原著論文 鈍的頭頸部血管損傷に対する 3DCTA による スクリーニングの有用性と問題点 田崎 修 1 吉矢 和久 1 塩崎 忠彦 1 鵜飼 勲 1 杉本 壽 1 藤中 俊之 2 東 丈雄 3 要旨 背景と目的:頭頸部血管損傷は時に重篤な合併症を引き起こすため,早期発見の重要性が 認識されつつある。画像解析ソフトの進歩により,3DCT Angiography(CTA)の診断能は著しく 向上したが,頭頸部血管損傷のスクリーニング検査としての精度については十分検討されていな い。本研究の目的は,CTAの有用性と問題点を検討することである。対象と方法:対象は2001年 から2007年までに入院となった鈍的頭頸部外傷のうち,CTAを施行した233例。スクリーニング 基準は,重症頭部外傷(SHI),頭蓋底骨折(BFX),顔面骨骨折(FFX),頸椎 / 頸髄損傷 / 頸部軟 部組織損傷(CI),CT で説明できない神経学的異常,内因性血管病変を疑うくも膜下出血,静脈 洞損傷を疑う骨折とした。CTA で血管損傷が疑われた(陽性)例には脳血管撮影を施行した。ま た,CTA で異常が認められなかった(陰性)例は, 6 か月以降に血管損傷に起因する合併症の有 無を追跡調査した。結果:CTA 陽性例は 23 例(27 病変)であり,このうち病変を確定したのは 18 例(21 病変)であった(陽性的中率 77.8/%(21/27))。血管撮影では血管病変を 25 病変確認し た。このうち, 4 病変(動静脈瘻 3,椎骨動脈内膜損傷 1)は CTA では検出できなかった。スク リーニング基準毎の損傷頻度は,FFX 14.0%(7/50),SHI 11.9%(8/67),CI 11.8%(6/51),BFX 10.2%(9/88)で高値であった。CTA陰性例は210例で,追跡調査が可能であったのは132例であっ たが,脳血管障害を起こした症例はなかった。結論:CTAは頭頸部血管損傷のスクリーニング検 査として有用である。しかし,軽度の動静脈瘻及び椎骨動脈病変の検出は今後の課題である。 (日救急医会誌 2009;20:84-92) キーワード:MDCT,MDCT angiography,仮性動脈瘤,血管閉塞,動静脈瘻 緒 言 しく向上したが,頭頸部血管損傷のスクリーニング 検査としての精度については,未だ十分には明らか 頭頸部血管損傷は時に重篤な合併症を引き起こす にされていない。本研究の目的は,スクリーニング ため,早期発見の重要性が認識されつつある。 検査としての 3DCTA の有用性と問題点を明らかに multidetector-row CT(MDCT)や画像解析ソフトの することである。 進歩により 3D-CT angiography(CTA)の診断能は著 対象と方法 対象は 2001 年 11 月 1 日から 2007 年 11 月 30 日ま Accuracy of screening for blunt cerebrovascular injury by multidetector computed tomographic angiography 1 大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター 2 大阪大学医学部附属病院脳神経外科 でに大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター に搬送され,当センターの3DCTA施行基準を満たし た鈍的頭頸部顔面外傷 233 例とした。当センターの 3 大阪大学医学部附属病院医療技術部放射線部門 著者連絡先:〒 565-0871 大阪府吹田市山田丘 2-15 3DCTA 施行基準を Table 1 に示す。3DCTA 施行前に 原稿受理日:2008 年 10 月 8 日(08-075) は原則として頭部単純CT,あるいは頸椎のレントゲ 84 JJAAM 2009;20:84-92 CTA for vascular injury Table 2. Scan parameters. Table 1. Screening criteria for blunt cerebrovascular injury. 1. Facial fracture CT scanner 2. Basilar skull fracture Detector 3. Severe head injury (Glasgow coma scale score ≤8) 4. Cervical injury: fracture, dislocation, spinal cord injury, X-ray tube voltage X-ray tube current hematoma, hanging Asteion Aquilion64 4-row 64-row 120 kV 200 mA 120 kV 300 mA Scan time 0.75 s/360˚ 0.5 s/360˚ 5. Neurologic exam inconsistent with head CT scan findings 6. Skull fracture crossing or extending into the dural sinus Helical pitch (Beam pitch) Slice thickness 5.5 (1.38) 1 mm 41 (0.64) 0.5 mm 7. Subarachnoid hemorrhage on suspicion of rupture of aneu- Reconstruction interval 0.5 mm 0.5 mm rysm or AV malformation ンや単純CTを施行した。顔面骨骨折(facial fracture) が視覚的に確認された時点をトリガーとし本ス は鼻骨骨折,あるいは頬骨骨折のみの症例は除外し キャンを開始。 た。重症頭部外傷(severe head injury)とは,来院時 なお,撮影時の収集パラメータをTable 2に示した。 あるいは来院後 12 時間以内に Glasgow coma scale 造影剤はiohexol(ヨード含有量300mg/ml)を用いた。 