重度下腿開放骨折 − 患肢温存についての検討 札幌医科大学 高度救命

重度下腿開放骨折 − 患肢温存についての検討
札幌医科大学 高度救命救急センター
倉田 佳明、土田 芳彦、谷本 勝正、平岩 哲郎、野中 伸介
重度下肢外傷治療におけるかつての第一選択は切断術であった。しかし再建術や内固定材料、抗生剤
の進歩などに従い、温存できる重度外傷が増加している。今日これらの治療を行う際、しばしば患肢を
温存するか切断するかの判断を迫られることがある。これまで様々なガイドラインが提唱され、また温
存あるいは切断の優位性についての報告も多くあるが、一定のコンセンサスは得られていないのが現状
である。今回、重度下腿外傷の 1 症例を提示し、これを通じて患肢温存についての検討をしていきたい。
【症例】20 歳、男性。乗用車運転中に横転して受傷し、前医を経て当センターに搬送された。搬入時シ
ョック状態であり、頭部、胸腹部損傷はなかったものの、骨盤骨折(右側方圧迫型)、右下腿開放骨折
(AO 42-B3)、左膝関節複合靱帯損傷を認めた。右下腿は内側方に 25cm 長の開放創を認め(Gustilo type
ⅢB)
、足底の知覚は著明に低下していた。足背動脈、後脛骨動脈の触知は不可能であったが、ドップラ
ーにて後脛骨動脈の拍動を検知した。受傷同日、右下腿のデブリドマン・創外固定術を行ったが、前方・
外側・後方コンパートメントの各筋の圧挫は著明であった。後脛骨動静脈、脛骨神経は連続していた。
受傷 5 日後、iliosacral screw による骨盤骨接合術と、右下腿の 2 回目のデブリドマンを施行した。腓
腹筋を除く全ての筋は阻血であり、腓骨骨幹部も温存は難しいと思われた。つまり遠位との連続性は、
骨折した脛骨、腓腹筋、後脛骨動静脈、脛骨神経、皮膚・皮下組織のみで保たれていた。
本症例につき、患肢温存をめざすべきか、あるいは切断術を行い、義肢による ADL の早期向上を目指
すべきか、もし温存するならば、どのような手術方法が考えられるか、検討して頂きたい。
治療に難渋した人咬創の1例
手稲前田整形外科病院
五輪橋整形外科病院
整形外科
整形外科
畑中
石間
渉
巧
人咬傷後に発症した蜂窩織炎により、示指 DIP 関節から中節部背側の皮膚壊死を生じた
結果、化膿性関節炎・骨髄炎を生じた症例に対する治療法に関して、御検討していただき
たい。
【症例】64 歳、男性、子供の痙攣発作時に口の中に手を入れ示指を咬まれ受傷。そのまま
海外旅行に出かけ、帰国時に成田空港クリニックを受診し、治療継続のため受傷6日目に
受診。示指 DIP・PIP・MP 関節の背側に咬傷創を認め、示指が全体的に腫脹し蜂窩織炎を呈
していた。即日入院となり開放創のうえ点滴治療を行うも、仕事の都合のため改善無いま
ま退院され外来受診となる。嫌気性菌の Streptococcus constellatus 陽性であった。
PIP・MP 関節部の創は自然閉鎖するも末節部掌側にも創出現あり、受傷3週間後に初診。
DIP 関節背側部皮膚欠損に対し掻爬・指交叉皮下組織茎皮弁を施行。術中所見にて伸筋腱
の融解断裂あり。術後3週にて皮弁切離時にも、感染コントロールがついていないため開
放創として管理。X 線上中節骨に骨吸収像を認めるも徐々に改善。外来にて経過観察続け、
創は自然閉鎖傾向進むも中断する。
問題点
(1)初期治療法について
即日掻爬すべきだったか?
閉鎖式持続灌流治療の適応は?
(2)皮弁の選択について
入院治療が困難な状況で、外来手術で出来る安全な皮弁は?
順行性・逆行性指動脈島状皮弁の適応は?
