大学の事業継続計画(BCP)の 意義と持つべき視点 - 丸谷研究室

高等教育情報センター
「大学の事業継続(BCP)の策定と実際」
大学の事業継続計画(BCP)の
意義と持つべき視点
平成25年6月24日
丸 谷
浩 明
経済学博士
NPO法人 事業継続推進機構 副理事長
1
目
次
1 事業継続計画(BCP)とは
2 大学におけるBCPの論点
3 BCP策定のポイント
4 大震災を踏まえたBCPの方向
2
1 事業継続計画(BCP)
とは
民間企業:事業継続計画(BCP)
行政機関:業務継続計画(BCP)
3
1.1 事業継続(BC)の概念
操業度(
製品供給量、売上げなど)
災害
発生
許容限界を上回るレベルで
事業を継続させる
事 前
許容される時間内に
操業度を復旧させる
事 後
復 旧
100%
目 標
許容限界
現状の予想復旧曲線
BC実践後の復旧曲線
特定非営利活動法人 事業継続推進機構
A Specified Non-Profit Japanese Corporation
Business Continuity Advancement Organization (BCAO)
▲ 許容限界
目標
▲
現状
時間軸
出典: 内閣府 事業継続ガイドラインから引用、一部修正
4
Copyright © 2012 BCAO
1.2 事業継続計画とは何か?
① 組織が、何かの原因で業務に不可欠な人材、設備、材料の
供給元などに大きな被害を受けると、平常時の業務を続ける
ことは困難。また、災害対応に必要な新たな業務も大量に発
生
←組織自らも重大な被害を受ける場合を想定
② 「被害状況を見て、できるところからとにかく全力で復旧する」
というのは、正解でない
→自組織に住民・社会から求められている重要業務をまず復
旧させることが大切
③ そのために、事前に重要業務を事前にしっかり選定
→災害後の時点で活用可能なリソースに見合うまで絞り込む
④ 重要業務の復旧や開始に、時間の面、業務水準の面での許
容されるレベルを認識し、これらの復旧目標を持って当たる
5
1.2.1 事業継続計画とは何か?(続)
⑤ 業務プロセスを分析して重要業務に不可欠な要素・資源を把
握。それらが受ける被害を想定し、事業継続の制約要因を把
握し、その改善策を見出す
⑥ 事前対策を計画的に実施する。対策としては、不可欠な人材、
設備、材料の供給元などの要素・資源をできれば二重化し、
それが難しいなら被害を少なくするよう防備を強化する
⑦ また、緊急時に適切な行動がとれるよう、活用できる要素・資
源を踏まえ実施可能な応急対応計画を策定する。災害等が
発生したら、それに基づき行動する
⑧ さらに、平常時におけるBCPの訓練計画とBCPの維持管理・
継続的な見直しの計画を立てて、実施していく
6
1.3 防災とBCPのポイント比較
防 災
人員の生命・身体の安全
物的損害の軽減
現地の
被害復旧
優先復旧拠点の選択
現地での
事業継続
被災地の地域貢献
情報喪失の回避
補強費用確保
事業継続
代替地・協定
での事業継続
サプライチェーン管理
情報の継続的可用性
資金繰り・投資
7
1.4 拠点の被害と必要な対応<短期中断許容>
代替戦略
被害の強さ
特徴:代替拠点
の確保は容易で
はない
使用不能⇒代替拠点確保
復旧戦略
中度被害⇒拠点補強投資
軽い被害⇒事後復旧準備
被害なし⇒拠点対策不要
← 幅:発生確率の大きさ →
8
1.5 システム被害と必要な対応<中断許されず>
代替戦略
被害の強さ
特徴:代替シス
テムの確保はさ
ほど高価でない
使用不能⇒代替へ切替え
中度被害⇒代替へ切替え
復旧戦略
軽い被害⇒復旧/切替え
被害なし⇒平常時通り
← 幅:発生確率の大きさ →
9
1.6 行政機関のBCP策定状況
 中央省庁業務継続策定ガイドライン公表(2007年6月)
首都直下地震を想定したBCPは、全ての府省庁等が策定済
 新型インフルエンザ対応中央省庁業務継続ガイドライン公表
(2009年7月)
 都道府県も策定へ
 地震を含む:埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟(骨子)、富山、
岐阜、愛知、滋賀、京都(指針)、大阪、鳥取、広島、山口、徳
島、香川、高知、愛媛、長崎、宮崎の19都府県(4割強)
 これら以外で新型インフルエンザ:岩手県、福島県、茨城県、
