25 第 4 章 有限群の基礎 4.1 類等式 • 群 G の元 g によって定義される写像 σg : G → G, σg (x) = gxg −1 は G からそれ自身への群として の同型写像を与える。これを元 g による G の内部自己同型という。 • 群 G の2元 x, y は、適当な内部自己同型で移り合うときに互いに共役 (conjugate) であるという。 すなわち、gxg −1 = y となる g ∈ G が存在するときである。 • 群 G の元 x に対して x と共役な G の元全部の集合 K を x の共役類という。すなわち K = {gxg −1 | g ∈ G} と表される。群 G はいつでもその共役類に類別ができる。特に G が有限群のとき には、有限個の共役類 K1 , . . . , Kr があって、G が互いに共通部分を持たない和として K1 ∪ · · · ∪ Kr と表される。 • 群 G の元 x に対して CG (x) = {g ∈ G | gxg −1 = x} とおいて、これを G における x の中心化群 (centralizer) という。G が有限群であるとき、x を含む共役類の要素の個数は [G : CG (x)] に等し い。特に、これは |G| の約数である。 • x ∈ G を含む共役類が {x} (ただ一つの元から成る)ときは、G = CG (x)、 すなわち x が G の中 心 Z(G) に属するときである。 • G を有限群とし、G = K1 ∪ · · · ∪ Kr をその共役類への分割とする。各 Ki から元 xi を一つずつえ らんで、 r |G| = |K1 | + · · · + |Kr | = [G : CG (xi )] i=1 となる。 ただ一つの要素から成る共役類の全部が K1 , . . . , Ks であり、Ks+1 , . . . , Kr は二つ以上の要素を持 つ共役類であるように取っておくと、G の中心 Z(G) は {x1 , . . . , xs } となるから、上の等式は、 r |G| = |Z(G)| + [G : CG (xi )] i=s+1 となる。(右辺の第2項の各数は1より大きい |G| の約数であることに注意。)この等式を類等式と いう。 問題 4.1.1 3次の対称群 S3 を共役類に分割し、その類等式を書け。 問題 4.1.2 2面体群 Dn を共役類に分割し、その類等式を書け。 第 4 章 有限群の基礎 26 問題 4.1.3 対称群 Sn の元 σ は巡回置換の積として、 σ = (i1 · · · ir )(j1 · · · js ) · · · (k1 · · · kt ) と表すことができる。ただし、右辺の巡回置換たちは互いに素(共通の文字を含まない)で、 r s ... t である。このとき、自然数列 (r, s, . . . , t) を σ の型 (type) という。たとえば、置換 (12)(34) は (2, 2) 型、 (123) は (3) 型である。 対称群 Sn の2元が互いに共役であるための必要十分条件は、それらが同じ型を持つことである。これ を証明せよ。 問題 4.1.4 対称群 S4 , S5 の類等式を書け。 問題 4.1.5 H が G の正規部分群であるとき、H は G の共役類のいくつかの和集合となることを示せ。 問題 4.1.6 交代群 A4 、A5 の類等式を書け。 問題 4.1.7 前の2問を使って、A5 が単純群であることを示せ。すなわち、A5 の正規部分群は {e}、A5 以外にはない。 問題 4.1.8 交代群 A4 の類等式から A4 の正規部分群を全て決定せよ。 問題 4.1.9 |G| = p が素数のとき、この G の類等式を書くことによって、G がアーベル群となることを 示せ。 問題 4.1.10 p を素数として G の位数が pn であるとき、この G の類等式を書くことによって、中心 Z(G) が Z(G) = {e} となることを証明せよ。 問題 4.1.11 p を素数として G の位数が p2 であるとき、G はアーベル群であることを示せ。 第 4 章 有限群の基礎 4.2 27 シローの定理 Peter Ludvig Sylow, 1832 – 1918, はノルウェーの数学者。有名なシローの定理は 1872 年に Math. Ann. に発表された。 以下この節では有限群のみを扱う。 • 群 G の位数が素数 p のべきであるとき、群 G を p 群であるという。 • 群 G の位数が |G| = pn q (ただし q は p で割れない数)とかけるとき、位数が pn であるような G の部分群を p-シロー部分群 (p-Sylow subgroup) と言う。 • Sylow の定理 (1) H を G の p-部分群であるとする、この H を含む p-Sylow 部分群が必ず存在する。とくに p が |G| を割る素数のとき、G には p-Sylow 部分群が存在する。 (2) G の二つの p-Sylow 部分群は互いに共役である。すなわち H と K が G の p-Sylow 部分群で あるとき、G の元 x があって xHx−1 = K となる。 (3) G の p-Sylow 部分群の個数は、p を法として 1 に等しい。 問題 4.2.1 Sylow の定理を証明せよ。(群論の教科書を参考にせよ。) 問題 4.2.2 位数が15の有限群は巡回群であることを示せ。同様に位数が35の群も巡回群であることを 示せ。 問題 4.2.3 p と q が素数で p > q であるとき、位数 pq の群 G について、G は位数が p の正規部分群を 含むことを証明せよ。 問題 4.2.4 位数が1001の群は巡回群に限ることを証明せよ。 問題 4.2.5 位数が14の群は2面体群 D7 または巡回群のどちらかに同型であることを示せ。 問題 4.2.6 位数が21の群は巡回群もしくは2元 x, y で生成され基本関係式が x3 = y 7 = e, yx = xy 2 で 与えられる群に同型であることを示せ。 問題 4.2.7 p と q が異なる素数であるとき、位数が p2 q の群は必ず正規部分群であるような Sylow 部分 群を含むことを示せ。 問題 4.2.8 位数が10までの群を全て決定せよ。 問題 4.2.9 D6 の全ての Sylow 部分群を求めよ。 問題 4.2.10 位数が30または42の群は必ず正規な Sylow 部分群を持つことを証明せよ。 問題 4.2.11 位数が12の群を全て決定せよ。 第 4 章 有限群の基礎 28 問題 4.2.12 G が位数231の群であるとき、その 11-Sylow 部分群は G の中心に含まれることを証明 せよ。 問題 4.2.13 位数が20449の群はアーベル群であることを示せ。 問題 4.2.14 位数が72の群 G は単純群ではないことを示せ。すなわち、G には自明でない正規部分群が 存在しないことを示せ。(ヒント:G の 3-Sylow 部分群の正規化群 H を考えよ。) 問題 4.2.15 位数が60の単純群は交代群 A5 のみであることを証明せよ。 (ヒント:まず位数が12の部分群 H が存在することを見て、準同型 G → Autset (G/H) を考える。) 第 4 章 有限群の基礎 4.3 29 有限アーベル群 以下この節では有限アーベル群のみを扱う。したがって、群の演算は和で表す。 • 「中国式剰余定理 (Chinese Remainder Theorem)」 n と m が互いに素(最大公約数が1)のとき、次のアーベル群の同型がある: Z/nmZ ∼ = Z/nZ × Z/mZ この同型は am + bn = 1 となる整数 a, b を取って、[x] に ([ax], [bx]) を対応させることで得られる。 n と m が互いに素でない場合には、Z/nmZ と Z/nZ × Z/mZ は同型ではないことに注意しよう。 実際、 を n と m の最小公倍数とすると、群 Z/nZ × Z/mZ の任意の元は位数が高々 であるが、 Z/nmZ には位数 nm(= ) の元がある。 • 「有限アーベル群の基本定理」 任意の有限アーベル群 G は有限巡回群の直積に分解される。 ∼ Z/n1 Z × Z/n2 Z × · · · × Z/nr Z G= ここで、たとえば n1 と n2 が互いに素ならば中国式剰余定理によって、この右辺は、Z/(n1 n2 )Z × Z/n3 Z × · · · × Z/nr Z とまとめられることに注意しよう。 • 有限アーベル群の基本定理と中国式剰余定理を使えば、位数が与えられた有限アーベル群を決めるこ とは容易である。たとえば、位数8のアーベル群は同型を除いて、Z/8Z, Z/4Z × Z/2Z, Z/2Z × Z/2Z × Z/2Z の3種類である。 問題 4.3.1 中国式剰余定理を証明せよ。(上記「中国剰余定理」の項で与えた写像が群の同型になること を見ればよい。) 問題 4.3.2 次の方針にしたがって有限アーベル群の基本定理を証明せよ。 (a) 群 G の位数 n が n = rs (ただし r と s は互いに素)となっている場合、Gr = {x ∈ G| r · x = 0}, Gs = {x ∈ G| s · x = 0} とおいて、写像 f : Gr × Gs → G を f ((x, y)) = x + y と定義すると、 これは群の同型を与えることを証明せよ。 このことから、定理を証明するためには n = p (ただし p は素数)としてよい。そこで以下では、 アーベル群 G について |G| = p ( > 0) とする。 (b) pG = {p · x| x ∈ G} と置くとき、pG は G の部分群で G = pG であることを示せ。また、G/pG の 0でない任意の元の位数は p である。 (c) G/pG は巡回群 Z/pZ のいくつかの直積に同型であることを証明せよ。(Z/pZ は体である。また、 G/pG は体 Z/pZ 上のベクトル空間であることに注意せよ。) 第 4 章 有限群の基礎 30 (d) G/pG ∼ = Z/pZ である時には、G は巡回群であることを示せ。(G/pG ∼ = Z/pZ の生成元を α( mod pG) とするとき、G が実際に α で生成される巡回群となることを言う。任意の x ∈ G につい て、x = r0 α + px1 (0 r0 < p, x1 ∈ G) と書ける。するとこの x1 についても x1 = r1 α + px2 (0 r1 < p, x2 ∈ G) と書ける。以下繰り返して、p G = 0 に注意すればよい。) (e) G/pG が r 個の Z/pZ の直積に同型であるとき、G は r 個の巡回群の直積に同型であることを証明 せよ。((d) の方法を拡張せよ。) 問題 4.3.3 問題 4.2.13 で見たように位数が 20449 の群は全てアーベル群である。このことから、位数が 20449 の群は全部で何種類あるか? 問題 4.3.4 位数が 32 , 64 のアーベル群はそれぞれ同型を除いて全部で何種類あるか?一般に位数が素数 べき p であるようなアーベル群は同型を除いて何種類あるか? 問題 4.3.5 p を素数とする。群 Z/p2 Z × Z/p3 Z の中に位数が p2 の部分群は何個あるか? 問題 4.3.6 有限アーベル群 G に対して次の性質を満たすような(正規)部分群の列がとれることを証明 せよ。 G = G0 G1 G2 ··· Gr−1 Gr = {0} ただし、各剰余群 Gi /Gi+1 は素数位数の巡回群である。 問題 4.3.7 無限アーベル群で巡回群の直積とは決して同型とならない群の例をあげよ。すなわち無限群の 場合には有限アーベル群の基本定理に相当するものは成立しない。 第 4 章 有限群の基礎 4.4 31 可解群 • 群 G の2元 a, b に対して、[a, b] = aba−1 b−1 とおき、a, b の交換子という。a, b が可換であること と [a, b] = e となることは同値である。 • G の部分群 H, K について [H, K] を {[h, k]| h ∈ H, k ∈ K} で生成された部分群を表す。[H, K] の一般の元は有限個の交換子の積であって、一つの交換子として表されるとは限らない。 • D(G) = [G, G] と置き、これを G の交換子群という。D(G) は G の正規部分群であり、G/D(G) は アーベル群である。 • 交換子を取る操作を繰り返して、D2 (G) = D(D(G)), D3 (G) = D(D2 (G)), . . . , Dn (G) = D(Dn−1 (G)) と定義する。Dn (G) は全て G の正規部分群であり、G D(G) D2 (G) ... n D (G) が成立する。 • Dn (G) = {e} となる数 n が存在するとき、G を可解群であるという。 「可解」という名前はガロア理論による方程式の可解性と関係している。 • G が可解であるための必要十分条件は次の性質が成り立つことである。 「G の部分群の列 G = H0 H1 H2 . . . Hn = {e} で、各 Hi は Hi−1 の正規部分群かつ各 Hi−1 /Hi がアーベル群となるものが存在する。」 • 可解群については次の二つの定理が有名である。 – (Burnside の定理) |G| = pn q m (ただし p, q は素数)のとき、G は可解群である。 – (Feit-Thompson の定理)奇数位数の有限群は可解である。 (どちらの定理の証明も容易ではない。とくに Feit-Thompson の定理の原証明は数百ページを要す る膨大なものである。) 問題 4.4.1 群 G の元 a, b の交換子について次のことが成立することを確かめよ。 (a) [a, b]−1 = [b, a] (b) ab = ba ⇒ [a, bc] = [a, c] (c) f : G → G が群の準同型であるとき、f ([a, b]) = [f (a), f (b)] 問題 4.4.2 群 G の交換子群 D(G) について次のことを証明せよ。 (a) D(G) はいつも G の正規部分群である。 (b) G/D(G) はいつもアーベル群である。 (c) N が G の正規部分群で G/N がアーベル群となるならば、N 問題 4.4.3 D(G) である。 (a) G が可解群ならばその部分群も可解であることを示せ。 第 4 章 有限群の基礎 32 (b) また、G が可解で、N がその正規部分群であるとき、G/N も可解であることを示せ。 問題 4.4.4 n 次2面体群 Dn についてその交換子群 D(Dn ) を求めよ。Dn は可解群であるか? 問題 4.4.5 3次、4次の対称群 S3 , S4 は可解群であることを証明せよ。 問題 4.4.6 n が5以上の整数のとき、n 次交代群 An が単純群(自明でない正規部分群を持たない群)で あるということを既知として、5次以上の対称群 Sn は可解群でないことを示せ。(ヒント:任意の i > 0 について Di (Sn ) = An となることを見よ。) 問題 4.4.7 N が G の正規部分群で N と G/N がともに可解ならば、G も可解であることを証明せよ。 問題 4.4.8 Burnside の定理を仮定して、位数が60より小さい有限群は可解群であることを示せ。 問題 4.4.9 GL(n, C) の上三角行列全体からなる部分群 B は可解群であることを示せ。また、GL(n, C) 自身は可解であるか? 第 4 章 有限群の基礎 4.5 33 巾零群と p 群 • 群 G の部分群の列 G Γ1 (G) Γ2 (G) ... Γn (G) ··· を Γ1 (G) = [G, G], Γ2 (G) = [G, Γ1 (G)], . . . , Γn (G) = [G, Γn−1 (G)] と次々に交換子群をとってでき る列とする。この列を降中心列と言う。 • 降中心列において、Γn (G) = {e} となる n が存在するとき、群 G を巾零群という。 • G の正規部分群の列 {e} = Z0 (G) Z1 (G) Z2 (G) ··· Zi (G) ··· を Z1 (G) は G の中心、Z2 (G)/Z1 (G) は G/Z1 (G) の中心、· · · 、Zi+1 (G)/Zi (G) は G/Zi (G) の中 心というように定める。この列を G の昇中心列という。 • p を素数として位数が p のべきであるような群のことを p 群という。p 群は巾零群である。 また、任意の巾零な有限群はいくつかの p 群の直積であることが知られている。 問題 4.5.1 群 G において次のことが成立することを示せ。 (a) 各 Γi (G) は G の正規部分群である。 (b) 各 i について、Γi−1 (G)/Γi (G) は G/Γi (G) の中心に含まれる。 問題 4.5.2 一般に巾零群は可解群であることを証明せよ。 問題 4.5.3 対称群 S3 及び S4 についてその降中心列と昇中心列を計算せよ。 問題 4.5.4 群 G が巾零群であるための必要十分条件は、G の昇中心列において Zn (G) = G となるよう な自然数 n が存在することである。これを証明せよ。 問題 4.5.5 p 群は巾零群であることを証明せよ。 問題 4.5.6 任意の p 群は巾零であることを使って、位数が p2 の群はアーベル群であることを示せ。 問題 4.5.7 群 G の位数が p3 で G はアーベル群でないとする。(ただし、p は素数。)このとき、交換子 群 [G, G] は G の中心と一致し、その位数は p であることを証明せよ。 問題 4.5.8 有限群 G において、その Sylow 部分群が全て正規部分群であるとき、G は巾零群であること を示せ。とくに、 p 群の直積は巾零である。
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