チョウ群集調査データの解析法 夏原由博(大阪市立環境科学研究所) チョウ群集の調査の目的として,チョウ と解析法を検討する。 からみた地域の評価方法とチョウを含む生 ト ラ ン セ ク ト 調 査 で は 2km 程 度 の コ ー ス 物多様性を保全するための地域計画の立案 を設定することが多いが,コースには異な がある。特に地域計画の場合には,植生な る環境を含んでいる。必ず環境ごとに細分 ど地域の環境に関する情報をできるだけ多 して記録を残すべきである。できれば, く入手し同時に解析する必要がある。とは 1/2500 く ら い の 地 図 に 直 接 記 録 し て い け ば , いえ,チョウ群集単独での解析が第一段階 後で環境を再評価したときにも対応できる。 としてあり,環境との関連は次のステップ また,植生等の環境を知るためには直接観 と考えることもできる。そこで,本論では 察するほかに国土地理院の土地利用図や国 主に前者について解説する。また,チョウ 土 数 値 情 報 ,ラ ン ド サ ッ ト の TM デ ー タ な ど による評価方法にはいくつかの方法が考え 様々な方法がある。 られる。種の生活史を考慮した評価方法は 本誌の他論文に詳しいので,本論では統計 学的な解析法を中心に紹介する。 1. 空間スケール われわれが評価あるいは保護しようとす るチョウ群集の空間的な広がりとはどの程 度のものであろうか。直径数十メートルの 湿地から数十キロメートルの山地までさま ざまかも知れない。しかし,特定のパター ンを示すチョウ群集というものがあるとす るならば,それが実現するための空間の広 がりを仮定することなしには調査は行えな い。ところで,近年価値が見直され,あち 図 1 土地のモザイク こちで保全・活用の対象とされている里山 は雑木林,耕地,水源,草地などさまざま 2. 多様性とは何か な土地利用形態をパッチ状に含む空間の広 ある地域のチョウを客観的に評価するた が り で あ る( 図 1)。そして、このような広 めの数値として基礎となるのが,種数と個 がりをランドスケープと呼んでいる。私は 体数である。種数も個体数も多ければ豊か このランドスケープスケールをチョウ群集 なチョウ群集だと言えるが,多様性という を調査し,保護するための基本的な単位と ことになると個体数よりも種数の方が大事 考えている。そこで,それに応じた調査法 そうである。ところが,2つの地域(鶴山 1 表 1 多 様 度 指 数 計 算 の た め の 例 種名 個体数 モンシロチョウ 140 ヒメウラナミジャノメ 114 アオスジアゲハ 85 アゲハ 38 ヤマトシジミ 37 キチョウ 15 ベニシジミ 12 ツバメシジミ 9 テングチョウ 5 ツマキチョウ 3 ヒメアカタテハ 2 ツマグロヒョウモン 1 計 461 と亀山とでもしよう)のチョウを比較しよ う と い う と き に ,鶴 山 は 3 種 の チ ョ ウ A と B と C が 50 個 体 ず つ い て , 亀 山 に は A が 148 個体で B と C が 1 個体ずつであったとする。 ふたつの地域の間で種数も個体数もまった く同じであるが,鶴山の方が多様性が高い と言える。二つの地域をルートセンサスし たとき,鶴山では3種に次々と出会うのに 対 し て 亀 山 で は 種 A ば か り 目 に つ き ,BC は なかなかみつからないだろう。そこで,群 と,同じ地域ならば調査量が異なっても等 集の豊かさを表すのに群集の中での種ごと の個体数の配分という考え方が必要となる。 しい多様度指数になる。 シンプソンの多様度指数はデータが個体 これを多様度指数という。 数でなく割合や連続変数(長さや大きさ) 2.1. 多様度指数 であっても計算できる。例えば,チョウ群 多様度指数にはいくつもの種類があるが, 集と植生の多様度との相関を調べようとす シ ン プ ソ ン の 多 様 度 指 数 を 推 薦 す る 。I 番 目 る と き , 植 生 を 被 度 100pi%で 記 録 す れ ば , の 種 の 個 体 数 が ni で あ り , 合 計 N 個 体 か ら その多様度は λ = ∑ pi 2 なる群集の中からでたらめに2個体を取り 出したとき,その2個体が同じ種である確 となる。 