score が 8 以下となった症例とした。頸椎 / 頸髄 / 頸 撮影範囲は,第1相で大後頭孔から約 8 cm頭側まで 部軟部組織損傷(cervical injury)は,頸椎骨折,脱 とし,休止時間をおかずに第 2 相で第 1 胸椎のレベ 臼,頸髄損傷 (非骨傷性も含む),頸部皮下血腫及び ルから頭頂までを撮影した。第 1 相の撮影範囲は, 縊頸を含むものとした。これらは Biffl や Miller らの 頭蓋底部の骨と重なる部分を可及的に動脈相で評価 スクリーニングクライテリアに準じて作成した 1, 2)。 するためである。また第 2 相で頭頂部まで撮影した 初期診療における3DCTAの施行時期は,輸液療法に のは,静脈損傷も同時にスクリーニングするためで 反応して呼吸循環動態が安定し画像診断への移動が ある。スライス厚は第 1 相を 1 mm で,第 2 相を 2 可能となった時点とした。また,多発外傷で胸部や mm とした。これらをそれぞれ 0.5mm 及び 1 mm ず 腹部の造影検査が必要な場合はそれらを優先させ, つ重ねて再構成した。64 列の CT 装置では,スライ 3DCTA の撮影は後日施行した。CT は研究開始から ス厚は第 1 相を 0.5mm,第 2 相は 1 mm とした。再 2007年 3 月までは 4 列CT(Asteion, TOSHIBA, Japan) 構成した画像は,撮影後約 5 分以内に救命救急セン を用い(217 例),2007 年 4 月以降は,64 列 CT ター内のワークステーション(Aquarius Netstation, (Aquilion64, TOSHIBA)を用いた(16例)。原則とし TERARECON, INC., Japan)に転送し, 2 人以上の救 て上肢の静脈から造影剤を注入し, 4 ml/secで注入 急医がvolume rendering (VR) 画像,maximum intensity を始め(総量 100 ml),約 20 秒後に撮影を開始した。 projection(MIP)画像及び multiplanar reconstruction 64 列 CT 導入後は bolus tracking 法(RealPrep)を使用 (MPR)画像で血管損傷を評価した 3)。スクリーニン した。RealPrep を用いての撮影は,次のような手順 グに関しては,造影剤漏出像など出血性病変をまず で行った。 短時間でチェックし,必要があれば血管塞栓術など ①第 6 頸椎レベル(スライス断面に歯や肩がかから を施行した。外傷の超急性期に抗凝固療法や抗血小 ないレベル)の総頸動脈にモニタリング位置を設 板療法はできないため,虚血性病変に関してはその 定。 後 2 ∼ 3 病日までに再度時間をかけて評価を行った。 ②造影剤を 4 ml/sec で 100 ml 注入し,注入開始 5 秒 後より予備スキャンを開始。 ③造影剤の流入に伴う内頸動脈 CT 値の急激な上昇 日救急医会誌 2009;20:84-92 3DCTA無所見症例に対しては,それ以上の検査は 施行せず,退院 6 か月以降に電話で聞き取り調査を 行い,外傷性脳血管障害の発生の有無を評価した。 85 田崎 修,他 Cases 150 100 50 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 16 19 Day Fig. 1. The day the first CTA was performed after admission. CTA was performed in over 90% of the cases within the three days after admission. 一方,3DCTAで陽性所見が認められた症例に対して は脳神経外科医にコンサルトし,経動脈的血管撮影 (angiography)にて確定診断の上病態に応じて治療し た。3DCTAの陽性所見としては以下の 5 つの所見を 採用した;①壁不整・狭窄・解離(irregularity/stenosis/ dissection; ISD) ,②仮性動脈瘤 (pseudoaneurysm) ,③ 閉塞(occlusion),④造影剤漏出(extravasation),⑤ 静脈拡張像(venous dilatation)。静脈拡張像は,内頸 動脈海綿静脈洞瘻(CCF)や硬膜動静脈瘻(dural AVF)を示唆する所見である。3DCTAで主幹動脈か らの造影剤の漏出が明らかでangiographyができずに 死亡した症例は,血管損傷ありと診断した。また 3DCTAの静脈拡張の所見については,損傷部位の確 定ができなくても,その近傍に動静脈瘻が存在した 場合には正診例に分類した。なお,内因性の動脈瘤 Fig. 2. CTA-positive finding: Irregularity/Stenosis/ Dissection(ISD). White arrows indicate dissection of right internal carotid artery on maximum intensity projection image. 破裂や静脈損傷は今回の検討から除外した。 結 果 Fig. 2 は ISD である(n=7)。Fig. 3 は血管径が損傷部 前後の血管径より増大している pseudoaneurysmであ 患者年齢は, 1 ∼ 94 歳までの 45 ± 23 歳(mean ± る (n=5) 。Fig. 4はocclusion (n=4) ,Fig. 5はextravasation SD)であった。Fig. 1 は 3DCTA の施行病日を示す。 (n=4),そしてFig. 6はvenous dilatationである(n=7)。 患者の状態により 19 病日となった症例も存在した CTA で陽性所見と診断したのは 23 例 27 病変であっ が,全体の 90.1%(210/233)は第 3 病日までに施行 た。このうち angiography により 18 例 21 病変を血管 した。また,入院中に脳梗塞を起こした症例は認め 損傷と診断した(7.7%(18/233)) 。Table 3 に CT 所見 られなかった。