2.肥効調節型肥料の利用による施肥量の削減

2.肥効調節型肥料の利用による施肥量の削減
1)肥効調節型肥料の特徴
肥効調節 型肥料と は1∼数 種の肥 料を混合 して、作 物の種類 や生育ス テージごとに
要 求される 肥料成分 や量に合 わせて 、肥効が 発現する ように調 節した肥 料をいう。こ
の 肥料を用 いること により、 全量元 肥栽培や 2作1回 施肥等が 可能とな り、施肥の省
力化が図れる 。また 、肥料効率が良く 、施肥量が削減でき環境への負荷を軽減できる 。
2)肥効調節型肥料に用いられる主な肥料
(1)被覆肥料
水溶性 の肥料を 樹脂など で被覆し 、肥効発 現の持 続期間を コントロールできる肥
料で 、コーテ ィング肥 料ともい う。被覆 材の厚 さや性質 を変える ことで肥料成分の
溶出を調節できる。
①被覆肥料の種類
a.被覆資材による分類
表A−10 被覆資材による分類
被 覆 資 材
主な被覆肥料
樹脂系 熱可塑性 ポリエチレン LPコート、ロング、
ポリスチレン Mコート
熱硬化性 アルキッド
セラコート、シグマコート
フェノール
コープコート
無機系
硫黄
SCコート
b.肥効パターンによる分類
<リニア型>
初期から直線的に溶出する
<シグモイド型>
初期の溶出が一定期間抑制され
た後溶出する
<放物線型>
初期に溶出割合が高い
図A−2
被覆 肥料の 溶出パ ターン と溶出率の推移
(肥料便覧より)
c.溶出日数による分類
溶 出 日 数 は 25℃ 湛 水 条 件 化 に
お い て 窒 素 の 80% が 溶 出 す る の
に必要な日数であり、畑条件で
はやや遅れる。
図A−3
25℃水 田条件下 にお ける窒素 の溶 出モデル曲線(例:LPコート)
(現場の土づくり・施肥より)
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d.特徴
被覆 肥料の溶 出は地温 に影響さ れ、地温 が高いほ ど溶出速度が速くなる。
②化学合成緩効性肥料
肥料 そのもの が水に 溶けにく く微生物 の分解を 受けにく いため、 長期にわたっ
て少し ずつ肥料 成分が溶 け出す肥 料のこと 。現在 市販され ているものはIB、C
DU 、UF( ウレアホルム )、GU( グアニル尿素 )およびオキサミドの5種類 。
表A−11
種
類
IB・IB入り肥料
化学合成緩効性肥料の種類と性質
性
質
吸湿 性は低く、水にも少しずつ溶ける。粒の大きさによって溶解
速度 が異なる。スーパーIBはIBより肥効が長期間持続する。
水稲 で100日、畑状態で120日程度。
CDU・CDU入り肥料
土壌 pHが低い場合は主に加水分解、高い場合は微生物によって
分解 される。加水分解の速度は土壌pHが1下がると10倍速くな
る。 濃度障害、ガス障害、養分の流亡などの心配がなく、肥効が
高い 。
UF・UF入り肥料
GU・GU入り肥料
分解 は加水分解で、分解速度は酸性土壌ほど速い。
分解過程は不明な点が多いが、畑では分解が遅く、水田で還元状
態が進むと分解が促進される。微生物により分解されるため、殺
菌し た土壌では分解が進まない
オキサミド
おもに微生物によって分解され、アンモニア態窒素となり、土壌
を滅菌すると分解は抑制される。畑土壌では水田土壌より分解は
速い 。
③硝化抑制剤入り化成肥料
消化抑制 剤(土壌 中の硝酸 化成作用 を抑制す る)を 添加した肥料で、土壌中で
ア ンモニア 態窒素が 硝酸態 窒素に変 化するの が抑制さ れる。こ のため、硝酸態窒
素が徐 々に供給 され、 窒素の溶 脱、ある いは脱窒 による損 失を少な くし、肥料効
率を高めることができる。
現在 、市販の消化抑制剤入り肥料に用いられている主な化合物は 、次の5種類 。
