スピードを改善するためのトレッドミルランニング - NSCAジャパン

from Strength and Conditioning Journal
Column: Point/Counterpoint
Treadmill Running to Improve Speed
スピードを改善するためのトレッドミルランニング
Lee E. Brown[コラム編集担当:リー・E・ブラウン、EdD、CSCS,*D、アーカンソー州立大学、アーカンソー州
ジョネスボロ]
トレッドミル上でスポーツの試合が
ルに対して力を伝達する必要がない」
そして(適切に与えられる技術を通し
行われるというケースは全くあり得な
とし、トレッドミルランニングはト
て)感じることができる。トラックで
いと言ってよい。一方で、もしトレッ
レーニングとして望ましいものではな
そのようなフィードバックを与えるこ
ドミルでのトレーニングが適切な方法
いという考えを論破するものである。
とは非常に困難で、ときには不可能で
で構成され、賢く行われたならば、ト
トレッドミルのベルトによって足が後
ある。適切なスプリント&ランニング
レッドミルでのトレーニングには明ら
方に動いていく一方で、選手は身体を
技術は洗練された動作スキルであり、
かに利点がある。また、トレッドミル
その場にとどめようとするため、結果
多くの練習を必要とする。そして最適
トレーニングには2つの異なる利点が
として生じる力はトレッドミルのベル
な学習環境は、スキル習得の過程を早
存在する。すなわち、トレッドミルを
ト表面に加えられる。それはスプリン
めるだろう。
用いることによってランニングを力学
トを行うときに生じる重力と同じ程度
トレッドミルトレーニングの別の利
的に改善するための最適な学習環境が
であり、トレッドミルのベルトのス
点は傾斜とスピードが操作できること
生み出される。また、トレッドミルト
ピードに逆らうには十分なものであ
であり、それにより野外で行うランニ
レーニングでは、適切な方法でスピー
る。選手がそのような力をトレッドミ
ングに比べ、神経系の反応をより大き
ドと傾斜を操作することにより安全に
ルに伝えることができなかったなら、
く引き出すことができる。選手が野外
コーディネーション能力を引き出し
簡単にトレッドミルの後方に身体を運
(平坦もしくは丘陵地)で走り、疲労
て、パワーの発揮とランニングスピー
ばれてしまうだろう。また、もし選手
に至ったら、そのランニングスピード
ドの強化へと導くことができるのであ
が大きな力を伝えることができたな
はパワー発揮の減少に伴い減速してし
る(4)。
ら、その選手はトレッドミル上の前方
まうだろう。だが、選手がトレッドミ
の位置へと移動するだろう。
ル上でのトレーニングで疲労に至った
トレッドミルランニングは、空気抵
抗のある野外でのランニングに比べる
トレッドミルトレーニングは、選手
としても、トレッドミルが減速するこ
とわずかな違いがあるものの、硬く力
が比較的固定された位置を保とうとす
とはない。さらに、選手にその設定さ
強いトレッドミルでのランニングはバ
るという事実を利用することにより、
れた運動時間中に必要とされるパワー
イオメカニクス的、そして代謝的な部
選手にとって最適な学習環境を生み出
発揮レベルを維持していけるよう、最
分においては野外でのランニングとほ
すことができる。トレッドミルトレー
大、あるいは最大以上の走行でさえ行
ぼ同様ではないかと考えられる。垂直
ニングの最適な学習環境は、コーチあ
わせることができる(適切な補助技術
と水平の両方向の床反力を計測できる
るいはトレーナーが視覚的、聴覚的、
を与えることが必要)
。我々は、平坦
トレッドミルを用いた報告(1)では、
そして運動感覚的なフィードバックを
かあるいは傾斜をつけて一定のスピー
トレッドミルでの被検者の床反力パ
選手に与えることによって生まれる。
ドを維持するような運動と、漸増する
ターンは野外での走行とほぼ同様で
このようにして選手自らがランニング
ような運動(精力的にトレッドミルの
あったことが示されている。このデー
技術を改善するために必要なものを、
速度が調整される)の組み合わせを利
タは、
「トレッドミルが脚をその場か
(計画的に設置した鏡を用いて)見
用することで成功してきた。代謝コス
ら後ろに引っ張り、地面やトレッドミ
て、
(コーチからの指示を)聞いて、
トに関しても、トレッドミル上での運
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from Strength and Conditioning Journal
動量の設定と処方が非常に簡単であ
リックスや多方向の動作スキルで構成
勝とうとするに従い最大筋力が大きく
る。これは、一定の速度と傾斜を設定
された完璧なスピードトレーニング・
関与する必要があり、この期の終わり
した運動で必要とされるパワー発揮を
プログラムが、とりわけ効果的である
には接地時間が短くなるため、力の最
計算できるからである。
はずである。このことはWalker(4)に
大発揮速度が重要となる。さらにこの
傾斜ランニングは、前方へのランニ
よって述べられており、6週間のト
スキルを複雑にしている要因とは、ほ
ングスピードを増加させるうえで重要
レッドミルトレーニング後、40ヤード
とんどのスポーツにおいて選手は3∼
な筋群の動員を促すことが示されてい
(36.4m)ダッシュにおいて平均0.3秒
20秒で加速し、そして方向を変えるた
る。近年の研究(3)で、トレッドミル
の改善、ウィンゲートテストにおいて
めには再びその加速の過程を再び適用
での傾斜ランニングは同様のストライ
平均40Wの増加があったと報告してい
しなければならないということであ
ド頻度で平地で行ったものと比べ、支
る。
る。しかし、トレッドミルでは効果的
持期における股関節伸筋、膝伸筋、足
な加速に不可欠であるこれらのスキル
底屈筋、そしてスイング期の股関節屈
John Frappier
