第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 4節 第 1 主要製造業の課題と展望 第 4 節 表141−1 出荷額、従業者、輸出額、輸入額の推移 鉄鋼業 2005年 1996年 出荷額(億円) 169,303 138,895 従業者(千人) 216 284 輸出額(億円) 32,461 17,954 輸入額(億円) 8,332 4,978 (1)現状(表141−1) 鉄鋼業は、広範な産業分野に、粗鋼ベースで年間 約1億トンの鉄鋼材料を供給する基盤的産業である。 2006年の粗鋼生産量は、堅調な内需などを受け、1億 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 資料:財務省貿易統計、経済産業省「工業統計表」 1,162万トンとなった。 鉄鋼業は典型的な設備集約型産業である。生産地 図141−2 域は日米欧露から世界各地に拡大しており、特に、 中国の粗鋼生産量の増加が著しく、2006年において (万トン) 45,000 は、4億1,878万トンで、1996年から11年間連続して世 40,000 界一となった(図141−2) 。 2006年鉄鋼業界では、ミタル・アルセロールの合 35,000 併を契機とした世界的な業界再編が起こった(表 30,000 141−3) 。 25,000 また、造船、自動車などの生産拡大などを背景と した国内鉄鋼需要の回復などにより2006年度の収益 世界各国の粗鋼生産量推移 CIS 欧州 日本 米国 中国 韓国 台湾 20,000 15,000 は引き続き回復しており、業界の再編・構造改革の 10,000 効果が着実に現れている。 一方、中国経済の成長などにより、2003年秋以降、 5,000 主原料価格等が上昇しており、鉄鋼各社はこの収益 0 98 99 00 01 02 03 04 05 06 (年) 圧迫要因への対応が必要となっている。 資料:日本鉄鋼連盟「主要国の粗鋼生産量」から経済産業省作成。 表141−3 世界の鉄鋼各社の粗鋼生産ランキング (単位:100万トン) 粗鋼生産量 (2006年) 1980年 1990年 1 新日本製鐵 新日本製鐵 アルセロール ミタルスチール(蘭) (注3) ミタルスチール(蘭) (注4) 63.66 2 US Steel ユジノール 新日本製鐵 新日本製鐵 LNM アルセロール(ルクセンブルク) アルセロール(ルクセンブルク) 54.32 3 NKK POSCO JFE(注2) LNM 新日本製鐵 4 フェンシデル ブリティッシュスチール POSCO JFEスチール 5 ベツレヘム NKK LNM POSCO POSCO JFEスチール ポスコ(韓) 31.20 6 住友金属 ILVA 上海宝鋼 上海宝鋼 上海宝鋼 上海宝鋼(中) 上海宝鋼(中) 22.53 7 川崎製鉄 ティッセン ティッセンクルップ コーラス US Steel US Steel(米) US Steel(米) 21.25 8 ティッセン 川崎製鉄 コーラス US Steel コーラス 9 ユジノール 住友金属 RIVA ティッセンクルップ Nucor 10 ジョーン&ローリン SAIL US Steel RIVA ティッセンクルップ 2002年 2004年 2003年 アルセロール(注1) アルセロール 2005年 新日本製鐵 2006年 新日本製鐵 JFEスチール POSCO(韓) JFEスチール Nucor(米) Nucor(米) 33.70 32.02 20.31 コーラス(英) Tangshan(中) 19.06 RIVA(伊) 18.30 コーラス(英) 備考:1.ユジノール、アルベットが合弁合意し、2002年2月にアルセロールに。 2.川崎製鉄とNKKが2002年9月に経営統合し、JFEグループに。 3.LNMがISG(米)を買収し、2005年にミタルスチールに。 4.2006年6月にミタルスチールがアルセロールと統合。 資料:IISI、MetalBulletin資料から経済産業省作成。 107 (2)産業の強みと弱み ①強み 我が国鉄鋼産業は、高張力鋼板、継目無鋼管など の高級鋼分野で技術的に高い競争力を有している。 このため、既にEPAが発効したシンガポール、メキ シコ、マレーシア、署名に至ったフィリピン、チリ、 タイ、大筋合意に達したインドネシア等に加え、今 後、他のASEAN諸国やインド、オーストラリア、 さらに、製鉄プロセスでの廃プラスチックの利用 ASEAN全体などとも、将来的にアジア全体を自由で といった環境技術や省エネルギー技術も、世界最高 円滑なビジネス市場とするために意義のある経済連 水準である。 携を実現することが、鉄鋼貿易の発展、さらには鋼 材を日本から輸入している現地進出日系企業にとっ ②弱み て重要である。 コストが競争力を決定づける汎用鋼分野において は、台頭する中国、韓国などに対して競争力を維持 することは困難になっている。また、高炉一貫製鉄 所では、需要の低迷期においても固定費確保のため に生産量を維持する傾向があるため、結果として過 剰生産を誘発する可能性がある。 また、原材料の多くを海外から調達している我が 2 電線ケーブル・光ファイバ産業 (1)現状 電線ケーブルは、様々な分野で幅広く使用される 中間素材であり、出荷量に占める割合を見ると、ビ ル・住宅用分野は47.0%、電気機械用分野は24.6%、 国は、原材料の調達が困難になった場合等、製造コ 自動車用分野は10.2%、電力用分野は8.6%、通信用 ストや生産体制に大きな影響が出る可能性がある。 分野は2.3%となっている。産業としては、出荷額約 1.4兆円、従業員数約2.9万人という規模である(表 (3)世界市場の展望 世界の鋼材需要を粗鋼換算ベースでみると、2000 年から2006年の7年間で8億5,000万トンから12億4,000 万トンへ3.9億トン以上も増加しており、今後も中国 を始めとするアジア地域を中心に増加が見込まれる。 142−1) 。また、出荷の太宗を占める銅電線の生産量 は年産約86万トンと中国、米国に次ぐ世界第3位の規 模である(図142−2) 。 電線ケーブル産業においては、国際的に競争激化、 過剰設備に対応した業界再編が進展している。欧州 ではNexans(仏)と共に二強を形成していたPirelli (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 国内外の厳しい環境変化に対応し、我が国鉄鋼業 (伊)の電線ケーブル部門が米国投資会社のGoldman Sachsに買収され、Prysmian Cables and Systems(伊) となっている。また、米国でも集約化が進み、ゼネ が今後とも国際競争力を維持するためには、業界再 ラルケーブル、スーペリアの二強体制となっている。 編などによる需要に見合った強靱な生産体制の構築、 我が国電線メーカーは、売上高でこれらと同水準の 技術開発・設備投資などによる商品の高付加価値化 規模にあるものの、国内需要が構造的に減少してい といった取組を不断に続けていくことが必要である。 るため、コスト削減などにより利益を出すことので ②東アジア等グローバル戦略 表142−1 我が国の電線ケーブル・光ファイバ産業の 出荷額、従業者、輸出額、輸入額の推移 今後は、海外に進出したユーザー産業に高品質の 鉄鋼材料を安定的に供給する体制を構築することが 重要である。そのために、適切なアジア鉄鋼市場の 構築に向けて、官民鉄鋼対話等を通して相互理解を 深めていくことが必要である。 また、経済連携協定(EPA)は、日本企業の競争 力を強化する我が国経済活性化の重要な鍵である。 108 05年 96年 出荷額(億円) 14,155 19,619 従業者(千人) 29 46 輸出額(億円) 2,519 1,850 輸入額(億円) 3,919 1,479 備考:出荷額、従業者(全事業所)は、「工業統計表」、輸出入額は 「日本貿易統計」 資料:財務省貿易統計、経済産業省「工業統計表」 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 図142−2 一方、光ファイバ産業については、2001年のITバ 世界の銅電線生産量 ブル崩壊以降国内需要は3年連続で減少していたもの 数量(千トン) 3,000 の、2005年度はFTTH加入数の旺盛な伸びもあり、再 第 4 節 び増加に転じ、2001年のピーク時の7割の水準まで回 2,500 復した。国際的には、2001年に古河電工がルーセン ト(米)の光ファイバ部門を買収し、コーニング 2,000 (米)に次ぐ世界第2位の市場シェアを占めるなど業 1,500 界再編の動きもあったが、世界の主要メーカーは、 市場シェアが高水準にあるコーニングを各社が追っ 1,000 て、激しい競争を続けている状況にある。 (現在、日 本企業3社(古河電工、住友電工、フジクラ)で世界 500 シェア約3割強を占めている状況。 ) 0 96 97 98 99 アメリカ ドイツ 00 01 日本 イタリア 02 03 04 05(年) フランス 中国 資料:日本電線工業会「電線工業の概況」より経済産業省作成。 備考:World Metal Statistics(2005.7)によるCopper wire(半製 品)の生産量から推定。但し、日本は経済産業省「鉄鋼・ 非鉄金属・金属製品統計月報」。 (注)1.フランスの数字はCopper wire以外の製品も含む。 2.中国の2005年は、2005年の銅地金消費量の対前年比か ら推定。 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 我が国電線ケーブル産業は、超高圧電力ケーブル 製造技術、超電導ケーブル製造技術などで高い技術 力を有しており、これらの技術を活かしつつ、近年 ではワイヤーハーネス等の自動車分野、電子部品等 のエレクトロニクス分野等幅広く事業を多角化し、 国際競争力を維持・強化している。 きる収益構造への転換を推し進めている(表142−3) 。 このような中で、国内においては、足下の景気の回 復基調を受け、住宅・民間設備投資の好調等から、 ②弱み ビル・住宅用電線分野における小口切り分け配送、 電線ケーブル産業においても一部回復の兆しが見ら 時間指定配送などの商慣行や電力用電線分野におけ れるものの、依然として、公共投資の減少、ユーザ る技術力、メンテナンスサービス能力などの必要性 ー産業の海外移転などの影響により国内需要が低位 により、これらの用途分野の国内需要は国内生産で に推移していることから、電力用、ビル・住宅用、 対応しているが、電力用電線分野などの構造的な需 電気機械用の各分野で企業グループを超えた事業統 要減少もあり、国内市場は成熟した状態にある。 合や過剰設備の処理が進み、業界再編が進展してい る。電力用電線分野は既に大手3グループ体制(住友 (3)世界市場の展望 電工+日立電線、古河電工+フジクラ、三菱電線+ 自動車、家電産業などユーザー産業の海外移転に 昭和電線)となり、ビル・住宅用電線分野でも販売 より巻線や機器用電線の国内需要減少が続いていた 事業における企業グループを超えた提携(住友+日 が、重電や電装品向けの需要が堅調に推移すること 立電線+タツタ電線、フジクラ+三菱電線)が進展 から、電線ケーブルの需要については、今後は微増 し、この他にも分社化、子会社の統合、電線販売会 基調に推移する見込みである。一方、国内外の光フ 社の合併などのグループ内再編の動きも見られる。 ァイバ市場については、中国、米国市場が活発であ また、これらの分野に携わっていた労働力を再訓練 るものの、ITバブル崩壊以降国内需要は減少してい した上で光通信部品、自動車電装用部品などの伸長 た。しかしながら、今後は、FTTH加入数の旺盛な伸 分野に従事させるなど、経営資源の選択と集中に基 びにより緩やかに需要は回復することが見込まれる。 づく経営が進められている。 109 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 表142−3 主要企業(電線・ケーブル製造業)の売上高・営業利益・営業利益率・ROA 主要企業(電線・ケーブル製造業)の売上高・営業利益・営業利益率・ROA (単位:億円、率:%) 売上順位 企業名 国 売上高 営業利益 営業利益率 ROA 総資本 1 住友電工 日 20,071 1,055 5.3 5.3 ※2 19,910 2 古河電工 日 8,725 374 4.3 3.6 ※2 10,523 3 ピレリ 伊 6,227 486 7.8 3.3 ※1 14,805 4 ネクサンス 仏 5,839 255 4.4 5.6 ※1 4,553 5 フジクラ 日 5,031 394 7.8 8.4 ※2 4,673 資料:各社決算資料から経済産業省作成 備考:1.売上高及び営業利益には、他部門の売上高を含む。(電線・ケーブル部門のみ抜き出すのは不可能なため) 2.上記表は他部門も含む売上高の多い順に並べただけであり、業界内の順位は表していない。 3.ROA=営業利益/使用総資本×100で計算。 4.※1は2005年の連結決算、※2は2005年度の連結決算の数字を使用。 5.1ドル=109.64円、1ユーロ=136.97円で計算し、売上高・利益は「億円」で表示。 6.ピレリの電線ケーブル部門はゴールドマンサックスに売却され、2005年10月からPrysmian Cables and Systems(伊)となっている。 主要企業(光ファイバ製造業)の売上高・営業利益・営業利益率・ROA (単位:億円、率:%) 売上順位 企業名 国 売上高 営業利益 営業利益率 ROA 1 住友電工 日 20,071 1,055 5.3 5.3 ※2 19,910 2 古河電工 日 8,725 374 4.3 3.6 ※2 10,523 3 フジクラ 日 5,031 394 7.8 8.4 ※2 4,673 4 コーニング 米 5,020 641 12.8 5.2 ※1 12,287 総資本 資料:各社決算資料から経済産業省作成 備考:1.売上高及び営業利益には、他部門の売上高を含む。(光ファイバ部門のみ抜き出すのは不可能なため) 2.上記表は他部門も含む売上高の多い順に並べただけであり、業界内の順位は表していない。 3.ROA=営業利益/使用総資本×100で計算。 4.※1は2005年の連結決算、※2は2005年度の連結決算の数字を使用。 5.1ドル=109.64円、1ユーロ=136.97円で計算し、売上高・利益は「億円」で表示。 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 線を現地で生産し、我が国に逆輸入する(アウト− イン)の貿易が増大していることも近年の傾向であ 利益率の高い企業体質へ転換するため、電線ケー る。今後、新たな市場としては、ユーザー産業の潜 ブル・光ファイバ部門における業界再編の一層の進 在的市場であるインド等が考えられるが、今後、ユ 展が期待される。また、各社の得意技術を活かし光 ーザー産業の進出状況も勘案しつつ進出が進んでい 通信部品、新材料、電子部品などの新規事業分野に くものと思われる。 展開するため、研究開発の強化や積極的な設備投資、 戦略的事業提携などを通じて、世界市場を視野に入 れた事業活動の展開が期待される。 3 アルミニウム圧延業 (1)現状(表143−1) ②東アジアを中心としたグローバル戦略 我が国電線ケーブル産業が競争力を有する超高圧 我が国アルミニウム産業は、1980年代に国内での アルミニウム製錬事業から撤退しており、現在は、 電力ケーブル、海底ケーブルなどについては、国内 を中心に生産を行っているが、一方で、労働集約的 表143−1 我が国アルミ圧延業の出荷額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 で価格競争の激しい家電・自動車用電線などは、80 年代から、ユーザー産業の進出に伴う形で台湾、 ASEANなどへ進出している。さらに、世界の電線ケ ーブル企業は、中国がWTOに加盟した2001年以降は 中国への進出を拡大しており、現地市場への供給拡 大に向けて競争が激化している。なお、自動車用電 110 05年 96年 出荷額(億円) 9,248 10,155 従業者(千人) 15 16 輸出額(億円) 1,048 722 輸入額(億円) 450 408 資料:経済産業省「工業統計表」、財務省貿易統計 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 表143−2 我が国企業の世界における位置付け(アルミニウム圧延) (単位:億円、率:%) 売上順位 企業名 国 売上高 営業利益 営業利益率 ROA 1 ハイドロ 諾 29,853 7,957 26.7 20.4 2 アルコア 米 28,681 1,352 4.7 3.7 3 神戸製鋼 日 16,673 2,204 13.2 10.6 4 ノベリス 加 9,169 680 7.4 11.3 5 昭和電工 日 8,119 572 7.0 5.8 6 日本軽金属 日 5,771 289 5.0 5.4 7 住友軽金属 日 2,995 171 5.7 4.3 8 古河スカイ 日 2,094 144 6.9 6.2 9 三菱アルミ 日 1,120 61 5.4 5.7 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 備考:1.売上高、営業利益(率)は当該部門以外の事業分野を含む全社ベース。 2.上記表は、当該業界での順位とは必ずしも一致しない。 3.外国企業は05年の連結決算、我が国企業は05年度の連結決算の数字を使用。 資料:各社決算資料から経済産業省作成。 原料となるアルミニウム新地金のほぼ全量を輸入し、 板や押出等のアルミニウムの加工製品を製造するア 図143−3 世界のアルミ圧延出荷量(2005年) (千トン) 4,000 ルミニウム圧延業が中心である。 アルミニウムは、鉄の約1/3の軽さであり、錆び 3,000 にくく加工性が良い等の優れた特性を有する。この ため、板や押出等の加工製品は、自動車を主とした 輸送分野、建設分野、電気機械器具、食品包装等の 2,000 1,000 広範な分野で利用されており、様々な製品に必要不 可欠な中間素材として、需要が拡大する傾向にある 0 ア ル コ ア ととともに、用途の多様化が進んでいる。特に、昨 今では、地球環境保全の観点から自動車軽量化が推 ノ ベ リ ス ハ イ ド ロ 日 本 進されている背景の下、自動車におけるアルミニウ ム部材の適用が拡大している。また、アルミニウム 資料:経済産業省調べ。 はリサイクル性に優れていることから、製品スクラ ップの価値が高く、飲料用アルミ缶に代表されるよ うに、国内においてリサイクル活動が展開されてい る。 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 品質に関する要求レベルが高い自動車業界等国内 アルミニウム圧延業は、出荷額9,248億円、従業員 ユーザーに対して、高品質・小ロット多品種の製品 数1万5千人という規模である(表143−1) 。海外にお を製造・供給できる「ユーザー対応力」が国際競争 いては、製錬等の川上工程を持つアルコア(米) 、ハ 力の源泉となっている。我が国アルミニウム圧延業 イドロ(ノルウェー) 、圧延専業のノベリス(加)の が今後も持続的に発展していくためには、先駆的な 欧米3大メジャーによる寡占体制にあるが、これと比 国内ユーザーとの連携を重視した形での事業展開を 較して我が国のアルミニウム圧延企業の規模は小さ 推進していくことが重要である。 い(表143−2、図143−3) 。我が国企業の事業形態と しては、主としてユーザーにより調達・支給された 地金を加工する賃加工(ロールマージン)方式を採 っている。 第 4 節 ②弱み 資本力を活かして規模のメリットを得る欧米企業 の大量生産・専門工場方式と比較すると生産性で劣 っており、また、企業規模の違いにより、研究開発 111 投資規模にも格差が生じている。 本の基幹産業である(表144−2) 。 2006年度、日本の化学産業は中国市場の旺盛な化 (3)世界市場の展望 学品需要や原油等原材料価格高騰に伴う価格改定の 国内では、近年、住宅建設、ビル建設などの低迷 取り組み等により、多くの化学企業で増収となった を受け、アルミサッシを主とする建設向けの需要が が、部門別に見ると、製品分野においては、石油化 落ち込んでいるが、世界では、特に中国において、 学部門では利益率が圧縮傾向である一方、高度部材 建設向けを中心にアルミニウム需要が増大しており、 等を中心とした機能性化学品部門では増益傾向が見 今後の成長が期待されるマーケットである。 られる。 また、地球環境保護の観点から、国内外で自動車 日本の化学産業は出荷額で世界第2位であるにもか の軽量化が進められていることを背景に、自動車向 かわらず、企業別売上高では、世界第10位が最高で けのアルミニウム部材の適用が拡大している。 あるなど、我が国の化学産業は海外と比べ企業規模 は大きくない(図144−3) (図144−4) 。 (4)我が国産業の展望と課題 表144−1 我が国の化学産業の出荷額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 ①今後の競争力強化に向けた対応 加工工程において更なる競争力の強化を図る観点 から、1)国内の家電・自動車等のユーザー産業との 04年 95年 積極的な垂直連携、2)合金開発力の強化、3)材料 377,673 371,676 の組成制御から、表面処理、成形、接合などまでを 視野に入れた一連の圧延プロセス技術の強化等が必 要であり、また、中長期的なアルミニウム圧延産業 出荷額(億円) 従業者(千人) 897 993 輸出額(億円) 67,580 39,139 輸入額(億円) 44,291 26,944 資料:財務省貿易統計、経済産業省「工業統計表」 の発展の視点から、次世代を支える人材の育成等の 表144−2 我が国製造業の付加価値額(兆円) ために産学連携の強化が重要である。 付加価値額(兆円) 製造業における割合 98.6 100% 1 化学工業 16.7 16.9 中国、東南アジアを中心に、ユーザー企業の海外 2 輸送用機械器具製造業 14.3 14.5 進出に併せて進出し、現地でアルミニウム製品の供 3 一般機械器具製造業 10.4 10.5 4 食料品製造業 8.7 8.8 給を行う形態が主となっている。今後の海外におけ 5 電気機械器具製造業 6.3 6.4 ②東アジアを中心としたグローバル戦略 る事業活動を円滑化するためには、現地での原材料、 製造業 順位 資料:経済産業省「工業統計表」 電力、人材等の調達環境や、公害防止、規格、計測 等の社会インフラ、直接投資、取引慣行ルール等の ビジネスインフラ等の整備が重要である。 図144−3 主要国の化学工業の出荷額推移(2004年) (十億ドル) 600.0 500.0 4 化学産業 (1)現状(表144−1) 400.0 300.0 化学産業は、日常生活に必要不可欠であるプラス 200.0 チック、化粧品、洗剤、写真用フィルム、タイヤ等 100.0 ゴム製品など、広範な分野にわたる素材や最終製品 0 を供給するとともに、今後の日本の有望な成長分野 であるバイオやITなどにも高度部材として使用され る、我が国製造業の中で付加価値額第1位を占める日 112 ア メ リ カ 日 本 ド イ ツ 中 国 フ ラ ン ス イ タ リ ア 資料:米国化学工業協会(ACC) イ ギ リ ス ブ ラ ジ ル イ ン ド ロ シ ア カ ナ ダ メ キ シ コ 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 図144−4 主要化学企業の売上高・営業利益(2004年) 化 レ 東 学 I IC 友 住 e Fo rm os H un ts Ai e Li qu 化 id 学 p. 井 三 m zo Ak an N C or ob el up ro sa us s as Pl a le tro Pe 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 C hi na tic D um al oy R G C BI eg 学 化 ic 三 菱 SA al r m &C he Ba ye BP l ta il nM ob he xo Ex ut D To t ch /S uP on SF D BA ll 営業利益 ow D 第 4 節 売上高 C he m ic al (100万ドル) 45,000 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 ▲5,000 資料:Chemical & Engineering News グローバル市場で国際競争力が激化する中、今後、 図144−5 機能性化学品分野の日系企業シェア 半導体材料市場における日系企業シェア 海外の巨大な化学企業との競争に勝ち抜いていくた めには石油精製産業等との異業種間での連携や同業 種間での事業再編などを進め規模を拡大する、また 外国企業 26.9% 日系企業 73.1% 2005年市場規模(実績) 2008年市場規模(予測) 2兆8,029億円 3兆6,644億円 は、成長が予想されるニッチ分野を開拓し、利益率 を高める必要がある。 (2)我が国企業の強みと弱み 液晶ディスプレイ材料市場における日系企業シェア 外国企業 34.8% 日系企業 65.2% 2005年市場規模(実績) 2010年市場規模(予測) 3兆2,119億円 5兆3,170億円 ①強み 我が国化学産業では液晶ディスプレイや半導体な どの材料として使われる機能性化学品に強みを有し ている。この分野では、ユーザー産業のニーズに的 資料:「2006年半導体材料データブック(電子ジャーナル)」及び 「2006年液晶関連市場の現状と将来展望(富士キメラ総研)」 より経済産業省作成 確に応える素材の供給をフレキシブルに行う提案型 ビジネスを展開しており、液晶ディスプレイ用材料 いては、中国等からの輸入品に圧迫されており、ま では約65.2%(市場規模約3.2兆円) 、半導体用材料で た、石油化学汎用品においても、旧式で小規模な生 は約73.1%(同約2.8兆円)と我が国企業が世界市場 産設備、高い原材料コストなどを背景に、中東、ア で高いシェアを占めている(図144−5) 。 ジア諸国と比較して、不利な競争を強いられている 一方、石油化学汎用品の分野では、ポリプロピレ という点が挙げられる。特に、ポリエチレンなど差 ン等の製品開発余地の大きな化学品において、高い 別化余地の乏しい汎用品については、安価な天然ガ 競争力が発揮されており、アジアを中心に生産拠点 スを利用する中東に立地する生産拠点や、大規模に の海外展開も進められている。また、エネルギー利 事業展開する石油メジャー系の化学企業などに比較 用効率を高める工夫や連産品の有効利用など、生産 して、劣位にあることは否めない。 技術面で大きな蓄積を有する点も強みとなっている。 (3)世界市場の展望 ②弱み 技術的な優位性の発揮しづらい汎用のプラスチッ ク加工製品などの低付加価値、労働集約的製品につ 毎年、経済産業省化学課で公表している「世界の 石油化学製品の今後の需給動向について」によれば、 2011年までのエチレン系誘導品の世界全体の需要の 113 伸びは年平均4.1%と予想される一方、供給の伸びは (製品)の製造・輸入者に対しても、含有される化学 中東及び中国・インドにおける大規模プラントの新 物質について登録や届出等が義務付けられている。 増設により年平均で4.4%と需要を上回り、国際競争 こうした環境規制に対応するためには、製品に含ま が今後激化することが予想される。 