患者・家族を交えた カンファレンスによる 患者参画型看護計画

看護が見える・患者が見える計画と記録!
患者の状態に合った参画型計画成功のポイント
患者・家族を交えた
カンファレンスによる
患者参画型看護計画
当院では「私たちは一人ひとりの生命と生活
を大切に看護します。人に対して謙虚で誠実な
姿勢で看護を提供します」の看護部理念の下,
この言葉を問いかけながら患者を大切にするに
はどのような看護をしたらよいか長年にわたり
試行錯誤して考えてきた。これは永遠のテーマ
ではあるが,当院では患者を大切にするという
考えから患者と共に考えるという患者参画型看
護にたどり着き,実行しながら自分たちに問い
かけ続けている。
現在は継続受け持ち看護の強化と共に,患
榛原総合病院
看護師長 八木千乃
ゆき
の
1986年静岡市立看護専門学校卒業,同
年榛原総合病院就職。外科病棟,内科・
循環 器 病 棟 ,整 形外科 病 棟 ,脳外科 病
棟,呼吸器科病棟などに勤務,2003年看護師長,2005年
から継続看護,看護記録を担当している。2008年セカンド
レベル認定看護管理者研修修了。
病院の概要(2013年12月現在)
診療科:23科
病床数:183床
(一般141床・療養42床)
看護職員数:保健師6人,
助産師6人,看護師127人,
准看護師12人(計151人)
看護部理念:
私たちは一人ひとりの生命と生活を大切に看護します
人に対して謙虚で誠実な姿勢で看護を提供します
看護体制:固定チーム+継続受け持ち体制
勤務体制:3交代制・2交代制
看護基準:10対1
者・家族を交えたウォーキングカンファレンス
や患者参画型カンファレンスを行いながら,医
②継続受け持ち看護師が主体的に動ける
療者側と患者側の「思い」のずれを少なくでき
③看護必要度の記録を正しく書ける
るように努力している。本稿では,その取り組
●記録に関しての具体的計画
みについて報告する。
①各監査の実施,課題を抽出し改善を図る
看護記録委員会の紹介
ずつ)
当院看護部では,看護記録委員会は,継続看
・ウォーキングカンファレンスの監査
護委員会に位置付けしている。委員会のメン
・看護必要度の研修会の実施(全職員対象)
バーは各部署から1~2人選出し,毎月1回の
・看護必要度の記録の書き方の事例検討会の実
委員会を開催している。
〈2013年度 継続看護委員会事業計画〉
●重点目標:入院から退院後まで継続看護師の
役割が果たせ,看護の質の向上を図る
●具体的目標
集・アセスメント・看護診断・実施・記録・
評価・サマリ)
看護きろくと看護過程
施
・看護必要度の監査(毎月)
・よい記録を抜粋し,伝えていく(毎月)
・サマリーの記入率のチェック(毎月)
・各監査結果を,委員がコメントを記入し各個
①一連の看護プロセスが展開できる(情報収
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・記録の量的監査・質的監査を年実施(年2回
vol.24 no.1
人にフィードバックする
②入職2年目看護師対象に看護過程の研修,事
例発表会の実施
表1 患者参画型看護導入に取り組んだ経緯
患者参画型看護導入の経緯(表1)
さかのぼると,1986年に実施した「申し送り
の廃止」が,患者参画型看護導入の大きなきっ
かけになっていると考える。
当院では,1986年に朝の申し送りを廃止した。
理由は,ナースステーションで長時間かけて行
う申し送りは受け身であり,結果的には正確に
伝わらない,過去の情報が多いなどが,調査に
1986年:申し送りの廃止…ナースステーションから
ベッドサイドへ
1995年:スケジュール表の開示…患者と共有した記録
1996年:ウォーキングカンファレンスの開始…複数
の人数でベッドサイドへ行き患者と実際にかかわる
1999年:看護計画の開示・ベッドサイドカンファレ
ンスの開始…患者と立案する計画
2005年:家族と共に行うエンゼルメイク・ケア…死
後処置がグリーフケアに変わった
より明らかとなったからである。また,申し送り
の時間帯は,病室に看護師が不在となり,患者
スをベッドサイドで行うことにし,患者と共に
の安全が守られないことも理由の一つであった。
行うカンファレンスへと変化していった。
申し送りの廃止と同時に,受け持ち患者に対