(3)動物咬傷感染症に対する患者の啓蒙に関して
肋軟骨移植術により再建した右小指 PIP 関節粉砕骨折の一例
滝川市立病院
渡部哲也
金谷耕平
阿久津祐子
恩田和範
右小指 PIP 関節粉砕骨折に対して肋軟骨移植術により関節の再建を行った症例を経験したので報告す
る。
症例)17歳男性、主訴:右小指痛、可動域制限、現病歴:2004年8月11日電動のこぎりに手
をぶつけて受傷。当科受診した。右小指掌側の PIP 関節部に横方向の開放創があり、屈筋腱の断裂と関
節面の粉砕が認められた。単純 X 線では基節骨の関節面が骨折して2分しており、中筋骨の関節面の背
側 1/2 を残して掌側 1/2 が3つに分断しており一部欠損していた。即日手術を行った。
関節面を整復後、
C-wire にて骨折部を固定して PIP 関節を仮固定した。屈筋腱は津下式ループ針2本にて縫合した。尺側
の指神経が断裂しており Cable graft を行った。術後4週で仮固定していた C-wire を抜釘して可動域
訓練を開始した。しかし十分な骨癒合が得ることができず骨折部の転移が認められた。PIP 関節の再建
のために2005年3月29日肋軟骨移植術を行った。骨折した PIP 関節を軟骨面を含めて摘出する。
第6肋骨軟骨移行部から1cm ほど肋軟骨をつけた肋骨を採取し2つに分割する。肋軟骨は中節骨側を凹
型に、基節骨側を凸型にして蝶番様に採形して PIP 関節に移植して C-wire 固定した。術後1週目より
自動運動を開始した。術後11カ月の現在 PIP 関節自動屈曲45゜、伸展0゜、Total Active motion 1
45゜、健側比で54%であった。握力は左で18kg、健側比で51%であった。疼痛、関節動揺性
は認められなかった。単純X線像で移植片の吸収や関節症変化はなかった。VAS score は10点中0点
であり、現職に復帰している。
考察)今回の症例は PIP 関節の粉砕骨折で、関節全置換が必要であった。足趾からの関節移植も考慮
されたが、他の関節を犠牲にしない肋軟骨移植術を選択した。長期的には関節症の発生や移植片の吸収
などの問題が指摘されており、今後も経過観察が必要である。
皮弁形成術を要した手部複合損傷(mangled hand)の 1 例
札幌医科大学 高度救命救急センター
平岩哲郎、土田芳彦、倉田佳明、谷本勝正、野中伸介
【はじめに】
手部複合損傷(mangled hand)は損傷が広範囲かつ重度なため、現代においても治療が困難
な外傷の一つである。この悲惨な外傷において良い治療結果を生むための原則とは、患
者背景と損傷状態の詳細な把握のもとで論理的な治療計画を立て、遅滞のない段階的手
術治療を施行し、早期にリハビリテーションを開始することである。今回、複合組織欠
損を有する mangled hand の 1 症例を提示し、段階的手術治療の進め方について考察す
る。
【症例】
27 歳男性。航空機を整備中、ファンに誤って右手を巻き込まれ受傷した。右手部の挫
滅が強く近医より当センターへ紹介となった。全身状態は良好で他部位損傷はなかった。
搬入時、右手第 2-5 指中手骨から MP 関節に至る広範囲の皮膚、伸筋腱、骨欠損を認
めた。第 3,4 指の血行は不良であった。第 2,5 指の血行および知覚は残存しており、
屈筋腱は第 2-5 指すべてにおいて残存していた。単純 X 線画像では、第 2-5 指中手骨
の粉砕骨折を認め、遠位部の骨欠損を認めた。また第 2,3 指で基節骨骨折を認め、第 4
指では基節骨基部の欠損、第 5 指では基節骨すべての欠損を認めた。
初回緊急手術にて、第 3,4 指の血行再建を行い、鋼線刺入による骨の仮安定化を施行
した。また 5×4cm 大の軟部組織欠損に対しては第 5 指の皮膚を fillet flap として用
い被覆した。受傷 10 日目に第 2 回目の手術(確定的手術)を施行した。手術は第 2,3,
4 指中手骨に骨移植を行いプレートにて架橋した。さらに、第 3 、4 指伸筋腱の再建を
施行した。初回の fillet flap を含めた背側軟部組織の状態は良好な状態ではなかった
