特 集 特集 群噴孔ノズルを用いた排出ガス低減へのアプローチ* A Successful Approach to Reduce Emissions Using a Group Holes Nozzle 西島義明 増 田 誠 佐 々 木 覚 大島健司 Yoshiaki NISHIJIMA Makoto MASHIDA Satoru SASAKI Kenji OSHIMA The Common Rail System, (CRS), has revolutionized diesel engines. DENSO has been working on CRS technologies since they were first developed. This report describes the technology to simultaneously reduce NOx and PM through an innovative Group Holes Nozzle concept. We can obtain a more homogeneous, lean air-fuel mixture through Group Holes Nozzles, and by the addition of a cooled EGR, achieve pre-mixed combustion. This has underscored the potential in clearing future emission standards. Key words : Diesel engine, Fuel injection, Nozzle, Spray, Common Rail System, Pre-mixed combustion 1.はじめに Diesel technologies デンソーは1995年に世界で始めてCRS(Common 1st step 1)2) Rail System) の生産を開始し,その後も着実な技術 開発を進めてきた.2002年には180MPaという高噴射 • Pre-mixed combustion 圧を可能にしたCRSの生産を開始した.本システムを - Common rail technologies - EGR cooler, Intercooler (Reducing compression ratio) 搭載した乗用車(4cyl,2L)は比出力50kW/Lを持ち, DPF無しでEURO4規制をクリアしている.しかし, より一層厳しくなる排出ガス規制に対し,エンジンア ウトでの排出ガス有害成分をどれだけ低減できるかが 重要なポイントである.これは後処理の負担を軽くし, 2nd step ディーゼルエンジンの更なるクリーン化を導くからで • Catalyzed DPF ある. 本研究では,新しいノズルコンセプト「群噴孔ノズ 0.04 ル」を提案し,次期排出ガス規制への対応の可能性を 調べた.群噴孔ノズルによる良好な貫徹力,高拡散均 0.03 示した. 2.排出ガス規制に対するシナリオ PM (g/km) 一噴霧を用いてNOxとPMが同時に低減できることを EURO4 BASE 0.02 1st step 2nd step Fig. 1に,排出ガス規制に対する二つのステップか 0.01 らなるシナリオを示す. Future regulation 0 第1ステップ: 0.1 0.2 NOx (g/km) 予混合燃焼にてPMを増加させることなく,NOx Fig. 1 Scenario for emission regulation の発生量を大幅に抑制する. 第2ステップ: Catalyzed DPF(Diesel Particulate Filter)にて PMを大幅に低減する. エンジンコストの増加を抑えるために,NOx低減 には触媒を適用せず,予混合燃焼によりNOx排出量 を抑制する. *(社)自動車技術会の了解を得て,「2005年春季大会学術講演会前刷集」No. 46-05,233より転載 −29− 0.3 デンソーテクニカルレビュー Vol.11 Fig. 2に上記のシナリオに関するEMS(Engine No.1 2006 ③ Aftertreatment: Management System)を示す.システムは次の三つ ・Catalyzed DPF のグループから構成されている. ・Exhaust gas temperature sensor ・Exhaust differential pressure sensor ① Pre-mixed combustion: ・Common rail components Fig. 3に燃焼温度と当量比の関係におけるNOxと (Injector, High-pressure pump, Rail, ECU, Sensors) PMの発生領域を示す.従来燃焼では,その燃焼領域 ・EGR cooler がNOxとPMの発生領域に大きく入り込んでいる.これ ・Intercooler に対して,NOxとPMの同時低減が可能である予混合燃 ② Air management: 焼を成立させるために,局所当量比の低減(均一希薄 ・Air flow meter 混合気形成)と低温燃焼を実現しなければならない. ・Throttle body (DC motor) 局所当量比の低減には,高圧噴射,ノズルニードル ・Manifold pressure sensor の高応答性,小噴孔径といった技術が有効である.た ・EGR valve (DC motor) だし,小噴孔径については微粒化とペネトレーション ・UHEGO sensor とのトレードオフがある.