3DCTAの陽性所見を Fig. 2-6 に示す。 別の陽性的中率を示す。ISD 及び venous dilatation の 86 JJAAM 2009;20:84-92 CTA for vascular injury Fig. 3. CTA-positive finding: Pseudoaneurysm. White arrow indicates coronal view of pseudoaneurysm of right internal carotid artery on multiplanar reconstruction image. Fig. 5. CTA-positive finding: Extravasation. White arrows indicate axial view of extravasation of left anterior cerebral artery on maximum intensity projection image. Fig. 4. CTA-positive finding: Occlusion. Black arrow indicates coronal view of occlusion of left internal carotid artery on maximum intensity projection image. Fig. 6. CTA-positive finding: Venous dilatation. The left superior ophthalmic vein(black arrows) was more dilated than the right vein(axial view of maximum intensity projection image). Dural arteriovenous fistula was identified by angiography. 的中率は57%と低かったが,pseudoaneurysm,occlu- phyをした際に検出された病変である。 2 病変は軽度 sion及びextravasationの陽性的中率は100%であった。 のCCFであり,その他の 2 病変はそれぞれdural AVF また全体の的中率は77.8%であった。ただ,3DCTA 及び椎骨動脈の軽度の内膜損傷であった。 4 病変のう で指摘した病変以外にも 4 病変がangiographyで診断 ち 3 病変は保存的治療で軽快したが,CCFの 1 病変 された(Fig. 7)。すなわち,これらは 3DCTA では検 はその後シャント量が増大したため血管内手術を施 出されず,他の陽性所見の診断確定目的でangiogra- 行した。Table 4 にスクリーニング基準毎の損傷の発 日救急医会誌 2009;20:84-92 87 田崎 修,他 Table 3. Positive predictive value of positive findings of computed tomographic angiography (CTA). Vascular injury CTA Angio PPV (%) ISD Pseudoaneurysm 7 5 4 5 57 100 Occlusion 4 4 100 Extravasation Venous dilatation (CCF/AVF) 4 7 4 4 100 57 Total 27 21 77.8 ISD: irregularity/stenosis/dissection; Angio: conventional cerebrovascular arteriography; PPV: positive predictive value; CCF: carotid-cavernous fistula; AVF: arteriovenous fistula a b c Fig. 7. Cerebrovascular injuries not detected by CTA. Four injuries were not detected by CTA. a: carotid-cavernous fistula (black arrow) (n=2) b: dural arteriovenous fistula (black arrow) (n=1) c: three-dimensional arteriography of intimal injury of vertebral artery (white arrow) (n=1). 生頻度を示す。顔面骨骨折が14%と最も多く,つい 骨骨折,破裂孔を横切る骨折は,それぞれ 8 例, 6 で重症頭部外傷,頸椎/ 頸髄/頸部軟部組織損傷及び 例, 2 例であった(重複あり)。ついで重症頭部外傷 頭蓋底骨折の順で高く,これらは全て10%を超えた。 が 8 例(44%),顔面骨骨折が 7 例(39%),頸椎 / 頸 一方,血管損傷例毎のスクリーニング基準の合併頻 髄 / 頸部軟部組織損傷が 6 例(33%)の順で頻度が高 度は Table 5 のようになる。18 例中 9 例(50%)で, かった。Fig. 8は血管損傷例に対する治療の内訳を示 頭蓋底骨折が存在した。このうち蝶形骨骨折,側頭 す。