が、追加皮弁を行わずに経過を観察することとした。その後、手背部の創治癒が得られ
ず、感染症を併発したため、受傷 39 日目にデブリドマンおよび後骨間皮弁による軟部
組織再建を行った 。術後皮弁の血行は良好であったが局所の感染は鎮静化せず、受傷
109 日目にデブリドマンおよび抜釘を施行した。現在、リハビリテーションにて経過観
察中である。
【考察】
手部複合損傷(mangled hand)において最大限の治療効果を生むためには、正確な病態把
握に基づいた再建計画を立てることが必要であり、さらに重要なことは適切な時期に適
切な手術を完遂させることである。そして、再建外科医は、これらの治療が極めて許容
範囲の狭いものであることを認識する必要がある。
大腿骨転子部骨折に対する PFNA の使用経験
―ブレードの術後の telescoping 量についてー
市立函館病院整形外科
中島
菊雄、佐藤
隆弘、徳谷
聡、毛糠
英二、塩崎
崇
[目的]
大腿骨転子部骨折を対象とした固定材にはいろいろなものがある。2004 年末、ヘリカルブレードを特徴
とする Proximal Femoral Nail Antirotation ( PFNA、SYNTHES 社製)が本邦でも発売された。当院では
2004 年 11 月から PFNA を導入したが、ブレードの術後の telescoping 量が大きな症例を経験したので、
移動量について調査し、その対策について検討した。
[対象および方法]
2004 年 11 月から 2005 年 12 月の間に、PFNA を使用した患者は 26 例 26 股であった。A0 分類の A3、術
後 X-P の角度が異なり移動量を測定できなかった症例を除外し、
最終的には 16 例が調査対象となった。
男 3、女 13、右 6、左 10 例、平均年齢は 83 歳(65∼92 歳)
、受傷から手術までの期間は平均 5 日(1∼
15 日)であった。追跡期間は 1∼50 週、平均 18 週であったが、手術翌日より全荷重を許可とし、荷重
訓練を行わなかったものはなかった。これらの症例に対して、ブレードの telescoping 量について検討
した。
[結果]
ブレードの telescoping 量は平均 5.4mm(1∼15mm)であった。A0 分類 A1 では 3.4mm、A2 では 7.9mm で
あった。手術時期が早い前半の 8 例では平均 6.8mm、後半の 8 例では 4.0mm であった。
[考察]
PFNA は、骨を削る量が少ないため骨粗鬆の強い症例でも良好な固定力が期待できるとされている。しか
し、telescoping が大きい症例が見られた。これは、叩くことで骨頭にブレードを打ち込み compression
機構がないことが理由のひとつと考えられた。ブレードの過度の telescoping による突出を避けるため
には、1)十分に股関節を内転させる、2)ブレードを計測値よりやや短いものとし、いったん打ち進め
た後、牽引を弛め再度叩き込むことがポイントである。
AKA 博田法による体幹の関節機能障害性関連痛の診断と治療
−線維筋痛症症例への施行から−
太田貴之1)
博田節夫2)
1)太田整形外科医院
小俣昌大3)
2)博田理学診療所
3)楽楽堂整形外科
[緒言]関節を他動的に且つ愛護的に動かして関節面の運動を誘導する事で、関節法内運動を改善
る AKA 博田法は、様々な疾患における関節痛、及び関節原性関連痛に有効である。交通事故受傷後
ヶ月を経過した時点で線維筋痛症様の症状を呈する症例に対して、AKA 博田法を施行したので報告
る。
[対象と方法]症例は 38 才の女性で、主訴は頚背部痛、及び四肢の痛みである。硬膜外ブロック療
や抗うつ剤は著明な効果は認められなかった。厚生労働省特別研究班による線維筋痛症の重症度分
では、ステージ2であった。仙腸関節、及び胸椎椎間関節に対して AKA 博田法が施行された。
[結果と考察]施行直後の現症では、四肢の疼痛、しびれ感、及び線維筋痛症に特有な圧痛点を含
た症状の約 80%は消失した。
