NSCAジャパン第9回総会

NSCA JAPAN Conference ’99
NSCAジャパン第9回総会
ストレングス&コンディショニング・カンファレンス PART1
昨年11月27、28日にNSCAジャパ
ン第9回総会が東京都目黒区の東京大
学駒場校舎において開催された。
今回は、この総会の内容を一部紹介
する。
110
伸筋群
膝
伸
90
ト
80
ク
トレーニング前
100
展
ル
トレーニング後
70
60
講演「有酸素性および乳酸性ト
レーニングのプログラム計画と
実際」
宝田雄大(横浜市スポーツ医科学セ
ンター)
すべての生体運動のエネルギー源
は、ATPである。しかしその蓄積量
にも限界があり、筋収縮を持続させる
にはATPの再合成が必要となる。こ
のATP再合成のためのエネルギー
は、酸素の供給による有気的反応(有
酸素性機構)と酸素の供給なしで進行
する乳酸までの無気的反応(無酸素性
機構:非乳酸性および乳酸性機構)に
よって供給される。これらの反応は、
まず非乳酸性機構が働いて、次に乳酸
性機構が働くという時系列的なもので
はなく、運動が開始されればすべての
エネルギー機構が作用する。その際、
各エネルギー機構から得られるエネル
ギーの相対的な割合はスポーツ種目に
応じて様々に変化し、そこで要求され
る運動の強度(時間)によって決定さ
れる。特に骨格筋は、負荷強度の違い
による様々な機械的刺激に反応し、適
応する。ヒト骨格筋の場合、最大筋力
(最大挙上重量=1RM)の65%以上
の高い負荷強度で筋断面積の増大を
伴った筋力の増加を、一方40%以下の
自然血流群
120
0
血流制限群
120
110
伸筋群
膝
100
伸
展
90
ト
80
ル
ク
70
平均値±標準誤差
60
*P<0.05
0
0
50
100
150
200
測定速度(0S-1)
図1 筋力トレーニングによる筋断面積の変化
図2 膝関節伸筋群の力−速度関係
筋力トレーニングを行う前(上段)と後(下
段)の大腿中央部のMRI横断像。被検者は20歳
の大学レスリング部に所属する健常男子で、2カ
月間レッグエクステンションを行った。負荷強度
は約20%1RM。膝伸筋群の断面積が約15%増加
している。非常に低強度な運動においても、局所
的に血流を制限することによって筋の肥大を引き
起こすことができる。
[Takaradaら、公表準備中]
膝関節伸筋群を対象とした8週間のトレーニング
前後の筋力を等速性筋力計を用いて測定した。値は
すべて等尺性トルクに対する比率(%)で示されて
いる。上段は自然血流群、下段は血流制限群で、両
群の負荷強度はともに20%1RM。血流制限群で
は、トレーニング後膝伸展トルクはすべての速度で
有意な増加を示したが、自然血流群では有意な増加
はみられなかった。(宝田ら、公表準備中)
低い負荷強度では酸化能力を始めとし
た持久的な適応を引き起こす。
しかし、持久的な適応が期待される
極めて低強度(20%1RM)のレジス
タンストレーニングを局所的な血流制
限下で行うと、筋断面積の増大(図
1)を伴った筋力の改善(図2)が引
き起こされる。この原因は、局所的な
低酸素環境によって筋の代謝需要がよ
り無酸素性(乳酸性機構)エネルギー
機構へと依存し、その結果、筋の活動
レベルの上昇(図3)や内分泌系の活
性(図4)や活性酸素種生成量の増加
をもたらしたことによると考えられ
る。一方、自然血流下のレジスタンス
トレーニングの場合、最大随意等尺性
筋力(MVC)の約40%以上の筋収縮
時に筋内はほぼ完全な阻血状態となる
ので、それ以上の強度での筋収縮で
は、筋内の低酸素状態の程度はセット
間の休息時間に大きく影響を受ける。
従って、MVCの約40%程度の強度で
Volume 7, Number 2, 2000
1
NSCA JAPAN Conference ’99
トレーニング前
自然血流群
2
トレーニング後
血流制限群
伸筋群
120
110
100
筋
膝
の
伸 90
活
動
量
展
1
ト
ル
ク