率 λは , 多 様 度 指 数 に は 1-λの 他 に ,l/λや 次 式 の 情 λ=∑ ni ( ni − 1) N ( N − 1) 報 量 に よ る 指 数 が あ る 。こ れ は S 種 か ら な る 群 集 の i 番 目 の 種 の 個 体 数 を n i ,総 個 体 数 を N とするとき, で 示 さ れ る 。も し 群 集 に 1 種 し か い な い と き は こ の 値 は 1 と な り ,た く さ ん の 種 が 均 等 に H ′ = −∑ 含まれる群集では値が小さくなる。そこで ni n log 2 i N N 多 様 度 指 数 と し て は , 1-λや 1/λ の 形 で 用 い で 計 算 さ れ る 。 こ の H'は 対 数 log の 底 を 2 る 。こ れ は 0 か ら 1 ま で の 値 を と り ,大 き い と し た と き を ビ ッ ト ,e と し た と き を ニ ッ ト , ほど多様度が高いと言える。 10 と し た と き を デ ィ ッ ト と 呼 び , 当 然 な が 具 体 的 に 計 算 し て み る と ,表 1 の よ う な 場 ら値が異なるので注意が必要である。こと 合には, わりなしに書かれているときにはたいてい 140 × 139 + 114 × 113 + 85 × 84 + ⋅ ⋅ ⋅ λ= 461 × 460 ニ ッ ト で ,M AC ARTHUR の H’と い う と き に は ビットである。 = 0.202 2.2. チョウ群集の豊かさ し た が っ て , 1-λ = 0.798 と な る 。 こ の 指 数 の重要な特徴としては,理論的には同じ群 チョウのように種ごとの生活史がよく調 集から総個体数を変えて採集しても常に同 べられているグループで種数や多様度指数 じ値になるということである。言い換える だけで環境を評価することは不十分だが, 2 物差しのひとつとしてとらえれば便利であ 3.1. 重複度指数 る。多様度指数では群集全体の個体数の多 定量的なデータの場合には重複度指数に さを比較することができないので,群集の よって類似度を計算する。ここでは 豊かさを評価する場合には多様度指数に個 M ORISITA(1959)の C λ と P IANKA (1973)の α指 数 体数をかけたものを用いる。これを全多様 をとりあげる。 度と呼んで普通の多様度指数を相対多様度 森下は コ ド ラ ー ト あ た り の 個 体 数 密 度 の と 呼 ん で 区 別 す る 。 石 井 ( 1995) は 全 多 様 影響を受けない,群集の類似度指数を提案 度を計算する代わりに横軸に多様度指数, し た 。 N1, N2 を そ れ ぞ れ 群 集 1 お よ び 2 の 縦軸に総個体数をとって図示する方法をと 総 個 体 数 ,n 1i お よ び n 2i を そ れ ぞ れ の 群 集 の り,図上の位置によって「都心型」「都市 種 i の個体数とするときに, 公園型」「照葉樹林型」「雑木林型」の4 Cλ = タイプを識別した。 3. 群集の類似度 λ1 = 調 査 し た 3 地 域 の 群 集 の 種 組 成 が表 2 の 2∑ n1i ⋅ n2i ( λ1 + λ2 ) N1 ⋅ N 2 ∑ n1i (n1i − 1) , N1 ( N1 − 1) λ2 = ∑ n2i (n2i − 1) N 2 ( N 2 − 1) よ う な と き ,群 集 a と 群 集 b は よ く 似 て い る こ の Cλ は 2 つ の 群 集 が ま っ た く 異 な る と が ,群 集 a あ る い は b と 群 集 c は か な り 異 な き に 0,等 し い と き に は 1 か そ れ 以 上 と な る 。 っていることが直感的に読みとれる。この 表 2 の a, b 間 の 値 は , λ 1 = 0.489, λ 2 = 0.444 似ている程度を客観的,定量的に表すのが で , C λ = 1.112 で あ る 。 類 似 度 指 数 で あ る 。類 似 度 指 数 と し て は ,表 ピ ア ン カ の α指 数 は ニ ッ チ の 種 間 の 重 複 2 のような定量的データから群集の重なり 度の尺度として考えられたものだが,群集 を は か る 重 複 度 指 数 ,表 3 の よ う な 種 の い る 間の類似度の尺度としても利用できる。 