れる化学物質の情報をサプライチェーンを通じて円 アジア市場、特に中国やインドでは中産階級の増 滑かつ効率的に伝達することが不可欠となっており、 加により、今後、自動車や情報家電分野における需 2006年9月に業種横断的な産業界の取組として、製品 要の大幅な拡大が期待されていることから、機能性 に含まれる化学物質の情報管理方式の共通化を進め 化学品分野など他国に比べ優位性を有している化学 る「アーティクルマネジメント推進協議会」を発足 品にとって、これらの地域は有望な輸出市場である させ、適切な化学物質管理体制の構築に向けて検討 といえる。 を進めている。 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 まず、石油化学産業について見ると、今後、中国、 ②東アジア等グローバル戦略 石油化学製品に関しては、技術的に優位性の有る 誘導品については、川下製品の海外展開に伴い、ま 中東における大規模プラントの新増設によりアジア た拡大する需要を求め、アジア市場への積極的展開 市場における競争が一層激化することが予想される。 を進める一方で、量的拡大で競う汎用品については、 このような環境変化に適切に対応し国際競争力を維 安価な原材料を求め、中東諸国に進出していく動き 持、強化していくためには、原料の効率的調達体制 も見られる。 の構築、原料多様化の推進、コンビナート全体最適 また、機能性化学品に関しては、技術流出が致命 を見据えた生産体制の整備などを行っていく必要が 的となる付加価値の大きい分野は国内で製造する一 ある。 方で、市場へのアクセスや費用コストの削減が重要 次に、機能性化学産業については、液晶ディスプ な分野については、独資による進出等必要な措置を レイや半導体の材料などに代表される付加価値が大 講じた上で、今後の高成長市場である中国等へ進出 きく国際競争力の非常に強い材料を製造し続けてい している。 くために、今後拡大が見込まれる需要に見合った設 備投資を進めるとともに、高付加価値製品を作り出 せる人材を育成することが重要である。 また、グローバル規模での人材移動が活発化する 5 ガラス(板ガラス及び機能性ガラス) (1)現状(表145−1) なか、不用意な技術流出を防ぎ、競争力の源泉であ 板ガラス産業は典型的な装置産業であり、限られ る技術を保有し続けるためには、例えば、国内で技 た企業により事業が展開されている。国際的な産業 術のブラックボックス化を図る、退職者を技術指導 構造を見ると、国内メーカー3社(旭硝子、日本板硝 者として再雇用し、退職者による技術流出を予防す 子、セントラル硝子)を含め、主要7社で世界市場 る、更には企業価値向上の観点から株主・投資家の 理解を得つつ、買収防衛策を導入するなど、技術流 表145−1 我が国板ガラス製造業の出荷額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 出に対する各種防止措置を講じていくことも必要で ある。 さらに、人の健康及び環境の保護の観点から適切 な化学物質管理が求められている。欧州では2007年6 月に新たな化学物質管理規制(REACH規則)が施行 される予定となっており、同規制では化学物質の製 造・輸入者だけでなく、化学物質を含有する成型品 114 05年 95年 出荷額(億円) 1,290 2,582 従業者(千人) 12 13 輸出額(億円) 320 100 輸入額(億円) 480 149 備考:従業者は「窯業建材統計」のうち、板ガラス・安全ガラス、複 層ガラス、ガラス繊維の従業者数を記載(平成14年より集計方 法変更)。 資料:財務省貿易統計、経済産業省「窯業建材統計」 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 (3)世界市場の展望 (中国を除く)の7∼8割を占める供給体制となってい 板ガラス産業は、品質向上や高機能化のため、 る。 一方、機能性ガラスは、液晶(LCD)やプラズマ 次々と新商品を生み出し市場を発展させてきた。今 (PDP)用のディスプレイ用基板ガラス、パソコンや 後の市場を展望すると、国内では建築需要の低迷に サーバー用の磁気ディスク用基板ガラスなどがあり、 より低調に推移していくものの、付加価値の高い複 それぞれの分野に属する企業がその技術力を活かし 層ガラス、防犯ガラス、防災ガラスは、需要の伸び て、ユーザーから要求される素材の開発・製造を行 が見込まれる。 アジア地域では板ガラスの需要は拡大していくも っている。 のと見込まれるが、高付加価値製品の需要の拡大に (2)我が国産業の強みと弱み はまだしばらく時間がかかるものと考えられる。 ①強み 機能性ガラスのうちディスプレイ関連については、 我が国の板ガラス産業は、技術・品質管理能力の 2006年3月、国内ではブラウン管(CRT)用ガラスの 面で世界最高水準にある。特に、平滑性に富んだも 生産が終了し、LCDやPDPへの移行が急速に進んで の、軽量化に対応した薄板ガラスなどの分野では高 いる。一方、韓国・台湾においてもディスプレイ用 い競争力を有している。 基板ガラスの需要は拡大している。その他の機能性 機能性ガラス産業は、国内企業が高い技術力に支 ガラスについても、需要の変動はあるものの、趨勢 えられた優位性を保持しており、当面、大きな変動 としては着実に需要が拡大していくものと予想され はないと見込まれる。 る。 (4)我が国産業の展望と課題 ②弱み 我が国の板ガラス産業は、燃料や主原料(珪砂、 ①今後の競争力強化に向けた対応 ソーダ灰など)を輸入に依存しているためコストは 今後、我が国の板ガラス産業が競争力を維持する 総じて高く、国内メーカーの利益率は海外メーカー ためには、規模の経済の利点を生かしながら、引き に比較して低い(表145−2) 。2004年度以降続いてい 続きグローバルな事業活動を行っていく必要がある。 る石油や原材料などの価格高騰の影響が若干残るも 2006年6月、我が国の板ガラスメーカーによる欧州の のの、国内メーカーは建築用板ガラスについて値上 大手メーカー買収が完了したことにより、ガラス産 げを発表するなど、コスト上昇分のカバーに努めて 業の世界的再編が見込まれ、その動向が注目されて いる。 いる。 表145−2 我が国企業の世界における位置付け(ガラス) (単位:億円、率:%) 売上順位 企業名 国別 売上高 営業利益 営業利益率 ROA 1 サンゴバン 仏 61,271 5,471 8.9 3.9 2 旭硝子 日 16,205 1,366 8.4 2.1 3 PPG 米 12,836 1,492 11.6 7.1 4 * ピルキントン 英 5,223 451 8.6 − 5 日本板硝子 日 2,659 84 3.2 1.3 6 セントラル硝子 日 1,967 177 9.0 4.3 備考:1.上記は有価証券報告書及びAnnual Reportより経済産業省作成。 * 2006年6月、日本板硝子(株)による買収で非上場となり、2005年度Annual Reportは非公開となったため、2006年度会社概要資料よ り作成。 2.決算期は、サンゴバン、旭硝子及びPPGは2006年12月末、ピルキントン、日本板硝子、セントラル硝子は2006年3月末。 3.財務データは、ガラス以外の事業分野を含む企業全体ベース。 4.ROAは、総資産当期利益率を採用。 5.レートは、月中平均値の会計期間の平均値を採用。 115 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 また、市場ニーズを先取りした高機能・高付加価 ブルグ(独)及びイタルチェメンティ(伊) )による 値製品の提供を進めるとともに、これを可能とする 寡占化が進み、2005年末の販売数量は、約4億トンと 一段と高いレベルでの技術開発力及び生産技術力の 世界の需要の19.0%を占める。 一方、我が国セメント市場は、公共投資の削減、 確保が重要であり、ガラスの組成設計技術、表面処 理技術、複合化技術、精密加工技術などの技術の優 民間需要の不振により、2000年度以降、国内需要量 位性を確保していくことが期待される。 が減少しており、1990年度のピーク時には8,629万ト ンあった国内需要量は、2004年度5,757万トンまでに ②東アジア等グローバル戦略 減少している。2005年度は、災害復旧事業など一時 我が国ガラスメーカーは、テレビやパソコン等に 的要因により対前年比2.5%増の5,909万トンとなり、 利用されているブラウン管用ガラスの国内生産を中 2006年度の国内需要量は、住宅着工など民需の増加 止し、海外生産に切り替えた。 もあり前年度とほぼ同様の5,900万トンと推定されて 一方、ディスプレイ用基板ガラスの製造について いる。 は、熱収縮性や超平坦性などの高度な品質が要求さ セメント産業は、キルンの廃棄・休止、流通の合 れていることから、我が国のメーカーの主要な製造 理化や廃棄物受入れの新ビジネスの立上げを行った。 工程は国内で行われていたが、韓国・台湾等におけ 現在、収益性は回復傾向にあるが、営業利益率は業 る需要の拡大に対応するため、製造工場あるいは切 界平均で6%程度の状況にあり、海外メーカーに比較 断や洗浄等の加工工場を同国内に設立している。 して収益力が劣っている(表146−2) 。 6 (2)我が国産業の強みと弱み セメント産業 ①強み (1)現状(表146−1) 我が国セメント産業は、世界でもいち早く工場 我が国セメント産業の2005年度の販売数量は6,843 表146−1 我が国セメント産業の売上高、従業者、 輸出額、輸入額の推移 万トンであり、その出荷割合を見ると、生コンクリ ート73.8%、輸出15.0%、セメント製品12.9%となっ ている。 2005年の全世界のセメント需要量は22億6,900万ト ンと推定され、我が国では5,900万トン(2.6%)の需 要量を持っている。 国際的には、セメントメジャー5社(ラファージュ (仏) 、セメックス(墨) 、ホルシム(瑞) 、ハイデル 表146−2 05年 96年 出荷額(億円) 3,919 6,907 従業者(千人) 9 16 輸出額(億円) 260 577 輸入額(億円) 40 30 備考:輸出額はセメント及びクリンカ(中間製品)の合計額 資料:出荷額は経済産業省「窯業・建材統計」、従業者は「(社)セメン ト協会統計」、輸出額、輸入額は財務省貿易統計 我が国企業の世界における位置付け(セメント) (単位:億円、率=%) 売上順位 企業名 国 売上高 営業利益 営業利益率 1 ラファージュ 仏 22,676 3,374 14.9 2 セメックス 墨 18,076 2,935 16.2 3 ホルシム 瑞 16,806 3,018 18.0 4 ハイデルブルグ 独 11,080 1,434 12.9 5 太平洋セメント 日 9,067 620 6.8 6 イタルチェメンティ 伊 7,100 1,088 15.3 備考:1.売上高、営業利益、営業利益率はセメント部門以外の事業分野を含む全社ベース。 2.上記表はセメント産業界での順位とは必ずしも一致しない。 3.外国企業は05年の連結決算、我が国企業は05年度の連結決算の数字を使用。 資料:各企業の有価証券報告書及びアニュアルレポートから経済産業省作成。 116 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 設備の近代化、省エネルギー化、廃棄物受入れな 市況も低位で推移している。 第 4 節 どに取組み、世界でもトップクラスの技術力を有 (3)世界市場の展望 している。 熱エネルギー原単位(セメント1t作るのに必要 2005年の世界の生産量は22億6,900万トンと推定さ な熱エネルギー使用量(石炭換算値))を見ると、 れており、これを国別に見ると、中国、インド、米 1960年度には200キログラム強であったのが、1990 国、日本、韓国の順となっている(表146−4) 。 年度には105キログラムまで低減されている(図 近年、中国、インド及び東南アジアのセメント需 要量が急増しており、中でも中国の需要量は伸びが 146−3)。 また、セメント産業は社会的要請の下、廃タイ 著しく2005年には10億7,400万トンと世界の需要量の ヤ等の廃棄物等を積極的に受入れ、セメント原燃 43.4%を占める。今後も世界の需要は、中国を始め 料として再資源化することにより資源循環型社会 とするアジア地域を中心に着実な増加が見込まれる。 形成に貢献しており、2010年度におけるセメント 生産1トン当たりの廃棄物等使用量を400キログラ ムに拡大することを目標としているが、2004年度 時点で401キログラム、2005年度においても400キ ログラムとなり、2年続けてこれを達成した。 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 我が国セメント産業は、生産性の低いキルンの廃 棄・休止、流通の合理化、廃棄物受入れなどにより、 収益率の改善を図っている。今後、国際競争力を強 ②弱み 化するためには、一層の技術開発、海外進出などの セメント国内需要の7割を占める生コンクリート業 市場開拓によって、財務基盤及び体質の強化を図る 界は、参入障壁が低いため過当競争が生まれやすい 必要があると考えられる。また、国内需要がさらに 体質にあることや最終ユーザーに対する生コンクリ 減少し、国内生産能力の過剰が一定以上に増大した ート業界の価格決定力が弱いことから、価格が低迷 場合には、更なる業界再編の必要性も生じるものと し生コンクリート市況の煽りを受ける形でセメント 考えられる。 図146−3 熱エネルギー原単位の推移 (kg/t-セメント) 220 200 180 160 140 120 100 1960 1975 1990 2005(年度) 備考:石炭(6,200kcal/kg)換算値 資料: (社)セメント協会 117 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 表146−4 世界主要国のセメント生産量推移 (単位:万トン) 01年 02年 03年 04年 05年 中国 62,717 70,414 86,200 93,400 107,400 インド 10,866 11,980 12,036 12,760 13,000 米国 8,890 8,973 9,210 9,500 9,750 日本 7,946 7,636 7,380 7,237 7,354 韓国 5,366 5,642 5,919 5,575 4,938 スペイン 4,052 4,242 4,476 4,660 4,800 イタリア 3,990 4,150 4,351 4,605 4,605 備考:クリンカ輸出を含む。 資料:(社)セメント協会、CEMBUREAU(欧州セメント協会) ②東アジア等グローバル戦略 アジアでは、セメントメジャーが先行投資を行い、 工作機械産業は、我が国製造業の基盤となる産業で ある。 中でも東南アジア各国の生産量にセメントメジャー5 我が国の工作機械の生産額は、1982年から2006年 社が占める割合は、インドネシアで94%、フィリピ まで25年間連続世界第一位となっている(図147−2) 。 ンで90%、タイで59%と高くなっている。 工作機械の市場は、企業の設備投資と強い関連を持 我が国セメント産業の海外進出は、2005年末現在 つため、景気の変動に大きく影響を受ける。2002年 では韓国、中国、米国を含む8か国23工場で生産能力 の我が国工作機械メーカーの受注額は、過去最大で は3,793万トンに上っている。 あった1990年の半分以下の6,758億円まで縮小した。 セメントメジャーによる欧米、アジアの寡占状況 しかし、2003年以降、自動車製造業の設備投資と金 を踏まえると、海外進出において残された市場は、 型をはじめとする一般機械器具製造業の生産能力の 中国、ベトナム、インドであると言われている。 増強や老朽設備の更新及びIT投資が活発であったこ 中国では、生産能力10.8億トンの生産設備の多く と、また中国をはじめとするアジア市場の拡大や欧 が非効率な小型の竪窯であり、高効率化へ向けての 米市場の回復によって2003年は8,511億円、2004年は1 改善が急務となっている。 兆2,362億円、2005年は1兆3,632億円と順調に拡大し 2005年末現在の中国での外国資本の参入状況は、 ており、2006年はさらに建設機械など一般機械器具 33工場で生産能力3,767万トンであるが、中国のセメ 製造業の生産増、造船・鉄鋼など重厚長大産業が好 ント需要量の4%に過ぎない。今後、中国においては 調だったことなどから、1兆4,370億円と過去最高額 セメント産業の近代化と需要の拡大が確実に見込ま となった。 れるため、セメント流通、生コンクリート、コンク 受注の増加に伴い、各社とも設備増強や工場の建 リート製品などの川下展開を含め、我が国セメント 設・拡張など生産体制の強化を進めているほか、オ 各社の中国進出の拡大が予想される。 ークマと大隈豊和(現オークマ) 、豊田工機と光洋精 工(現ジェイテクト)の合併、シチズン時計、シチ 7 工作機械産業 表147−1 我が国工作機械産業の受注額、従業員、 輸出額、輸入額の推移 (1)現状(表147−1) 工作機械は、金属などの材料から切削、研削など によって不要な部分を取り除き、必要な形状に作り 上げる機械である。金属製部品や金型のほとんどが 工作機械で加工されるため、工作機械は「マザーマ シン(機械を作るための機械) 」とも称されており、 118 90年 96年 04年 05年 06年 受注額(億円) 14,121 9,382 12,362 13,632 14,370 従業員(千人) 37 28 22 23 24 輸出額(億円) 4,558 5,917 6,831 8,151 9,215 輸入額(億円) 686 644 882 1,075 1,356 資料:(社)日本工作機械工業会「工作機械受注実績調査報告」、財務 省貿易統計、経済産業省「機械統計」 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 図147−2 主要国の切削型工作機械生産高(円ベース) を実現させる優れた技術力を基盤とした高い開発力 を有している。 日本 アメリカ イタリア ドイツ スイス 中国 台湾 韓国 イギリス ロシア 第 4 節 ②弱み (百万円) 1,600,000 海外市場においては、低級・中級機分野に競争力 を有する中国、韓国、台湾メーカーの躍進がめざま 1,400,000 しく、アジア市場を中心にシェアを拡大している。 1,200,000 また、欧州メーカーのアジア市場への参入も進めら 1,000,000 れているなど、海外メーカーとの競争は激しさを増 800,000 しており、我が国工作機械メーカーはより一層の競 争力強化を求められる状況となっている。 600,000 一方、国内を見ると年間受注額1兆円規模の国内市 400,000 場の中に、大小100社以上の企業が存在しており、一 200,000 0 部の大手を除いて、各社が研究開発等に十分な経営 資源を投じられているとは言いがたい状況となって 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 (年) 備考:1.「ロシア」の90年までは、「旧ソ連」、「ドイツ」の90年ま では、 「旧西ドイツ」 。 2.成形型は含まず。 3.2006年統計は2007年2月時点の推定値。また2006年の値 は遡及改訂されることがある。 資料:American Machinist,Gardner Publications,Inc. いる。また中型で汎用の旋盤やマシニングセンター を製造している会社が多く、特色のある製品作りが 求められている。 (3)世界市場の展望 2006年の日本市場は国内の景気回復に伴い、建設 機械など一般機械器具製造業や半導体・IT関連材な ズンマシナリー及びミヤノの資本・業務提携など、 ど電子部品・デバイス製造業に加え、造船・鉄鋼業 企業体質強化のための企業間連携の動きも見られる。 など重厚長大型産業の設備投資も活発に行われた。 また、鋼材等原材料の価格が引き続き高騰している 一方、自動車製造業は2005年の大型設備更新の調整 中、大阪機工、浜井産業、ミヤノ、シチズン時計な などから、設備投資が減速した。その結果、国内向 どは中国、韓国、フィリピン、ベトナム等海外から け工作機械受注額は7,330億円(対前年比−1.8%)と 調達を行うなど、調達体制の強化の動きも見られる。 なった。2007年は一般機械器具製造業、電子部品・ デバイス製造業を中心に設備投資は引き続き堅調に (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 推移するとともに、自動車製造業の設備更新の動き が見られることなどから高水準の受注が見込まれる。 我が国の工作機械産業は、NC旋盤、マシニングセ 2006年の世界市場は、北米・欧州・アジアの堅調 ンターに代表されるNC工作機械の高級・中級機分野 な景気拡大の影響により、自動車製造業や航空機製 に競争力を有し、保守・補修などのアフターサービ 造業、エネルギー産業など幅広い産業で安定した設 ス体制が充実していることから、国内外のユーザー 備投資が見られた。今後は、各国の景気動向の影響 からの信頼も高い。 に注意をする必要はあるものの、北米・欧州・アジ また、自動車産業やIT産業などユーザー業界と緊 アに加え、BRICsなど新興国の設備投資が活発に行 密に連携し、複数の加工工程を一つにまとめた複合 われるものと考えられ、工作機械受注も引き続き堅 加工に係るニーズ、金属以外のセラミックスやガラ 調に推移すると見込まれる。 スなど難削材料の加工に係るニーズ、光コネクタの ような精密かつ複雑な形状の加工に係るニーズなど 119 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 国内製造業の海外展開が進展する中、多様化する 度も継続しており、1兆3,000億円台になると見込ま れる。 我が国を含む世界の有力建機メーカーとしてキャ ユーザーニーズ、変革スピードの加速化に対応する タピラー(米)、コマツ(日)、日立建機(日)、 開発力の保持が事業発展の鍵となっている。今後ま Volvoグループ(スウェーデン)、CNHグローバル すます要求が高まる超精密微細加工、セラミックス (オランダ)、ディア(米)などが挙げられる(表 や複合材料等の新材料加工、生産準備段階まで含め 148−2) 。 たトータルリードタイムの大幅削減に向けた多軸・ 我が国では、狭い場所での工事が多いことから比 複合工作機械の開発等の技術開発を進める必要があ 較的場所をとらず1台で様々な作業を行える建設機械 る。さらに、3次元CADによる設計や調達・生産管理 の需要が高く、油圧ショベルに関する技術が発達し 等へのITの応用、精度を出すためのキサゲ加工等の た。一方、米国では広い場所での工事が多いことか 技能を有する熟練工等の人材育成・確保が重要であ らトラクタに関する技術が発達した。 また、我が国には、アイチコーポレーション(高 る。 所作業車) 、酒井重工業(締固機械) 、タダノ(ラフ ②アジアを中心としたグローバル戦略 1998年には2割弱であったアジア市場は成長を続 テレーンクレーン、トラッククレーン)など特定分 野に強い企業が存在する。 け、2006年のアジア向け受注は、外需全体の3分の1 建設機械業界は、以前は欧米からの技術提供を受 を占めるまでに至り、北米、欧州などの需要地と肩 ける形の提携があったが、最近では、国内メーカー を並べるまで成長している。今後も低級・中級機を が海外メーカーに技術供与する形の提携に変わって 中心とした継続的な需要の成長が見込まれる。また、 きており、また、クレーン部門などでは国内メーカ 我が国の自動車、金型、家電産業など工作機械のユ ー同士の連携も徐々に見られるようになってきてい ーザーも中国やアセアンを中心に生産拠点を構築し る(図148−3) 。 ており、オークマ、ヤマザキマザック、牧野フライ ス、ソディックといった大手工作機械メーカーは現 地生産を充実させ、その他のメーカーもサービスセ ンターなどの営業拠点の整備に努め、アジアでの市 場拡大を進めている。 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 我が国建設機械メーカーは、中小型建設機械の競 争力が高い。特に油圧ショベルに関しては、我が国 建設機械メーカーが、世界の5∼6割のシェアを占め、 8 建設機械 (1)現状(表148−1) 建設機械とは、土木・建設業等において土砂の掘 我が国で設計された機種で見ると8∼9割を占めると 推定される。 また、我が国建設機械メーカーは、技術的に高度 な油圧システムを組み込んだ高性能かつ高品質の製 削、運搬などを行う機械であり、トラクタ、油圧シ ョベル、建設用クレーン、道路機械、高所作業車な 表148−1 我が国の建設機械産業の受注額、 従業員数、輸出額、輸入額の推移 ど用途に応じて様々な建設機械に分類される。 我が国の建設機械の出荷額は、2006年は2兆114億 円である。そのうち、油圧ショベル(ミニショベル 含む)が1兆726億円(全体の53.3%)、トラクタが 3,270億円(全体の16.2%)となっている。特に輸出 は全世界的に好調な海外需要に牽引されて2005年度 の輸出額は初めて1兆円を超えた。この傾向は2006年 120 06年 05年 96年 出荷額(億円) 20,114 16,306 17,343 従業者(千人) 12 12 21 輸出額(億円) 11,355 9,059 4,309 輸入額(億円) 308 278 279 備考:土木建設機械、鉱山機械、トラクタ及び破砕機、摩砕機、選別 機の合計。 資料:日本建設機械工業会統計、経済産業省「生産動態統計」、財務省 貿易統計 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 表148−2 我が国建設機械メーカの世界における位置付け (単位:億円、率=%) 企業名 国 部門別売上高 部門別営業利益 部門別営業利益率 ROA キャタピラー 米 28,668 2,674 9.3 7.2 コマツ 日 12,912 1,429 11.1 10.9 日立建機 日 6,265 572 9.1 11.4 VOLVOグループ 瑞 6,902 663 9.6 7.9 CNHグローバル 蘭 4,306 272 6.3 3.6 ディア 米 6,353 882 13.9 32.3 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 備考:1.部門別売上高は、建設機械部門のみ 2.全社06年度データ 3.換算レートは、1US$=110円、1SEK=17円 4.部門別営業利益率は、建設機械部門における営業利益の割合 品を供給している。加えて、設計や素材などの変 一方で建設機械の出荷動向については、民間工事 更・多様化などのユーザーニーズにもきめ細かく対 の増加を受けて建設機械の需要増が見込まれ、また、 応する能力が高いほか、保守・補修などのアフター 中古車の海外輸出も依然として国内新車販売台数よ サービスも充実している。さらに、品質面、サービ りも高い水準にあることから、国内向けの出荷は ス面では韓国、中国のメーカーよりも優位性を持っ 2005年度を上回る見込みである。国内出荷は2003年4 ているほか、価格面で欧米メーカーと比較しても競 月以降、おおむね対前年同月比プラスで推移してい 争力を有している。 る。販売先としては、リース・レンタル向けの割合 が今後も高い割合(約4割弱)を占めると予想される。 ②弱み 米国市場は住宅着工件数の減少という懸念材料が 国内の公共事業の縮減などにより建設投資が近年 あるものの、鉱山向け需要は依然高い水準にあるこ は減少傾向にある。