これを打破すべく「群噴孔 ノズル」を均一希薄混合気形成に対する新しい噴射系 要素技術として提案する. 1 2 EGR cooler EGR valve Intercooler 2 Air flow meter 2 Thrott le body (DC motor) 3 Manifold pressure sensor Substrate (cordierite) Exhaust gas temperature sensor Differential pressure sensor 1 Pre-mixed combustion 2 Air management 1 Common rail system Injector High-pressure pump Rail Engine control unit 2 3 Aftertreatment UHEGO sensor Fig. 2 Engine management system Technologies More homogeneous spray Pre-mixed combustion area Concerns • Higher injection pressure 5 Soot • Higher response injector Equivalence ratio 4 3 2 Lower local Equivalence ratio Conventional combustion Injector technologies Pre-mixed combustion Lower local Combustion temperature Gasoline 1 2000 Low temperature combustion • EGR cooler, Intercooler NOx 1400 • Smaller nozzle holes - Group holes nozzle • Reducing compression ratio 2600 Combustion temperature (K) Fig. 3 Region of NOx and PM −30− 特 集 3.群噴孔ノズルによる噴霧形成技術 3.1 Single hole 群噴孔ノズル Two-hole-group Three-hole-group Hole configuration Fig. 4に群噴孔ノズルのコンセプトを示す.従来の ノズルと基本構造に変更はない.各々の噴孔の噴孔面 Hole dia. x Number 積が各々の小径噴孔群の噴孔面積の総和と同じになる Hole layout ように置き換えて構成する.小噴孔径化は微粒化を促 Hydraulic flow (cm3 / min) 進する.しかし,単なる小径多噴孔ノズルではペネト φ 0.127 14 径噴孔をグループ化して良好なペネトレーションを回 12 φ 0.078 x 3 Parallel 810 Single hole レーションが抑制される.これを克服するために,小 φ 0.090 x 2 Two-hole-group Three-hole-group 小さな噴霧粒径を保ちつつ,噴霧の拡がり,ペネト SMD (µm) 10 復しようとしたのが,このノズルのコンセプトである. 8 6 レーションの維持により空気利用率が向上する.予混 4 合燃焼に必要とされる理想の均一希薄混合気形成を実 2 #1 0 現する可能性を向上させるものである. #2 #3 #1 φ 0.127 #2 #3 #1 φ 0.090 x 2 #2 #3 φ 0.078 x 3 More group holes = better atomization (smaller dia.) Injector Measurement condition Group holes nozzle (Multiple small holes) Conventional nozzle Fuel pressure: 80MPa Ambient temperature: 293K 0.5ms after injection start (Single large hole) Measuring point Group holes #1 Nozzle Fig. 5 Nozzle specifications and SMD Fig. 4 Group holes nozzle concept 3.2 #3 #2 3) Fig. 6にLIEF(Laser Induced Exciplex Fluorescence) 群噴孔ノズルの特性 噴霧粒径SMD(Sauter Mean Diameter)測定と高温 による噴霧観察に用いた実験装置を示す.ステレオス 高圧場での噴霧観察を行った.Fig. 5に評価対象とし コープをCCDカメラに装着し,噴霧の液相と気相の たノズル仕様と噴霧粒径測定結果(SMD)を示す. 同時撮影を可能にした. 従来ノズル(d=φ0.127;単孔×8)と,ノズル流量 を同じにした2種類の群噴孔ノズル(d=φ0.09;2 Injector 孔×8群,d=φ0.078;3孔×8群)を選んだ.噴霧 Nd: YAG laser 粒径測定結果(SMD)の測定方法はLDSA(Laser Diffraction Sizing Analyzer)である.測定箇所はFig. 5 に示した3点(噴霧中間点2箇所,噴霧先端)である. Band-pass filter SMDはノズル形態によらず噴孔径に依存し,従来ノ Mirror Stereoscope ズルと同様に噴孔径を小さくするほど小さくなってい る.