院日数短縮化は、医療経済的
改革の一環として、療養病床を 38 万床か
視点が先行し患者や家族の QOL の視点が
ら 2011 年度中に 15 万床まで減らすこと
置き去りにされる危険性を含み、その危
が「医療費適正化計画」の中で国の方針
険性を回避するために、患者にとっては
として決定された背景からも在宅中心の
病院でも在宅でも適切な看護が受けられ、 地域医療に重点が置かれつつあることが
かつ、適切な時期に適切な場所で適切な
分かる。
医療を受けることのできる体制作りが必
一方で、介護者の高齢化及び介護期間
要であると考える。
の長期化並びに高齢者世帯の増加、さら
この体制作りの一役を担う訪問看護ス
には世帯構造の変化にともなう扶養意識
テーションの質向上及び他事業者との連
の変化、女性の社会進出等より家庭の介
携において、臨床モジュールの果たす役
護力は低下しており、患者が在宅での療
割・基本コンセプトを報告する。
養生活を円滑におこなえるための仕組み
や社会基盤の創設が必要であると考えら
1. はじめに
れるようになった。
超高齢化社会が進む日本。日本人の 4
この社会基盤(在宅ケア)における中
人に 1 人が高齢者という社会を迎えよう
心的機能を担う訪問看護ステーションは、
としている。世界でも類をみないこの急
現在、全国にて約 5,700 ヵ所開設されて
速な高齢化にともなって患者の高齢化も
いるが、これは 1999 年に厚生労働省が示
進み、長期入院の増加、国民医療費の増
した目標値には遠く及んでいない。しか
大等さまざまな問題が起こっている。な
し、今後の在宅療養者の増加及び現在の
かでも急速な高齢化による疾病構造の変
社会基盤を考えると、訪問看護ステーシ
化や国民医療費の増大は、医療保険や介
ョンの開設数だけでなく事業規模やサー
護保険制度の改革を余儀なくし、施設中
ビスの質向上など改めて早急な整備が求
心から在宅中心へと地域医療への政策転
められる。
換につながってきている。
1990 年以降、特にこの数年で医療機関
2. 臨床モジュールを使用した取り組み
の平均在院日数が大きく短縮化している
米国でも比較的新しい考え方、OBQI 及び
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UR に基づいた臨床モジュールを使用した
4)アセスメントの見直し(3 ヶ月ごと)
取り組みを弊社訪問看護ステーションに
初回訪問で得たアセスメントと日々の
おいて実行した。
訪問内容を照らし合わせて、現在の目標
OBQI=結果に基づく質管理
UR=適切
の妥当性を検証し、全体的な方向性が誤
な訪問頻度
っていないか、また、目標設定が高すぎ
ないかを再検討していきます。
初回アセスメント
5)チーム制の採用
チームが円滑に回転できるように、月 1
継続アセスメント
回の定例カンファレンスの実施を始め、
アセスメントシート等をスタッフ間での
定例カンファレンス
ケースマネジメント
フォーム
共通のコミュニケーションツールとして
使用します。
6)QI レポート(四半期に一度レポート
オーディット
日々の訪問
として抽出)
①訪問看護終了の理由等
②ADL が悪
化した患者の一覧比較・検討
介入リスト
転倒患者数の比較・検討
臨床モジュールサイクル図
③当期の
④救急ケアを
受けた患者の比較・検討
1)初回訪問時
患者様ひとり一人の生活背景からはじ
3. Plan-Do-Check-Act の 7 つの項目の
まり、全身状態(頭の先から足の爪の先
解説
まで)の観察を時間をかけて行います。
1) 初回アセスメント
(弊社が独自開発したアセスメントシー
管理者が初回訪問で得てきたその患者
トを使用して)その後、48 時間以内に臨
の①生活背景/②頭の先から足のつま先
床モジュールシステムにデータ入力しま
に至るまでの観察できた事実/③本人・家
す。
族の言動などを手がかりに、そこから導
2)目標管理
き出される看護計画を実際に意思決定し
初回訪問時に、患者様・ご家族とご一
システムに入力する。
緒に、
「訪問看護のゴールを設定する」と
2) ケースマネジメントフォーム
いうところからスタートします。
(ただし、
初回アセスメントによって入力された
難病や癌の末期など一部の患者様は除き
情報が一覧できる。また、このシートは
ます)
これから始まっていく日々の訪問の都度、
3)Plan-Do-Check の実行
実際のその場でのその時の患者の状態に
日々の訪問を通して、初回に立てた看
応じて追加・修正・保留・終了などタイ
護計画に変更や修正が発生した時に、常
ムリーに変更可能。
に見直しを行い更新させていきます。
3) 日々の訪問
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その患者宅にはじめて訪問するための
ト」の確認及びそれまでの期間における
手がかりとして存在する初回アセスメン
定例カンファレンスなどを通して提示し
トフォームやケースマネジメントフォー
てきた方向性、また、この 3 ヶ月間の自
