[写真なし] (PDF:465KB) - 三重県

資
料
Ⅰ
1
編
三重県の自然環境
(出展:三重県レッドデータブック2005より)
地形
三重県の中央部には、中央構造線とよばれる断層帯の一部が東西に走って
います。中央構造線は西南日本を二分しており、北側を内帯、南側を外帯と
よび地質的にも大きく異なっています。また、地質の影響を受けることによ
り、それぞれが特徴ある地形を作り出しています。三重県の地形および地質
について、内帯と外帯にわけて解説します。
(1)内帯の地形
伊勢湾に沿って低地が広がり、伊勢平野と呼ばれ、市街地や田畑などの田
園風景が展開しています。その西側に海抜数 10mの丘陵地や台地が分布し、
その西に海抜 700mから 1,200mの鈴鹿山脈や布引山地などが南北に連なって
います。また、布引山地の西側には伊賀盆地があります。三重県の北端には
養老山地があり、濃尾平野に接しています。
ア山地・山脈
(ア)養老山地
養老山地は県の北端部に位置し、北西から南東にのびる延長約 20 ㎞最
大幅 7 ㎞、海抜 700∼800mの山地で、岐阜県との境界となっています。
北西に高く南東に低く、なだらかな尾根を形成しています。山地の北東側
は養老断層が走り、濃尾平野と接しています。断層崖に沿って扇状地が発
達しています。
一方、南西側はなだらかに高度が低下し、丘陵や扇状地につながりま
す。山頂部は小起伏面をなしていますが、谷はV字谷を示しています。
(イ)鈴鹿山脈
鈴鹿山脈の始まりは、滋賀県と岐阜県の県境にある霊仙山(1,084m)
で、そこから南下して三国岳(894m)、御池岳(1,241m)、藤原岳(1,143
m)、竜ヶ岳(1,092m)、御在所岳(1,210m)、鎌ヶ岳(1,161m)、宮越岳
(1,030m)、仙ヶ岳(961m)などがあり、鈴鹿峠で終わりになります。鈴
鹿峠と加太盆地の間の山地は高畑山地とよばれ、高畑山(773m)、油日
岳(680m)などの山があります。鈴鹿山脈東麓には、一志断層群が南北
に走り、その断層に沿って扇状地が発達しています。一方、西方の滋賀
県側には頓宮断層系の断層が走っています。東側は急峻で、西側は穏や
かに傾斜傾動地塊を示しています。
(ウ)布引山地
布引山地は鈴鹿山脈の南側に続く山地で、南端は高見山地・室生山地
に接しています。笠取山(838m)以南の尾根は刷毛で線を引いたように
- 60 -
なめらかな面を残し、南方に高度を下げていく準平原を形成しています。
山の高さは 700∼800mで、笠取山以南の小起伏面を青山高原とよんでい
ます。
(エ)高見山地
高見山地は櫛田川の谷の北側に分布する山地で、高見山(1,249m)か
ら東方へ約 25 ㎞にわたってのびる三峰山脈が主体をなしています。高所
山(772m)、高峰(548m)
、堀坂山(757m)
、白猪山(820m)などの諸
峰があり、東西にのびる山体が多く、領家帯の構造と一致するものが多
いです。
(オ)室生山地
室生山地は伊賀盆地の南縁をしめ、東西約 28 ㎞、南北約 15 ㎞の範囲に
広がる溶結凝灰岩が分布する地域の山地です。この地域の山体は独立した
火山のようにみえますが、侵食によって原形が破壊された侵食地形です。
おもな山は、倶留尊山(1,038m)、大洞山(985m)、尼ヶ岳(958m)な
どです。柱状節理が発達し、香落渓などの渓谷をつくっています。
イ丘陵
低地と山地の間には、海抜 100m以下の定高性の丘陵が発達しています。
丘陵地は、東西に流れる河川によっていくつにも分断されています。おもな
ものは、北から多度丘陵、桑員丘陵、石榑丘陵、四日市丘陵、亀山丘陵、安
濃丘陵、見当山丘陵、丹生寺丘陵、玉城丘陵などです。
ウ扇状地
養老山地南西側、鈴鹿山脈東麓、松阪市西方などの地域で扇状地が発達し
ています。養老山地南西側には新旧の扇状地が発達し、高位のものは開析扇
状地となっています。鈴鹿山脈東麓には宇賀川扇状地、根の平扇状地、千種
扇状地、県内最大の水沢扇状地などが広がり、新旧に分けられるものが多く、
旧期のものは開析扇状地をつくっています。松阪市西方には伊勢寺扇状地が
みられます。
エ段丘
河川は丘陵の間を流れ、数段の段丘を形成しています。段丘面の高さから、
最高位、高位、中位、低位の4つに分けられます。
オ盆地
盆地は伊賀地域と加太地域にあり、伊賀地域は伊賀盆地とよばれ、東側は
布引山地、西側は大和山地、北側は阿山丘陵と信楽山地、南側は室生山地に
よって囲まれた比較的底の浅い盆地です。上野盆地、名張盆地、大山田盆地
の3つに細分されます。盆地内を流れる河川としては、柘植川、服部川、木
津川、久米川、宇陀川、名張川などがあり、氾濫原や河岸段丘が平坦面を形
成しています。加太地域は加太盆地と呼ばれ、鈴鹿山脈と布引山地に囲まれ
たところに広がっています。鈴鹿川の谷底平野が主体です。
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カ低地
伊勢湾の臨海部にそって発達する平坦地で、木曽、長良、揖斐の木曽三川、
鈴鹿川、安濃川、雲出川、櫛田川、宮川などの河口には三角州、それぞれの
河川流域には沖積低地が発達しています。これらを総称して伊勢平野とよん
でいます。
キ海岸地形
木曽川河口から五十鈴川河口の二見にいたる延長 80 ㎞におよぶ海岸線は、
きわめて屈曲の少ない単調な砂浜海岸がおもであり、海岸に沿って浜堤が発
達しています。
(2)外帯の地形
広大な紀伊山地があり、台地、丘陵、低地には局部的に小さい範囲で分布
しています。宮川などの河川には河岸段丘が発達し、志摩半島や鬼ヶ城以南
には海岸段丘が分布します。また、リアス式海岸が発達し、海跡湖や
州(トンボロ)、海食洞などがみられます。
ア山地・山脈
中央構造線の南側には広大な紀伊山地があり、奈良県南部の八剣山(1,915
m)を最高峰とする 1,800m級の山々が連なり、四方へ高度を下げ、中央部
が弓なりにふくれ上がった曲隆山地で、数段の平坦面が存在します。全体と
して、山地・山脈は地質の構成、構造によって東西ないし東北東―西南西に
延びる傾向がありますが、南北性のものもあります。その例として、台高山
脈があり、三重県と奈良県との県境となっています。台高山脈は、高見山
(1,249m)、国見山(1,419m)、赤倉山(1,394m)、池小屋山(1,396m)、
大台ヶ原山の三津河落山(1,654m)、日出岳(1,695m)、木組峠(1,242m)
に達する延長約 35km になります。この山地を流れるおもな川には、宮川、
櫛田川支流の蓮川、北山川などがあります。大台ヶ原山を源流とする宮川は、
西南西から東北東に向かって流れて伊勢湾に注ぎ、上流部には、七ツ窯滝、
光滝、堂倉滝、六十尋滝、千尋滝などの滝が多くあります。蓮川にも、高滝、
風折滝などがあり、奥香肌峡として名勝となっています。北山川は南方へ流
れて峡谷美で名高い七色峡、瀞峡となり、熊野川に合流し、南東へ流れの向
きを転じ、太平洋へ流れ込みます。これらの渓谷は、いずれも穿入蛇行、V
字谷を呈し、壮年期の地形を示しています。大台ケ原山の山頂部は、平坦面
ないし小起伏面が発達し、準平原の名残りをとどめています。
イ海岸段丘
海岸段丘は、志摩半島の南部と七里御浜に沿って発達しています。志摩市
阿児町から安乗崎および先志摩半島にかけて広がる海抜 30∼40mのものが
顕著です。この平坦面の成因は、浸食でできた場合か土砂の堆積によってで
きた場合の2つが考えられます。この平坦面は先志摩台地とも呼ばれていま
す。一方、七里御浜海岸に沿って連なる段丘の平坦面は堆積によってできた
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もので、砂礫層からなります。
ウ丘陵地や低地など
リアス式海岸のところでは海岸近くまで山地がせまり、丘陵、台地、低地
などの発達は悪く、湾奥に狭小にあるだけです。また、熊野市以南には段丘
や山地の間に平坦地が広がり、水田や湿地などがみられます。
エ海岸地形
熊野市鬼ヶ城以北の海岸線は、屈曲に富むリアス式海岸です。この海域に
は、陸地の沈下または海面の上昇によって生じた沈降海岸だけでなく、隆起
を示す地形もみられます。いろいろな種類の海食地形もみられます。山地が
直接外洋に面した海岸では、海水のはたらきで生じた海食崖が発達していま
す。岬の突端では波食台がみられるところもあります。また、海食崖の下部
には海食洞や海食洞が貫通して生じた海食洞門がみられます。海食洞である
鬼ヶ城では洞底は平坦な面が数段あり、間欠的隆起を物語っています。天井
は風による浸食作用も加わっていると考えられます。楯ヶ崎は熊野酸性岩の
柱状節理が見られる海食崖で、下部には波食台も生じています。沿岸流の影
響で生じた砂嘴、砂州、陸繋砂州(トンボロ)、陸繋島もみられます。また、
沿岸州や砂州の発達によって海域が封鎖されて生じた海跡湖が発達してい
ます。おもなものとして座佐池、薄月湖、須賀利大池などがあります。鬼ヶ
城以南では単調な海岸線で礫浜です。海岸にそって浜堤が発達します。
(3)特異な地形・岩石と植物
ア海岸の断崖と植物
熊野灘沿岸はおもにリアス式海岸で、海に面して断崖を形成しています。
そこには特有の植物が生育しています。その代表的なものとしては、トベラ
-ウバメガシ群集やマサキ-トベラ群衆などの海岸風衝低木林などがあり、ハ
チジョウススキ、ハマボッス、タイトゴメ、ハマアオスゲ、ハイネズ、キノ
クニシオギク、ハマカンゾウ、マゼトウナなどが生育しています。
イ石灰岩と動植物
石灰岩は炭酸塩岩を代表する堆積岩で、おもに方解石やアラゴナイトなど
の炭酸カルシウム(通常 50%)からなります。古生代以降に形成された石灰
岩には貝類やサンゴなどの無脊椎動物の遺骸や石灰藻が堆積して形成され
たものもあります。また、方解石は広い温度・圧力下で安定な鉱物であるの
で、石灰岩が変成作用をうけて租粒の方解石になり、編成したものを方解石
マーブルとよんでいます。三重県内には石灰岩を含む地層や方解石マーブル
の岩体が分布しています。内帯では、藤原岳地域に分布する美濃帯の地層や
外帯では中央構造線に沿って帯状に分布する秩父帯の地層の中に石灰岩が
挟在しています。また、鈴鹿市小岐須付近に方解石マーブルが分布します。
石灰岩地域を好む植物としては、ビロードシダ、クモノスシダ、オウレンシ
ダ、イブキシモツケ、クサボタンなどがあります。また、石灰岩の分布域に
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は鍾乳洞が発達しているところがあり、洞穴性の動物など特有の生物が生息
しています。
ウ蛇紋岩と植物
蛇紋岩はおもに蛇紋石からなり、まれに少量のマグネタイトやクロマイト
などの鉱物を伴っています。カンラン岩が広域の変成作用や変質作用をうけ
ることにより、含まれるカンラン石や輝石が蛇紋石に変化していきます。カ
ンラン岩は、他の火成岩と比較して多くの酸化マグネシウム(Mgo)を含有
しており、20%以上含んでいるのがほとんどです。カンラン岩・輝石のうち
マグネシウムに富むものは約 600℃以下の温度下で熱水による変質作用や変
成作用をうけると蛇紋石に変化するとされています。三重県では中央構造線
に平行に分布する三波川変成帯や御荷鉾緑色岩類および黒瀬川構造帯のな
かに分布しています。おもに見られる地域は志摩半島であり、他には宮川お
よび櫛田川流域の三波川変成帯に局部的に分布しています。蛇紋岩分布域に
生育する植物としてはツゲ、シュンジュギク、シマジタムラソウ、ケスゲ、
ジングウツツジなどがあります。
2
気候
三重県は紀伊半島東部に位置し、南北の長さは約 180 ㎞、東西の幅は 10∼
80 ㎞の広がりがあります。鈴木(1962)の気候区分によれば、大台山系の一
部を除いて表日本気候区に位置しています。また、中村ら(1986)の“暖か
さの指数”を考慮した気候区分によれば、暖温帯に位置しています。さらに、
平野、盆地、山地、海などの分布状況から、地域により異なった気候特性を
もっています。
(1)クライモグラフ
ケッペンの気候区分や日本の気候区分で使用している気象要素は気温と
降水量で、これら2つの要素が気候の特徴を決めています。クライモグラフ
とは、気温と降水量の季節変化を利用して地域の気候の季節推移を表したグ
ラフであり、横軸に降水量、縦軸に気温をとって月順につないだものです。
(2)クライモグラフなどから見た気候の特徴
ア熊野灘沿岸地域
熊野灘には黒潮が流れ、後方には山地が迫った地形を呈しています。気
候は、県内でも最も温暖で雨の多い地域です。尾鷲市の年平均気温は 16℃、
冬の平均気温は5℃以上であり県内でも高いところです。しかし、夏は海
の影響などで県内のほかの地域と比べて同じ程度か、やや低くなります。
降水量については、尾鷲から大台ヶ原山一帯は多雨地域で、尾鷲の年降水
量の平年値は約 4,000 ㎜です。夏の時期は一ヶ月に 500 ㎜以上降ることが
多く、また、冬の時期でも 100 ㎜弱と県内のほかの地域と比べて2倍程多
くなります。また、志摩半島地域では年平均気温は約 16℃、年降水量は 2,000
- 64 -
∼2,500 ㎜です。
イ伊勢平野地域
東に伊勢湾、西に鈴鹿山脈や布引山地が位置しています。この地域は南
北に長く広いため、気候に地域差が出ています。津市の年平均気温は 15.5℃、
冬期の平均気温は約5℃、8月の平均気温は 27℃です。なお、8月の平均
気温は津市が県内で一番高いです。年降水量は約 1,650 ㎜です。津市の北
に位置する四日市は、津市に比べて降水量が多く約 1,750 ㎜で、月別では
3∼7月にかけては津市より多くなります。また、亀山は年平均気温 14.5℃、
平均降水量約 1,880 ㎜です。伊勢平野地域は東海型気候ですが、冬期には
「鈴鹿おろし」とよばれる鈴鹿山脈から北西の季節風が強く吹き、寒くな
ります。
ウ伊賀盆地地域
内陸性の気候を示しています。年平均気温は 13.8℃で年間を通じて県内
のほかの地域よりもやや低い傾向がありますが、特に冬期の平均気温は県
内でも低く1月で3℃です。降水量は冬期以外は県内の他の地域よりも少
なく、年降水量は 1,390 ㎜で県内で最も雨の少ない地域です。また、年間
を通じて霧が多く発生し、特に 10 月∼11 月に顕著に発生します。
(3)暖かさの指数でみた気候の特徴
ア暖かさの指数(WI)
気候のちがいを端的に表すものは植生であるといわれています。日本で
は温潤な気候を反映して森林が発達しています。生態学者の吉良竜夫
(1971)は、積算気温の一種である“暖かさの指数”、“寒さの指数”と森
林植生が対応することを見いだしました。暖かさの指数(Warmth Index;
WI)=Σ(t-5):t は各月の平均気温(℃)、n は 1 年のうち t>5であ
る月の数、5℃は経験的に定めた植物の正常な生活活動の閾値です。この
指数(℃・月)は著しく簡略ですが、世界各地の植生分布をよく説明する
ことができます。区分は 180 以上が亜熱帯、85∼180 が暖温帯、45∼85 が
冷温帯、45 以下が亜寒帯となります。
イ三重県の特徴
この指数を三重県に当てはめてみると、大部分がおよそ 100∼130 の範囲
であり暖温帯に区分されます。
3 哺乳類
(1)哺乳類概要
三重県の土着陸棲哺乳類は 42 種が記録されています。目別の内訳は、食
虫目8種、翼手目 11 種(大台ヶ原奈良県側のみの記録であるモリアブラコ
ウモリ、ヤマコウモリの3種は除く)、霊長目1種、食肉目8種、偶蹄目
3種、齧歯目 13 種、兎目1種です。このグループの中で、本県における樹
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洞性のコウモリ類については未調査の状態ですが、大台ヶ原の奈良県側で
は数種が記録されていることから、今後の精査により追加されると推測さ
れます。翼手目以外のグループは、本州で確認されている種の大部分が生
息していますが、アズミトガリネズミやオコジョなどの高山帯を生活域の
一部としている種は分布していません。本県の最高地点が大台ヶ原日出ヶ
岳の 1,695mであることが制限要因になっているものと思われます。一方、
シントウトガリネズミやヒメヒミズ、ヤチネズミのように本州における分
布の南限になっている種もいます。これらのような国内における遺存的分
布の種が、紀州を中心に生息することが本県の哺乳類相の特色となってい
ます。
また,外来動物としては、シマリスが鈴鹿山系御池岳を中心に生息し、
ヌートリアは北勢地方や伊賀地方の一部河川では河口部から山間部まで入
り込んでいます。さらに、チョウセンイタチが紀州を除く県内平野部およ
び丘陵地に、アライグマは 2005 年6月に伊賀市で幼獣が発見され、ハクビ
シンもいなべ市や宮川村、伊賀市等で幼獣も含めて確認されています。こ
れらの5種については三重県に定着していると推定できます。さらに、イ
ヌやネコも遺棄されて野生化する場合もあり、外来移入種同様に在来生物
に影響を与えています。
なお、海棲哺乳類については 19 種の鯨類が本県沿岸で記録されています
が、定着しているのはスナメリ1種です。
(2)絶滅危惧種の概要
食虫目では、絶滅危惧ⅠA類にシントウトガリネズミ1種、絶滅危惧Ⅱ類
にヒメヒミズ、ミズラモグラ、ニホンカワネズミ3種、計4種がリストア
ップされ、三重県産食虫目8種のうち半数にもなります。生息環境の限定
的な種が多いことを反映した結果です。
翼手種目は,住家性のアブラコウモリを除いて全種が掲載されました。
絶滅危惧ⅠA類にノレンコウモリ1種、絶滅危惧ⅠB類にウサギコウモリ
1種、絶滅危惧Ⅱ類にテングコウモリ、コキクガシラコウモリ2種、準絶
滅危惧にキクガシラコウモリ、モモジロコウモリ、ユビナガコウモリ3種、
情報不足にヒナコウモリ、モリアブラコウモリ、ヒメホオヒゲコウモリ、
ヤマコウモリ、コテングコウモリ、オヒキコウモリ6種、計 13 種がリスト
アップされました。洞穴性コウモリは、キクガシラコウモリやモモジロコ
ウモリのように比較的多くの生息地が確認されている種もいますが、休
息・休眠場所による確認が大部分であり、ひとつの生息地は他のグループ
に比べて大きな意味合いを持ちます。そのため、一部の種については定性
的判断も加えて評価を行った結果、洞穴性全種がリストアップされました。
一方、樹洞性のコウモリについては情報量が極端に少ないため、情報不足
とせざるを得ませんでした。また、三重県未記録ですが、大台ヶ原の奈良
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県側から報告のあるコウモリ3種についても、情報不足種として掲載して
あります。
食肉目は、絶滅危惧ⅠB類にツキノワグマ1種、絶滅にオオカミ、カワ
ウソおよびニホンアシカの4種がリストアップされました。ツキノワグマ
は、西日本では各地域の個体群も孤立しており、不安定な環境条件におか
れています。オオカミは,1905 年に奈良県で捕獲されて以降、生存の確か
な報告はありません。カワウソについても、最後の発見から 30 年以上が経
過しており、国内から絶滅した可能性が高い。これらのような大型の肉食
獣が国内から絶滅、あるいはそれに近い状態にあることは、日本の自然環
境の荒廃を示唆するものであると推測されます。
偶蹄目は,準絶滅危惧にカモシカ1種がリストアップされました。特別
天然記念物指定により危機的状況は脱したが、種指定から地域指定の政策
転換がはかられようとしており、将来的には楽観できません。
齧歯目は、絶滅危惧ⅠB類にニホンモモンガ1種、絶滅危惧Ⅱ類にヤマ
ネ、ヤチネズミ2種、準絶滅危惧にニホンリス1種、計4種がリストアッ
プされました。ニホンモモンガが鈴鹿山系から記録されたことは特筆に値
することであるが,発見状況などに不自然な点もあり,同山系を本種の分
布域とするには今後の調査が必要です。また、ニホンリスは準絶滅危惧と
低ランクではあるが、減少の傾向は顕著です。もともと広範囲に生息する
種であるため、現段階においては絶滅の危険性は高くないが、平野部や丘
陵地の林からは姿を消しています。絶滅域は拡大の傾向にあり、継続的な
モニタリングが必要です。
鯨目のスナメリについても、現況は比較的安定しているようですが、生
息地は人の経済活動圏と重なります。定期的に生息状況を把握するととも
に、スナメリと共存できる伊勢湾の利用ルールを模索していく必要があり
ます。
文 献
古田正美.2005.伊勢湾周辺に迷入・漂着した鯨類と鰭脚類の紹介.三重県動物学会会報.