いないのデータから計算する連関指数があ る。類似度指数は開発等によってチョウ群 α= ∑ p1i ⋅ p2i ∑ ( p1i ) 2 ∑ ( p2i ) 2 p1i = n1i n , p 2i = 2i N1 N2 集がどの程度変化したか時間的に比較する 場合にも用いることができる。 表 2 似 て い る 群 集 と 似 て い な い 群 集 1 群集 a b アオスジアゲハ 7 6 アゲハ 2 2 キチョウ 1 1 合計 10 9 表 3 似 て い る 群 集 と 似 て い な い 群 集 2 群集 a b アオスジアゲハ + + アゲハ + + キチョウ + + 種数 3 3 αは 0 か ら 1 ま で の 値 を と る 。 表 2 の a, b 間 c 0 4 6 10 の 値 は α = 0.999 で あ る 。ま た ,α指 数 と 関 係 の 深 い 距 離 と し て コ ー ド 距 離 CD が あ り ,群 集間の距離として適している。 CD = 2(1 − α ) c + + 2 類似度指数による比較の際に留意すべき 問 題 と し て ,(1) サ ン プ ル サ イ ズ( 調 査 個 体 数)による影響を受けないことが望ましく, (2)値 が 0 か ら 1 ま で の 範 囲 で 変 化 す る と 便 3 4. 多変量解析の利用 利 で あ る 。 αは 0-1 の 範 囲 を と り , 全 く 同 じ 群 集 同 士 の 類 似 度 は 常 に 1 で あ る 。αは サ ン 4.1. クラスター分析 プルサイズに関わりなく 0 から 1 までの値を と る が , Cλ は サ ン プ ル サ イ ズ が 小 さ い と き 比較する群集の数が 3 以上のとき,2 群集 に 上 限 が 1 を 超 え ,比 較 に 不 便 で あ る 。し か ずつの距離を求めて,類似度行列をつくっ し ,サ ン プ ル サ イ ズ が 小 さ い 場 合 に は α指 数 て比較する。これは,ちょうど時刻表にあ の値に偏りが出ること考えられ,サンプル る駅間の料金表に似ている。料金表と異な サ イ ズ に 影 響 さ れ な い 点 で は Cλ が 優 れ て い るのは,群集が駅のように一列に並んでい る ( K OBAYASHI 1987) 。 通 常 は α指 数 を 用 い ないで,関係が複雑な点である。そこで, ればよいが,群集ごとに個体数が異なると 群集相互の位置関係を視覚的に捉える方法 き な ど は Cλ も 併 記 す べ き で あ る 。 としてクラスター分析とその結果のデンド ログラム(樹状図)による表示がよくおこ なわれる。 3.2. 種の有無による連関指数 表 4 ク ラ ス タ ー 解 析 の た め の 群 集 群集 種 a b c キアゲハ 8 8 5 アゲハ 4 1 1 クロアゲハ 2 2 2 カラスアゲハ 1 4 7 個体数のデータがなく,その地域に種が 分布しているか否かによって地域間の種組 成の類似度をはかる指数はいくつか考案さ れ て い る が ,こ こ で は O CHIAI (1957)の 指 数 OI d 1 2 4 8 と 野 村 (1940)と S IMPSON (1943)の 指 数 NSC を 表 5 群 集 間 の コ ー ド 距 離 行 列 b c a 0.460 0.811 b 0.467 c 紹介する。 2 地 域 の 種 数 を そ れ ぞ れ a,b,共 通 種 数 を c と す る と , 落 合 の 指 数 OI は OI = d 1.117 0.908 0.518 c a b クラスター分析は凝集法と分割法に大き OI は そ れ ぞ れ の 群 集 に お け る 共 通 種 の 割 合 , く分けられるが,前者は類似度の高い群集 c/a と c/b の 幾 何 平 均 で あ り ,ピ ア ン カ の α指 どうしを順次連結していく方法で,後者は 数の式と同型である。一方,野村・シンプ 逆に全体を類似度の高い群集同士のグルー ソ ン 指 数 NSC は プに分けていく方法である。群集の数が少 NSC = ない場合は凝集法を用いればよい。