2013 年 10 月 12 日 リー群とはなんだろう 飛嶋 健司 埼玉大学理学部物理学科 3 年 1 初めに (1) 色々な人向けです。簡単すぎたり、難しすぎたりするかも しれません。 (2) 見出しに☆が付いてる章は多少難しいです。 (3) 数学の話しかしません。 2 群と位相群 定義 1. 集合 G が群であるとは、G の任意の 2 つの元 x, y に 対して G の 1 つの元 xy が定まり、 (1) (xy)z=x(yz) (2) G に e という元があって、G 任意の元 x に対して、xe = x が成り立つ。 (3) G 任意の元 x に対して、xx−1 = e が成り立つ G の元 x−1 がある。 定義 2. 集合 G が位相群であるとは、 (1) 集合 G は群である。 (2) 集合 G は位相空間である。 (3) 写像 µ : G × G → G, µ(x, y) = xy −1 は連続である。 例 1. 実数全体:R n 次正方行列全体:Mn (R) 一般線形群:GLn (R) = {X ∈ Mn (R)| det X ̸= 0} 3 線形リー群 定義 3. GLn (R) の閉部分群を、線形リー群という。 ただし、GLn (R) からの相対位相によって位相群とみなす。 例 2. 特殊線形群 SLn ((R)) = {X ∈ Mn (R)| det X = 1} n 次直交群 O(n) = {X ∈ Mn (R)|XX T = 1} n 次回転群 SO(n) = SLn (R) ∩ O(n) 証明. SLn (R) について。 SLn (R) = det−1 (1) である。また、A, B ∈ Mn (R) につい て、det(AB) = det A det B である。 O(n) について。 T : Mn (R) → Mn (R), T (X) = XX T を用いて、O(n) = T −1 (I) である。また、T (AB) = B T AT から従う。 SO(n) は明らか。 4 リー群☆ 定義 4. 位相群 G が GLn (R) の部分群で、G の単位元の近傍 V を適当に取ると、次の (1) から (3) の条件を満たすとき G を GLn (R) の部分リー群という。 (1) V の位相は GLn (R) からの相対位相 (2) V を閉部分集合として含む GLn (R) の単位元の近傍 U が 存在する。 (3) G の連結成分は高々加算個 さらに、ある n について GLn (R) の部分リー群と局所同型に なる位相群で、連結成分が加算個なものをリー群と呼ぶ。 定義 5. 局所同型 位相群 G, H に対し、G の単位元の近傍 V と、H の単位元近 傍 U を適当に取ると V から U の上への同相写像 f があって、 x, y ∈ V に対して、 (1) xy ∈ V ⇔ f (x)f (y) ∈ U (2) xy ∈ V ⇒ f (x)f (y) = f (xy) が成り立つ時、位相群 G と H は局所同型という。 上の定義から線形リー群はリー群である。 5 行列の指数写像 定義 6. X ∈ Mn (R) に対して、 ∑∞ Xk k=0 k! exp(X) : = ||X − I|| ≤ 1 となる X ∈ Mn (R) について、 k ∑∞ k−1 (X−I) log X : = k=1 (−1) k! ||X − I|| < 1 ならば exp(log X) = X ||X|| < log 2 ならば log(exp(X)) = X ( ( )) ( ) 0 −1 cos t − sin t 例 3. exp t = 1 0 sin t cos t 命題 1. t ∈ R, X, Y ∈ Mn (R), [X, Y ] = XY − Y X とする。 (1) (2) (3) (4) [X, Y ] = 0 ⇒ etX etY = et(X+Y ) t2 tX tY e e = exp(t(X + Y ) + 2 [X, Y ] + O(t3 )) etX etY e−tX = exp(t(Y ) + t2 [X, Y ] + O(t3 )) etX etY e−tX e−tY = exp(t2 [X, Y ] + O(t3 )) 証明. (1)2 項定理が使えるので、実数の時と同じように証 明できる。 