群噴孔により噴霧の密度が高くなっているが,合 Intensified CCD camera 体などにより微粒化が阻害される現象は認められない. Ambient pressure 5MPa Ambient temperature 873K しかし,一般的には小噴孔径化による微粒化の促進 はペネトレーションの抑制を招く.そこで群噴孔ノズ ルの高温高圧場におけるペネトレーション解析を行 Injection pressure 80MPa った. Photographic time 0.7ms after injection start Fig. 6 Experimental apparatus −31− デンソーテクニカルレビュー Vol.11 Fig. 7に噴霧観測結果を示す.下段に示した群噴孔 No.1 2006 上段の図が単噴孔ノズル(d=φ0.09mm),下段の ノズルは,直径d=φ0.09mmの噴孔を平行に並べたも 図が群噴孔ノズル(2孔/群,d=φ0.09mm)である. の,噴霧中心部の黒色部分が液相,液相周辺の気相を 計算codeにはAVLのFIRE(Version 8.3)を使用した. 当量比に応じて色別に示してある. 群噴孔ノズルの場合は,二つの噴孔からの噴霧が軸心 上段の従来ノズルの噴孔径もd=φ0.09mmであるが, 上で重なるために噴霧液滴の密度が高い.このため, 噴孔は一つで流量は群噴孔ノズルの約半分である.こ 周囲高温空気(873K)に与える蒸発潜熱による冷却 の観察結果において,同じ噴孔径でありながら群噴孔 効果が大きく,噴霧内部はより低い温度分布となる. ノズルの噴霧液相が長くなっている.また群噴孔ノズ この雰囲気温度の低下によって噴霧の蒸発過程に時間 ルの方が噴霧の拡がりも大きく,ペネトレーションも 遅れが生じ,軸心部の液相が長くなる.その結果とし 強いことが分かる. て生じる気相はノズルからより遠くに到達することに なる. Conventional single hole nozzle (φ 0.09 x 1) 以上から群噴孔ノズルの方がより強いペネトレーシ Equivalence ratio High Low Liquid phase ョンが得られると推定する. Gas phase 噴霧の微粒化とペネトレーション増大の総合的な効 果を検証するために,ノズル流量をそろえた場合の噴 Group holes nozzle (φ 0.09 x 2) Liquid phase Gas phase 霧ペネトレーションの実測を行った.Fig. 9の上段に 噴霧観察結果を示す.観察には前述と同じLIEFを用 いた.比較のためにFig. 9の下段に噴霧シミュレーシ ョン結果を併記した.比較に用いたノズル仕様はFig. Larger gas phase area 5に示した3種類である.結果は従来ノズルと群噴孔 Fig. 7 Spray observation ノズルの液相ペネトレーションがほぼ同じ長さになっ ている.また,気相ペネトレーションについてもほぼ このメカニズムを明らかにすべく,噴霧シミュレー 同じ長さであることが分かる.なお,Fig. 9に併記し ションによる解析を行った.Fig. 8に噴霧シミュレー たシミュレーションにおいても同様の結果となった. ションにより液相および気相を計算した結果を示す. 特に噴霧内部の温度分布に着目した比較を行った. すなわち,従来ノズルに対して群噴孔ノズルでは, 同じノズル噴孔流量で噴霧粒径が小さく,同等のペ ネトレーションとなり,均一希薄混合気形成が得ら Injection pressure: 80MPa 3 Injection quantity: 30mm /st Ambient: 873K, 5.0MPa After injection start: 0.7ms Single hole ( φ 0.09 x 1) れた. Higher droplet density in spray center with group holes 0.6ms after inj. stant Higher latent heat due to droplet vaporization Single hole φ 0.127 2 row group φ 0.09 x 2 3 row group φ 0.078 x 3 Lower atmospheric temperature in spray center Measurement Droplet vaporization delay 2 row group ( φ 0.09 x 2) Residual droplet vaporization Equivalence ratio Stronger liquid phase penetration Simulation Stronger gas phase penetration Mixture temperature (K) 700 Ambient temperature: 873K 3 Pi = 80MPa, Q=30mm /st 900 Fig. 8 Spray simulation Fig. 9 Spray measurement and spray simulation −32− Low High 特 集 4.群噴孔ノズルによるエンジン性能 一般に従来ノズルを用いた場合には,ディーゼルの ここまでで,群噴孔ノズルによってペネトレーショ 典型的な拡散燃焼しか得られず,PMとNOxのトレー ンを損なうことなく微粒化の改善が可能であることが ドオフ関係が発生する.これに対して,Fig. 10の群 明らかになった.