円筒絞り品におけるパンチ肩部の割れ

トラブル原因探索シート活用事例 1
円筒 例題
円筒絞り品におけるパンチ肩部の割れ
◇形状
加圧能力:800 kN(80 t)
円筒:直径 57 mm、高さ 20 mm
◇加工条件
ダイクッション:10∼50 kN(1∼5 t)
毎分ストローク数:30∼75 spm
〈金型〉
〈被加工材〉
円筒絞り型(単発手加工、ダイセットなし)
ブランクサイズ:直径 100 mm
〈機械仕様〉
公称板厚:0.
5 mm
クランクプレス
工程設定
材質:SPC−C(冷間圧延鋼板)
金型設計
金型製作
原 因 系 の 洗 い 出 し
パンチ・ダイ
絞り率が適正でない パンチ・ダイ
面粗度が粗い
絞り工程数不足
面粗度が粗い
直角度が悪い
直角度が悪い
平行度が悪い
平行度が悪い
R が小さい
R 形状が悪い
適正クリアランスで
径寸法不良
ない
金型の取付/
プレス加工中
金型の保守管理
製品の位置が決まら パンチ・ダイ
ない
焼付き
R の変形
しわ押えの動きが悪い
摩耗
上下金型の位置がず
しわ押え
れている
(クリアランスの偏り) 製品押え面の摩耗
しわ押えからパンチ しわ押えの動きが悪
しわ押え
しわ押え
が飛び出している
い
面粗度が粗い
面粗度が粗い
(無負荷時)
しわ押え力が強い
穴と面の直角度不良 締め付けボルトが緩 締め付けボルトが
穴と面の直角度不良
緩んでいる
んでいる
加工荷重中心位置が 各プレートの直角度、
各プレートのゆがみ
異物のかみこみ
平面度不良
ずれている
裏
付
け
方
法
各項目を測定機を使 ブランクとガイドの
図面より絞り率の確 パンチ・ダイ
認
各項目図面指示が適 用し各部品の寸法測 隙間を測定
部品単体および組み
定
切か確認
付け状態(プレスに
乗せる前の状態)で
パンチ・ダイ図面確
動きの確認
認
加工製品の肉厚分布
しわ押えの各項目図
を確認
組み付け状態でパン
面確認
チとしわ押えの位置
金型取り付け状態で
関係を測定
の図面確認
ボルトの締め付け状
態確認
異物付着確認
この事例に対する着眼点
∼ベテラン社員と若手社員の見方∼
若手社員とベテラン社員の両者が取り上げた要
因の中から金型を中心に原因を探索した。
パンチ・ダイ
各部品の状態確認
必要であれば顕微
鏡、測定機を使用
しわ押え
部品の状態確認
必要であれば顕微
鏡、測定機を使用
クズなどのかみこみ確認
ボルトの締め付け状
態確認
各部品の平面度およ
び凹み状態の測定
としわ押え力の設定値が適正かどうか金型図面指
示に着眼点を置いている。これらはベテラン社員
も同様であるが、ベテラン社員の場合はさらに各
部品の直角度や平行度など幾何公差の指示をして
いるかを注目しているのが特徴的である。また両
「工程設定」では両者とも絞り率を取り上げて
者とも取り上げてはいないが、生産量によっては
いるが、本事例の被加工材や板厚、ブランク径、
金型の耐摩耗性から型材質やコーティング処理も
絞り径を考慮すると、絞り率 57% と加工限界内
検討が必要と思われる。
で特に問題があるとは考えにくい。次に「金型設
「金型製作」では両者とも金型図面通りの部品
計」において、若手社員はパンチやダイの絞り R
が加工されているか、実物の品質確認を行ってい
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プ レ ス 技 術
ミヤマ精工㈱(〒472−0021 愛知県知立市逢妻町金山 16−1) ベテラン社員(経験年数 14 年)
不具合品は、
パンチ肩部で
割れ発生
通常品
被加工材
〈当社が得意とする絞り加工〉
○主要絞り製品
小物深絞り製品
○加工サイズ
φ100 mm 以下 板厚:1.2 mm 以下
材質:鉄、ステンレス、アルミニウム
○加工方式
トランスファ加工、順送加工、単発加工
プレス機械/
周辺機器
加工油/潤滑方式
板厚違い
加工速度の変化
加工油塗布量
材質違い
プレスの精度
加工油違い
板厚のバラツキ
スライド上下運動の
真直度
材料の面粗さが悪い
工場環境
その他
粉塵の付着
材料の欠陥(キズ、
ヘゲ)
板厚測定
spm を確認
現品表、ミルシート プレスの精度点検
による材質確認
板厚測定
(一定長さ間測定)
加工油塗布量が適正 ブランク材に異物付
か確認
着がないか外観確認
使用油の油種確認
油の成分検査
面粗度測定
外観確認
る。特にダイ R の R 形状と面粗さ、しわ押えの
ン力に注目している。しわ発生が材料のダイ内部
面粗さは材料をいかにダイ内に抵抗なく流動させ
への流動を妨げ、パンチ肩部が引張りにより破断
られるかがポイントとなるため重要である。
の起点になるからである。逆にダイクッション力
「金型の取付」では、上型のダイと下型のパン
が強過ぎても同様の現象が起きる。本事例の製品
チの位置関係によるクリアランスの偏りが挙げら
のフランジ状態を見てもしわの発生が確認できる
れているが、当然バランス良く全周が均一でなけ
ため、ダイクッション力が弱過ぎるのが原因と思
ればならない。ベテラン社員はプレス加工前に可
われる。
動する部品の作動確認を挙げており、ここではし
わ押えが該当部品となる。また、
「プレス加工中」
ではしわ発生の有無に影響を与えるダイクッショ
第 47 巻 第 11 号
(2009 年 10 月号)
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