して,カルテを見たりデータを調べたりと自分
から能動的に情報収集するように看護師の行動
患者情報(看護の情報)を
患者と共有する仕組み
が変化していった。また,出勤後いち早く患者
前述したように,当院では患者参画型の医療・
のベッドサイドへ出向き,直接患者の情報を収
看護を実施するための手段として,
「スケジュー
集することで,今現在の患者ニーズを把握でき,
ル表」
「ウォーキングカンファレンス」
「患者参
さらに,病室内の看護師不在時間が減り,安全
画カンファレンス」を実施している。これらの
の確保へと結びつけることができた。必要な情
3つの手段の方法について説明する。
報を必要な人が得ることは,継続受け持ち看護
スケジュール表(資料1)
体制の強化となり,患者中心の看護につながっ
その患者に合ったスケジュールを継続受け持
ていった。
ち看護師が患者と相談し,スケジュール表に記
1995年には,患者の情報を記入した記録物
入する。
としてスケジュール表を考案し,ベッドサイド
内容は,縦軸として安静度,食事,清潔行動,
に置くこととした。患者・家族が記入できる項
点滴注射,内服薬,処置,他科受診,検査,患
目も設け,徐々に看護師,患者共有の記録と
者様御家族記入欄,病院職員記入欄に分けてあ
なっていった。
る。横軸は,日付を書き,1週間のスケジュー
1996年には,ウォーキングカンファレンスを
ルが書けるようになっている。記入内容は,原
開始した。朝,夕の勤務交替時に,チームリー
則として「患者に分かる言葉で記入する」
「専門
ダーと受け持ち看護師の複数でベッドサイドに
用語,略語は書かない」という決まりをつくっ
訪問し,患者と話し合いを持ちながら巡回した。
ている。
1999年には,看護計画をベッドサイドに置
スケジュール表は看護計画などと一緒にファ
き開示した。看護計画を開示することにより,
イルに綴じてあり,毎朝そのファイルを患者の
一方的な看護計画を書くことはできず,患者に
ベッドサイドへ持って行き,本日のスケジュー
了解を得ながら作成する方法に変化していった。
ルについて説明しながら渡し,21時に回収して
また,看護師のみで実施していたカンファレン
いる。
看護きろくと看護過程
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資料1 スケジュール表
2315号室 ○山○子様 受け持ち看護師(○本○恵)
月 日
8 / 1(月)
右足をつけない
でください。車
いすへの移動時
安静度
は看護師を呼ん
(リハビリ)
でください。
リハビリ
10:00 ∼
8 / 2(火)
8 / 5(金)
8 / 6(土)
8 / 7(日)
松葉杖の練習を
始めます。
リハビリ
10:00 ∼
午後歩行練習
病棟で歩行練習
をしましょう。
病棟で歩行練習
をしましょう。
降圧剤 朝・夕
内服確認
/ /
降圧剤 朝・夕
内服確認
/ /
専門用語・略語は
使わない
塩分制限食です。
病院の食事以外
は控えてください。
清潔
体を拭きましょ
う。できないとこ 時間などは
ろは手伝います。 患者と相談
して決める
シャワー浴
10:00 ∼
看護師が手伝い
ます。
患者に分か
りやすい言
葉で記入
シャワー浴
10:00 ∼
看護師が手伝い
ます。
日中は歩行器で
トイレに行きま
しょう。看護師を
呼んでください。
車いすでトイレ
へ行きましょう。
看護師を呼んで
ください。
処置
8 / 4(木)
X線の結果で明 体 重 の20 % 中央リハビリ
日 か ら 体 重 の (10kg)足をつ 10:00 ∼
20 %(10kg) けて歩行器で歩 午後歩行練習
足をつけてある 行練習をします。
ことになります。 リハビリ
リハビリ
10:00 ∼
10:00 ∼
食事
排泄
8 / 3(水)
ギプス巻き直し
注射
内服薬
降圧剤 朝・夕
内服確認
× ×
降圧剤 朝・夕
内服確認
× ×
降圧剤 朝・夕
内服確認
× /
降圧剤 朝・夕
内服確認
/ /
血液検査 X線
検査
内科受診日
他科受診
患者様・
御家族
記入欄
X線の結果はど
うでしたか。
今日から足をつ
けることができ
てうれしい。
職員
記入欄
右足をつけるこ
とができません。 明日の回診時に
一人で動くのは危 結果を教えてく
