レジスタンストレーニングにおける 不安定性の役割

C NSCA JAPAN
From JSCR(Journal of Strength and Conditioning Research)
Volume15, Number 9, pages50-57
Key Words【バランス:balance、筋力:strength、筋活動:muscle activation、共縮:cocontractions、体幹の筋群:trunk muscles】
レジスタンストレーニングにおける
不安定性の役割
The Role of Instability With Resistance Training
David G. Behm(1), Kenneth G. Anderson(2)
(1)School of Human Kinetics and Recreation, Memorial University of Newfoundland, St. John's, Newfoundland,
Canada;(2)School of Human Kinetics, University of British Columbia, Vancouver, British Columbia, Canada
要約
タンストレーニングの正の効果は、
によって提唱された神経筋トレーニン
日常生活やスポーツ競技におい
まだ定量的に検証されてはいない。
グに対する関心が高まるとともに、セ
て、不安定な状況で力を発揮しなけ
文献調査によれば、筋骨格系の健康
ラピストが治療にボールを取り入れ始
ればならない例は数多くある。不安
あるいはリハビリテーションのた
めた。フィジカルセラピストたち、特
定性により、高レベルの筋活動が維
めにレジスタンストレーニングを
にドイツとスイスのセラピストは、ス
持されたとしても、外的に測定され
実施する場合には、神経筋系に対し
ポーツトレーニングや治療にボールを
る発揮筋力は低下する。不安定な状
て、より大きな力(安定)とバランス
利用することに積極的であった(これ
況において四肢と体幹の筋活動が
(不安定)の両方のストレッサーを
が
「スイスボール」という名称の由来で
高まるのは、安定化機能の増大に起
強調する必要があり、そのために
ある)。近年のリハビリテーション研
因する。不安定性に伴うストレスの
は、安定した状態でのエクササイズ
究においては、バランストレーニング
増加は、例えば共収縮の減少、コー
と不安定な状態でのエクササイズ
を応用することにより、バレーボール
ディネーションの改善、さらにスキ
を両方取り入れることが提唱され
選手の足関節捻挫の発生率を低下させ
ルを行う自信など、より大きな神経
る。
ることに成功したことが報告されてい
筋の適応を促す前提条件とされる。
る
(53)
。この足関節の傷害発生率の低
さらに、関節や筋に対するストレス
序論
下は、ワブルボードを用いたトレーニ
を低く抑えながら筋の活動を高め
近年、ボール、プラットホームなど、
ングで観察された足関節内反動作の減
ることができれば、一般的な筋骨格
様々なレベルの不安定性を提供する器
少と関連している可能性がある(55)。
系の健康とリハビリテーションに
具を用いたレジスタンストレーニング
同様に、高齢者においても、太極拳の
も有益であると思われる。しかし、
の人気が高まっている。ボールは、芸
利用により膝関節の固有感覚
(51)と機
レジスタンストレーニングにおい
人やサーカスの軽業師たちが昔から
能的バランス(17)が改善されたことが
て発揮される力が減少すれば、絶対
使ってきたが、トレーニングやリハビ
報告されている。レジスタンストレー
的な筋力の向上には不利となる可
リテーションの道具として初めて使用
ニングとバランスのストレッサーとの
能性がある。さらに、不安定な状態
されるようになったのがいつなのか
組み合わせは、バランスと筋力を向上
でのトレーニングにおいては、共収
は、はっきりしていない。しかし、フィ
させる効率的な方法であると思われ
縮が増加することを報告した研究
ジカルセラピストは、第二次世界大戦
る。
も複数ある。競技パフォーマンスに
前から「フィジオボール」を使用してい
インスタビリティ・レジスタンスト
及ぼすインスタビリティ・レジス
る。Sherrington(43,44)などの研究者
レーニングの提唱者は、不安定なプ
50
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ラットホームと身体の接触面との不安
を用いることによって生じさせること
概念
(6)に従えば、トレーニングでは、
定性が増すことにより、安定性の高い
もできる。同様に、トレーニングの成
スポーツ競技あるいは職業で要求され
ベンチや床面を使って行う伝統的な方
果を高めるために、マシンよりもフ
る動作をできるだけ真似ることが必要
法のレジスタンストレーニングより