そこで,3L(4cyl)エンジンにて 噴孔ノズルではATDC1°噴射においてNOx,PMが 群噴孔ノズルを使用した低負荷領域での性能比較試験 同時に低減している.明らかに従来ノズルの拡散燃焼 を行った. とは異なった燃焼形態が得られている.ニードルリフ Fig. 10に噴射タイミングをパラメータとして,熱 トと熱発生率の比較から,噴射が半分終了したときに 発生率,筒内圧,NOx,PM,燃費,騒音を測定した 着火している.更に着火後の熱発生率においても拡散 結果を示す. 燃焼形態は見られず,噴射による混合気形成と燃焼が 同時進行する形態になっていると推定する. 従来ノズルと群噴孔ノズルを用いた場合の燃焼観察 Needle iift (mm) ROHR (J/deg) 120 100 80 60 40 20 0 -20 示す.上段の従来ノズルの場合には,熱発生がピーク 生しているものと推定される.一方,下段の群噴孔ノ ズルの場合には,燃焼期間の全域において輝炎の発生 Pre-mixed combustion が少なく,低温で燃焼室キャビティ外周近傍での燃焼 が観察される. Combustion visualization LIP 2000 1500 Spray 1000 ATDC10° ATDC12° ATDC15° ATDC20° ATDC25° 500 NOx (g/kWh) 0 -20 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0 FC (g/kWh) を行った.Fig. 11に熱発生率との比較で観察結果を に達する辺りで輝炎が観察され,高温の拡散燃焼が発 1 PM (g/kWh) Mean gas temperature (K) 4 3 2 1 0 -1 Noise (dBA) NE: 2400r/min T: 25%load (90Nm) Pc: 140MPa Nozzle: Group holes Combustion analysis 0 20 Crank angle (deg. ATDC) 40 120 100 80 60 40 20 0 -20 -20 Pre-mixed combustion ROHR Needle life -10 0 10 20 30 40 NE: 2400r/min T: 25%load (90Nm) Pc: 94MPa Nozzle: Conventional Crank angle (deg. ATDC) ATDC10° 340 320 300 280 260 240 -25 120 100 80 60 40 20 0 -20 -20 ATDC15° ATDC20° -20 -15 -10 -5 0 5 10 -10 0 10 20 30 40 NE: 2400r/min T: 25%load (90Nm) Pc: 140MPa Nozzle: Group holes -15 -10 -5 0 5 10 Fig. 11 Combustion observation 90 85 -20 Injection start (deg. C A ATDC) Pre-mixed combustion: ATDC1 deg. injection start Fig. 10 Engine test result −33− ATDC25° ROHR Needle life Crank angle (deg. ATDC) 100 95 80 -25 ATDC12° デンソーテクニカルレビュー Vol.11 5.まとめ No.1 2006 <参考文献> CRSを用いたディーゼルエンジンに関する排出ガス 1) Miyaki, M., Fujisawa, H., Masuda, A., Yamamoto, Y. : 有害成分低減の観点から,噴霧の微粒化とペネトレー “Development of New Electronically Controlled Fuel ションを両立させる「群噴孔ノズル」を提案した.噴 Injection System ECD-U2 for Diesel Engines”, SAE 霧,燃焼の観察およびシミュレーションによる解析か paper 910252 (1991-3). ら以下のことを明らかにした. 2) 中村兼仁,伊藤昇平:“ディーゼル用コモンレー (1) 「群噴孔ノズル」により,均一希薄混合気が得 られることを噴霧観察および噴霧シミュレーショ ンにより示した. ルシステム-2”,エンジンテクノロジー,Vol.5, No.1 (2003),pp.94-99. 3) 千田二郎,神田知幸,小林正明,田邊弥彦,藤本 (2) エンジン試験での性能評価において,群噴孔ノ 元:“エキサイプレックス蛍光法によるディーゼ ズルを用いた場合にPMとNOxが同時に低減でき ル噴霧濃度場の定量化(第1報)”,日本機械学会 る噴射時期が存在する. 論文集(B),Vol.63, No.607, 607 (1997-3 3),pp.322327. 666666666666666666666666666666666666 <著 者> 増田 誠 西島 義明 (ましだ まこと) (にしじま よしあき) パワトレイン機器事業グループ パワトレイン機器事業グループ 特定開発室 特定開発室 工学博士 ディーゼル噴霧燃焼シミュレーシ ディーゼル噴射系先行開発及びパ ョンに従事 ワトレイン機器新商品探索に 従事 大島 健司 佐々木 覚 (おおしま けんじ) (ささき さとる) (株)日本自動車部品総合研究所 パワトレイン制御開発部 研究1部 低エミッション技術の開発に従事 ディーゼル噴霧燃焼解析に従事 −34−
© Copyright 2024 ExpyDoc