(28):4-5
粕谷俊雄・山田
格.1995.鯨研叢書 No7 日本鯨類目録.財団法人日本鯨類研究所.東京:90p
環境省自然環境局近畿地区自然保護事務所.2005.大台ヶ原自然再生推進計画.121+22p.
三重県立博物館・三重自然誌の会.2001.レットデータブック準備書∼レッドデータブッ
ク三重 2005・調査対象種および重要生態系候補地一次リスト:71p
佐野明.2000.三重県におけるヌートリアの分布記録.三重県科学技術振興センター林業
技術センター研究報告,(12).29-35.
佐野明.2003.三重県青山町におけるハクビシンの確認記録.紀伊半島の野生動物,(7).
19.
- 67 -
清水善吉.2005.三重県のハクビシン記録.自然誌だより,(63).5-6.
冨田靖男.2000.三重県の陸産哺乳類相(Ⅱ).三重県環境保全事業団研究報告.5:23-47
財団法人自然環境保全研究センター.2001.平成 12 年度三重県ツキノワグマ生息実態調査
報告書,三重県:33p
(清水善吉)
4 鳥類
(1)三重県の鳥類相
鳥類は比較的人目に付きやすく、関心を持つ人も多い。そのため、他の分
類群の生物に比べて、概ね県内の鳥類相は把握できていると考えられ、現在
までに三重県で確認されている鳥類は約 301 種類です。この内、約 58 種類は
いわゆる迷鳥で、三重県で継続的に繁殖または越冬している種類と、渡りの
中継地として継続的に三重県を利用している種類は、あわせて 243 種です。
この内留鳥はイヌワシ、クマタカ、オオタカはじめ 79 種 32.5%、夏鳥はサシ
バ、ハチクマはじめ 37 種 15.2%、
冬鳥はハイイロチュウヒはじめ 79 種 32.5%、
旅鳥はホウロクシギはじめ 48 種 19.8%です。冬鳥と旅鳥を合わせると 127 種
52.3%と半数を越え、本県は鳥類の繁殖地としてはもちろん、越冬地、中継
地としても重要であることがわかります。
三重県は南北に細長く、森林については、鈴鹿山脈や大台ヶ原山系のブナ
林、トウヒ林などの山地帯、亜高山帯から、里山、海岸林と多様性に富み、
地形も、山地、丘陵地、平野、海岸と多様で、特に海岸は、干潟から砂浜、
磯、島嶼群など多様性に富んでいます。このため鳥類相も多様性に富んでい
ます。
北・中部には藤原岳から連なる鈴鹿山脈や布引山地、室生山地、高見山地、
南部は台高山脈を含む紀伊山地となっています。鈴鹿山脈などの山頂付近は
ブナ林、台高山脈の山頂付近はトウヒ林がわずかに残されており、コルリ、
コマドリ、ビンズイなど、亜高山帯特有の鳥類が繁殖し、イヌワシ、クマタ
カなど急峻な山地を生息地とする猛禽類が生息しています。これら脊梁山地
に連なる低山帯はスギ・ヒノキ人工林が多いが、アカマツ林、雑木林、照葉
樹林が所々に残されており、オオタカ、ハチクマなどの猛禽類が繁殖してい
ます。特に伊勢神宮の神宮林は広大な照葉樹林が残されており、アカショウ
ビン、サンコウチョウなど希少な鳥類が繁殖しています。また、丘陵地帯は
アカマツ林や雑木林が多く、ホオジロ、ウグイスなどが優占種となっており、
サシバなどの猛禽類が生息しています。伊勢平野、伊賀盆地などの平地は農
耕地が多いが、河畔林や河原が残された河川には猛禽類やイカルチドリなど
が繁殖しています。また、キアシシギ、アカアシシギなどのシギ・チドリ類
の渡来地ともなっており、クサシギ、タシギなど多くの冬鳥が越冬していま
す。海岸は,伊勢湾岸は砂浜が大部分で、比較的広い砂浜が残されている四
日市市の吉崎海岸や津市の田中川河口付近などは、シロチドリやコチドリな
- 68 -
どの繁殖地となっており、ハマシギやミユビシギなどの渡来地や越冬地とな
っています。朝明川や櫛田川などの伊勢湾にそそぐ各河川の河口や鳥羽市の
池の浦湾、英虞湾、紀北町の矢口浦、尾鷲湾など大きく入り組んだ入り江の
奥には砂泥質の干潟が発達しており、ホウロクシギなど多くのシギチドリ類
の渡来地となっています。志摩半島から東紀州にかけては、磯浜や島嶼が多
く、カンムリウミスズメ、ウチヤマセンニュウ、カラスバトなど特有の鳥類
が生息しています。広大な砂利浜である熊野市から熊野川河口までの七里御
浜は、著しい海岸浸食により浜が痩せ,年々生息している鳥類は減っていま
す。
(2)既に絶滅した種類
古事記、日本書紀には、日本武尊が能褒野(現在の亀山市か鈴鹿市)で死
去し、白鳥となって大和の方向に飛び去ったと書かれています。ハクチョウ
類は、古代には近畿一円で普通に見られていたようです。また、ガン類、ツ
ル類、コウノトリ、トキも絵画などに良く描かれており、江戸時代までは日
本全国と同様にごく普通に生息していたようです。
江戸時代には、特に白子(現在の鈴鹿市)、松阪(現在の松阪市)など紀
州藩領の飛び地であったところは、鷹狩り用のオオタカやクマタカは厳重に
保護され、ツル類も冬期に多数渡来し、渡来中は専属の役人が餌を与え、人
の立入を厳重に禁止していました。また、近隣では火を焚いたり,発砲はも
ちろん歌舞音曲など大きな音を出すことも厳禁し,神戸藩など周辺の他藩に
まで餌となる魚介類の採集を厳禁するなど,厳重に保護されていました。そ
の結果、マガン、オオヒシクイなどのガン類も多かったようです。現在では、
タカ類は激減し,ツルの仲間やコクガン以外のガン類は、数年に一度稀に渡
来するのみとなっており、既に絶滅したといえます。また、ハクチョウ類は
数年に一度少数のコハクチョウが迷行するのみであり、トキも絶滅していま
す。
(3)レッドリスト掲載種の概要
現在レッドデータブック掲載種の内、猛禽類はイヌワシ、オオタカ、クマ
タカはじめ 20 種です。三重県で記録された猛禽類は 27 種ですが、現在の掲
載種はその 74%にあたり、この仲間の大部分が危機的状況にあることがわか
ります。猛禽類は食物連鎖の頂点に位置するがゆえに、やはり自然環境の悪
化を象徴的に示しているといえます。
環境別に見ると、干潟や砂浜、河原などに生息している種類はシロチドリ、
コアジサシはじめ 15 種(掲載種の 20%)、森林に生息している種類はヤイロ
チョウ、アカショウビンはじめ 30 種(40%)、水辺の鳥は、オシドリ、ヒク
イナはじめ 13 種(17%)、アシ原をおもな生息場所としている種類はチュウ
ヒ、ハイイロチュウヒはじめ4種(5%)、海域をおもな生息地としている
種類はカンムリウミスズメ、ミサゴはじめ 19 種(25%)、離島にのみ生息し
- 69 -
ている種類は、カラスバトとウチヤマセンニュウの2種(3%)、草原の鳥
は7種(9%)です。
県内で確認されている森林性の種類は 65 種ですが、半数近い 30 種がレッ
ドリストにあげられており、スギ・ヒノキ植林地の増加と放棄による森林の
自然環境の悪化の深刻さをよく示しています。また、県内で確認されている
水鳥は 165 種ですが、その内の 38 種、レッドデータブック掲載種の 51%が水
鳥です。特に、干潟や砂浜、河原といった裸地に生息する種類の減少が問題
です。これはダムや井堰による河川の土砂流下の阻害による広い河原の消滅、
海岸浸食の増加など、自然環境の悪化を象徴的に示しているといえます。
県内で希少となっている自然環境は,河原や砂浜などの広い面積の裸地で
あり、こうした環境にのみ営巣するコアジサシ、シロチドリ、コチドリ、イ
カルチドリなどが危機的状況にあるといえます。これらの種は、四日市港や
長良川河口、松阪港などの工事中の埋立地や造成地などの裸地にも営巣し,
一時的に増えることがあります、しかし、こうした環境は工事途中に一時的
にできたものであり、その時には増加したとしても、危機的状況を脱したこ
とにはなりません。
文 献
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.
(武田恵世)
5 爬虫類
(1)爬虫類相概観
三重県の陸産爬虫類はニホンイシガメ 、クサガメ、ミシシッピアカミミガ
メ(以上,ヌマガメ科)、スッポン(スッポン科)、ニホンヤモリ(ヤモリ科)、
ニホントカゲ(トカゲ科)、ニホンカナヘビ(カナヘビ科)、タカチホヘビ、
シマヘビ、アオダイショウ、ジムグリ、シロマダラ、ヒバカリ、ヤマカガシ
(以上、ナミヘビ科)およびニホンマムシ(クサリヘビ科)の2目7科 15 種
知られています。これらのうち,外来種のミシシッピアカミミガメを除くカ
メ類3種、ニホンヤモリ、タカチホヘビ、ヒバカリおよびヤマカガシの7種
は本州、四国、九州に、他のトカゲ類2種およびヘビ類5種は北海道から九
州に共通的に分布する在来種であり、いずれも県下には広域的に分布してい
ます。日本固有種としてはニノンイシガメなど8種が認められています。
海産爬虫類のうちウミガメ類はアカウミガメ、アオウミガメ、タイマイ、
ヒメウミガメ(以上,ウミガメ科)およびオサガメ(オサガメ科)の2科5
種の記録があります。これらのうち、アカウミガメは日本列島が北太平洋に
おける唯一の産卵地であり、伊勢湾、志摩半島および熊野灘沿岸も重要な産
卵場の一つとなっています。その他の4種は採餌のための回遊および海流に
- 71 -
よる稀な漂流であるが、アオウミガメは漁網で混獲されることが多く、熊野
灘沿岸は重要な採餌場となっているものと推察されます。一方,ウミヘビ類
はエラブウミヘビ、ヒロオウミヘビ、マダラウミヘビおよびセグロウミヘビ
(以上,コブラ科)などが稀に記録されるが、いずれも海流などによる漂流
です。
(2)絶滅危惧、準絶滅危惧種の概要および情報不足種の概要
絶滅危惧Ⅱ類にはアカウミガメ、準絶滅危惧種にはタカチホヘビおよびシ
ロマダラが、また、情報不足種にはアオウミガメおよびスッポンが選定され
ました。
アカウミガメは日本沿岸が北太平洋における唯一の産卵地であり、三重県
でも伊勢湾および志摩・熊野灘沿岸で毎年多数の産卵が確認されてきました
が、近年,産卵地点および自然孵化率ともに減少しています。タカチホヘビ
とシロマダラはいずれも水平的には県下に広域的に分布しますが、三重県産
ヘビ類のなかでの相対確認頻度が低く、森林伐採を含めた諸開発次第では地
域的に消滅する可能性が高い。アオウミガメは日本本土には産卵場がなく、
採餌のために回遊するが,漁網による混獲死が多い。スッポンは地域在来個
体か養殖など人為的由来によるものか出所の不明なケースが多い。
文 献
冨田靖男.1980.三重県も爬虫・両生類相.三重県立博物館研究報告.自然科学第2号:
1−67.
冨田靖男.1994.三重県の両生類.三重の生物.日本生物教育会第 49 回全国大会記念誌.
三重生物教育会:139−145.
若林邦夫.1994.志摩半島南部におけるアカウミガメの産卵状況.日本のウミガメの産卵
地.日本ウミガメ協議会.大阪:88−89.
若林邦夫.1998.三重県下での最近 10 年間の産卵状況.紀伊半島のウミガメ−十年のあゆ
み−.紀伊半島ウミガメ情報交換会.和歌山:37−43.
三重県立博物館・三重自然誌の会(編)
.2001.レッドデータブック準備書:72p.
(冨田靖男)
6両生類
両生類相概要
三重県の両生類は2目7科 22 種が記録されています。目別にみると、有
尾目はサンショウウオ科5種、オオサンショウウオ科1種、イモリ科1種で
あり、無尾目はヒキガエル科2種、アマガエル科1種、アカガエル科9種、
アオガエル科3種です。
(1)有尾目
種別に概観すると、カスミサンショウウオは中勢地域を中心に北勢、伊賀、
- 72 -
志摩地域の平地、丘陵地に生息地が点在しています。止水性で、繁殖行動は
早春に林縁部の水田、側溝、浅い池沼などで行われます。他のサンショウウ
オ科4種はいずれも山地に生息し、流水性で、礫下や伏流水中で産卵が行わ
れます。これらのうち,ブチサンショウウオ は鈴鹿山系から牟婁山地にか
けて、また、熊野灘の臨海部から山地まで4種のうちでは分布域が最も広い
が、成体の確認数は少なく、県内における繁殖場所についても不明な点が多
い。ヒダサンショウウオ は鈴鹿山系から布引山系にかけての県北中部の山
地に生息地が点在しています。オオダイガハラサンショウウオ(三重県指定
天然記念物)は三峰・台高山系および牟婁の山地に生息地が点在しています。
また,鈴鹿山系でも御在所岳北側での 1954 年の記録があるが、その後半世
紀にわたって確認されていません。水平的には標高 150m付近から大台ケ原
の 1600m付近まで分布する。ハコネサンショウウオ は鈴鹿山系,室生山地
および台高山系に生息地が点在していますが、三重県産サンショウウオ科の
中では現在のところ既知産地の最も少ない種類です。繁殖地の標高は員弁川
支流では 250m付近で幼生が確認されていますが,その他の地域では 700 か
ら 1100m付近にあります。
オオサンショウウオ(特別天然記念物)は生涯を通じて清流に生息する世
界最大の有尾両生類です。伊賀市、名張市および津市美杉町の木津川および
名張川水系に生息し、青山川、前深瀬・川上川、滝川など比較的密度の高い
河川もみられますが、多くの支流は生息密度が低い。また、伊勢湾に流入す
る水系にも散発的な記録がありますが、人為的移入と判明しているケースも
あり、自然分布か否かについては今後に課題が残されます。アカハライモリ
は県下各地の平地から山地にかけて広く分布しています。基本的には止水性
で、水田、側溝、池沼、湿地などに生息し、河川では淀みにみられます。垂
直的には平地の水田や熊野灘沿岸の岩礁の淡水タイドプールなど低地から
御在所岳山頂付近の池など標高 1000m余りまで生息しています。
(2)無尾目
ヒキガエル科はヒキガエルおよびナガレヒキガエルの2種知られていま
す。前者は水田、浅い池沼などで繁殖する止水産卵性の種類で、水平的には
員弁市藤原町から南牟婁郡紀和町まで、垂直的には平地の水田から鈴鹿山系
のドリーネや小池など標高 1000m付近まで分布するが、繁殖地が極めて点在
的で、かつ、いずれも繁殖規模が小さい。一方,後者は山地渓流で繁殖する
流水産卵性の種類で、鈴鹿山系、布引山系、三峰・台高山系および牟婁山地
の主として山地帯に広く生息し、熊野灘沿岸では特殊な海岸地形を反映して
海岸近くの低標高地でも観察されています。ニホンアマガエル は住宅地や
公園なども含め、平地、山地に普遍的に分布しています。繁殖期が長く、庭
の小さな水槽などでも短期間で変態を完了するなど環境への適応が強い。
アカガエル科は9種知られています。これらのうち,タゴガエルおよびナ
- 73 -
ガレタゴガエルの2種は山地渓流で繁殖する流水産卵性の種類であり、前者
(伏流水中で産卵)は県下各地の山林に広域的に、また、後者(流水中の岩
の下などで産卵)は高見山地以南で記録されていますが局所的です。他の7
種はいずれも水田、側溝、池沼などで繁殖する止水産卵性の種類であり、ニ
ホンアカガエルは平地から低山地にかけて、ヤマアカガエルは丘陵地から山
地にかけて広域的に分布します。トノサマガエルとダルマガエルは近縁種で、
前者は平地から山地にかけて広域的に分布するのに対し、後者は伊勢平野の
主として臨海部に近い地域(一部内陸部も含む)、伊賀盆地の一部および鳥
羽市答志島などに分布するが局所的であり、かつ、生息面積も狭い。ツチガ
エルは平地から山地にかけて、ヌマガエルは主として平地の水田等に広域的
に分布する、また、ウシガエルは外来種であり、平地および丘陵地の池沼に
広域的に分布します。
アオガエル科は3種知られています。モリアオガエルは北勢地域では鈴鹿
山系山麓を中心に御在所岳、野登山などの山頂部も含めて繁殖地が点在し、
北勢町には比較的規模の大きい産卵地も認められています。一方,中部以南
では宮川村桧原の宮川上流池ノ谷には年によっては 1000 卵塊以上観察され
る大規模繁殖地(三重県指定天然記念物)がみられますが、他には櫛田川お
よび宮川本流の河岸淀みや支流の谷などに点在する程度で、規模も小さい。
シュレーゲルアオガエルは主として丘陵地の林縁部水田や山地の池沼,湿地
などに広域的に分布します。また、カジカガエルは県下の主要河川の中上流
域には広域的に分布し,尾鷲市矢の川など熊野灘沿岸では河口から1㎞付近
で観察される地域もあります。
以上,既知 22 種の両生類の分布現況を概観しましたが、その種構成をみ
ると南西諸島を除く西日本に広域的に分布する種が多くを占めており、なか
でもカスミサンショウウオ、ブチサンショウウオ、オオダイガハラサンショ
ウウオおよびオオサンショウウオは三重県が分布の東限あるいは東限付近
となっている種である、また、垂直的な分布をみると、一般には山地の中高
標高地に分布するオオダイガハラサンショウウオが紀州地域では標高 150m
付近の谷に生息し、ナガレヒキガエルが熊野灘沿岸の臨海部付近まで見られ
るが、これは台高山系、紀州山地および熊野灘沿岸の複雑な地勢を反映した
ものである。このような観点からながめると、三重県の両生類相は西日本の
代表的な両生類相で、その東限付近にあたるものであり、かつ、オオサンシ
ョウウオをはじめ多数の貴重種を含むとともに、南北に長く、伊勢湾沿岸の
平野から鈴鹿山系および台高山系の山岳地域にいたる本県の多彩な環境を
反映して極めて多様なものであることが指摘されます。
(3)絶滅危惧及び準絶滅危惧種の概要
絶滅危惧Ⅱ類にはカスミサンショウウオ、オオダイガハラサンショウウオ、
ハコネサンショウウオ、オオサンショウウオ、ナガレタゴガエルおよびダル
- 74 -
マガエルの6種が選定されています。これらのうち、オオダイガハラサンシ
ョウウオはチェックシートによる評価では準絶滅危惧種でしたが、専門部会
協議の結果、減少傾向あるいは環境改変等が大きいことなどの理由により1
ランク上の絶滅危惧Ⅱ類に変更されました。また、準絶滅危惧種にはブチサ
ンショウウオ、ヒダサンショウウオおよびニホンヒキガエルの3種が選定さ
れました。
絶滅危惧Ⅱ類および準絶滅危惧各種の概要は以下のとおりです。絶滅危惧
Ⅱ類のカスミサンショウウオは既知生息地点としては比較的多いものの、宅
地、工業団地等諸開発による生息地の改変あるいは消滅、圃場整備や休耕田
化などによる繁殖地の環境、特に水条件の悪化などにより、いずれの既知生
息地も危機的状況になっています。オオダイガハラサンショウウオやハコネ
サンショウウオについては砂防工事、治山工事、林道建設、森林伐採などに
よる諸開発工事が生息地および繁殖地の沢や谷へ直接的、間接的に大きな影
響を与えています。オオサンショウウオは河川改修、護岸工事、堰堤建設な
どによる移動障害、生息地の分断、河川形態の単調化などによる直接的、間
接的影響により、生息地点および個体数が減少しており、消滅した河川もみ
られます。ナガレタゴガエルは 1990 年に三重大学演習林産をパラタイプとし
て新種記載されたカエルで、県内における既知産地が少なく、諸開発による
生息地への影響が懸念されます。ダルマガエルは低地性かつ水辺依存型のカ
エルであり、分布が局所的で、生息地が平地の水田、水路であるだけに水質
汚染の影響や環境改変を受けやすい。また、準絶滅危惧種のうち、ブチサン
ショウウオとヒダサンショウウオはオオダイガハラサンショウウオと同様で
す。ニホンヒキガエルは水平的な分布域は広いが既知繁殖地が局所的であり、
各地点の産卵規模も小さい。ロードキルなどもみられます。
文 献
冨田靖男.1980.三重県の爬虫・両生類相.三重県立博物館研究報告.自然科学第(2):1
−67.
