東シナ海周辺のM2潮潮汐 の変化に関して - 九州大学

東シナ海周辺のM2潮潮汐
の変化に関して
九州大学 田井明・田中香
本研究の背景
かつて 有明海 = 豊饒の海
湾奥部で水環境の悪化
諫早湾干拓事業などによる潮汐・潮流の変化が疑われる
色落ちしたノリ
諫早湾干拓事業
有明海異変の発生システム図(宇野木・佐々木(2007)より)
諫早湾干拓事業が湾奥の貧酸素化へ与えた影響として
潮汐・潮流の減少が考えられている.
沿岸の開発
汚濁負担の増大
干拓・埋立
異常気象
有明海の体質低下
河川事業
ダム・河口堰
河川改修・採砂
透明度の上昇
歴史的赤潮の大発
生とノリの大凶作
ノリ生産の地域的衰退
品質低下
労働強化
底魚とクルマエビ
資源の衰退
赤潮発生の
基本場形成
潮汐・潮流の減少
タイラギ資源の壊滅
諫早干拓事業
堤防締め切り
流出河川水の
輸送経路変化
表層の密度成層
強化
底層の貧酸素化
調整池の汚濁化
巨大な汚濁負荷
生成システム
底質の泥化・細粒化
干拓・埋立
閉鎖的淡水湖
浚渫・採砂
各種工事・作業
渡り鳥の中継・
越冬地の消失
汚濁に強い底生生物
の以上繁殖
貧酸素化について
酸素供給<酸素消費
貧酸素化
海面からの供給
鉛直輸送
光合成
呼吸
水平移流
酸素消費
死滅
貧酸素水塊
鉛直輸送は密度成層が発達すると小さくなる.
密度成層を破壊する作用は潮流の大きさに支配される.
本研究の目的
有明海湾奥部において
諫早湾干拓事業
潮流の減少
密度成層の強化
貧酸素化
このようなシナリオが実際に生じ得たのか?
潮汐に関する要因の比較
要因1.諫早湾干拓事業以前の湾奥部の干拓による潮汐の減少
要因2.諫早湾干拓事業による潮汐の減少
要因5.18.6年周期の月の昇交点運動による潮汐の変動
要因6.外海の潮汐の変化
大浦を湾奥の代表として考える.
・
・
・
・
要因1
要因2
要因5
要因6
→
→
→
→
1.3cmの減少
0~3cmの減少
10cm以上の増減
3.5~3.7cmの減少
要因5の変化が一番大きい.
以下,要因6>>要因2=要因1となる.
大浦のM2潮振幅
研究背景と目的
l有明海,八代海は日本で潮汐が最も大きな海域である.
l近年,二枚貝をはじめとする漁獲量が減少するなど海洋環境の悪化が生じ,
原因のひとつとして潮汐の減少が考えられている.
l田井ら(2010)は,有明海の潮汐の長期的な減少は,干拓などの人工的な
海岸線の改変よりも外洋潮汐の長期的な減少による影響が大きいことを示
した.
l一方で外洋潮汐の変化に関する研究はあまり進んでいない.
我が国周辺の外洋潮汐の変化とそのメカニズムを明らかにするために,
実測データの解析と数値実験を行う.
潮汐データの解析 –概要l 日本海洋データセンターおよびハ
ワイ大学海面センターより,日本
周辺41箇所の験潮所における潮
汐データを入手した.
l 調和解析を行い,主要38分潮に
分解した.
l 日本近海において潮汐の支配的
な分潮であるM2分潮について検
討を行った.
解析対象とした験潮所
潮汐データの解析 –M2潮の経年変化特性53
52
51
50
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
46
45
44
43
1988
2002
79
M2 tidal amplitude (cm)
47
M2 tidal amplitude (cm)
M2 tidal amplitude (cm)
54
1990
1992
厳原
1996
1998
2000
28
27
1992
1994
1996
1990
1992
1998
父島
2000
2002
1996
1998
2000
2002
1998
2000
2002
79
59
58
57
56
1988
1994
鹿児島
M2 tidal amplitude (cm)
M2 tidal amplitude (cm)
29
1990
76
75
1988
2002
60
26
1988
77
浦神
30
M2 tidal amplitude (cm)
1994
78
1990
1992
1994
1996
那覇
1998
2000
2002
78
77
76
75
1988
1990
1992
1994
1996
福江
l 長期的な変化だけではなく,短期間に急激な変化を示す験潮所が多数あった
ことが分かった.
潮汐データの解析 –急激な変化の発生時期l ラページ検定より,M2潮振幅の
急激な変動が見られた時期は
1998年前後に集中していた.
l 振幅の急激な減少は,東シナ海
沿岸域において生じた.
東シナ海沿岸域において,1998
年前後にM2潮振幅は急激に減
少した.
ラページ検定の結果
1998年前後に振幅が急激に ●…増加した験潮所 (3ヶ所)
●…減少した験潮所 (9ヶ所)
○…その他の験潮所 (29ヶ所)
数値シミュレーション –大領域モデルl 東シナ海沿岸域において,1998年前
後にM2潮振幅が急激に減少した.
l 1998年ごろ,北太平洋において,海面
水位などのレジームシフトが発生した.
l M2潮振幅の急激な変化の要因として
平均海面の変化が考えられる.
M2潮振幅と平均海面の変化の関連
性について,POMを用いた数値シ
ミュレーションで調べる.
l 現在の平均海面を基準に+0m,+1m,
計算対象領域と水深分布 (m)
+5mの海面上昇が生じた場合における
M2潮振幅の変化について調べる.
数値シミュレーション –大領域モデル-
measured value (m)
1.2
0.8
0.4
0
0
0.4
0.8
1.2
simulation (m)
各験潮所における実測とシミュレーション
のM2潮振幅の比較
M2潮振幅分布 (m)
日本近海におけるM2潮の同時潮図
l日本周辺 → 実測値の解析で得られた振幅とよく一致している.
l東シナ海北部 → 同時潮図の無潮点の位置と一致している.
現在のM2潮振幅を良好に再現している.
数値シミュレーション –大領域モデル-
平均海面+1mでの振幅変化(m)
l
l
平均海面+5mでの振幅変化(m)
朝鮮半島西岸,東シナ海北部で増加,特に台湾海峡では増加量が多い.
実測データ解析に見られたような,振幅の減少は再現できない.
数値シミュレーション –有明海・八代海モデルl有明海と八代海を対象にした解析
l+1mの海面上昇により,全域で潮汐振幅が増加
4l
T=
gh
・平均水深を20mとすると,固有周期が2.5%減
・潮流流速減や干潟の面積などによる増幅特性
の変化が原因と考えられる.
数値シミュレーション –博多湾モデルl博多湾を対象にした解析
l+1mの海面上昇により,全域で潮汐振幅が減少
l変化量を非常に少ない
結論
l実測データの解析
九州地方の外洋に面した験潮所において1998年前後にM2潮振幅が急激に
減少した.
l数値シミュレーション
海面上昇によって
M2潮振幅は朝鮮半島西岸,東シナ海沿岸部で増加量が多く,特に台湾海
峡部分では増加が著しかった.実測値データ解析に見られた1998年前後の
変化は海面上昇では説明できない.
今後の検討課題
■密度躍層が影響している可能性 → 内部波によるエネルギー逸散
・夏と冬の期間で調和解析を実施する
・温度成層の影響を考慮可能なシミュレーションを実施する
■その他のエネルギー逸散メカニズムの検討