チョウ群集調査データの解析法 昆虫と自然, 31(14) - 人間情報学研究科

チョウ群集調査データの解析法
夏原由博(大阪市立環境科学研究所)
チョウ群集の調査の目的として,チョウ
と解析法を検討する。
からみた地域の評価方法とチョウを含む生
ト ラ ン セ ク ト 調 査 で は 2km 程 度 の コ ー ス
物多様性を保全するための地域計画の立案
を設定することが多いが,コースには異な
がある。特に地域計画の場合には,植生な
る環境を含んでいる。必ず環境ごとに細分
ど地域の環境に関する情報をできるだけ多
して記録を残すべきである。できれば,
く入手し同時に解析する必要がある。とは
1/2500 く ら い の 地 図 に 直 接 記 録 し て い け ば ,
いえ,チョウ群集単独での解析が第一段階
後で環境を再評価したときにも対応できる。
としてあり,環境との関連は次のステップ
また,植生等の環境を知るためには直接観
と考えることもできる。そこで,本論では
察するほかに国土地理院の土地利用図や国
主に前者について解説する。また,チョウ
土 数 値 情 報 ,ラ ン ド サ ッ ト の TM デ ー タ な ど
による評価方法にはいくつかの方法が考え
様々な方法がある。
られる。種の生活史を考慮した評価方法は
本誌の他論文に詳しいので,本論では統計
学的な解析法を中心に紹介する。
1. 空間スケール
われわれが評価あるいは保護しようとす
るチョウ群集の空間的な広がりとはどの程
度のものであろうか。直径数十メートルの
湿地から数十キロメートルの山地までさま
ざまかも知れない。しかし,特定のパター
ンを示すチョウ群集というものがあるとす
るならば,それが実現するための空間の広
がりを仮定することなしには調査は行えな
い。ところで,近年価値が見直され,あち
図 1 土地のモザイク
こちで保全・活用の対象とされている里山
は雑木林,耕地,水源,草地などさまざま
2. 多様性とは何か
な土地利用形態をパッチ状に含む空間の広
ある地域のチョウを客観的に評価するた
が り で あ る( 図 1)。そして、このような広
めの数値として基礎となるのが,種数と個
がりをランドスケープと呼んでいる。私は
体数である。種数も個体数も多ければ豊か
このランドスケープスケールをチョウ群集
なチョウ群集だと言えるが,多様性という
を調査し,保護するための基本的な単位と
ことになると個体数よりも種数の方が大事
考えている。そこで,それに応じた調査法
そうである。ところが,2つの地域(鶴山
1
表 1 多 様 度 指 数 計 算 の た め の 例
種名
個体数
モンシロチョウ
140
ヒメウラナミジャノメ
114
アオスジアゲハ
85
アゲハ
38
ヤマトシジミ
37
キチョウ
15
ベニシジミ
12
ツバメシジミ
9
テングチョウ
5
ツマキチョウ
3
ヒメアカタテハ
2
ツマグロヒョウモン
1
計
461
と亀山とでもしよう)のチョウを比較しよ
う と い う と き に ,鶴 山 は 3 種 の チ ョ ウ A と B
と C が 50 個 体 ず つ い て , 亀 山 に は A が 148
個体で B と C が 1 個体ずつであったとする。
ふたつの地域の間で種数も個体数もまった
く同じであるが,鶴山の方が多様性が高い
と言える。二つの地域をルートセンサスし
たとき,鶴山では3種に次々と出会うのに
対 し て 亀 山 で は 種 A ば か り 目 に つ き ,BC は
なかなかみつからないだろう。そこで,群
と,同じ地域ならば調査量が異なっても等
集の豊かさを表すのに群集の中での種ごと
の個体数の配分という考え方が必要となる。
しい多様度指数になる。
シンプソンの多様度指数はデータが個体
これを多様度指数という。
数でなく割合や連続変数(長さや大きさ)
2.1. 多様度指数
であっても計算できる。例えば,チョウ群
多様度指数にはいくつもの種類があるが,
集と植生の多様度との相関を調べようとす
シ ン プ ソ ン の 多 様 度 指 数 を 推 薦 す る 。I 番 目
る と き , 植 生 を 被 度 100pi%で 記 録 す れ ば ,
の 種 の 個 体 数 が ni で あ り , 合 計 N 個 体 か ら
その多様度は
λ = ∑ pi 2
なる群集の中からでたらめに2個体を取り