tX ′ (2) が示せれば、e : = etY e−tX などと置くことで (3),(4) は示せる。 (2) について。Z : = etX etY とおくと、定義から、 Z = (I + tX + 21 t2 X 2 + O(t3 ))(I + tY + 12 t2 Y 2 + O(t3 )) = t2 I + t(X + Y ) + 2 (X 2 + 2XY + Y 2 ) + O(t3 ) log Z = (Z − I) + 12 (Z − I)2 + O(||Z − I||3 ) = t2 t(X + Y ) + 2 [X, Y ] + O(t3 ) exp log Z = Z より、(2) が示 された。 命題 2. (1) exp : Mn (R) → GLn (R) である。 (2) d expX (Y ) = exp(X)Y (3) exp : Mn (R) → GLn (R) は、0 の近傍から I の近傍への C ∞ 級同相写像。 証明. (1).exp(X) に対して、exp(−X) が逆行列になるので OK (2). 写像の微分の定義から d expX (Y ) = limt→0 exp(X+tYt)−exp(X) exp(X + tY ) = eX + eX tY + O(t2 ) を代入して、主張の式 を得る。 (3).C ∞ 級であることは、微分した時に右から行列がかかる だけなので明らか。d exp0 (X) = exp(X) つまり、d exp0 は 線形写像として同型写像となっている。逆関数の定理より、 後半の主張も正しい。 注意 1. 逆関数の定理 f : M → N を C ∞ 級写像とする。 (df )p : T(p) M → Tf (p) N が線形写像として同型写像のとき、 f は p のある開近傍から f (p) のある開近傍への C ∞ 級同相写 像である。 6 リー群のリー環 定義 7. R 上の線形空間 L で、∀X, Y について、[X, Y ] ∈ L が定義され、∀X, Y, Z について、次の 3 つの条件がなりたつ 時、L をリー環という。 (1) [X, X] = 0 ∑2 ∑2 (2) [a1 X1 + a2 X2 , b1 Y1 + b2 Y2 ] = i=1 j=1 ai bj [Xi , Yj ] (∀ai , bj ∈ R) (3) [X, [Y, Z]] + [Y, [Z, X]] + [Z, [X, Y ]] = 0 定義 8. リー群のリー環 GLn (R) の部分リー群を G とする。 Lie(G) : = {X ∈ Mn (R)|esX ∈ G(∀s ∈ R)} をリー群のリー環と呼ぶ。 ここからは、[X,Y]=XY-YX とする。このようにカッコ積を 定めると、自然にリー環の積になる。 命題 3. (1) Lie(G) は線形空間である (2) [Lie(G), Lie(G)] ⊂ Lie(G) 従って、Lie(G) はリー環で ある。 証明. 厳密な証明はしないが、et(X+Y ) , et[X,Y ] を etX と etY を使って表す必要がある。そこで、命題 1 が使える。 例 4. SLn (R), O(n), SO(n) のリー環を求める。 Lie(SLn (R)) = {X ∈ Mn (R)|esX ∈ SLn (R) (∀s ∈ R)} dat(esX ) = 1 ⇔ esTr(X) = 1 ⇔ Tr(X) = 0 Lie(On (R)) = {X ∈ Mn (R)|esX ∈ On (R) (∀s ∈ R)} sX T sX e e = I = (I + sX + o(s))(I + sX T + o(s)) = I + s(X + X T + o(s))Lie(SO(n)) = Lie((SLn (R)) ∩ Lie(O(n)) 以上より、 Lie(SLn (R)) = {X ∈ Mn (R)|Tr(X) = 0} Lie(O(n)) = {X ∈ Mn (R)|X + XT = 0} Lie(SO(n)) = {X ∈ Mn (R)|X + XT = 0, Tr(X) = 0} 7 リー群のリー環からの指数写像 リー環は Mn (R) の部分空間なので、指数写像が定義出来る。 定義 9. リー環の指数写像 G をリー群、Lie(G) をリー群 G の リー環とする。exp : Lie(G) → G を、リー環の指数写像と いう。 