ないので看護師を れます。
呼んでください。
良かったですね。
病棟でも看護師
と練習をしてい
きましょう。
サイン
○○ ○○ ○○
○○ ○○ ○○ ○○ ○○
ウォーキングカンファレンス
(進め方は資料2,監査内容は資料3,4参照)
患者・家族が自由に
記入できる
時間帯は朝の日勤の開始時(8:30 ~9:
00)と,日勤から準夜への看護師交代時(16:
ウォーキングカンファレンスとは,各勤務交
30 ~17:00)の1日2回実施しており,全患
代時に患者参画型のカンファレンスを患者の
者を対象にチームごとで巡回している。
ベッドサイドで行うことを言う。
事例
1
方法は,看護師の交代時に直接,継続受け持
ち看護師または当日の担当看護師と,チーム
リーダーやチームの看護師が患者を訪問する
(写真,P.52)。直接患者の状態を観察し,また
患者の思いや希望,要望を聞きながら両者で話
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降圧剤 朝・夕
内服確認
/ /
夜痛みがあった患者への翌朝のウォー
キングカンファレンス
患者は癌性疼痛があり,入院2日目で
あった。昨夜,患者が痛みを訴えたため,
鎮痛剤を使用した。
し合い,スケジュール表を活用して本日のスケ
受け持ち看護師は,翌朝のウォーキングカン
ジュールの確認や修正を行っている。
ファレンス時に昨夜の痛みについて患者に声か
看護きろくと看護過程
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資料2 ウォーキングカンファレンスチェックリスト(スタッフ・リーダー用)
(病棟名 )
監査日 平成 年 月 日
はい=100% やや不十分=50%以上 不十分=50%以下 いいえ=0%
行動目標 ①情報収集してからウォーキングカン
ファレンスに臨んでいる(患者の情報
を持っている)
備考
はい
やや
不十分 いいえ
不十分
受け持ち看護師は患者の情報をリーダー以上に持ち,
リーダーに受け身的に聞くことがない
リーダーはリーダーとして必要な情報を持ち参加する
必要時,受け持ち看護師にアドバイスができる
②ウォーキングカンファレンスの順番は
重症患者,感染症患者などについて判断できる
優先順位を考慮し回っている
入室前には必ずノックをして「失礼します」と言う
日勤「○○さんおはようございます」準夜「○○さん
こんにちは」など,その時に合ったあいさつをする
リーダーはスタッフと同様にあいさつをする
③あいさつをする
④看護師の自己紹介をする
継続受け持ち看護師「受け持ち看護師の○○です」
担当看護師「受け持ち看護師○○が不在なので本日は
○○が受け持たせていただきます。お願いします」
リーダーは軽く会釈をする
⑤穏やかな声・態度・表情で接する
看護師の気分により感情を出さない
患者には笑顔で向かい合い,話しやすい雰囲気をつくる
リーダーは両者を優しく見守ることができる
⑥患者を尊重し敬語で話しかける(患者
に合った言葉使いをする,
「です,ます」
調を使う)
お呼びする時は,氏名で呼ぶ。
「おじいちゃん,おば
あちゃん」と呼ばない
高齢難聴者には単語で大きな声を使う時があるが,十
分に患者のプライドを配慮する必要がある
看護師は患者の50cm
以内に位置している
リーダーは患者の1m
以内の位置とする
⑦患者と会話を
する時の態度
受け持ち看護師は患者の斜めに位置しリーダーより患
者の近くに存在している(患者を上から覗き込まない)
リーダーが存在することで,両者に威圧感を与えない
立ち位置の工夫をする。腕組みなどをしない
看護師が患者の目の高さに合わせる。そのためには,近
患者の目の高さに合わ
くにいすがあれば患者の了解を得て座ったり,中腰に
せる
なったりして,患者を見下ろさないような工夫をする
患者の話が長引きそう
な時は後で時間をつく
るようにする
(リーダーは時間内に
終わるように促す)
話の腰を折ったり,勝手に終わらせたりする態度を取
らない
カンファレンスがさらに必要な場合は,患者の了解を
得て時間を設定し,後から訪室する
⑧スケジュール表を患者に見せながら,
分かりやすく説明する
患者に合わせて分かりやすく説明をするが,その時に
看護専門用語を使わない