出したとき,その2個体が同じ種である確
となる。
率 λは ,
多 様 度 指 数 に は 1-λの 他 に ,l/λや 次 式 の 情
λ=∑
ni ( ni − 1)
N ( N − 1)
報 量 に よ る 指 数 が あ る 。こ れ は S 種 か ら な る
群 集 の i 番 目 の 種 の 個 体 数 を n i ,総 個 体 数 を
N とするとき,
で 示 さ れ る 。も し 群 集 に 1 種 し か い な い と き
は こ の 値 は 1 と な り ,た く さ ん の 種 が 均 等 に
H ′ = −∑
含まれる群集では値が小さくなる。そこで
ni
n
log 2 i
N
N
多 様 度 指 数 と し て は , 1-λや 1/λ の 形 で 用 い
で 計 算 さ れ る 。 こ の H'は 対 数 log の 底 を 2
る 。こ れ は 0 か ら 1 ま で の 値 を と り ,大 き い
と し た と き を ビ ッ ト ,e と し た と き を ニ ッ ト ,
ほど多様度が高いと言える。
10 と し た と き を デ ィ ッ ト と 呼 び , 当 然 な が
具 体 的 に 計 算 し て み る と ,表 1 の よ う な 場
ら値が異なるので注意が必要である。こと
合には,
わりなしに書かれているときにはたいてい
140 × 139 + 114 × 113 + 85 × 84 + ⋅ ⋅ ⋅
λ=
461 × 460
ニ ッ ト で ,M AC ARTHUR の H’と い う と き に は
ビットである。
= 0.202
2.2. チョウ群集の豊かさ
し た が っ て , 1-λ = 0.798 と な る 。 こ の 指 数
の重要な特徴としては,理論的には同じ群
チョウのように種ごとの生活史がよく調
集から総個体数を変えて採集しても常に同
べられているグループで種数や多様度指数
じ値になるということである。言い換える
だけで環境を評価することは不十分だが,
2
物差しのひとつとしてとらえれば便利であ
3.1. 重複度指数
る。多様度指数では群集全体の個体数の多
定量的なデータの場合には重複度指数に
さを比較することができないので,群集の
よって類似度を計算する。ここでは
豊かさを評価する場合には多様度指数に個
M ORISITA(1959)の C λ と P IANKA (1973)の α指 数
体数をかけたものを用いる。これを全多様
をとりあげる。
度と呼んで普通の多様度指数を相対多様度
森下は コ ド ラ ー ト あ た り の 個 体 数 密 度 の
と 呼 ん で 区 別 す る 。 石 井 ( 1995) は 全 多 様
影響を受けない,群集の類似度指数を提案
度を計算する代わりに横軸に多様度指数,
し た 。 N1, N2 を そ れ ぞ れ 群 集 1 お よ び 2 の
縦軸に総個体数をとって図示する方法をと
総 個 体 数 ,n 1i お よ び n 2i を そ れ ぞ れ の 群 集 の
り,図上の位置によって「都心型」「都市
種 i の個体数とするときに,
公園型」「照葉樹林型」「雑木林型」の4
Cλ =
タイプを識別した。
3. 群集の類似度
λ1 =
調 査 し た 3 地 域 の 群 集 の 種 組 成 が表 2 の
2∑ n1i ⋅ n2i
( λ1 + λ2 ) N1 ⋅ N 2
∑ n1i (n1i − 1) ,
N1 ( N1 − 1)
λ2 =
∑ n2i (n2i − 1)
N 2 ( N 2 − 1)
よ う な と き ,群 集 a と 群 集 b は よ く 似 て い る
こ の Cλ は 2 つ の 群 集 が ま っ た く 異 な る と
が ,群 集 a あ る い は b と 群 集 c は か な り 異 な
き に 0,等 し い と き に は 1 か そ れ 以 上 と な る 。
っていることが直感的に読みとれる。この
表 2 の a, b 間 の 値 は , λ 1 = 0.489, λ 2 = 0.444
似ている程度を客観的,定量的に表すのが
で , C λ = 1.112 で あ る 。
類 似 度 指 数 で あ る 。類 似 度 指 数 と し て は ,表
ピ ア ン カ の α指 数 は ニ ッ チ の 種 間 の 重 複
2 のような定量的データから群集の重なり