冨田靖男.1994.三重県の両生類.三重の生物.日本生物教育会第 49 回全国大会三重大会
記念誌.三重生物教育会:p139−145.
三重自然誌の会(編)
.1995.自然のレッドデータブック・三重.三重県教育文化研究所:
184p.
三重県立博物館・三重自然誌の会(編)
.2001.レッドデータブック準備書:72p.
(冨田靖男)
7
汽水・淡水魚類
三重県は、おおよそ西部に山岳地帯が位置し、東部に平野部が広がり海と
なる、南北に細長い地形的環境を持っています。山間部が全国と同じ約7割
- 75 -
の割合であり、南部において、ほとんどは紀伊山地が占めています。この山
の多さはそれだけ起伏の多く谷あいが多いことになり、それは同時に川が多
いことを意味しています。つまり、山の多さを別の角度から見れば、川の多
さを意味することに直結します。その川の多さは、流砂系としての川が土砂
を運び、流域の地形形態を創出する契機の多さにつながり、例えば伊勢平野
や上野盆地を形成してきました。すなわち、人が生活する場としての平地を、
川が保証しています。しかも、山の多くは木々に被われ、保水と地盤の確保
にも貢献してきました。
北端部に木曽川の最下流域があり、伊勢平野には鈴鹿川、雲出川、櫛田川、
宮川など比較的大きい河川が伊勢湾に注いでいます。南は紀伊半島の南端部
にある熊野川が太平洋に、また西に流れ淀川に注ぐ木津・名張川が伊賀上野
地域にあります。また、伊勢平野周縁部や上野盆地には多くの溜池があり、
止水性の魚類が分布しています。さらに、鈴鹿山脈の東山麓においては、表
層水としての河川水ばかりでなく、伏流水としても「陸水」量が顕著に多く、
湧水帯を形成しています。一方、広く知られているように、南部は日本有数
の多雨地域であり、平地の少なく流程 10 ㎞未満の極小河川が多い。また、
上野盆地は、かつては古琵琶湖に位置しており、現在も化石類が多く産出し
ます。これらのことは、三重県は豊富な湧水域を含む淡水域をもち、特徴的
な淡水生物が進化的時間を経て定着し、より多様な生物相を保持しているこ
とを意味しています。すなわち、生物地理学的にもきわめて興味深い地域で
あり、河川、池沼などの淡水域には系統や起源の異なる種・個体群が混在し、
多様な淡水魚類相を構成しています。
この豊かな水資源と水環境を私たちの先祖は、活用して生活を向上させて
きました。特に、近代に至って、その豊かな川の水を人は生活・農業に利水
するだけでなく、工業用水としてもより多量に利用してきました。私たちは
淡水環境の有様を自分たちの利用しよい形に変えて、地下資源のない国であ
りながら水資源を基軸にした形で大いに産業が発展してきたといえます。し
かしながら、その結果として、河川においては例えば、河道の直線化、河川
水の湛水化、河床の平坦化などをもたらし、さらに生活排水・工業廃水によ
る水質悪化やブラックバスやブルーギル等の外来魚による捕食の影響などに
より、水環境や生物の生息環境が悪化しました。
三重県における県土環境の典型性は、河川数の多さに加えて湧水地帯を含
む豊富な水資源(物理・地理的要件)や生物相の多様を含む多様な水環境(生
物・環境的要件)、それらを基盤して生活してきた人間との関わり(歴史・文
化的要件)において顕著に認められます。つまり、三重県は伊勢の海という
いい方に代表されるように、
「海の県」というイメージがありますが、もちろ
んそれを否定するものではありませんが、別の見方をすれば、県土環境の典
型性はその豊かな淡水環境と多様な淡水生物相にあるのです。
- 76 -
(1)三重県の淡水魚類相
現在までのところ、外来魚も含め三重県全体で 17 目 47 科 145 種(亜種
を含む)が記録されています。この数はわが国の淡水魚全体のおよそ約 35%
に相当します。また、外来魚は、県内淡水魚のうち約6%を占めることに
なります。
三重県の淡水魚類相は、種組成と地勢から見て、木曽三川水系から南は
宮川・五十鈴川までの伊勢平野を東に流れる北勢・中勢地域となる伊勢湾
水域、南勢地域となる熊野灘水域、伊賀上野地域となる上野水域の3地域
に大別することができます(名越,1978)。
木曽三川を含む伊勢湾水域は、国の天然記念物であるネコギギやイタセ
ンパラ、およびウシモツゴなどの固有種が分布し、上野水域を含む琵琶湖・
淀川水系と並んで、全国でも最多を誇る豊かな種数をもちます。この伊勢
湾水域と上野水域は、北方系と南方系の生物地理学的区分となる伊勢湾・
若狭湾線をまたぐ位置にあります。琵琶湖・淀川水系に属する上野水域に
おける魚類相は、おもにコイ目とナマズ目などの純淡水魚からなり、アジ
ア大陸と密接な類縁関係にある魚種が多い。例えば、ムギツク、カワヒガ
イ、カワバタモロコ、ズナガニゴイ、コウライモロコ、イトモロコなど、
濃尾平野や瀬戸内地方と共通する小型のコイ科魚類が目立つ。例えば、県
内には、ヤリタナゴ、アブラボテ、タイリクバラタナゴ、イチモンジタナ
ゴ、カネヒラ、シロヒレタビラの6種類のコイ科タナゴ類が生息し、タイ
リクバラタナゴを除く5種は在来種とされています。タナゴ類は熊野灘水
域を除く伊勢湾水域と上野水域に生息しています(名越、1978)。また、熊
野灘水域の小河川群には、ハゼ科魚類の割合が高く分布しています。した
がって、三重県は、その日本有数の魚類相をもつ2つの水系が位置し、か
つ回遊魚も多く、「淡水魚の宝庫」といえます。
他方、わが国の内水面において、水産資源の増殖目的にした淡水魚の移
殖放流も活発に実施されています。三重県においても同様で、これまでニ
ジマス、タイリクバラタナゴ、カダヤシ、カムルチー、オオクチバス、ブ
ルーギル、タウナギなどの国外外来魚に加え、イワナ、アマゴ、アユ、ヌ
マチチブのような、国内の他地域に由来する国内外来魚が記録されており、
あるものは在来淡水魚への脅威となっています。特に、北米原産で魚食性
のオオクチバスとブルーギルによる影響は甚大で、多くの溜池では小型の
在来魚がほぼ壊滅状態にあります。両種はセットで密放流(違法放流)さ
れることが多く、最近ではコクチバスも県内で確認されています。また、
保全のための放流を考慮する状況も生じようが、それは例えば「放流ガイ
ドライン 2005」(日本魚類学会策定)を参照にして実施されるべきです。
三重県の淡水魚類相は多様であり、かつ固有性が高い。在来の淡水魚は、
県内のみならず国土環境の自然史的遺産としての価値があります。それを
- 77 -
保護するためには、生息環境の整備・保全はもとより、外来種問題など生
物多様性をめぐる課題についての理解を深め、県民協働で県土環境の保全
を図ることが望まれます。
(2)選定種の概要
三重県版レッドデータブックでは、以下に示す 27 種の淡水魚を掲載して
います。これには、ネコギギのような文部科学省(文化庁)の種指定天然
記念物や、イチモンジタナゴ、ウシモツゴ、カワバタモロコ、ホトケドジ
ョウなど、環境省の新版レッドリストで絶滅危惧ⅠB類(EN)に選定され
ている種が含まれています。本県においても、その減少が著しく、特に、
イチモンジタナゴ、ウシモツゴ、カワバタモロコは県内で1∼数箇所でし
か確認されていません。
環境省レッドリストの絶滅危惧類(VU)としてアカザやメダカが生息し
ていますが、本県においても河川や水路の環境変化により減少傾向にあり
ます。特に、メダカは外来種であるカダヤシの増加拡散との競合も懸念さ
れます。また、本県には、環境省版レッドリストで地域個体群(LP)とし
て選定されているハリヨとイワメが分布しています。ハリヨの生息現況は
極めて遺憾ながら放流に基づいており、県内原産地は湧水の枯渇と埋め立
てにより絶滅しています。イワメは種として独立しているわけではありま
せんが、全国的に数か所でしか確認されていないため、イワメ型を産する
アマゴ個体群を選定しました。これは環境省版レッドリストには絶滅のお
それのある地域個体群(LP)として「無斑型(イワメ)が混在する西日本
のアマゴ個体群」と位置づけられています。
県版 EN 種として、カワバタモロコ、カネヒラ、シロヒレタビラ、カワヒ
ガイ、ズナガニゴイ、アジメドジョウ、スジシマドジョウ(小型種東海型)、
アシシロハゼを選定しました。スナヤツメ、イトモロコ、ヤリタナゴ、ア
ブラボテ、カネヒラ、シロヒレタビラなど全国的には普通種であるといい
ますが、三重県内では希少種となっている種も少なくありません。このう
ちで特に、シロヒレタビラは減少の程度が著しい。また、琵琶湖産のアユ
放流に伴って移入してきた可能性も否定できない種もあり、遺伝子分析な
どによる精査を行う必要があります。
保全生物学的に地域的な絶滅の蓄積が、やがては種の絶滅に通じるため、
普通種であっても地域レベルでの減少動向に対して留意すべきです。減少
要因を解析し、早急に保護対策を実施することが不可欠であり、さらに、
イドミミズハゼとタビラクチは継続的に繁殖する場所が確認されておらず、
判定する資料が不十分といわざるをえません。実態把握のないまま絶滅す
ることのないように、早急に生息の現状を精査することが望まれます。以
上のように、これらの生息の意義と実態調査の実施は、国のレベルにおい
ても重要であります。
- 78 -
文 献
三重自然誌の会(編)1995 自然のレッドデータブック・三重 三重県教育文化研究所、津
市
森誠一.1988 淡水魚の保護-いくつかの現状把握といくつかの提起.関西自然保護機構会報、
16:47-50.
森誠一.1989
淡水魚保護のためのネットワークこの一年.淡水魚保護、2:128-131
森誠一.1994
三重県津市カワバタモロコ実態調査報告.三重県津市教育委員会
森誠一.1994
河川形態-名張・滝川を例にして.三重自然誌、1: 19-26.
森誠一.1995
三重県版レッドデータブック.三重県教育委員会
森誠一.1995
多度町史-自然編.三重県多度町教育委員会
森誠一.1995
津市南部丘陵地におけるカワバタモロコ.三重自然誌、2:12-18
森誠一.2002
紀勢町の淡水魚類.三重県環境保全事業団報告
森誠一.2004
三重県上野市におけるため池の魚類相.国立環境研究所報告、高村典
子編
森誠一・名越誠.1986
三重県三国谷のイワメとアマゴにおける形態比較. 三重大学
紀要、13: 135-143.
森誠一・渡辺勝敏.1990
淡水魚の保護-ハリヨとネコギギの場合から.淡水魚保護、
3: 100-109
名越 誠.1978.三重県における淡水魚類の地理的分布.淡水魚、(4):12-17
名越誠・森誠一.1988.動・植物分布調査報告書・淡水魚類.環境庁
清水義孝・森誠一.1985.員弁川の魚類相と分布.淡水魚、11: 135-142.
清水義孝・森誠一.1986.養老山地における河川の魚類とその分布.養老山脈南部丘陵地
(古野地区)自然科学報告書.北勢自然科学研究会:p50-68
多度町教育委員会(編)1995 多度町史
自然
(森誠一)
8
クモ類
三重県における蜘蛛類に関する調査は、戦前からの目録作成のための調査
研究や 1960 年代に始まった本格的な分布調査があり,それらをとりまとめた
2003 年の三重クモ談話会 30 周年記念「三重県産クモ類目録」の作成を経て、
レッドデータ調査となりました。これまでに調査を実施した地域は、県内の
各地をほぼ網羅して 460 か所に及び、確認種は 44 科 510 種となっています。
それらを検討した結果、レッドデータの調査対象種として、当初はレッド
データブック準備書に 41 種をあげたが、その後の知見によりドヨウオニグモ、
チビクロドヨウグモ、サンロウドヨウグモ、カマスグモの4種を加えて、45
種としました。それらの種について、三重県の用意したチエックシートによ
り評価した結果、絶滅危惧種ⅠB類(EN)5種、絶滅危惧種Ⅱ類(VU)8種、
準絶滅危惧(NT)11 種、情報不足種(DD)13 種となりました。
なお、残りの8種の内、イトグモ、ナカムラオニグモ、ムシバミコガネグ
- 79 -
モ、ゲホウグモの4種については、評価の結果、絶滅のおそれなしと判定さ
れました。クロトリノフンダマシ、ソメワケトリノフンダマシの2種は他種
のシノニムであり、ヤマシログモ、コケオニグモは誤同定であることが判明
しました。
次に,レッドリスト掲載種の内,情報不足種を除く 24 種について、大きく
3つのグループに分けることができます。
ひとつは、かつてはごく普通に見られた種であるが、個体数が過去 40 年間
に激減しているグループで、オニグモ、コガネグモ、ドヨウオニグモなどが
あげられます。これらは生息確認地点数も多く、環境が似ていればどこにで
も見られる一般的な種でしたが、特に近年はこのような一般種の数が減少傾
向にあります。例えばオニグモなどは、どこの地域でも夕方になれば、家の
近くで網を張り始める姿が見られたものですが、最近ではほとんどその姿を
見ることができなくなりました。また、ドヨウオニグモは原野や水田、とく
に水田地帯では露の降りた朝などは、稲穂の上層部に一面にシーツを張った
ように網が見られたものでしたが、これもあまり見られなくなりました。コ
ガネグモも原野ならどこでも見られましたが、近年とくに数を減らしていま
す。
ふたつめは、生息確認地点数や採集個体数が比較的少ない種です。これら
の種は、元来生息数が少ないものなのか、あるいは生息はしているが採集方
法が適当でないために確認できないのか、判断が難しい面もあるが、今後知
らないうちに姿を消してしまう恐れがあるとして選定しました。キシノウエ
トタテグモ、カネコタトテグモ、ワスレナグモ、チビクロドヨウグモ、イサ
ゴコモリグモ、キノボリトタテグモ、アケボノユウレイグモ、スズミグモ、
サンロウドヨウグモ、アワセグモなどがこのグループです。スズミグモは全
国的な調査が行われていますが、それによれば、ある年ある地点で突然大量
に観察されるが、翌年には全く姿を消すといった現象が見られます。
最後に、生息環境や生息地域が極端に限定されており、その生息環境がな
くなれば絶滅する危険性が大きい種であるスズカホラヒメグモ、シュウレイ
ホラヒメグモ、ヤマトホラヒメグモなどの洞穴性種、シノビグモのように限
られた環境にのみ生息する種、ドウシグモ、キヌアミグモ、ツユグモ、トゲ
グモ、シマサザグモ、アシナガカニグモ、カマスグモなどの生息地域が狭い
種などが該当します。
クモ類は、昆虫類などの小動物のみを食料とするため、昆虫が減少すれば
大きな影響を受けます。さらに、害虫駆除のための農薬散布により、益虫と
して存在していたクモも一緒に殺されるということも起こます。また、開発
による里山、原野の破壊、空気や水の汚染などにより直接死滅するもの、汚
染された空気や雨などによって生殖機能が減退して死滅するものなど、さま
ざまな要因により多くの種が減少しているものと思われます。このような現
- 80 -
象は他の生物とも共通するものです。
文
献
谷川昭男
2005 日本産クモ類目録(2005 年版) KISIHIDAIA 87:127-187
(橋本理市)
9
甲殻類
三重県産十脚甲殻類のうち、短尾類については古くから研究が進められて
おり、1930 年代には Sakai(1936,1937,1938 および 1939)の Studies on the
Crabs of Japan(Ⅰ∼Ⅳ)にすでに 120 種の三重県に関する記載が認められ
ます。1940 年代以降は山下(1940)を始め多くの地域的な調査報告が見られ
ますが、県域全体をまとめたものとしては田中(1962,1964,1966,1973,
1978)の「三重県産カニ類総目録」および「追加(その2∼5)」があり、380
種が収録されています。また,Sakai(1976)の Crabs of Japan and the Adjacent
Sea(図鑑 日本産蟹類の英文版)には掲載種約 900 種のうち 328 種に三重県
関連のデータの記載が認められます。三重県の短尾類調研究査者グループで
組織した短尾類分布調査研究会はこれらの文献をベースに、詳細な研究史と
多くの未発表資料も追加し、1983 年に「伊勢湾および熊野灘北中部海域の短
尾類相」
(三重県立博物館研究報告 自然科学第5号)をまとめたが、それに
は 447 種が収録されています。現在ではその後の追加種を含めると、三重県
産のカニ類は日本産既知種の半数ほどにあたる 500 種近くにのぼるものと推
定されます。
異尾類に関する三重県産目録としては、佐波(1981,1983)により 92 種が、
また、佐波・冨田(1984)により、前記文献も含め 102 種の報告がなされて
いますが、現在ではその後さらに多くの種が追加されていると思われます。
一方,長尾類についてはデータの付随する、まとまったリストはみられませ
ん。
絶滅危惧該当種の選定にあたっては、潮下帯から深海域に生息する種類は
データの集積が困難であることから、さしあたり対象外とし、干潟、河口、
河川に生息する種類を対象に第1次候補種として既存文献、既存未発表資料
および現地調査結果をもとに 16 種(一部種群)を選定しました。さらに、こ
れらを三重県版カテゴリー分類用チェックシートで客観的にランクづけし、
各専門家協議による補正情報も加味して絶滅危惧ⅠB類(EN)3種、絶滅危
惧Ⅱ類(VU)2種、準絶滅危惧(NT)3種、情報不足(DD)8種の最終的ラ
ンクを決定しました。選定された短尾類はいずれもスナガニ科およびイワガ
ニ科の種類であるが、これは対象を干潟、河口、河川としたためで、当然の
結果といえます。
絶滅危惧ⅠB類(EN)3種のうち、カワスナガニは尾鷲市の賀田湾にそそ
- 81 -
ぐ古川の河口近くが唯一の既知生息地です。生息範囲が狭く、小礫の多い汽
水域に限られており,今後の河川環境の変化次第では予断を許さぬところで
す。ハクセンシオマネキは伊勢湾中南部沿岸の干潟に局所的に生息しますが,
宮川や櫛田川の河口干潟のように消滅あるいは激減しているところもありま
す。また、シオマネキは県内に生息地点が数か所認められますが、極めて小
規模な個体群で、かつ、生息地の基盤が脆弱であり、今後の動向には注意が
必要です。なお、シオマネキ類2種の県内既知生息地は、かつては日本にお
ける分布の東北限地であったが、近年は本州太平洋岸沿いに分布を拡大しつ
つあります。
絶滅危惧Ⅱ類(VU)2種のうち、アリアケモドキは伊勢湾沿岸の河口・干潟
および熊野灘沿岸に点在し、また、オサガニは伊勢湾中南部沿岸河口、阿曽
浦、紀伊長島などで記録されているが、近年における生息確認率は低い。
準絶滅危惧(NT)3種のうち、ウモレベンケイガニは伊勢湾中南部沿岸や
英虞湾、オオユビアカベンケイガニは伊勢湾中部沿岸、タイワンヒライソモ
ドキは熊野灘沿岸の河口、干潟で記録されているが、いずれも生息地の基盤
が脆弱です。
河口・干潟の生物の減少要因としては、河口の護岸および港湾等の改修、
埋め立てなどによるアシ原湿地や干潟の減少、および河川水の水質汚濁など、
生息地の環境悪化あるいは消滅などによるところが大きい。元来、生息地が
局所的であり、かつ干潟・河口の短尾類群の中での相対密度が低いと推察さ
れるこれらの選定種については,このような環境変化の影響をより顕著に受
けていることが示唆されます。
文 献
佐波征機.1981.三重県沿岸産異尾類目録(Ⅰ)
.三重生物 29:24−26.