ムで情報収集を行った当該システムをベ
分たちの介入の仕方の問題点につき検討
ースに日々の訪問が始まる。
(チーム制を
するために行う。
(質の保証ツール)
採用しているため、各ナースは訪問前に
当該シートをチェックし予習ツールとし
4. 臨床モジュール使用の有効性
て活用)
臨床モジュールを有効活用した結果、
4)介入リスト
ステーションの人材確保・売上確保・利
スタッフが実施している、日々の訪問
益確保・質向上において下記の効果が認
時点で、患者に起こった状態などの変化
められた。
により、ケースマネジメントフォームに
掲載されている看護計画の変更が必要な
Nステーション
12
場合に使用。
(追加・修正・保留・終了)
8,000,000
11
11
11
11
10
7,000,000
10
のいずれかを選択し管理者に提出。管理
9
9
9
6,000,000
8
8
8
8
8
7
者は速やかにデータを看護記録から更新
7
6
6
5
し、新たなケースマネジメントフォーム
4
5,000,000
7
5
5 5
4,000,000
5
3,000,000
4
2,000,000
を出力し、以後の訪問に活用する。
2
2
2
1,000,000
5)定例カンファレンス
0
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
平成 20 年度
毎月 1 回ステーション内にてスタッフ
全員で行う。予めスタッフより議題を提
10月
11月
12月
新規患者
終了患者
売上
Nステーション売上推移
1)ナース人材確保
出しておいてもらい全患者のケアの方向
訪問看護サービスの責任を、現場での
性・訪問頻度・終了の時期・統一事項・
個々のナースに頼る仕組みから、ステー
留意点などをレビューする。その際、常
ション全体での共同責任として運営され
に臨床モジュール上のケースマネジメン
る仕組みへ転換したことにより、ナース
トフォームと照合させカンファレンスを
の訪問看護への就職につき抱える恐怖心
進める。変更のあった場合はケースマネ
や不安を取り除くことができた。結果、
ジメントフォームを更新する。
非常勤ナースを集めやすくなり、チーム
6)継続アセスメント
制の徹底を実現することができた。また、
訪問開始から 3 ヶ月毎に定期的に行い、
状態変化やケアの方向性を再検討する。
管理者が患者のケースを臨床モジュール
により可視化できるため、スタッフへの
その結果がアウトカムレポートに反映し、 指導がしやすくなった。
四半期ごとに実施される QI に使用。(管
2)売上
理者への継続的教育ツール)
当該臨床モジュールシステムの一部で
7)オーデット
ある「訪問看護アセスメントシート」を
各スタッフが行った「継続アセスメン
使用して、バイタル・ADL ほか 26 項目以
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上の身体状態をチェックし、紹介先の Dr.
がった。
またはケアマネジャーに定期的にその結
果を報告することにより、当該機関から
Nステーション 訪問期間
13~18ヶ月
3%
の信頼を得ることができ、新たな患者紹
介が得られるという好循環となった。ま
7~12ヶ月
21%
た、1患者あたりの必要な訪問数につい
19~24ヶ月
0%
ても当ステーションと紹介機関との間で、
1~6ヶ月
76%
本来必要な訪問数のコンセンサスがとり
25~30ヶ月
0%
31~36ヶ月
0%
やくなり、その結果として売上にも貢献
平成 20 年度
できた。
3)利益確保
Nステーション訪問期間
5. まとめ
元来の 1 ナースあたり月間 100 訪問と
臨床モジュールを使用して PDCA サイク
いうスケジュール自体を管理する手法で
ルの可視化及びチーム制への移行による
はなく、チーム制の徹底を管理するとい
スタッフの精神的負担の軽減を図ること
う手法を実施。弊社では 1 患者あたり平
により、人材確保及び経営の安定化並び
均 3 名のナースをチームとして対応し、1
に看護師教育の充実において効果がある
患者の責任は担当ナースの責任という体
と考える。
制から、責任の所属をチームそしてそれ
を管理するステーション側に移行したこ
とにより、現場ナースの労働環境及び精
神的ストレスの軽減が図られ、その結果、
直接人件費を常に 60%以内に抑えること
が可能となり、経常利益率 15~20%の確
保が可能となった。
4) 質向上
当該臨床モジュールより出力される四
半期ごとの「QI レポート」及び「QI サブ
レポート」による定期的な QI ミーティン
グを実施。ステーションの管理者は、QI
レポートより出力される①ADL 低下患者
一覧/②転倒患者一覧/③救急ケア患者一
覧等を通し、これらが何故発生したか、
または未然に防げなかったのか等をスタ
ッフと検討するというプロセスを繰りか
えすことにより質向上及びスタッフの訪
問に対するモチベーションアップにつな
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