凝集法 c ,(a > b) b にも群集同士を結びつけてグループをつく る方法に種類があるが,どのような類似度 である。種数の少ない方の群集のうち,共 (距離)と連結法の組み合わせにするかは 通種の割合を求めている。比較する地域の 議 論 が あ り , 小 林 (1995)や 夏 原 (1996)を 参 考 面積や調査努力が異なる場合にその影響を にしていただきたい。 受けにくいとも言われている(木元・武田 ここでは例として表 4 のような 4 群集の関 1989)。表 3 の デ ー タ で ab 間 ,ac 間 は OI, 係をコード距離と非加重群平均法によって NSC と も 1 と 0.667 で あ る 。 デンドログラム(樹状図)として表してみ る 。表 5 は 第 1 列 の abc と 第 1 行 の bcd の そ 4 れぞれ交差する所の数値がその 2 群集間の の指数に要約する方法でもある。 距 離 ( 非 類 似 度 ) を 表 し て お り , 例 え ば ab さらに,植生など調査地の環境のデータ 間 の 距 離 は 0.460 で 最 も 小 さ い( す な わ ち 種 があれば,正準対応分析という方法でチョ 組 成 が 最 も 似 て い る ) 。 そ こ で ま ず ab を 連 ウ群集と環境との関連を解析することがで 結 し , 次 に a と cd, b と cd の そ れ ぞ れ の 距 きる。たとえば,地域をチョウ群集によっ 離の平均値を求めて,再び最小値を探し, て類型化して,それに現在の土地利用対応 順次連結する。その結果が図 2 である。 させ,保全すべき地域や土地利用の再生を 計画するために用いることができる。 a 4.3.多変量解析によるチョウ群集解析の例 b c d チョウ群集の解析例として,大阪近辺の いくつかのチョウ群集を比較してみる。解 図 2. 表 4 の 群 集 の デ ン ド ロ グ ラ ム( コ ー ド 距 離 の 非加重群平均法による連結) 析に用いたデータはすべてトランセクト調 4.2. 対応分析 調 査 頻 度 や 距 離 が 異 な る の で 1km あ た り の チョウ群集間の関係を調べるための多変 個体数で統一した。それぞれの調査地の特 量解析としては対応分析(数量化3類)が 徴は表 6 にしめしたとおりである。 向いている。この方法は、多数の群集デー 調 査 結 果 を 除 歪 対 応 分 析 DCA と ク ラ ス タ タを比較して、種組成の似た群集どうし、 ー解析(コード距離,非加重群平均連結法) 分布の似た種どうしがそれぞれ連続するよ により図示してみた。両者の結果はほぼ一 うに重みづけをして並べ替える手法だと考 致 し て い る 。 DCA に よ る オ ー デ ィ ネ ー シ ョ え て い い 。 多 種 の 情 報 ( 種 組 成 ) を 2∼ 3 種 ン( 図 3)で 左 側 は ひ と つ ひ と つ の 点 が 群 集 表6 チョウ群集の調査地の特徴 調査地 調査単位 1.箕面公園 2.服部緑地 3.大泉緑地 4.大仙公園 5.大阪城公園 6.三草山 T. 全 体 A. 雑 木 林 縁 B. 雑 木 林 内 C. 植 林 7.真田山公園 A. 1989年 〃 B. 1990年 8.長居公園 9.箸喰 10. 貝 塚 馬 場 地 区 T. 全 体 〃 A. 農 地 〃 B. 雑 木 疎 林 〃 C. 雑 木 林 縁 〃 D. 伐 採 地 〃 E. 雑 木 林 内 〃 F. 植 林 〃 G. 植 林 内 11. 二 上 山 12. 春 日 山 査により得られたものであるが、それぞれ 特徴、出典 標高160m、アカマツ・コナラ林、シイ・カシ林(石井他 1991) 里山景観残す公園(126ha)、標高40m(石井他 1991) 開発前は水田地帯の公園(88ha)、標高10m(石井他 1991) 住宅地と古墳群に隣接した公園(27ha)(石井他 1991) 大阪市中心部の公園(103ha)(石井他 1991) 標高400-500m、雑木林保護地区(石井他 1995) コナラ・クヌギ・ナラガシワ・ネザサ等 スギ・ヒノキ 大阪市中心部の公園(5.3ha)(今井他 1992) 大阪市南部の公園(65.7ha)、二次林化した社叢(日浦 1973) 標高100m、村落、耕地、二次林、植林(日浦 1973) 