佐波征機.1983.三重県沿岸産異尾類目録(Ⅱ)
.三重生物 33:29−34.
佐波征機・冨田靖男.1984.伊勢湾および熊野灘北中部海域の異尾類相.三重県立博物館
研究報告.自然科学第2号:1−38.
Sakai, T. 1936. Studies on the Crabs of Japan. I. Dromiacea.. Sci. Rep. Tyokyo Bunrika
Daigaku, sect. B. vol. 2, Suppl. no. 1:1−66, pls,1−9.
Sakai, T. 1937. Ditto. Ⅱ. Oxystomata. Ibid., 3(2):67−192, figs, 45, pls, 10−
19.
Sakai, T. 1938. Ditto. Ⅲ. Brachygnatha, Oxyrhyncha. Yokendo, Tokyo. p. 193−364,
figs. 55, pls 20−41.
Sakai, T. 1939. Ditto. Ⅳ. Brachygnatha, Brachyrhyncha. idid. p. 365−741, pls. 42
−111.
Sakai, T. 1976. Crabs of Japan and the Adjacent Sea. Kodansha:1−773.
田中信一.1962.三重県産カニ類総目録.三重生物 12:1−35.
- 82 -
田中信一.1964.三重県産カニ類総目録追加.三重生物
14:35−44.
田中信一.1966.三重県産カニ類総目録(その3)
.三重生物 16:53−60.
田中信一.1973.三重県産カニ類総目録(その4)
.三重生物 23:83−94.
田中信一.1978.三重県産カニ類相目録(その5)
.三重生物 27:3−9.
短尾類分布調査研究会.1983.伊勢湾および熊野灘中北部海域の短尾類相.三重県立博物
館研究報告 自然科学第、(5):1−78p.
山下信夫.1940.志摩郡産蟹類の研究(豫報)
.三重博物.第三輯:59−68.
(冨田靖雄)
10
昆虫類
三重県の自然科学調査は、1960 年前後から国立・国定公園や自然環境の重
要地域を中心に始まり、1980 年頃より各市町村史の自然科学の学術調査が重
点的に進められました。その結果、里山を含めた貴重な資料がまとめられ、
多くの新しい知見が明らかとなりました。
日本の昆虫については,1989 年に日本産昆虫総目録(九州大学農学部昆虫
学教室・日本野生生物研究センター共同編)が出版されたが、その時点での収
録種数は約 30000 種余りでありました。その後毎年多くの新しい種が発表さ
れ、県内からもこの間に多くの新種が報告されました。県内の昆虫類は何種類
になるのかまとめられていませんが,約 7000 種をはるかに越えるものと思わ
れます。
レッドデータブック掲載種の選定にあたっては,レッドデータブック準備
書掲載種 473 種(その後一部の種を追加)を調査対象種とし,2003 年より文
献,既存資料および現地調査を実施しました。また、ランクの決定にあたって
は、種ごとのデータを各分類群共通のカテゴリーチェックにかけて仮決定した
後、昆虫専門部会で結果の妥当性を協議し、一部修正を加えながら最終決定を
行いました。
その結果、絶滅(EX)11 種、絶滅危惧IA類(CR)21 種、絶滅危惧I
B類(EN)49 種、絶滅危惧Ⅱ類(VU)86 種、準絶滅危惧(NT)82 種、
情報不足(DD) 158 種の計 407 種が選定され、絶滅危惧種は 156 種に達し
ました。おもなる環境別の代表的な選定種の生息現況は以下のようです。
三重県は南北に長く広がり、平野部を分断する各河川の間には、ムロウオ
サムシ、ウガタオサムシ、タキハラオサムシや、最近発見され命名されたミ
ハマオサムシなど、狭い地域に分化したオサムシが限られた環境の中で生息
をしています。身近な河川も長年の環境の変化によりコサナエ、オオサカサ
ナエ、キベリマルクビゴミムシ、カワラゴミムシ、ヒトツメアオゴミムシが
見られなくなりました。また、河川の河口、汽水域に生息するヒヌマイトト
ンボも極限られた地域にしか生息せず、確認できなくなった地域もあります。
津市白塚海岸の砂浜に依存するカワラハンミョウは当地が唯一の産地です
- 83 -
が、このままでも砂浜の変遷で絶滅に繋がります。阿漕浦海岸のハマベゾウム
シも 40 年間生息が確認されず、絶滅したものと推定され、ヤマトマダラバッ
タ、ハマスズ、オオヒョウタンゴミムシ、ヤマトケシマグソコガネ、スナサビ
キコリ、クロズハマベゴミムシダマシも砂浜から減りつつあります。志摩市賢
島のリアス式海岸のシロヘリハンミョウ,熊野灘のタイドプールのタイリクア
カネも限られた生息地で絶滅が危ぶまれています。
長年の都市、住宅、工場建設開発により、河川の支流や農業用水は汚染さ
れ、溜池はなくなり、水田は放棄され、普通種であったコガタノゲンゴロウ、
スジゲンゴロウ、エゾコガムシ、ヒメタイコウチ、コバンムシなどが激減して
おり、特に前2種については何年来記録がなく絶滅したと思われます。また、
ヨシ、マコモの生育する大きな池沼からはオオキトンボ、ベッコウトンボ、マ
ダラナニワトンボ、キイロヤマトンボが激減しています。
里山においても、雑木林などの植生が長い年月の間に遷移が進み、山間部で
はギフチョウ、オオムラサキ、スジボソヤマキチョウをはじめ、ミドリシジミ、
ウラナミジャノメ、ヒメヒカゲ、ギンイチモンジセセリ、ツマグロキチョウ、
ヨツボシカミキリやセアカオサムシなども見られなくなりました。草原性のオ
オウラギンヒョウモンは既に絶滅したようであり,ウラギンヒョウモンも長ら
く記録が見られません。
山間部の渓流のムカシトンボ、宮川および櫛田川上流部のベニモンカラス
シジミ、紀伊山地から熊野灘沿岸地域に生息するウラナミアカシジミ紀南種、
大台山系を代表する固有種でもあるオオダイルリヒラタコメツキ、セダカテン
トウムシダマシ、オオダイヨコミゾコブゴミムシダマシ、アトコブゴミムシダ
マシなどもニホンジカによる樹木の食害や植生の変化が進み生息状況が悪化
しています。
クロモンマグソコガネ、ヒメキイロマグソコガネ、オオフタホシマグソコガ
ネなど食糞性コガネムシは牧場の減少と環境変化により激減し、前2種は既に
絶滅したと思われます。県境の標高 1000m以上の限られた山岳地域に生息す
る北方系のエゾゼミ、コエゾゼミ、アカエゾゼミ、エゾハルゼミも、ブナ林と
周囲の自然林の保護・保全を図らなければなりません。
最後に、石灰岩地域に点在する洞窟に生息する洞窟性のメクラチビゴミム
シ類など、体の特化した固有種については、石灰洞窟の保護と心ない乱獲者へ
の管理が必要です。特に、鈴鹿山脈野登山麓の石灰岩は採石が進み、シャクダ
イジンメクラチビゴミムシの生息していた「石大神の風穴」は破壊され,残さ
れた地域の環境の保全に配慮が必要です。
文 献
神宮司庁.1980.神宮境内地昆虫調査報告書:594p.
紀勢町教育委員会.2001.紀勢町史自然編:522p.
- 84 -
九州大学農学部昆虫学教室・日本野生生物研究センター.1989.日本産昆虫総目録Ⅰ・Ⅱ・
索引:1768p.
菰野町教育委員会.1991.菰野町史自然編:518p.
明和町史編さん委員会.2004.明和町史資料編第1巻−自然・考古−:583p.
三重県.1963.鈴鹿山脈自然科学調査報告書:442p.
三重県・伊勢志摩吉野熊野国立公園区域拡張促進協議会.1959.吉野熊野伊勢志摩国立公
園区域拡張調書:
342p.
三重県立博物館・三重自然誌の会.2001.レッドデータブック準備書∼レッドデータブッ
ク三重 2005・調査
対象種および重要生態系候補地一次リスト:71p.
三重県自然科学研究会.1972.大杉谷・大台ガ原自然科学調査報告書:285p+Ⅸ.
三重県自然科学研究会.1975.宮川揚水発電計画に伴う父ヶ谷地域自然環境調査報告書:
337p.
三重県自然科学研究会.1976.宮川揚水発電計画に伴う父ヶ谷地域自然環境調査報告書Ⅱ:
127p.
三雲町史編集委員会.2003.三雲町史第 1 巻通史編:917+ⅩⅩⅥ.
宮川村史編さん委員会.1994.宮川村史:1476p.
大宮町史編纂委員会.1986.大宮町史自然編:534p.
尾鷲地域野生生物調査会・三重県自然科学研究会.1982.尾鷲地域野生生物調査報告書:
577p.
勢和村史編集委員会.2001.勢和村史資料編二:620p.
多度町教育委員会.1995.多度町史自然:762p.
上野市.2004.上野市史自然編:1036p.
嬉野町史編纂室.2004.嬉野史自然編:476p.
四日市市.1990.四日市市史 第1巻 資料編自然:436p.
(市橋
甫)
11 貝類
(1)貝類の概要
三重県は、伊勢湾から熊野灘にかけて長い海岸線をもっています。各所に
は埋立地や港もありますが、手つかずの自然海岸も多く、豊かな自然環境に
あるといえます。生息する貝類も、内湾性の種から外洋性のものまで多様性
に富み、熊野灘沿岸海域中でも、志摩半島付近を境に南北で出現する貝類相
に違いがみられます。
三重県に生息する貝類の調査は明治時代より始まり、これまでに3回、三
重県産貝類目録が作成されました。最初のものは大正時代で、金丸但馬によ
り「三重県産貝類目録」が作成され 372 種類が記録されました(金丸,1920)。
2回目も金丸によるもので、
「三重県産生物目録」に 697 種が記録されました
(金丸, 1951)。3回目は松本幸雄により「三重の貝類」が刊行され、1,979
- 85 -
種が記録されました(松本, 1979)。「三重の貝類」出版後 25 年経過した現在
では、2,250 種の貝類の生息が明らかにされています(松本私信)。
調査の進展につれ種類数は増加しましたが、三重県も時代の流れにより開
発が進み、野生生物を取りまく状況は刻々と悪化しています。1960 年代には
県内の内湾では、埋め立てや水質汚染が深刻な問題となりました。1990 年代
には県外から砂泥を運び込み、自然海岸を人工砂浜海岸に改変する動きも盛
んになりました。また、防災機能上の理由で護岸改修工事が進められ、自然
海岸が消失しています。このような流れは全国的にも起こっており、底生生
物への影響が現れています。財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWF Japan)
により干潟の底生生物を対象としたレッドリストが作成され,340 種が絶滅の
危機にあるとランクづけされました(和田ら, 1996)。上述したように、三重
県の干潟にも開発の波が訪れており、干潟に生息する貝類の現状把握を早急
に進める必要があります。
三重県北部には鈴鹿山地や布引山地、南部には標高 1000m以上の山々がそ
びえ立つ紀伊山地が広がっています。その頂からは豊富な雨水が流れ出し、
大小様々な河川を形成し灌漑用水として広く利用されています。また、山間
部の平野や盆地には溜池も多く、多様な環境をつくりだしています。第三紀
の三重県は東海湖や古琵琶湖が存在していたこともあり、従来から多種多様
の淡水貝類が生息していました。また、陸産貝類も種類数が多く 144 種が生
息しています。特に石灰岩地帯では独自の進化をとげた陸産貝類が生息して
います。しかし,農林業の不振や高齢化により放棄された森林や田畑も多く
なり,また,そのような場所は開発されることが多く、陸淡水産貝類の置かれ
た状況は厳しいものがあります。
(2)陸産貝類
三重県は陸産貝類の生息環境の重要な要因になる地質や気候条件が変化に
富み、多数の陸産貝類が生息しています。陸産貝類調査は明治時代より始ま
りますが、本格的に実施されたのは大正以降で、これまでに 144 種の生息が
明らかにされました(松本,1979)。
県北部の石灰岩地帯は種数、個体数ともに多く、ヤママメタニシ、キョウ
トギセル、ヤマタカマイマイ、イブキクロイワマイマイ、ミカドギセルなど、
他の地域では見られない種や、特産種であるカナマルマイマイが生息してい
ます。県中部にはチビクロイワマイマイやクチマガリマイマイが生息してい
ます。鳥羽市から大紀町にかけては小規模な石灰岩地帯が点在し陸産貝類が
多く生息します。シママイマイ、ニオヤカマイマイ、ホソヤカギセルなどの
分布が知られています。伊賀地方にはナミマイマイが生息します。
(3)淡水産貝類
三重県には、伊勢湾、大阪湾、熊野灘に流入する河川があります。豊かな
水源を持つ水系に恵まれ、現存する灌漑水路や溜池は淡水産貝類の生息にと
- 86 -
って好適な環境であり、約 30 種の淡水産貝類が生息します(松本, 1979,木
村, 1994)。その後の調査は十分には進展しておらず、最近の生息状況は十分
には把握できていません。
特産種は知られていないが、オバエボシ、カタハガイ、トンガリササノハ
などイシガイ科貝類が多数生息しています。しかし、圃場整備や農薬散布に
よる影響で、ここ 20 年間に急速に生息地が消失しており、淡水産貝類を取り
巻く環境は極めて厳しい。
伊勢湾に注ぐ水系にはチリメンカワニナやクロダカワニナ、水田にはマル
タニシが生息しますが、最近は姿を見る機会が少なくなりました。代わりに
サカマキガイ、ハブタエモノアラガイ、スクミリンゴガイ、タイワンシジミ
など外来種やヒメモノアラガイ、ヒメタニシなどの汚染に耐性のある種が多
くなりました。
(4)河口域および干潟の貝類
伊勢湾岸には大規模な干潟が広がっています。河口域や内湾の中潮線付近
より上部にはアシの群落が発達し、後背湿地が形成されています。志摩半島
や熊野灘沿岸にも小規模ながら干潟が現れています。河口域および干潟はカ
ワザンショウガイ科、ウミニナ科、オカミミガイ科の貝類の重要な生息場所
となっており、近年,その貝類相が明らかにされました(木村・木村, 1999)。
しかし、このような場所は港湾整備や工場進出による埋め立てにより急激に
消失しています(中野, 2001)。また、工場や家庭からの排水、養殖による水
質汚濁が進行し、海底に厚くヘドロが堆積し、貧酸素層の発生による影響が
底生生物に及んでいます。
河口域にできる干潟や海岸線と平行にできる前浜干潟は陸水からの豊富な
栄養塩類の供給で、餌となるプランクトンが多くマルスダレガイ科、ニッコ
ウガイ科の二枚貝の生息場所となり、潮干狩りの好適地が多く知られていま
す。
熊野灘沿岸部には海跡湖が数多く形成され、淡水から汽水域にかけて生息
する貝類が生息します。
(5)絶滅危惧種の概要
101 種の調査対象種について、4年間の調査期間に得られたデータおよび既
存の資料に基づきランク付けを行いました。貝類は 1995 年に発行されたレッ
ドデータブック(三重自然誌の会,1995)では対象とされませんでした。ま
た、これまでに収集・整理された情報は、三重生物や三重県産の貝類目録等
の既存の出版物、県立博物館所蔵標本などに限られるため、過去の生息状況
との比較作業は困難を伴いました。集積したデータの客観性を確保するため
に、三重県は IUCN2001 基準をベースに三重県版カテゴリー分類ルールを作成
しました。一律のルールでチェツクシートに記入すると自動的にカテゴリー
が計算される仕組みになっています。このルールに基づき調査対象種 101 種
- 87 -
についてランクを付けました。その後、専門部会でランクの妥当性を検討し、
必要に応じて修正を加え、絶滅のおそれがある種として 78 種を選定しました。
2005 年 4 月にはリストを公表するとともに、名古屋貝類談話会からも情報
を提供していただきました。78 種という数は県内に生息する貝類のわずか
3.5%ですが、あくまでも現時点における知見の範囲であげたもので、潮下帯
以深に生息する種は対象にしていないことを考慮せねばなりません。78 種だ
けの保全策を考えるのではなく、生息地を含めた多様性の保全を意識する必
要があります。この意味からも近い将来、選定種やランクの見直しは必要で
す。特に、内湾域を中心に沿岸部の環境が大規模に改変されつつあることか
ら、十分には生息状況が把握できていない内湾域および潮下帯に生息する種
について、早急に調査を実施する必要があります。
ア陸産貝類
調査を実施してカナマルマイマイ、ヒラヒダリマキマイマイ、ヤママメタ
ニシ、カギヒダギセルなど、生息域が狭い種は、開発、自然災害や乾燥化に
より危機的な状況にあることが明らかになりました。
絶滅のおそれがあると認められた陸産貝類は 21 種類で、その内訳は、絶
滅危惧ⅠA類(CR)1種、絶滅危惧ⅠB類(EN)6種、絶滅危惧Ⅱ類(VU)
6種、準絶滅危惧(NT)6種、情報不足(DD)2種です。絶滅危惧ⅠA類は
カスガコギセルを選定しました。県内では1地点から生息記録があるが、今
回の調査では確認できませんでした。ⅠB類のうちカナマルマイマイは藤原
岳周辺の固有種です。以前は、民家付近でも観察できましたが、今回の調査
では民家付近では生個体は確認できませんでした。」また、山麓部では生息
が確認できましたが、数年前に発生した土石流現場では環境が一変し、ほと
んど姿を見ることができなくなりました。ミカドギセルは個体数は多いが、
生息地が少なく乾燥化も進行しています。カタマメマイマイは今回の調査で
は確認できませんでした。本種の生息地は極地的であるうえに、環境の変化
が認められないにもかかわらず短期間に姿を消す場合があることが知られ
ており、1964 年以来、確認されていません。カギヒダギセル、ヒロクチコギ
セルは既知の生息地が消失しました。これらの理由から、5種はいずれも環
境省のランクよりも高く判定しました。クチマガリスナガイは環境省のラン
クでは NT であり、本県の石灰岩地帯の生息地でも個体数が多いが、自然災
害で生息地が狭くなり乾燥化も進行していることから VU とした。ヒラヒダ
リマキマイマイ、キイツムガタギセル、ミカワギセルは環境省のリストでは
ランク外ですが、県内では分布域が狭いことから VU と判定しました。サド
ヤマトガイ、チビクロイワマイマイ、ホソヤカギセル、ニオヤカマイマイは
県内分布域が狭いうえ、確認数も少ないので NT と判定しました。ベニゴマ
ガイは小型で稀産種のために、今回の調査では十分に生息状況の把握ができ
なかったことから情報不足としました。ケハダビロウドマイマイは産出数は
- 88 -
決して多くはないが、県内に広く分布するためランク外と判断しました。ま
た、クチマガリマイマイやヒルゲンドルフマイマイについては環境省は準絶
滅危惧種にしていますが、県内では広域に分布し、個体数も多かったことか
らランク外としました.