さらに、市場縮小により建設機 とから最大の輸出先国を堅持すると予想される。ま 械の主要ユーザーである建設業者間の競争が激化し た、欧州市場及びアジア(中国除く)市場について ているため、建設機械メーカー間の価格競争は依然 は需要が堅調に推移する見込みである。 として厳しい状況にある。 中国市場については、金融引き締めの影響により また、2004年以降は鉄鋼など原材料コストの高止 2004年4月以降前年度比減少の傾向にあったが、2005 まりが続いており、それが価格に十分に反映できて 年秋頃より増加に転じ、現地生産も順調な回復傾向 いない面も見られる。 を示している。中長期的に見ても、民間投資の増加 や北京オリンピック及び上海万博に伴うインフラ整 (3)世界市場の展望 建設機械の主要市場のうち国内市場については、 工事量の代表的な指標となる建設投資見通しに厳し い状況が続いており、2004年度で8年連続の前年度比 備などにより、堅調に推移するものと予想される。 また、コマツ、日立建機、コベルコ建機等が中国に 進出しており、現地生産を行っている。 以上から、今後も我が国の建設機械メーカーにと 減少となっている。2005年度の建設投資については、 って外需が建設機械需要を牽引することが予想され 前年度比1.8%増の53.5兆円となったものの、2006年 る。 度の建設投資については、前年度比1.1%減の52.9兆 円となる見込みである。2006年度の民間投資につい ては、景気回復を反映して5年ぶりの前年度比増とな 第 4 節 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 った2004年度の実績を僅かながら上回った2005年度 技術面では、これまでの省エネ対策、耐久性向上 と同様に、景気の回復基調の継続等により安定的に などに加え、排出ガス規制、騒音対策、安全対策な 推移する見込みである。 どが求められてきており、これらの課題を着実に解 121 図148−3 建設機械産業提携の状況 生産・購買分野で提携 コマツ (25.0%) ボルボCE (ベルギー) 国内第1位(世界第2位) (1兆4347億円) 日立建機 (15.4%) 約53% 日立製作所 生産・購買分野で 提携 世界第5位 (36億7100万$) 北・中南米の販売事業統合 世界第3位 (42億1400万$) 国内第2位(世界第4位) 50% (4480億円) 50% 住友重機械工業 日立住友重機械 建機クレーン (324億円) 住友建機 (3.7%) 100% ディア(米国) 2002年7月設立 国内第5位 (766億円) 販売提携 フィアットグループ 約71% 資本提携 80% 神戸製鋼所 コベルコ建機 (6.8%) CNHグローバル(蘭) 20% クレーン部門分社 100% 国内第4位 (1745億円) コベルコクレーン (1.5%)(348億円) 世界第6位 (35億4500万$) 2004年4月設立 キャタピラー (米) 世界第1位 (302億5000万$) 50% 三菱重工業 50% 新キャタピラー三菱 (17.9%) 国内第3位 (3592億円) 世界5大グループ 出資 提携 社名 (国内シェア) 日本企業のうちコマツと日立建機は2004年3月期の連結売上高。外国企業名の 下段は2004FYの連結売上高。日本企業は建設機械部門以外の売上高を含む。 キャタピラーの売上高は、新キャタピラー三菱を含む。 キャタピラーと三菱重工業の出資比率はこの2月に変更することに合意 建機メーカー 資料:各社のアニュアル・レポート及び決算データ、業界資料等から経済産業省作成。 122 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 決していくことが、世界市場においての競争力確保 工業会によれば、2006年度も引き続き生産の拡大が の原動力となる。省エネ対策や排出ガス対策として、 見込まれている。 ハイブリッド建設機械の開発を各メーカーで進めて いるところである。 海外企業の動向としては、先進国の企業は、特定 の事業への集約化(※)等により競争力を高め、発 展途上国の企業は安価な人件費等による価格競争力 ②東アジアを中心としたグローバル戦略 我が国建設機械産業にとって中国を中心とするア を背景に急成長している。 重電部門について我が国企業と海外企業を比較す ジア市場は、引き続き重要かつ有望な市場であり、 ると、売上高は複数の企業が上位を占めるが、営業 油圧ショベル分野を中心として性能面から日本製品 利益は必ずしも高くなく、収益性は低いと言える の評価が高い。しかし、一部の他国建設機械メーカ (表149−2) 。 ーが、中国向けに低価格製品の輸出を増大させてお り、日本メーカーとしては、最適な生産体制の構築、 (※)GE(米):ガスタービン、シーメンス アフターサービスの充実など東アジアを中心とした (独):発電・変電・配電分野、ABB(スイス):送 アジア市場での市場開拓に更に取り組んでいく必要 配電分野、アルストム(仏):発電分野、シュネデ がある。 ール(仏):配電・産業用制御機器など 特に、近年経済成長が著しいインドは、今後大き な市場に成長することが見込まれることから、イン ド市場への参入について取り組んでいくことが重要 である。 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 我が国には、高度な技術ニーズに応えられる高い 技術力・製品開発力を有した企業が多い。具体的に 9 重電産業 (1)現状 重電産業は、国内外の電力産業などに用いられる 発送変電設備及び産業用電気機器を供給する我が国 は、海外に比べ環境対応、省エネルギー、小型化・ 軽量化といった分野で優れた競争力を有している。 また、国内市場における主要ユーザーである電力会 社へのきめ細かい対応で培ってきたサービス、リス ク管理では引き続き競争力を維持している。 の基幹産業である。 これまでは、国内電力産業の定期的な設備投資や 公共投資などにより一定規模の発注量があったが、 ②弱み 我が国重電産業は海外市場においては、金融機能、 電力自由化の下での設備投資効率向上への取組や分 価格、リスクマネジメントなどで十分な競争力を有 散型小規模電源の普及、公共投資の削減などにより していないと指摘されている。また、海外企業は特 電力産業及び官公庁の需要は減少している。特に、 定分野への特化を進めるにあたり、非コア部門、不 主要電力会社の2005年度の設備投資は約1.5兆円であ 採算部門の売却や特化すべき分野の他企業買収を進 るが、これは1996年度の設備投資額の約1/3の水準 めてきているが、我が国企業ではそのような動きが である。経済活動の活発化するアジア諸国で電力需 要が高まる中で、輸出額は増加傾向にあるものの、 表149−1 我が国重電産業の生産額、従業者、輸出額、 輸入額の推移 全体としての生産規模は大きく減少してきている (表149−1) 。しかし、2004年度に国内の景気回復を 受けた民間設備投資の増加や中国等の景気拡大によ り輸出が好調だったことを背景に7年振りに生産が前 年度を上回り、2005年度もこの傾向が継続したため、 2年連続の生産増加となった。なお、 (社)日本電機 第 4 節 05年 96年 生産額(億円) 33,792 42,712 従業者(千人) 110 152 輸出額(億円) 19,816 15,485 輸入額(億円) 8,456 5,329 資料:生産額は経済産業省「生産動態統計」、従業者は経済産業省「機 械統計(労務統計)」、輸出額、輸入額は財務省貿易統計。 123 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 表149−2 我が国企業の世界における位置付け(重電) (単位:億円、率:%) 売上順位 企業名 国 部門売上高 部門営業利益 部門営業利益率 1 Siemens 独 30,328 3,248 10.7 2 (株)日立製作所 日 28,051 925 3.3 3 ABB 瑞 23,547 2,215 9.4 4 General Electric 米 19,694 3,142 16.0 5 (株)東芝 日 18,823 766 4.1 6 三菱電機(株) 日 17,288 1,211 7.0 7 Schneider Electric 仏 13,962 1,895 13.6 8 ALSTOM 仏 7,310 160 2.2 9 富士電機ホールディングス(株) 日 5,807 149 2.6 10 BHEL 印 3,777 667 17.7 備考:1.換算値:1米ドル=110.20円、1ユーロ=136.89円、1ルピー=2.60円 2.重電部門の分類は、主なセグメントデータを抽出。 3.ABB及びBHELの部門営業利益は、税引き前利益を使用。 資料:各社発表資料(ALSTOM、日立製作所、東芝、三菱電機、富士電機ホールディングス=2006.3、 Siemens;GeneralElectric;ABB;SchneiderElectric;BHEL=2006.9)から経済産業省作成。 必ずしも十分ではない。さらに、前述のとおり海外 行っていくことが重要である。欧米メーカーとの競 企業と比較して収益性が低いことも弱みとして挙げ 争に関しては、ローカライゼーション、価格面、ト られる。 ータル・ソリューション提供の面で対抗できる能力 を育てることが必要であるとともに、現地企業等、 (3)世界市場の展望 国内市場は、電力需要の将来的な伸びの鈍化や公 共事業への投資抑制などにより設備需要の拡大は期 発展途上国メーカーとの競争に関しては、知的財産 権の保護、技術流出防止対策などに配慮することが 必要と考えられる。 待できない状況にある。一方で海外市場については、 アジア諸国などにおいて需要の拡大が見込まれてい る。特に、中国、インドについては、2030年には 2002年の3倍以上の発電能力を保有すると国際エネル 10 分析機器産業 (1)現状(表1410−1) ギー機関が予測しており、この間、発電、送配電等 分析機器は、物質固有の組成、性質、構造、状態 において大幅な設備投資が行われるものと期待され などを計測するための機械器具・装置で、科学研究、 る。ただし、これらの国々には先進各国の企業が参 材料開発、品質管理、環境計測など、製造業からサ 入しているほか、現地企業も急成長しており、国際 ービス業に至るまで広範な分野で用いられている。 的な競争が激化している。 最近では医療や食品検査など、安全・安心な社会を 維持するためにも活用されている。1機種当たりの年 (4)我が国産業の展望と課題 間生産台数は、特殊かつ高価な機器で数台、多くて ①今後の競争力強化に向けた対応 地球規模での環境配慮が国際的にも求められてい 表1410−1 我が国の分析機器産業の生産額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 るなか、我が国重電産業が持つ省エネルギー、環境 対策に関する高い技術の活用が期待される。 ②東アジアを中心としたグローバル戦略 成長するアジア市場に参入していくためには、現 地ユーザーのニーズに的確に対応したものづくりを 124 05年度 96年度 生産額(億円) 3,782 2,702 従業者(千人) 12.2 10.9 輸出額(億円) 1,723 847 輸入額(億円) 783 695 資料:生産額、従業者、輸出額は「(社)日本分析機器工業会統計」、 輸入額は財務省貿易統計。 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 も液体クロマトグラフなどの数千台であり、分析機 DNA解析装置は欧米企業の製品開発が先行してお 器産業は多品種少量生産型である(表1410−2) 。 り、我が国企業のバイオ分野市場への展開は出遅れ 国内生産額は、日本経済の停滞により2001年度に ている。 第 4 節 一時減少したが、その後徐々に増加しており、2005 年度は3,782億円と過去最高となった。これは主とし て45%程度を占める輸出による増加である。また企業 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 収益も、増収効果と共に組織のスリム化や余剰設備 我が国分析機器産業は、粒子光学設計のエンジニ などの効果、円安傾向等もあり、大きく改善してい アリング技術や光学素子の量産技術など得意とする る。 コア技術を持ち、またこれを市場に適応させる応用 国内市場における輸入品の比率は対生産高20%程 技術を有している。このため、電子顕微鏡、自動車 用排ガス分析装置などの各分野において、世界でも 度で国産品との比率は変化していない。 世界市場では、近年、米国企業がM&A等を駆使し 有数の競争力のある製品を持つ企業が存在している。 て活発な事業展開を図っている。特に成長著しいア また、装置に対してユーザーニーズに対応したきめ ジア地域へ積極的に進出しており、ガスクロマトグ 細かな保守サービスも充実している。 ラフ、紫外可視分光光度計などの工場の品質管理用 一方、バイオ関連分野においては現状では欧米企 分析機器を中心に、我が国企業との競争が激化して 業が先行しているものの、DNA解析とは様相が異な いる(表1410−3) 。 るポストゲノムの解析で、我が国が競争力を高める また、ライフサイエンス、創薬、食品等のバイオ 可能性を有しており、今後の展開が期待される。 分野において、DNAシーケンサやDNAチップなどの ②弱み 表1410−2 代表的な分析機器の国内年間販売台数 (2005年度) 欧米企業は、機器の性能や機能の競争力だけでな く、検出したデータの処理や解析に用いるソフトウ 分析機器名称 単価(万円) ェア、さらに分析を行う際の抽出、希釈など前処理 779 1,812 作業で必要となる試薬に強みがある。また、分析機 53 5,300 8 8,750 器の校正に必要な標準物質の開発や供給も進んでい る。この傾向は特にバイオ関連用途向けの機器で顕 台数 走査型電子顕微鏡 電子式マイクロアナライザー オージェ電子分光装置 X線回折装置 液体クロマトグラフ(汎用) 原子吸光分析装置 ガスクロマトグラフ 443 2,571 6,435 476 594 445 著であり、こうした分野が我が国の弱みとなってい 3,200 424 る。 資料:「科学機器年鑑」 (06年度版) 表1410−3 我が国企業の世界における位置付け (単位:億円、率:%) 企業名 国 売上高 営業利益 営業利益率 1 日立ハイテクノロジーズ 日 8,883 360 4.1 2 アジレント・テクノロジー 米 6,218 307 4.9 3 サーモエレクトロン 米 3,186 319 10.0 4 島津製作所 日 2,426 211 8.7 5 アプライドバイオシステムズ 米 2,162 339 15.7 6 パーキンエルマー 米 1,783 171 9.6 7 ウォーターズコーポレーション 米 1,401 343 24.5 8 堀場製作所 日 1,057 113 10.7 売上順位 備考:1.外国企業は05年の決算情報、国内企業は05年度の決算情報を使用。 2.売上高、営業利益(率)は、全社ベースの値による。 3.換算レート:1ドル=121円 資料:有価証券報告書等のデータから経済産業省作成。 125 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 表1410−4 時期 近年の分析機器産業における再編等の動向 企業名 事例 2005年10月 キャノンアネルバテクニクス(株)NECグループからキャノン(株)100%出資のグループ会社化 2005年11月 東亜ディーケーケー(株) 水分析で米Hach Companyと業務・資本提携 2006年9月 ジーエルサイエンス(株)と分析機器事業について業務・資本提携 (株)島津製作所 2006年11月 サーモエレクトロン 2007年1月 日立ハイテクノロジーズ(株) 2007年2月 アジレント・テクノロジー(株) フィッシャー・サイエンティフィックインターナショナルと合併・統合:(サーモフィッシャー サイエンティフィックに) 日立ハイテクサイエンスシステムズを吸収合併 横河アナリティカルシステムズ(株)がアジレント・テクノロジー(株)とアジレント・イン ターナショナル(株)に統合 資料:各社発表資料から経済産業省作成。 (3)世界市場の展望 通信産業や自動車産業の更なる強化や、将来の産業 日米欧などの先進国においては、バイオテクノロ の柱となりうる燃料電池やロボットなどの先端的新 ジー、ナノテクノロジーなどの分野で先端技術開発 産業群の下支えには欠かせないリアルタイム分析技 向けを中心にラボ用分析機器の需要が拡大するとと 術や迅速分析技術などの開発促進が期待される。 もに、特定有害物質に関する規制(RoHS指令(電 気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に 関する指令) )などの環境対応や、食品安全性、健康 ②東アジアを中心としたグローバル戦略 分析機器は多品種少量生産のものが多く、かつ、 管理向けへの簡易かつ極微量分析が可能な分析機器 開発生産には高度な技術力を要することから、クロ への需要拡大が見込まれる。 マトグラフ、分光器など技術的に成熟しコスト競争 また、中国を始めとするアジア地域においては、 力が支配的な一部の製品を除けば、製造拠点は国内 工業化の進展や先進国からの製造拠点の移転を背景 に留まっている。中国などの東アジア諸国の地場企 として、品質管理用の機器の需要が増大しているが、 業が分析機器に参入する事例も、こうした一部の限 今後はラボ用分析機器需要も増大すると期待される。 定的な分野に限られる。このためアジア市場におい ても日米欧からの供給が主となっている。 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 一方、中国を始めとして東アジア諸国の市場とし ての重要性は自動車産業の進出等の加速に伴い、製 国内各社は、企業買収や海外生産拠点の確保とい 品の品質管理などに用いられる分析機器の需要が増 った経営体制の強化改善や、分析サービスも含めた 大している。また、日本向けの食品等の検査用や環 いわゆるソリューション事業の展開、海外メーカー 境計測用の市場も増大するものと予想される。しか への製品のOEM供給(相手先ブランドによる供給) し分析機器を取り扱える技術者や、保守・補修を行 や技術提携といった企業間連携による競争力強化に うことができる技術者が不足しており、これらの人 向けた取り組みを行っている(表1410−4) 。 材をいかに育成していくかが、更なる需要拡大に対 中長期的な取り組みとしては、市場の拡大が期待 応するための課題となる。 される分野への迅速な新製品の投入が必須であるた め、極微量での高速高効率な分析や抽出・濃縮とい った前処理の自動化など、次世代の分析に求められ る要素技術の開発を各社行っている。 産学連携による先端用途向け分析技術開発を促進 11 ロボット産業 (1)現状(表1411−1) ロボットは、製造業の分野で生産財として利用さ させる提案公募型の研究開発プログラムに加え、 れる産業用ロボットと、アミューズメント向けなど 2006年度より極微量分析技術の開発を支援する「高 製造業以外の分野で活躍する新しいタイプのロボッ 度分析機器開発実用化プロジェクト」が開始。情報 トに大別できる。 126 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 表1411−1 我が国ロボット産業の出荷額、従業者、 輸出額の推移 05年 96年 出荷額(億円) 6,766 4,820 従業者(万人) 1.4 1.5 輸出額(億円) 3,686 2,084 資料:(社)日本ロボット工業会調べ。 図1411−2 我が国ロボット産業の出荷額と 輸出割合の推移 (億円) 8,000 出荷額(億円) (%) 60 うち輸出額の割合(%) 7,000 50 6,000 40 現在、産業用ロボットは、その多くが自動車製造 での溶接、塗装や、電子・電機機器製造での電子部 品実装、半導体のウェハ搬送、組立などで稼働して 5,000 30 4,000 3,000 20 いる。近年はセンシング技術や協調制御技術の高ま りもあって、より複雑な組立工程にもロボットの導 入が図られようとしている。我が国ロボット産業は、 主要ユーザーである自動車産業及び電子・電機産業 を中心に、製造業の様々な分野における多様な作業 へと普及することにより、生産面、技術面とも世界 2,000 10 1,000 0 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年) 0 資料:(社)日本ロボット工業会調べ。 トップレベルへと発展してきた。 我が国ロボット産業の出荷額は、バブル崩壊後に おおむね横ばいで推移した後、2000年に携帯電話な どIT産業向け需要の急増から6,400億円を越す飛躍的 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み な伸びを見せたが、2001年には急落した。2002年に 国際的に競争力を有する自動車産業、電子・電機 1993年以来4,000億円を割ったが、近年の国内外需要 産業を始めとするユーザー産業からの厳しい要求に、 の復調により、2005年は、前年比約14.9%増の6,766億 アフターサービスを含めて対応してきた実績とノウ 円まで回復し、さらに2006年は、同約4.9%増の7,100 ハウの蓄積が、我が国ロボット産業の大きな強みと 億円となる見込みである(図1411−2) 。また、需要 なっている。同時に、国内市場における激しい価格 の回復に伴い、収益状況も改善しつつある。 競争を経て、国際的な価格競争力も獲得している 一方、1990年代中頃から、既存のロボット技術を 活用して、アミューズメント向け、家庭やオフィス (表1411−3) 。 技術面では、マニピュレーション、移動技術など、 での清掃や警備、介護、災害現場での救助活動とい 特にハードウェア開発については世界一の技術開発 った、製造現場以外で活用されるロボットを開発す 力を有している。 る動きが出てきた。こうした新しいタイプのロボッ トは、当初は大学や研究機関による「見せる」ため ②弱み のものが多かったが、最近では企業による取組が増 高度な知能ソフトウェアやネットワーク技術など える傾向にあり、事業化を念頭においた、ロボット の情報通信技術を取り込んだロボットの開発につい を「使う」という動きも本格化しようとしている。 ては、欧米に一部先行されているとの指摘もある。 従来の産業用ロボットとのユーザー層・プロバイダ また、最近の新しいタイプのロボットの開発につい 層の違いや、ニーズに応じた生産体制などの違いが ては、欧米における軍事や宇宙産業などを背景とし あることから、産業用ロボットメーカーだけではな た開発やベンチャー企業による意欲的な取組と比較 く、消費者向けの製品・サービスを提供してきた異 すると、産業用ロボットでは優位である我が国も積 業種企業やベンチャー企業が開発・事業化に参入し 極的な取組が必要な状況にある。 てきている。 127 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 表1411−3 我が国企業の世界における位置付け(ロボット) (単位:億円、率:%) 主な企業名 国 部門売上高 企業全体売上高 部門営業利益 川崎重工業 日 3,737 13,225 199 ファナック 日 1,712 3,810 ー 部門営業利益率 5.3 ー ROA 1.3 10.6 ABB スウェーデン 1,533 29,050 1 0.1 5.5 ヤマハ発動機 日 1,503 15,820 181 12.1 7.4 安川電機 日 1,147 3,229 98 8.5 3.9 不二越 日 723 1,867 68 9.4 4.2 富士機械製造 日 636 908 107 16.8 9.7 KUKA Roboter GmbH 独 582 ー ー ー ダイヘン 日 471 856 54 11.5 4.7 日本電産サンキョー 日 346 1,220 88 25.4 12.1 ー 備考:1.「部門売上高」は、企業が独自に定めるロボットを含む事業部門の売上高(例:川崎重工業のロボットを含む部門には、二輪車や汎用ガ ソリンエンジン等が含まれる)。 2.ROAは全社ベースによる。 3.川崎重工業、ファナック、安川電機、富士機械製造、ダイヘン、日本電産サンキョーは2005年度、ヤマハ発動機は2006年12月期、不二 越は2006年11月期の決算情報。ABB、KUKAは2006年。 4.換算値:1米ドル=119円、1ユーロ=156円で換算。 資料:各社決算情報等の公開情報から経済産業省作成。 (3)世界市場の展望 産業用ロボットの国内市場については、労働力不 だけでなく、世界全体でも拡大していくと見られて いる。国連欧州経済委員会(UNECE)及び国際ロボ 足やロボット技術の高度化による、適用分野の広が ット連盟(IFR)の調査によると、水中用、医療用、 りへの期待はあるものの、中長期的には飽和してい 農業用、家事用、教育用など従来の産業用ロボット るとの見方が強い。 (社)日本ロボット工業会の調査 以外のロボットは、業務用・民生用合計で、2005年 でも、国内市場規模は、今後は緩やかな増加が続き、 末時点では全世界で約290万台が保有されていると推 2000年において5,000億円程度であったところ、2010 測されるところ、2006年から2009年の4年間で、新た 年には8,500億円程度の見通しとされている。さらに、 に約560万台の導入が見込まれるとされている。 自動車産業や電子・電機産業などユーザー産業の生 産や設備投資の動向により、国内需要は大きな影響 を受けると思われる。現在、ロボット輸出先の約3割 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 を占める欧米市場についても、当面は代替需要を中 ロボットの今後の需要は、従来の製造業分野に加 心とした動きになると思われ、やはり大幅な伸びは え、オフィス、家庭を対象とする生活分野、防災、 期待できない。こうした背景の下、中国・インドを 警備などの公共分野、医療・福祉、建設、農林畜産、 始めアジア市場については、生産活動の活発化に伴 物流、清掃など、多くの新しい分野に拡大すること い、ロボット需要は急伸すると見込まれている。ア が期待される。こうした社会ニーズに応えてロボッ ジアにおけるロボット需要の拡大に対応するため、 トの活用範囲を拡大するためには、以下に挙げるよ 我が国ロボット産業も、販売拠点、メンテナンス等 うな取組を行うことが重要である。 サービス拠点の整備など、このような成長市場を着 実に確保するための努力を続けている。 まず、安全性の確保などの制度基盤の整備が挙げ られる。人間生活の中で、ロボットが安全に人間と 一方、生活分野、医療・福祉分野、公共分野とい 共存するために、安全性の確保に向けた概念整理や った新分野におけるロボットに対する国内の潜在的 技術水準の形成及び事故が起きた際の責任と補償に 需要は大きく、経済産業省の試算によると、2010年 係る仕組み、医療・福祉等の現行制度下における取 時点における国内市場規模は約1兆円と予想されてい 扱いの整理など制度的な基盤の整備が必要である。 る。産業用以外のロボットの需要については、国内 128 次に、メーカー、ユーザーの両方に対するロボッ 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 ト導入促進策である。