リーダーはできているか確認し,対応ケアの教育的配
慮(患者の理解度に応じた進め方)をする
⑨患者の状態を理解し,本日のスケジュー
ルを決める(患者のニードの把握,希
望などの配慮をする)
検査および治療(点滴・内服・吸入・リハビリテーショ
ン)
,ケア(入浴・手浴・足浴・洗髪)などの時間を
患者と一緒に決める
看護診断に基づいて,患者の希望を取り入れる
リーダーは受け持ち看護師が,一方的に進めていない
か確認する。看護判断に基づいて,患者の希望を取り
入れることができているか確認し,対応ケアの教育的
配慮(患者の理解度に応じた進め方)をする
看護きろくと看護過程
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資料2の続き
行動目標 備考
はい
やや
不十分 いいえ
不十分
本日のスケジュールに関して分かりやすく患者に説明す
⑩スケジュールに関して,患者が了解で るが,その時患者が了解できたか確認しながら進める。
リーダーは患者が理解できない時は,再度説明し手本を
きたか否かを確認する
示す
⑪プライバシーが
配慮されている
患者の目の高さに合
わ せ る。プ ラ イ バ
シーに関する内容を
控えたり小声にした
り,他患者に聞こえ
ないようにする
原則的に便・尿失禁,夜間不穏についてなどは話題に
しない。しかし,状況によって必要な場合は,他患者
に聞こえるような大きな声で話さない
患者の気にしている家族背景等にも配慮する
リーダーは患者に不快な思いが見られていないか確認
し指導する
病名や痴呆という言
葉が使われていない
患者の前では病名やボケという言葉は使わない
リーダーは使用していた場合は患者に気づかれないよ
うに注意する
必要ならばカーテン 患者の気にかけていることや,看護師とリーダーが直接
を使う
皮膚症状を観察する時など使用する
患者が主体になるように,受け持ち看護師が進めてい
く。受け持ち看護師が情報不足で会話がつながらない時
⑫ウォーキングカンファレンスの進行は
や昨日の内容と食い違っていたら,リーダーが修正す
受け持ち看護師である
るために話をする。リーダーが主体とならないよう配慮
する
⑬ウォーキングカンファレンス中に患者の
発言がある。患者の主体性を引き出す
⑭看護師の私語がない
患者が希望,ニーズ,不満,不平を看護師に伝えられ
る雰囲気がある
看護師は患者の管理上の問題だけでなく,患者が問題
としていることを確認して話題として取り上げる
患者の前で看護師間のプライベートの話や患者に関係な
い内容の話をしない。また,患者の前で他患者の情報交
換をしない
⑮受け持ち看護師は1週間の予定をスケ
ジュール表に記入してある
スケジュール表には1週間の予定が受け持ち看護師に
よって記入され,患者も理解できている
リーダーはスケジュールが受け持ち看護師によって記
入されているか確認する。先の分かっている検査,治
療があれば記入するように進める
⑯ウォーキングカンファレンスは朝8時
30分∼9時,夕16時30分∼17時の
間に実施されている
朝は9時までに患者の元にカンファレンスに出向くと
いうことが看護の契約となる。看護師は時間を守る必
要がある
リーダーは朝9時までに訪室できる時間的配慮ができる
けをした。今の患者の訴えを聞き,鎮痛剤の効
果を確認して,リーダーと受け持ち看護師で痛
看護師:
(スケール)3だと我慢しすぎたんで
みがあった部位を観察・触診した。また,患者
すね。これからスケールいくつで痛み止めを
に鎮痛剤の使用の要望を確認したところ,
「強
飲みましょうか?。
い痛みが来る前に何とかしてほしい」との要望
患者:
(スケール)2の時にやってもらおうかな。
があったため,フェイススケールを活用して患
看護師:分かりました。無理せず痛みが強くな
る前に教えてくださいね。
者と話し合いを行った。
患者:昨夜,痛み止めは(スケール)3くらい
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で看護師さんに言った。
看護きろくと看護過程
vol.24 no.1
このように患者と相談しながら鎮痛剤の使用
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