度の尺度として考えられたものだが,群集
を は か る 重 複 度 指 数 ,表 3 の よ う な 種 の い る
間の類似度の尺度としても利用できる。
いないのデータから計算する連関指数があ
る。類似度指数は開発等によってチョウ群
α=
∑ p1i ⋅ p2i
∑ ( p1i ) 2 ∑ ( p2i ) 2
p1i =
n1i
n
, p 2i = 2i
N1
N2
集がどの程度変化したか時間的に比較する
場合にも用いることができる。
表 2 似 て い る 群 集 と 似 て い な い 群 集 1
群集
a
b
アオスジアゲハ
7
6
アゲハ
2
2
キチョウ
1
1
合計
10
9
表 3 似 て い る 群 集 と 似 て い な い 群 集 2
群集
a
b
アオスジアゲハ
+
+
アゲハ
+
+
キチョウ
+
+
種数
3
3
αは 0 か ら 1 ま で の 値 を と る 。 表 2 の a, b 間
c
0
4
6
10
の 値 は α = 0.999 で あ る 。ま た ,α指 数 と 関 係
の 深 い 距 離 と し て コ ー ド 距 離 CD が あ り ,群
集間の距離として適している。
CD = 2(1 − α )
c
+
+
2
類似度指数による比較の際に留意すべき
問 題 と し て ,(1) サ ン プ ル サ イ ズ( 調 査 個 体
数)による影響を受けないことが望ましく,
(2)値 が 0 か ら 1 ま で の 範 囲 で 変 化 す る と 便
3
4. 多変量解析の利用
利 で あ る 。 αは 0-1 の 範 囲 を と り , 全 く 同 じ
群 集 同 士 の 類 似 度 は 常 に 1 で あ る 。αは サ ン
4.1. クラスター分析
プルサイズに関わりなく 0 から 1 までの値を
と る が , Cλ は サ ン プ ル サ イ ズ が 小 さ い と き
比較する群集の数が 3 以上のとき,2 群集
に 上 限 が 1 を 超 え ,比 較 に 不 便 で あ る 。し か
ずつの距離を求めて,類似度行列をつくっ
し ,サ ン プ ル サ イ ズ が 小 さ い 場 合 に は α指 数
て比較する。これは,ちょうど時刻表にあ
の値に偏りが出ること考えられ,サンプル
る駅間の料金表に似ている。料金表と異な
サ イ ズ に 影 響 さ れ な い 点 で は Cλ が 優 れ て い
るのは,群集が駅のように一列に並んでい
る ( K OBAYASHI 1987) 。 通 常 は α指 数 を 用 い
ないで,関係が複雑な点である。そこで,
ればよいが,群集ごとに個体数が異なると
群集相互の位置関係を視覚的に捉える方法
き な ど は Cλ も 併 記 す べ き で あ る 。
としてクラスター分析とその結果のデンド
ログラム(樹状図)による表示がよくおこ
なわれる。
3.2. 種の有無による連関指数
表 4 ク ラ ス タ ー 解 析 の た め の 群 集
群集
種
a
b
c
キアゲハ
8
8
5
アゲハ
4
1
1
クロアゲハ
2
2
2
カラスアゲハ
1
4
7
個体数のデータがなく,その地域に種が
分布しているか否かによって地域間の種組
成の類似度をはかる指数はいくつか考案さ
れ て い る が ,こ こ で は O CHIAI (1957)の 指 数 OI
d
1
2
4
8
と 野 村 (1940)と S IMPSON (1943)の 指 数 NSC を
表 5 群 集 間 の コ ー ド 距 離 行 列
b
c
a
0.460
0.811
b
0.467
c
紹介する。
2 地 域 の 種 数 を そ れ ぞ れ a,b,共 通 種 数 を
c と す る と , 落 合 の 指 数 OI は
OI =
d
1.117
0.908
0.518
c
a b
クラスター分析は凝集法と分割法に大き
OI は そ れ ぞ れ の 群 集 に お け る 共 通 種 の 割 合 ,
く分けられるが,前者は類似度の高い群集
c/a と c/b の 幾 何 平 均 で あ り ,ピ ア ン カ の α指
どうしを順次連結していく方法で,後者は
数の式と同型である。一方,野村・シンプ
逆に全体を類似度の高い群集同士のグルー
ソ ン 指 数 NSC は
プに分けていく方法である。群集の数が少
NSC =
ない場合は凝集法を用いればよい。凝集法