今後は実証実験よりも一歩進 世界市場におけるシェアは、米国メーカーが約 め、実用化を前提にユーザーとメーカーとがロボッ 45%、我が国メーカーが約40%と両国が突出してお トの役割・機能・周辺の環境・コストなどについて り、そのほかは一部欧州メーカー以外には主力メー 十分に分析と議論を行い、ユーザーが実際にロボッ カーは存在していない(図1412−2、表1412−3) 。 トを導入して運用するまでを実現させる取組が必要 半導体製造装置産業の業況は、一般に半導体産業 である。この際、ロボット単体ではなくサービスの の設備投資動向に左右され、2000年をピークに2001 一環としてロボットを位置づけて提供する視点や、 年、2002年と大きく落ち込んだが、2003年からは回 機能に見合ったコストの実現が非常に重要になって 復基調に入った。2004年度の日本製半導体製造装置 くる。 の販売高は、前年度比36.9%増の1兆5,981億円と前年 加えて、要素技術、システム化技術の開発による 度を大幅に上回ったが、2005年度は装置需要が調整 ロボットの更なる高度化が必要である。ロボットの 局面に入ったことにより、前年度比5.1%減の1兆 活用範囲が広がることにより、ロボットの安全性、 5,169億円となった。2006年度の日本製半導体製造装 信頼性、利便性に係る技術的要求が、従来の産業用 置の販売高は、携帯電話の第3世代の普及及びBRICs ロボットの場合に比べて格段に高くなると考えられ 等へのPC需要の拡大、薄型TVや携帯音楽プレーヤー る。人に対する安全性と親和性を確保するためには、 等のコンシューマー製品の好調な需要等に支えられ ロボットの更なる知能化のほか、アクチュエータの ていることから、前年度比21.0%増の1兆8,355億円と 小型軽量化、センサ技術及び認識技術の高度化、通 信のセキュリティ確保など、要素技術の高度化が期 表1412−1 我が国半導体製造装置産業の販売額、 従業者、輸出額、輸入額の推移 待される。また、共通インフラとなる基盤技術とし てハード/ソフトのモジュール化、標準化などによ る、多様な主体がロボット開発に参加しやすい技術 基盤づくりも有効と考えられる。 ②東アジアを中心としたグローバル戦略 05年度 96年度 販売額(億円) 15,169 11,944 従業者(千人) 17 輸出額(億円) 8,934 6,025 輸入額(億円) 2,422 1,731 − 備考:従業者は「機械統計年報」から、2005年のデータを利用。 資料:(社)日本半導体製造装置協会統計 中国・インドを始めとするアジア諸国については、 生産活動の活発化(特にEMS(電子機器製造請負サ ービス)企業)の影響から、電子・電機産業向けを 図1412−2 半導体製造装置メーカー別売上高シェア (2004年) 中心にロボット需要は伸びており、今後も堅調に推 移する見込みである。アジアにおけるロボット需要 の拡大に対応するため、これら地域における販売、 ロボット据付、メンテナンス等を行うサービス拠点 Applied Materials (米) 22.5% その他 27.9% 東京エレクトロン (日) 11.4% Teradyne (米) 3.1% の整備が一層重要になっている。 総額:370億ドル 12 半導体製造装置産業 (1)現状(表1412−1) 半導体製造装置産業は、半導体の製造に必要とな る各種装置を製造する産業である。半導体の製造工 程は複雑かつ高度な技術を必要とし、製造工程ごと に多種多様な装置が存在しており、我が国では、装 置ごとに生産している企業が異なっている。 キヤノン (日) 3.4% Novellus Systems (米) 3.5% 日立ハイテクノ ロジーズ (日) 4.1% ASML (蘭) 8.4% ニコン(日) 5.3% アドバンテスト (日) 5.7% KLA-Tencor (米) 4.8% 資料:電子ジャーナル社「半導体製造装置データブック」 129 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 表1412−3 我が国企業の世界的位置付け(半導体製造装置) (単位:億円、率:%) 順位 企業名 国 部門売上高 企業全体売上高 営業利益 営業利益率 研究開発費 1 Applied Materials 2 東京エレクトロン 米 − 7,691 1,593 20.7 1,035 日 5,681 6,737 757 11.2 3 492 ASML 蘭 − 2,352 − − 301 4 ニコン 日 2,423 7,309 666 9.1 371 5 アドバンテスト 日 2,539 2,539 645 25.4 269 6 KLA-Tencor 米 − 2,294 641 28.0 374 7 日立ハイテクノロジーズ 日 2,280 8,883 360 4.1 179 8 Lam Research 米 − 1,806 447 24.7 252 9 キヤノン 日 3,726 37,542 5,830 15.5 2,865 10 Novellus Systems 米 − 1,475 − − 272 備考:1.売上順位は、半導体製造装置データブック(電子ジャーナル社)の2005年半導体製造装置売上高見込み順位を採用。 2.部門売上高は、各社ごとに半導体製造装置が含まれるセグメントの売上高。 3.部門売上高以外は、全社ベースの数値。 4.上記数字は下記の決算期に基づき記入。 ①Applied Materialsは2005年10月決算、②東京エレクトロン、ニコン、日立ハイテクノロジーズ、アドバンテストは2006年3月決算、 ③ASML、Novellus Systems、キヤノンは2005年12月決算、④KLA-Tencorは2005年6月決算、⑤Lam Researchは2006年6月決算 資料:半導体製造装置データブック(2005年)、各社発表資料から作成。 なり、これまでの史上最高を記録した2000年度の1兆 これらが総体として我が国半導体産業・半導体製造 8,045億円を超えると予想されている。また、2007年 装置産業の競争力を支えている。 度以降は2008年の北京オリンピック特需に向けた投 また、製造装置別に見ると、露光装置、塗布・現 資も期待されることから二桁台の成長を遂げると予 像装置など、我が国製造装置メーカーが世界市場に 測されている。 おいてトップシェアを獲得しているケースが多い。 我が国メーカーの装置の販売先は、外需が過半を 占めておりグローバルに事業を展開しているが、引 ②弱み き続き国内市場も重要な位置づけとなっている。ま 我が国主要メーカーの売上高に対する研究開発費 た、外需の内訳に関し、近年欧米半導体企業のアジ 比率が、海外企業と比べて概して低い。また、半導 アへの工場進出やアジアファンドリの活用により、 体市場においては、DRAM(記憶保持動作が必要な 韓国や台湾、中国を始めとするアジア向けが伸びて 随時書き込み読み出しメモリ)などのメモリに比べ、 きている。 MPU(超小型演算処理ユニット)などのロジック (演算などデータを処理するIC)製品の製造では配線 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 行程が複雑になり、それに応えるための製造装置や 検査装置が重要になってくるが、これら分野で、我 半導体製造装置の製造には幅広い技術が必要にな が国メーカーのシェアが低い傾向にあり、今後、こ るが、我が国半導体製造装置産業は、米国と並び高 うした分野における我が国メーカーの競争力の強化 い技術力・製品開発力を有している。これは我が国 が必要となっている。 半導体デバイスメーカーとの間で構築されたもので あり、例えば、量産工程での使用結果を製造装置に フィードバックし共同で評価実験を行うなど、密接 (3)世界市場の展望 2005年における半導体製造装置の世界市場規模は、 な関係によるところが大きい。加えて、我が国は、 装置需要が調整局面に入ったことにより、前年比 ウェハ、薬品、ガスなどの部品・材料産業、及びク 11.3%減の32,884百万ドルとなったが、2006年は世界 リーンルーム、搬送装置などの設備産業など、半導 の半導体デバイスメーカーの活発な設備装置に牽引 体産業全体として分厚い産業集積を形成しており、 され、前年比23.1%増の40,474百万ドルとなった。そ 130 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 の中で、我が国市場は世界市場の約23%を占めてお ためにも海外を含めた技術競争力ある半導体デバイ り、国別で見ると世界最大の仕向地となった。海外 スメーカーとの「摺り合わせ」を密に行い、今後と 市場においては北米市場が再び増加に転じつつあり、 も高い技術アドバンテージを維持する必要がある 第 4 節 また中国及び台湾を始めとしたアジア市場も拡大傾 ②東アジアを中心としたグローバル戦略 向にある。 なお、2007年以降はアジアを中心に再び市場の拡 我が国メーカーの輸出比率が年々高まっている中 で、特に近年、韓国や台湾、中国を始めとするアジ 大が見込まれている(図1412−4) 。 ア市場を始めとして重要度が増してきている。こう (4)我が国産業の展望と課題 した中で、今後、独自の製造装置産業の育成又は成 ①今後の競争力強化に向けた対応 長が進むと考えられる東アジア地域に対して技術競 半導体デバイスの急速な微細化・高集積化、直径 300ミリメートルまでのウェハの大口径化、銅配線・ 争力を維持すべく、継続的な技術開発と徹底した知 的財産管理などが強く望まれる。 低誘電率絶縁膜などの新材料利用などに対応するた め、ますます高度な技術が要求されており、積極的 な研究開発の取組が必要となっている。一方、その ための研究開発コストが増大しつつあり、メーカー は各装置分野において高いシェアを有さなければ収 13 金型・素形材製品産業 (1)現状(表1413−1、表1413−2) 金型は、部品製造工程において、鉄鋼やプラスチ ックなどの素材をプレスや射出成形などの方法によ 益が維持できない状況にある。 我が国メーカーの世界市場におけるシェア拡大の り特定の形状に加工するために使用される基本的生 ためには、製造装置メーカーが半導体デバイスメー 産財であり、 「マザーツール」と呼ばれている。用途 カーを始めとする他企業との連携を一層強化し、研 としては、自動車ボディ用、電気・電子部品用など 究開発費や実用化リスクを分担しながら得意技術を の金属プレス用金型や電気・電子機器ボディ用など 持ち寄って新たな装置開発に取り組んでいくような のプラスチック成形用金型が多く、金型産業は自動 戦略的な提携関係を構築していく必要がある。その 車産業、電気・電子産業、機械産業などの我が国製 造業の基盤となっている。 図1412−4 世界半導体製造装置市場規模推移 日本 欧州 韓国(1997∼) 台湾(1998∼) 中国(2003∼) その他 前年同月比 販売高(単位:百万ドル) 60,000 対前年同期比(%) 200 実績 50,000 40,000 表1413−1 我が国金型産業の出荷額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 北米 予測 180 160 140 04年 96年 出荷額(億円) 15,510 4,401 従業者(千人) 93 106 輸出額(億円) 3,719 2,587 輸入額(億円) 608 184 資料:財務省「日本貿易統計」、経済産業省「工業統計表」 120 30,000 100 80 20,000 10,000 60 表1413−2 我が国素形材製品産業の出荷額、従業者 の推移 40 04年 96年 出荷額(億円) 40,194 43,454 従業者(千人) 175 149 20 0 0 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (年) 資料: (社)日本半導体製造装置協会、SEMI、SEMIジャパン 資料:経済産業省「機械統計年報」 「鉄鋼統計年報」 「鉄鋼・非鉄金属・ 金属製品統計年報」 131 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 我が国の金型製造業は、自動車産業や電気・電子 じめとする原材料価格が高騰しているとともに、ユ 産業を始めとする川下産業の生産拠点の海外移転、 ーザーからの厳しいコストダウン要請もあり、出荷 東アジアにおける金型産業の台頭及び川下産業の東 増が収益的には結びつかず、引き続き厳しい経営環 アジア企業を活用したコスト削減への取組などの要 境に置かれている企業もある。 因により、出荷額が減少してきていた。しかし、近 年では、自動車産業の好調さに加え、我が国金型産 業の技術力、短納期への対応、品質等が再認識され たことにより、出荷額は回復基調となってきている (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 我が国の金型産業には高度な熟練技能を有する多 数の人材が活躍しており、製品の表面品質を左右す (図1413−3) 。 素形材製品は、金属などの素材を熱や力で成形加 る磨きの技能、メンテナンスのし易さや耐久性の高 工して製造されるものであり、製品としては銑鉄鋳 い金型とするための設計技術などの、技術力、短納 物、可鍛鋳鉄、精密鋳造、ダイカスト、非鉄金属鋳 期への対応、品質等で強みを有している。また、高 物、鋳鍛鋼品、鍛工品、粉末冶金及び金属プレス製 品質な鋼材が調達できることや高度な熱処理技術が 品である。素形材製品産業は自動車産業、産業機械 存在していることなども我が国の金型の競争力の一 産業、電気・電子産業などの組立産業に多種多様な 因となっており、このような製造業に係る総合力の 機械部品などを供給しており、我が国製造業におい 高さが強みと言える。競争力を有する具体的な事例 て重要な役割を担っている。 としては、自動車ボディプレス用などの大型・高精 我が国の素形材製品産業の出荷額は、バブル崩壊 度金型、半導体リードフレーム用などの超精密金型、 期以降デフレ・国内景気低迷やユーザー産業の生産 自動車用インストルメントパネル用などの複雑形状 拠点の海外移転により低調に推移してきたが、2003 金型、同一製品を一度に多数個製造することができ 年後半頃からは製造業全般の設備投資増、自動車産 る高精度金型などである。 業の国内生産増及び海外生産拠点への部品等の供給 我が国の素形材製品産業は、設計・加工工程の合 増に伴い、素形材製品産業の出荷も好調に転じてい 理化、生産性・歩留まり向上、技術の高度化などを る。しかしながら、鋼材、ニッケル、コークスをは 実現し、品質が高い素形材製品を短納期で実現する ことを可能とし、高い競争力を確保している。素形 図1413−3 (10億円) 2,500 国・地域別の金型出荷額の推移 日本 米国 ドイツ 2,000 韓国 台湾 中国 1,500 材産業の競争力の高さは我が国の自動車産業、電機 産業、産業機械産業などの競争力を支えており、躍 進するアジア諸国においても素形材産業の育成に力 を入れているところである。また、アジア諸国等に 進出した日系自動車企業等から要請を受け、現地に 進出して素形材の供給を行うことや日本から素形材 を輸出供給するなど、進出企業からも我が国素形材 産業の競争力に期待が寄せられているところである。 1,000 ②弱み 500 我が国の金型企業の大半が中小企業であるため、 0 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 (年) 資料:日本、韓国(1998年以降)及び中国を除く国は、国際金型協会 (ISTMA)統計(2003年台湾はデータ無し)。 日本は工業統計表(産業編) 、韓国は韓国金型工業協同組合等(2003 年は組合予想より推定)、中国は中国模具工業協会統計(2002 年は工業協会データより推定)。 経営資源が不十分な企業も多いことに加えて、下請 性が強い。そのため、契約書や発注書がないまま受 注するケースもあり、川下企業との系列関係が薄れ、 グローバル調達が進展する中においては、問題が発 生した際のリスクが高まる可能性がある。また、取 132 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 引慣行において、海外では金型受注時に鋼材調達や ら、国内へ発注されるケースもあり、市場の好調な 設計費用のために前払い(金型費の1/3∼1/2)が 要因の一つとなっている。しかしながら、長期的に あるものの、我が国では検収後の後払いが中心とな は国内市場の大幅な伸びは期待できないとともに、 っており、特に中小金型企業の資金繰りを圧迫して グローバル調達といった海外金型企業の活用の増加、 いるとの指摘がある。 自動車企業等のアジアをはじめとする海外生産拠点 日用雑貨品用などの単純で高精度を求められない 金型、開発要素の少ない金型などの分野において、 での現地調達の進展などにより、国内市場の競争は 厳しくなっていくものと考えられる。 韓国、台湾、中国などの金型企業に比べ、コスト面 素形材製品については、東アジアの経済成長に伴 で不利な状況にある。また、資金力のある海外企業 う自動車産業の堅調な推移に加え、デジタル家電な は積極的な設備投資を行っている点についても留意 ど高付加価値製品の需要拡大から、ユーザー産業の しておく必要がある。 国内生産拠点の新設・拡充が進展しているため、こ 素形材製品企業については、ほとんどが中小企業 うした高付加価値製品に使われる素形材については、 であり、下請け受注の取引が多いことから、経営基 需要の拡大が期待されている。また、高強度・軽量 盤が弱い。例えば、ユーザー企業から不合理と考え 材料の使用による部品の軽量化、リサイクル材料の られる価格設定を強いられたとしてもこれまでの下 使用などのニーズの変化に対応した新材料使用製品 請的慣習から受け入れてしまうことも多く、受注が の新規需要が拡大してきていることは、金型と同様 収益に結びつかない、若しくは赤字となる場合もあ である。 る(ユーザー企業が日本にしか発注できないと素形 材であると予想できても、アジア諸国の企業にその 素形材の発注を出すと言われて価格などについて反 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 論することができない) 。また、鋳造の木型やダイカ 我が国の金型・素形材製品産業が、今後とも競争 ストの金型などについて、何十年も保管をしている 力強化を図っていくためには、これまでに蓄積され ケースもあり、年々増え続ける保管コストにより円 ている技能・技術を更に研究開発などにより発展さ 滑な事業運営が阻害されている状況もある。そのよ せ、独自技術の確立や強化を図っていくことが必要 うな状況が発生している要因としては、これまでの である。また、企業内外ネットワークやCAD/ 取引慣行が影響している面もあるが、素形材産業界 CAM/CAEなどによるIT活用による設計・加工工程 が契約書の締結などについて十分に対応できていな の合理化、技能・技術の伝承、また川上川下産業や いこともあり、素形材産業の経営基盤の向上が必要 同業・異業種企業の連携によって1社のみでは対応で である。また、汎用品などの付加価値の低い製品分 きないビジネスなどに展開することなども重要であ 野においては、中国を始めとする東アジアの素形材 る。 製品企業に比べ、コスト面で不利な状況にある。 金型・素形材企業の多くは中小下請企業だが、こ れらの課題に受動的に対応するのではなく、経営理 (3)世界市場の展望 念・戦略を主体的に示しつつ、挑戦していくことが 金型の国内市場は、ユーザー産業の東アジアを始 必要である。平成18年5月に策定された素形材ビジョ め海外への生産拠点の移転が増大していたことから ンを受けて、素形材関係17団体は業界別ビジョンを 縮小傾向にあったものの、2003年頃からデジタル家 策定した。また、取引についても平成18年11月に素 電など高付加価値製品の需要拡大などによるユーザ 形材産業取引ガイドライン策定委員会により報告書 ー産業の国内生産拠点の新設・拡充の進展、景気回 が策定された。素形材企業は、これらを活用しつつ、 復基調に伴う需要増加により、好調となっている。 産業構造変革の現実を直視し、自社の適正利潤確保 また、海外での生産に使われる金型についても海外 のため、ひいては、我が国産業競争力強化のため、 現地企業での技術的対応が困難といった理由などか 戦略的経営を行うことが望まれる。 133 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 ②東アジア等海外戦略 挙げられる(図1414−2) 。 自動車産業などの海外進出に伴って中国などを中 心に東アジアにおいて急拡大している金型・素形材 製品需要を我が国産業が着実に捉えていくためには、 表1414−1 我が国プラント・エンジニアリング産業の 売上高、従業者、輸出額の推移 川下産業との連携を緊密に取りながら、我が国産業 の強みを生かした海外事業展開を図ることが重要で 05年度 95年度 144,257 ある。また、アジア諸国の素形材産業界とも一層の 売上高(億円) 114,031 従業者(千人) 327 759 連携を図り、拡大するアジア市場に対応していくこ 輸出額(億ドル) 257.7 192.4 とが必要である。 14 備考:輸出額については、「海外プラント・エンジニアリング成約実績 調査」における成約実績(本邦輸出分)を掲載(経済産業省国 際プラント推進室実施) 資料:(財)エンジニアリング振興協会「エンジニアリング産業の実態 と動向」 プラント・エンジニアリング産業 (1)現状(表1414−1) プラント・エンジニアリング産業は、多数の部品、 図1414−2 海外でのプラント・エンジニアリング成 約実績の推移(プラント別、地域別内訳) 装置などをシステムとして構築し供給する産業であ り、社会インフラの整備及び各種産業設備の供給を 通じて、国の経済社会活動の根幹を担う基盤的産業 ○プラント別内訳 (億ドル) 300 一般プラント である。事業の性格上、製造、資金調達、運営など 多様な機能を統合することが求められることから、 幅広い業態の事業者から構成されている。主要な事 257.7 250 発電プラント 機、重工、電機、鉄道車両、化学、鉄鋼、情報通信、 188.8 193.7 200 業者としては、専業エンジニアリング事業者、製造 企業系列エンジニアリング事業者のほか、重電、重 鉄鋼プラント 化学プラント エネルギー プラント 交通インフラ 153.7 139.7 150 情報・通信 プラント 生活関連・ 環境プラント 124.4 100 生活・環境などの分野の各種プラントメーカー、機 器製造事業者及び商社が挙げられる。 50 海外でのプラント・エンジニアリング成約実績の 推移を見ると、2005年度は前年度比33.0%の増の 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 (年度) 257.7億ドルで過去最高の成約実績となった。これは、 超大型案件(成約額10億ドル以上)5件の成約により、 大型案件(成約額1億ドル以上)の成約額が増加した ○地域別内訳 (億ドル) 300 その他 257.7 ことが主な要因であるが、超大型案件を除いた場合 の成約額も約170億ドルとなっており、前年度比約 10%の増加となっている。しかし、成約件数は927件 250 大洋州 関連施設、石油精製施設、石油化学プラントなどの 188.8 193.7 200 中南米 アフリカ と前年度比12.6%の減少となっている。 また、2005年度の特長としては、中東地域でガス 153.7 中東 139.7 150 アジア 124.4 100 プラントが好調だったことに加え、鉄道車両輸出に おいて、アラブ首長国連邦の新交通システムやモノ 50 レール、台湾の鉄道敷設等金額規模の大きい案件を 成約したこと、マレーシア、メキシコ等各地で顕在 化した発電プラント需要が成約に結びついたことが 134 西欧 北米 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 (年度) 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 (2)我が国産業の強みと弱み 今後の受注見通しについては、海外は、現在の好 ①強み 況の反動により、短期的には、19.1%減、中期的に 高度な製造業の集積と、運営のノウハウ、環 は、10.7%減の見通しとなっており、エンジニアリ 境・品質・安全性などに対する高度な取り組みな ング各社は、当面は、現在の高水準の受注残高を処 どが強みとして挙げられる。分野別では、LNGプ 理しつつ、今後の対応を迫られている(表1414−3) 。 ラント、発電プラントなど歴史的に国内需要で培 った経験と技術力により国際競争力を有している。 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 ②弱み 我が国プラント・エンジニアリング産業が厳しい 業績は好転しつつあるものの、我が国プラン 国際競争環境の中で今後発展していくためには、案 ト・エンジニアリング産業は、活発な事業再編に 件発掘、F/S(事業可能性調査)などの上流及び、 より寡占化を進行させている米欧と低価格を強み 運営・保守などの下流への展開による事業形態の深 とする中国・韓国などが競争力を増している国際 化、並びに顧客の要請の高度化に対応する事業分野 市場において、依然として厳しい受注競争に直面 の拡大が必要である。その対策として、技術力、運 している。 営・保守ノウハウ等固有の強みの確保及び、環境・ 品質・安全性等に対する高度な取り組みを国際的ル (3)世界市場の展望 ールとして普及させることなどが求められる。 原油価格が高止まりする中、中東産油国を中心と した旺盛な設備投資需要等を背景に2005年度の海外 ②東アジアを中心としたグローバル戦略 での受注高は、3.5兆円で前年比33.2%増と大幅な増 我が国企業が大きな市場シェアを有してきた東南 加となった。一方、国内も8.9兆円と1.0%減となった アジアなどの地域においても、再編を経て競争力を ものの2002年からの景気回復基調が続き、高水準を 強化した欧米企業や、価格競争力を武器とする中 維持している。 国・韓国などの企業が進出し、競争が激しくなる傾 しかし、この世界的な好況の影響により、資機材 向にある。我が国企業が引き続き市場シェアを確保 を供給する製造プラントの設備能力不足、運賃引き していくためには、現地企業の育成・活用や事業の 上げとタイトな輸送能力、労働者不足等によりコス 運営・保守への進出を図るとともに、トップセール トが急激に上昇しており、新規プラント建設コスト スの実施等官民一体となった取り組みも求められる。 は数年前に比べ急激に増大している。 