栃木県、石川県、福井県、三重県、島根県、佐賀県の9県
 ICT部門のBCP:奈良県
 これらを合計すると30都府県
10
1.7.1 企業BCPの策定状況(1)大企業
【大企業】
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
0.3
45.5
平成23年度
平成21年度
平成19年度
27.6
18.9
26.4
30.8
16.4
21.2
16.9
29.1
12.7
11.1
5.6
12.0
22.7
策定済みである
0.4
1.5
0.3
策定中である
策定を予定している
(検討中を含む)
予定はない
事業継続計画(BCP)と
は何かを知らなかった
無回答
【平成23年度 単数回答、n=1,117 対象:全ての大企業及び中堅企業】
【平成21年度 単数回答、n=736
対象:全ての大企業及び中堅企業】
【平成19年度 単数回答、n= 1,134、対象:全ての大企業及び中堅企業】
出典:「企業の事業継続の取組に関する実態調査概要」
(平成23年11月・内閣府)
11
1.7.2 企業BCPの策定状況(2)中堅企業
【中堅企業】
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
策定済み
平成23年度
平成21年度
20.5
12.6
14.7
14.6
30.2
15.0
19.4
10.3
45.3
13.1
0.7
2.2
策定を予定している
(検討中を含む)
予定はない
1.3
事業継続計画(BCP)と
は何かを知らなかった
無回答
3.4
平成19年度
12.4
12.8
8.8
61.2
策定中
【平成23年度 単数回答、n=1,117 対象:全ての大企業及び中堅企業】
【平成21年度 単数回答、n=736
対象:全ての大企業及び中堅企業】
【平成19年度 単数回答、n= 1,134、対象:全ての大企業及び中堅企業】
出典:「企業の事業継続の取組に関する実態調査概要」
(平成23年11月・内閣府)
12
1.8 政府のBCPガイドライン等
●内閣府(中央防災会議)
事業継続ガイドライン 第2版(2009年)
http://www.bousai.go.jp/MinkanToShijyou/guideline02.pdf
もうすぐ、事業継続ガイドライン 第3版が公表予定
●経済産業省 情報セキュリティ政策室
ITサービス継続ガイドライン改訂版(2012年)
http://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/docs/secgov/2011_Ioformati
onSecurityServiceManagementGuidelineKaiteiban.pdf
●国土交通省 官庁営繕部
業務継続のための官庁施設の機能確保に関する指針 (2010
年)
http://www.mlit.go.jp/common/000111486.pdf
13
2 大学における
BCPの論点
2.1 大学教育の5つの目標(東工大論文)
[目標1] 教職員および学生の安全を確保する
・避難計画・安否確認
[目標2] 学生を予定通りに卒業(修了)させる
・授業時間の確保・単位認定・学位等の認定・推薦書・各種
証明書発行・就職活動支援
・不可抗力が証明できないと、学生から訴えられる可能性も
・企業側が柔軟な態度を取れば影響が回避される
[目標3] 学生を予定通りに受け入れる
・入学試験の準備・実施・合否発表
・他大学の代替性がないと影響は大きい
[目標4] 高度な教育水準を確保する
・良好な学習環境の提供・大学生活に関する諸支援
・翌年以降、優秀な学生が集まらなくなる。クラブ活動も含む
[目標5] 教職員の雇用を確保する
15
・優秀な教職員の流出の阻止のため
2.2 各大学で共通の重要業務
① けが人、閉じ込め者の救出活動
 学内で組織的・体系的にもれなく行うのが難しい可能性
 通報し情報集約すべき学内部署を周知
② 学生、職員、来客の安否確認とその公表
 大学は所在の自由度が高く、誰がいたのかの確認困難
 最後は、学生の自宅まで追求し安否確認となる
 学生・職員へは携帯メールが有望。平常時から使用を
③ 二次災害の防止
 火災発生の初期消火・発生抑止、毒物漏洩防止、漏電防
止など
 理科系学科では非常に重要
16
2.2.1 各大学で共通の重要業務 (続)