標高100m、耕地と山林のモザイク(石井 1996) 標高100-520m、二次林・植林(日浦1976) 標高150-300m、原生林と二次林日浦1976) 5 • ■ 10 F ■ 6C 種のスコア ○ 10 e • • • • • •• • • • • •• • • • • • • •• • • • •• • • • • • •• • • • • • • •• •• •• • • • •• •• • • • •• • • • •• 1 0G ■ ○ b ○ ○ 1 0D ○ 6B ○6 A , a ▲ 10 c ▲9 11 ○ ◇1 2 ◇1 d △2 △5 △ 4△ △ 8 △△ 3 7A • • • • 7B 図 3 DCA に よ る チ ョ ウ 群 集 の 座 標 づ け (調査地)で,右側の図ではひとつひとつ 側の種が対応している。例えば,三草山の の点がチョウの種に対応する。そして互い チョウ群集を特徴づける種は,ミヤマカラ に近い位置にある点(群集または種)どう スアゲハ,アカシジミ、ミドリシジミ類な しが似ていることを示す。左側の図では大 どである。この結果で類型化されたチョウ 局 的 に 見 て ,A 群 は 石 井 の 言 う「 都 心 型 」と の種は必ずしも生息環境の知見と一致しな 「都市公園型」,B 群 は「農地型」、C 群 が いかもしれないが,それは解析した調査地 「雑木林型」,D 群 が「 照 葉 樹 林 型 」に 対 応 点が不足しているためである。 す る 。E 群「 植 林 型 」は こ れ ら に 属 さ な い 独 興味深いのは多様度指数と個体数による 特のチョウ群集であると位置づけらた。し 分類では都心型とされた林内や植林のチョ か し 、「 雑 木 林 型 」は 全 体 に 広 が り 、B, C, D ウ群集がここでは都心型とは明確に異なる の分け方はやや不自然でもある。また、貝 位置に置かれたことである。また、都市公 塚 の 環 境 ご と の コ ー ス は 例 え ば 林 内 が 80m 園がコンパクトにまとまったのと比較して、 のように距離が短いため,誤差が大きいこ 雑木林のチョウ群集は地域ごとに異なる位 とも考慮する必要はある。 置に置かれている。これは前者が少数の限 クラスター分析によるデンドログラム られた種から構成されているのに対して、 ( 図 4)は よ り 値 の 小 さ な と こ ろ で 連 結 さ れ 後者は種数が多く地域ごとにそこにしかい て い る 地 点 ほ ど よ く 似 た 種 組群 成集 の群 の集 スで コあ ない種が分布しているためである。この事 ることを示している。この結果から調査地 実は雑木林あるいは里山が複数あるからと をいくつかのグループに分けることができ いって決して同じ内容ではないことを示す。 る。 すなわち、他にあるからといって雑木林を こ れ ら の 類 型 化 は 石 井 (1995) の 図 と 異 な 一つつぶしてしまうことには慎重にならな り,優占種や種の有無など種の構成に依存 ければならない。 し て い る 。そ し て 調 査 地 の 各 群 に は 図 3 の 右 図 3 で同じ地域内の異なる植生のチョウ 6 6A 三草山林 縁 6T 三草山全体 6B 三草山林内 6C 三草山植林 10A 貝塚農地 10T 貝塚全体 10C 貝塚林縁 11 二上山 2 服部緑地 9 箸喰 10B 貝塚疎林 10D 貝塚伐 1 箕面公園 12 春日山 10E 貝塚林内 10F 貝塚植林 10G 貝塚植林 3 大泉緑地 4 大仙公園 8 長居公園 5 大阪城 7A 真田山 89 7B 真田山 90 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 コー ド距 離 図 4 ク ラ ス タ ー 分 析 に よ る チ ョ ウ 群 集 の 分 類 群集が比較的近い位置に連続的に分布して ば個体数は2倍になるが,種数は2倍には いる。チョウ群集の構成はランドスケープ ならない。そこで,地域のチョウの種数を スケール,すなわち数キロメートル程度の 他と比較できる形で調査しようとすれば, 環境のモザイクによって決まり,その中で その地域の種数が本当は何種なのか推定す 特にエコトーン(林縁のような環境の推移 るか,すべての地域で統一基準を設けて調 帯)など特定の場所に集中するといった構 査する必要がある。 