イ淡水産貝類
1980 年頃からは河川改修工事や灌漑水路の整備、水田耕作の変化に加えて、
各種の排水により水質汚濁が進行し、環境は少しずつ悪化しています。特に、
イシガイ科の貝類への影響は大きく、近年は,限られた範囲に小規模な個体
群が生き残っている場合も多く、危機的な状況にあると言えます。富栄養化
した水質に耐性のあるヒメタニシ、サカマキガイやヒメモノアラガイが分布
を拡大しています。
今回は 12 種を危機的な状況にあると判定しました。三重県に生息する約
半数にあたります。その内訳は CR2種、EN1種、VU1種、NT5種、DD3種で
す。ヨコハマシジラガイ、オバエボシガイは環境省のランクではそれぞれ NT、
VU ですが、県内の生息地点数がわずかであるうえに、各生息地での個体数も
多くありません。また、グロキディウム幼生期には淡水魚に寄生する必要が
ありますが、タナゴ類などは捕獲圧が高く危機的な状況にあります。さらに、
生息環境が開発や河川改修が進行する可能性も高いことから CR と判定しま
した。カタハガイ、トンガリササノハ、イシガイは環境省のランクではそれ
ぞれ NT、NT、リスト外でありますが、三重県では多くの生息地が消失してい
ることから、それぞれ EN、VU、NT と環境省よりも高いランクに判定しまし
た。イシガイ科の中で唯一ランク外としたドブガイは局地的には減少傾向が
あるが、三重県全域で判断すると広く分布し、絶滅の可能性は低いと判断し
ました。
ウ河口域および干潟の貝類
干潟は我々の生活の場に密着した平野部に近接していることが多く、埋め
立てや港湾整備等により減少しています。また、汚水の流入の影響で水質悪
化が進行しており、底生生物は大きな影響を受けています。干潟よりも陸地
に近接している場所にあるアシ原湿地に生息するカワザンショウガイ科や
オカミミガイ科の貝類は、埋め立てや汚水流入等の影響を受け、生息地の環
境破壊が著しく進行しています。また、志摩半島から熊野灘沿岸にかけての
内湾的環境も、港湾整備や水質悪化等の影響で危機的な状況にあります。
今回は 45 種を危機的な状況にあると判定しました。その内訳は CR6種、
EN3種、VU11 種、NT19 種、DD6種です。イボキサゴは1地点、マルテンス
マツムシ、ヒメアカガイは現在、生貝が確認できる生息地は存在しません。
また、イチョウシラトリ、シイノミミミガイの生息地は複数知られています
が、現在、生貝が確認できる場所は非常に少ないことから CR と判定しまし
た。ユキガイ、フルイガイの生息地は1地点、ナラビオカミミガイは個体数
- 89 -
が少なく、アシ原湿地が護岸工事や埋め立てで著しく減少していることから
EN と判定しました。コゲツノブエ、イボウミニナ、タケノコカワニナ、ク
リイロコミミガイ、キヌカツギハマシイノミガイ、サビシラトリはいずれも
既知の生息地が 10 地点以下であり、個体数が少ないうえに、生息地である
アシ原湿地や泥干潟が著しく減少していることから VU と判定しました。NT
とした 19 種の中には、ミヤコドリやウスコミミガイのように分布域が広く、
個体数も多い種が含まれていますが、近年、盛んに行われている護岸工事や
埋め立てにより生息地が消失する可能性が高い。また、オチバガイやフジノ
ハナガイは、最近は復活傾向にありますが、最近まで、20 年以上も生息を確
認できなかったこともあり、長期的に動向を追っていく必要があると判断し
NT としました。
文 献
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1920
三重県産貝類調査報告
金丸但馬・馬場菊太郎 1951 軟体動物
木村昭一・木村妙子
1999
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日
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松本幸男
1979
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三重自然誌の会編 1995
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津:183p
中野環 2001
雲出川高潮堤防工事に伴うオカミミガイ Ellobium
chinense 生息地の破
壊 三重自然誌 (7):103-109
和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島哲・山西良平・西川輝昭・五島聖治・鈴木孝男・
加藤真・島村賢正・福田宏
1996
日本の干潟海岸とそこに生息する底生動物の現状
WWF Japan Sciennce Report 3:182p
(中野 環)
12
維管束植物の各地域での現状
我が国に産する維管束植物(種子植物・シダ植物)は約 6,000 種、亜種や変
種レベルまで加えると 8,000 を超えるといわれています。三重県内に産する
維管束植物については、その全容は必ずしも明らかではありませんが、種や
変種をあわせて、おおよそ 3,000(内シダ植物 300 以上)を超える植物が分布・
生育していると推察されます。
三重県各地域の植物相の特徴の概要は次のとおりです。
《北勢地域》
[現状]
鈴鹿山脈とその山麓一帯は、山頂付近にはブナを含む冷温帯性落葉広葉樹
林、中腹以下は暖温帯上部にあたりアカガシやツクバネガシ、ウラジロガシ
- 90 -
などを含む暖温帯性常緑広葉樹林が成立しています。ハイイヌガヤ・チャボ
ガヤ・タニウツギ・イワナシ・キンキマメザクラ・ヒメモチ・オオカニコウ
モリなどの日本海洋要素とよばれる植物群が進出しており植物相に特徴を与
えています。
また、上記の産地から運ばれた砂礫などによって形成された扇状地の谷間
には崖堆からの湧水による小規模な湿地が点在し,東海丘陵要素と呼ばれる
シデコブシ・マメナシ(イヌナシ)・ヘビノボラズ・クロミノニシゴリ・トウ
カイコモウセンゴケ・ミカワバイケイソウ・シラタマホシクサや、貧栄養で
開放的な湿地に特有な植物であるイシモチソウ・モウセンゴケ・サワシロギ
ク・ミズギボウシ・イワショウブ・ミカヅキグサ・サギソウ・トキソウなど
が分布・生育しています。ここには、寒冷な地域に分布するヤチヤナギが遺
伝的に隔離分布しているほか、逆に暖地性のミクリガヤ等も育成するなど,
種多様性に富んだ群落がみられます。
当地域に広がる丘陵地や台地には,所々に大小さまざまな溜池が点在して
います。これらの溜池の提や周辺の湿地にも前述の東海丘陵要素のいくつか
の種群や、サクラバハンノキ・ヒナノカンザシ・ヒメナエ・ハルリンドウ・
イヌセンブリ・タチカモメヅル・ゴマクサ・ムラサキミミカキグサ・カガシ
ラ・ミカワシンジュガヤ・ケシンジュガヤ・ミズトンボなどが認められます。
さらに、揖斐川・長良川・木曽川によって形成された沖積平野や伊勢平野
の池沼・水路には,時折オニバスが認められ、周辺の川畔にはタコノアシや
キヌナヤギ・コリヤナギなどの低木性ヤナギ類が散見されています。また、
伊勢湾に流入する中小河川の河口付近には塩性湿地や砂浜が発達し、コウボ
ウムギやハマヒルガオ・ハマエンドウなどの典型的な砂浜植物の群落が発達
しています。そこには、ハマヒガナ・コウボウシバ・フクド・ハマボウフウ
や、まれにナガボテンツキなども産しています。
[課題]
これらの希少植物類などが分布する丘陵地や海浜は土地利用の上からは遊
休土地として位置づけられることが多く、工場・宅地・レクリエーション施
設などの用地として開発対象となりがちで、これらの希少植物類の生育地の
保全が強く求められています。
《中勢地域》
[現状]
中勢地域は、台高山脈の北端から布引山脈へとつづく山地によって伊賀地
域と隔てられています。一方、北勢地域との間には中小河川以外に地理的な
障害となるものが存在しません。このため、この地域の植物相は北勢地域と
類似しています。しかし、中部山岳地帯や東海地方の植物相の影響が強い北
勢地域と,紀伊半島・四国の植物相との関連性が強い南勢地域との間にある
ため、両者の推移帯的特徴が中勢地域の植物相には伺われます。
- 91 -
また,この地域の 800mを越える山頂付近にもブナを交えた落葉広葉樹林が発
達していますが、北勢地域のトウゴクミツバツツジに変わって、キヨスミミ
ツバツツジが分布しています。櫛田川流域にはトガサワラ・ヤハズアジサイ・
ズイナなどが分布し、また、アサマリンドウの県内での分布北限域に当たる
など、紀州・南勢地域と同様にソハヤキ地域の性格が鮮明に現れています。
この地域には、三重県を代表する河川である雲出川・櫛田川が伊勢平野を
横切って伊勢湾に注ぎ込んでいます。これらの河川の河川敷や平野部の放棄
水田、溜池、水路には、その立地の水湿状態に応じてタコノアシ・コガマ・
ナガエミクリ・マコモ・ガガブタ・ミズオオバコ・フサモ・イバラモなどが
群落をつくっています。
また、市街地近郊の丘陵地に近い水田には、ミズキカシグサ・ミズネコノ
オ・マルバノサワトウガラシ・シソクサ・クロホシクサ・ホシクサや、ゴマ
シオホシクサも稀産しています。さらに、丘陵地に点在する溜池にはミズス
ギナ・ヒメミクリ・ヒツジグサ・ヒルムシロ・リュウノヒゲモ・イトトリゲ
モ・イバラモ・イヌタヌキモなどの水草類が繁茂する池もみられます。これ
らの溜池周辺に形成された貧栄養湿地では、東海丘陵要素のヘビノボラズや
トウカイコモウセンゴケ・クロミノニシゴリなどが分布し、その他イシモチ
ソウ・ハルリンドウ・サワシロギク・トラノハナヒゲ・ミカワシンジュガヤ・
コシンジュガヤなどが認めらます。
河口付近では砂浜や干潟が形成され、そこには特異な植物群落が発達して
います。その典型は櫛田川河口の松名瀬海岸にみられる塩生植物群落で、東
海・近畿地方で有数の群落となっており、ハマボウ群落、ハママツナやフク
ド、ハマサジ・アイアシ・ナガミノオニシバなどの群落がみられます。さら
に、砂浜にハマゴウ・ハマナデシコ・オカヒジキ・ハマヒルガオ・ケカモノ
ハシ・コウボウムギなどの砂浜植物類や、タチスズシロソウも稀産していま
す。
[課題]
ここも海浜の整備などにより希少植物の生育地が減少しつつあり、これら
の群落や植物類の保全に配慮した整備が望まれます。
《伊賀地域》
[現状]
内陸部にあり、低標高であるが都祁・信楽・布引などの山地・丘陵によっ
て囲まれた伊賀盆地では、寒暖の差が大きく、夏期には蒸発散量が降水量を
上回る傾向にあり、季節の変わり目には濃霧が発生するなど、内陸性気候の
特徴を示しています。ことに冬季は県内の他地域に比較して寒冷であり、寒
帯・亜寒帯に分布の中心をもつヤチスギラン・ミツガシワ・サギスケ・ミカ
ヅキグサなどがこの盆地を取りまく丘陵地に形成された湿地に遺存的に生育
しています。これらの湿地は、湧水により涵養された貧栄養な湿地で、小規
- 92 -
模なものが多い。しかし、ミズゴケ類が繁茂し、ミミカキグサ・ホザキノミ
ミカキグサ・ムラサキミミカキグサやモウセンゴケ・トウカイコモウセンゴ
ケ・イシモチソウなどの食虫植物も多く、その他サクラバハンノキ、ヘビノ
ボラズ・ヒナノカンザシ・スイラン・サワギキョウ・ミズギボウシ・ヒナザ
サ・イトイヌノハナヒゲ・カガシラ・ミカワシンジュガヤ・ケシンジュガヤ・
コシンジュガヤ・サギソウ・ミズトンボ・トキソウなども認められています。
また、この地域の丘陵地には多数の溜池があり、水生植物相も豊かで、コ
ウホネやヒツジグサ・フトヒルムシロ・スブタ・ヤナギスブタなどの水草類
が生育し、希少種のヒメタヌキモやミカワタヌキモ、コバノヒルムシロなど
も確認されています。さらに、ある程度の年数を経た溜池の提やその周辺で
は、キキョウやイヌセンブリ・スズサイコ・タチカモメヅル・ヒメナエ・ウ
ンヌケモドキなど、近年減少傾向にある里地の植物類も散見されています。
このように湿地性植物以外でも多様な種があげられますが、最近、滋賀県と
の県境に近い渓流沿いにおいてマルバノキが再確認されたことも特筆される
ことです。
[課題]
伊賀地域では古くから開けた奈良盆地に隣り合っており、人為の強い影響
下にあったところです。現在、周辺の丘陵地では、アカマツを優占種とした
二次林が放置されており、マツノザイセンチュウ害によるアカマツの枯死が
遷移進行を促進していますが、この樹林間に点在する湿地・湿原・放棄水田・
溜池が先に述べた植物類の生育地となっています。この丘陵地では、産業廃
棄物の投棄や陶土採掘、工場・宅地・ゴルフ場・道路開設などが盛んであり、
希少植物類の減少に拍車をかけています。残された生育地と生育環境の保全
が強く望まれます。
《南勢地域》
[現状]
中央構造線より南に位置し、紀伊半島の脊梁山地である台高山脈に遮られ、
この地域に吹き下ろす冬季の季節風は乾燥しており、夏季の多雨と対照的に
植物の生育に影響を与えています。ことに超塩基性岩地の分布する島嶼や朝
熊山周辺の丘陵地には、特徴的な植物相が発達し、チャボホトトギス・ジン
グウツツジ・ヒロハドウダンツツジ・シマジタムラソウ・シュンジュギク・
イブキジャコウソウほか、多種の希少植物が生育するホットスポット的な場
所が点在しています。さらに、伊勢湾に面した海岸部から内陸に至るまでの
平野部や丘陵地には、中勢地域と同様、水田や畑地が広がり、随所に溜池や
それに付随した湿地が散見されています。ここにはサクラバハノンキをはじ
めミズニラ・サンショウモ・ヒメコウホネ・ヒツジグサ・ミクリ・ナガエミ
クリ・ヤマトミクリ・シズイ・ツクシクロイヌノヒゲなどの水草類や湿地性
も植物がみられ、山間部の小規模な池沼にはカモガミソウなども稀産してい
- 93 -
ます。
この地域の熊野灘に面した沿岸部ではリアス式海岸が発達しており、所々
に砂礫浜や干潟、塩沼地、海跡湖などが点在し、紀伊半島東部沿岸部を代表
する貴重な植物群落が形成されています。ことに砂礫浜ではオカヒジキ・ハ
マニガナ・オニシバ・ネコノシタやイワタイゲキ・ハマナタマメなどがみら
れ、干潟や塩沼地ではハママツナ・フクド・ハマサジ・ナガミノオニシバ・
アイアシなどからなる塩性植物群落が発達しています。さらに、小さな河川
の河口部汽水域にはコアマモやカワツルモの群落が認められたりします。塩
沼地周辺に生育するハマボウが多いのもこの地域で、伊勢路川河口には大き
な群落が成立しています。また、海跡湖やその周辺には、セキショウモ・イ
バラモ・シログワイなどの水草類やハマナツメの群落がみられ、その林床に
はチョウジソウ・ノウルシ・コナミキ・ハンカイソウなども散見され、独特
の景観を呈しています。
一方、当地域の背後にある台高山地は、国内でも有数の多雨地帯で、激し
い浸食によって開析された深い V 字谷には、ズイナ・サツキツツジ・イワナ
ンテン・シチョウゲ・アワモリチョウマ・チャボツメレンゲ・イワチドリ・
ウチョウラン・ケイビラン・ウラハグサなどからなる懸崖植生がみられ、湿
った岩地上にはクサノオウバノギク・クサヤツデ・センダイソウ・イワザク
ラなどが生育しています。さらに、急斜面や痩せ尾根にはスギ・ヒノキ・コ
ウヤマキのほか、トガサワラなどの常緑針葉樹林が豊富です。これらの植物
種の多くはソハヤキ要素と名付けられる一群に属し、後述する紀州地域もふ
くめ、四国・九州と共通する植物種が多く分布し、多様性の高い植物相の骨
格となっています。また、この台高山地内の林地や渓流沿いには多くのシダ
植物が生育し、なかでも全国的に分布が局限されているヒメイノモトソウや
オオミネイワヘゴなどが自生することは注目されています。
[課題]
この地域においても、沿岸部や沿岸の丘陵地では、観光施設の建設、道路
開設や土砂採掘などの土地開発により、また、山地では林業開発によって林
種転換が進行して植物相の単純化が進みました。近年はニホンジカを始めと
する食植野生獣の増加が植物相の単純化をさらに促進しており、野生獣個体
群の適切な管理が望まれています。
《紀州地域》
[現状]
紀伊半島の脊梁山地である台高山脈は、夏季には太平洋から多量の水蒸気
を受けて降水を促す一方で、冬季には衝立としてこの地域に吹き込む寒冷な
季節風を軽減しています。さらに、沖合を黒潮が北上する熊野灘に面してお
り、この地域の沿海部や島嶼は県内で最も温暖な地域のひとつでもあります。
このため、リュウビンタイ・ヘゴ・ヒカゲアマクサシダ・オオタニワタリを
- 94 -
始めとして暖地性のシダ類を豊富に産するほか、シマクロキ・ナタオレノキ・
ヒロハコロンカ・ビロードムラサキ・ミサオノキ・バクチノキ・タイキンギ
クなど亜熱帯地域から分布を広げている暖地性の植物類が豊富に生育してい
ます。
前述のように、この地域の植物相の骨格はソハヤキ要素であり、トガサワ
ラ・マルバノキ・アサマリンドウ・ヤハズアジサイ・バイカアマチャ・ズイ
ナ・チャルメルソウ・タチバナ・イヌトウキ・シコクスミレ・クサヤツデ・
テイショウソウ・ケイビランなど、四国・九州、さらには中国西南部・ヒマ
ラヤ地方と共通する属・種が多く分布しています。その一方で、アタシカカ
ナワラビ・ジュロウカンアオイ・キイジョウロウホトトギス・ドロニガナ・
キイセンニンソウ・カワゼンゴ・ミギワトダシバなどの地域固有種あるいは
準地域固有種の発達も著しく、さらに、台高の山地が太平洋に沈みこむ沿岸
部には小規模は海跡湖が点在しその周辺には、ハマナツメやチョウジソウ・
フサスゲ・ツクシナルコや全国的に産地が限られているトダスケなどの湿性
植物が群落をつくっています。また、海辺の近くであるにもかかわらず、水
辺には内陸の水面に生育するヒメシロアサザ・スブタ・ヤナギスブタ・フト
ヒルムシロ・センニンモ・シログワイ・セキショウモ・ミズオオバコ・クロ
モなどの水草類が生育しています。
この地域でまとまった塩沼地の植物群落が認められるのは紀北町船津川河
口付近で、岸辺にはハマサジ・フクド・タコノアシ・シバナ・ビロードテン
ツキなどが生育し、汽水域にはコアマモやカワツルモの大きな群落が認めら
れています。
熊野市から南の紀宝町にかけての沿岸部では 20 ㎞に及ぶ礫浜が形成され、
ハマゴウ・ハマエンドウ・ハマアザミ・ビロウドテンツキ・コウボウムギな
どからなる海浜植物群落が成立しています。さらにこの礫浜に流入する河川
の河口部から上流にかけて広いヨシ原がみられ、ハマナツメが点在し、湿性
植物のノウルシやサデクサ・ヒキノカサ・フサスゲなどの自生をみることが
できます。ことにヒキノカサは県内での当地域が唯一の生育地であり貴重で
す。
[課題]
この地域でも古くから林業が盛んで、山地の多くはスギ・ヒノキの人工林
に転換され、わずかな自然林が点在するのみです。人工林内にも上記の希少
植物類が点在するので、生育環境を保全する適切な森林作業が望まれます。
また、沿岸部や池沼地あるいは山間部においても道路開発、埋め立て、河川
改修等が計画および実施されており、希少植物の減少、絶滅が危惧されてい
ます。
- 95 -
文 献
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三重県立博物館.2004.三重県立博物館収蔵資料目録
百永章植物標本:159p.