Dd(ジシアンジアミド )、 ST(スルファチアゾール )、
ASU(グアニルチオウレア )、ATC(4-アミノ-1,2,4-トリアゾール塩酸塩)
DCS(N-2,5-ジクロルフェニルサクシナミド酸 )、
3)肥効調節型肥料利用上の留意点
(1)種類 により肥 料成分の 溶出パタ ーンが異 なるた め、作物 の生育パ ターンに合った肥
料(各品目にあった専用肥料が市販)を用いる。
(2)被覆 肥料が原 料の場合 、肥料成 分の溶出 速度は 温度の影 響を受け 、高くなると溶出
が早まる。
(3)基本的な土づくりを実施する。
(4)施肥後はなるべく早く耕起し、長時間の日光(紫外線)の被爆は避ける。
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4)水稲の全量元肥栽培
(1)技術の特徴
水稲栽培 において 、元肥 と追肥と して通常 3回から 5回に分 けて実施 される施肥を
緩 効性肥料 (徐々に 肥効の 現れる肥 料)を組 み合わせ て用いる ことによ り、元肥施用
時 の1回に 省力でき るとと もに、土 中に施肥 するため 、肥料効 率が向上 し施肥窒素量
を1割から2割程度削減できる。
(2)技術の具体的方法
施肥に当 たっては 、通常 の速効性 肥料に替 えて元肥 一発肥料 (緩効性 肥料と速効性
肥料を品種の生育特性に基づき適度に配合した肥料)を利用する。
現在 、市販されている元肥一発肥料は早生用 、ヒノヒカリ用 、ヒヨクモチ用であり 、
作付をする品種にあわせて、肥料を選定する。
施肥量は 、速効性 肥料で の施肥体 系に比べ 、圃場条 件や作付 体系によ るが、総窒素
施用量として1割から2割程度減肥して、元肥に一括して施用する。
(3)技術上の留意点
①水 稲の品種 毎に、そ れぞれ の生育ス テージに 合致した 窒素の溶 出パターンの緩効
性肥料を選定して使用する。
②元肥に 一括して 施肥を 行うため に、元肥 の施用に 当たって は施肥ム ラがないよう
に均一に散布する。
③肥 効の発現 は温度の 影響が大 きく、初 期生育 がやや遅 れ肥効が 後効きする場合も
あり、 特に低温 年には 肥効の遅 延が大き く、穂数 不足や登 熟阻害、 玄米蛋白含量
の増加による食味低下が見られることがあるので施肥には特に注意する。
④最高分 げつ期頃 より肥 効の発現 がみられ 、年次に よっては 過繁茂や 受光体勢の悪
化、い もち病や 紋枯病 、コブノ メイガ等 の発生が 助長され る場合が あり、病害虫
の発生には特に注意し、的確に防除する。
⑤生育時 期によっ ては、 葉色が淡 くなる場 合も見ら れるが、 追肥や穂 肥の施用は行
わない。
(4)導入事例
担い手の減少や高齢化にともなって、元肥一発肥料の利用は年々増加している。
表A−12 県内で販売されている水稲用全量元肥用肥料の普及状況(%)
9年産
3.4
10年産
11年産
12年産
13年産
14年産
4.7
11.3
12.0
15.2
17.9
(経済連肥料農薬推進資料より:元肥一発肥料の合計)
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5)野菜・花き・果樹類の肥効調節型肥料を用いた減肥栽培
(1)技術の特徴
現在、 本県では 野菜用 に肥効調 節型肥料 を用いた 全量元肥 用、ある いは2作1回
用肥料が 開発、市 販され ている。 野菜栽培 、特に施 設栽培で は施肥回 数が多くなる
が、この 肥料を用 いるこ とにより 施肥の省 力化が図 れるとと もに、施 肥量が1∼2
割程度削 減できる 。また 、露地で マルチ栽 培する場 合は、追 肥ができ ないが全量元
肥肥料を施用することにより生産が安定する。
(2)具体的方法