80
70
60
平均値±標準誤差
*P<0.05
50
伸筋群
0
0
外側広筋から表面電極により筋電図を導出し、
筋電図積分値を算出した。たとえ、負荷強度が同
じでも(20%1RM)局所的に血流を制限すること
により、筋の活動量を増加させることができる。
[Takaradaら(2000)より]
60
100
150
200
図6 膝関節伸筋群の力−速度関係
図5 筋力トレーニングによる筋断面積の変
化
筋力トレーニングを行う前(A)と後(B)の
大腿中央部のMRI横断像。被検者は55歳の運動
習慣を持たない女性で、3カ月間レッグエクステ
ンションを行った。負荷強度は約50%1RMで、
セット間の休息時間は約30秒。膝伸筋群の断面積
が約15%増加している。比較的低い負荷強度にお
いても、セット間の休息時間を短くすることに
よって、中高年者においても筋の肥大を伴った筋
力の改善を期待することができる。
[Takarada、
公表準備中]
自然血流群
血流制限群
50
血中GH(ng・ml-1)
50
測定速度(0S-1)
図3 局所的な血流制限が筋の活動量に与える
影響
40
30
20
10
24h
120min
60min
90min
45min
30min
15min
Pre
Post
0
図4 局所的な血流制限が血中成長ホルモンに
及ぼす影響[Takaradaら(2000)より]
もセット間の休息時間を比較的短くす
ることによって、血流制限下のトレー
ニング中の筋内環境を作り出すことが
でき、その効果を期待することができ
る。実際、中高年女性を対象として、
12週間の膝関節伸筋群のレジスタンス
2
0
Volume 7, Number 2, 2000
トレーニングを実施したところ、負荷
強度が50%1RM(≒∼40%MVC)
では、筋肥大を伴った筋力の改善はみ
られなかったものの、セット間の短い
休息時間(30秒間)を組み合わせるこ
とによって、筋肥大(図5)を伴った
筋力の改善(図6)がみられた。この
ように筋のエネルギー代謝は運動強度
(および時間)に加え、休息時間に
よっても影響を受け、筋に与える運動
刺激を決定する。
さて、ほとんどのスポーツ競技は、
短時間の休息を挟んで、中∼高強度の
運動が断続的に行われるという、イン
ターバルトレーニングに似た代謝特性
を示す。
膝関節伸筋群を対象とした12週間のトレーニング
前後の筋力を等速性筋力計を用いて測定した。値は
すべて等尺性トルクに対する比率(%)で示されて
いる。負荷強度は50%1RMでセット間の休息時間
は30秒。トレーニング後、膝伸展トルクは有意な増
加を示した。
[Takarada、公表準備中]
例えば、ラグビー競技の場合、80分
間の試合時間内に20秒程度(1回プ
レー当たりの運動時間)の運動が30∼
40秒間の軽度な有酸素運動(休息時
間)を挟んで断続的に行われる。従っ
て、ラグビー選手に必要な持久力と
は、有酸素運動中の断続的な無酸素的
パワー発揮をいかに高いレベルで繰り
返し再現することができるかという能
力と言える。この能力を改善するため
には、無酸素的パワー発揮中に産生さ
れた乳酸を効率よく除去し、その産生
量をいかに少なくするかが1つの鍵と
A
なる。一般に、70∼80%VO2maxの強
度で約30分間、ほぼ同じペースで運動
する持続的トレーニング(休息時間な
し)を一定期間実施すると、最大酸素
摂取量が増加し、有酸素運動中の乳酸
除去量の増加および無酸素的パワー発
揮中の乳酸産生量の減少を引き起こ
す。しかし、この運動強度ではFT線
維を十分に動員することができないた
め、ラグビー競技における短時間の激
100
活動している筋線維の割合(%)
講演「足関節捻挫」
タイプⅡAB, ⅡB
(Fint,FF)
80
タイプⅡA(FR)
60
40
タイプⅠ(S)
20
0
0
20
40
60
80
100
A
運動強度(%VO2max)
(Sale, 1987より改変)
図7 運動強度と運動単位の動員パターン
(全力)運動中に使われるであろう筋