三重県立上野高等学校生物教室編.1960.伊賀地方産植物目録(三重県立上野高等学校所
蔵標本目録)
.三重県立上野高校:154p.
三重シダの会.1989.三重県のシダ植物.三重県良書出版会、津:188p.
三重自然誌の会.1995.自然のレッドデータブック・三重.三重県教育文化研究所、津:
183p.
三雲町史編集委員会.2003.三雲町史第 1 巻通史編:917p+XXⅥ.
宮川村史編さん委員会.1994.宮川村史:1476p.
村田源(レッドデータブック近畿研究会編)
.2004.近畿地方植物誌.特定非営利活動法人
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Nishida,M. and S. Kurita. 1980. Ophioglossum parvum, a new species from warm temperate
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大井次三郎.1978.日本植物誌.顕花編.至文堂.
大井次三郎.1982.新日本植物誌シダ編.至文堂.
大宮町史編纂委員会.1986.大宮町史自然編.534p.
長田武正.1984.1985.野草図鑑①∼⑧.保育社.
長田武正.2002.増補日本イネ科植物図鑑.平凡社:777p.
レッドデータブック近畿研究会(編著)
.2001.改訂・近畿地方の保護上重要な植物―レッ
- 96 -
ドデータブック近畿 2001.財団法人平岡環境科学研究所、川崎:164p.
佐竹義輔・原
寛・亘理俊次・富成忠夫.1989.日本の野生植物大本Ⅰ.平凡社、東京:
321p.
佐竹義輔・原
寛・亘理俊次・富成忠夫.1989.日本の野生植物大本Ⅱ.平凡社、東京:
305p.
佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・亘理俊次・富成忠夫.1981.日本の野生植物草本Ⅲ合
弁花類.平凡社、東京:259p.
佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・亘理俊次・富成忠夫.1982.日本の野生植物草本Ⅰ単
子葉類.平凡社、東京:305p.
佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・亘理俊次・富成忠夫.1982.日本の野生植物草本Ⅱ離
弁化類.平凡社、東京:318p.
勢和村史編集委員会.2001.勢和村史資料編二:620p.
多度町教育委員会.1995.多度町史自然:762p.
田川基二.1959.原色日本羊歯植物図鑑、保育社、大阪:270p.
武田明正.1980.三重の樹木.三重県・大阪営林局:176p.
上野市.2004.上野市史自然編:1036p.
嬉野町史編纂室.2004.嬉野史自然編:476p.
矢原徹一監修.2003.レッドデータプランツ.山と渓谷社、東京:719p.
矢頭献一.1964.図説樹木学.針葉樹編.朝倉書店、東京:189p.
四日市市.1990.四日市市史第 1 巻資料編自然:436p.
(山本和彦・武田明正)
13
蘚苔類
三重県の蘚苔類は古くからよく調べられており、蘚類は 537 種(孫福、1979)、
苔類は 287 種(山田、1999)が記録されています。この数値は日本産の蘚類
1,135 種(岩月編、2001)に対比すると全体の 47%を、同じく苔類では 648
種(古木・水谷、2004)に対して 44%を占めています。この数値は、南九州
一帯のコケフナラに匹敵するものです。
三重県における蘚苔類の分布状況
《北勢地方》
この地域には、滋賀県との県境を鈴鹿山系が縦走するが、ほぼ中央部に位
置する御在所岳(標高 1,210m)の山頂で見られる苔類フロラは特に特異的で
す。急峻な断崖絶壁が乱立する山頂には、蘚類では、クロゴケ、イワダレゴ
ケ、コウライタマゴケ、シモフリゴケ、クロツリバリゴケなどの北方系の種
が、苔類では、ヤマシマアミバゴケ、カネマルムチゴケ、オオミネヤバネゴ
ケ、マルバツボミゴケなどが見られるが、植物地理学上興味の尽きない地域
です。御在所岳の北には石灰岩からなる藤原岳があり、蘚類では、好石灰岩
性のセイナンヒラゴケ、タチヒラゴケ、ハリイシバイゴケ、ネジレゴケモド
- 97 -
キなどが見られます。しかし、苔類では注目すべき種はみつかっていない。
《伊賀地方》
この地域には、伊賀盆地と室生赤目青山国定公園の景勝地である赤目峡谷
(赤目四十八滝)と香落峡谷があります。赤目峡谷は、峡谷の彫りが狭いこ
とと、爆布が多くて湿度が高いために、特に、岩上生の蘚苔が多い。北方系
の種も混じるが注目すべき種は見つかっていない。一方の香落峡谷は、峡谷
の彫りが広く、峡谷沿いの植生も発達しないため、興味のある種は蘚苔類で
はみつかっていません。伊賀と伊勢を隔てる青山高原には、ブナの茂る奥山
愛宕社(奥山権現)があり、北方系の蘚苔類が記録されています。
《香肌・奥伊勢地方》
この地域には、櫛田川の上流域にある奥香肌峡一帯、宮川の上流域にある
大杉谷があります。奥香肌峡は、櫛田川が永年にわたって造形した景観の地
で、上流にある種(ハチス)一帯、支流の蓮川に刻まれた江馬小屋谷、宮の
谷、同じく青田川の上流にある千秋社の原生林などには、台高山系高所の蘚
苔類がかなり降下しており、中でも蓮一帯の石灰岩地帯は興味のある地域で
す。奥香肌峡の蘚類フロラは大杉谷の蘚類フロラとよく似ています。イワダ
レゴケ、トガリイタチゴケ、オオミゴケ、キサゴゴケ、イブキキンモウゴケ、
キアミゴケなどが記録されています。苔類は、大杉谷の苔類フロラとよく似
ていますが、フロラの全貌は十分に把握されておらず、再調査が必要な地域
です。
大杉谷は、近畿地方に残された唯一の秘境であり、北方系と南方系の種が
入り混じった魅力的な地域であるが、コケフロアは未知な点が多い。これま
でに、この地域から蘚類では、クロゴケ、フウリンゴケ、キイアミゴケ、エ
ゾチョウチンゴケ、ホンシノブゴケ、ミヤマスゴゴケ、コウライタマゴケ、
コフサゴケ、フジノマンネングサなどの北方系種、オオヒラツボゴケ、カワ
ブチゴケ、イボマツバゴケ、タチチョウチンゴケ、クロツリバリゴケ、オオ
ミミゴケなどが記録されています。これに反して、苔類では、特筆すべき種
は見つかっていません。
伊賀地方と香肌・奥伊勢地方の中間点に津市美杉町があります。この美杉
町には若宮八幡宮と三重大学付属演習林があり、若宮八幡宮境内の岩上で、
北方系種のエゾヒメヤバネゴケ、古第三紀時代の遺存種と言われるチチブイ
チョウゴケが見つかっています。一方の三重大学付属演習林からは、蘚類の
エゾチョウチンゴケ、ヒメカモジゴケ、コフサゴケ、ホンシノブゴケ、シン
ブヒバゴケ、イワダレゴケ、ヒログチキンモウゴケ、イブキキンモウゴケ、
オオミミゴケ、苔類のケシゲリゴケ、シロフタエゴケ、エゾヤハズゴケ、キ
ノボリツノゴケなどが知られています。
《伊勢・志摩地方》
三重県内で見つかっている注目すべき種は、主に伊勢・志摩地方に分布し
- 98 -
ています。中でも大半は伊勢神宮の宮域林に集中していますが、この宮域林
から約 460 種の蘚苔・ツノゴケ類が記録されています。これまでに記録され
た種の中には、蘚苔類とも熱帯・亜熱帯系の種が多数含まれており、植物地
理学上から見て非常に興味の多い地域です。特徴としては、クサリゴケ科(苔
類)の種が豊富な点です。宮域林と隣合わせに霊山信仰の朝熊山があります
が、奥の院一帯や山伏峠には珍しい種が見られ、ボウズミシトリゴケ(苔類)
が記録されています。志摩地方には、志摩市恵利原にある天の岩戸(石灰岩
地帯)でオオヒモヨウジョウゴケ(蘚類)が、南伊勢町一帯から、オオヒラ
ツボゴケ、ナゼゴケ、フクロハイゴケ、イトウキフデノホゴケ(蘚類)、マエ
バラムチゴケ、オニヤスデゴケ(苔類)などが見つかっています。鳥羽市の
東方に広がる島嶼群には注目すべき種は見られません。
《南紀・紀州地方》
大紀町には伊勢神宮の別宮である滝原宮があり、ここに立派な宮域林があ
ります。イバラヤエゴケ、イサワゴケ、イボマツバゴケ、トサヒラゴケなど
の蘚類、ホソバイトクズゴケ、サカワヤズゴケ、シコクヤスデゴケ、マゴフ
ククサリゴケ、マエバラムチゴケなどの苔類が見られます。
滝原宮から少し下った大紀町米ケ谷と頭の宮四方神社から、紀北町の木津、
魚飛渓、尾鷲市の矢ノ川峠、九鬼駅裏の渓流一帯、三木里、賀田、二木島、
新鹿、大泊にある渓流域や神社・寺院の社叢、熊野市の大馬神社などの一帯
から、リユキョウイクビゴケ、イサワゴケ、シナクジャクゴケ、キダチクジ
ャクゴケ、ヒメハゴロモゴケ、ヒメクジャクゴケ、カワブチゴケ、タチチョ
ウチンゴケ、ナゼゴケ、キジノオゴケ、ナガクビサワゴケ、サメジマタスギ、
タサノタスキゴケ、アオシマヒメシワゴケなどの蘚類、サイシュウホラゴケ、
ツボミゴケ、ハヤイヤスデゴケ、サカワヤスデゴケ、イボケクサリゴケ、チ
ャボゴヘイゴケ、タカサゴソコマメゴケ、ヨウジョウケビラゴケなどの苔類、
キノボリツノゴケ(ツノゴケ類)などの南方系の種が記録されています。
三重県の最南端に位置しています熊野市紀和町と紀宝町の苔類フロラは、
未知の状態で今後の調査が望まれます。
文 献
古木達郎・水谷正美.2004.日本産タイ類ツノゴケ類チェックリスト.2004.蘇苔類研究 8:
296-316
岩月善之助(編).2001.日本の野生植物・コケ.平凡社.東京:355p.pls 192
孫福正.1979.三重県の蘇類.:115p(自費出版)
山田耕作.1999.三重県産のタイ類とツノゴケ類(改訂).三重コケの会ニュース(20):
26-37
今関六也,本郷次雄.1989.原色日本新菌類図鑑(Ⅱ).保育社.315
(山田耕作)
- 99 -
14
キノコ
キノコは分類学的には菌界という生物群に属し、この界にはキノコ類のほ
かにカビ類や酵母菌なども含まれます。菌類のうち、胞子が交配し、分岐や
結合を行って菌糸となり、やがて原基(菌糸の固まり)を組織し、そこから
子実体を形成し胞子を生じるものがあるが、この子実体が肉眼で識別できる
ような仲間を総称して「キノコ」と呼んでいます。なお、かつて菌類は植物
界に含まれていましたが、葉緑素を持たないことや生殖のしかたなどが異な
ることから、現在では植物とは別の界に区分されています。
キノコの種数については、現在までに分類されているのは約 2,000 種ですが、
国内では少なくもと 5,000 種以上が生育するといわれています。
このように分類が遅れているのは、キノコの分類研究者が非常に少ないう
えに、発生する場所、時期などが多様なこと、発生している時間も短いこと
などの理由から、作業には甚大な時間や労力を要するためです。近年では、
全国各地で野生キノコの分布やデータ整理などに積極的に取り組む同好会が
活動しており、キノコ分類学の進歩にはこのようなアマチュアの力も不可欠
になると考えられます。
三重県は、南北に長く、海岸や奥深い山塊などの地理的条件をもち、多様
な自然環境に恵まれた県であり、野生キノコにとっても多様な生育環境とな
っています。そのため、県内のキノコの生育種数は少なくもと 1,000 種以上
あるものと思われますが、未発表データの整理や生育調査が不完全な状況に
あるため、現在までに確認された種数は約 500 種にとどまっています。
県内全域で生育が確認されているキノコとしては、マツタケ、アミタケ(三
重県地方名:スドウシ)、ホウキタケ(同:ネズミアシ)、ホンシメジ、シ
ャカシメジ(同:センボンシメジ)、ショウロなどがあり、これらはいずれ
も食用とされていたことから、キノコ狩りの人たちへの聞き取調査によって
も確認されました。しかし、最近では、マツクイムシによる松枯れ、林地開
発による松林や広葉樹林の減少、里山の放置による多様な自然環境の劣化、
海岸の砂地の減少などにより、生育地が消滅するなどキノコを取りまく環境
は非常に厳しくなってきています。
一方では、南方系のシイノトモシビタケの生育が新たに確認できたことは、
県内のキノコ相がさらに広がる可能性を示唆しています。さらに、全国的に
も希少なウロコケシボウズタケ、ルリハツタケ、コウボウフデなどが特定の
地域で確認され、日本でも貴重な生育地といえます。
(1)絶滅危惧種の概要
絶滅危惧ⅠA類にルリハツタケ、ウロコケシボウズタケ、コウボウフデの 3
種、ⅠB類にシイノトモシビタケ、ツキヨタケ、ブナシメジ、マツタケ、ム
キタケ、ハナビラタケ、ブナハリタケ、マツバハリタケ、イカタケ、カゴタ
ケ、ショウロ、クサギムシタケ、クモタケの 13 種、Ⅱ類にアミタケ、ウスキ
- 100 -
テングタケ、オウギタケ、クギタケ、ケショウシメジ、シャカシメジ、シロ
シメジ、ソライロタケ、ドクカラカサタケ、ヒメベニテングタケ、ホンシメ
ジ、マツタケモドキ、アオロウジ、クロカワ、ニンギョウタケモドキ、ホウ
キタケ、キクラゲ、シャグマアミガサタケ、セミタケの 19 種、準絶滅危惧種
にクリフウセンタケ、ヒョウモンフラベニガサ、コウタケ、トキイロラッパ
タケ、ブクリョウ、キヌガサタケの6種がリストアップされました。
里山を中心に生育するキノコが多く選定された結果は、生育地の樹種が変
化したことや開発により生育地が減少したことを示唆しています。また、県
内には限られた地域にブナ林が存在し、そこにはブナ特有のきのこの生育が
確認されています。しかし、これらのブナ林にも開発の危険性があるなど、
安定した生育地が確保されているとはいいがたく、このような環境事情も反
映しています。情報不足種として 27 種をリストアップしましたが、これらは
今後生育地の定点調査などにより生育状況等を把握していく必要があると判
断した種です。
いずれにしても、キノコのおもな生育地である里山が、生活の場として燃
料や食料などの供給源として利用されなくなってきた現在では、今後ますま
す里山の荒廃化が進むと思われます。特に、菌根菌と呼ばれるキノコの生育
地は著しく減少する状態にあることから、県内の多様な自然環境を保全して
いくことの重要性を十分に考慮し、対策を進めていくことが必要です。
文 献
今関六也,本郷次雄.1987.原色日本新菌類図鑑(Ⅰ).保育社.325
今関六也,本郷次雄.1989.原色日本新菌類図鑑(Ⅱ).保育社.315
(清田卓也)
- 101 -
Ⅱ
1
自然公園等指定地域
三重県自然環境保全条例による自然環境保全地域の面積
自然環境保全地域とは、三重県自然環境保全条例(平成 15 年 3 月 17 日三重
県条例第2号)第8条第1項の規定により、優れた自然環境を有する区域で、
その区域における自然環境を保全することが特に必要と認められるものとし
て、県が指定した地域です。
面
地域名
指定年月日
関係市町
藤原河内谷
S53.1.24
いなべ市
員弁大池
S53,1,24
いなべ市
錦
S53.1.24
度会郡大紀
町・紀北町
紀伊長島区
島勝浦
S53.1.24
紀北町
海山区
祓川
H20.5.27
松阪市
明和町
合
計
積
普通
特別
地区
地区
(ha)
計
31.30
1.20 32.50
84.40
84.40
指定対象
カワノリ(淡水
緑藻)の保護
アカマツ等
天然木保護
94.70 164.30 259.00 海蝕地形及び
天然広葉樹林
10.00 72.70 82.70 の保護
1.20
3.60
4.80 タナゴ類及びイシ
ガイ類の保護
221.60 241.80 463.40
- 102 -
2
自然公園
すぐれた風景地を保護し、その利用の増進を図るため、国立公園2ケ所、
国定公園2ケ所、県立自然公園5ケ所指定されています。
(単位:ha)
種別
公
園
指定年月日
関係市町 特保地区
特別地区 普通地区
海中公園
地区
国立
伊勢志摩
S21.11.20
4市町
944
16,565
38,035
−
公園
吉野熊野
S11.