リーウェイトを使用することを勧める
である。例えば、Behmらは
(8)
、ホッ
も、神経筋系により大きなストレスを
研究者もいる
(49)
。フリーウェイトの
ケーのスケートパフォーマンスとスタ
かけることができると推論している。
バランスとコントロールには、共同筋、
ティックなバランステストとの間の有
Selye's(42)の適応曲線によると、身
スタビライザー、拮抗筋など、より多
意な相関関係(p <0.005)を示した。中
体を新しい刺激に適応させるために
くの筋群に対するストレスとコーディ
でも19歳以下のホッケー選手のバラン
は、ストレスが欠かせない。不安定な
ネーションが必要となるからである。
ス能力とスケーティング能力の間で、
状態でのトレーニングの利点は、筋力
トレーニング環境を不安定化させるイ
最も高い相関関係が観察された(r =
の向上に関与する神経筋適応の重要性
ンスタビリティ・レジスタンストレー
0.65)
。さらに、大学野球のピッチャー
に基づいていると考えられる。筋力の
ニングの理論的根拠からは、不安定な
に関する調査によると、前庭からの感
向上は、筋の横断面積の増加と神経筋
環境は、より多様で効果的なトレーニ
覚インプットが弱い選手ほどピッチン
コーディネーションの改善の両方に帰
ング刺激を提供するという結論が導か
グエラーの確率が高いことが報告され
すことができる(6)。しかし、レジス
れる。一方、本論で後述するように、
ている(30)。
タンストレーニングプログラムの初期
インスタビリティ・レジスタンスト
大半のスポーツではダイナミックな
段階では、神経の適応が筋力の向上に
レーニングには、利点を上回る様々な
バランスが必要であるが、インスタビ
果たす役割が最も重要であることが報
不利益もある。
リティ・レジスタンストレーニングは、
告されている
(6)
。RutherfordとJones
レジスタンストレーニングは、競技
ほとんど静止に近い状況で行われるの
(39)は、トレーニングで生じる特異的
選手が練習に取り入れているだけでは
が一般的である。スタティックなバラ
な神経系の適応が、運動単位の動員や
なく、一般的な健康増進やリハビリ
ンスまたは安定性の向上が、ダイナ
発火の増加ではなく、むしろ、主働筋、
テーションのためにも利用されてい
ミックな安定性に効果的に移転できる
拮抗筋、共同筋およびスタビライザー
る。本レビューは、インスタビリティ・
のかという問題は、なお議論の余地が
(補助筋群)のコーディネーションの改
レジスタンストレーニングが発揮筋
ある。Shimadaらは(45)、歩行中のバ
善であることを示唆した。したがっ
力、体幹と四肢の筋の活動、共収縮、
ランス(ダイナミック)と、立位でのバ
て、不安定なプラットホームとの接触
コーディネーション、その他の要因に
ランス
(スタティック)との間に相関関
によって生じる大きな不安定性は、安
及ぼす影響に関する情報と、インスタ
係が存在しないことを報告した。それ
定状況よりも神経筋系を刺激し、それ
ビリティトレーニングのスポーツ、健
にもかかわらず、多くの論文が事前の
が神経の適応に起因する筋力の向上を
康増進、リハビリテーションへの応用
経験や動揺の予知によるフィードフォ
促進する可能性がある。ベースあるい
に関する情報を提供しようとするもの
ワードな(37)、または積極的な(28)事
はプラットホームの不安定性は、ボー
である。
前調整により、バランスを崩す可能性
ル
(スイスボールやフィジオボールな
が低下するとしている。これら以外の
トレーニングの特異性
研究は、トレーニングとテストにおい
(膨らんだゴム製のディスク)
、ワブル
常に安定した状況下で力が発揮され
て、同種の動揺を用いている。しか
ボードやロッカーボード、フォーム
るとは限らないため(体操において平
し、スイスボール、ボスドーム
(BOSU:
ローラー、低密度
(低反発)マット、そ
均台上で行うルーティン、ホッケーに
both sides up[両面とも上]の略)
、ワブ
の他類似の器具の上で、座ったり、横
おいて片方のスケートでバランスを取
ルボード、ダイナディスクなど、一般
になったり、ひざまずいたり、立った
りながら行うパックのシュート、フッ
的に使用されているスタティックな不
りすることによって得ることができ
トボール、サッカー、フィールドホッ
安定器具を用いた場合のトレーニング
る。不安定性はまた、満杯にならない
ケー、その他のスポーツにおける、平
力学は、競技パフォーマンスに特異的
程度に水または砂を入れた容器やフレ
坦ではない天然芝の上で行う片脚を軸
に合致しているとはいえない。した
キシブルチューブなどの不安定な負荷
にした急な方向変換など)、特異性の
がって、インスタビリティ・レジスタ
ど)、
「ダイナディスク
(Dyna-Discs)
」