④ 大学執行部の中枢機能の確保
 ガバナンスの発揮。情報集約・情報発信を当然含む
⑤ 研究資産のデータ喪失防止及び復旧
 遠隔地での情報バックアップが理想。まずはできる方法で
 学内の別拠点や協力関係にある大学等の活用を
 専門業者への委託は、コストや確実性との見合い
⑥ 学内の情報システムの維持・早期復旧
 大学では相互連絡におけるメール依存度が高い
 メールサーバーやネットワークの脆弱性の確認
⑦ 自宅に住めなくなった学生への支援
 地域コミュニティの避難所が十分でない場合など
17
2.2.2 各大学で共通の重要業務 (続)
⑧ 教育・研究環境の早期復旧
 時間的な競争にさらされる研究施設は、大至急の復旧が
必要
 高度な教育水準を確保するため、遅滞なく教育を復旧さ
せる必要がある
 優秀な学生や研究者を確保し、学外に流出することを防
ぐ観点からも、早期復旧が必要
⑨ 教職員の雇用の確保
優秀な教職員の学外流出することを防ぐ観点からも必要
雇用問題を発生させれば、地域社会に懸念をもたらす
18
2.3 季節性のある重要業務
① 入学試験の実施
 大学の収入の源泉で、1年に1度(2度)しかない
 延期は受験者数減少の懸念。受験者側の負担にも
 変更周知の労力も大。秘密データの管理・保全も重要
 協力先の大学での代替実施が有望な選択肢
② 卒業試験・定期試験・単位認定
 卒業・進学が遅れることの影響は大(特に大学院進学)
 代替措置や代替場所での実施が求められる可能性大
③ 他の主催イベント
 毎年一定時期に実施してきた中止を避けたい行事
 オープンキャンパスなど、時期をずらす得失を検討
19
2.4 立地により差が出る重要業務
① 学生、職員の帰宅困難者への支援
 特に大都市都心部の大学では重要
 家族の無事が確認できた学生・職員は、近隣居住者は別
として、基本的に留め置くべき。そのための備蓄も必要
→ボランティアの候補ともなる
② 地域の避難所等としてのスペースの一時提供
 特に、公的な避難所または帰宅困難者の一時滞在施設
として既に協定締結をしている場合
 避難所に未指定でも押しかける可能性あり
*以上に関しては、東京都の条例、帰宅困難者対策のガイドラ
インを参照のこと
20
2.4.1 東京都の帰宅困難者対策条例
① 事業者に従業員の一斉帰宅の抑制と従業員の3日分の食糧
等の備蓄の努力義務を課す
② 駅、集客施設等における利用者保護、学校等における児童
生徒等の安全確保の努力義務を課す
③ 都と事業者等が連携協力して安否情報の確認、災害関連情
報等の提供のため基盤整備等を行う
④ 都立施設やと関連施設を一時滞在施設に指定。一時滞在施
設の確保に向けて、国、区市町村、事業者に対して協力を求
め、帰宅困難者を受け入れる体制を整備
⑤ 代替輸送手段や災害時帰宅支援ステーションを確保し、災
害関連情報等を提供するなど、安全・円滑な帰宅を支援
⑥ 平成25年4月1日から施行
21
2.4.2 帰宅困難対策協議会 最終報告
22
2.5 大学の方針に依存する重要業務
① 敷地・建物の応急・復旧活動への積極的提供
 都心部では期待が高い。避難所、一時滞在施設、ボラン
ティア活動拠点、中小企業の代替連絡拠点など
 貸す側にも負担:管理者責任、危険物や高価品の管理
 事前の計画や準備がないと、的確な実施が困難
② 学生によるボランティア活動
 期待はあるが、行政の災害対応と連携して行うべき
 学生自身がケガ・病気のリスク、支援対象者やその資産
に損害を与えるリスクにも十分留意(損害保険を活用)
③ 被害判定その他の技術的な復旧支援
 防災、建築、土木等の特定の学科を中心に
23
2.6 大学での業務継続の課題
① 学生、職員、来客、入構業者の所在確認の困難さ
 学生の所在確認が特に課題。泊込み研究、サークルな
ど。他大学の学生の入構も常に多い
 専攻、研究室、学部事務局などの間で、緊急時の学生管
理の責任分担について隙間がないか
 来客は管理体制が一般の組織より弱い。受け入れた者
しか来客の存在を知らない場合も多い
② 各建物管理が複数組織の混在が多い
 最近の組織相互連携の推進も混在の背景に増加
 非常時の建物での対応体制が認識されていない可能性
 敷地内の民間店舗との連携が十分かも課題
24
2.6.1 大学での業務継続の課題(続)
③ 教員の組織対応を確実に実施できるか
 緊急参集等の役割が果たされるか、事務との連携は?