線維筋痛症は原因不明の全身性の疼痛疾患である。AKA 博田法の施行により、症状が著明に改善し
症例があるということは、現在の米国リウマチ学会による線維筋痛症の診断基準を満たす症例の中
仙腸関節等の体幹の関節機能障害が含まれている可能性がある。
関連痛は、責任病巣の疼痛がそこから離れた部位に生ずるもので、必ずしも神経支配部位と一致し
いという特徴を有する。一方、根性疼痛は、神経根が支配している領域の疼痛、知覚の分布図に一
した知覚障害、神経支配を受けている筋肉の運動障害、及び深部腱反射の異常をその特徴とするが
日常診療では、必ずしもこれらの全てを呈していない不全症例もあるので、関連痛との鑑別診断が
要になる。体幹の関節への AKA 博田法の施行により、四肢の症状が消失するという事実から、体幹
関節原性
の関連痛と根性疼痛の不全症例との鑑別に、AKA 博田法はより少ない侵襲で行える有効な診断方法
及び治療法の一つであると考えられる。
膝蓋骨骨折に対する cannulated screw を用いた tension band wiring の小経験
市立士別総合病院
西田恭博
浜田
修
宮野憲仁
【はじめに】転位を伴う膝蓋骨骨折に対する治療法には K-wire を使用した modified tension band
wiring 法(以下 MTB 法)が選択される事が多い。今回我々は膝蓋骨骨折の 3 例に対し cannulated screw
を使用した tension band wiring を施行し、良好な結果を得たので報告する。
【対象と方法】膝蓋骨骨折の 3 例,男性 1 例(82 歳)、女性 2 例(73 歳、87 歳)に対し本法を行った。
受傷機転は全例転倒にて膝を直接強打したもので、骨折型は横骨折、もしくは第 3 骨片を有する横骨折
であった。手術は骨折部整復後に cannulated screw を 2 本挿入、screw の中空部に軟鋼線を挿入して 8
の字に締結し骨折部を圧迫固定した。術後 1~3 日で歩行開始、1~4 日で他動的可動域訓練を開始した。
【結果】術後早期より膝関節可動域は回復し,術後平均 3 週で独歩にて退院した。1 例に wire の弛みを
認めたものの全例順調に骨癒合を得た。screw や wire の折損は無く、突出による皮膚刺激などの問題は
生じなかった。3 例ともに正座が可能となり,金属抜去は行わなかった。
【考察】本法の利点として、術後早期から外固定無しで歩行・ROM 訓練ができる固定性が得られること、
MTB 法やリングピンのような wire による刺激が少ないため高齢者では金属抜去が不要であることが挙げ
られる。本法による治療は粉砕骨折以外の膝蓋骨骨折に対し有用であると考えられる。
下肢長管骨多発骨折に合併した脂肪塞栓症候群の1例
手稲渓仁会病院
整形外科
中山
央、大野和則、宮田康史
救急部
大西新介
麻酔科
山崎由美子
リハビリテーション部
太田美香
亀田
徹
左大腿骨、下腿骨骨折後に発症した脂肪塞栓症候群(FES)を経験したので報告する。
【症例】19 歳、男性。自転車乗車中に乗用車と接触し受傷し、当院救急部に搬入された。来院時、意識
清明でバイタルサイン、頭部、胸腹部に明らかな異常はなかった。左大腿と左下腿ともに変形と小開放
創あり、X 線にて左大腿骨、脛骨腓骨骨幹部骨折を認めた。牽引や外固定では骨折部の安定性が保たれ
ないため、同日、挿管全身麻酔下に創外固定による固定を行った。しかし手術終了前より SpO2 と血圧
の低下を認め、呼吸不全、意識障害を発症した。頭部 MRI で多発性に高信号域の病変、胸部 CT で末梢
肺野に浸潤影を認め、臨床経過から FES と診断した。救急救命病棟での全身管理を行った。JCS10、
GCSE3V1M4 と意識障害は残存していたが、
呼吸状態は改善したため、
第 10 病日に髄内釘による左大腿骨、
脛骨の内固定を行った。術後 1∼2 週間で意識障害は急速に改善したが、高次脳機能障害はしばらく残
存した。現在、左下肢装具使用して全荷重歩行中であり通院にてリハビリテーション継続中である。