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51
ンストレーニングが、競技パフォーマ
は、5週間のフィジオボールトレーニ
ると、コントロールを保ちながらエク
ンスを向上させられるかどうかは、議
ングの後、従来の床面でのエクササイ
ササイズを行うために、筋活動を高め
論 の 余 地 が あ る。Willardsonは
(56)
、
ズと比べて、体幹のバランスと筋電図
ることが必要となると示唆されてい
「いかなるスポーツであれ、バランス、
活動が大きく向上したことを示した。
る(19)。Behmら(9)は、 体 幹 の 筋 力
固有感覚、コアの安定性の強化を促進
これに対して、Stanforthら(48)は、背
エクササイズを不安定な状態で行う
する最善の方法は、試合が実際に行わ
部と腹部の筋群を鍛えるための「レジ
と、下部腹筋の活動が増大することを
れるのと同じサーフェス上でスキルを
ス タ ボ ー ル(Resistaball)」の 効 果 は、
明らかにした。この研究では、ショル
練習することである」と述べている。
従来の床面での運動と同程度であると
ダープレスとチェストプレスをそれぞ
残念なことに、これは常に実行できる
している。コアあるいは体幹の筋力が
れ安定したベースと不安定なベースを
わけではない。例えば、いくつかの屋
向上するという仮説を支持するさらな
用いて行った。不安定性がショルダー
外競技
(フットボールや野球)にとって
る証拠は、近年の研究論文にようやく
プレスに及ぼす効果は見られなかった
の北方気候での冬季期間や、アイスス
登場し始めたばかりである。
が、不安定な条件でのチェストプレス
ポーツのように、夏季にはアリーナが
体幹のスタビライザー強化は、日常
は、上腰部の脊柱起立筋、腰仙脊柱起
閉鎖される場合には不可能である。し
生活動作
(ADL)にとっても、競技パ
立筋、さらに下部腹筋に有意な活動の
たがって、選手のバランス能力に対し
フォーマンスにとっても、また腰痛
増大、あるいはその傾向をもたらし
て、実戦トレーニングに代わる課題を
(LBP)のリハビリテーションにとって
た。不安定なベースを使って行うチェ
与えることが必要であろう。
も検討すべき重要な課題である。強く
ストプレス中の体幹スタビライザーの
さらに、研究論文には、インスタビ
安定した体幹は、四肢が発揮するトル
活動は、安定したベース上で行った場
リティ・レジスタンストレーニングの
クの堅固な土台を提供する。しかし、
合よりも37 ~ 54%大きかった
(9)
。体
筋骨格系の健康に及ぼす効果に関連し
背部の筋力増強は必ずしもLBPの予防
幹の筋活動は、ベンチプ レ ス(18)や
ている、その他の望ましい適応が示さ
とは結び付かない。体幹の強化
(41)や
プッシュアップ
(21)を行うときに、プ
れている。次のセクションで、体幹の
腰部筋群の強化(33)がLBPの予防には
ラットホームまたは体肢を不安定な状
強化、筋機能の変化、四肢の筋力向上、
役立たないとする研究もある。それに
態にすれば高められる。不安定なベー
共収縮などを含むこれらの適応につい
もかかわらず、課題の実行のために大
スを用いることによる体幹スタビライ
て論じる。
きな力が必要な場合、背部の筋力を大
ザ ー の 活 動 増 加 は、Arokoskiら
(5)
、
きくすることによってLBPを予防でき
お よ びVera-Garciaら(52)の 知 見 と 一
インスタビリティ・レジスタンスト
る可能性がある
(11)
。また、体幹のス
致する。残念ながら、Arokoskiら
(5)
レーニングによる体幹の強化
タビライザーが脆弱であると、脊柱が
が不安定なベースを用いて実験したの
大衆的なメディアは、インスタビリ
不安定になる可能性も指摘されている
は、15種類のエクササイズのうち2種
ティ・トレーニングによってコアスタ
(47)
。しかし明らかなことは、背部の
類だけであった。また、彼らが選択し
ビリティ(胴体部分、すなわち体幹
筋持久力の欠如がLBPと関連している
た活動の大半は、腹部よりむしろ背部
の筋力)を改善できると主張している。
ことである(36)。全体として、LBPの
の筋に大きなストレスをもたらすエク
しかし、体幹および腹部の筋を強化す
リハビリテーションにレジスタンスエ
ササイズであった。Vera-Garciaら
(52)
るためにボールを利用した研究では、
クササイズが有益であるという点に関
は、カールアップのみの調査を行い、
矛盾した見解が示されている。Siffは
しては、一般的な合意が見られる(1)。
不安定なサーフェスを用いると腹部の
(46)、ボールを利用することによって
体幹を強化するリハビリテーション
筋活動が高まることを明らかにした。
可動域がより広がるため
(能動的に体
エクササイズでは、一般的に、不安
AndersonとBehm(4)は、様々な安定
幹を数度伸展させ、最適な開始姿勢を