表1414−3 2005年度受注高(プラント施設別) 前年度比 合計 前年度比 海外比率 構成比 648,168 92.9% 1,679,335 97.0% 38.6% 13.5% 227,922 81.3% 2,002,249 96.4% 11.4% 16.1% 140.9% 1,757,350 203.3% 2,727,284 176.8% 64.4% 22.0% 241,406 143.1% 22,119 28.4% 263,525 99.9% 8.4% 2.1% 1,228,477 122.4% 163,774 70.0% 1,392,251 111.7% 11.8% 11.2% 国内 前年度比 電力プラントシステム 1,031,167 99.7% 通信プラントシステム 1,774,327 98.7% 化学プラント 969,934 製鉄プラント プラント施設 その他産業プラント 海外 9,113 15.6% 59,778 811.0% 68,891 104.6% 86.8% 0.6% 陸上鉄構物 147,441 49.8% 29,160 96.2% 176,601 54.1% 16.5% 1.4% 貯蔵・輸送システム 426,336 87.4% 223,187 76.7% 649,523 83.4% 34.4% 5.2% 環境衛生システム 737,791 80.1% 91,768 215.1% 829,559 86.7% 11.1% 6.7% 2,085,690 103.5% 140,924 312.0% 2,226,614 108.1% 6.3% 17.9% 交通網整備システム 140,843 40.2% 146,220 144.2% 287,063 63.3% 50.9% 2.3% その他 114,151 83.5% 6,829 161.2% 120,980 85.9% 5.6% 1.0% 8,906,676 99.0% 3,517,199 132.9% 12,423,875 106.9% 28.3% 100.0% 海洋施設 都市・地域開発システム 合計 135 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 15 代表される国産機開発に挑戦した時代を経て、80年 航空機産業 代以降はB767及びB777やV2500などの国際共同開発 (1)現状(表1415−1) を推進する時代へと着実に発展してきており、現在 航空機産業は高い技術力に支えられた加工組立型 では生産額1兆円を超える産業となった(図1415−2) 。 産業の頂点に位置付けられる産業であるとともに、 特に90年代以降、防衛予算が伸び悩む中、航空機産 裾野が広く、雇用吸収力のある産業であり、今後の 業の成長は民間部門が牽引しており、防衛需要比率 我が国経済を担う基幹産業の一つとして発展が期待 は80年代初頭の約85%から現在では約50%にまで低 されている。また、航空機は重要な防衛装備の一つ 下してきている。 90年代以降、防衛予算の削減などを背景に、世界 として、安全保障の基盤を形成している。 戦後7年間の空白期間を経て我が国航空機産業が再 の航空機産業は、民間機市場での競争力強化・防衛 開され、以来半世紀余りが経過した。この間、我が 部門での生産性向上のため、大幅な事業再編を進め 国航空機産業は、米軍機の修理や技術導入、欧米各 た(図1415−3) 。その結果、100席クラス以上の中大 社からのライセンス生産などによって先進諸外国へ 型機市場はボーイングとエアバスの2社、100席以下 のキャッチアップに努めた時代に始まり、YS−11に の小型機市場はカナダのボンバルディアとブラジル のエンブラエルなどによる寡占市場となった。また、 表1415−1 我が国航空機産業の販売額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 航空機エンジン市場は、米国のGE(ゼネラル・エレ クトリック) 、P&W(プラット・アンド・ホイット 06年 05年 96年 ニー) 、英国のRR(ロールス・ロイス)などによる 販売額(億円) 11,890 9,481 8,709 寡占市場となっている。 従業者(千人) 24 23 27 輸出額(億円) 4,099 2,881 1,411 輸入額(億円) 10,574 8,867 4,080 資料: (社)日本航空宇宙工業会「日本の航空宇宙工業」 図1415−2 我が国航空機産業のこれまでの歩み 生産額(億円) 国際共同開発への 12,000 展開の時代 国産機開発への 挑戦の時代 復興∼ 10,000 8,000 6,000 4,000 航 空 禁 止 期 間 ︵ 空 白 の 7 年 間 ︶ 技術導入と CF34 経験蓄積 B777 の時代 V2500 B767 YS−11 民需 防需 F−2 T−4 F−1 US−1/1A 2,000 C−1 T−1 F−104ラ生産 0 1945 '50 '55 '60 F−15ライセンス生産 F−4EJラ生産 F−86ラ生産 '65 '70 '75 資料: (社)日本航空宇宙工業会「日本の航空宇宙工業」から作成。 136 '80 '85 '90 '95 2000 '06(暦年) 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 図1415−3 欧米航空機関連企業の動向 米 第 4 節 欧 アエロスパシアル(仏) ボーイング 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 EADS (欧州航空宇宙 防衛株式会社) マトラ(仏) ボーイング マクドネル・ダグラス ダッソー(仏) 〔民+防〕 ・ロックウェル(航空宇宙、防衛)等 DASA(独) 〔民+防〕 CASA(西) ロッキード ロッキード・ マーチン エアバス マーチン・マリエッタ ・ジェネラル・ダイナミックス(戦闘機)、 ロラール等 ノースロップ 〔民〕 〔防〕 BAe(英) ノースロップ・ グラマン グラマン BAEシステムズ サーブ 〔防〕 ・ウェスティングハウス(防衛、電子)、 リットン等 マルコーニ等 〔民+防〕 ロールス・ロイス(英) レイセオン ロールス・ロイス レイセオン アリソン・エンジンズ(米) 〔民+防〕 ・テキサス・インスツルメント(防衛)、 ヒューズ(防衛)、 BAe(コーポレートジェット)等 1990 〔民+防〕 ビッカーズ(英) 現在 1990 現在 資料: (財)日本航空機開発協会「民間航空機関連データ集」から作成。 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み (3)世界市場の展望 2001年の同時多発テロや2003年の重症急性呼吸器 機体・エンジンの主要部分品やシステムに係る我 症候群(SARS)などの影響によって航空機市場は一 が国メーカーの技術力は欧米完成機メーカーから高 時的に低迷したものの、2005年にはエアバスとボー く評価されており、特に、複合材料関連技術は世界 イングの受注が過去最高を記録するなど力強い需要 でもトップレベルにある。近年の機体・エンジンの 回復を示し、2006年も引き続き2001年以前よりも高 国際共同開発における我が国メーカーの分担は、高 い需要を維持している。また、世界全体の航空旅客 い技術力を背景に拡大・高度化している。 数の伸び率は、2020年頃まで年平均5%程度という予 測が一般的であり、特にアジア・太平洋地域におけ ②弱み 我が国航空機産業は、民間機の全体を統合設計・ 製造する技術の実証経験は十分ではない。また、マ る需要の伸びが大きいと見込まれている(図1415− 4) 。これに伴い、航空機市場は中長期的に着実に拡 大すると予想されている。 ーケティングやアフターサービス、巨額の開発資 航空需要の増大への対応や既存の民間機の世代交 金・長期の投資回収期間に対応したファイナンスス 代が見込まれることから、現在、世界の主要メーカ キームなどの面においても海外メーカーと大きな開 ーにおいて民間機の機体・エンジンの開発が活発に きがある。 行われており、我が国メーカーも多数参加している。 137 図1415−4 世界の航空旅客需要の実績及び予測 Trent1000・GEnxでそれぞれ15%の担当比率で参画し 有償旅客キロ (10億人・キロ) 11,000 2026年(シェア) 世界合計 10,579 実 績 10,000 予 測 その他 (CIS 含む) 138 (13%) 年平均伸び率(%) 1986− 2006− 9,000 2006 2026 8,000 7,000 6,000 北米 3.9 3.9 欧州 6.4 4.4 アジア/太平洋 7.9 5.9 その他(CIS含む) 2.0 4.9 世界合計 5.0 4.7 アジア/ 太平洋 3,291 (31%) 528(12%) 必要である。 第三に、航空機用機器関連技術や材料・構造関連 技術については、今後とも他国技術との差別化を図 ②東アジア等グローバル戦略 これまで我が国航空機産業は、欧米メーカーとの 1,247(30%) 1,000 北米 2,971 (28%) 1,385(33%) 1991 自らが主体となって全機開発能力を獲得することが 1,036(25%) 1986年 1,589 0 1986 達成し、新たな技術の吸収・発展を図るとともに、 欧州 2,938 (28%) 4,000 3,000 ているが、今後、より一層主体的かつ高度な参画を り、不断の研究開発を進めることが必要である。 2006年(シェア) 4,196 5,000 2,000 小型機用ではCF34−10で30%、中型機用では 1996 2001 2006 2011 共同開発や部分品製造を中心に事業展開を行ってお り、アジア諸国のメーカーとの取引は活発には行わ 2016 2021 2026 (年) 資料: (財)日本航空機開発協会「民間航空機関連データ集」 れていない。 しかし、近年、中国を始めとするアジア諸国の航 空機開発技術力の向上、欧米メーカーによる中国メ (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 ーカーへの外注や技術指導の動きなどがある中、我 が国航空機産業としても、将来の市場の大きさやコ 第一に、小型機については、YS−11以来約40年ぶ スト競争力の確保などの観点から、アジア諸国との りとなる国産民間機開発を実現するためにも、これ 対話・交流を促進し、協力関係の構築を検討してい までの国産機開発や国際共同開発、各種要素技術開 く必要がある。 発などで蓄積した経験や技術力を活かし、我が国メ ーカー自らが主体となって全機開発能力を獲得する ことが必要である。また、その事業化に当たっては、 関係省庁・機関及び関係企業の連携強化が不可欠で ある。 16 宇宙産業 (1)現状 宇宙開発は、草創期には国威発揚の手段として実 中大型機については、今後とも国際共同開発が主 施されてきたが、今日では衛星放送・通信、位置情 流と考えられる。近年、欧米の完成機メーカーにお 報、資源探査、災害監視、地球観測等に見られるよ いて、自らは最終組立とマーケティングに特化する うに、多様な社会ニーズに応える基盤となっている。 一方で、主翼・胴体などの部位については開発から また、宇宙空間は強い放射線、真空状態、急激かつ 在庫管理に至るまでパートナー企業に分担させると 大規模な温度変化、打上時の騒音・衝撃、修理がで いうサプライチェーンの変革が進められている。我 きない等極めて過酷な環境にあるため、宇宙開発に が国メーカーがこれまで以上の参画を果たすために は高度な技術水準と高い信頼性が求められる。さら は、材料関連技術など我が国が強みを有する技術を に、部品点数も極めて多く、すり合わせが必要とな 一層向上させることが重要である。また、防衛省機 る。主要国は、宇宙産業がこのように高い波及効果 の開発を通じて蓄積された技術の民間機への転用可 を持ち、経済発展の基盤となる高付加価値産業であ 能性についても検討を進めることが重要である。 る点、さらに安全保障に密接に関連する点に着目し、 第二に、航空機エンジンについては、各種機体の 開発に伴って幅広いサイズの開発・生産が国際共同 事業として行われている。現在、我が国メーカーは、 138 重要な戦略産業に位置付けている。 諸外国の宇宙機器産業の売上高を概観すると、米 国が膨大な官需を背景に4兆1,300億円(2005年度)と 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 圧倒的な規模を有している。また、戦略的な産業政 るほか、光学センサ(高分解能化、大口径主鏡技術) 、 策を打ってきた欧州は、特に商業分野で地位を確立 合成開口レーダ(C、X、Ku帯) 、姿勢制御用慣性基 し、6,061億円(2005年度)の売上規模を上げている。 準装置、半導体データレコーダ・データ圧縮技術 ロシアは、弾道ミサイルをロケットに転用し、西側 (通信系)等、未だに優位性を確保できていない分野 諸国との合弁による打上げサービスにより商業市場 も存在している。 で地位を確立した。今後、有人宇宙飛行を成功させ 勢いに乗る中国、すでに予算規模では約1,000億円を 超えているインドの商業市場への本格参入が予想さ れる。 (図1416−1、表1416−2) (3)世界市場の展望 2005年度、世界の宇宙産業の市場規模は888億ド ル(注)である。その内訳を見ると、衛星・ロケ 他方、我が国は、宇宙機器の国内民需の受注減少 ット製造(衛星製造、打上げサービス)などの宇 や輸出の低調が影響し、売上高は米国の約2分の1、 宙機器産業が81億ドル、衛星放送・通信、測位、 欧州の約3分の1の2,237億円(2005年度)にとどまっ データ利用(衛星利用サービス)などの宇宙利用 ている。 (表1416−3) 。 サービス産業が528億ドル、地上アンテナ、端末 (その他)などの宇宙関連民生機器産業が252億ド (2)我が国産業の強みと弱み ①強み ルという構成となっている(図1416−4) 。 我が国における宇宙関連市場も世界の宇宙産業 我が国の宇宙産業は、一部の技術・部品において と同様に、サービスを利用するユーザー産業を加 国際競争力を有している。その例としては、トラン えた広い裾野を形成するピラミッド型の市場とし スポンダ(通信用中継機器) 、リチウムイオン電池や て、総額5.3兆円の規模を有しているところであり、 太陽電池パドル(電源系) 、姿勢を検知する静止衛星 今後もサービス関連分野における市場の一層の拡 用地球センサ、衛星搭載スラスタ・アポジエンジン 大が期待されている(図1416−5)。 (姿勢制御系)等が挙げられる。また、衛星構体に使 用される炭素繊維材料など、高度な材料・加工技術 (注)世界の宇宙産業の市場規模888億ドルは、ユ ーザー産業群を除いた額。 についても比較優位を持つ。また、H−ⅡAロケット では、液体水素、液体酸素を燃料とする世界最先端 のエンジンの採用に成功した。 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 ロケットでは、我が国の基幹ロケットであるH− ②弱み ⅡAロケットが、成功率90%超となり海外ロケット 我が国の宇宙産業の最大の問題は、内外を通じた に比肩する信頼性を確保した。また、今年4月から打 商業ベースでの実績が極めて乏しい点にある。ロケ 上サービスが民間移管されることから、コスト面を ット打上げサービスについては、現在のところ、海 中心に国際競争力の改善に取り組む必要がある。ま 外受注による打上げ実績はなく、国内の商業ベース た、打上げニーズに柔軟に応えるため、中型ロケッ による打上げ実績はない。 トとしてGXロケットを整備することが必要である。 また、人工衛星については、90年代は商業衛星、 政府実用衛星を通じて外国製に依存してきた。しか また、競争環境整備をより一層推進していくことが 重要である。 し2000年以降、国内メーカーが初めて海外受注に成 衛星については、衛星バス(衛星の基本となる構 功したほか、国内の商業衛星、政府実用衛星の受注 造体)の標準化や高度化を進めることが肝要である。 にも成功し、徐々に競争力に改善が見られる状況に 国際的な取引状況を見ると、衛星バス自体が取引対 ある。 象となるばかりではなく、衛星バスがシリーズ化さ さらに、技術・部品レベルの技術力についても課 れていなければ商業的に実績としてみなされず、保 題は少なくない。部品国産化比率の低下が起きてい 険上の評価につながっていない。さらに、部品・技 139 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 図1416−1 ロケット製造・打上サービス企業統合推移 大型ロケット McDonne l lDoug l as Rockwe l l Boeing 中小型ロケット Zen i t3SL Yuzhnoye SeaLaunch Ake rASA De l t aⅣ Ene r g i a De l t aⅡ United Launch Alliance(官需のみ) Lockheed Martin Lockheed At l asⅤ Minotaur Or b i t a lSc i ences Corporation Pegasus GEAe rospace Tau r us Ma r t i nMa r i e t t a PROTON International Launch Services ロシア政府 St a r sem フランス政府 Aerospatiale Matra DASA ROCKOT Kh r un i chev Eurockot SOYUZ Arianespace EADS (子会社経由 を含む) ARIANEⅤ Vega CASA 三菱重工業 H−ⅡA 中国航天工業公司 中国長城工業総公司 長征3B GX Ga l axyExp ress 石川島播磨重工業 長征2F 米国 日本 C I S 欧州 中国 企業結合 出資関係(代表的なものに限る) 衛星製造企業統合推移 Boe i ng Sa t e l l i t e Sys t ems Boe i ng Hughes (衛星部門) Lockheed Thales Thales Al en i a Space Al ca t e l Ae rospa t i a l e Lockheed Ma r t i n RCA Tomson‐CSF 欧州 米国 GE Al en i aSpazia Ma r t i nMa r i e t t a Loral SpaceSys t ems /Lo r a l Ford Aerospace Ma rcon i DASA TRW No r t h ropGr uman No r t h ropGr uman Or b i t a lSc i ence Co r po r a t i on Or b i t a lSc i ences Co r po r a t i on Fa i rch i l d CTA ※NEC 三菱電機 日本 資料:経済産業省作成 140 Ma t r a EADSAs t r i um MBB NEC 東芝 ※2007年4月から、契約責任がNEC になり、NECと東芝の子会社であ るNEC東芝スペースシステム株式 会社は生産子会社となった。 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 表1416−2 順位 宇宙関連主要メーカーの売上高比較(2005年) 企業名 国籍 2005年宇宙部門 衛星の製造 売上(百万ドル) 画像販売 ロケット 地上 システム 1 The Boeing Co. 米 9,100 ○ ○ ○ 2 Lockheed Martin Corp. 米 9,010 ○ ○ ○ 3 Northrop Grumman Corp 米 4,858 ○ 4 Raytheon Corp 米 3,944 ○ ○ ○ ○ 5 EADS Space 蘭 3,198 ○ ○ ○ ○ 6 United Space Alliance 米 1,981 7 Science Applications International Corp 米 1,850 8 Alcatel‐ Alenia Space 仏 1,776 9 Computer Sciences Corp 米 1,400 10 Arianespace SA 仏 1,265 国籍 2005年宇宙部門 売上(億円) 順位 企業名 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ システムインテグ レーション 衛星の製造 画像販売 ○ ○ ロケット 地上 システム − 三菱重工業株式会社 日 417 ○ ○ − 石川島播磨重工業株式会社 日 250 ○ ○ − 三菱電機株式会社 日 480 ○ ○ − NEC 東芝スペースシステム株式会社 日 423 ○ ○ 資料:平成18年宇宙産業データブック 経済産業省作成 術の開発に当たっては、信頼性の確保だけでなく、 表1416−3 我が国宇宙機器産業の販売額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 海外との競争を重視し、最先端技術を生み出す体制 を整備することが必要であるほか、性能が高くコス トの低い民生部品の利用の拡大を図ることが肝要で ある。 また、通信・放送、測位、リモートセンシングな どの宇宙利用の更なる拡大を図ることも宇宙産業の 05年度 96年度 販売額(億円) 2,237 3,387 従業者(千人) 7 9 輸出額(億円) 88 807 輸入額(億円) 175 226 資料: (社)日本航空宇宙工業会「平成18年度宇宙産業データブック」 拡大にとって重要な意味を持つ。特に、リモートセ 図1416−4 ンシングでは、地表面の物質を詳細に特定できるス ペクトル分解能を高めた光学センサの開発を通じ、 より精密な資源探査、農業・食品産業、環境監視、 水質監視など幅広いユーザーの開拓が可能になる。 宇宙産業の市場規模 (US$B) 90 80 25.2 22.8 70 ②東アジアを中心としたグローバル戦略 18.5 経済発展に伴う衛星通信・放送サービスなどの需 50 要拡大が見込まれる韓国、オーストラリア、インド 40 などを中心に、海外商業市場獲得に向けた活動を強 30 化していく必要がある。 20 また、衛星による地球観測から取得されるデータ は、防災、資源探査、環境保全などに利用可能であ ることから、我が国が有する衛星センサ及び衛星デ ータの高度な利用技術を活用し、こうしたニーズが 21.0 60 28.9 5.3 10 0 21.5 19.6 32.3 35.6 39.8 46.9 52.8 3.0 3.7 3.2 2.8 11.5 9.5 11.0 9.8 10.2 3.0 7.8 00年 01年 02年 03年 04年 05年 衛星製造 打上 サービス 衛星利用 サービス その他 高まっているアジア地域を中心に潜在需要を発掘し つつ、我が国宇宙産業の海外展開を図っていくこと 資料:Satellite Industry Association:“State of the Satellite Industry Report June 2006”経済産業省作成 が重要である。 141 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 図1416−5 我が国宇宙産業の規模(2005年度) などが堅調に推移した。また、電子部品分野におい ても、携帯電話や薄型テレビを中心としたAV機器向 けの需要増、底堅い自動車向けの需要増などにより、 宇宙機器産業 (0.2兆円) 宇 宙 産 業 宇宙利用サービス産業 (0.7兆円) おおむね好調に推移した。 ロケット、 衛星、宇宙基地、 地上局等 衛星通信、 リモセンデータ提供、 測位サービス、 宇宙環境利用等 薄型テレビ等の家電、コンピュータ、携帯電話な 5.3兆円 (裾野を含めた我が 国宇宙産業の規模) どの製品や、半導体などの部品・デバイスを幅広く 生産する総合電機メーカーが主要企業であり、激化 するグローバル競争の中で、 「選択と集中」に成功し た企業が競争力を向上させた。また、得意分野に重 点化し、消耗品ビジネスを実施することにより高収 宇宙関連民生 機器産業 ユーザー産業群 益を得ている事務機器メーカーや、電子部品の専門 (3兆円) (1.4兆円) 領域に特化して高い世界シェアを得ている部品メー 通信・放送、情報提供サービス 運輸、気象観測、測量、医療、 商業、教育・研究、漁業、企業内 利用等 カーナビ BS・CSチューナ カーが存在する(表1417−2、図1417−3、図1417−4) 。 また、デジタル家電の好調に加えて、薄型ディス プレイをはじめとした国内での大型設備投資が相次 ぎ、情報通信機器産業は我が国全体の景況回復を牽 資料:経済産業省作成。 引している。一方で、デジタル家電分野においては、 韓国メーカー等が大胆かつ迅速な投資決定と得意分 17 野に重点化することによる利益率の高い経営により 情報通信機器産業 急速に台頭している中で、世界的に生じている急速 (1)現状(表1417−1) な価格下落により、コスト競争が激しさを増してい 情報通信機器産業は、テレビ、携帯電話、DVD、 る。 コンピュータ、複写機、電子部品、半導体など幅広 い分野にわたっており、生産総額は機械工業全体の うちの1割強を占める我が国を代表する産業である。 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 2005年度は、デジタル景気一巡後の生産調整や価 我が国は、世界的に市場が成長を続けるデジタル 格下落の影響などにより伸び悩みが見られたものの、 家電、複写機などの事務機器、半導体、電子部品、 薄型テレビ、DVDなどのAV機器やカーナビゲーショ 製造装置などで高い競争力を有している(図1417− ンシステムは好調に推移した。2006年度は、ビデオ 5) 。さらに、川上の微細加工や金型製造、基礎素材 カメラやDVDなどは伸びが鈍化したが、サッカーワ 合成・調合等において、高度な技術を持った中小・ ールドカップドイツ大会や地上デジタルテレビ放送 中堅企業群が存在しており、セットメーカーとの高 の受信地域の拡大、新技術を採用した新商品の発売 度な擦り合わせによる部品提供を可能としている などが好材料となり、薄型テレビ、デジタルカメラ ( 「高度部材産業集積」 ) 。したがって、国内に展開し ている「高度部材産業集積」との連携と擦り合わせ 表1417−1 我が国情報通信機器産業の生産額、 従業者、輸出額、輸入額の推移 によって、迅速に高度な新製品を国内で試作・開発 可能であることが強みとなっている。また、国内に 05年 96年 高機能・高性能に対するニーズの高い消費者市場を 生産額(億円) 263,695 323,344 擁していることや、基礎研究に秀でた大学が存在し 従業者(千人) 1,289 1,638 輸出額(億円) 161,735 139,378 輸入額(億円) 98,487 60,328 備考:従業者は、下記資料から、2004年のデータを利用。 資料:(財)家電製品協会「家電産業ハンドブック」 142 ていることも強みと考えられる。 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 表1417−2 我が国企業の世界における位置付け(情報通信機器) (単位:億円、率=%) 企業名 国 売上高 営業利益 営業利益率 純利益 純利益率 1 SIEMENS 独 120,770 4,459 3.7 4,195 3.5 2 Hewlett-Packard 米 99,907 7,422 7.4 6,756 6.8 3 IBM 米 99,652 13,984 14.0 10,346 10.4 4 日立製作所 日 94,648 2,560 2.7 373 0.4 5 松下電器産業 日 87,136 3,085 3.5 584 0.7 6 ソニー 日 74,754 1,912 2.6 1,236 1.7 7 東芝 日 63,435 2,406 3.8 781 1.2 8 SAMSUNG ELECTRONICS 韓 58,970 6,930 11.8 7930 13.4 0.3 売上順位 9 日本電気 日 48,249 954 2.0 121 10 富士通 日 47,914 1,814 3.8 685 1.4 11 Nokia 芬 44,140 5,949 13.5 4,624 10.5 12 Intel 米 38,566 6,161 16.0 5,498 14.3 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 備考:2005年/1ドル=109円、1ウォン=0.1円換算 資料:有価証券報告書、アニュアルレポート等から経済産業省作成。 