【考察】FES は循環血液中に入り込んだ脂肪滴が組織の微小循環を傷害して塞栓を起こしている状態で、
中枢神経症状、呼吸器症状、皮膚・眼瞼結膜の点状出血を 3 主徴とする、骨折後の重篤な合併症の一つ
である。受傷後早期に骨折部の固定を行うことが、FES の予防につながるとされている。今回、受傷後
早期に安全性が高いとされる創外固定を行ったが FES が発症した。意識障害は残存していたが呼吸状態
が改善したため、受傷後 10 日目に骨折部の内固定を行った。内固定直後から意識障害の著明な改善を
認めた。
特異な経過をたどった寛骨臼骨折の 1 例
市立札幌病院整形外科
佐久間隆、本間信吾、奥村潤一郎、平地一彦、東
小林
裕隆
浩、松井裕帝、片桐弘勝
受傷直後に診断がつかず、徐々に寛骨臼の骨折が明らかとなり、特異な経過をたどった症例を報告す
る。
79 歳女性。既往歴:認知症。平成 17 年 6 月、walker を使用しながら散歩中に左膝をつく様にして転
倒した。近医受診したが X 線像で異常なく帰宅。翌日、歩行障害続くため他院を受診、両股正面 X 線に
て左臼蓋骨折と診断され、保存的治療目的で同院に入院した。ベッド上安静を原則としトイレのみ車い
すを許可していた。入院 1 週後の X 線像で臼蓋の変形が著明となり手術治療が考慮された。骨折型は AO
分類 Type A1 であった。手術目的に当科に紹介され、受傷 3 週後に転院した。当科、搬入時の X 線像で
は臼蓋骨折の他、大腿骨頚部骨折も認めた。入院 5 日目に臼蓋側に impaction bone graft を併用し、
再置換に準じた THA を施行した。しかし、術後 6 日目、屈曲、内旋位で脱臼し、以後も繰り返した。Stem
の前捻不足とインピンジメントと判断し、初回 THA の 5 週後(受傷後 9 週)に
stem の入れ替えと臼蓋前方の瘢痕組織を切除した。1 週後より起立歩行のリハビリを開始した。認知症
のため未だ自宅退院には至らず、リハビリ病院入院中であるが、起立、歩行などの機能は受傷前レベル
に達した。骨折型の分類、頚部骨折併発の原因、THA の適応などにつき検討する。
様々な合併症が発生した寛骨臼骨折の 1 例
北海道社会事業協会帯広病院
整形外科
高畑智嗣
寛骨臼骨折後に様々な重大合併症が発生し,最終的に患肢荷重不能となった症例を経験した.反省を
込めて経過を報告する.
症例は
61 歳男性.
2001 年 9 月 : 交通事故で受傷.右両柱骨折(AO 分類 C1 型)
入院安静とし,牽引しなかった.著しい疼痛のため患肢を挙上できず.
8 日後 : 骨折手術目的で硬膜外麻酔および挿管全麻.左下側臥位で患肢を挙上して消毒中に急変(血圧
低下,心電図 ST 低下),仰臥位にして救命処置.心停止2度.発症の 90 分後に挿管のまま心臓血管外
科病院へ搬送.転院先で開胸手術,肺動脈塞栓であった.救命に成功.下大静脈フィルター留置.
30 日後 : 当科で寛骨臼骨折手術.腸骨鼠径および後側方アプローチ.腸骨内側の骨折転位部の瘢痕剥
離中に静脈壁を破り,大出血した.プレート固定施行.手術時間 5 時間 19 分.術中出血 4850g.
手術の 11 日後 : 前方手術創が開き大量排液.その後緑膿菌が検出された.瘻孔はプレート部に達して
いた.
手術の 3 ヵ月後 : 瘻孔閉じる.CT で液体貯留なし.
手術の 5 ヵ月後 : 大腿骨頭壊死を発見.
手術の 8 ヵ月後 : CRP2〜3 に低下.抗生剤内服中止.
手術の 13 ヵ月後 : プレート抜去.股関節内に大量の米粒体.骨頭は著しい陥没.
抜釘手術の 1 ヵ月後 : CRP 陰性化,抗生剤内服中止.
抜釘手術の 1 年 9 ヵ月後 : THR 手術
THR 手術の 6 ヵ月後 : 臼蓋コンポーネントの中心性脱臼発見.
その 1 週後,前方手術創が開き排膿.コアグラーゼ陰性 staphylococcus(+)
THR 手術の 7 ヵ月後 : 高次病院で THR 抜去,術中大量出血で一時血圧 30mmHg,抗生剤セメントビーズ
留置.出血 6460g.