線維に対して十分にトレーニング刺激
を与えることができない(図7)と予
想される。その結果、激運動中の無酸
素的パワー発揮レベルの低下を招き、
ラグビー競技に必要な持久力の獲得が
困難となる。このようなスポーツ競技
においても、運動時間と休息時間に
よって競技特性を把握し、トレーニン
グプログラムに反映させなければなら
ない。
まとめ
ヒト骨格筋の適応は、運動の選択と
負荷強度によってその方向性が決定さ
れる。運動の選択によって筋の活動様
式や動員される筋群が、そして負荷強
度(運動時間)によって運動単位のパ
ターンや代謝需要や動作速度が各々決
定される。さらに、スポーツ競技で
は、短時間の休息を挟んで、中∼高強
度の運動が断続的に行われるという、
インターバルトレーニングに似た代謝
特性を示すことから、これらの運動刺
激を決定する際、運動の選択と負荷強
度(運動時間)に加え休息時間を考慮
に入れる必要がある。
麻生 敬(ATC、㈲アスレティッ
ク・リファレンス代表)
はじめに
スポーツにおいて足首捻挫は最も生
じやすいケガの1つである。骨折を伴
うケースと伴わないケースがあるが、
今回は骨折を伴わないケースにおける
現場でのリハビリテーション(以下、
リハビリ)方法の一例を紹介する。通
常、手術を必要としない重症の足首捻
挫の場合はギブス固定が行われてきた
が、最近はWalker(足首を固定する固
定用具、取り付け取り外しが簡単に行
える)などが使用されるようになり、
リハビリ方法がかなり変わりつつあ
る。この種の固定用具を使用すること
により、リハビリ初期段階において、
腫れのコントロールやCKCエクササ
イズなどを用いた促通トレーニング、
Aquatic Therapy Programなどを行うこ
とが可能である。これらのリハビリメ
ニューを適用すると、足首関節のRO
Mの早期回復、筋力低下と筋萎縮の予
防、筋力強化の早期開始、特定動作の
習得などに費やす期間は著しく短縮さ
れ、競技への早期復帰が可能である。
しかしながら、このリハビリ方法を適
用する場合は、医師、理学療法士、監
督やコーチ、父母、業者などのお互い
のコミュニケーション、アスリート本
人の自己管理、現場におけるリハビリ
メニューの指導などが非常に重要であ
る。そのためスポーツ現場においてト
レーナー的立場の存在が望まれる。
リハビリメニューの例
状況:ケガの部位とレベルなどにより
治療、対処方法が変わるが、ここでは
足首内反捻挫2度、骨折はなしのケー
スを例に取る。
Acute Injury(急性期)
:Walkerもし
くはオープンバスケットテーピングなど
を施したうえで松葉杖を使用し、体重
がかからないようにする(2∼3日)
。
この場合1日に少なくとも6∼8回
(1回20分ほど)のアイシングを行う。
エクササイズはToe Gripping、Toe
Spreadingなどを毎時間10∼15回くら
い行う。松葉杖はケガした足首にサ
ポーターを施した状態で足を引きずら
なくても歩けるようになるまで使用す
る。
Repair(修復期)
:腫れを軽減させ、
Pain Freeで筋がContractできる状態に
する(Restore)
。少なくともROMの
50%を回復させる(1∼3週間)
。
初期段階ではリハビリ前にアイシン
グ、その後リハビリを行う。後半では
リハビリ前に交代浴、もしくは温水等
を用い、その後リハビリを行う。リハ
ビリ終了後は必ずアイシングする。
Air castなどを装着して普通に歩ける
のならば松葉杖使用を中止。ROMの
回復運動、Active PNF、アキレス腱ス
トレッチ、Toe raise、内反、外反、底
屈、背屈などの負荷運動、バランス
ボード、バランスシフト、歩行などが
エクササイズのメインとなる。必要な
らばテーピングを施す。
Remodeling(再構築期)
:Full ROM、
Power、Endurance、Speed、Agilityな
どをRestoreさせる(3∼5週間)
。継