 部局長などに過度な責任や業務が重複している可能性
 非常勤の教員は、管理側というより来客に近い
④ 研究室ごとの研究独立性から連携の困難
 使用者しか何が危険かわからないことが多い中で、研究
室・実験室の復旧作業にどう取り組むか
 施設の相互利用、研究費融通等も本来検討されるべき
⑤ 教室を外部利用させていた場合の対応
 どこまでの管理責任を大学当局が取ることになるのか?
 安全管理情報の伝達など、十分な対応をすべき
25
2.6.2 大学での業務継続の課題(続)
⑥ 行政や地域との連携をどのようにとるか
 地域への敷地や建物を開放をするには、大学側にも体
制と手順が定まっていないと円滑に進まない
 できるだけ協定を締結し、責任等の明確化が望ましい
 学生のボランティア活動への期待が地域で高ければ応
える検討が必要では
 これら行政窓口と平常時から顔の見える関係が望まれる
⑦ 地域経済への影響にも一定の配慮が必要?
 地域の商業・飲食業、納入業者に対する配慮も必要な大
学もありそう
26
3 BCPの策定のポイント
27
3.1 事業継続マネジメントを実現するプロセス
従来からの災害・事故対策
事業継続戦略策定プロセス
現状認識と
方針決定
• 経営環境・方
針・戦略の認識
• 現状のリスク
対応状況の認
識
• 事業継続実施
方針と対象重要
事業の決定
• 実施方法の決
定
ビジネス
インパクト分析
• 重要業務の
明確化
• 重要な要素・資源
の把握
• 中断時の影響の
時系列分析による
許容中断時間の
明確化
• 重要業務の目標
復旧時間の設定と
優先順位づけ
実施運用プロセス
戦略・対策の検
討と事業継続
戦略の決定
対策の詳細決定
と対応計画・実施
計画の作成
• 戦略・対策の
選択肢の検討
•対策実施計画の作成
• 目標復旧時間と
事業継続戦略
の決定
対策の
実施
点検及び
是正措置
経営者に
よる見直し
(レビュー)
と改善
•非常時の対応計画
の作成
•維持改善計画の作成
• 目指すべき復
旧時間の設定
教育・
訓練の
実施
リスク分析・
評価
• 脅威洗い出し
• リスクマッピング
• リスクアセスメント
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28
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3.2 地域の建設企業の事業継続計画(簡易版)作成例
第1部 事業継続計画の基本方針・
運用体制
1.1 事業継続計画の策定趣旨
1.2 基本方針
1.3 事業継続計画の対象とする業務の
範囲
1.4 事業継続計画の策定体制と平時の
運用体制
第2部 緊急対応と事業継続の計画
2.1 災害発生時の事業継続戦略 総括
表
2.2 災害対策本部と非常参集
2.3 対応体制・指揮命令系統図
2.4 代替拠点の概要と参集者
2.5 緊急対応・事業継続の全体手順
2.6 避難誘導・安否確認
2.7 被害状況の把握
2.8 災害発生直後に連絡すべき相手方
2.9 保有資源、調達先、代替調達先
2.10 備蓄、救出用機材
第3部 事前対策の実施計画
3.1 実施予定の対策一覧
3.2 対策が未決定の問題点
第4部 平常時の訓練、維持管理及び
改善
4.1 訓練計画
4.2 維持管理及び改善の実施
第5部 (資料)計画の根拠とした調査
・分析・検討
5.1 自社の地域で懸念されている災害
5.2 建物・設備の耐震性
5.3 重要なデータ・文書のバックアップの
現状と評価
5.4 重要業務の選定と目標時間の決定
5.5 重要業務に必要な資源の被害と対応
策
*(社)全国建設業協会の手引の別冊
(財)建設経済研究所が作業受託
29
3.3 BCPの策定体制のコツ
① 全組織で取り組む体制をつくる。運用・改善の時期に入っても、
兼務でよいので全庁体制を維持する
② 他部局のBCPは、防災・危機管理担当者が策定するのでなく、
各部が自ら作成するのを牽引・調整する役目
③ BCP担当者には説得力を持つ人を。急がないと思える仕事を
強いる「嫌われ者」に担当者はなるのが普通
