C∞v と D∞h (直線形分子の点群)

1
C∞v と D∞h (直線形分子の点群)
[ 1 ] C∞v
一酸化炭素分子 CO のような異核二原子分子や HCN のような直線形多核分子
の点群は C∞v です。水素分子 H2 や二酸化炭素 OCO (CO2)の点群は D∞h です。
CO の座標は Fig. 1 (a) のように、CO2 の座標は Fig. 1 (b) のように、分子軸を z
軸にとっておきます。
z
z
O →
O →
y
C →
C →
y
← O
σv(φ)
x
x
Fig.1 (a)
Fig.1 (b)
CO 分子は、C と O の原子核がつくるクーロン場を考えると、分子軸(z 軸)
のまわりの任意の角度(φ)の回転が対称操作であり、また、分子軸を含む任
意の平面についての鏡映も対称操作になっています。これは Fig. 1 (b) の CO2 分
子についても同じで、つまり、対称操作の数が無限です。これは今までに調べ
た点群にはなかった事情で、C∞v と D∞h は無限群と呼ばれます。無限とか連続
とかの概念はなかなか頭に馴染まないので、有限群 CNv の N を
C3v ,
C4v ,
C5v ,
C6v ,
・・・・
(1)
と大きくしていった極限として無限群 C∞v を理解することを試みます。
本書のペット点群 C3v は図式的には正3角形を底面とするピラミッドか本書
の図 3.7 (b) で考えます。C3v の元は、全部書くと、{E, C3, C32, σv,σv',σv"}、
2
類でまとめると{E, 2C3, 3σv}ですが、ここでは、わざと鏡映操作だけを類にまと
める中途半端な記法を用います。
C3v ={E, C3, C32, 3σv}
(2)
C4v は正方形を底面とするピラミッドの持つ点群ですから、本書の図 3.15 と図
3.16 の D4h の部分群であり、
C4v ={E, C4, C42, C43, 2σv,2σd}
(3)
となることが分かります。次の C5v は C3v に, C6v は C4v に似ていて、
C5v ={E, C5, C52, C53, C54, 5σv}
(4)
C6v ={E, C6, C62, C63, C64, C65, 3σv,3σd}
(5)
になりますから、CNv は N が奇数(N=2n+1)か偶数(N=2n)で鏡映操作の構成
が少し違っていて
N=2n+1:
CNv ={E, CN, CN2, CN3,・・・, Nσv}
N=2n :
CNv ={E, CN, CN2, CN3,・・・, nσv ,nσd}
となるだろうと見当がつきます。ところで、多角ピラミッドが極限として滑ら
かな円錐になってしまうと、勿論、σv とσd との区別はなくなるので
N→∞ :
C∞v ={E, C∞, C∞2,・・・, ∞σv}
と書いてよさそうですが、普通に見かける表現は
C∞v ={E, 2C∞φ, 2C∞2φ, 2C∞3φ,・・・, ∞σv}
(6)
といった形です。そこで、操作 C∞の意味を CN に戻って考えます。基本の回転
角は
φ=2π/N
だから、CN, CN2, CN3,・・・の回転角を具体的に書けば、上のφを使って
N=2n+1 では
φ, 2φ, 3φ, ・・・ ,(2n)φ
N=2n では
φ, 2φ, 3φ, ・・・ ,(2n-1)φ
と、0 と 2πの間の値をとります。N を大きくして行くと、その値はいくらでも
細かく 0 と 2πの間の値を満たして行きます。連続群 C∞ v では連続的に任意の値
の角φについての回転操作がその元になっていますから、簡潔に、
C∞v ={E, C(φ), ∞σv}
と書いてもよい筈です。では何故(6)の形が普通なのか?実は有限群 C3v , C4v ,
C5v , C6v などについても(2)、
(3)、
(4)、
(5)ではなく、回転操作について
3
も類構造を示して
C3v ={E, 2C3, 3σv}
C4v ={E, 2C4, C2, 2σv,2σd}
C5v ={E, 2C5, 2C52, 5σv}
C6v ={E, 2C6, 2C62, C2, 3σv,3σd}
と書いてあり、一般の N については
N=2n+1:
CNv ={E, 2CN, 2CN2, 2CN3,・・・, 2CN2, nσv}
N=2n :
CNv ={E, 2CN, 2CN2, 2CN3,・・・, 2CNn-1, CNn=C2, nσv ,nσd}
となります。CNv では回転操作 CNp と CNN-p が対で1つの類をつくるので、記号
の前に“2”を付けてそれを示すわけですが、回転角がちょうどπになる所、
つまり N が偶数(N=2n)の場合の CNn=C2 では、C2=C2-1 なので、単独で1つの類
をつくります。ですから、N→∞に対する通常の(6)のような書き方は、つま
り、2C∞πが含まれている書き方は正しくないとも言えますが、回転角が連続値