図1417−3 LCD(液晶ディスプレイ)における事業再編の状況 <<日 本>> シャープ 日立 製作所 富士通 2003.4 分社化 2005.6 日立ディス プレイズ 富士通 富士通がAUO出資 分を買い取った後 ディスプレイ にシャープに売却 テクノロ 2005.1.1 合弁 IPSアルファ テクノロジ ジーズ 豊田自動織 機製作所 東芝 東芝松下 ディスプレイ テクノロジー (TMD) ソニー 合弁生産 2004.10 中国上海 広電 2006.12.28 エプソンに売却 IDTech 中国に 設立 2004.10.1 三洋エプソン エプソンイメー イメージング ジングデバイス デバイス (SEID) 全株式を NEC 2005.1.7合意 松下電器 産業 台湾AUO 三洋電機 1997.10.1 設立 2002.4.1 設立 2003.4 出資 セイコー エプソン NEC液晶 テクノロジ 2003.4.1 分社化 ST‐LCD 2004.4 合弁 韓国S‐LCD AU Optronics サムスン 2006.10.1 合併 Quanta 大型テレビ用ディスプレイの 生産能力を有する会社 CMO(Ci Mei Optoelectronics) CPT HannStar <<台 湾>> LGフィリップス パソコンモニターや携帯電話 等の中小型ディスプレイを主 に生産している会社 <<韓 国>> 資料:経済産業省作成。 ②弱み 近年成長著しいアジア諸国メーカーは、 「選択と集 中」を実践し、大規模な投資判断を迅速に行い、そ 第 4 節 に経営資源を分散し、低迷する企業が存在する等、 産業全体としては「選択と集中」が十分に進展した とは言い難い。 の結果、高い利益率を獲得している。我が国情報通 また、携帯電話や薄型テレビ等の情報通信機器の 信機器関連企業においては、営業利益については回 高機能化に伴い通信モジュールや映像エンジンなど 復基調にあるものの、依然として多くのセグメント の組込システムモジュールの開発コストが増加する 143 図1417−4 PDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)における事業再編の状況 <<日 本>> 日立製作所 2005.2.7 松下電器産業 包括的協業 合意 (日立が子会社化) 2000.4.1 設立 NEC パイオニア 2002.10.1 分社化 富士通日立 プラズマ ディスプレイ (FHP) 松下プラズマ ディスプレイ 富士通 東レ NECプラズマ ディスプレイ 2004.10.1 営業譲渡 <<韓 国>> サムソンSDI LGフィリップス 資料:経済産業省作成。 図1417−5 世界生産額に占める日系企業の割合(2006年) AV機器 16.2兆円 コンピューター及び情報端末 42.5兆円 携帯電話 11.8兆円 5% 14% 17% 15% 0% 53% 30% 81% 事務機器 0.51兆円 85% 電子部品 18.3兆円 17% 35% 61% 4% 51% 33% 日系企業の国内生産 日系企業の海外生産 海外メーカーの生産 資料: (社)電子情報技術産業協会「電子情報産業の世界生産動向調査」 中で、我が国企業は自前主義・内製化傾向が強く、 層強まると見込まれ、薄型テレビ、DVDレコーダー、 適切な外部モジュールの導入、共同開発等が進まず、 デジタルカメラ、携帯オーディオプレーヤーなどの そのことが製品コストに影響を及ぼしている。 デジタル家電の世界需要は引き続き拡大することが 期待される。特に、薄型テレビ(液晶テレビ、プラ (3)世界市場の展望 デジタル化・ネットワーク化の流れは今後より一 144 ズマテレビ)は、世界的なテレビ放送のデジタル化 及び低価格化の進行により、世界需要は一層拡大す 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 ②東アジア等グローバル戦略 ると期待される(図1417−6) 。 我が国情報通信機器産業がグローバル市場におい (4)我が国産業の展望と課題 て競争力を高めていくためには、最先端の技術開発 ①今後の競争力強化に向けた対応 や製品開発だけでなく、戦略的に市場開拓への対応 「選択と集中」をさらに進めて得意分野に経営資源 を行う必要がある。具体的には、グローバルなマー を一層集中し、イノベーションを加速して、コスト ケティング、ブランド戦略に取り組んでいくととも 低減、製品差別化、新市場開拓等を実現していくこ に、生産の最適機能分業が必要であり、技術流出な とが肝要であり、研究開発・人材育成の支援、その どのリスク、地域特性等を踏まえて生産国を多様化 成果を具体化する国内設備投資の環境整備や知的財 するなどの戦略的な対応が重要な課題となる。 産の保護等について、引き続き取組を強化していく 必要がある。 近年、組込ソフトウェアは、デジタル家電を初め とする多くの製品に使われており、製品の性能を決 18 半導体産業 (1)現状(表1418−1) める大きな要素となっている。これに伴い組込ソフ 半導体は、コンピュータ、情報家電などのエレク トウェアの開発規模が増大し、開発コストが大きな トロニクス製品の付加価値(性能、機能等)を決定 負担になってきており、全てを内製するのではなく、 づける重要部品であるとともに、自動車電装品、産 非競争領域については共同開発等によりコスト削減 業機械、医療機器等の幅広い製品に使用され、半導 を図る一方、競争領域へ経営資源を再配分し差別化 体の性能やコストがそれらの製品の競争力に直結し を進めるといった取組が必要である。 ている。今後も、それらの製品の付加価値は、半導 地球環境対策等のための省エネルギー、有害物質 体及びそれに組み込まれたソフトウェアに一層凝縮 対策等の環境問題への対応、相次ぐ製品事故を踏ま されていく方向にあり、最終製品の競争力の源泉を えた製品安全対策等の取組が社会的に強く要請され 持つ基幹部品としての半導体産業の重要性はますま ている。これらの社会的課題に対して、企業の信用 す高まっていく。 力や価格競争力向上に繋げるなど競争力の源泉に昇 我が国半導体産業は、1980年代はDRAMメモリー 中心に高いシェアを維持していたが、90年代から韓 華させるといった積極的な取組が重要である。 国企業の追い上げに加え、2001年のDRAM不況によ り、DRAMメモリー事業を集約・撤退しシステムLSI 図1417−6 プラズマテレビ 薄型テレビ世界需要予測 液晶テレビ 事業に移行するなど、産業構造の改革・再編が行わ 薄型テレビ計 れた。その結果、DRAM、フラッシュメモリなどの メモリー事業は、それぞれ1社に集約した産業構造に (万台) 14,000 より、構造改革の成果が上がりつつある。 12,000 10,000 表1418−1 我が国半導体産業の生産額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 8,000 6,000 4,000 2,000 0 04 05 06 07 08 第 4 節 09 10 11(年) 資料: (社)電子情報技術産業協会「AV主要品目世界需要予測」 (2007 年2月) 05年 96年 生産額(億円) 41,303 47,477 従業者(千人) 495 輸出額(億円) 37,505 24,492 輸入額(億円) 2,270 10,167 − 備考:従業者は、経済産業省「工業統計」から、「電子部品・デバイス 製造業」のデータを利用。 資料:財務省貿易統計、経済産業省「機械統計」 145 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 一方、システムLSI事業は、製品の企画・設計力が 体力の不足という悪循環となっている。また、外部 その競争力を決定する大きな要因であり、海外では リソースの積極的な活用(M&A戦略、グローバルな 米国中心のファブレス(企画・設計特化型)企業と リクルート等)ができてない。 台湾中心のファンドリ(製造特化型)企業の分業体 制が構築され、ファブレス企業に製品競争力が集中 したことで強い競争力を有している(表1418−2、図 (3)世界市場の展望 世界の半導体市況は、コンピュータ・携帯電話等、 半導体の需要産業が広がってきていることから、今 1418−4) 。 後も引き続き伸びることが予測されている。各地域 (2)我が国産業の強みと弱み 市場の動向としては、世界半導体統計(WSTS)の ①強み データによると、半導体市場全体においては2005年 我が国半導体産業は、最先端の製造開発能力があ から2008年までの10%弱の年成長率であり、特に中国 り、高品質の製品を提供していくことが可能である。 を中心としたアジア・パシフィック地域の伸びが著 先端技術を駆使したフラッシュ・DRAMなどのメモ しく、今後も更なる伸びが予想される(図1418−3) 。 リーでは再びシェアの回復を始めている。また、国 内に材料・装置技術などの強い周辺産業の存在によ り、半導体産業を支える優れたものづくりの基盤技 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 我が国の半導体産業の競争力強化には、高い製品 術力がある。 の企画・設計力が必要であり、デファクトとなる製 ②弱み 品・プラットフォームとなる製品を提供していくこ システムLSI事業では、各社多くの製品ポートフォ とが必要である。このためには、製品ポートフォリ リオを持ち、特定分野に集中できず、少量多品種の オの選択と集中を高め、リソースの集中投資を行う 生産となることから生産コストが高くなり、利益率 必要がある。 が低い。また、国内市場には強いが、大きく発展し また、半導体微細化技術の進展に伴って研究開発 ているアジア・パシフィック市場でのシェアが低く、 費と設備投資費のコストが急増している。我が国半 グローバル化が進んでいない。海外企業は高い利益 導体産業においても、一部アライアンスがされてい 率から大規模投資、開発力とスケールメリット、製 るが、更に加速化させる必要がある。また、メモリ 品競争力とコスト競争力という好循環を実現させて ー事業においては、微細化を中心とした製造技術の いるのに対して、日本メーカは低収益により、投資 高度化が必要である。 表1418−2 我が国企業の世界における位置付け(半導体) (単位:億円、率=%) 売上順位 企業名 国 売上高 営業利益 営業利益率 1 Intel 米 35,410 5,984 16.9 2 Samsung 韓 23,429 5,286 22.6 3 Texas Instruments 米 13,942 3,831 27.5 4 Infineon Technology 独 12,254 105 0.9 5 STMicroelectronics 伊・仏 11,464 677 5.9 6 東芝 日 11,382 1,187 10.4 7 Hynix Semiconductor 韓 9,315 2,162 23.2 8 ルネサステクノロジ 日 9,191 − − 9 AMD 米 8,649 600 6.9 10 Freescale 米 7,037 970 13.8 備考:1.半導体売上高シェア(出所:ガートナー)の上位10社。 2.インテルは企業全体。その他企業は、半導体若しくは電子デバイスに該当する部分。 3.ルネサステクノロジは上場していないためデータなし。 資料:各社決算及び公表資料から経済産業省作成。 146 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 図1418−3 地域別半導体市場推移 百万ドル 300,000 第 4 節 前年比% 41.7 4.0 −8.6 18.9 36.8 1.3 −8.4 28.0 18.3 6.8 12.1 8.6 8.5 −32.0 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 250,000 A/P 46,969 米州 53,997 欧州 103,391 150,000 38,942 39,667 0 55,785 114,710 45,757 46,749 50,000 日本 126,392 200,000 100,000 143,520 29,540 46,999 32,835 32,079 34,175 30,184 27,550 51,264 33,148 25,921 37,184 39,820 28,853 64,071 45,851 42,679 30,494 41,432 47,478 28,199 27,562 29,089 29,406 31,881 95 96 97 98 99 42,309 00 88,781 44,082 62,843 47,037 50,379 51,156 39,065 39,275 39,615 42,325 35,778 31,275 32,331 30,216 27,788 32,310 39,424 40,736 45,405 48,788 01 02 03 04 05 06 07 実績 08(年) 予測 資料:WSTS(2006年秋季) 図1418−4 総合電機各社の半導体事業再編 メモリ事業(DRAM) DRAM 〔国内トップ2社を世界で戦える1社に集約。 〕 システムLSI 99年共同 現物出資 エルピーダメモリ DRAM 03年4月 営業譲渡 システムLSI 2002年親会社と無関係のCEO が就任。第三者からの出資も 募り、最新鋭の設備を拡充。 メモリ事業(NAND) DRAM システムLSI 東芝半導体部門 NAND システムLSI事業 DRAM 撤退 〔国内を3グループに集約。〕 システムLSI NECエレクトロニクス DRAM 撤退 02年11月 分割 システムLSI DRAM 東芝半導体部門 ソニー半導体部門 撤退 システムLSI 03年4月 共同新設分割 ルネサステクノロジ 松下半導体部門 DRAM 撤退 富士通半導体部門 システムLSI 資料:経済産業省作成。 147 ②東アジアを中心としたグローバル戦略 25%を占める。また、関連産業を含めた就業人口は、 グローバル市場において競争力を高めていくため には、国内での叩き合い構造から脱却し海外マーケ 全就業人口の7.7%に達する(出典:日本自動車工業 会「日本の自動車工業2006」 ) 。 ットの開拓、世界に通用するグローバルスタンダー 完成車(四輪車)の国内生産は1990年のピークを ド製品の創出、マーケティング力、システム設計力 境に一端は減少に転じたが、2001年以降、海外市場 を強化して、ボリューム市場であるアジアを攻略す への輸出の増加により微増を続け、2006年まで5年連 ることが必要である。 続で1,000万台を超える水準を維持している。一方で 1983年から開始した海外生産は増加を続け、2000年 19 以降はアジアを中心とした新興諸国での現地生産が 自動車産業 拡大し、現在では1,000万台を超え、2005年度には国 (1)現状(表1419−1) 内生産を超えるまでに至っている。 国内市場の成熟化が進み、国内販売台数は2000年 自動車は構成部品点数が2∼3万点にも達する大規 模な加工組立型産業であり、鉄鋼、化学といった素 以降、600万台弱で横這いないし逓減傾向にある中、 材から電機・電子など、その関連産業は多岐にわた 主として海外市場での販売拡大により、国内完成車 っている。関連産業の出荷額は約46兆円と我が国製 メーカーの収益は概ね好調に推移しており、2005年 造業の出荷額における16%を占め、設備投資額は約 度決算では売上高や営業利益などで過去最高水準に 1.2兆円であり、主要な製造業の設備投資額における 達するところも相次いでいる(表1419−2) 。 世界的に見れば、中国をはじめとする新興諸国の 表1419−1 我が国自動車産業の出荷額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 完成車生産がここ数年、急速に伸びてきており、日 米欧の3極以外での生産の占める割合が拡大しつつあ る(図1419−3)。こうした中、1990年代後半以降、 05年 96年 出荷額(億円) 458,122※ 406,003 従業者(千人) 769※ 771 輸出額(億円) 127,293 735,433 う技術開発コストの増大等を背景に、国境を越えた 輸入額(億円) 13,353 13,295 メーカー間の合従連衡も盛んになっており、メーカ ※は04年データ 資料:財務省貿易統計 (概況品で「自動車」及び「自動車の部分品」に分類されるもの) 経済産業省「工業統計表」 (「自動車・同附属品製造業」に分類される従業者4人以上の事 業所対象) 表1419−2 グローバルな市場拡大や環境・安全規制の強化に伴 ー同士の資本提携や個別技術分野ごとの技術提携が 活発に行なわれている(図1419−4) 。 我が国企業の世界における位置付け(自動車) (単位:億円、率:%) 売上順位 企業名 売上 営業利益 営業利益率 1 GM 米 218,149 ▲ 11,249 ▲ 5.2 2 Daimler Chrysler 独/米 210,865 4,535 2.2 3 トヨタ 日 210,369 18,783 8.9 4 Ford 米 200,577 2,261 1.1 5 VW 独 134,125 4,425 3.3 6 ホンダ 日 99,080 7,309 7.4 7 日産 日 94,283 8,718 9.2 8 PSA 仏 79,216 2,731 3.4 9 BMW 独 65,686 5,340 8.1 10 現代 韓 65,061 3,993 6.1 11 Renault 仏 58,198 2,132 3.7 12 マツダ 日 29,198 1,234 4.2 資料:FOURIN及び各社のアニュアルレポート 148 国 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 (2)我が国産業の強みと弱み の絶えざる合理化(カイゼン)を重視する人的資本 ①強み 重視の経営が浸透していることなども強みの一つで 我が国の自動車産業にとって、排出ガス低減や燃 ある。こうした国内での差別化を通じて競争力を高 費向上に資するエネルギー・環境技術(例えば、世 め、成長する海外で高品質の製品を供給するという 界市場をほぼ独占しているハイブリッド技術)にお ビジネスモデルを確立していることが我が国の自動 いて世界をリードしていることが強みとなっている。 車産業の強みである、とも言える。 また、ジャストインタイム方式に象徴されるように、 ②弱み コスト、品質、納期といった面で自動車メーカーと 部品メーカーの間に極めて効率性の高い生産システ 高度な摺り合わせや現場のカイゼン活動を進める ムを構築していること、労使協調のもとで現場主導 上で、生産技能の伝承と技能系人材の確保が不可欠 であるが、国内においては、労働人口の減少と若者 図1419−3 世界の地域別生産台数 の製造現場離れ、急速に展開が進む海外においては (千台) 70,000 生産拡大のペースに合う人材確保の困難が指摘され ており、今後の成長の制約要因となりうる。 その他 南米 60,000 また、自動車生産における電子化が進展する中で、 東欧 設計・開発面では、欧米企業と比べて、海外人材の アジア (日本以外) 西欧 50,000 活用が十分ではないとの指摘もある。 日本 40,000 北米 (3)世界市場の展望 30,000 日本・北米・西欧の先進国市場が成熟し、ほぼ横 20,000 ばいであるのに対し、BRICsを中心とする新興国市 場の伸びは著しく、今後も成長が続くと見られる。 10,000 0 70 特に中国は飛躍的に拡大しており、2006年の販売台 75 80 85 90 95 00 05(年) 数は700万台を超え、日本を初めて上回り米国に次ぐ 図1419−4 欧州 オペル サーブ 日本 100%(1929年) いすゞ 50%(1990年) スズキ フィアット VW BMW 自動車産業の国際的再編 米国 × 解消(2006年4月) アウディ 99%(1965年) GM 3.7%(2006年3月) 5.9%(2006年11月) 8.7% 51.2% (2005年10月) (1998年8月) トヨタ 50.1% (2001年5月) 富士重 ダイハツ 日野 ホンダ PSA ボルボ (乗用車) 100%(1999年1月) 33.4%(1996年4月) マツダ フォード 三菱自工 ダイムラー クライスラー 85%(2004年3月) 三菱ふそうトラック・バス 合併(1998年11月) 旧クライスラー 44.3%(1999年3月) ルノー ボルボ (商用車) 15%(1999年3月) 19%(TOBにより100%へ) 日産 日産ディーゼル × 解消(2006年9月) 資料:経済産業省作成(2007年2月末現在) 149 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 世界第2位の市場となった。 具体的には、諸外国の不透明な許認可制度、知的財 産権の侵害、各国の移転価格税制の透明性向上とい (4)我が国産業の展望と課題 ①エネルギー環境技術の強化に向けた対応 った我が国自動車産業においても関心が高い問題の 解決を図っていく。 新興国市場の急成長により世界的にエネルギー制 約が強まる中で、ますますエネルギー・環境技術が 産業の競争力にとって重要性を増していくことは疑 いない。また、次世代自動車技術として、バイオ燃 20 繊維産業 (1)現状(表1420−1) 料の活用、クリーンディーゼル、バッテリー技術の 繊維産業、特に繊維製造業は、雇用者数約41万人 改善によるハイブリッド技術の進化、電気自動車の で製造業全体の約5.0%、付加価値額約2.3兆円で製造 改善など技術の多様化が見られるところである。今 業全体の約2.3%と、今もって一大産業である。1 後は、燃費性能の絶えざる改善を進めるとともに、 また、石川・福井(付加価値額約2,156億円、同地 今後の新技術への対応について、総合的な技術環境 域の製造業全体の13.4%。以下同様。)、大阪南部 経営を確立することが必要となる。政策面では、次 (約762億円、12.3%) 、岡山(約1,306億円、6.6%)な 世代自動車を支える技術のあり方について包括的な ど産地性が強く、これらの地域では、地域経済で大 検討を進めていく。 きな影響力を有している。2 日本の繊維市場では、中国などからの輸入品が大 ②内外での人材育成の促進 国内では労働力の減少が見込まれる中、自動車産 業にとっても、優秀な人材を確保し、的確に技能伝 承を図っていくことがますます重要な課題となって きな位置を占めているが、2000年頃まで金額及び量 ともに大きく増加したものの、数量ベースの輸入浸 透率に比べ、金額ベースの輸入浸透率は大幅に低い。 (図1420−2、図1420−3、表1420−4) 。 いく。今後とも、正規・非正規雇用の適切なバラン スを維持しつつ、海外人材の活用も含め、人的資本 (2)我が国繊維産業の強みと弱み 重視の経営という我が国産業の強みを生かした人事 我が国の繊維産業は、中国をはじめとする海外か 管理政策のあり方を検討していく必要がある。政策 らの輸入が多くを占め、国際競争が激化しているこ 面では、産官学が連携した高度なものづくり人材育 とに加え、小売段階と製造段階の分断構造からもた 成を支援する取組を国内外で引き続き進めていく。 らされる大量のロスの存在、国内人口減による市場 の縮小、粗原料の逼迫、匠の技を持った産地の疲弊 ③グローバル戦略の推進 等極めて困難な状況に置かれている。 今後とも、中国、インドなどの新興諸国を中心に しかし、我が国には、東京を中心とした高感度で 自動車の需要は伸び続け、我が国自動車産業の海外 大規模なファッション消費市場がある。また、海外 展開は拡大していくことが見込まれる。 こうした中、 「日本国内で差別化し、海外で収益を 表1420−1 我が国の繊維産業の出荷額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 拡大する」という内外両面の経営戦略が引き続き重 要となる。かかる経営戦略に対応して、政策面でも、 05年 96年 97,830 経済連携協定(EPA)などを戦略的に活用して、完 出荷額(億円) 47,940 従業者(千人) 389 826 成車や自動車部品の早期の関税削減・撤廃を求めて 輸出額(億円) 7,768 7,765 いくとともに、我が国産業の海外での収益を確保す 輸入額(億円) 29,632 26,804 るためのビジネス環境整備を進めていく必要がある。 備考:出荷額・従業者は、従業者4人以上の事業所についてのデータ。 資料:財務省貿易統計、経済産業省「工業統計表」 1 数字は2004年「工業統計表」。11繊維工業、12衣服・その他の繊維製品製造業、174化学繊維製造業について、従業者4人以上の事業所。 2 数字は2004年「工業統計表」。11繊維工業、12衣服・その他の繊維製品製造業について、従業者4人以上の事業所。 150 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 図1420−2 繊維製品全体の出荷額と生産量の推移 の高級ブランドにも高く評価をされている産地の匠 の技、世界有数の技術力に支えられた新資材開発力、 出荷額(百万円) 優秀なクリエーション人材の存在等強みも大きい。 生産量(t) (百万円) 15,000,000 (t) 2,500,000 構造改革を推進し、これらの強みを十分に発揮する ことが出来れば我が国の繊維産業は大きく飛躍をす る可能性を秘めている。 2,000,000 (3)世界市場の展望 10,000,000 1,500,000 世界市場としては、中国が有望視される。特に都 市部においては、人口の増加と可処分所得の拡大が 生産量 続いており、日本の繊維産業が得意とする高付加価 1,000,000 5,000,000 値製品への需要拡大が見込まれる。一般的に日本の 繊維技術は海外でも評価が高いため、高度な繊維技 出荷額 500,000 術に裏付けられた高付加価値製品は、中国のみなら ず、欧米においても需要を見込めると考えられる。 0 0 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年) (4)我が国産業の展望と課題 資料:経済産業省「工業統計表(従業者4人以上の事業所)」 、「繊維・ 生活用品統計年報」 ①今後の競争力強化に向けた対応 日本の繊維産業が、特に衣料用の分野において、 国際競争力を強化し、生き残っていくためには、 図1420−3 繊維製品全体の輸出入量、金額、 輸入浸透率の推移 2002年にとりまとめられた「繊維ビジョン」に基づ き、引き続き、生産や流通、販売に存在する多大な 輸出額(百万円) 輸入額(百万円) 輸出量(t) 輸入量(t) ロスを削減しつつ、消費者など最終ユーザーオリエ ンティドな付加価値の高い商品を、コストパフォー 輸入浸透率(金額ベース、%) マンス良く生産し、販売する産業となることが不可 輸入浸透率(数量ベース、%) (t、百万円) 3,500,000 (%) 100 90 3,000,000 2,500,000 2,000,000 1,500,000 1,000,000 輸入額 輸入浸透率 (数量ベース) 輸入浸透率 (金額ベース) アライアンス、コラボレーションを行うことにより、 生産、流通、小売が結びつき、それぞれをより精緻 に管理するシステムを構築することが必要になる。 60 具体的には繊維産業流通構造改革推進協議会を中心 50 とした「取引ガイドライン」の策定・普及活動の推 40 進や委託加工が中心であった川中の中小繊維製造事 30 業者の構造改革に向けた前向きな取組に対して支援 輸出額 輸出量 が、自己責任と自助努力を基本として、個々に又は 70 20 500,000 欠である。