④ 最上級幹部のリーダーシップが不可欠。BCPに高優先度を継
続的に付与する必要がある
・2ヶ月に一度は上級幹部の話題にして熱をさまさない
⑤ BCP担当者への授権と力の付与が必要
30
3.4 ビジネスインパクト(業務影響度)分析のコツ
① 重要継続業務の中断の影響は、基本的に、中断の原因によら
ず類似の時間的増大を示すことを認識
• 多くのハザードにまとめて対応する考え方がBCPの特徴
② 中断や開始の遅れの影響評価の要因を適切に選定
• 地域の住民・企業のほか、マスコミ、議会なども十分意識
③ 復旧そのもの以外に継続すべき多くの重要業務がある
• まずは、確実な情報発信・情報共有から
④ 許容中断時間は、平常時の感覚とは異なることが多い
• 平常時の常識より遅くても許容される傾向は確かにある
• 一方、深刻な被害の下では、早期の復旧・開始は非常に困難
3.5 被害想定のコツ
① 自組織内の業務継続の支障となる被害を先に考える
• ライフラインやインフラなどの外部支障は頼れる情報が少ない
• 自らの被害を先に考えて復旧時期を考えるのが得策
③ 外部の被害想定は、最後は自らで決める
• 使えるか使えないか不明な場合が多いので、納得感が得られ
るかどうか慎重に考え、仮定することになる
② ライフライン被害の想定例(ただし、後でもう一度見直すこと)
• 外部電源は、数日は復旧しない
• 電話や携帯電話の輻輳は数日間続く。携帯メールも遅延
• 鉄道は、土木工事が必要な被害が出れば数週間止まる
3.6 緊急対応の手順作成のコツ
① 災害時の対応は、平日の昼間と夜間・休日で異なる
→ 対応手順はこの2つを分けて考えるのが基本
• 平日:いつ誰を帰宅させるかが重要
② あるべき論ではなく、使用できる要素・資源を踏まえ、本当に
実施できる可能性の高い手順を作る
③ その時点ごとに参集できる職員が誰か、何人かを念頭に作業
を割り振る。
④ 特定の責任者に過度に仕事を集中させない
⑤ 庶務的な業務に人手が割かれることを十分に計算に入れる
• 例:幹部等への連絡対応、庁内の片づけ、物資配給など
⑤ 地震時の建物からの避難~屋外避難か屋内滞在か
• 至急の安全点検が必要だが専門家確保は困難
3.7 対策のコツ(確定性と柔軟性)
① 事前に決めないと間に合わない対応は自動発動と決める
② 被害想定に幅があるなら、対応の選択肢を決めておく
③ 発生後状況を見て決められる事項は対応の選択肢から選ぶ
④ さらに時間的余裕がある事項は、事後に対策を決めればよい
自動発動→選択判断 →→→
1
ヵ月
週間
感染症
1日
発生
地 震
1
事後状況判断
海外発生→国内発生→地域発生→自社発生→
自動発動→
選択判断→
選択判断→
事後状況判断→
34
3.8 BCPの維持・向上のコツ
①
②
③
④
⑤
劣化を防ぐことが必要。例えば、人事異動を乗り越える
日常の業務にBCPの観点を加える(業務引継ぎ、決済など)
周知を図ったうえ、定期的な訓練により定着を図ること
訓練の結果も踏まえ、検証し、見直しを行うこと
最高幹部も巻き込み、重要事項として改善を継続すること
<継続的改善が行われず形骸化する例>
 トップのサポートが無く、事務局が孤立している
 部門横断的な取組みになっていない
 文書の作成ばかりに目が行き、対策実施が後回し
 業務内容や組織の変化に合わせてBCPが見直されていない
 BCPの策定が終了した時点でプロジェクトが解散してしまう
35
NPO法人事業継続推進機構の「標準テキスト」を参考に作成
4 大震災を踏まえた
BCPの方向
36
4.1 東日本大震災の教訓を踏まえて
① 従来の被害想定を超えた大被害が発生しうることを
考慮しておく必要
② 想定していなかった災害の種類や複合災害も念頭
に対応計画を策定する必要
③ 組織の中枢の機能喪失を何としても避ける必要
④ 以上から、代替拠点、代理者、代替通信手段など
の確保を行う「代替戦略」の導入が必要。その場で
の復旧だけしか考えない戦略だけでは不十分
37
4.2 東日本大震災での行政庁舎被害