c
,(a > b)
b
にも群集同士を結びつけてグループをつく
る方法に種類があるが,どのような類似度
である。種数の少ない方の群集のうち,共
(距離)と連結法の組み合わせにするかは
通種の割合を求めている。比較する地域の
議 論 が あ り , 小 林 (1995)や 夏 原 (1996)を 参 考
面積や調査努力が異なる場合にその影響を
にしていただきたい。
受けにくいとも言われている(木元・武田
ここでは例として表 4 のような 4 群集の関
1989)。表 3 の デ ー タ で ab 間 ,ac 間 は OI,
係をコード距離と非加重群平均法によって
NSC と も 1 と 0.667 で あ る 。
デンドログラム(樹状図)として表してみ
る 。表 5 は 第 1 列 の abc と 第 1 行 の bcd の そ
4
れぞれ交差する所の数値がその 2 群集間の
の指数に要約する方法でもある。
距 離 ( 非 類 似 度 ) を 表 し て お り , 例 え ば ab
さらに,植生など調査地の環境のデータ
間 の 距 離 は 0.460 で 最 も 小 さ い( す な わ ち 種
があれば,正準対応分析という方法でチョ
組 成 が 最 も 似 て い る ) 。 そ こ で ま ず ab を 連
ウ群集と環境との関連を解析することがで
結 し , 次 に a と cd, b と cd の そ れ ぞ れ の 距
きる。たとえば,地域をチョウ群集によっ
離の平均値を求めて,再び最小値を探し,
て類型化して,それに現在の土地利用対応
順次連結する。その結果が図 2 である。
させ,保全すべき地域や土地利用の再生を
計画するために用いることができる。
a
4.3.多変量解析によるチョウ群集解析の例
b
c
d
チョウ群集の解析例として,大阪近辺の
いくつかのチョウ群集を比較してみる。解
図 2. 表 4 の 群 集 の デ ン ド ロ グ ラ ム( コ ー ド 距 離 の
非加重群平均法による連結)
析に用いたデータはすべてトランセクト調
4.2. 対応分析
調 査 頻 度 や 距 離 が 異 な る の で 1km あ た り の
チョウ群集間の関係を調べるための多変
個体数で統一した。それぞれの調査地の特
量解析としては対応分析(数量化3類)が
徴は表 6 にしめしたとおりである。
向いている。この方法は、多数の群集デー
調 査 結 果 を 除 歪 対 応 分 析 DCA と ク ラ ス タ
タを比較して、種組成の似た群集どうし、
ー解析(コード距離,非加重群平均連結法)
分布の似た種どうしがそれぞれ連続するよ
により図示してみた。両者の結果はほぼ一
うに重みづけをして並べ替える手法だと考
致 し て い る 。 DCA に よ る オ ー デ ィ ネ ー シ ョ
え て い い 。 多 種 の 情 報 ( 種 組 成 ) を 2∼ 3 種
ン( 図 3)で 左 側 は ひ と つ ひ と つ の 点 が 群 集
表6 チョウ群集の調査地の特徴
調査地
調査単位
1.箕面公園
2.服部緑地
3.大泉緑地
4.大仙公園
5.大阪城公園
6.三草山
T. 全 体
A. 雑 木 林 縁
B. 雑 木 林 内
C. 植 林
7.真田山公園
A. 1989年
〃
B. 1990年
8.長居公園
9.箸喰
10. 貝 塚 馬 場 地 区
T. 全 体
〃
A. 農 地
〃
B. 雑 木 疎 林
〃
C. 雑 木 林 縁
〃
D. 伐 採 地
〃
E. 雑 木 林 内
〃
F. 植 林
〃
G. 植 林 内
11. 二 上 山
12. 春 日 山
査により得られたものであるが、それぞれ
特徴、出典
標高160m、アカマツ・コナラ林、シイ・カシ林(石井他 1991)
里山景観残す公園(126ha)、標高40m(石井他 1991)
開発前は水田地帯の公園(88ha)、標高10m(石井他 1991)
住宅地と古墳群に隣接した公園(27ha)(石井他 1991)
大阪市中心部の公園(103ha)(石井他 1991)
標高400-500m、雑木林保護地区(石井他 1995)
コナラ・クヌギ・ナラガシワ・ネザサ等
スギ・ヒノキ
大阪市中心部の公園(5.3ha)(今井他 1992)
大阪市南部の公園(65.7ha)、二次林化した社叢(日浦 1973)
標高100m、村落、耕地、二次林、植林(日浦 1973)