このためには、まず国内において、企業 80 輸入量 10 を行う「中小繊維製造事業者自立事業」を引き続き 実施する。 また、世界有数の感性と技術を活かし、国際発信 0 0 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年) 資料:経済産業省「工業統計表」、「繊維統計年報」 、財務省貿易統計 第 4 節 力の強化を図るため、ファッション業界関係者が総 力を結集させ、コレクションの短期集中開催、素材 展などを同時に開催する「東京発 日本ファッショ ン・ウィーク」の開催に対して支援を行う。 151 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 表1420−4 我が国化合繊産業の主要企業(繊維部門) (単位:億円、率=%) 売上順位 企業名 部門売上高 部門営業利益 部門営業利益率 ROA 1 東レ 5,805 207 3.6 3.1 2 帝人 5,208 198 3.8 2.6 3 東洋紡 1,744 54 3.1 2.4 4 クラレ 1,091 95 8.7 4.4 5 ユニチカ 1,030 27 2.6 1.4 6 旭化成 897 40 4.5 4.3 7 三菱レイヨン 848 14 1.7 6.4 備考:ROAにつき、全社ベースの値。 資料:各社の有価証券報告書(2006年3月期)から経済産業省作成。 ②東アジア等グローバル戦略 は4.2%、90年代は1.4%、2000年代前半は−0.1%と低 国際的には2004年末の繊維協定失効に伴う繊維貿 下している。2005年度の大手7社の状況を見ると売上 易の自由化に伴い、中国・インドなどの繊維強国の 高はおおむね横ばい、営業利益は市況の軟化や原燃 欧米への輸出の増加傾向が見られる。我が国からも 料高により対前年比マイナスなっている。 中国の国内市場・中国などからの第三国輸出を目的 国内の紙・パルプ産業の再編については、1990年 とした対中投資、対中輸出が引き続き拡大傾向にあ に全110社中上位10社の紙・板紙生産シェアは54.6% る。 であったのに対し、2001年にはこれが7グループに集 こうした中、日本の繊維企業はチャイナプラス1を 約化され、2005年における全64社中7グループの生産 踏まえた日本とアセアンとの新たな分業体制の構築 シェアは78.1%と、上流部門における集約・再編が と、第三国市場への輸出促進を追求する必要がある。 進展した。 そのため、政府は繊維業界とも緊密に連携しつつ 海外においても、国境を越えた企業合併等が進む EPA交渉に精力的に取り組み、海外事業展開に係る 中、王子製紙がシェア2.2%と世界第6位の生産規模 環境整備に努めている。 にある(表1421−2) 。 21 (2)我が国産業の強みと弱み 紙・パルプ産業 ①強み (1)現状(表1421−1) 我が国の紙・パルプ産業は、製品の品質が高く、 紙・パルプ産業は、産業活動と国民生活に不可欠 国内ユーザーの厳しい品質・作業性要求にも対応し、 な素材である紙・板紙を供給する基盤産業である。 短期間での納入やクレーム処理にもきめ細かい対応 2005年の生産量は、紙・板紙合計で3,095万トンであ をしている。 り、米国、中国に次いで世界第3位である。国内市場 は成熟化しつつあり、需要の年平均伸び率は80年代 ②弱み 我が国企業の生産設備は、海外企業と比較して小 表1421−1 我が国の紙・パルプ産業の出荷額、 従業者、輸出額、輸入額の推移 出荷額(億円) 05年 96年 70,892 86,332 従業者(千人) 210 263 輸出額(億円) 2,142 1,560 輸入額(億円) 2,046 2,102 資料:財務省貿易統計、経済産業省「工業統計」 152 規模で古く、また、近年は総じて生産能力の過剰状 態が続いており、生産効率が低下してきている。製 品規格が多いことによる切り替えロスや、物流コス トの高さもある。 (3)世界市場の展望 国内需要は横ばいで推移しており、今後とも需要 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 表1421−2 我が国企業の世界における位置付け(紙・パルプ)(2005年) (単位:生産量:千トン、売上高:百万ドル、シェア:%) 順位 企業名 国 生産量 シェア 売上高 1 2 インターナショナル・ペーパー 米 15,756 4.3 24,097 ストラ・エンソ フィンランド/スウェーデン 14,319 3.9 16,392 3 UPMキュンメネ フィンランド 10,223 2.8 11,619 4 ジョージア・パシフィック 米 9,750 2.7 18,900 5 ウェアーハウザー 米 8,914 2.4 22,269 6 王子製紙 日 8,184 2.2 11,023 7 日本製紙グループ本社 日 7,788 2.1 10,463 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 資料:Pulp & Paper International 図1421−3 の大幅な増加は期待できない。ユーザー産業の海外 移転の加速化や、情報化による電子媒体利用の進展、 地域別紙・板紙消費の推移 (万トン) 15,000 他素材の包装物代替品の普及などにより、紙・板紙 アジア 13,930 需要が影響を受ける可能性もある。 中国市場の拡大により、古紙・チップなどの原材 13,000 料確保の課題も顕在化しつつある。 北米、欧州市場は、我が国と同様成熟化している 11,000 が、アジア市場は急速に拡大している。 (図1421−3) 。 (4)我が国産業の展望と課題 9,000 ①今後の競争力強化に向けた対応 これまで我が国紙・パルプ産業は、内需依存型産 8,331 9,716 米国 8,970 中国 5,930 日本 3,146 05 (年) 6,181 欧米企業のアジア進出やアジア企業の対日輸出の増 5,000 予想される。 また、少子高齢化の進展により、内需も大きくは 9,734 北米 7,466 業として国内企業間中心の競争を展開してきたが、 加により、今後、国際競争への対応が必要になると 欧州 7,768 7,000 3,000 2,822 伸びなくなっていく。このような国内外の競争への 対応として、物流コストの低減、小規模で老朽化し た設備の更新や汎用品の製品規格の削減・統合によ る国内生産体制の再構築を行うとともに、海外との 1,443 1,000 90 95 00 資料:Pulp & Paper International コスト競争に対抗できる生産体制を確立することが 必要である。また、国内外市場のニーズに対応した 高付加価値品の開発も重要な課題である。 第 4 節 ②東アジア等海外戦略 さらに技術力の強化も重要で、例えば、製紙工程 王子製紙は、2006年7月中国江蘇省南通市に建設を で出る廃棄物から無機薬品を取り出し、再利用する 計画している紙パルプ一貫工場の建設認可を中国国 技術を開発するなど、我が国の技術力が高い分野を 務院から取得した。2009年末稼働予定。 含め、総合的な技術力を一層強化していくことが必 要である。 また、植林の推進も原材料確保及び環境保全の観 点から重要である。 153 22 件費が安い中国、台湾などアジア諸国への工場進出 日用品産業 や委託生産などを行うところが増加している。大手 (1)現状(表1422−1) 企業においては日本や欧米諸国向けに加え、成長著 日用品産業は、日常生活で必要な身の回りの様々 な製品を製造、供給する産業であり、家具、陶磁器 しい中国などアジア諸国向けに現地生産を行う企業 も出てきている。 製品、ガス・石油機器、キッチン、玩具など多岐に また、日用品産業の中には、昨今の鋼材・石油製 わたる(表1422−2) 。また、日用品産業の特徴とし 品を始めとする原材料価格の上昇の影響を受けた業 ては、一般に中小企業性が高く、また木製家具、陶 種もあった。 磁器、漆器などに見られるように、特定地域に企業 が集積して産地を形成し、地場産業として地域経済 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み において重要な位置付けにあるものも見られる。 日用品産業は、近年における内需の低迷やライフ 消費者ニーズを迅速かつ的確につかみ、技術開発 スタイル・消費者の購買意識の変化に加え、中国な 及び商品化している分野においては、強みを有して どからの安価な輸入品の増大、海外ブランドのOEM いる。例えば、木製家具では安全や健康に対する消 生産の受注減少などにより、出荷額は、多くの業種 費者ニーズを踏まえた商品開発を業界として取り組 において減少傾向にある。日用品産業の中には、安 んでいるところや、オフィス家具のようにデザイン 価な輸入品に対抗し、競争力を確保するために、人 設計が欧米に比べ遅れているとされている分野でも 操作性に優れた設計、色調豊かな素材の開発に取り 表1422−1 我が国日用品産業の出荷額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 04年 96年 出荷額(億円) 70,606 106,830 従業員(千人) 373 539 組み、欧米への輸出を開始したものもある。 ②弱み 木製家具、陶磁器、金属洋食器などは地場産業と 輸出額(億円) 7,235 7,095 して地域の重要な産業であると同時に、雇用の担い 輸入額(億円) 17,468 16,006 手でもある企業が多いが、技術面での差別化の余地 資料:経済産業省「工業統計表」、財務省貿易統計 参考:出荷額、従業員数について、工業統計表においての調査対象が 4人以上の事務所となっており、3人以下の事務所は反映されて いない。 が小さい分野であったり、デザイン面などで十分な 特色を有していないなど製品の差別化ができていな 表1422−2 我が国日用品産業の主要企業について (我が国台所用品産業の主要メーカー) (単位:億円、率=%) 売上順位 企業名 売上高 営業利益 営業利益率 1 タカラスタンダード 1,567 62 4.0 2 クリナップ 1,224 43 3.6 1.8 3 サンウエーブ工業 927 137 14.8 ▲11.0 (我が国オフィス家具産業の主要メーカー) ROA 1.8 (単位:億円、率=%) 売上順位 企業名 売上高 営業利益 営業利益率 1 コクヨ 3,039 141 4.6 1.3 2 岡村製作所 2,022 91 4.5 4.4 3 内田洋行 1,503 32 2.2 1.5 (我が国陶磁器産業の主要メーカー) ROA (単位:億円、率=%) 売上順位 企業名 売上高 営業利益 営業利益率 1 INAXトステムホールディングス 10,576 438 4.1 2.0 2 東陶機器 4,947 251 5.1 2.7 3 ノリタケカンパニーリミテッド 1,232 83 6.8 3.4 備考:各社とも全社ベースの値。 資料:各社決算資料から経済産業省作成。 154 ROA 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 いところも多い。 やすく、その対策に取り組んでいるところもあるが、 企業の努力だけでは限界があることから、官民を挙 (3)我が国産業から見た市場の展望 げての取組が必要である。 第 4 節 日用品産業の多くは、日本人のライフスタイルの 変化や他の産業の動向によって、その需要及び市場 ②東アジア等海外戦略 の展望が大きく左右される。例えば、システムキッ 最近では、特に今後市場の成長が見込まれる中国 チンは、新築住宅の着工件数が堅調に推移している やベトナムにおいて、衛生陶器やシステムキッチン ことに加え、既存住宅のリフォーム需要が新たに生 など住宅設備機材の巨大な現地需要の取り込みを目 じていることなどから、出荷増が見込まれる。また、 的に生産拠点が拡大されつつある。このような中、 食器洗浄機・乾燥機や収納式作業台などが組み込ま 我が国からの有力進出企業にとっては、現地企業と れた高付加価値製品についても今後の販売の伸びが は異なる価格帯をターゲットに良質な製品・アフタ 見込まれる。また、ガス機器のように、システムキ ケアによる高いブランドイメージの構築による差別 ッチンの普及によるガスオーブンの需要拡大、床暖 化戦略が今後ますます重要となっている。 房の普及によるガス温水給湯暖房機の需要拡大が見 込まれているものもある。 一方、木製家具については、和室の減少、ウォー クインクローゼットの普及に見られるようにライフ 23 デザイン産業 (1)現状(表1423−1) スタイルの変化により需要が減少している。金属洋 デザイン業の市場規模は約2兆4,000億円と推計さ 食器、金属ハウスウエアなどについても、安価なア れ、GDPに占める割合は約0.5%である。デザインが ジア製品の流入による低価格化があり、総じて地場 関係する領域は多岐にわたり、手工芸品・宝飾品か 産業にとっては厳しい状況が続く。 ら工業製品、ポスター・パッケージ、博物館、展示 場などの空間設計なども含まれ、公共的なものとし (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力に影響を与える要因への対応 ては観光地などの案内表示も含まれる(図1423−2) 。 我が国には表1423−1のとおり約17万人のデザイナ 日用品産業にとっては、いかに市場ニーズを先取 ーがおり、その内訳は、企業に所属する「インハウ りした高機能、高付加価値製品の提供を進めるかが ス」デザイナーが約9万6,000人、デザイン事業所な 課題であり、ユニバーサルデザインによる使いやす どに所属し、個別に活動を行う「フリーランス」デ さ、わかりやすさ、使い心地の良さの実現や良質な ザイナーが約7万5,000人である。平成15年特定サービ デザインは、我が国の日用品産業が輸入品との差別 ス産業実態調査によるとデザイン事業所のうち、4割 化を図るための重要な鍵となっている。また、省エ 強がグラフィックデザインを行う事業所であり、イ ネや3R(リデュース、リユース、リサイクル)によ ンダストリアルデザインを行う事業所は7%強であ る資源の使用の抑制と環境負荷の低減に配慮した製 る。デザイン事業所は小規模なものが多く、9人未満 品の需要拡大が期待される中、これらに対応する製 の事業所が全体の9割を占め、そのうち5人未満の事 品開発も重要である。 業者が7割を占める(図1423−3) 。 また、産地問屋、産地卸を経由しての取引が多い 地場産業にとっては、直販などにより消費者ニーズ 表1423−1 我が国デザイン産業の市場規模、従業者 の推移 の汲み上げを企業自ら行い、商品開発能力を高める ことが重要である。また、最近ではブランドの有用 性に着目し、海外におけるブランドの確立によって 新市場を開拓する動きも見られる。 市場規模(億円) 従業者(万人) 00年 95年 24,000 22,000 17 15 資料:市場規模につき経済産業省推計。従業者につき国勢調査。 一方、日用品産業は海外からの模倣品被害にあい 155 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 図1423−2 デザインが係る領域 ザインへと拡大をしており、この傾向は今後更に進 展していくと考えられる。 分 野 対象となる具体的事例 物 に 係 る も の ①工業製品…………一般機器、情報機器、運送機器、医療機器、日用品等 ②テキスタイル……布地、カーテン地、壁紙等 ③ファッション……衣料等 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み ④ジュエリー………宝飾品、身辺細貨等 ⑤クラフト…………鉄、木、漆、土等を用いた食卓用具装飾品等 我が国のデザイン業は、国際的にもデザイン力が ⑥パッケージ………缶、ボトル、容器、紙袋等 高いと言われており、海外の有名な自動車や高級家 視 覚 に 訴 え る も の ①グラフィック……ポスター、雑誌等の広告、包装紙等 環 境 を 扱 う も の ①インテリア………建築物内の空間設計等 ②タイポグラフィー…活字の書体等 ③編集………………書籍、雑誌、パンフレット等 ④映像………………テレビCM、コンピューターグラフィックス等 ⑤ディスプレイ……ショーウィンドウ等 ⑥サイン……………標識、看板、シンボルマーク等 ⑦イベント…………博覧会、展示会等の企画、設計 具などのデザインを我が国出身のデザイナーが行う 例も数多く見られる。 また、我が国デザイナーの半数以上はインハウス デザイナーであることから、企業が持つ高い技術を 活かした製品のデザインや、将来開発される自社技 術に合わせたデザインをいち早く行うことができる ②ライティング……建築物内の照明、都市景観照明等 ③環境………………建築物を含む外部環境、都市計画、音、光の企画等 強みがある。 近年ではさらにユニバーサルデザイン(年齢や能 力に関わりなくすべての生活者に対して適合する製 品などのデザイン)のような人にやさしく使いやす (出典:「1990年代のデザイン政策」昭和63年通商産業省貿易局) 近年では、これらの領域の考え方とは別に、「ユニバーサルデザイン」、 「インタラクションデザイン」、「エコロジーデザイン」など、いわゆ る新領域デザインが注目されている。 資料:経済産業省「デザイン政策ハンドブック2006」(2006年) いデザインに取り組む地方自治体、企業の数が急速 に増えている。 ②弱み 図1423−3 デザイン事業所における常用雇用者の 規模別企業数 我が国では全体的にデザイン部門の企業内での位 置付けが相対的に低く、技術部門・営業部門の要望 20∼29人 2% 30∼49人 1% 50∼999人 1% が優先される傾向にあり、企業経営者自らがデザイ ンの重要性を認識し、取組を進めることが、デザイ ンの領域が今後拡大されてく中で強く求められてい 10∼19人 7% る。 5∼9人 17% 現在はデザインに人材や資金を投入し、成功して 総企業数 5,167 0∼4人 72% いる企業も見られる一方、社内でデザイナーを育て る経営的余裕がなくなり、即戦力となるデザイナー を社外に求めつつある企業も増えている。それに対 して人材を供給するデザイン教育機関における対応 が十分ではないとも指摘されている。 資料:総務省「平成16年事業所・企業統計調査報告」 (2005年) また、特にフリーランスデザイナーは企業との取 引において、企業のデザインに対するコスト面など の理解不足から、不利な契約や取引を強いられる例 なお、デザインの領域は、表面的に視覚でとらえ も見受けられ、その是正が求められている。 ることができるデザインだけでなく、例えば、企業 等のブランド形成を目指した戦略的な取組や、五感 (3)世界市場の展望 を満足させる生活環境の提案、サスティナブルデザ デザインに関する現在の世界市場の規模は把握さ イン・エコロジーデザインなど視覚では見えないデ れていないが、欧州を中心に、コスト面、品質面で 156 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 の差別化に限界があるとの観点から積極的に戦略的 しいこれら地域の台頭によって競争が激化すると予 デザイン活用が図られており、付加価値の向上に大 想される一方、これら地域のデザインニーズの拡大 きく貢献している。例えば産業構造の転換を図るに により、我が国デザイン業にとっても魅力的な市場 際してデザイン業を重視した英国では、GDPに占め が広がると思われる。 るデザインの市場規模の割合が我が国の0.5%と比較 して2.8%と高く、約6倍の水準となっている。 東アジア諸国はもちろんのこと、世界中に我が国 デザインの認知度や優位性を高めることを狙い、 2005年度よりグッドデザイン賞(Gマーク)事業の (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 既存の企業努力と政策に加えて、より一層の産業 公募範囲を全世界の商品に広げ、韓国・中国などを 中心とする東アジア諸国の企業からも多くの応募を 受けた。 の競争力強化、経済の活性化を図るためにはデザイ ンの戦略的活用が重要であるが、我が国産業におい てデザインの重要性が十分に認識されているとは言 い難く、企業・教育分野・一般消費者などの立場に 関わらずデザインの有用性についての理解を進めて いく必要がある。 24 ソフトウェア業 (1)現状(表1424−1) ソフトウェア業は、企業や個人が利用するソフト ウェアの開発などを主な事業内容とする知識集約型 そのため、ブランド化を念頭に置いたデザインの 産業である。近年、経済社会システムは、ソフトウ 創造・活用の推進や、このような活動を担う人材育 ェアへの依存度をますます強めており、あらゆる産 成のため、各界のオピニオンリーダーにより「デザ 業分野においてソフトウェアは競争力の源泉として イン&ビジネスフォーラム」が設立され、全国各地 機能し、社会基盤にとって不可欠の存在となってい でデザインの取組を進めるためのシンポジウム、セ る。 ミナー、企業表彰などを実施した。 ソフトウェア業を含む、我が国情報サービス産業 また、我が国の強みでもある人にやさしいものづ は、小幅ながらも成長を続け、2005年度の売上高は くりを推進するため、人間工学・人間生活工学に関 約14.5兆円を超え、米国に次ぐ世界第2位の規模とな するカリキュラム及び教材開発を行うとともに、製 っている。 (図1424−2) 品の設計・開発の基盤となる人体寸法などの人間特 性データを整備している。 我が国情報サービス産業の売上高のうち、ソフト ウェア業は55.7%を占めており、その内訳は、特定 さらに、子どもの安全、安心と健やかな成長発達 のユーザーからの受注によりオーダーメイドで開発 につながる生活環境の創出を目指したデザインであ される「受注ソフトウェア」 (46.3%)と、不特定多 る「キッズデザイン」を推進するため、キッズデザ 数のユーザーを対象としたレディメイド又はイージ イン協議会の発足、キッズデザイン賞の創設など必 ーオーダーで開発される「ソフトウェアプロダクト」 要な環境整備を進めている。 このように、我が国の強みを生かしつつ、デザイ (9.4%)に大別され、受注ソフトウェアが主力を担 っている。 ンの有用性について理解を深めるとともにデザイン 保護法制の整備、人材育成など必要な環境整備を進 めている。 表1424−1 我が国ソフトウェア産業の市場規模、 従業者の推移 ②東アジア等グローバル戦略 中国、韓国においても、インフラ整備など戦略的 なデザイン活用に関する取組が積極的に実施されて 05年 96年 従業員数(人) 536,994 417,087 売上高(億円) 145,556 71,435 資料:特定サービス産業実態調査(経済産業省) おり、急速にデザイン力を向上させている。成長著 157 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 図1424−2 世界の情報サービス市場(2005年) ウェアの利用局面が広がり、ユーザーニーズが多様 化・複雑化する中で、他方ではソフトウェアの平均 アメリカ 的な開発期間が短縮していることから、開発プロジ 日本 イギリス ェクトの失敗による追加的コストの発生やシステム ドイツ 障害トラブルなどが問題となる事例が少なからず発 フランス 生している状況にある。 ヨーロッパ(その他) アジア(日本以外) その他 (3)世界市場の展望 情報システムを利用して競争力を高めようとする 8.1% 企業や、デジタル家電などの組込みシステム機器を 6.8% 提供する企業にとって、ソフトウェアの重要性はま すます高まってきており、ソフトウェア産業の世界 11.8% 42.7% 市場は引き続き拡大すると見られている。特に、中 国やインドを始めとするアジア地域におけるソフト ウェア市場が大きく拡大すると見込まれている。 6.5% 6.8% (4)我が国産業の展望と課題 7.5% 9.7% 資料:Digital Planet 2006(WITSA) ①今後の競争力強化に向けた対応 ソフトウェアの大規模化・複雑化・短納期化に対 応し、我が国ソフトウェア産業が一層の発展を成し (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 遂げるためには、高品質なソフトウェアを効率よく 開発するソフトウェア・エンジニアリングを強化す 液晶テレビ、DVDレコーダーを始めとするデジタ ることが必要である。ソフトウェア開発の手戻りに ル家電などの組込みシステム機器は、高機能かつ高 よるコスト増やソフトウェアの不具合によるトラブ 付加価値製品として我が国産業が国際競争力を有す ルを防ぐことは、ソフトウェアを開発するソフトウ る分野である。これらの機器の付加価値の源泉とい ェア産業のみならず、それを利用するユーザーの競 える機能の多くは、そこに組み込まれる「組込みソ 争力にとっても重要である。 フトウェア」によって実現されている。現在、組込 また、充分に教育を受けた人材が提供されること みシステム機器の開発費における組込みソフトウェ が必要であり、産業界と教育機関との更なる連携が アの割合は平均40%と大きな割合を占めており、組 重要である。 込みシステム機器の国際競争力は、その高い機能を 実現する組込みソフトウェアによって支えられてい るといえる。 ②東アジア等グローバル戦略 中国を始めとするアジア地域は、これまで主にソ フトウェア開発の効率化のためのオフショア調達先 ②弱み として考えられてきたが、アジア地域のソフトウェ 我が国ソフトウェア産業は、日本語及び日本の商 ア市場が成長すると見込まれていることから、今後 習慣の壁の中で、主として世界第2位の規模を持つ国 は、これまで築いてきたアジア地域における企業と 内市場での競争を念頭においた企業活動を行ってき のアライアンス関係を利用して、積極的にアジア市 た。このため、我が国ソフトウェア産業は、標準化 場を開拓していくべきステージに立っていると考え されたソフトウェア製品を、世界に向けて提供する られる。 ビジネスのノウハウが不足している。また、ソフト 158 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 25 船舶は一隻毎に仕様の異なる完全受注生産品であ 造船産業(造船業・舶用工業) るが、我が国造船業はほぼ100%の国内生産比率を維 (1)現状(表1425−1、表1425−2) 持しながら、不断の生産性向上、技術開発などによ 造船業及び舶用工業は、四方を海に囲まれ資源の り、新造船建造量において半世紀近くにわたり世界 ほとんどを輸入に依存している我が国にとって極め 第1位を維持してきた。現在も造船主要国との国際競 て重要な輸送手段である海運に船舶を供給するため 争が激化する中で韓国とトップを争うなど、リーデ に必須の基盤産業である。世界の造船市場において ィングカントリーとしての地位を確立している。 は、近年、世界経済の好況に伴う海上輸送量の増加 一方、舶用工業は、総合組立産業である造船業に 等を背景としてタンカーやバルクキャリアを中心に 対し、推進機関、発電機などの大型部品から弁など 新造船需要が急激に伸びており、2006年の新造船建 の小型部品までの多種多様の機器を提供する加工組 造量は5,118万総トン(我が国建造量は1,792万総トン、 立型産業であり、船舶の性能を大きく左右する極め 世界の35.0%)と昨年に引き続き過去最高を更新し、 て重要な産業である。 我が国舶用工業は我が国造船業の発展に貢献して 業界は活況を呈している(図1425−3) 。 表1425−1 我が国造船業の建造量、従業者、 輸出量の推移 建造量(千総トン数) 従業者(千人) 輸出量(千総トン数) 05年 96年 16,031 9,275 78 99 15,660 8,679 資料:国土交通省調べ。 