2.1
5市町
855
4,744
11,353
14.4
国定
鈴鹿
S43. 7.22
6市町
858
11,829
21
−
公園
室生赤目
S45.12.28
4市
31
13,249
284
−
6,172
−
青山
県
水郷
S43.7.22
2市町
−
670
立
伊勢の海
S28.10.1
2市
−
−
782
−
自
赤目一志
S23.10,14
3市
−
−
22,043
−
然
峡
公
香肌峡
S28.10.1
2市町
−
−
24,764
−
園
奥伊勢
S42.8.1
2町
−
3,346
45,321
−
2,718
50,403
148,775
14.4
宮川峡
合
計
(注)特保地区:特別保護地区(特別地域の外数として計上)
参考
●自然公園別関係市町
①伊勢志摩国立公園
伊勢市、鳥羽市、志摩市、南伊勢町
②吉野熊野国立公園
尾鷲市、熊野市、大台町、御浜町、紀宝町
③鈴鹿国定公園
四日市市、鈴鹿市、亀山市、いなべ市、伊賀市、菰野町
④室生赤目青山国定公園
津市、松阪市、名張市、伊賀市
⑤水郷県立自然公園
桑名市、木曽岬町
⑥伊勢の海県立自然公園
津市、鈴鹿市
⑦赤目一志峡県立自然公園
津市、松阪市、名張市
⑧香肌峡県立自然公園
松阪市、多気町
⑨奥伊勢宮川峡県立自然公園 大台町、大紀町
●県土面積(577,719ha)に占める自然公園の割合
①公園区域(陸域) 34.9%(国立:12.6%
国定:4.5%
県立:17.8%)
②特保地区・特別地域 9.2%(国立:
4.0%
県立:0.7%)
- 103 -
国定:4.5%
【自然公園位置図】
- 104 -
Ⅲ
1
方針、条例等(※生物多様性に関する部分抜粋)
三重県自然環境保全基本方針
第 3 章 生物の多様性の確保に関する基本的な事項
第 1 節 指定希少野生動植物種の指定
1 選定
指定希少野生動植物種は、三重県自然環境保全条例施行規則で定める基準
に適合する種でであって、県内における生息・生育状況が、人為の影響によ
り存続に支障を来していると認められる種(亜種又は変種がある種にあって
は、その亜種又は変種とする。以下同じ。)を選定します。
なお、指定希少野生動植物種の選定に当たっては、次の事項に留意します。
(1) 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律に規定する国内
希少野生動植物種(以下単に「国内希少野生動植物種」という。)及び同法に
規定する緊急指定種は、選定しないこと。
(2) 栽培が法令等で禁止されている種は、選定しないこと。
(3) 農作物及び樹木等を害する動植物種で、法令等に基づき駆除等に関する
対策が講じられている種は、選定しないこと。
(4) 外来種は、選定しないこと。
(5) 従来から県内にごくまれにしか渡来、回遊又は生育しない種は、選定し
ないこと。
(6) 個体としての識別が容易な大きさ及び形態を有しない種は、選定しない
こと。
(7) その他社会通念上指定することが適当でない種は、選定しないこと。
2 指定希少野生動植物種の保護に関する指針
指定希少野生動植物種の保護に関する指針においては、その種に関する概況
及び当該個体の捕獲等の規制に関することなどを明らかにします。
第 2 節 指定希少野生動植物種の個体の取扱い
1 個体の取扱いに関する規制
指定希少野生動植物種の個体の捕獲、採取、殺傷又は損傷(以下「捕獲等」
という。)については、その種に対する捕獲等の状況を把握し、必要に応じた
規制をするため、その個体の捕獲等を行おうとする者に対し、届出などを求め
ます。
第 3 節 希少野生動植物監視地区の指定
指定希少野生動植物種等の保護のためその個体の生息・生育環境の保護を図
る必要があると認めるときは、農林水産業等地域住民の生業の安定、福祉の向
上等自然的社会的条件を考慮しながら、当該地域に係る住民及び利害関係人の
意見を聴くなど所要の手続きを経て希少野生動植物監視地区を指定します。な
お、個々の希少野生動植物監視地区の指定に係る希少野生動植物種等の数は、
一種又は複数の種とします。
- 105 -
1 希少野生動植物監視地区の指定対象種
希少野生動植物監視地区の指定対象となる種は、指定希少野生動植物種又は
国内希少野生動植物種とします。
2 希少野生動植物監視地区として指定する生息地等の選定
(1) 希少野生動植物監視地区の選定については、次に掲げる地域を優先するこ
ととします。
ア 保護上の緊急性が高い指定希少野生動植物種等の個体が生息・生育する地
域
イ 指定希少野生動植物種等を含む複数の希少野生動植物種の個体が生息・生
育する地域
(2) (1)のア又はイに該当する地域が複数存在する場合は、個体数、個体数密
度、個体群としての健全性等からみてその種の個体が良好に生息・生育してい
る場所等について総合的に検討し、希少野生動植物監視地区として優先的に指
定すべき重要な生息地等を選定します。
3 希少野生動植物監視地区の区域の範囲
希少野生動植物監視地区の区域は、その指定に係る種の個体の生息地等及び
当該生息地等に隣接する区域であって、そこでの各種行為により当該生息地等
の個体の生息・生育に支障が生じることを防止するために一体的に保護を図る
べき区域とします。
なお、鳥類等行動圏が広い動物の場合は、営巣地、重要な採餌地等その種の生
息に重要な区域及びその周辺の個体数密度又は個体が観察される頻度が相対
的に高い区域とします。
4 希少野生動植物監視地区の区域の保護に関する指針
希少野生動植物監視地区の区域の保護に関する指針では、その種の個体の安
定した生息・生育のために確保すべき条件及びその維持のための環境管理の方
針等を明らかにします。
第 4 節 移入種の対策
1 移入種の放逐等の禁止
国外、地域外からの移入種による生態系の攪乱の未然防止を図るため、県内
における地域の在来種を圧迫し、生態系に著しく支障を及ぼすおそれのある種
をみだりに放逐等することの問題を注意喚起するための普及啓発を進めます。
なお、地域の在来種を圧迫し、生態系に著しく支障を及ぼすおそれのある移入
種を飼育又は栽培等する者は、その種の逸走、飛散等の防止措置を講ずるなど、
適切な管理下において飼育又は栽培等をしなければなりません。
2 特定外来魚の増殖の抑制
地域の生態系に特に著しく支障を及ぼしているブラックバス、ブルーギルの
増殖の抑制については、関係機関及び地域住民等と連携した取り組みのもと進
めることとし、次に掲げる場合には、特に重点的に取り組むこととします。
- 106 -
(1) 自然環境保全地域及び希少野生動植物監視地区等に生息する場合
(2) 指定希少野生動植物種の個体の生息に支障を及ぼすおそれがある場合
(3) その他その生息状況から増殖の抑制を緊急に講ずることが必要な場合
2 三重県自然環境保全条例(※関係部分抜粋)
第四章 生物の多様性の確保
第一節 生物の多様性の確保に関する施策
(生物の多様性の確保に関する施策)
第十七条 県は、野生動植物の種の個体の生息又は生育の状況等の把握、希少
野生動植物の種の保護その他の生物の多様性の確保に関する施策を講ずるもの
とする。
第二節 三重県指定希少野生動植物種の指定
(三重県指定希少野生動植物種の指定)
第十八条 知事は、県内に生息し、又は生育する絶滅のおそれのあるものとし
て次の各号のいずれかに該当する野生動植物の種(亜種又は変種がある種にあ
っては、その亜種又は変種とする。以下同じ。)のうち、特に保護する必要が
あると認める種を三重県指定希少野生動植物種(以下「指定希少野生動植物種」
という。)として指定することができる。
一 種の存続に支障を及ぼす程度にその種の個体の数が著しく少ない野生動植
物
二 その種の個体の数が著しく減少しつつある野生動植物
三 その種の個体の主要な生息地又は生育地が消滅しつつある野生動植物
四 その種の個体の生息又は生育の環境が著しく悪化しつつある野生動植物
五 前各号に掲げるもののほか、その種の存続に支障を及ぼす事情がある野生
動植物
2 前項の規定による指定(以下この条において「指定」という。)は、規則
で定める基準に適合する場合にすることができる。
3 指定は、指定に係る指定希少野生動植物種及びその種の保護に関する指針
を定めてするものとする。
4 知事は、指定をしようとするときは、あらかじめ、三重県自然環境保全審
議会の意見を聴かなければならない。
5 知事は、指定をしようとするときは、あらかじめ、規則で定めるところに
より、その旨を公告し、公告した日から起算して十四日を経過する日までの間、
指定に係る指定希少野生動植物種及びその種の保護に関する指針の案(次項及
び第七項において「指定案」という。)を公衆の縦覧に供しなければならない。
6 前項の規定による公告があったときは、利害関係人は、同項に規定する期
間が経過する日までの間に、知事に指定案についての意見書を提出することが
できる。
- 107 -
7 知事は、指定案について異議がある旨の前項の意見書の提出があったとき
その他指定に関し広く意見を聴く必要があると認めるときは、公聴会を開催す
るものとする。
8 知事は、指定をするときは、その旨並びに指定に係る指定希少野生動植物
種及びその種の保護に関する指針を告示しなければならない。
9 指定は、前項の規定による告示によってその効力を生じる。
10 知事は、指定希少野生動植物種の個体の生息又は生育の状況の変化その他
の事情の変化により指定の必要がなくなったと認めるとき又は指定を継続する
ことが適当でないと認めるときは、指定を解除しなければならない。
11 第四項、第八項及び第九項の規定は、前項の規定による指定の解除につい
て準用する。この場合において、第八項中「その旨並びに指定に係る指定希少
野生動植物種及びその種の保護に関する指針」とあるのは「その旨及び解除に
係る指定希少野生動植物種」と、第九項中「前項」とあるのは「第十一項にお
いて準用する前項」と読み替えるものとする。
(県民等からの申出)
第十九条 県内に住所を有する者又は県内に事務所若しくは事業所を有する法
人は、規則で定めるところにより、前条に規定する指定希少野生動植物種の指
定又は指定の解除の申出をすることができる。
2 知事は、前項の規定による指定の申出に係る野生動植物の種が前条第二項
の規則で定める基準に適合すると認めるときは、同条第一項の規定による指定
を行うものとする。
3 知事は、第一項の規定による指定の解除の申出があった場合において、当
該指定希少野生動植物種の個体の生息又は生育の状況の変化その他の事情の変
化により指定の必要がなくなったと認めるとき又は指定を継続することが適当
でないと認めるときは、前条第一項の規定による指定を解除しなければならな
い。
4 前条第三項から第九項までの規定は、第二項の規定による指定について準
用する。
5 前条第四項、第八項及び第九項の規定は、第三項の規定による指定の解除
について準用する。この場合において、前条第八項中「その旨並びに指定に係
る指定希少野生動植物種及びその種の保護に関する指針」とあるのは「その旨
及び解除に係る指定希少野生動植物種」と、前条第九項中「前項」とあるのは
「第十九条第五項において準用する前項」と読み替えるものとする。
(捕獲等の届出)
第二十条 指定希少野生動植物種の生きている個体(飼育し、若しくは栽培し
ている個体又は繁殖させた個体を除く。以下同じ。)の捕獲、採取、殺傷又は
損傷(以下「捕獲等」という。)をしようとする者は、あらかじめ、知事に規
則で定める事項を届け出なければならない。
- 108 -
2 知事は、前項の規定による届出(以下この条において「届出」という。)
があった場合において、届出に係る捕獲等が第十八条第三項の指針に適合しな
いものであるときは、届出をした者に対して、届出に係る捕獲等をすることを
禁止し、若しくは制限し、又は必要な措置をとることを命じることができる。
3 前項の規定による命令は、届出があった日から起算して三十日(三十日を
経過する日までの間に同項の規定による命令をすることができない合理的な理
由があるときは、届出があった日から起算して六十日を超えない範囲内で知事
が定める期間)を経過した後又は第五項ただし書の規定による通知をした後は、
することができない。
4 知事は、前項の規定により期間を定めたときは、これに係る届出をした者
に対し、遅滞なく、その旨及びその理由を通知しなければならない。
5 届出をした者は、届出をした日から起算して三十日(第三項の規定により
知事が期間を定めたときは、その期間)を経過した後でなければ、届出に係る
捕獲等に着手してはならない。ただし、知事が指定希少野生動植物種の保護に
支障を及ぼすおそれがないと認めてその者に通知したときは、この限りでない。
6 次の各号に掲げる場合の捕獲等については、第一項の規定は、適用しない。
一 人の生命又は身体の保護その他の規則で定めるやむを得ない事由がある場
合
二 法令で捕獲等が制限されているものとして第十八条第三項の指針に定める
場合
(中止命令等)
第二十一条 知事は、前条第一項の規定による届出をしないで同項に規定する
捕獲等をした者又は同条第二項の規定による命令に違反した者に対し、その行
為が第十八条第三項の指針に適合しないものであるときは、その行為の中止を
命じ、又は相当の期限を定めて、原状回復を命じ、その他指定希少野生動植物
種の保護のため必要な措置をとることを命じることができる。
第三節 三重県希少野生動植物監視地区の指定
(三重県希少野生動植物監視地区の指定)
第二十二条 知事は、指定希少野生動植物種又は絶滅のおそれのある野生動植
物の種の保存に関する法律(平成四年法律第七十五号)第四条第三項に規定す
る国内希少野生動植物種(以下「指定希少野生動植物種等」という。)の保護
のために必要があると認めるときは、その個体の生息地又は生育地及びこれら
と一体的にその保護を図る必要がある区域(当該指定希少野生動植物種等につ
いて絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律第三十六条第一項
の規定により生息地等保護区に指定された区域を除く。)であって、その個体
の分布状況及び生態その他その個体の生息又は生育の状況を勘案してその指定
希少野生動植物種等の保護のため重要と認めるものを、三重県希少野生動植物
- 109 -
監視地区(以下「希少野生動植物監視地区」という。)として指定することが
できる。
2 次の各号に掲げる区域は、希少野生動植物監視地区の区域に含まれないも
のとする。
一 自然環境保全法第十四条第一項の規定により指定された原生自然環境保全
地域、同法第二十五条第一項の規定により指定された特別地区及び第十一条第
一項の規定により指定された特別地区の区域
二 自然公園法第十三条第一項の規定により指定された特別地域及び三重県立
自然公園条例(昭和三十三年三重県条例第二号)第十六条第一項の規定により
指定された特別地域の区域
3 第一項の規定による指定(以下この条において「指定」という。)は、指
定の区域、指定に係る指定希少野生動植物種等及び指定の区域の保護に関する
指針を定めてするものとする。
4 知事は、指定をしようとするときは、あらかじめ、関係市町の長及び三重
県自然環境保全審議会の意見を聴かなければならない。
5 知事は、指定をしようとするときは、あらかじめ、規則で定めるところに
より、その旨を公告し、公告した日から起算して十四日を経過する日までの間、
指定の区域、指定に係る指定希少野生動植物種等及び指定の区域の保護に関す
る指針の案(次項及び第七項において「指定案」という。)を公衆の縦覧に供
しなければならない。
6 前項の規定による公告があったときは、指定をしようとする区域の住民及
び利害関係人は、同項に規定する期間が経過する日までの間に、規則で定める
ところにより、知事に指定案についての意見書を提出することができる。
7 知事は、指定案について異議がある旨の前項の意見書の提出があったとき
その他指定に関し広く意見を聴く必要があると認めるときは、公聴会を開催す
るものとする。
8 知事は、指定をするときは、その旨並びに指定の区域、指定に係る指定希
少野生動植物種等及び指定の区域の保護に関する指針を告示しなければならな
い。
9 指定は、前項の規定による告示によってその効力を生じる。
10 知事は、希少野生動植物監視地区に係る指定希少野生動植物種等の個体の
生息又は生育の状況の変化その他の事情の変化により指定の必要がなくなった
と認めるとき又は指定を継続することが適当でないと認めるときは、指定を解
除しなければならない。
11 第四項、第八項及び第九項の規定は、前項の規定による指定の解除につい
て準用する。この場合において、第八項中「その旨並びに指定の区域、指定に
係る指定希少野生動植物種等及び指定の区域の保護に関する指針」とあるのは
- 110 -
「その旨及び解除に係る指定の区域」と、第九項中「前項」とあるのは「第十
一項において準用する前項」と読み替えるものとする。
一部改正〔平成一七年条例六七号〕
(行為の届出)
第二十三条 希少野生動植物監視地区の区域内において、次の各号に掲げる行
為(第十号から第十四号までに掲げる行為については、知事が指定する区域内
及びその区域ごとに指定する期間内においてするものに限る。)をしようとす
る者は、あらかじめ、知事に規則で定める事項を届け出なければならない。
一 建築物その他の工作物を新築し、改築し、又は増築すること。
二 宅地を造成し、土地を開墾し、その他土地(水底を含む。)の形質を変更
すること。
三 鉱物を掘採し、又は土石を採取すること。
四 水面を埋め立て、又は干拓すること。
五 河川、湖沼等の水位又は水量に増減を及ぼさせること。
六 知事が指定する区域内において、木竹を伐採すること。
七 指定希少野生動植物種等の個体の生息又は生育に必要なものとして知事が
指定する野生動植物の種の個体その他の物の捕獲等をすること。
八 知事が指定する湖沼又は湿原及びこれらの周辺一キロメートルの区域内に
おいて当該湖沼若しくは湿原又はこれらに流水が流入する水域若しくは水路に
汚水又は廃水を排水設備を設けて排出すること。
九 道路、広場、田、畑、牧場及び宅地の区域以外の知事が指定する区域内に
おいて、車馬若しくは動力船を使用し、又は航空機を着陸させること。
十 第七号の規定により知事が指定した野生動植物の種の個体その他の物以外
の野生動植物の種の個体その他の物の捕獲等をすること。
十一 指定希少野生動植物種等の個体の生息又は生育に支障を及ぼすおそれの
ある動植物の種として知事が指定するものの個体を放ち、又は植栽し、若しく
はその種子をまくこと。
十二 指定希少野生動植物種等の個体の生息又は生育に支障を及ぼすおそれの
あるものとして知事が指定する物質を散布すること。
十三 火入れ又はたき火をすること。
十四 指定希少野生動植物種等の個体の生息又は生育に支障を及ぼすおそれの
ある方法として知事が定める方法によりその個体を観察すること。
2 知事は、前項の規定による届出(以下この条において「届出」という。)
があった場合において、届出に係る行為が前条第三項の指針に適合しないもの
であるときは、届出をした者に対して、届出に係る行為をすることを禁止し、
若しくは制限し、又は必要な措置をとることを命じることができる。
3 前項の規定による命令は、届出があった日から起算して三十日(三十日を
経過する日までの間に同項の規定による命令をすることができない合理的な理
- 111 -
由があるときは、届出があった日から起算して六十日を超えない範囲内で知事
が定める期間)を経過した後又は第五項ただし書の規定による通知をした後は、
することができない。
4 知事は、前項の規定により期間を定めたときは、これに係る届出をした者
に対し、遅滞なく、その旨及びその理由を通知しなければならない。
5 届出をした者は、届出をした日から起算して三十日(第三項の規定により
知事が期間を定めたときは、その期間)を経過した後でなければ、届出に係る
行為に着手してはならない。ただし、知事が指定希少野生動植物種等の保護に
支障を及ぼすおそれがないと認めてその者に通知したときは、この限りでない。
6 次の各号に掲げる行為については、第一項の規定は、適用しない。
一 非常災害に対する必要な応急措置として行う行為
二 通常の管理行為又は軽易な行為で規則で定めるもの
三 前条第一項の規定による指定がされた際着手している行為
(中止命令等)
第二十四条 知事は、前条第一項の規定による届出をしないで同項に規定する
行為をした者又は同条第二項の規定による命令に違反した者がその違反行為に
よって指定希少野生動植物種等の個体の生息地又は生育地の保護に支障を及ぼ
した場合において、指定希少野生動植物種等の保護のため必要があると認める
ときは、これらの者に対し、その行為の中止を命じ、又は相当の期限を定めて、
原状回復を命じ、その他指定希少野生動植物種等の個体の生息地又は生育地の
保護のため必要な措置をとることを命じることができる。
第四節 移入種の放逐等の禁止等
(移入種の放逐等の禁止)
第二十五条 何人も、国内及び国外を問わず人為により移動された動植物で、
県内における地域の在来種を圧迫し、生態系に著しく支障を及ぼすおそれのあ
る種をみだりに放ち、又は植栽し、若しくはその種子をまいてはならない。
(特定外来魚の増殖の抑制)
第二十六条 県は、特定外来魚(ブラックバス、ブルーギルその他の規則で定
める魚類をいう。次項において同じ。)の増殖を抑制するため、生息する個体
数の低減及び生息域の縮小に必要な施策を講じるよう努めるものとする。