標高100m、耕地と山林のモザイク(石井 1996)
標高100-520m、二次林・植林(日浦1976)
標高150-300m、原生林と二次林日浦1976)
5
•
■ 10 F
■ 6C
種のスコア
○ 10
e
•
•
•
•
•
••
•
• • • •• •
•
•
•
•
•
••
•
•
• •• •
•
•
• •
•• •
•
•
• •
•
••
••
••
• • • •• •• •
•
•
••
•
•
•
••
1 0G
■
○
b
○
○
1 0D
○ 6B
○6 A ,
a
▲
10
c
▲9
11
○
◇1 2
◇1
d
△2
△5
△
4△
△ 8
△△
3
7A
•
•
•
•
7B
図 3 DCA に よ る チ ョ ウ 群 集 の 座 標 づ け
(調査地)で,右側の図ではひとつひとつ
側の種が対応している。例えば,三草山の
の点がチョウの種に対応する。そして互い
チョウ群集を特徴づける種は,ミヤマカラ
に近い位置にある点(群集または種)どう
スアゲハ,アカシジミ、ミドリシジミ類な
しが似ていることを示す。左側の図では大
どである。この結果で類型化されたチョウ
局 的 に 見 て ,A 群 は 石 井 の 言 う「 都 心 型 」と
の種は必ずしも生息環境の知見と一致しな
「都市公園型」,B 群 は「農地型」、C 群 が
いかもしれないが,それは解析した調査地
「雑木林型」,D 群 が「 照 葉 樹 林 型 」に 対 応
点が不足しているためである。
す る 。E 群「 植 林 型 」は こ れ ら に 属 さ な い 独
興味深いのは多様度指数と個体数による
特のチョウ群集であると位置づけらた。し
分類では都心型とされた林内や植林のチョ
か し 、「 雑 木 林 型 」は 全 体 に 広 が り 、B, C, D
ウ群集がここでは都心型とは明確に異なる
の分け方はやや不自然でもある。また、貝
位置に置かれたことである。また、都市公
塚 の 環 境 ご と の コ ー ス は 例 え ば 林 内 が 80m
園がコンパクトにまとまったのと比較して、
のように距離が短いため,誤差が大きいこ
雑木林のチョウ群集は地域ごとに異なる位
とも考慮する必要はある。
置に置かれている。これは前者が少数の限
クラスター分析によるデンドログラム
られた種から構成されているのに対して、
( 図 4)は よ り 値 の 小 さ な と こ ろ で 連 結 さ れ
後者は種数が多く地域ごとにそこにしかい
て い る 地 点 ほ ど よ く 似 た 種 組群
成集
の群
の集
スで
コあ
ない種が分布しているためである。この事
ることを示している。この結果から調査地
実は雑木林あるいは里山が複数あるからと
をいくつかのグループに分けることができ
いって決して同じ内容ではないことを示す。
る。
すなわち、他にあるからといって雑木林を
こ れ ら の 類 型 化 は 石 井 (1995) の 図 と 異 な
一つつぶしてしまうことには慎重にならな
り,優占種や種の有無など種の構成に依存
ければならない。
し て い る 。そ し て 調 査 地 の 各 群 に は 図 3 の 右
図 3 で同じ地域内の異なる植生のチョウ
6
6A 三草山林 縁
6T 三草山全体
6B 三草山林内
6C 三草山植林
10A 貝塚農地
10T 貝塚全体
10C 貝塚林縁
11 二上山
2 服部緑地
9 箸喰
10B 貝塚疎林
10D 貝塚伐
1 箕面公園
12 春日山
10E 貝塚林内
10F 貝塚植林
10G 貝塚植林
3 大泉緑地
4 大仙公園
8 長居公園
5 大阪城
7A 真田山 89
7B 真田山 90
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2
コー ド距 離
図 4 ク ラ ス タ ー 分 析 に よ る チ ョ ウ 群 集 の 分 類
群集が比較的近い位置に連続的に分布して
ば個体数は2倍になるが,種数は2倍には
いる。チョウ群集の構成はランドスケープ
ならない。そこで,地域のチョウの種数を
スケール,すなわち数キロメートル程度の
他と比較できる形で調査しようとすれば,
環境のモザイクによって決まり,その中で
その地域の種数が本当は何種なのか推定す
特にエコトーン(林縁のような環境の推移
るか,すべての地域で統一基準を設けて調