表1425−2 我が国舶用工業の生産額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 05年 96年 生産額(億円) 9,757 7,931 従業者(千人) 36 20 輸出額(億円) 2,961 1,505 輸入額(億円) 281 179 備考:輸入額につき、船舶の造修事業者からの輸入実績報告を集計。 資料:国土交通省「舶用工業統計年報」 図1425−3 世界の新造船建造量の推移 (万総トン) (速報値) 5,500 欧州 韓国 4,500 日本 4,000 3,420 3,392 10.9 13.4 3,000 2,753 2,500 38.2 37.5 2,000 1,500 1,000 500 4.9 中国 5,000 3,500 5,209 その他 16.5 4,697 4.9 14.8 4,017 13.8 9.2 7.2 3,613 8.7 6.4 11.6 3,338 3,170 3,129 6.6 10.4 8.3 5.6 5.5 6.6 2,782 5.2 5.8 10.2 36.1 12.1 2,584 2,554 2,546 6.8 12.7 13.2 37.7 8.7 7.5 8.0 5.7 2,265 4.3 5.8 5.8 14.9 36.8 10.4 2,054 1,967 4.2 19.2 15.7 17.5 37.9 1,863 12.0 1,8331,816 1,819 12.7 38.6 37.1 38.8 1.2 39.0 1,693 1,682 1,685 16.8 13.5 3.6 1,591 18.9 17.2 5.5 2.4 1,589 1,610 1.9 27.8 32.9 16.1 18.2 0.9 22.3 21.0 1,429 1.8 15.0 13.1 16.3 1.5 1,324 2.3 1.9 18.3 28.6 32.2 28.5 1,310 0.2 0.8 22.1 15.1 12.2 1,226 27.5 1.2 18.3 2.0 31.0 18.7 17.9 18.0 1,091 26.9 22.4 21.3 22.7 21.5 17.9 14.4 2.5 34.2 25.1 8.0 21.6 2.4 15.9 14.8 25.6 8.3 35.0 16.2 2.3 21.8 21.7 49.7 46.8 22.6 5.5 35.0 15.7 9.7 36.1 3.3 32.6 23.4 17.0 4.0 35.1 37.9 38.4 35.8 42.5 29.1 3.5 39.3 38.7 40.3 39.7 53.0 52.3 48.5 43.5 44.0 41.1 49.6 48.5 45.3 40.7 41.9 34.7 46.6 40.6 43.0 32.9 46.6 37.0 0 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06(年) 備考:1.竣工ベース。 2.棒グラフの中の数値は構成比を示す。 資料:ロイド資料より作成。(100総トン以上の船舶を対象) 159 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 おり、世界においても重要な地位を占めている。例 の開発がより一層望まれる等、解決すべき課題も多 えば、2005年の世界のディーゼル主機関における我 い。 が国のシェアは、生産馬力ベースで26%(世界第2位) となっている(世界のディーゼル主機関の生産量: (3)世界市場の展望 2,433万馬力) 。我が国舶用工業の生産額は、2005年に 1990年代半ばから韓国が大幅な設備拡張を行った おいて9,757億円(前年比11.1%増)と、当面は高水 こと等により世界の造船設備が過剰となり、船価水 準の操業状態が継続する見通しにある。我が国舶用 準が低迷を続けたことから、需要の増加にもかかわ 工業製品の多くは国内建造船舶に使用されるが、製 らず収益性は低レベルで推移してきた。近年では中 品の技術水準の高さなどから、船外機や航海用機器 国経済の急成長に伴う海上輸送の活性化などによる などを中心に数多く海外へ輸出されている(輸出比 建造需要の高まりから、バルクキャリア、タンカー 率32%) (図1425−4) 。 の新造船船価は高水準となっている。また、人件費 の安さを強みとする中国が積極的な設備投資により (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 造船能力を拡充し、現在世界の建造量の1割強を占め るようになっており、国際競争が一層激化している。 技術水準、納期の正確さ、きめ細やかな付帯的サ さらに、内航海運を支える中小造船市場において ービスなどに優れた舶用工業が造船業とともに発展 は、運賃・用船料の低迷により建造需要がピーク時 しており、国内でほぼ100%の部品調達が可能である。 (1993年頃)と比較して激減した(図1425−5) 。しか また、世界各国の船主からの安全面・環境面での要 し、現在は、内航船舶の老齢化に伴う代替建造需要 求にアフターサービスも含めて的確に対応可能な技 等を背景として、建造量が増加しつつあり、また、 術力の実績と信用を有している。さらに、すべての 船価水準も回復の兆しを見せていることから、業績 船種に建造実績があり、多様な船主の要求に応える の回復が見通せる状況である。 ことが可能である。 我が国舶用工業については、豊富な新造船建造需 また、船舶の建造には、自動化が困難で高度な技 要を背景に、量的には一定の仕事量を確保している 能を必要とする作業工程が多数あるが、このような ものの、近年の原材料の価格高騰や一部の原材料に 作業工程に対応できる高度な判断力・技能を有する ついては供給が逼迫傾向にあるなど、事業環境は厳 優秀な技能者が数多く存在している。 しい状況にある。また、輸出面においても、欧州メ ーカーの東アジア市場への積極的参入や中国におけ ②弱み 造船不況期に各社が技術者・技能者の新規採用を る舶用機器の国産化への取組などにより、国際競争 は厳しさを増している。 控えたため、現在は造船業に従事する技術者・技能 者の過半数が50歳以上の高齢者という構造になって おり、これらの高齢化した熟練技術者・技能者が退 職することによる技術基盤の低下が懸念されている。 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 今後の厳しい国際競争の中で、造船産業分野にお さらに、我が国造船業は古くから地域に密着して発 いて我が国がリーディングカントリーとしての地位 展してきたため、生産拠点が国内各地に散在してお を維持するためには、技術開発力の底上げ、事業再 り、90年代半ばに特定の造船事業者が大幅な設備拡 構築などによる経営基盤強化、公平な国際競争条件 張を行った韓国と比較して、1拠点あたりの規模が小 の確保など、産業全体が一定の方向性を持って戦略 さい。 的に取り組んでいく必要がある。特に、熟練技術 一方、舶用工業においても、熟練技術者・技能者 者・技能者の半数を占める高齢者の退職による人材 の高齢化、人材育成の遅れが危ぶまれるとともに、 不足、技能レベルの低下は内部的要因として我が国 技術開発分野においては世界を先導する技術や商品 造船産業の競争力を劣化させる可能性が高いことか 160 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 図1425−4 我が国の舶用工業製品の生産額・輸出入額及び新造船建造量の推移 生産額 輸出額 輸入額 第 4 節 新造船竣工量(世界) 新造船竣工量(日本) (億円) 12,000 (千GT) 45,000 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 40,000 9,757 10,000 35,000 8,795 8,701 8,637 8,000 7,474 8,012 7,975 7,594 7,223 30,000 25,000 6,000 20,000 15,000 4,000 1,859 2,000 217 253 212 202 2,508 2,439 2,040 1,947 1,784 1,643 2,710 10,000 5,000 584 362 232 2,961 381 281 0 05 (年) 0 97 98 99 00 01 02 03 04 資料:1.我が国舶用工業の推移につき、国土交通省海事局「舶用工業統計年報」。 2.新造船建造量(100GT以上の船舶)につき、「ロイド統計」。 図1425−5 中小型船の新造船建造量の推移 (隻) 600 (万GT) 60 550 500 内航船(万GT) 内航船(隻) 近海船・輸出船(万GT) 近海船・輸出船(隻) 漁船・その他(万GT) 漁船・その他(隻) 450 50 合計(隻) 400 40 350 300 30 250 200 20 150 100 10 50 0 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 0 (年度) H17 資料:国土交通省調べ ら、次世代へ「匠」の技能を円滑に伝承する必要が ある。その対策として、国土交通省においては、 代人材育成事業」に対し支援を行っている。 また、舶用工業製品の模倣品製造・流通の問題は、 2004年度から(社)日本中小型造船工業会を通じ、 本来企業が得るべき利益の損失による収益悪化とそ 造船産業集積地における①新卒・中途採用者の早期 れに伴う技術開発意欲の損失を招くため、被害状況 即戦力化による技術基盤低下の防止や②高齢技能者 等の実態把握に努めると共に、被害国等の関係者間 の指導者としての再雇用、効率的な訓練方式の活用 での連携を図るなどの模倣品対策を推進していく。 による技能の円滑な伝承を目的とした、 「造船業次世 161 ②東アジア等グローバル戦略 ②弱み 国際的な単一市場で各造船国が激しく競争を繰り 国際市場では、この数年間で世界売上高上位20位 広げている中で、ある造船国による造船業への政府 に入る企業の大半が合併し、企業規模の拡大による 助成が国際造船市場環境を大きく歪めるおそれがあ 競争力の強化を図っている。多額の研究開発投資を ることから、世界造船業の健全な発展のためには公 継続するためには、ある程度以上の企業規模が必要 正な競争条件の確保に向けた多国間での政策協調が となる(図1426−4) 。一方、我が国においては、同 不可欠となっている。このため、我が国としては、 程度の中規模企業がひしめいており、研究開発力の 政府ベース、民間ベースでの多国間・二国間協議の 相対的低下が懸念される。 場を通じて、市場動向に関する共通認識の醸成や政 策協調を推進していくことにより、世界造船市場の 安定的な発展に努めている。 (3)世界市場の展望 今後は、産業活動も国家単位ではなく、世界市場 の中でボーダレスに展開することが重要である。特 26 医薬品産業 (1)現状(表1426−1) に医薬品産業においては、各国で凌ぎを削って行わ れているバイオやゲノムなどの最先端の研究成果を いかに効率良く利用し、いかに迅速に臨床開発を行 我が国の医薬品市場規模は約7.6兆円にのぼり、世 い各国で医薬品として承認を取得し、いかに各国で 界市場の約11%を占め、アメリカに次いで第2位であ 販売活動を拡大し収益の最大化を図るかが、極めて る(図1426−2) 。 市場規模は、国民医療費が増大する一方、国民医 表1426−1 我が国医薬品製造業の出荷金額、従業者、 輸出額、輸入額の推移 療費に占める薬剤比率は、ここ10年間、ほぼ横ばい で推移している。 厚生労働省「医薬品産業実態調査」によると、医 薬品製造販売業者及び製造業者数は約1,300社で、全 体の約8割は資本金3億円未満の中小企業であり、医 薬品売上高の集中度をみると、上位5社で36%、上位 10社で50%、上位30社で75%を占めている。また、 05年 96年 出荷額(億円) 76,886 66,464 従業者(千人) 189 188 輸出額(億円) 3,676 2,057 輸入額(億円) 9,060 4,898 資料:出荷金額は、厚生労働省「薬事工業生産動態統計調査」、 従業者数は、厚生労働省「医薬品産業実態調査」、 輸出額及び輸入額は、財務省貿易統計を利用。 医薬品製造業の従業者数は2005年で18.9万人である。 我が国の医薬品産業において、M&Aはこれまであ まり行われてこなかったが、近年、国内売上高上位 図1426−2 世界各国のシェアの状況(2005年) の企業同士のM&Aの動きがみられる(図1426−3) 。 その他 17% (2)我が国産業の強みと弱み ①強み 我が国の製薬産業は、完全長cDNA、SNPs、タン パク質、糖鎖などの研究や治療や予防に関する基礎 研究部門に国際競争力を有している。今後、臨床研 イギリス 3% 日本 11% 677億ドル 究体制の整備が進めば、バイオテクノロジーの医薬 品分野への実用化の進展による国際競争力の一層の フランス 5% 向上が期待できる。 資料:IMSデータ 162 北米 44% その他の欧州 15% ドイツ 5% (合計6,014億ドル) 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 図1426−3 業界再編の進捗状況 1994年 順 位 社名 1 グラクソ(英) 2 メルク(米) 2001年 売上高 (百万$) 順 位 95 8,800 00 8,531 3 ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(米) 7,793 4 アメリカン・ホーム・プロダクツ(米) 6,380 6 スミスクライン・ビーチャム(英) 6,353 7 ジョンソン&ジョンソン(米) 6,251 9 チバガイギー(スイス) 99ゼネカ(英)+ アストラ(スウェーデン) 7,675 5 ファイザー(米) 8 ロシュ(スイス) 00ワーナー・ランバート(米) 99 11 イーライ・リリー(米) 順 位 01モンサント(米) 95 社名 売上高 (百万$) 03 1 ファイザー(米) 28,871 04 1 ファイザー(米) 44,284 2 サノフィ・アベンティス(仏) 32,350 2 グラクソ・スミスクライン(英) 28,288 3 メルク(米) 21,446 3 グラクソ・スミスクライン(英) 32,112 4 アストラゼネカ(英) 18,441 4 ノバルティス(スイス) 24,956 5 アベンティス(仏) 17,343 5 アストラゼネカ(英) 23,303 6 ジョンソン&ジョンソン(米) 22,322 7 メルク(米) 22,012 8 ロシュ(スイス) 20,729 9 ワイス(米) 15,321 7 ジョンソン&ジョンソン(米) 96 5,782 5,441 売上高 (百万$) 6 ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(米) 17,175 6,168 10 ヘキスト(独) 社名 2005年 17,151 8 ノバルティス(スイス) 14,705 9 ファルマシア(米) 12,806 02 中外 10 アメリカン・ホーム・プロダクツ(米) 12,037 10 ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(米) 15,254 5,163 11 イーライ・リリー(米) 11,733 11 イーライ・リリー(米) 13,782 12 バイエル(独) 4,877 12 ロシュ(スイス) 10,383 12 アボット・ラボラトリーズ(米) 13,302 13 シェリング・プラウ(米) 4,479 13 シェリング・プラウ(米) 8,745 13 アムジェン(米) 12,430 14 サンド(スイス) 4,371 14 アボット・ラボラトリーズ(米) 7,808 14 ベーリンガー・インゲルハイム(独) 9,233 7,250 15 武田薬品工業(日) 8,648 16 シェリング・プラウ(米) 7,564 17 アステラス製薬(日) 7,195 18 ジェネンテック(米) 6,633 19 シェーリング(独) 6,176 20 第一三共(日) 6,118 99 サノフィ(仏)+ 15 武田薬品工業(日) サンテラボ(仏) 15 ローヌ・プーラン・ローラー(米・仏) 4,119 16 アボット(米) 4,064 16 サノフィ・サンテラボ(仏) 7,227 17 武田薬品工業(日) 3,780 17 バイエル(独) 5,944 18 ウェルカム(英) 3,573 18 ベーリンガー・インゲルハイム(独) 5,523 19 マリオン・メレル・ダウ(米) 3,159 19 シェーリング(独) 5,108 20 三共(日) 3,064 20 アムジェン(米) 4,997 05 山之内+ 藤沢 05 三共+第一 95 アップジョン(米)+ ファルマシア(スウェーデン) 資料:順位および売上高はユート・ブレーンUto Brainによる 重要である。実際、世界の売上高上位の製薬企業の ング産業として発展するためには、産学官の連携が 大半は、研究開発や販売等の事業活動をボーダレス 重要である。 に展開しており、世界同時発売・販売の新薬も誕生 している。 厚生労働省は、 「ゲノム創薬」という技術革新に我 が国も乗り遅れないよう、国際的に魅力ある創薬環 境の構築のため、2002年8月に「医薬品産業ビジョン」 (4)我が国産業の展望と課題 ①今後の競争力強化に向けた対応 を公表し、医薬品産業関係者から意見を聴取しつつ、 盛り込まれたアクションプランの着実な実施を図っ 国際競争が激化する医薬品産業において、各企業 てきた。2006年度は当アクションプランの最終年度 トップの強力な指導力の下、企業の成長の源となる であったため、新しい医薬品産業ビジョン及びアク 研究開発・技術革新促進のための戦略的な経営に努 ションプランを策定し、さらに医薬品産業の国際競 めることが不可欠である。 争力強化に努める。 また、医薬品産業の国際競争力を強化しリーディ 163 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 図1426−4 日米における主要製薬企業の研究開発費 (百万ドル) 4,500 (%) 16.0 15.3 14.3 13.8 4,000 12.9 12.6 3,500 10.8 3,000 11.2 11.4 11.7 9.0 10.4 9.2 9.3 10.7 9.8 12.0 11.0 10.2 10.7 14.2 3,692 13.8 3,482 12.7 11.1 11.3 11.4 10.7 10.0 2,619 2,490 2,310 8.0 1,900 2,000 6.0 1,565 1,500 1,272 1,411 1,100 1,000 500 14.0 12.0 3,115 11.4 10.6 14.2 13.3 11.8 12.2 10.1 9.3 2,500 11.2 14.2 433 163 529 151 603 187 692 213 798 258 841 294 4.0 904 364 311 280 278 411 324 387 406 491 581 580 0 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 678 2.0 0.0 (年) 05 日本企業1社あたりの研究開発費(10社平均) /百万ドル アメリカ企業1社あたりの研究開発費(8社平均) /百万ドル 対売上高研究開発比率(日本) 対売上高研究開発比率(アメリカ) 備考:日本企業は1999年から連結ベース 対売上高比率=総研究開発費/総売上高対象企業 (米対象社)アボット、BMS、イーライ・リリー、J&J、メルク、ファイザー、シェリング・プラウ、ワイス 1989年以前は12社、1990∼1998年は10社、2000年∼2002年は9社、1999年と2003年∼2004年は8社 (日本対象企業)1988∼2004年は武田、三共、山之内、第一、大正、エーザイ、塩野義、藤沢、中外、田辺 2005年は武田、アステラス、エーザイ、三共、第一、中外、三菱ウェル、大日本住友、塩野義、大正 資料:日本製薬工業協会「DATA BOOK2007」 ②東アジア等グローバル戦略 約102兆円で、全産業(約925兆円)の約11%の規模 近年、大手企業は海外進出に力を入れており、我 となっている。また、食品産業の就業者数は774万人 が国の主要企業の総売上高に対する海外売上高の比 で、雇用面で見ても全産業の就業者総数の約13%を 率は伸びている。また、海外売上高比率の伸びた企 占めている。 業の多くは総売上高も比例して伸びている。国内で の売上げが伸び悩む中、海外での医薬品の研究開 鹿児島県、北海道等首都圏から離れた地域では、 全製造業に占める食品製造業の割合が高く、地域経 発・販売戦略をどのように進めていくかが、我が国 の製薬企業の成長のポイントとなっている。 表1427−1 我が国食品製造業における出荷額、 従業者、事業所の推移 今後著しい経済発展が期待されるアジア各国は、 医薬品の開発や販売に関して魅力的な市場になる可 能性が大きいが、我が国と地理的・民族的に近い関 係にあり、我が国企業の積極的な事業展開が期待さ れる。 05年 96年 出荷額(億円) 228,226 317,025 従業者(千人) 1,136 1,272 事業所(ヶ所) 48,278 65,431 資料:経済産業省「工業統計表」 表1427−2 我が国食料品の輸出入額の推移 27 食品製造業 05年 (1)現状(表1427−1、表1427−2) 我が国の農業、食品製造業や外食などを含めた食 料産業全体を見てみると、国内生産額(2004年)が 164 96年 輸出(10億円) 319 216 輸入(10億円) 5,559 5,523 資料:日本関税協会「外国貿易概況」 第1章 グローバル経済下における国内拠点の強化に向けた課題と展望 済における重要な地場産業として、雇用及び所得機 せても、それを上回るだけの市場拡大が必ずしもも 会を提供している。 たらされるわけではなく、その結果、従前は好不況 また、食品製造業の業態構造は、大まかに捉えれ の影響を受けることが少ないとされていた食品製造 ばいわゆる二極分化型であって、全国展開する小数 業についても収益性の低下などが見られるようにな の大企業と地域的なつながりを持つ数多くの中小企 ってきている。 業から成り立っている。このような産業構造は、製 また、単身世帯の増加など生活スタイルの変化に 品である食品の特性による商品寿命の短さ、消費者 よる食生活の多様化が進む一方、少子高齢化の進展 のニーズの多様性、原料となる農産物の地域性など 図1427−3 総売上高に対する研究費の割合 (2006年度) によるものである。 (2)我が国産業の強みと弱み ①強み (%) 11.0 10.01 10.0 価格面での優位性から、海外からの製品輸入は増 9.0 加傾向にある。一方で、近年の消費者の鮮度志向や 8.0 健康・安全志向などを背景として、高付加価値な食 7.0 料品に対するニーズもあることから、地域の原材料 6.0 供給と結びついた、多様な消費者需要に対応した食 品を供給するという面において、海外からの輸入品 に対して高い競争力を有している。 4.72 5.0 3.92 3.87 4.0 3.0 2.0 1.30 1.0 ②弱み 0.0 我が国の食品製造業は、他業種に比べても、中小 企業比率が高く業界全体として見た場合に十分な経 全製造業 食品工業 電気機械 器具工業 医薬品 工業 化学工業 資料:総務省「科学技術研究調査報告」 営基盤を有しているとは言い難い状況にある。 加えて、食品の原材料である農産物については、 図1427−4 国産品が輸入品と比較して割高となっており、コス ト面の優位性などから、近年は加工食品の輸入が拡 大している傾向にある。 また、他の製造業に比べ、売上高に対する研究費 の割合が低く、近年の多様化・高度化する消費者ニ 家計支出の推移 (%) 450 弁当類 400 350 調理食品 一般外食 食料支出 ーズ、環境問題などに対応するためには、研究開発 への取組が重要である(図1427−3) 。 300 250 (3)わが国産業から見た市場の展望 いわゆるバブル経済の崩壊後、デフレ基調が続く 中で、家計支出における食料支出の伸びは低調であ 200 150 り、消費者の低価格志向が強まり、より廉価な商品 を志向するようになったと考えられる。 (図1427−4) 。 このような中で、小売業者間の競争の激化や輸入品 の急増などにより、食品の分野においてもいわゆる 100 80 85 90 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年) 資料:総務省「家計調査」(1980年基準とする) ※弁当類は、「弁当」・すし(弁当)・おにぎり・その他を指す 「価格破壊」が進展している。しかし、価格を低下さ 165 第 4 節 主 要 製 造 業 の 課 題 と 展 望 により食品に関する国内市場は量的飽和、成熟状態 ってくることが考えられ、農業の生産者を含めた広 にある。特に、食品の場合、基本的なニーズが満た 範な連携を進めることにより、消費者の潜在的ニー された段階以降は、必ずしも所得の拡大に併せて消 ズを掘り起こすとともに、価格以外の面でも競争が 費が量的に拡大するわけではないことから、今後は、 可能となるよう、商品の差別化、高付加価値化を図 食料品市場全体の大きな量的拡大は期待しにくくな る必要があると考えられる。 っていると考えられる。 ②食品製造業のグローバル化について (4)我が国産業の展望と課題 食品製造業は、他の製造業と比較して海外生産比 ①今後の競争力強化に向けた対応 率が低い状態にあるが、海外からの製品との競合を 近年の日本の食料消費は高い水準に達し、食生活 踏まえれば、海外における生産拠点の原料調達、生 が高度化、簡便化、多様化といった方向に移行して 産、販売を含めたグローバル化を通じた競争力強化 いる中にあって、冷凍調理食品やレトルト食品など が不可欠である。 のいわゆる高加工度食品、調理簡便化食品の出荷額 また、近年のアジア諸国の経済発展に伴う所得の 向上などにより、高品質な日本の食料品の輸出・販 の伸びが高くなっている(図1427−5) 。 このような背景の中で、我が国の食品製造業が成 売の機会は拡大していくものと見込まれることから、 長を続けていくためには、量的拡大から質的充足へ 我が国の食品メーカーも、海外における情報収集な の国民的ニーズの変化、健康志向や食の安全・安心 どを通じて、新しい市場の開拓が重要となっていく に対する消費者の関心の高まりなどを念頭に置いた と考えられる。 製品開発、マーケティングなどがますます重要とな 図1427−5 食品製造業の構造変化 (製造品出荷額(百万円)) 3,000,000 2,712,824 1985年 2004年 2,500,000 2,000,000 1,500,000 1,206,559 1,136,308 1,000,000 745,219 726,697 586,709 375,753 500,000 276,267 0 他に分類されない食料品製造業 冷凍調理食品製造業 その他の調味料製造業 そう(惣)菜製造業 備考:他に分類されない食料品製造業:弁当製造業、サンドイッチ製造業、調理パン製造業、レトルト食品製造業、こんにゃく製造業、納豆製造業等 その他の調味料製造業:香辛料製造業、カレー粉製造業、わさび粉製造業、濃縮そば汁製造業等 資料:経済産業省「工業統計表」 166
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