式 辞 大空に初夏の光が輝き、さわやかな風が心地よい季節を迎えました。 この佳き日に、修猷館創立230周年記念式典を挙行できることを先ず持って皆で喜びたい。 本日はご多用の中を、同窓会並びに父母教師会をはじめ多数の本校関係者の皆様に、ご臨席 を仰ぎ、生徒諸君と一緒に、この慶賀に立ち会っていただけますことは、誠に意義深く光栄に 存じます。また、皆様方には日頃のご厚情に加え、今回の記念事業におきましても力強い御支 援・御協力を賜りましたことに、学校を代表して心から感謝とお礼を申し上げます。ありがと うございました。 さて、修猷館は福岡黒田藩の藩校として創建され、今年230周年を迎えたが、因みに、本 校が明治18年に再興され福岡県立学校となって129周年、六光星の徽章制定120周年、 この西新の地に移転して114周年、館歌制定91周年、戦後、現在の福岡県立修猷館高等学 校となって66周年でもある。 時代が移り人が変わっても、この修猷館を舞台に、これまで何万人もの先輩達が諸君と同じ ように学び、泣き、笑い、悩み、そして同じように六光星を仰ぎ、館歌を歌ってきたのである が、この1月から放映されている大河ドラマ「軍師官兵衛」を観るにつけ、今日を迎えること ができたのは、まさに奇跡的な運命であると実感する。 それは、官兵衛こと黒田藩始祖の黒田如水、藩祖の黒田長政が戦国乱世をかろうじて生き延 び、筑前国の藩主になったことから、後に藩校修猷館が誕生したのであり、この修猷館をはじ め筑前国には黒田藩の風習や教えが今も息づいているのである。今年もどんたくパレードに「黒 田官兵衛どんたく隊」の一員として修猷生も多数参加したが、黒田官兵衛の人気で福博の街は 大いに盛り上がった。 本日は、創立記念式という節目に、ここに修猷館が存在し、生徒諸君はこの恵まれた環境の 修猷館で素晴らしい仲間と大らかに学び、有意義な学校生活が送れること、教職員はこの修猷 館に勤務できることに対して、私たち一人ひとりが、先人の遺徳を偲び、敬意を表し感謝する とともに、本校の使命を改めて凝視して、価値ある伝統の精華をさらに発展させるよう、自ら の心に誓う大切な日であります。単なる祝い事に留まるものであってはならない。歴史と伝統、 先人の努力・貢献から多くを学び、明日を切り開くものでありたい。これこそが、福岡県民の 付託に応えることであり、また同時に本校に寄せる未来社会からの要請でもあるに違いない。 振り返ってみると、修猷館は天明4年(1784)に創立されて以来、18・19・20そ して21世紀と四つの世紀にわたって230年の星霜を重ねてきたが、この間、我が国は、明 治維新、そして世界大戦など幾多の難局に直面し、波乱に満ちた時代が続いた。教育もまた、 この激動の時代を歴史とともに変遷し、その制度や理念は幾たびか変化せざるを得なかった。 このような中にあっても修猷館は、藩校時の儒教の教えや武士道精神を基盤にした「徳育」 を中心に据え、文武両道による全人教育の精神を絶やすことなく継承し、伝統をより高く、深 く、豊かに育み、意欲的に新しいものを取り入れることで、中等教育における人間形成の任を 果たし、社会有為の人材を広く各界に送り出すなど、教育の大道を歩み続けてきたのでありま す。いつの時代にあっても修猷生は先輩を慕い、その数々の偉業に畏敬の念を抱きつつ自らの エネルギーとし、母校を愛し、教師と生徒、生徒相互の信頼と絆を大切にして、貴重な学校文 化、輝かしい伝統を築き上げてきました。先達が営々と築いてきたこの輝かしい伝統と揺るぎ ない社会的評価を思うとき、私たちは未来への限りない飛躍のために、本校を更に発展させな ければならない使命と責務を自覚する次第であります。 -1- では、230年の歴史の中で培われてきた修猷館の伝統とは何か。