図が描けそうである。 面積の異なるいくつかの地域の種数を比 較しようとする場合,それぞれの地域で同 じ距離のトランセクトコースを調査するの 5. 地域間の比較のための注意 は間違いである。それは地域全体の種数を 同じ割合でサンプリングしたことにならな 5.1. 調査努力の標準化 いからである。仮にふたつの地域の面積が 私達がチョウを調査するときにその地域 100 ヘ ク タ ー ル と 1000 ヘ ク タ ー ル で あ れ ば , に生息しているチョウをすべてカウントす 後 者 で は 前 者 の 10 倍 の 距 離 の コ ー ス を 設 定 ることはできない。同じ場所で調査しても, することが望ましい。とはいえ,これはあ 調査回数や調査面積を増やせば記録したチ ま り 現 実 的 で な い の で ,一 定 面 積 を 1 区 画 と ョウの種数や個体数は増加する。ややこし して,いくつかの区画を選び,それぞれの いのは個体数と種数とで増加のしかたが違 区画で等しい距離のトランセクト調査を行 うという点である。調査回数を2倍にすれ 7 6. 参考文献 うことを薦める。 5.2. 期待種数による比較 日 浦 勇 (1973) 自 然 史 研 究 1:175-188 ところで、サンプル中の種数はサンプル 日 浦 勇 (1976) 自 然 史 博 物 館 研 究 1:189-205 サイズに依存しているため,調査面積や調 今 井 長 兵 衛・夏原由博・山田明男(1992)大 阪 査努力の異なる群集どうしを比較できない 市 立 環 境 科 学 研 究 所 年 報 54:104-108 と い う 問 題 が あ る 。 そ こ で H URLBERT (1971) 石 井 実 ・ 広 渡 俊 哉 ・ 藤 原 新 也 (1995) 日 本 は S 種 が Ni 個 体 ず つ 合 計 N 個 体 か ら な る 群 環 境 動 物 昆 虫 学 会 誌 7:134-146 集からランダムに n 個体のサンプルを抽出 石 井 実 (1996) 日 本 産 蝶 類 の 衰 亡 と 保 護 し た と き の 期 待 種 数 E(Sn)が 超 幾 何 分 布 に し 4:63-75 たがうとして,以下の式を提案した。 木 元 新 作・武田博 清 (1989) 「 群 集 生 態 学 入 門」,共立出版社, 東京 N − N ∑ n i E ( Sn) = S − N n 小 林 四 郎 (1995) 「 生 物 群 集 の 多 変 量 解 析 」 蒼樹書房, 東京 夏 原 由 博 (1997) 日 本 環 境 動 物 昆 虫 学 会 編 「 チ ョ ウ の 調 べ 方 」, 日 本 環 境 動 物 昆 虫 学 会 , この式により,群集間の種数の比較をすべ 大阪 きだとしている。 表 1 の 例 か ら E(S 100 )を 求 め る と , 本 論 文 は 「 昆 虫 と 自 然 」 31 巻 14 号 461 − 140 461 − 114 + +⋅⋅⋅ 100 100 E ( S100 ) = 12 − 461 100 (1996)18-24 頁 に 掲 載 さ れ た も の で あ る . 321! 347! + +⋅⋅⋅ 100! ( 421 − 100)!! 100!⋅( 347 − 100)! = 12 − 461! 100! (461 − 100)! = 9.65 と な る 。 こ の 9.65 と い う 種 数 は 表1の 調 査 場 所 で , も し サ ン プ ル サ イ ズ( 観 察 個 体 数 ) が 100 個 体 だ っ た と き に 記 録 で き る だ ろ う 種数の期待値である。他の調査結果につい て も E(S 100 )を 求 め れ ば , 同 じ サ ン プ ル サ イ ズ で の 種 数 の 違 い を 比 較 で き る 。n は 必 ず し も 100 と す る 必 要 は な く サ ン プ ル サ イ ズ 以 下の値に適当に決めればよい。例えば各調 査 ご と に 観 察 数 が 数 百 個 体 で あ れ ば 100 に 統一すればわかりやすい。 8
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