細かいことを気にしなければ、exp は、 Lie(G) の 0 の近傍か ら、G の単位行列の近傍への同相写像である。 8 多様体の用語 多様体とは、局所的に Rm とみなせる空間である。 定義 10. 多様体 位相空間 M が m 次元 C ∞ 多様体であるとは、 (1) M はハウスドルフ空間。 (2) M は座標近傍 {Uα , ϕα }α∈A で被覆されている。 (3) Uα ∩ Uβ ̸= ∅ ならば、 ∞ ϕα ◦ ϕ−1 : ϕ (U ∩ U ) → ϕ (U ∩ U ) は C 級 β α β α α β β ここで、座標近傍とは、M の開集合 Uα から Rm の開集合 Uα′ への同相写像 ϕα : Uα → Uα′ と、Uα の組,(Uα , ϕα ) のことで ある。 例 5. 多様体の例 Rm ,S m , メビウスの帯、クラインの壺、射影平面など、 多様体の各点には、接空間がくっついている。 定義 11. 接空間 多様体 M の点 p のまわりで定義された C ∞ 関数 f に対して、 v(f ) ∈ R が対応してい、て、λ, µ ∈ R として、 (1) v(λf + µg) = λv(f ) + µv(g) (2) v(f g) = v(f )f (p) + f (p)v(g) が成り立つとき、対応 v を p ∈ M における接ベクトルと いう。 また、v, u を p ∈ M における接ベクトルとして、和とスカ ラー倍を、 (v + u)f = v(f ) + u(f ) (λv)(f ) = λ(v(f )) と定義すると、接ベクトル全体は線形空間になる。これを Tp M とかいて、M の p における接空間と呼ぶ。 U ∈ M での座標が (x1 , · · · xm ) と表されているとき、 i(= 1,)· · · , m について ∂f ∂ (f ) = ∂xi ∂xi (p) p ( ) ∂ とすると, ∂x は点 p における接ベクトルになる。 i p {( ) ( ) } ∂ ∂ , · · · は Tp M の基底になる。 ∂x1 ∂xm p p 9 ベクトル場と 1 パラメタ群 定義 12. p ∈ M と、接ベクトル vp の間に対応 X : M → Tp M, p → Xp があるとき、X をベクトル場と いう。 U の座標を (x1 , · · ·(, xm)) とすると、 ∑m ∂ Xp = i=1 ξi (p) ∂x とかける。 i p 定義 13. 積分曲線 M 上の曲線 c:(a, b) → M について、 c(t)′ = Xc(t) (∀t ∈ (a, b)) が成り立つとき、c(t) を積分曲線 と呼ぶ。 局所座標 (x1 , · · · , xm ) をとって ( c(t) ) i = xi (c(t)) とおく。 ベクトル場を Xc(t) = ∑ ξi ∂ ∂xi とすると、 c(t) c(t)′ = Xc(t) は、 dci dt = ξi (c1 , · · · , cm ) (i = 1, · · · , m) ということ。つまり、 積分曲線は微分方程式の解になっている。積分曲線の接線と して、ベクトル場があるイメージ。 定義 14. 1 パラメタ部分群 ∀t, s ∈ R について、ϕt : M → M が C ∞ 級微分同相写像で、 (1) ϕ0 = idM (2) ϕt+s = ϕt ◦ ϕs (3) R × M → M, (t, p) → ϕt (p) が C ∞ 級 を満たすとき、{ϕt }t∈R を 1 パラメータ部分群という。 多様体でコンパクトなものを考える。c(t, p) で初期値が p で ある積分曲線を、∀p ∈ M, −∞ < t < ∞ で考えることが出 来る。 そこで、ϕt (p) = c(t, p) という写像を考える。{ϕt }t∈R は 1 パラメタ部分群になる。 1 パラメタ部分群は、ベクトル場に沿って t だけ p を流した点 を対応させるもの、と見れる。 ∂ ∂ 例 6. 多様体 R2 , ベクトル場 X(x,y) = −y ∂x + x ∂y の積分曲 線と 1 パラメタ部分群 積分曲線は円周 ((x, y) = (A cos t, A sin t)) になる。また、1 パラメタ部分群 {ϕs }s∈R は、 ( x y ) ( cos s − sin s sin s cos s )( ) x ϕs = となる。 