懸垂吸音体の吸音特性について(第 1報〉

2
3
3
懸垂吸音体の吸音特性について(第 1報〉
(板状繊維質材料について)
成 瀬
,
1
.
1
ヘ
血
{仁I
O n the Acoustical Characteristics of Suspended Absorbers.
.on the Fibered Plates
Part 1
Haruoki NARUSE
Weknowthatsuspended absorbers a
r
ea
v
a
i
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a
b
l
ef
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巴w f
undamentals
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.
This experimental study i
s made fundamentally on th
邑 a
c
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u
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c
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f
i
b
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r
e
dp
l
a
t
e
s
.
suspendedabsorbers,usingf
1
.
表
緒
音場改善を目的として室内音響設計を行う場合,ある
種の特殊閉鎖空間に於ては,通常の如く壁面,天井面の
吸音処理のみでは所要の吸音力が得られない場合,或い
は,壁面,天井面を吸音処理する事が実際上不可能であ
2
測定装置
1.可聴周波数雑音発生器
2
.バンドパスフィルター
セット
3
.
1
0
"スピーカー
B&K社 製 1
4
0
2型
B&K社 製 1
6
1
2型
パイオニア社製
PAX-12A
る場合が起る.そのー解決策として懸垂吸音体が考案さ
スコーカー
パイオニア社製PT-7
れ,我が国 i
乙於ても数例にのぼり一応の成果を修めてい
トウィーター
パイオニア社製
る.しかしながら,その本質的な解明は充分注されてお
4
.コンデンサ一マイクロ
ホン及び附属品
らず,研究資料も少ない。
本報では,懸垂吸音体の基礎的性質の解明を目的とし
て板状繊維質材料について実験検討を行ったので,その
結果について報告する.
2
.
B&K社 製 4
1
3
1型
B&K社 製 2
1
1
2
型
B&K社 製 2
3
0
5型
懸垂吸音体の材料 i
とは板状繊維質材料(グラスウール
50mm厚,密度 12kg/m')を採用し,
実験方法
本実験は名白屋工業大学建築学科音響実験室第 2残響
室で行った.図
5
.広帯域周波数分析器
6
.高速度レベル記録器
PM-12A
u乙音響実験室の平面を示し,表 u乙残
その補強及びジ
乙ビニールレールを用いた. 本実験で
ョイントフック l
は,形状は正方形(大型のものは長方形も含む)とし,
響室の諸元を示す.本残響室の音響特性については既報
その片側表面積の合計を 4種 類 l
こ定め,各々について,
の如くである.表 2f
ζ測定装置を,図 2
f
ζ測定回路図を
単体の大きさ,枚数,間隔,配置の方法を変えて測定を
乙スピーカ一位置とマイク位置及び吸音体を
示す.図 3f
行った.懸垂 ζ
lは天井面のフックのみを利用したので,
懸垂した天井フック{立置を示す.
間隔はフックの間隔で示す.懸垂方法は,隣り合う吸音
表
廿
~
積
表
面
積
床
面
積
壁厚と内部仕上
1
体が交互に直角になるのを原則としている
残響室の諸元
こ一例
図 4f
を示す.
第 1残 響 室
第 2残 響 室
119m'
144m2
26m'
20cm厚 の コ ン
155m'
172m'
34m2
20cm厚 の コ ン
クリートにモル
タJレコテミカゃキ
クリートにモル
タルコテミガキ
表
3K実験ケ{スを示し,写真 1にその一例としてケ
ース 9の場合を示す. 測定は,各々のケースについて
100~5000C/S の拍オクターブ毎に行い,吸音力をセー
ビンの公式より算出した.
ムA=0.161V(
1
/T-1/T0
)
ただし,ム A =吸音力(メーターセービン)
2
3
4
成 瀬 治 興
1~I 機
2測定室
Scale
1
/1
0
0
図
1 音響実験室平面図
ヵ
ピ
ス
?イクロホン
残響室
バンドノマスフィルター
可聴周波数雑音発生器
広帝域周波数分析器
高速度レベル記録器
図2 測定回路図
2
3
5
懸垂吸音体の吸音特性について(第 1報)
v=~容積 (m 8 )
T =試料を配置した時の残響時間 (
s
e
c
)
To=空室残響時間 (
s
e
c
)
・
3
. 実験結果と考察
3
1
3
.
6
6
m
X366
m
m
m
,,13.66
x2.75
床置と懸垂の場合の比較
町B
m
XI3.66X1
.8
3
図 5ζ
f同型同寸法の吸音体を床置と懸垂した場合につ
v
/I'
1 n Z
6
U
×
o1
3
.
6
6
X
O
.
9
2
いてその吸音力の比較&示す.