帯)など特定の場所に集中するといった構
査する必要がある。
図が描けそうである。
面積の異なるいくつかの地域の種数を比
較しようとする場合,それぞれの地域で同
じ距離のトランセクトコースを調査するの
5. 地域間の比較のための注意
は間違いである。それは地域全体の種数を
同じ割合でサンプリングしたことにならな
5.1. 調査努力の標準化
いからである。仮にふたつの地域の面積が
私達がチョウを調査するときにその地域
100 ヘ ク タ ー ル と 1000 ヘ ク タ ー ル で あ れ ば ,
に生息しているチョウをすべてカウントす
後 者 で は 前 者 の 10 倍 の 距 離 の コ ー ス を 設 定
ることはできない。同じ場所で調査しても,
することが望ましい。とはいえ,これはあ
調査回数や調査面積を増やせば記録したチ
ま り 現 実 的 で な い の で ,一 定 面 積 を 1 区 画 と
ョウの種数や個体数は増加する。ややこし
して,いくつかの区画を選び,それぞれの
いのは個体数と種数とで増加のしかたが違
区画で等しい距離のトランセクト調査を行
うという点である。調査回数を2倍にすれ
7
6. 参考文献
うことを薦める。
5.2. 期待種数による比較
日 浦 勇 (1973) 自 然 史 研 究 1:175-188
ところで、サンプル中の種数はサンプル
日 浦 勇 (1976) 自 然 史 博 物 館 研 究 1:189-205
サイズに依存しているため,調査面積や調
今 井 長 兵 衛・夏原由博・山田明男(1992)大 阪
査努力の異なる群集どうしを比較できない
市 立 環 境 科 学 研 究 所 年 報 54:104-108
と い う 問 題 が あ る 。 そ こ で H URLBERT (1971)
石 井 実 ・ 広 渡 俊 哉 ・ 藤 原 新 也 (1995) 日 本
は S 種 が Ni 個 体 ず つ 合 計 N 個 体 か ら な る 群
環 境 動 物 昆 虫 学 会 誌 7:134-146
集からランダムに n 個体のサンプルを抽出
石 井 実 (1996) 日 本 産 蝶 類 の 衰 亡 と 保 護
し た と き の 期 待 種 数 E(Sn)が 超 幾 何 分 布 に し
4:63-75
たがうとして,以下の式を提案した。
木 元 新 作・武田博 清 (1989) 「 群 集 生 態 学 入
門」,共立出版社, 東京
N − N 
∑  n i 

E ( Sn) = S − 
N 
 
n
小 林 四 郎 (1995) 「 生 物 群 集 の 多 変 量 解 析 」
蒼樹書房, 東京
夏 原 由 博 (1997) 日 本 環 境 動 物 昆 虫 学 会 編
「 チ ョ ウ の 調 べ 方 」, 日 本 環 境 動 物 昆 虫 学 会 ,
この式により,群集間の種数の比較をすべ
大阪
きだとしている。
表 1 の 例 か ら E(S 100 )を 求 め る と ,
本 論 文 は 「 昆 虫 と 自 然 」 31 巻 14 号
 461 − 140   461 − 114 

+
 +⋅⋅⋅
100   100 

E ( S100 ) = 12 −
 461


100 
(1996)18-24 頁 に 掲 載 さ れ た も の で あ る .
321!
347!
+
+⋅⋅⋅
100! ( 421 − 100)!! 100!⋅( 347 − 100)!
= 12 −
461!
100! (461 − 100)!
= 9.65
と な る 。 こ の 9.65 と い う 種 数 は 表1の 調 査
場 所 で , も し サ ン プ ル サ イ ズ( 観 察 個 体 数 )
が 100 個 体 だ っ た と き に 記 録 で き る だ ろ う
種数の期待値である。他の調査結果につい
て も E(S 100 )を 求 め れ ば , 同 じ サ ン プ ル サ イ
ズ で の 種 数 の 違 い を 比 較 で き る 。n は 必 ず し
も 100 と す る 必 要 は な く サ ン プ ル サ イ ズ 以
下の値に適当に決めればよい。例えば各調
査 ご と に 観 察 数 が 数 百 個 体 で あ れ ば 100 に
統一すればわかりやすい。
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