2 知事は、特定外来魚の生息する池沼の所有者(管理者又は占有者で権限を
有する者を含む。)に対し、生息する個体数の低減又は生息域の拡大の防止に
必要な措置をとることを勧奨することができる。
- 112 -
3 里地里山保全活動計画
③−1里地里山保全活動計画認定制度
三重県自然環境保全条例に基づき、里地里山を保全しようとする団体の保
全活動に関する計画について、知事が認定するとともに、その活動が促進さ
れるように支援を行います。
(認定の基準)
次の要件を全て満たしていることが必要です。
ア里地里山の保全活動計画であること。
イ保全活動計画地の面積が、概ね1ヘクタール以上であること。
ウ保全活動計画は、活動地の特性を生かしたものであること。
エ保全活動計画が、確実に実施される見込みがあること。
オ活動地の土地所有者等全員から保全活動計画について、同意書を得てい
ること。
カ保全活動計画について、関係市町村の同意が得られていること。
キ他法令等の規定による土地の利用に関する計画と調和していること。
(認定後の支援の内容)
いずれも団体が希望される場合となります。
ア団体からのメッセージ等を掲載した認定表示板を交付します。
イ県 HP 等で団体の活動内容等を紹介します。
ウ活動に関する情報提供、アドバイスを行います。
エ活動計画の実施に必要な器材等の購入経費を補助します。
③−2みんなで自然を守る活動認証制度
団体の自然環境を保全する活動を知事が「みんなで自然を守る活動」とし
て認証するとともに、活動が促進されるように支援するものです。
(認証の基準)
次の要件を全て満たしていることが必要です。
ア活動内容が自然環境保全に資するものであること。
イ活動が継続しており、かつ、今後も見込まれること。
ウ活動内容に動植物保護が含まれる場合にあっては、活動地の生態系に配
慮したものであること。
エ活動地の土地所有者等と活動について、調整が図られていること。
オ申請に係る活動地及び活動内容が里地里山保全活動計画の認定を受けて
いないこと
(認証後の支援の内容)
いずれも団体が希望される場合となります。
ア団体からのメッセージ等を掲載した認証表示板を交付します。
イ県ホームページ等で団体の活動内容等を紹介します。
- 113 -
ウ活動に関する情報提供、アドバイスを行います。
③−3補助制度(里地里山保全活動促進事業)
里地里山保全活動計画の認定を受けた団体に対して、当該活動の実施に必
要な機器類の購入経費等を補助する制度です。
(補助の対象となる活動)
知事の認定を受けた里地里山保全活動計画に基づく活動であること。
(補助の対象となる経費)
機械器具又は原材料等の購入に要する経費の2分の1
- 114 -
4
三重県指定希少野生動植物種
三重県自然環境保全条例に基づき、県内に生息・生育する絶滅のおそれのあ
る種のうち、特に保護する必要がある種として、以下の 20 種を三重県指定希少
野生動植物種 として指定をしています。
ツキノワグマ
カンムリウミスズメ
カラスバト
ウチヤマセンニュウ
カワバタモロコ
ウシモツゴ
カワラハンミョウ
ハクセンシオマネキ
シオマネキ
カナマルマイマイ
ヒモヅル
ヘゴ
オオタニワタリ
オニバス
ジュロウカンアオイ
マメナシ
ハマナツメ
ムシトリスミレ
トダスゲ
ツクシナルコ
写真提供:鳥羽水族館、三重自然誌の会、志摩半島野生動物研究会、橋本太郎氏、冨田靖男氏、山本和彦氏
- 115 -
5 特定鳥獣保護管理計画
⑤−1特定鳥獣保護管理計画(ニホンジカ)(第3期)の概要
1.目的
県内のほぼ全域にわたってニホンジカの生息が確認されており、平成 14 年
度から特定鳥獣保護管理計画を策定し、捕獲頭数の制限緩和等を行い個体群の
管理を行ってきたところであるが、農林業被害は依然として増加傾向にあり、
ニホンジカの食害による生態系への影響も指摘されている。
こうした背景から、ニホンジカについての保護管理の目標を定め、計画的な
保護管理により農林業被害と生態系への影響を軽減し、人とニホンジカとの共
生を図ることを目的として本計画を策定する。
2.計画期間
平成 24 年4月1日から平成 29 年3月 31 日
3.管理区域
県内を4つの地域に区分して管理する。
○ 四日市・伊賀地域
○ 津・松阪地域
○ 伊勢地域
○ 尾鷲・熊野地域
4.現状
(1)推定生息数
分布面積
(k㎡)
764.59
1,208.87
764.86
853.84
3,592.16
区 域
四日市・伊賀
津・松阪
伊 勢
尾鷲・熊野
計
推定生息数
(頭)
9,939
19,704
10,631
11,526
51,800
生息密度
(頭/k㎡)
13.0
16.3
13.9
13.5
14.2
(2)捕獲数の推移
年度
有害オス
有害メス
狩猟オス
狩猟メス
計
S55
152
0
2, 006
0
2, 158
H1
181
12
1,798
0
1,991
H5
206
25
3,135
0
3,366
H10
286
58
3,059
0
3,403
H15
724
209
4, 333
1, 023
6, 289
- 116 -
H17
667
298
3,780
985
5,730
H18
852
328
4,230
1,061
6,471
H19
1,160
657
3,585
2,577
7,979
H20
1,499
1,602
3,360
3,201
9,662
(単位:頭)
H21
H22
2,436 3,218
2,322 3,023
3,397 4,823
2,824 4,329
10,979 15,393
5.推定生息数と捕獲目標の見直し
○ 第2期計画では、生息頭数を約 53,000 頭と推定し、平成 23 年度に推定
生息数約 10,000 頭とするため、年間 6,000∼7,600 頭の捕獲目標を設定
した。
○ 平成 22 年度の推定生息数が約 77,000 頭であったため、平成 22 年度及
び平成 23 年度の捕獲目標を年間 12,200 頭へ引き上げ、平成 23 年度に
計画当初の生息頭数である 53,000 頭を下回る生息頭数となるよう計画
を変更した。
○ 更に、平成 23 年度において、目標の早期達成を図るため、年間の捕獲
目標を 13,500 頭へ引き上げた。
○ 第3期計画では、生息頭数を 51,800 頭と推定し、平成 27 年度に推定生
息数約 10,000 頭とするため、年間 17,800 頭の捕獲目標を設定した。
6.個体数調整
① 捕獲数の制限緩和
捕獲数については、優先的にメスを捕獲することとし、1 人 1 日当たり
の捕獲頭数の上限を無制限とし、そのうちオスは1頭までとする。ただ
し、わなを用いる場合(わなによる捕獲後の銃による止めさしを含む)
は、オスの頭数制限は適用しない。
② 狩猟期間の延長
第2期計画に引き続き、狩猟期間を 11 月1日から3月 15 日までとし捕
獲圧を上げることとする。
③ 許可捕獲におけるメスジカ捕獲の促進
許可捕獲における捕獲頭数については、メスジカの捕獲促進と被害防止
が的確に行えるよう第2期計画に引き続き必要数の捕獲を可能とする。
④ 禁止猟法の一部解除
シカの狩猟において、くくりわなの輪の直径が 12 ㎝を超えるものの使
用を認める。ただし、下記の地域は除くものとする。
(非解除地域)松阪市、大台町、大紀町、紀北町、尾鷲市、熊野市
7.被害防除対策
被害を未然に防除するため、農業及び林業の被害対策関係室と連携し、防
護柵等の設置などの防除手段を積極的に導入するよう努める。
8.生息環境の整備
広葉樹との混交林化を目指す環境林など、多様な森林づくりを推進し、生
息地の整備に努める。
- 117 -
⑤−2特定鳥獣保護管理計画(イノシシ)(第2期)の概要
1.目的
イノシシの分布域の拡大により、農作物への被害が深刻化してきており、こ
れまで電気柵等の被害防除対策や有害鳥獣捕獲等による捕獲を実施してきた。
また、平成 22 年度に特定鳥獣保護管理計画を策定し、狩猟期間の延長等を行
い個体群の管理を行ってきたところであるが、農林業被害は依然として増加傾
向にある。
イノシシによる農林業被害の軽減とイノシシ個体群の安定的維持を図るに
は、イノシシの生息実態に基づき、専門家や地域の幅広い関係者の合意を図り
つつ、保護管理の目標を設定し、被害防除対策、保護管理の手段を総合的に講
じる必要がある。
本計画は、著しく増加したと推定されるイノシシ個体群について、保護管理
を広域的・継続的に推進し、人との共生を図ることを目的として策定する。
2.計画期間
平成 24 年4月1日から平成 29 年3月 31 日
3.管理区域
管理の単位は、地域個体群で行うことが基本であるが、イノシシの場合に
は県内の分布が連続しており、被害については、一部地域を除き、県下全域
に及んでいることから、三重県全域を一つの管理区分とし県全域を対象とす
る。
4.現状
(1)農林産物被害額の推移
(単位:百万円)
年度
被害額
H13
78
H14
115
H15
H16
126
H17
146
H18
80
H19
76
H20
147
H21
126
H22
151
198
(資料:農水商工部、環境森林部)
(2)捕獲数の推移
(単位:頭)
年度
狩 猟
有害捕獲
捕獲計
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
H20
H21
H22
3,591
5,423
5,323
5,142
4,077
4,720
4,768
5,722
4,952
7,165
469
790
946
1,059
1,034
1,258
1,523
2,540
2,482
3,954
4,060
6,213
6,269
6,201
5,111
5,978
6,291
8,262
7,434
11,119
- 118 -
5.保護管理の目標
イノシシに関しては、現時点で生息密度や個体数を推定する実用的な方法
がないことから、個体数を管理目標にするのではなく、農林業被害額を保護
管理の目標とし、当面の間、被害金額を過去 10 年間で一番低い額である7千
6百万円までに抑えることとする。
6.個体数調整
① 狩猟期間の延長
第2期計画に引き続き、狩猟期間を 11 月1日から3月 15 日までとし捕
獲圧を上げることとする。
② 禁止猟法の一部解除
イノシシの狩猟において、くくりわなの輪の直径が 12 ㎝を超えるものの使
用を認める。ただし、下記の地域は除くものとする。
(非解除地域)松阪市、大台町、大紀町、紀北町、尾鷲市、熊野市
7.被害防除対策
農林業被害を減少させるには、捕獲と併せて被害防除対策等の総合的な取り
組みが重要であることから、地域・集落の住民が一体となった取り組みを推進
する。
8.生息環境の整備
イノシシ管理の最も大きな課題は農地周辺の環境管理である。特に被害の
激しい中山間地域では耕作放棄地の増加や果樹園の手入れ不足、森林の手入
不足(放置林の増加、荒廃竹林の拡大)等がイノシシの餌場や隠れ場、好適
な環境を提供しており、耕作地の周辺にある耕作放棄地や果樹園の管理、森
林の管理・利用方法について啓発を行う。
また、保護を図るため、鳥獣保護区や休猟区の指定については、被害状況
等に応じて地域の理解を得ながら対応する。
- 119 -
捕獲数計
年度
狩猟捕獲
野生鳥獣 ニホンジカ カモシカ
被害計
被害
被害
有害捕獲
ニホンジカ
ニホンジカ
ニホンジカ
被害額
被害額
オス
オス
オス
(千円)
(千円)
メス
メス
メス
狩猟者登録数
人工造林面積
再造 拡大
林 造林
(千円) (人) (甲) (乙) (丙) (ha) (ha) (ha)
被害額
計
網・ 第1種 第2種
わな猟 銃猟 銃猟
計
S55 2,158
0 2,006
152
9,192
194 8,783
215 1,421
596
825
S56 1,966
0 7,186
180
8,683
208 8,297
178 1,269
581
688
S57 2,153
0 1,920
233
8,153
206 7,782
165 1,253
562
691
S58 2,018
0 1,766
252
7,509
188 7,196
125 1,051
484
567
S59 2,426
0 2,116
310
7,185
175 6,872
138
999
508
491
S60 2,244
0 1,907
337
6,966
209 6,623
134
928
507
421
S61 2,046
0 1,788
258
6,732
242 6,355
135
915
495
420
S62 2,255
0 2,013
242
951,765 283,367 199,640 6,623
297 6,210
116
954
552
402
S63 2,053
0 1,945
108
769,875 126,793 194,469 6,409
325 5,959
125
918
575
343
H1
1,979
12 1,798
181
12 1,105,522 194,132 216,713 6,146
355 5,667
124
816
503
313
H2
2,180
4 1,999
181
4 1,050,177 143,879 221,154 6,004
386 5,507
111
726
422
304
H3
2,519
14 2,345
174
14
839,617
94,983 219,867 5,920
399 5,408
113
719
466
253
H4
2,660
9 2,466
194
9
652,404
66,563 215,103 5,705
402 5,200
103
680
471
209
H5
3,341
25 3,135
206
25
655,970
95,887 219,908 5,520
402 5,015
103
630
438
192
H6
2,762
18 2,473
289
18
605,052
95,635 180,940 5,306
402 4,799
105
536
354
182
H7
2,653
12 2,451
202
12
522,055 106,008
71,430 5,018
378 4,530
110
550
351
199
H8
3,392
15 2,949
443
15
611,899 156,517 105,778 4,904
412 4,372
120
484
240
244
H9
2,871
50 2,514
357
50
599,568 141,945 131,686 4,838
383 4,258
197
508
277
231
H10 3,345
58 3,059
286
58
894,453 171,042 145,504 4,509
411 3,960
138
463
234
229
H11 3,543
53 3,079
464
53
749,767 298,838
55,201 4,361
460 3,784
117
382
194
188
H12 3,349
8 2,912
437
8
466,491 141,227
38,835 4,322
518 3,655
149
356
183
173
H13 3,306
19 2,734
H14 3,773
897 3,167
572
19
479,076 180,368
47,194 4,138
528 3,467
143
306
133
173
814
606
83
511,644 199,757
44,001 4,051
590 3,308
153
284
144
140
H15 5,057 1,232 4,333 1,023
724
209
457,544 117,896
30,007 4,065
688 3,224
153
256
147
109
H16 4,427 1,075 3,714
909
713
166
518,543 163,465
9,285 3,851
750 3,071
30
270
149
121
H17 4,447 1,283 3,780
985
667
298
475,491 198,387
22,748 3,723
774 2,920
29
270
148
122
H18 5,082 1,389 4,230 1,061
852
328
429,480 201,073
9,685 3,668
794 2,845
29
210
100
110
H19 4,745 3,234 3,585 2,577 1,160
657
587,464 247,577
8,280 3,618
854 2,731
33
190
87
103
H20 4,859 4,803 3,360 3,201 1,499 1,602
714,598 350,392
7,453 3,564
898 2,643
23
124
44
80
H21 5,833 5,146 3,397 2,824 2,436 2,322
780,500 346,058
6,846 3,527
998 2,502
27
171
79
92
H22 8,041 7,352 4,823 4,329 3,218 3,023
751,067 374,090
6,505 3,408 1,091 2,295
22
127
81
46
- 120 -
6
農林水産被害額
H18
サル
(単位:千円)
H19
49,689
H20
119,341
H21
150,346
H22
140,139
被害種目
120,898
農業被害
野菜・果樹
ニホンジカ
201,073
247,577
350,392
346,058
374,090
水稲、ミカン
スギ、ヒノキ
イノシシ
75,835
146,899
126,452
151,137
198,241
野菜・水稲
タケノコ
カモシカ
9,685
8,280
7,453
6,846
6,505
林業被害
スギ、ヒノキ
その他獣類
5,559
4,318
4,878
9,338
10,559
(狸、兎等)
獸害小計
カワウ
野菜類
スギ、ヒノキ
341,841
526,415
639,521
653,518
710,293
71,440
42,080
43,440
96,430
11,550
水産被害
アユ
その他鳥類(ス
16,199
18,873
30,849
30,552
29,224
野菜・果樹
ズメ、カラス等)
計
対前年比
農業被害
429,480
−
587,368
136.8%
713,810
780,500
751,067
121.5%
109.3%
96.2%
(注:被害額は、農業被害―農山漁村室、林業被害―森林保全室、水産被害―水産資源室、
提供資料を自然環境室にてまとめたものです。
)
- 121 -
7
「生物多様性」に関するアンケート実施報告
三重県では、県内の生物多様性の保全と持続可能な利用を目的に生物多様性
地域戦略(基本計画)を策定中です。この地域戦略の策定の参考とするため、
「生
物多様性」に関するアンケートを実施いたしました。
アンケートにご協力いただきました e−モニターのみなさまにお礼を申し上
げますとともに、アンケートの実施結果を、下記のとおり報告します。
同アンケートの内容及び回答集計については、e−モニターのホームページ
(下記リンク先)をご覧ください。
http://www.e-kocho.pref.mie.jp/monitor/index.html?a=top;result&id=86
1
アンケート概要
アンケート実施期間:平成 23 年 2 月 1 日から平成 23 年 2 月 16 日まで
対象者数 1,367人
回答者数
837人
回答率
61%
回答者属性
年代
20 代
30 代
40 代
50 代
60 代
70 以上
回答者数
64
180
232
182
129
50
回答率(%)
7.6
21.5
27.7
21.7
15.4
6.0
2
アンケート結果を受けて
Q1 「生物多様性」という言葉の認知度
「生物多様性」という言葉を聞いたところ、「内容をよく知っている」
は9%、「ある程度知っている」は42%と半数となっています。
Q1 「生物多様性」という言葉の認知度
10%
9%
内容をよく知っている
内容をある程度知っている
39%
42%
言葉は聞いたことがある
全く知らない
Q2
情報源
Q1で「内容をよく知っている」、「ある程度知っている」と答えた方
に、どこから情報を得られたか聞いたところ、テレビが56%、新聞が
25%、インターネットが7%となっています。
- 122 -
Q2 情報源
1%
1%
7%
2%
3%
2%
テレビ
ラジオ
新聞
書籍
インターネット
25%
56%
官公庁の広報紙
ポスターやチラシ、掲示板
など
講演、シンポジウムなど
3%
Q3
問題意識
Q1で「内容をよく知っている」、「ある程度知っている」と答えた方
に、生物多様性が身近な問題であると思うか聞いたところ、
「身近な問題
である」34%、「ある程度身近な問題である」48%となっています。
Q3 問題意識
8%
身近な問題だと思う
1%
9%
ある程度身近な問題だと
思う
あまり身近な問題だと思
わない
身近な問題だと思わない
34%
48%
わからない
Q4
原因
Q1で「内容をよく知っている」、「ある程度知っている」と答えた方
に、生物多様性を損失させる原因について、最も重要だと考える原因を
聞いたところ、「生育生息地域の破壊や改変」60%、「侵略的外来種」
13%となっています。
6%
Q4 原因
1%
生息生育地域の破壊や
改変
気候変動
3%
侵略的外来種
7%
13%
10%
過度の資源利用
60%
汚染(窒素、リン)
その他
わからない
- 123 -