環境対応研削加工技術に関する研究 −近接総型ノズル(P ノズル) の開発指針− 東江真一*1,平岡尚文*1,太田惠三*2 Study on Grinding Processing Technology for Working Environment −Development and Guiding Principle in Proximity Formed Nozzle (P Nozzle) − Shin-ichi TOOE,Naofumi HIRAOKA and Kizo Ohta Key words: P nozzle, F nozzle, environment, coolant, MQL, dry grinding, semi dry grinding, cold air grinding 2.P ノズルとは 1.はじめに 研削加工では,砥石はある幅を持ち,且つ高速度で回転す Pノズルは,図1に示すように,ノズル先端は研削容易な材 るために,研削液に関わるトラブルが多い.例えば,均一に供 料からなり,使用前はノズル先端が塞がっている.使用するに 給できないとか,連れ回る空気流のために研削点に到達しづ 当たっては,該研削砥石に押しつけて注水口を開講し,砥石 らいとか,供給のためや処理のためのコストが多大であるとか 形状に倣わせて使用する.そして,砥石/ノズル間の僅かな隙 である.それにもまして重要なことは,切削に比べても,高速 間から,クーリング流体を流出させ,流体を砥石に付着させて 回転するが故に飛沫となって飛散し,作業環境を悪くしている 研削点に供給する. ことである.切削加工では,環境を考慮した MQL などの方法 が採用されているが,研削加工では,冷風研削など,各種環 境対応の研削方法が提案されてはいるが,未だ実施している 例は少ない. 環境を考慮した研削加工技術の遅れは,「研削加工は,熱 との戦い」と言われるように,研削熱の発生による研削性能の 劣化と熱膨張による寸法精度のくるいを抑制するために多量 の研削液が必要という本質的な問題とともに,ドライ研削およ 図1 熱溶融積層 ABS 樹脂材からなる P ノズル先端と断面 びセミドライ研削を実現するための仕組みが提案されていな 図は,3DCADによって生成したデータを三次元プリンターに いことによる. 筆者らはかって,砥石に連れ回る空気流を遮断して,研削 よって作成したノズル先端である.これを使用するには,図 液を確実に研削点に到達させることができ,しかも従来よりも 2(a)に示す送り位置決め機構を組み込んで使用する方法と, 少ない流量で済むフローティングノズル(F ノズル)を提案した. 図2(b)に示すフレシキブルホースとスタンドを使用する方法な F ノズルの原理は,研削容易な材料で構成される研削液ノズ どが考えられる. ル先端をスプリングなどで押しつけて砥石外周形状に倣わせ, ホバークラフトのようにノズルを液圧によって浮かせて使用す るものである.したがって,砥石−ノズル間の隙間は自動的に 位置決めされ,ノズル先端は砥石形状に沿った形状になると いう優れた特徴をもつ. さらに作業環境に対応させるには,微量の研削液でも供給 でき,しかもミストおよびガスをも含むあらゆる流体が使用でき, かつ連れ回る空気流を遮断することができる研削液注水機構 を新たに開発する必要がある.そこで,研削加工容易な材料 からなる注水口を砥石に押しつけて固定して使用する「近接 (a) 送り機構付きタイプ (b)フレシキブルホースタンドタイプ 図2 P ノズルの使用例 総形ノズル(P ノズル:Proximity Formed Nozzle)」を開発した. P ノズルは,上記の問題点を解決する有力な装置であると思 3.研削液付着現象 P ノズルは,砥石に近接したノズル先端によって連れ回る空 われるので報告する. 気流を遮断し,接触した研削流体を砥石上に付着させること *1 ものつくり大学技能工芸学部 :〒361-0038 行田市前谷333 ができる.液体の場合の付着状態は,表面張力と遠心力の釣 *2 オオタ(株) : 〒701-0145 り合い式から,理論的に解析した結果と一致する.したがって, 岡山市今保 82 砥石回転速度によって,研削液の付着の状況は異なる.