続して筋力トレーニングを続けること
が重要(CKCなど)
。Walk、Jog、
Run、Lazy S、Figure eight、Z cutなど
を行う。始める前に温めたうえでスト
レッチを行い、必要ならばテーピング
や装具を装着することが望ましい。リ
表 Aquatic Exerciseの特徴
1.抵抗
2.浮力
3.水圧
4.水温
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3
NSCA JAPAN Conference ’99
現場における促通メニューの例
修復期前半:受容器を刺激し促通させる。ラバーを用いるのも有効。
A.ステップ前後、左右
B.重心シフト(右へ左へ)
C.膝回し、股回し(時計まわりとその逆)
D.ピボットシフト(前方と後方へ)
E.膝を曲げた状態でカーフレイズ/トゥレイズ
F.ドットエクササイズ
G.クロスオーバー(ゆっくりと)
H.バランスボード
I.平均台(チューブなども用いて)
J.アクアティックエクササイズ
修復期後半:より強い刺激を与える。ミニトランポリンなども有効。
A.ニーアップ
B.クロスオーバー
C.バックペダル
D.サイドステップ
E.キャリオカ
F.シャッフルストレート
G.シャッフル45°
H.ヒールタッチ
I.トゥタッチ
再構築前期:コーディネーションとアジリティの向上
A.円形ラン(直径9∼4.5m)
B.8の字、Lazy Sラン(直径4.5m)
C.ボックススクエア(4.5m)
D.キャリオカラン(20m)
E.ドットエクササイズ
再構築後期:さらなるコーディネーション、アジリティ、バランス、持久力など
A.ジョギング400∼800m
B.50%ダッシュ(10m×4)
C.75%ダッシュ(10m×4)
D.75%ダッシュ(35m×4)
E.円形ラン5回(右&左)
F.ボックススクエア5回(右&左)
G.8の字ラン
H.50%ダッシュ:バックペダル(5m×4)
I.50%キャリオカ(20m×4、右&左)
J.100%にて動けるまで段階的なスピードアップが必要
K.走る方向を変える能力を養う(前後、左右、斜めなど)
L.そのスポーツの特性に合わせたスキルの再習得
X.アイソキネティックマシーンによる測定30°
/s、120°
/sにおいて左右の差がなくなるまで筋力
トレーニングを続ける
ハビリメニュー終了後はすぐにアイシ
ングすることが重要。
スポーツ現場におけるリハビリの注意
事項
選手自身の自己管理が非常に重要。
選手の心理状態がリハビリに対して「I
am ready for it.」であることが望ましい。
トレーナーは“You”ではなく“We”
として選手と接するよう心がけ、専門
4
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的なことは専門家に任せる。
A.毎日の足首のケア(冷やしたり温
めたり、1日3回15∼20分間)
B.理想的なリハビリメニューを必ず
実行する(自分で勝手にメニューを決
めないこと、ウェイトトレーニングの
メニューもしっかりこなすこと)
C.フォローアップに行く
D.人間関係をこじらせない
A.円形ラン(直径9∼4.5m)
9m
開始
B.8の字ラン(直径4.5m)
4.5m
4.5m
開始
C.ボックススクエア(4.5m)
4.5m
E.トレーナーのチャレンジ、必要な
場合は専門家へ相談etc.
[参考文献]
1)Principles of Athletic Training, 10th ed, Daniel
D.Arnheim&William E.Prentice, Mc Graw Hill
Co,2000.
2)Clinical Orthopaedic Rehabilitation, S.Brent
Brotzman. Mosby,1996.
3)Rehabilitation of Athletic Injuries, Joseph
S.Torg, Year book Medical Publishers,inc. 1987.