定なサーフェスが利用される。LBPの
性状況下で被験者にスクワットを行わ
とる)
、大抵のサーキットトレーニン
予防に関しては、適切な座位姿勢を促
せ、不安定性が高まると、体幹のスタ
グジムで行われている類似の活動より
すために、スイスボールまたはフィジ
ビライザーの活動が約20 ~ 30%高ま
もボールを使った活動のほうが優れて
オボールの利用が提唱されることが
るという結果を得た。しかし、この実
いることを示した。Cosio-Limaら
(14)
多い
(35)
。不安定なサーフェスを用い
験では、最大下の負荷を(最大負荷は
52
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体重の60%)比較的遅いペース
(下降に
ユニラテラルエクササイズによる
る不安定なモーメントアームは減少す
1秒、1秒間をとって、上昇に1秒)
体幹の強化
る。したがって、上肢のトレーニング
で動かしたため、その動員パターンは、
体幹の筋にストレスを加えるため
中に体幹スタビライザーの活動をさら
フットボール、ラグビー、ホッケーな
に、不安定なプラットホームを使うこ
に高めるためには、動作中に持つダン
どの高いパワーを発揮する競技とは異
とに加えて、四肢のレジスタンスト
ベルは1つだけにすべきである。この
なると思われる。これらの研究結果に
レーニングを行うことで、さらに修正
活動の利点は、体幹の筋活動に対して
基づくと、体幹筋の活動を増大させる
を加えることができる。伝統的なレジ
より厳しい状況を提供しながら、同時
ために、特定の体幹の筋力エクササイ
スタンストレーニングは、バーベルや
に高い負荷をかけられることである。
ズ中に、または四肢を強化する活動と
2個のダンベルを使うバイラテラル
併せて、不安定なプラットホームまた
(両側性)な運動であることが多い。反
は不安定な負荷を利用することができ
対に、日常活動動作(ADL)や競技活動
一般に、不安定な状況下では、力
ると思われる。
はユニラテラル
(片側性)であることが
またはパワーの発揮能力は低下する。
前述の研究においては、不安定性に
多い
(31)
。ユニラテラルな競技活動の
Behmら は(7)、 不 安 定 な ボ ー ル 上 に
よって得られる体幹の大きな筋活動
例としては、大部分のラケットスポー
座って、レッグエクステンションと足
と、安定状態でのトレーニングにおい
ツや投球動作が挙げられる。したがっ
関節底屈筋力発揮を行うと、発揮筋力
て実施できる、より大きな負荷との比
て、トレーニングの特異性の概念に従
がそれぞれ約70%と20%低下すること
較は行われていない。例えば、
スクワッ
えば、ある種のADLやスポーツにとっ
を 見 い 出 し た。 同 様 に、Korneckiと
トあるいはデッドリフトを3RM、5
ては、ユニラテラルな運動のほうが、
Zschorlichは(25)、不安定な振り子状
RM、10RMで行った場合の体幹の筋活
バイラテラルな活動よりも有益である
の装置に対して発揮できる筋パワーは
動は、低い負荷で行われる不安定な状
と思われる
(40)
。ユニラテラル・レジ
20 ~ 40%減少することを観察した。
態でのスクワットやデッドリフト、あ
スタンスエクササイズには、体幹のス
AndersonとBehmは(3)、 安 定 し た 状
るいは柔軟体操スタイルの体幹の強化
タビライザーを一層刺激するという利
態でのチェストプレスと不安定な状態
運動の場合と比較して、高いか否かは
点もある。不安定なベースを用いなく
でのチェストプレスを比較して、不安
明らかにされていない。3~5RMの
ても、ユニラテラルな負荷活動を行う
定な状況下では、筋のEMG活動に有
スクワットまたはデッドリフトを行う
ことによって、通常とは異なるモーメ
意な変化がないにもかかわらず、アイ
ためには、脊椎を保護するために、体
ントアーム(トルク)が生じ、別のタイ
ソメトリックに発揮されるチェストプ
幹の筋活動を相当高める必要がある。
プの不安定な状況を作り出すことがで
レスの力が60%抑制されたことを示し
これに反して、主として筋骨格系の健
き る。 近 年、Behmら は(9)、 ユ ニ ラ
た。チェストプレス中の大胸筋、三角
康あるいはリハビリテーションに専念
テラルなショルダープレスとチェスト
筋前部、上腕三頭筋、広背筋、腹直筋
している人々は、そのような高負荷高
プレスにより、体幹の筋活動がより大
のEMG活動に関しては、不安定な状
強度の運動に興味はないであろう。競
きくなることを報告した。ユニラテラ
況下と安定した状況下で有意差は認め
技選手であれば、高負荷の比較的安定
ルなダンベルプレスは、ショルダープ
られなかった。不安定な状態で、力が
したレジスタンスエクササイズを行う
レスかチェストプレスかを問わず、腰
減少する一方、同程度の筋活動が起き
ことによって、体幹の筋活動を増大で