図3 液は,エマルジョン,ソリューブルおよびソリューションの3種類 は,回転速度と変えて,ストロボを使って写真撮影した研削液 で,濃度を変えたときの法線研削抵抗をキスラー動力計を使 付着状態である.ノズル上部の作業面は,1 回転して戻ってき って測定した. た時の状態で,1 回転しても研削液が付着していることが分か る.P ノズル先端は,実験用に□3mm に開口して,砥石表面に 表1 P ノズルを使用したプランジ平面研削条件 近接させている.砥石の回転速度が 1,000rpm の時は,その幅 研削液流量 2.4 drop/s の中で滴状の 2 筋の付着液体が観察される.2,000rpm の時に cBNホイール B140N100 B は 4 筋になっており,3,000rpm の時には,5 筋の連続した付着 ホイール周速度 31.4 m/s 液体が観察される.付着液体の高さは,1,000rpm の時には約 工作物 KH57 0.5mm 程度,2000rpm の時には,0.25mm 程度,3000rpm の時 切込み深さ 2 μm/pass には,0.15mmの高さとして観察される.ただし,ダイヤモンドホ 総切込み深さ 0.06 mm 送り速度 0.2 m/s イールは,SD800 のメタルボンドのホイールで外径は 200mm である.研削液はソリューションタイプで,表面張力 0.047N/m, 使用ホイールに対する研削液の接触角は 31°である.ドレッ シングは,等速条件を使った SF ドレッシング法である. 実験結果を図4に示す.図から分かるように,全般的に,潤 滑性の高いエマルジョンタイプよりも,冷却効果が高いソリュー ションタイプの方が法線研削抵抗は小さくなっている.また, 濃度の影響について,どの種類の研削液についても濃度が 低い方が法線研削抵抗は小さくなっている.微流量の領域で は,潤滑性より,冷却性の方が重要であると思われ,低粘度の 研削液の方がより効果を発揮するようである. 200 エマルジョン 1000rpm 2000rpm 3000rpm 図3 メタルボンドダイヤモンドホイール表面の研削液の付着状 法線研削抵抗 N 160 ソリューブル 120 ソリューション 80 40 図から分かるように,P ノズルを使えば,微量の研削液でも, 確実に,安定的に研削点に供給できることが分かる.研削液 0 0 20 を使用しているのでウェット研削ではあるが,流量を最小化し 40 60 濃 度 % 80 100 法線研削抵抗に及ぼす研削液の種類と濃度の関係 て使用した場合にはむしろ,セミドライ研削の範疇に入ると言 える.P ノズルは,砥石−ノズル隙間を大きくして大流量で使う 図4 研削液流量 2.4 滴/秒における研削性能 ことも可能で,高帯域までの流量調整が可能な万能型の注水 ノズルで,ウェット研削,セミドライ研削,各種気体を使用したド 研削現象は,切削と比べて複雑で,目詰まり,目つぶれ,自 ライ研削での使用が可能で,泡,ゲルなども可能なあらゆる研 生作用と相互に作用し合い,確率的時系列的に変化している 削液に関わる実験を行うことができる. ため,今後,通常研削,ドライ研削などと比較して,総合的に しかしながら,ドライ研削およびセミドライ研削条件での研削 比較検討することが必要である. 挙動やクーリング流体の役割や最適化などは,Pノズルのよう に,各種の流体が使用でき,流量制御が可能で且つ研削点 まで供給出来る装置が無かったためにほとんど分かっていな い. 5.おわりに P ノズルは,微流量から大流量までをもカバーする装置で, P ノズルに関わる研究が進むに連れて,研削加工における高 能率化,研削液供給状態の安定化,電気的ドレッシング方法 4.Pノズルにける研削液実験 Pノズルにおいて,流量を極少なくした場合の研削液の種類 との複合化,無公害化,省エネルギー化などに効果を発揮す るようになると思われる. と濃度の影響について検討した.砥石はレジンボンドのcBNホ イールで,工作物はSKH57で,プランジ研削実験を行った. 〈謝辞〉 研削液を提供していただいた(株)ネオス,並びにc 流量は2.4滴/秒と同一にした.実験条件を表1に示す.研削 BN ホイールを提供していただいたシオンダイヤモンド工業 (株)に深く御礼申し上げます.
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