18例中死亡は 2 例で,それぞれ脳底動脈及び前 88 JJAAM 2009;20:84-92 CTA for vascular injury Table 4. Incidence of vascular injury by screening criteria. Some cases have more than one criterion. Screening criteria Incidence (%) Facial fracture Severe head injury 7/50 (14.0) 8/67 (11.9) Cervical injury* 6/51 (11.8) Basilar skull fracture Skull fracture* 9/88 (10.2) 2/47 (4.3) SAH* Neurologic exam inconsistent with head CT scan findings 4/75 (5.3) N=18 Dead: 2 Survive: 16 Observe: 4 Treat: 12 Antiplatelet/Anticoagulant: 11 TAE for shock: 1 0/9 (0) +Operation (Endovascular: 7, Craniotomy: 1) *Cervical injury: Injury including fracture, dislocation, spinal cord injury, hematoma, and hanging; *Skull fracture: Skull fracture crossing or extending into the dural sinus; *SAH: Fig. 8. Treatment schema for cerebrovascular injury. TAE: transarterial embolization Subarachnoid hemorrhage on suspicion of rupture of aneurysm or arteriovenous malformation. N=233 Table 5. Screening criteria for each patient with cerebrovascular injury. Patient No. A B C D E F G 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 A: basilar skull fracture; B: severe head injury(Glasgow coma scale score ≦8); C: facial fracture; D: cervical injury: fracture, dislocation, spinal cord injury, hematoma, hanging; E: subarachnoid hemorrhage on suspicion of rupture of aneurysm or arteriovenous malformation; F: skull fracture crossing or extending into the dural sinus; G: neurologic exam inconsistent with head CT scan findings. CTA positive: 23 Negative CTA: 210 Dead: 27 Survive: 183 Lost: 51 Follow up: 132 Fig. 9. Clinical course of the patients with negative findings on CTA. 大脳動脈の断裂例であった。経過観察例は,軽度内 腔狭窄 2 例と dural AVF 2 例であった。内腔狭窄例 の増悪はなく,dural AVFはいずれも 3 週間程度で自 然消退した。治療例12例のうち, 1 例は顔面骨骨折 に伴う両側顎動脈からの出血に対し血管塞栓術 (TAE)を施行した。抗血小板療法あるいは抗凝固療 法を施行した 11 例のうち,内頸動脈閉塞 2 例と内 頸動脈仮性動脈瘤 1 例に対しては保存的療法のみを 施行した。保存的療法に加え手術を施行した 8 例の 内訳は,椎骨動脈閉塞 2 例,CCF 1 例,内頸あるい は総頸動脈の仮性動脈瘤 4 例及び後交通動脈裂傷 1 例であった。後交通動脈裂傷に対しては開頭血腫除 去術及びトラッピング術を施行し,その他の 7 例に 対しては血管内手術を施行した。上記症例では,経 過中脳虚血発作や脳梗塞は起こらなかった。一方, 日救急医会誌 2009;20:84-92 89 田崎 修,他 CTA で無所見例の経過を Fig. 9 に示す。CTA 無所見 もちろん,多列化CTの方がスクリーニング検査と 例 210 例のうち死亡退院は 27 例であった。死亡例の して更に有利であることは間違いない。Berne ら 7, 8) 中に血管損傷の合併症による死亡は認められなかっ も,16列CTであれば血管損傷のスクリーニングとし た。生存退院 183 例のうち 51 例が追跡不可で,132 て問題ないと報告している。我々も,最後の 8 か月は 例が追跡可能であったが,外傷に起因する脳血管障 64列のCTを用いてスクリーニングを行った。移動ス 害を起こした症例は認められなかった。この結果よ ピードの上昇,0.5mmのスライス厚,及びRealPrepの り,CTAで陽性所見が認められなければ,その後臨 使用により動静脈相の分離がより容易となった。しか 床的に問題となるような脳血管障害が起こる可能性 し,まだ症例数が少ないため 4 列との検出能に明らか は低いことが明らかとなった。 な差は認められていない。 本研究においては,3DCTA陰性例でangiographyと 考 察 比較していないことやフォローアップ調査が電話に 頭頸部外傷に伴う血管損傷は,以前は非常に稀と よる聞き取り調査である,という研究デザイン上の 考えられていたが,血管損傷に対する認知度の向上 限界がある。更に,本研究により3DCTAの問題点も やスクリーニング検査の普及により,これまで考え 明らかとなった。CTAで検出されなかったCCFのう られていたよりはるかに高頻度に起こっていること ち 1 例は,その後シャント量が増大しコイル塞栓術 2, 4, 5) は頭蓋底骨折 が必要となった。このことは,3DCTAで検出されな や顔面骨などのリスクファクターを有する外傷例の かった病変が,その後増悪するケースもあることを 頭頸部血管損傷の頻度は30%にも及ぶと報告してい 示している。すなわち,3DCTAの今後の課題の一つ る。またBifflら2, 6) は血管損傷のうち脳梗塞を起こし は動静脈瘻の検出である。現在のところ,受傷機転 た頻度は約20%であったと報告した。脳梗塞の起こ や骨折の形態あるいは最初のCTAで動静脈瘻が疑わ る確率は血管損傷の頻度よりかなり低いが,合併症 しい症例に対してangiographyを施行するというのが を起こした時の予後に及ぼす影響が大きいため血管 最も確実である。