ト
│ート ← 懸 垂
一時世
ト
ー
1
更 、
ト
、
1
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1
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u
入U l M γ l h l k ) h h h m g
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0
図 5 床置と懸垂の吸音力
写
1
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¥
+
+
/
8枚
8枚
〉
く
X
8枚:
8枚
×
8枚
X
×
8枚 8枚
× × ×
8枚
+
図
3
y<
、
ν1(1"
.~Ï' Wヤ
~/
初
住
ニ
、
ト
ー
J
、ト
図 4 (ケース 9)
4
0
0
0 %
成 瀬 治 輿
2
3
6
表3 実験ケース
大x
きm
│I.'~~
叫間隔
フ │ ケ ー ス の合
│ 咋 面m
積2 │ 単
糊I
│m
叶 日 ック数
用フ│トス
の鯖 曹 │ 単 体
さのm
I│
m利 用
ック数
x大
mき
I│
,~~
さ 体mの
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3.
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.
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.
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1
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1
2
2
2
3
2
4
2
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6
1
2
2
2
1
2
3
2
2
2
2
2
7
2
8
2
9
3
0
全般的傾向として,床置が 8
0
0
C
j
S附近でピークを生
ずるのに対し,懸垂は周波数の増加に伴って増大してい
0
.
9
2
x
O
.
9
2
6
.
7
0
0
.
4
6
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.
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3
.
6
6
X
O
.
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2
*
1
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3x1
.8
3
0
.
9
2
x
O
.
9
2
3
.
3
5
.
4
6xO.46
0
考
備
8
8
8
8
8
8
8
3
2
3
2
3
2
3
2
3
2
1
1
4
4
4
4
4
4
4
1
6
1
6
1
6
1
6
1
6
1
6
1
6
1
6
1
1
2
3
1
2
3
1
1
1
2
3
1
2
3
1
2
3
1
1
1
2
3
1
2
3
8
4
4
4
2
2
2
1
6
8
4
4
4
1
2
4
4
4
2
2
2
1
1
6
8
4
4
4
2
2
2
3
1
3
2
3
3
3
4
3
5
3
6
3
8
3
9
4
0
4
1
42
4
3:
'
4
4
4
6
5
4
干
4
7'
4
8
4
9
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5
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5
1
5
2
5
3
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4
5
5
内
匂
ザ
5
6
5
7
5
8
5
9
I
*印床置と懸重について測定したもの
I
L於て吸音効果を大にする要因となったものと考えられ
る.
る.また,単体の大きさによって多少異なるカ;100~200
それ故,板状繊維質材料の懸垂吸音体の場合には,高
CjSでは懸垂が床霞より吸音力大で ,200~315CjSでは
大略懸垂と床置と吸音力が等しし 4
0
0
C
j
S以上では床
周波域で床置の場合のセーピンの平均自由路長とは異な
乙高周波域でその差が
置より懸垂が吸音力大であり,特 I
て,床置の吸音力から懸垂の吸音カが推定できると考え
顕著である.
る.
ζ れより,共鳴吸収による吸音効果は床置とあまり差
異がないが,低周波域では片面拘束を受ける床置のもの
る平均自由路長を探用する事が必要であり,それによっ
図6
1
<
:
:床置の吸音力と懸霊の吸音力の比をオクターブ
毎に示す.
より自由な懸垂の方が板振動による吸音効果が大きく,
.35m2~ 1
3.
40m2の範囲で,
片側表面積の合計 (X)が3
高周波域では音波が片面に入射する床置のものに比して
2
5
0
C
j
S以下は規則性が認められないが ,5
0
0
C
j
S以上で
両面に入射する懸垂の方が吸音効果が大きいものと考え
はかなり良い直線的相関を示し,吸音力比(y)は図中の
られる. これは,床置の場合と異なり,懸垂の場合に
式で示される.
は空簡を多くの選択拡散透過性を有する隔壁で区切った
故1
<
:
:,乙の方法によって繊維質材料の床置吸音力より
事になるので平均自由路長が短かくなり,特 I
L高周波域
懸垂吸音力をほぼ正確に推定する事が可能であると考え
237
懸垂吸音体の吸音特性について(第 1報)
Y
Y
3
.
0
3
.
0
ド
ド/
2
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0
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2
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1
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.
0
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4
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-
1
.0
Y=0.04X十1.0
m
3
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3
5
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一
一
一ト
ー「一ー一一一
1
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6.70
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3
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3
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.2
2
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3
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3
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=
=
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Y=0.05X十 0
.
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2
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0
1
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1
.0
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i
3
.
4
oX
1
0
.
0
5
図
6
3
.
3
5
6.70
m
2
6.70
m
3
.
3
5
懸垂/床置吸音力比
る.
3
2 間隔,単体の大きさ,枚数,配置方法について
①間隔
残響室の規模的制約(室容積,フック位置及
び数) より実験範囲が限定されたが,
園
単体の大きさが
ロ2
0
0
0
%
0.
46mx0.
46mのものを除いた全ての場合を通じて間隔
.
'
.