校訓や教条として固定化 された伝統は修猷館にはない。歴史の様々な場面で我々が聞き、感じ、見たものは、 「至誠」 「剛 健」「質朴」「不羈独立」の精神の具現化であり、「自主自律」「自治」の生活規範であった。そ してこれらを根底から支えたものが「自由」であり、修猷生固有の「大らかさ」である。この 自由と大らかさ、「自由闊達」こそが修猷生の自主性・自律性を涵養し、自己の確立、器量を大 きく、そして個性の伸長を可能としたのである。この「自由」の伝統、「大らかな気質」の本質 は形式化できるものではなく、外面の表層には現れない。即ち、修猷の「自由」とは単なる「憧 れ」や表面的なものに「かぶれる」ことではない。したがって後に続く者がこれをどう継承し 具現化するかは、いつの時代もその未来に向けた課題として存在している。修猷館が新たな歴 史への第一歩を踏み出すに当たって、時代に相応しい「新たな自由」「無限の可能性を秘めた自 由」を創造する力が、今こそ修猷生に求められていると感じる。 今、加速度を増したグローバル化の波が、我が国の隅々にも押し寄せてきている。この流れ への対応は修猷館にとっても新しい試練と受け止め、先見性を持って立ち向かわなければなら ない。これから求められるのは、修猷館の伝統的な強みである「骨太の人間」の育成に加えて、 世界に通用する「教養」、世界を繋げていく「マインドとスキル」の資質を併せ持った人材育成 だと私は感じており、諸君たちの成長を大いに期待している。 この式典の後、劇団ショーマンシップによる「沈黙は語る~広田弘毅、裁かれた罪とは?~」 が上演され、午後は昭和60年卒業の先輩方によって伝統となっているキャリアセミナーが行 われる。諸君がこれからの人生を考えるとき、どちらも修猷館ならではの貴重な内容である。 広田弘毅は修猷館を明治31年に卒業し、後に第32代内閣総理大臣となった。この偉大な 先輩の生き方、静かにして情熱にあふれ、謙虚にして実直、そして生涯を通じ自らを計ろうと せず、全力を尽くして国家・社会に奉仕する生き方は典型的な修猷人だと言われている。 本日の劇でも、 「世のため人のため」に生きることの大切さや社会の問題を解決するためには、 「気迫」と「勇気」、「信念」を持ってそれらに立ち向かわなければならないことを我々に身を もって教えてくれるはずである。 「践修厥猷」即ち「その猷を践み修む」。その意味するところは、「先人の残せし偉大なる足 跡に学び、それを実践せよ」というものであるが、単に先人の跡を求めるのではなく、先人の 求めたるところを求めることが要点である。先人の生き様から学び、それを自分なりの信念に 変えて人生を大らかに生き抜いて欲しい。自分の夢を追うことが何らかの形で「世のため人の ため」、社会貢献に繋がる高い志を持った人間になってもらいたい。 そして「朋友有信」。この青春期に仲間とともに、一つの目標に向かい感動を共有することで、 「チームの中で生きている」ことを学んで欲しい。多くの先人たちの思いを受け継ぎ、今、修 猷館で学ぶこと、働くことができる誇りと幸せを胸に、私たちは日々精進を続けることを改め てここに誓おうではないか。 修猷生の一人ひとりが世界の人々と連帯し、平和でより良い人類社会に貢献できる人材とな るよう、修猷館は今後も教育の王道を目指し歩み続けて参りたい。 修猷館創立230周年に当たり、微意ながら私たちの決意をここに披歴し、ご臨席いただき ました各位に対し、重ねて感謝の念を捧げ、今後とも本校発展のために、ご支援ご鞭撻を賜り ますようお願いを申し上げまして式辞といたします。 平成26年5月30日 福岡県立修猷館高等学校 -2- 第30代館長 奧山 訓近
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