更に,今後はダイナミックCTやMR 損傷のスクリーニングは,今後頭頸部外傷診療にお angiographyの併用で動静脈瘻の検出能を上げること ける重要項目の一つになると考えられる。Biffl 1) や も検討している 9, 10)。 が明らかとなってきた。Cothrenら Miller ら 2) はスクリーニング法として CTA は不適格 治療については,統一されたアルゴルズムはまだ であると報告した。しかし,その後MDCTの多列化 確立されていない。本研究では,脳神経外科医にコ や画像解析ソフトの開発により,その診断能は急速 ンサルトして症例毎に治療を選択した。経過中,合 に向上している。本研究ではその大半で 4 列 CT を 併症や血管損傷の増悪を来した症例は認められな 使用したが,臨床的には十分有用なスクリーニング かったが,今後更に症例を重ねる必要がある。 検査法であることが明らかとなった。その理由とし て,使用した画像解析ソフトの進歩が挙げられる。 まとめ Millerや Biffl らが評価に用いたCTは,我々と同じ 4 1.鈍的頭頸部外傷患者233例に対し,3DCTAによ 列あるいはそれ以下であり,スライス厚は 1 mm で る血管損傷のスクリーニング検査を施行した。 あったが,作成された画像がaxial,sagittal及び coro- 2.3DCTA により 23 例に血管損傷が疑われ,その nalの 3 方向のみの画像であった。これに対し,我々 うち 18 例を血管損傷と診断した。3DCTA の が用いた Workstation では,VR,MPR 及び MIP 画像 positive predictive value は 77.8% であった。 を全ての角度から自在に観察することが可能であっ 3.3DCTA においては,軽度の dural AVF,CCF 及 た。 90 び VA 損傷は検出されない可能性がある。 JJAAM 2009;20:84-92 CTA for vascular injury 4.3DCTA 無所見例のうち追跡可能例においては, 臨床的に問題となる脳血管障害は起こっていな かった。 今後,3DCTAの有用性と問題点を踏まえ,血管損 傷のスクリーニングの精度を更に向上させていきた い。 5) Cothren CC, Moore EE, Biffl WL, et al: Anticoagulation is the gold standard therapy for blunt carotid injuries to reduce stroke rate. Arch Surg 2004; 139: 540-6. 6) Biffl WL, Ray CE Jr, Moore EE, et al: Treatment-related outcomes from blunt cerebrovascular injuries: importance of routine follow-up arteriography. Ann Surg 2002; 235: 699707. 7) Berne JD, Norwood SH, McAuley CE, et al: Helical computed tomographic angiography: an excellent screening test 文 献 for blunt cerebrovascular injury. J Trauma 2004; 57: 11-9. 8) Berne JD, Reuland KS, Villarreal DH, et al: Sixteen-slice multi-detector computed tomographic angiography improves 1) Biffl WL, Ray CE Jr, Moore EE, et al: Noninvasive diagnosis of blunt cerebrovascular injuries: a preliminary report. J Trauma 2002; 53: 850-6. 2) Miller PR, Fabian TC, Croce MA, et al: Prospective screening for blunt cerebrovascular injuries: analysis of diagnostic modalities and outcomes. Ann Surg 2002; 236: 386-93. 3) 中森靖,佐藤和彦,杉本壽:最新のCT画像multidetectorrow CT.外科治療 2003; 88: 210-27. 4) Cothren CC, Moore EE: Blunt cerebrovascular injuries. Clin- the accuracy of screening for blunt cerebrovascular injury. J Trauma 2006; 60: 1204-10. 9) Hirai T, Korogi Y, Hamatake S, et al: Three-dimensional FISP imaging in the evaluation of carotid cavernous fistula: comparison with contrast-enhanced CT and spin-echo MR. AJNR Am J Neuroradiol 1998; 19: 253-9. 10) Ohtsuka K, Hashimoto M: The results of serial dynamic enhanced computed tomography in patients with carotid-cavernous sinus fistulas. Jpn J Opthalmol 1999; 43: 559-64. ics 2005; 60: 489-96. 