y ( ( )) 0 −1 例の 1 パラメータ部分群の元は、exp t と表 1 0 すことができる。 実は、リー群の 1 パラメータ群は、リー群のリー環の元と 1 対 1 対応する。 命題 4. G をリー群、Lie(G) をそのリー環とする。リー群 G の 1 パラメータ部分群 {g(t)|t ∈ R} は、X ∈ Lie(G) によっ て、g(t) = etX と表せる。この対応は 1 対 1 である。 10 多様体としてのリー群☆ リー群には指数写像によって多様体の構造が入る。 定理 1. (von Neumann -Cartan) G をリー群、G のリー環を g とかく。 (1) 線形空間 g の部分空間への任意の直和分解 g = g1 ⊕ g2 · · · ⊕ gm に対して、正の数 ϵ を十分小さく取 ると、 gi (ϵ) = {X ∈ gi |∥X∥ < ϵ} に対して、 g(ϵ) = g1 (ϵ) ⊕ g2 (ϵ) · · · ⊕ gm (ϵ) とおくと、 ∈ /G ∈ g(ϵ) (X1 , X2 , · · · , Xm ) / xeX1 eX2 · · · eXm は、G におけるある x のある近傍への同相写像となる。 (2) G は上の写像を C ω 写像とする C ω 多様体でとなる。線形 リー群は GLn (R) の C ω 閉部分多様体となる。 (3) 群演算 G × G → G , (x, y) → xy −1 は C ω 級である。 11 Campbel - Hausdorff の公式 ☆ g の基底を X1 , X2 , · · · , Xm とする。 exp : Rm → G, (x1 , x2 . · · · , xm ) → ex1 X1 +x2 X2 +···+xm Xm を第 1 種座標近傍系という。 exp : Rm → G, (x1 , x2 . · · · , xm ) → ex1 X1 ex2 X2 · · · exm Xm を第 2 種近傍系という。 もしも、g が可換環なら、2つの座標系は一致するが、一般 には一致しない。指数写像の微分を調べることで、その関係 を調べることが出来る。 etX etY = eZ(t) となる Z(t) を見つければよい。 定理 2. (指数写像の微分公式) X, Y ∈ Lie(G) とする。 de−S eS+sT ds = s=0 ∑∞ n n ad(S) n=0 (−1) (n+1)! T ただし、ad(X)(Y ) = [X, Y ] ′ ここで、S = Z(t), T = Z(t) として、Z(t) = く。t の冪を比べると、 Zj+1 = ∑j ∑ ∑ Zj tj とお (−1)q jq ad(Zj1 ) · · · ad(Zjq−1 )Zjq q=2 j1 +···+jq =j+1 q! j j ad(Y ) (−1) j! X + δ0j Y ∑ tX tY e e = exp Zj tj となっていることに注意。 + 実際に計算すると、Z1 = X + Y Z2 = 41 [X − Y, [X, Y ]] 1 Z3 = 12 [X − Y, [X + Y ]] 12 ベクトル場としてのリー環☆ リー群のリー環は、左不変ベクトル場に対応している。 定理 3. リー群 G, そのリー環を g とする。G 上の左不変ベク トル場全体を XL とかく。 (1) 次の線形写像は全単射 ∈ / Te G ∈ g X ˜ /X ∞ ( tX ) e ˜ は、X ˜ : C (G) → R, X(f ˜ )= ただし、X t=0 という接ベクトルである。 (2) g の元と XL の元は次のように対応し、それは、リー環の 全射同型写像となる。 ( X → C ∞ (G) → C ∞ (G), f (x) → d dt f d tX f (xe ) t=0 dt 左不変ベクトル場とは、 リー群 G による左移動 πL (g) で、 πL (g)X = XπL (g)(∀g ∈ G) となるベクトル場である。 (πL (g)f (x) = f (g −1 x)) ) 13 参考文献 • • • • • • 小林・大島 リー群と表現論 戸田・三村 リー群の位相 上 シュッツ 物理学における幾何学的方法 竹内 リー代数と素粒子論 松本 多様体の基礎 松島 多様体入門
© Copyright 2025 ExpyDoc