大震災では、地方公共団体の庁舎など、行政の庁舎の使用不
要の例が相当数発生
表 東日本大震災による市役所、町村役場の被害
注:( )内の数字は本庁舎が津波による被災を受けた市町村。福島原発事故の影響による移
転は含んでいない。
出典:「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」第1回会合
38
参考資料「被害に関するデータ等」より(内閣府調べ)
4.3 代替拠点の確保の必要性
① 前頁表のとおり、市町村の本庁舎で移転を要する被害を受け
たのは13カ所、一部移転については15カ所
② 組織の本部拠点の喪失は、被害者の救助、救援、復旧の迅
速な実施に大きな支障の要因になった
③ 庁舎の甚大な被害は、職員の被害、電子情報や重要書類の
喪失にもつながった
⑦ 本部拠点だけでなく、各部局の拠点も同様に対応が必要
⑧ 耐震性のある建物でも、次の場合、拠点は使用できなくなる
a. 建物内や近隣で火災、水害
b. 主要設備の使用不能、ライフラインが途絶
⇒ 規模は小さくても代替拠点の決定・確保が不可欠かつ急務
39
4.4 代替の人材の確保
① 人材の代替確保として、学長、部門責任者やキーパーソンの
不在に備えて、少なくとも2人以上の代理を定める
② 代理に対して判断権限の移譲も明確に行う
③ 複数の人が担当できるよう(副担当制等)、体制を定め訓練を
行う。別の仕事を行えるようにするクロス・トレーニングも有効
④ 臨時の代理者でも業務ができるよう、マニュアルを整備(引継
書を兼ねたものでもよい)
⑤ 人材の確保は、夜間・休日の発災の場合、職員の参集可能
性とも直接関わるので、相互に連動
⑥ 人事異動の時期には、職員の住居位置を考慮し、人材確保
の面もチェックしてBCPを更新
40
4.5 情報、書類などのバックアップ
① 重要な情報はバックアップを定期的に行い、重要な書類・図
面は複写を。同じ災害で被災しない別の場所に保管
② 東日本大震災では、住民基本台帳等の重要なデータが一時
喪失状態になった例がかなり見られた
③ 情報システムへの依存度が高い業務は、情報システム自体
のバックアップも必要
④ 総務省が行政のICT部門のBCPを推進。参考になる点が多い
総務省「地方自治体のICT部門のBCPの初動版サンプル、解説書、訓練事
例集」 (2013年5月)
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/denshijichi/index.html
⑤ ICT部門は、本来拠点での業務継続はイメージしやすいが、
代替拠点でのICTの業務がイメージしにくい
41
4.6 代替調達先の確保
① 重要業務に不可欠な消耗品やサービスの調達先が事業継続
できなくなると、相当仕事が滞る :コピー機やプリンターなど
② 調達先の事業継続力を把握し、対応能力の向上を求める。さ
らに、代替の調達先の把握も必要
③ ただし、大量一括購入の方が安価に調達できるので、経費節
減と非常時の安定供給は、並び立たないことが多い。バラン
スの良い判断が求められる
④ 機器などのサービス契約では、天変地異では供給義務の適
用除外が多いので注意
⑤ したがって、調達先との連携を様々な形で深めることを基本に
それぞれの現場でのより良い判断を期待
42
4.7 東日本大震災からの被害想定の課題
① 臨海部や河口付近の下線沿岸では、津波の被害レベルを見
直すこと
② 埋立地等では、液状化被害の想定を見直すこと
③ 海溝型の広域地震を想定する場合には、ガソリン・軽油・重油
等の供給不足を被害想定に加えること
④ 同じく、沿岸部の発電所の被災による数カ月以上の電力不足
を被害想定に加えること
⑤ 携帯電話の通話はもちろん、携帯メールもすぐに使えなかっ
た場所が生じた首都圏等の経験を踏まえること(インターネッ
ト回線を通じた通信手段、衛星携帯電話などの活用)
⑥ 大都市部では、帰宅・通勤困難問題をより具体的に想定する
こと
43
ありがとう
ございました
丸 谷
浩 明
経済学博士
NPO法人 事業継続推進機構 副理事長
44