現在(THR 抜去後 12 ヵ月,寛骨臼骨折後 4.5 年) : 患肢荷重不能で立位には両松葉杖が必要.ほぼ車い
すの生活である.
寛骨臼両柱骨折についての検討
札幌医科大学高度救急救命センター
谷本勝正
土田芳彦
砂川市立病院
倉田佳明
平岩哲郎
野中伸介
整形外科
小幡浩之
【はじめに】
関節内骨折である寛骨臼骨折は、関節面の解剖学的整復と強固な内固定により早期関節可動訓練が遂
行されなければならない。しかし、寛骨臼骨折の中でも両柱骨折は関節面が多骨片化しており、また手
術視野に限界があるため、関節面を適切に整復し内固定することは困難なことも多い。今回我々は当セ
ンターで治療した寛骨臼両柱骨折の症例について検討し報告する。
【対象と方法】
当センターにて手術加療を施行した寛骨臼両柱骨折 6 例を対象とした。全例男性で、受傷時年齢は平
均 52 歳(27∼76 歳)であった。骨折型は、AO 分類で 62-C1 が 5 例で、C3 が 1 例であった。合併損傷は
5 例に上肢骨折を認め、さらにその 1 例には坐骨神経損傷も伴っていた。手術は全例 ilioinguinal
approach 単独にて施行した。受傷から手術までの期間は平均 7 日(4∼10 日)であり、原則的に術後 8
週から荷重を許可した。
以上の症例を対象として、単純X線像における術直後の関節面の整復度と最終経過観察時での関節症
性変化の有無を調査した。また臨床成績を最終経過観察時の JOA score(股関節)にて評価した。術後
経過観察期間は平均 11.5 か月(2∼24 か月)であった。
【結果】
1 例のみ関節面に 3mm 以上の偏位が残存した。関節症性変化を認めたものはなかった。JOA score は、
経過観察期間 2 か月の 1 例を除く 5 例で調査した。坐骨神経損傷を合併した 1 例は 33 点であったが、
他の 4 例はすべて 80 点以上(81、88、90、100 点)であった。
【考察】
自験症例においては、ilioinguinal approach 単独で関節面の整復を獲得されたものが多く、結果的
に比較的良好な臨床成績を獲得することができた。
Ilioinguinal approach の問題は後柱の整復にあり、
不十分な場合には Kocher-Langenbock approach を追加する combined approach が必要である。
治療に苦慮した骨盤開放骨折の一例
北見赤十字病院
整形外科 中川 宏士
治療に苦慮した骨盤開放骨折の一例を報告する
症例
30 才
男性
現病歴
H16 12/24 木工細工の機械に挟まれ受傷し当院に救急搬送
現症
左下腹部∼陰茎左∼陰嚢正中∼肛門∼仙骨部にかけ裂傷あり、膀胱、直腸、骨折した左恥骨が創部より
露出
X-p:両恥骨骨折
左恥骨骨折部で恥骨結合ごと右側へ転位
MMT:TA EHL EDL 3 FHL 2
FDL1
左腸骨が垂直方向へ転位
A-O 分類 C1.2
gastro2
知覚:S1,S2 領域に 2∼4/10 の知覚低下
その他:尿道完全損傷
精巣脱臼
直腸離断
経過
12/24 泌尿器科、外科、整形外科で合同手術。創外固定後、左脛骨より鋼線牽引。二期的に前弓と後弓
の内固定を予定したが、術後 4 日目頃より発熱、右鼠径部から創部にかけての発赤、骨盤腔内のドレー
ンより排膿等の感染兆候あり、前弓の内固定は困難と判断。1/12 手術試行し transiliac plate で後弓
の内固定と創外固定を行った。感染の沈静化を待って前弓の内固定を行う予定だったが、感染が長期化
したため骨接合を断念した。2/22 創外固定除去、立位歩行訓練を開始。5/21 退院となり外来フォロー
となった。
術後 1 年の現在、やや跛行を認めるものの独歩可能。左股関節の軽度の可動域制限、MMT で EHL、EDL、
FHL、FDL、gastro に 4 程度の筋力低下を認めた。
考察
骨盤の不安定性骨折に対し、transiliac plate を使用しての骨接合の報告は散見されるが、前方要素に
転位が残存したままフォローされている報告例はほとんどない。今症例では短期成績は良好であるが今