仙部と腰椎上部の脊柱起立筋のより大
ているということは、筋の駆動力(外
きるかもしれないが、健康やリハビリ
きな筋活動をもたらした。しかし、下
力を発揮する能力)が、安定化のため
テーションに関心のある人の場合は、
部腹筋の活動は、ユニラテラル・ダン
に使われたことを示唆している。した
不安定な状況で行うことによって、低
ベル・チェストプレスの場合のみ有意
がって、外部で測定される力は不安定
い負荷を用いても、体幹の活動レベル
に大きかった。2つのダンベルを交互
な条件によって減少するが、スタビ
をより高めることが可能である。
に動かすトレーニングは、広く行われ
ライゼーション機能への依存度が高
ている。しかしこの場合、反対側のダ
まるために、筋活動自体は維持され
ンベルの重量がカウンターバランスと
るか、もしくは増加する可能性があ
なるため、ユニラテラルな動作で生じ
る。我々の研究室で行ったもう1つの
筋機能に及ぼす不安定性の効果
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53
研究では、シングルレッグとダブル
ランスを向上させるプログラムは、結
筋力は、安定した面での最大随意収縮
レッグのスクワットおよびレッグエク
果的に、力発揮、コーディネーション、
(MVC)の わ ず か29.5 % で あ っ た の に
ステンションにおける筋活動レベルを
さらに自信といった競技パフォーマン
対し、不安定な状態での底屈筋力は、
interpolated twitch法によって測定し
スの成功に複雑に関与する全ての要素
安 定 し た 面 で のMVCの79.8 % で あ っ
た(10)。筋活動レベルはスクワットに
の向上をもたらすと言えるかもしれな
たことを報告した。前述したように、
おいて最も高く、シングルレッグエク
い。これらの要因の向上は、バランス
AndersonとBehm(3)は、不安定なベー
ステンションにおいて最も低かった。
と筋力に自信がないために、冬期は特
ス
(スイスボール)でアイソメトリック
スクワット中の下半身の複数の筋群の
に家に引きこもりがちになる高齢者に
なチェストプレスを行ったところ、発
筋活動が、大腿四頭筋の活動を促進し
とっても有益であろう。
揮筋力がおよそ60%減少したことを明
た可能性がある。さらに、バイラテラ
しかし、新しい動作パターンの学習
らかにした。一方では、これらの力の
ルな多関節筋活動
(スクワット)に必要
は、特に不安定な環境で行う場合には、
減少は、インスタビリティトレーニン
なスタビライゼーションには、より高
低速で行われるのが普通である。一
グのまさしく重要な要素を促進してい
いレベルの筋活動が必要であったと思
方、大半のスポーツは高速で行われる
ると思われる。すなわち、不安定な状
われる。これらの調査結果は、低強度
ため、結果的にトレーニングの特異性
況下では、発揮される力が減少するこ
の負荷を用いた場合にも高い筋活動を
との矛盾が生じる
(56)
。しかも、競技
とが示されていることから、このよう
維持できる可能性があることを示して
特異的な練習によって、安定性に関わ
な不安定な環境でのトレーニングは、
おり、筋骨格系のリハビリテーション
る要素が十分に改善される可能性が高
動作特異的な筋の適応を得るために最
に役立つと思われる。高閾値の運動単
い。例えば、トライアスロンの選手は、
も必要である。反対に、筋力トレーニ
位の活動を高めようとして、安定した
姿勢のコントロールに関して、コント
ングの適応を促進するためには、筋に
状況下で重いウェイトを使用すると、
ロール群に比べてより安定性が高く、
オーバーロードとなるような力をかけ
回復中の筋組織を損傷する可能性が高
視力に対する依存度が低いことが報告
ることが必要である(6,50)
。多くの研
まる。我々の研究室で行われている最
されている
(34)
。体操選手は、固有感
究者が、筋力全般または最大筋力を増
近の研究では、長期間のインスタビリ
覚情報の統合と修正をより効率的に行
強するトレーニングプログラムには、
ティ・レジスタンストレーニングが、
うことができるとの報告もある
(54)
。
1RMかMVCの40 ~ 120%の範囲の強
駆動力
(外力を発揮する能力)の向上を
スポーツ競技の中にはバランストレー
度となるようなレップ数が必要である
促すためのスタビライゼーション機能
ニングに似た刺激を提供する競技もあ
と述べている(26,49,50)。前述したレッ
を、どの程度変化させられるかを調査
るため、積極的にスポーツ活動を行っ
グエクステンションプロトコルで与え
中である。
ている個人の場合、インスタビリティ・
られたような非常に不安定な環境で
さらに、不安定な状況下では、活動
レジスタンストレーニングの効果が移
は、大腿四頭筋の適応を促進するため
を行っている関節のスティフネスの増