が 1mの場合には集中懸垂(間隔 Om) の時より吸音力
)
J
が相当低下する場合が多い事より,少なくとも間隔を単
4
ゾ
体の大きさ以上とする事が必要であり,
且つ O.92mX
A
、、
しでもあまり効果はないものと考えられる.
ミ
干
以上より, ~懸垂吸音体の間隔は単体の大きさの約 2 倍
~@
を採用すれば良い吸音効果が得られるものと考えられる
医
1
0
0
0
%
(
)5
0
0
%
'
1
1
12
50%
帆
46mX0.
4
6mの結果より判断して 3倍以上と
O.92mと 0.
が,今後さらに,
4
0
0
0
%
。125%
ζ れに関する実験検討を行い報告をす
るつもりである.
②単体の大きさ及び枚数片側表面積の合計を一定に
して単体の大きさを変えると,一枚当りの吸音力は対数
。
m
m
m m
3
6
6
Xl
.8
3 1
.8
3
Xl
.8
3
C
0
.
d
K
0
.
J
グラフ上で双曲線的相関を示す. 図 7にその一例を示
す
固
図
7
一枚当りの吸音力
m m
.
4
6
X
0.
46
0
成 瀬 治 興
238
トー
圏4
0
0
0
C
/
3
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5
X2UX87ッ
ク
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; 1
X5
0
0
C
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入
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u
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j
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j
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1
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車
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三
j
1
/
5
面積
1
/
単体の大きさ
U
0
1
枚
0
4
枚
2
枚 3
枚 4
枚
立1
ロ1
単体の大きさ1.83X1
.83
。
8
枚 1
2
枚 1
6枚
m
m
単体の大きさ O
.96X0
.
9
6
1
2
5
図 8 枚数と吸音力
9
13.40m2
m m
O,9
2
X
O,9
2
枚数
1
6枚
間隔
1m
1
5
0
0 1
0
0
0 2
0
0
0 4
0
0
0冷
2
5
0
図
実質的表面積は増加している(エッジ部分の面積が培
加している)にもかかわらず,全ての場合に集中懸垂よ
/
/ /
/ //
,
,
斗j
ス 1
0
E
手
o1I~X167
々
¥
々
¥
~rn
/
卜一一一
口20ωC/
(
干
ミ
/
事4
枚X47ソ
ク
配置方法と吸音力
える。
り良い結果を示しているのは 0
.
46mX0
.
46mの間隔を充
4
.結
分とって懸垂したもののみであって,このととからも,
本報では,板状繊維質材料(グラスウール 50mm
厚
,
閲備を考慮しなければ単体の大きさのみを変えても良い
吸音効果は期待できないものと考えられる.
単体の大きさを一定とし,枚数を変えた場合の各々の
言
密度 1
2kg/m') の懸垂吸音体について床置との比較,
間隔,単体の大きさ,枚数及び配置方法の諸点より実験
検討したところを報告した。
間隔に対する平均値を対数グラフに表わすと指数関数的
摘筆 l
乙当り,終始御懇篤なる指導を賜った名古屋工業
相関を示す.図 8にその例を示す.単体の大きさが小さ
大学宮野秋彦教授,同工業教員養成所鵜飼正保助教授に
い程,また,高周波数になる程,枚数による影響が顕著
深く感謝の意を表すると共に,実験 l
乙当り惜しみえよく御
であるが,枚数を増加しでも間隔を充分にとることが必
協力を頂いた小川芳弘君ζ
l深謝の意を表する.
要であると考える.
①配置方法片側表面積の合計,単体の大きさ,枚数,
間隔が全て同一であっても,集中的に配置する場合(天
井フック使用数が少ない)と分散的に配置する場合(天
井フック使用数が多い)とでは,その吸音効果 l
と差を生
じ,特 l
こ高周波域で顕著であり,集中的に配置する場合
の方がよい結果を示している.図 9にその一例を示す.
ζ れは,懸垂吸音体と天井,墜との距離が近づく程,回
折現象が著しく妨害され吸音力が低下する為と考える。
従って吸音効果を良好にする為 l
とは懸垂吸音体と天
井,壁との距離を出来るだけ大きくとることが必要と考
文 献
1
) R.K Cook
,P. Chrzanowski,J.A.S.A Vo
l
.21,
No. 3,167 (
1949).
2
)1
. Malecki,Hochfrequenztechniku
.E
l
e
c
t
r
o
akustik,Bd 67,124 (1959).
3
) 佐藤鑑,佐武俊男,長谷川欽一,日本建築学会関東
支部第 26回研究発表会梗概集, 13 (1959).
4
) 小島武男,宮野秋彦,鵜飼正保,成瀬治輿,日本建
築学会東海支部研究報告集 4,83 (
1965).
5
) 宮野秋彦,鵜飼正保,成瀬治興,芳村恵司,日本建
築学会東海支部研究報告集 5,69 (
1966).