徳山ダム建設が タコノアシ個体群に及ぼす影響

揖斐川に再生した埋土種子群落
由来のタコノアシの個体群動態
保全生態学研究室
14218626 田中広志
目次
• 背景
• 目的
• 方法
• 結果
• 考察
背景
• 地球サミットの開催や地球環境への関心の高さか
ら,生物多様性の重要性が国際的に認識されるよ
うになりつつある.
 絶滅危惧Ⅰ類の植物は積極的に保護されるように
なった
 絶滅危惧Ⅱ類以下の植物は,必要性が唱えられ
ながらも,保護活動は遅れている
⇒河川地帯の多くの絶滅危惧Ⅱ類以下の生物にとって厳しい状況である
背景
• 2000年度から揖斐川河道掘削工事開始
→洪水対策で,河川流量増加に対応するため.
 埋土種子由来と思われる絶滅危惧Ⅱ類(2007
年以前)タコノアシの群落が偶然にも復元
背景
タコノアシ
• タコノアシ科タコノアシ属
• 花期:8月~10月
• 高さ:30~80cm
• 準絶滅危惧種(NT)
※ 調査地の岐阜県では,現在も絶
滅危惧Ⅱ類に指定されている
• 2007年8月より前は絶滅危惧
Ⅱ類(VU)に位置していた
Penthorum chinense Pursh
背景
• 河道掘削工事は2012年まで毎年計画
→新たな生育地が確保され,個体群が増加
→絶滅危惧Ⅱ類以下の植物にとって保護復元の可能性
2006年 徳山ダム完成
 予定流量に達したため,掘削工事は2007年に一旦終了
→水位調節が可能となり,湿地環境への影響が本格化
目的:
徳山ダム建設による河川環境の変動が
タコノアシの群落にどう影響するか検討
徳山ダム建設で最も考えられる環境変動
→湛水によって起こる河川水位の低下
• 流量調節機能が増加
→河川の浸食作用が少なくなる
→植生の遷移が進行
湿地面積の大幅な減少による群落の消失
方法1:個体数の推移
 タコノアシの各個体群の
個体数をカウント,前年度
までのデータと併せ推移
をみる.
観測所
a)塚
d)藤橋
b)徳山 e)揖斐
c)杉原 f)万石
方法2:揖斐川の流量調節機能
 揖斐川上流域から中流域
の万石地点まで6箇所の
観測所での30mm以上の
連続降雨量と,その時の
万石地点での水位データ
から相関の経年変化を解
析する.
観測所
d)藤橋
a)塚
b)徳山 e)揖斐
c)杉原 f)万石
方法3:水位と個体数
 野生群落における,直前
の観測所での水位データ
と各個体数データから相
関の経年変化を解析しダ
ムの影響を考察する.
観測所
c)杉原
f)万石
西小島
結果1:個体数の推移
表4-1.各調査年度における各個体群の個体数
掘削地点別 個体群 ①
②
③
④
⑤
2001
2002
2003
2004
2005
調査年度
2006
2007
2008
2009
2010
400
400
77
6
5
0
7
5
0
50
50
25
7
3
48
172
50
1
500
500
467
487
137
0
850
150
128
1780
1780
2766
4891
2609
2347
364
104
掘削工事終了
400
400
48
0
0
0
55
45
10
3
⑥
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭ 野生群落
徳山ダム完成
19
46
78
712
300
215
42
881
3741 0
630 1208
76 11000
91 2500
71 703
30
20
5
40
2848 2820 13192
331
5 0 4 6 0 0 0 2 0 1 8 4 0 10000 5 0 4 6 0 0 73
1624 410 2040 1260 44516 432
255
0
800 270 11903 365
結果2:揖斐川の流量調節機能
[30mm以上の連続降雨]
最高降雨量:110mm
最高水位 :5.3m
図4-2-6
[30mm以上の連続降雨]
最高降雨量:80mm
最高水位 :2.02m
万石における連続降雨量と水位
結果3:水位と個体数
芽生えの季節
結果3:水位と個体数
結果3:水位と個体数
試
験
放
流
ダムの放流により水位が上昇
また,試験放流が雨天と重なり大幅に上昇
2008年4月24日~5月5日(11日間)
試験期間中,長雨により出水し,
万石地点で河川流量が500m3/sを超えた
(通常の確保流量は20m3/s)
まとめ
• 徳山ダム建設と河道整備による洪水対策は,水位の低下や
一定化によって,植生が遷移し湿地帯の縮小化が進む.
• 掘削工事が終了したことで,埋土種子由来のタコノアシは復
元の一手段が絶たれ,復元した群落は減少が予想される.
→掘削工事の活用と,適切な増量放流などの水位調節をおこ
ない,自然に近い状態で増水させることで,タコノアシおよび
湿地生植物の生育域を保全する
掘削工事終了に伴うタコノアシの個体数推移に注目し,
今後も調査を継続することが重要
ご清聴ありがとうございました.