をとるのですからφがカッキリπになる一点など気にしないことにします。
ただし、
(6)の指標表で 2C∞2φ, 2C∞3φ,・・・, に対応するコラムに含まれてい
る情報は余分で必要ありません。2C∞φのコラムで十分です。
C∞v ={E, 2C∞φ,・・・, ∞σv}
(6′)
C∞ v の指標表
2C∞φ ・・・ ∞σv
C∞ v
E
A1≡Σ+
1
1
・・・
A2≡Σ-
1
1
・・・ −1
E1≡П
2
2cosφ ・・・
0
E2≡Δ
2
2cos2φ ・・・
0
E2≡Φ
2
2cos3φ ・・・
0
E2≡Γ
2
2cos4φ ・・・
0
1
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
z
x2+y2, z2
Rz
(x,y), (Rx,Ry)
(xz, yz)
(x2 – y2, xy)
4
[ 2 ] D∞ h
基底状態の CO2 分子は O–C–O と並んだ直線形をしています。座標系は Fig.1
(b)のように取ります。C は座標原点に置き、二つの O は z 軸上の C から等距離
の所に位置しています。CO2 分子の対称性は O–C–O の原子核のつくるクーロン
場を思い浮かべると CO 分子(C∞v)より高い対称性(D∞ h)を持っていることが分か
ります。C∞ v の対称性を円錐でとらえるとすれば、D∞ h は同じ円錐を2つ尻合わ
せにした形、または円筒で表すことが出来ます。C∞ v の場合と同様にして、D3h,
D4 h,
D5h, D6h ・・・と DNh の N を次第に大きくして D∞ h の構造を理解することを試
みます。
D3 h ={E, 2C3, 3C2, σh, 2S3, 3σv}
D4 h ={E, 2C4, C2, 2C2′, 2C2″, i, 2S4, σh, 2σv, 2σd}
D5 h ={E, 2C5, 2C52, 5C2, σh, 2S5, 2S53, 5σv}
D6h ={E, 2C6, 2C3, C2, 3C2′, 3C2″, i, 2S6, 2S3,σh, 3σv, 3σd}
D3 h と D4h は本書本文で調べたので、同様にして D5 h と D6h を調べます。
D5h の対称性は正5角形を底辺とする5角錐を2つ尻合わせにしたものを調
べれば分かります。その主軸のまわりの回転操作
C5, C52, C53 = (C52)–1,
C54 = C5–1
は{C5, C54}と{C52, C53}の2つの類に分かれます。主軸に直交する2回回転
軸は5本あり、σh も 5σv もすぐ分かります。残るのは2つの回映操作の類 2S5
と 2S53 ですが、回映 SN の定義は
σh CN = CNσh = SN
ですから
σh C5, σh C54
σh C52, σh C53
→
→
2S5
2S53
の対応は見当がつきますが、やはり正直に S5 の回映操作を重ねてみて類の構造
を調べます。それには本書第 3 章「点群」で使ったステレオ投影図が便利です。
D5 h の場合、回映は S5, S53, S57, S59 の4つだけで、S59 = S5–1, S57 = (S53)–1 であるこ
とに気が付けば、類としては
(S5, S59)
→ 2 S5,
(S53, S57)
→
2 S53
であることが理解できます。
D6h の場合も、注意が必要なのは回映操作ですが、
5
2C6 とσh から
→
2S6
2C3 とσh から
→
2S3
C2 とσh から
→
i
の対応がつきます。これらもステレオ投影図を描いて確かめて下さい。
DNh の元の構成を書き下ろすことは省略して、上に掲げた D3h, D4h, D5h, D6h の
元の様子を片目で睨みながら、普通に見られる D∞ h の元の書き方を覗いてみる
と、
D∞ h ={E, 2C(φ),
……
, ∞C2′, i, 2S(φ),
……
,∞σv}
といった具合になっています。
(元の順序はいろいろです) CNv → C∞ v の場合
と同じ要領で、回転角(φ)が連続的に任意の値をとり得ること、σv とσd の
区別がなくなること、を考えれば上の D∞ h の元の構成も理解出来そうですが、
1つ気になるのは、D3 h, D4h, D5h, D6h の元として記してあるσh が D∞ h では消えて
いることです。この点は
S(π) =σh C(π) = i
S(0) = S(2π) =σh C(2π) =σh E =σh
ですから、もし 0 <φ<2π と考えるとすると、むしろ、i よりσh を D∞ h の元の
メンバーとして入れておいた方がよいとも考えられますし、i とσh の両方を掲
げておいてもよいでしょう。
本書 p273の D∞ h の指標表にミスプリがあります。元 2S(φ) ≡ 2S∞φの指
標は、表現Πg では – 2cos(φ) であり、表現Δu では – 2cos(2φ) です。