転する可能性が、有意とはいえない場
に必要十分なオーバーロードは提供さ
加によって、コーディネーション、力、
合もあると思われる。
れない(29.5%)。一方、足底屈筋のプ
ロトコルにおいても、安定条件下に比
およびパフォーマンスが妨げられる。
Carpenterらは
(13)
、人は不安定化の
四肢の筋力向上に及ぼすインスタ
べ発揮された力は有意に減少した。し
脅威に直面すると、関節を固めるとい
ビリティ・レジスタンストレーニン
かし、収縮強度が比較的高かったため
う戦略で対応することを示した。同様
グの効果
に、限定された筋活動の回数でも、筋
に、Adkinら は
(2)
、姿勢に対する脅
Behmら(7)は、オープンキネティッ
にオーバーロードストレス(安定状況
威(転倒のおそれ)を感知すると、随意
クチェーン・エクササイズ
(体幹が静
下のMVCの79.8%)を与えることがで
的な動作の大きさと割合が低下するこ
止した状態、この研究では座った状
きたと思われる。
とを報告した。さらに、この実験の参
態で四肢の筋活動を行う)を、不安定
他 方、 ク ロ ー ズ ド キ ネ テ ィ ッ ク
加者は、自信が低下したばかりでなく、
な座面
(スイスボール)または安定し
チェーンエクササイズ(四肢が遠位で
不安と興奮が増大したことも報告し
た座面
(椅子)のどちらかで行った場
固定されている)では、四肢の筋活動
た。したがって、安定性、すなわちバ
合、不安定な座面での脚部の伸筋発揮
レベルが高いことが示されている。不
54
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安定なプラットホーム上でスクワット
四肢の筋力を獲得することが目標で
ることによって、不安定な状況下で発
を行うと、ヒラメ筋のEMG活動は約
ある場合、すべてのトレーニングを非
揮される力を大きく減少させることに
30 ~ 40%大きくなる(4)
。一方、大腿
常に不安定な状況下で行うべきではな
も関与していると思われる。しかし、
四頭筋の活動は、不安定な状態でのス
い。特に、下肢については、不安定な
トレーニングを継続すると、特定の種
クワットにおいて、5 ~ 15%しか大き
状態でのオープンキネティックチェー
類の作業における共収縮レベルは低下
くならない
(4)
。ヒラメ筋のほうが大
ンエクササイズを強調しすぎてはな
する(38)。CarolanとCafarelli(12)は、
腿四頭筋よりも姿勢維持に対する関与
らない。スクワットやランジのよう
脚部伸筋のレジスタンストレーニン
が大きいため、不安定な条件下では、
な、より動作特異的なクローズドキネ
グ・プログラムによって共収縮が減少
ヒラメ筋の活動が大腿四頭筋よりも大
ティックチェーン活動を取り入れるべ
することを明らかにした。バランスと
きくなると推測することは妥当であろ
きである。特に一般の人々に対しては、
安定性を改善し、動作の不確実性を減
う。Korneckiらは
(24)
、ハンドルを押
不安定な条件でのレジスタンストレー
少させるためのインスタビリティ・レ
す動作中にハンドルを安定した状態か
ニングと安定条件でのレジスタンスト
ジスタンストレーニングは、共収縮が
ら不安定な状態に変化させると、スタ
レーニングを組み合わせることによっ
減少させると考えられる。共収縮の減
ビライザーの貢献が平均40%増加した
て、バランスと筋力の両者の向上を提
少は、エネルギー節約の観点から、動
ことを明らかにした。彼らは、対象と
供できるはずである。
作効率の向上をもたらすと思われる。
速度、パワーが平均30%低下したこと
共収縮に及ぼすインスタビリティ・
現場への応用
を示した。不安定化によって誘発され
レジスタンストレーニングの効果
不安定な状態は、四肢の発揮筋力の
た手関節の筋の安定化作用が、スタビ
前述のBehmらの研究において(7)、
減少と拮抗筋活動の増大をもたらす可
ライザーのEMGを上昇させ、同時に、
不安定状況下の足関節底屈とレッグ
能性がある。不安定性が増すと、この
運動機能を果たす筋の貢献を明らかに
エクステンションにおける拮抗筋活
変化はさらに増幅される。これらの知
低下させた。その結果、外部の物体に
動は、それぞれ安定状況下の30.7%と
見に照らし、末端部や四肢の筋力を獲
対して発揮される最大筋力、速度、パ
40.2 % で あ っ た。 こ の 場 合、 拮 抗 筋
得するためのレジスタンストレーニン
ワーの有意な減少がもたらされた。
は、力を発揮するときの下肢の位置を
グ様式として、不安定なレジスタンス
この他にも多数の著者が、四肢のス
コントロールする役割を果たすと思わ
器具を使用する場合は、不安定性を軽
タビライザーの機能を調べている。上
れる。同様に、予測可能な上肢の力の
度から中程度とし、オーバーロードの
腕二頭筋短頭と長頭が、肩関節の前部
変動に抵抗するという試技を144回2