を発達させることができない。トレッ
筋および伸筋に対し、大きな動員
Frappier Acceleration,
ドミルでスプリントを行う場合、一般
(200∼300%)を実質的に示すことが
Fargo, North Dakota
的にはフルスピードのトレッドミルを
明らかにされている。これらの筋群
用いるが、もちろん前方以外はどこに
は、前方への加速と高速度でのランニ
スピードを発達させることを目的と
ングスピードの維持に貢献していると
したトレッドミルでのトレーニングプ
ストライド長とストライド頻度の増
説明されている(2)。別の調査による
ログラムは、最近わが国の多くの場所
加とともに、効果的にスピードを増加
と、同様のストライド頻度での平地と
で人気を博している。不幸にも、この
させるための能力は、地面との接地中
傾斜の比較において、傾斜時の下腹部
人気の高まりにより、トレッドミルが
に生み出される力を利用する能力によ
と股関節屈筋におけるEMGの数値が
他のスピード発達のための方法より優
り決定される。地面からの反力を利用
平地に比べ200%も高いと報告されて
れていることを証明しようとする科学
することなくストライド長やストライ
おり、つまりは体幹に対し、素晴らし
的な比較研究の正当性が認知されない
ド頻度を増加させることは可能であ
いトレーニング効果を与えるようであ
原因となっている。
る。しかし、一般的には他の構成要素
も走れない。
る。単純に、坂を駆け上がれば同様の
基本的なスピードの概念は3つの要
の減少を生み出し、スピードの効果的
効果を得られるのではないかという議
素に分けられる。加速、最大速度、お
な変化には至らないだろう。反力の利
論もあるが、トレッドミルでは簡単に
よびスピード持久力である。今日、ほ
用は身体が慣性に打ち勝とうとするに
行えるようなことを野外で実施して
とんどのスポーツで必要とされるス
つれ、加速期において不可欠となる。
も、同様の強度を維持することはでき
ピードの発達を分析することにより、
これらの問題は、加速のための能力改
ない。なぜなら、選手はいったん疲労
加速がこれらのスポーツに対し、実際
善には床反力を利用する能力の改善が
し始めれば、減速してしまうからであ
に取り入れるべき唯一の構成要素であ
必要であることを示しているであろ
る。
ることを指し示していることがわか
う。
スピードを改善するためにはトレッ
る。このことは、加速こそがほとんど
ニュートンの作用・反作用の法則も
ドミルだけを走っていればよいと言っ
のスポーツで重視するべきスピード発
また、トレッドミルでのトレーニング
ているわけでは決してない。適切なト
達の領域であるということを意味して
で力発揮を高めるにはどのような動作
レッドミルトレーニング中に最適な学
いる。
の関与が必要かということを理解する
習環境やコーディネーション法を利用
効果的に加速を行うための能力は、
うえで助けとなる。この法則は我々が
することが、スピードトレーニングを
ストライド長、ストライド頻度の両方
どんな行動を起こした場合でも、それ
より有意義に進めることになり得ると
における最適な増加を必要とする独特
と等しく、正反対の作用が働いている
考えているのである。つまり、ストレ
なスキルであると言える。接地時間と
ということを教えてくれる。違う言い
ングストレーニング、トレッドミルト
は加速期の初めにおける長い着地の移
方をすれば、2つの物体が接触すると
レーニング、多方向のプライオメト
行であり、これには身体が慣性に打ち
きはいつでも、それらに同量の反対方
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向の力が働くということである。この
いるように、トレッドミル信仰者はこ
り応用的な研究によって正当化された
関係は、身体の加速は地面から加わる
の点に関して議論することが好きであ
トレーニング方法の代償として、ト
外側の力と全く等しくなり、その力が
る。しかしながら、この研究のレ
レーニングプログラムの中心的な構成
同じ方向に働くことを意味する。も
ビューでは研究中に使われるトレッド
要素としてトレッドミルを利用するこ
し、身体の加速が加わった力と全く等
ミルの速度がおおよそ6.7mphであり、
とは、特に通常のペリオダゼーション
しいのならば、身体に加わった力が大
その速度がジョギング中の適度な速度
モデルにおいて、積極的に発達させる
きければ大きいほど、加速もますます
であるということを明らかにしてい
構成要素をシーズンの始まる2∼6週
大きくなる。トレッドミル上では、身
る。ジョギングで必要とされる力の種
間前ではなくピーキング期にトレーニ
体に加わる外面上の力は踏面が後ろへ
類と強度はスプリントのそれとは全く
ングすることが最善であると考えたと
移動するため大きく減少する。踏面の
異なっている。さらにKram(2)は、ト
き、重大なトレーニング上の誤りにな
後方への移動に従い、前方の地面との
レッドミルがスプリントにとっては貧
るだろう。
摩擦が減少し、それにより、前方へ身
相なシュミレーターであり、それはス
体を推進させる力も減少する。そし
プリントで引き起こされる慣性の力、
Doug Schweigert, MS, CSCS
て、それに比例して筋組織によって要
特にブレーキと推進期において、スプ
Fargo, Nouth Dakota
求される力の発揮も減少してしまうの
リントするときに毎回足を叩きつける
である。もし万が一、トレッドミル上
動作で引き起こされるものを真似てい
で加速するほどの力を生み出したなら
ないためであると感じている。
ば、トレッドミルの前方へ飛び出てし
トレッドミルがスピードの発達に対
まうだろう。Kram(1)が研究で述べて
していくつかの利益をもつ一方で、よ
Volume 24, Number 3, pages 27-29
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