後も注意深く経過観察が必要である。
不安定型骨盤骨折症例の検討
札幌医科大学高度救命救急センター
土田芳彦、倉田佳明、谷本勝正、平岩哲郎、野中伸介
【はじめに】
不安定型骨盤骨折は整形外科外傷の中でも死亡率の高いものである。直接の死亡原因は頭部、胸部、
腹部外傷であることが多いが、骨盤後腹膜出血が悪影響をもたらしていることは確実である。今回我々
は、出血性ショックを伴う不安定型骨盤骨折について出血制御に影響を与える因子について検討したの
で報告する。
【対象と方法】
1996 年 11 月から 2005 年 5 月までに当センターに搬入された出血性ショックを伴う不安定型骨盤骨折
症例 27 例を対象とした。性別は男性 15 例,女性 12 例,受傷時平均年齢は 42.0 歳であり、受傷原因は
交通事故が 19 例、高所からの転落が 6 例、重量物の下敷きになるなどの労災事故が 2 例であった。以
上の 27 症例を Young-Burgess 分類に基づいて分類すると、LC 型が 8 例(LC2:7 例、LC3:1 例)
、APC 型 8
例(APC1:1 例、APC2:5 例、APC3:2 例)、VS 型が 11 例であった。以上の症例を対象として、各骨折型と
死亡率と死亡原因、合併損傷、出血制御法、年齢について検討した。
【結果】
27 症例のうち生存例は 14 例(52%)、死亡例は 13 例(48%)であった。骨折型別の死亡率は LC2 型
14%、LC3 型 100%、APC1/APC2 型 0%、APC3 型 100%、VS 型 81%で LC 3, APC 3,VS は ISS が高く、より高
エネルギー損傷であり、出血量および輸血量が多かった。また生存例の平均年齢が 33.6 歳であるのに
対して、死亡例は 51.1 歳と有意に高く、高齢者は予備能力が少なく死亡する確率が高かった。さらに
APC 型および VS 型に対する骨盤バンドあるいは創外固定の有効性(収縮期血圧が 20mmHg 以上昇)は、
生存例で 38%、死亡例で 36%であり、半数以上が骨盤固定によっても血圧の上昇を認めなかった。ま
た CT あるいは血管造影にて extravasation を認め TAE を施行したのは、LC 型の 100%、APC 型の 38%、
VS 型の 36%であり、全例において有効であった。
【考察】
不安定型骨盤骨折における出血源の 90%は静脈性出血あるいは骨折部からの出血であり、TAE を要す
る動脈性出血は数%に過ぎないと言われている。しかし、実際には外固定のみで血行動態が安定化する
症例は少なく、TAE が有効な動脈性出血の割合は高いものと考えられる。
当科における骨盤輪骨折の治療
市立札幌病院整形外科
松井裕帝
奥村潤一郎
本間信吾
佐久間隆
平地一彦
東裕隆
小林浩
片桐弘勝
(はじめに)当院には救命救急センターがあり骨盤骨折の搬入も多い。今回、当科におい
て骨盤輪骨折に対して治療を行った症例につき検討したので報告する。
(対象)2003 年 4 月より当院救命救急センターに搬入され、当科にて治療を行った骨盤骨
折は 26 例であった。その内訳は、寛骨臼骨折 8 例、不安定型骨盤輪骨折 18 例であった。
骨盤輪骨折に対して、初期治療として創外固定が 12 例、その後、創外固定を継続したもの
が 5 例であった。開放骨折は2例あり、何れもガーゼパッキングを行った。観血的治療は
仙腸関節脱臼に対する前方プレート 3 例、椎弓根スクリューによる後方固定 1 例、キャニ
ュレーテッドスクリューによる固定が 2 例、恥骨結合離開に対するプレート固定 3 例であ
った。骨盤輪骨折 18 例中早期死亡例 2 例を除いた 16 例のうち経過観察可能であった 13 例
につき検討した。
(結果)合併症として感染 2 例、異所性骨化を 1 例認めた。骨盤周囲の痛みは感染後変形
の著明な 1 例以外はみられていない。
(考察)最近当科でも、不安定性を認める骨盤輪骨折に対し積極的に内固定術を行う方針
である。仙腸関節脱臼に対する前方プレート固定は、神経損傷の危険性はあるが、強固な
固定が可能であり有用であった。