現在、肥 効調節型 肥料を 用いた全 量元肥栽 培あるい は2作1 回施肥栽 培が可能なこ
と が確認さ れている 品目は 次のとお りである 。このう ち、全量 元肥用の 肥料は専用肥
料として、市販されている。
表A− 13
専用の 肥効調節 型肥料が市販されている主な品目(H15年3月現在)
種類
品目名
全量元肥用
野菜
丸トマト 、ナス 、イチゴ 、タマネギ( マルチ )、
花き
キク、ホオズキ、
果樹
温州ミカン、日本ナシ、
2作1回用
小ネギ
(3)全量元肥栽培を前提とした肥効調節型肥料利用上の留意点
①対象作物以外では使用しない。
肥効 調節型肥 料を用 いた全量 元肥肥料 は、対象 作物の栽 培時期、 環境に適応す
るよう に肥効パ ターン を調節し ているた め、対象 作物以外 では使用 できない。ま
た、対象作物でも作型、栽培環境条件が異なる場合には使用できない。
②施肥ムラのないように散布する。
作物 に必要な 肥料分 の全量を 元肥に施 用するた め、施肥 ムラは生 育のバラツキ
の原因となる。施肥ムラのないように散布する。
③設定さ れた栽培 環境( 施肥後定 植までの 期間や畦 ベタ掛け の有無な ど)を守る。
設定 された栽 培環境 と異なる 条件下( 施肥から 定植まで の期間が 異なる等)で
は、期 待どおり の肥効 が得られ ない。期 待した肥 効を得る ためには 、当初設定さ
れた栽培環境を厳守する。
④基本的な土づくりを実施する。
肥効 調節型肥 料によ る全量元 肥施肥は 地力を補 完する施 肥技術と 言える。した
がって 、地力維 持の有 機物施用 やpHの 矯正、塩 基バラン スの適正 化等の土づく
りは必ず実施する。
⑤施肥後なるべく早く耕起、畦立てを行い、長時間の直射日光の被爆は避ける。
肥効 調節型肥 科に含 まれる被 覆(コー ティング )肥料は 、日光( 紫外線)によ
って崩 壊する。 したが って、施 肥後耕起 や畦立て が遅れ、 長時間直 射日光に当た
ると、 当初設定 した肥 料溶出パ ターンよ り溶出が 早くなり 、期待ど おりの肥効が
得られない。
⑥表層施用の場合、わら類や堆肥等で軽く被覆すると肥効が安定する。
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6)茶樹における緩効性肥料の利用
(1)技術の特徴
緩効性肥 料は速効 性の化成 肥料よ りも肥効 の持続す る期間が 長いため 、基肥として
の 効果が高 く雨によ る施肥 成分の流 亡が少な い。また 、有機質 肥料と比 較して、肥料
成分の溶出のコントロールが確実であり、肥効が安定している。
成分率が高いために施用量が少なくなり、施肥労力が軽減される。
(2)技術の具体的方法
①緩効性 肥料は被 覆肥料 (LP等 )やCD U、IB 等の商品 名で使用 されている。
これら の肥料資 材は、 通常の化 成肥料よ りも肥効 の発現が 緩やかで 、施肥効果の
持続期間が長い。
②通常の 施肥体系 では夏 場の追肥 は化成肥 料で行い 、秋と春 の基肥と して有機配合
肥 料 を 用 い て い る こ と が 多 い が 、 100日 タ イ プ の 緩 効 性 肥 料 を 基 肥 時 に 成 分 量 の
3割程度混用して用いる。
(3)技術または導入上の留意点
①被覆肥料は低地温では肥料成分の溶出がおそくなるため、地温に注意する。
②速効性を期待する場合には、必要に応じて速効性の化成肥料を混用する。
③一般の化成肥料よりも値段が高い。
④肥料成 分溶出速 度の設 定が何種 類かある ため、速 効性が必 要な場合 ほど溶出速度
が短期間のタイプを用いる。
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