力や抵抗の実現を妨げない範囲で活用
のスタビライザーとして類似の機能を
ブロック行う実験において、被験者は
すべきである。例えば、直立姿勢を維
持っていること、また、関節の安定性
共収縮を増加させることによって動作
持できない状態であると(スイスボー
が減少するにつれて、安定化における
の正確さを高めたことが報告されてい
ルやフィジオボール上で立とうとした
それらの筋の役割が増加することが明
る
(32)
。Engelhorn(16)も、 被 験 者
り、スクワットを行ったりすると)
、
らかにされている(22)
。ミニチュアト
が学習課題に慣れるにつれて、拮抗筋
重点がバランスに集中する(極端に不
ランポリンの上でプッシュアップを行
の活動が増加したことを報告している
安定な状態である)ため、筋にかかる
う場合の肩甲骨スタビライザーの安定
(29)
。要求される課題の不確実性が高
負荷の大きさは減少する。他方、片足
化機能についても研究が行われている
まると、それだけ拮抗筋の活動が大き
または両足を床につけてボールに腰掛
(27)
。この研究者は、安定した状況と
くなることが報告されている(15,29)。
けた状態で(軽度から中程度の不安定
不安定な状況でのスタビライザーの
また、安定性を促進するために
(20)関
性)筋収縮を行うと、バランスの維持
EMG活動に有意差が見られないこと
節スティフネスを高める際に
(23)
、拮
に対する集中度が低下するため、より
を明らかにしたが、ミニチュアトラン
抗筋活動が増加する可能性もある。拮
多くの集中力と資源をより大きな負荷
ポリンによって誘発された安定性レベ
抗筋活動の増加は、運動制御とバラン
を動かすために使用できる。もっとも、
ルが、不安定なプラットホームとして
スの向上に利用されるが、また一方で
非常に不安定な状況での四肢にかかる
は不十分だった可能性を認めている。
は、意図した動作に大きな抵抗を与え
負荷は筋力向上に必要とされる負荷よ
した関節の筋の安定化作用により、力、
C National Strength and Conditioning Association Japan
55
表1 安定した状態でのレジスタンストレーニングと不安定な状態でのレジスタンストレーニングを組み合わせ
た2週間のレジスタンストレーニングプログラム例
筋力 ミクロサイクル1
筋力 ミクロサイクル2
エクササイズ
BOSU上でのショルダーフレクション
(シザーズ)
アップライトロウ
スイスボール上でのダンベルチェストプレス
ベンチプレス
BOSU上でのベントオーバーロウ
シ-ティッドロウ
Dyna-Disc上でのバイセップスカール
プリーチャーカール
フロントランジ
(安定)
BOSU上でのスクワット
サイドランジ
(安定)
※ボス
(BOSU)という名称は
「both sides up(両面とも上)」の頭文字をとったもので、ドーム型のバランス器具を指す。 ダイナディスク
(Dyna-Discs)は、左右の足の下に敷く平らな円盤である。スイスボールは、直径55 ~ 75 cmの大きなボールである。
りも小さいが、体幹の筋へのストレス
からも得られ、また身体セグメントや
タンストレーニングの有用性が顕著で
はむしろ大きい可能性がある。不安定
負荷を身体の支持基底面の外に置くこ
あるのは、主として健康増進とリハ
な状況では、四肢の末端部分の抵抗ト
と
(ユニラテラルなダンベル動作など)
ビリテーションを目的とする人々であ
ルクが比較的小さく、体幹によって大
によっても得られる。しかし、不安定
り、厳しい競技活動に参加したり、高
きなトルクが発揮される可能性があ
な状況下で力を発揮しようとすると、
負荷のフリーウェイトでトレーニング
る。おそらく、
インスタビリティトレー
筋は安定化のために機能するため、安
したりすることのない人々である
(表
ニングの最大の効果は、四肢の筋力向
定した状況下で達成できる最大筋力と
2)
。活動的なアスリートが、伝統的
上よりむしろコアの安定性を向上させ
同等の力を発揮することは不可能であ
なレジスタンストレーニング・プログ
ることであろう。さらに、インスタビ
るということを認識する必要がある。
ラムと併せてインスタビリティ・レジ
リティトレーニングのそもそもの目的
さらに、RMの回数も、プラットホー
スタンストレーニングを実施した場合
は、著しい筋力の増強である必要はな
ムが不安定であることを考慮して修正
に、バランス、体幹の筋活動、コーディ
く、バランス、安定性、固有感覚能力
する必要がある。したがって、インス
ネーションなどにおいて、さらに大き
を改善しようとすることである。
タビリティ・レジスタンストレーニン
な利益が得られるかどうかは、現時点
全体としてみると、体幹のスタビラ
グプログラムを取り入れるときには、
では不明である。トレーニングのこの
イザーは、安定した状態でのエクササ
筋が大きな力を発揮する機会を確保す