日救急医会誌 2009;20:84-92 91 田崎 修,他 ABSTRACT Accuracy of screening for blunt cerebrovascular injury by multidetector computed tomographic angiography Osamu Tasaki1, Kazuhisa Yoshiya1, Tadahiko Shiozaki1, Isao Ukai1 Hisashi Sugimoto1, Toshiyuki Fujinaka2, Takeo Azuma3 1 Department of Traumatology and Acute Critical Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine 2 Department of Neurosurgery, Osaka University Graduate School of Medicine 3 Division of Radiology, Department of Medical Technology, Osaka University Graduate School of Medicine Background: Screening for blunt cerebrovascular injury (BCVI) is important because this injury occasionally results in serious compilations. The ability to diagnose cerebrovascular disease with multidetector computed tomographic angiography (CTA) has recently been improved, but diagnostic value for BCVI has not been clarified yet. This study evaluated the accuracy of diagnosis of BCVI by CTA. Patients and methods: The study comprised 233 patients admitted from 2001 through 2007with cervical/facial/head trauma who met predefined screening criteria for CTA. Screening criteria were severe head injury (SHI), basilar skull fracture (BFX), facial fracture (FFX), cervical injury (CI), neurologic exam inconsistent with head CT scan findings, skull fracture crossing or extending into the dural sinus, and subarachnoid hemorrhage on suspicion of rupture of aneurysm or arteriovenous malformation. Patients with a negative CTA test underwent no further radiologic evaluation and were followed for 6 months or more if ischemic or hemorrhagic events occurred due to BCVI. Patients with positive CTA results underwent cerebral arteriography to confirm CTA findings and were treated according to the injury. Results: Twenty-three patients (27 injuries) had positive CTA results, and 18 patients (21 injuries) were confirmed to have BCVI (positive predictive value: 77.8% (21/27)). Twenty-five injuries were detected by cerebral arteriography in these 18 patients; thus, 4 injuries were not detected by CTA (arteriovenous fistula [AVF]: 3, intimal injury in vertebral artery: 1). Screening criteria with high incidence in BCVI were FFX: 14.0% (7/50), SHI: 11.9% (8/67), CI: 11.8% (6/51), and BFX: 10.2% (9/88). CTA results were negative in 210 patients, and cerebrovascular event due to BCVI was not observed in the 132 patients who could be followed. Conclusions: CTA is an excellent screening tool for BCVI. However, accuracy of diagnosis for mild intimal injury or AVF requires improvement in the future. (JJAAM 2009; 20: 84-92) Keywords: MDCT, MDCT angiography, pseudoaneurysm, occlusion, arteriovenous fistula Received on October 8, 2008 (08-075) 92 JJAAM 2009;20:84-92
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