分野に関しては、まだ多くの解明すべ
イズよりも不安定な状態でのエクサ
るために、安定した状況下で行うエク
き問題が残されている
(表3)。◆
サイズによって一層活動レベルが高ま
ササイズも必ず行うことが推奨され
る。さらに、片側の腕だけで行うレジ
る。同じ筋群に対する安定状態でのエ
From Journal of Strength and
スタンスエクササイズ
(ユニラテラル)
クササイズと不安定状態でのエクササ
Conditioning Research :Volume 20,
は、反対側の体側のスタビライザーの
イズとの組み合わせは、1回のトレー
Number 3, pages 716-722. 2006
活動を高める。したがって、体幹のス
ニングセッションに組み込むこともで
タビライザーの筋力や持久力を増すた
きるし、週のセッション間で交互に行
めには、エクササイズに不安定な状態
うこともできる。表1は、安定状態で
ウェブサイトのみ掲載いたします。
をもたらす要素を取り入れることが推
のエクササイズと不安定状態でのエク
参照ご希望の方は、
奨される。安定性を欠いた状態は、エ
ササイズを交互に行う2週間のプログ
クササイズを行うベースまたはプラッ
ラム例を示している。
トホーム
(ボールやワブルボードなど)
最後に、インスタビリティ・レジス
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November 2008 Volume 15 Number 9
※「References」は 誌 面 の 都 合 に よ り
http://www.nsca-japan.or.jp
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表2 特定のインスタビリティ ・レジスタンスおよびバランストレーニングが、リハビリテーション、一般的な筋骨格系の健康、 および競技パフォーマンスに及ぼす効果のまとめ
インスタビリティ ・レジスタンス&バランスト
レーニングの効果
リハビリテーション
筋骨格の健康
競技パフォーマンス
↑同様の運動強度で、安定した状態で行った体幹
の筋活動
*
*
*
↑同様の強度で、安定した状態で行ったクローズ
*
ドキネティックチェーン・エクササイズ(スク ↓傷害予防に用いる負荷
ワットなど)と比べた、四肢の筋活動
*
†
高負荷を用いることにより、最大また
↓同様の強度で、安定した状態で行ったオープン
キネティックチェーン・コンディショニングに
比べた四肢の筋活動
‡
‡
†
†
長期のインスタビリティ ・トレーニ
ングが共収縮を減少させるかは不明
*
↑主働筋の安定化が関節
の保護を増す可能性が
ある
†
‡
長期のインスタビリティ ・トレーニ
ングが、主働筋スタビライザーを駆
動力に変更できるかは不明
‡
‡
‡
†
ダイナミックバランス
への応用は限定的また
は不明
†
†
競技特異的な練習が十分なバランス
トレーニング効果をもたらす可能性
がある
?
?
?
↑突然、不安定な状態にさらされたときの共収縮
↑主働筋の安定化機能
↓力発揮とパワー発揮
↓静的バランス
活動の特異性
‡
*
↑共収縮が関節を保護
は最大に近い筋活動が達成可能
*有意な効果 †わずかな効果 ‡効果なし ?不明
表3 インスタビリティ・レジスタンストレーニングの研究文献:未解決の問題
1. スタティックなインスタビリティトレーニングは、ダイナミックなバランスの向上に貢献できるか?
2.
スタティックなインスタビリティトレーニングによって、不安定でダイナミックな状況において、伝統的なレジスタンストレー
ニングよりも大きな力やパワーがもたらされるか(安定性を駆動力機能に変換できるか)?
3. バランストレーニングでは、不安定性によって発揮筋力が低下するため、レジスタンストレーニングとは別に行うべきか?
4.
不安定な状態でのエクササイズでは、安定した状態でのレジスタンストレーニング(スクワットやデッドリフト)によって大
きな負荷を用いた場合と比べて、同等か、さらに高い体幹の筋活動レベルを達成できるか?
5. インスタビリティ ・ レジスタンストレーニングは、共収縮の程度を低下させるか?
6.
エクササイズの処方のために、不安定な状態でのエクササイズにおける筋活動または力が、安定した状態でのエクササイズに
対してどの程度減少するかを一般的に定量化することはできるか?
7.
不安定なプラットフォーム上でのトレーニングは、
外的要因(例えば、
フットボールやラグビーで遭遇する外部からの力)によっ
て安定性が崩されるような活動におけるパフォーマンスを向上させることができるか?
C National Strength and Conditioning Association Japan
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