127 コウロエンカワヒバリガイ Xenostrobus securis (Lamarck - 愛知県

軟体動物・貝類 <イガイ目 イガイ科>
MOLLUSCA <MYTILLOIDA MYTILLIDAE>
コウロエンカワヒバリガイ
要注意
Xenostrobus securis (Lamarck, 1819)
【概要と選定理由】
本種は日本での発見当時の分類の誤りから,アジア原産のカワヒバリガイの亜種として記載され
たが,分類学的再検討によりオーストラリアやニュージーランドが原産の移入種であることが明ら
かとなった(Kimura et al. 1999)。ムラサキイガイと同じ海産イガイ科貝類である。浮遊幼生期を
持ち,分泌する繊維状の足糸により岩などの基質に固着するという生態を持つ。汚染された内湾や
河口域の転石やコンクリート護岸された底質に多く付着する。港湾の岸壁では時に濃密な集団を作
り,ムラサキイガイとともに付着していることも多い。1972 年岡山県児島湾で初めて確認され,現
在では,千葉県,富山県以西の太平洋,日本海側に分布が拡大している。港湾施設や船底に固着す
る汚損生物となっており,岩礁等を生息場所とする在来種の駆逐など生態系に及ぼす影響も大きい。
和名はカワヒバリガイの亜種として記載された時点での模式産地である兵庫県西宮市香枦園浜にち
なむ。国の要注意外来生物に指定されている。
【形 態】
最大殻長は約 40mm,通常 30mm 前後でムラサキイガイよりはるかに小型。殻は偏った細長い三
角形で,ムラサキイガイより丸味を帯び,細長い。殻はやや膨れて,殻質は薄質。通常殻の外側は
光沢がある黒から黒褐色の殻皮で被われ,内面は弱い真珠光沢を持つ部分がある。腹縁部には両殻
に細い隙間が有り,そこから足糸(そくし)を出して体を他物に固定する。純淡水域に生息するカ
ワヒバリガイと近似しているが,区別についてはカワヒバリガイの項を参照。
【分布の概要】
【世界の分布】
インド洋から西太平洋のオーストラリアやニュージーランドが原産で,南・北アメリカ大陸にも
移入しているが,いずれも温帯域である。
【国内の分布】
1972 年に岡山県児島湾で初めて確認された。1970 年代に瀬戸内海・大阪湾・紀伊水道の西日本
瀬戸内海から紀伊水道にかけて記録されている。1980 年代になると日本海側や四国太平洋岸,さら
に太平洋岸東部の浜名湖や東京湾でも見つかり,90 年代には西日本の日本海側の各地,伊勢湾,相
模湾の各地に分布を広げている。2000 年以降は九州北部,瀬戸内海や紀伊水道,東海地方,関東地
方の各地で着実に分布が拡大している(岩崎ほか,2004)。
【県内の分布】
前述のとおり,愛知県には 1980 年代に移入したと考えられる。現在では三河湾,伊勢湾の内湾奥
から湾口部にかけて広く分布している。
【生息地の環境/生態的特性】
本種は淡水の影響が非常に強い汽水域から内湾域の潮間帯を中心に生息する。ムラサキイガイよ
り内湾側の塩分濃度が低い海域に分布する。ムラサキイガイと同所的に分布している場所は多いが,
塩分濃度の低い河口域では本種だけ見られる場所も多い。濾過食性で海中のプランクトンや,デト
リタスを摂取する。
【侵入の経緯/現在の生息状況】
バラスト水に幼生が混入していた,もしくは船体付着によって移入したと考えられている。国内
での分布の拡大もこうした船舶による運搬の可能性も考えられる。また海域に一度侵入,定着すれ
ば,後は浮遊幼生が海流によって分散されることになる。
【被害状況/駆除策と留意点】
汚損生物として,生態系に影響を与える底生動物として,その潜在的な影響は極めて大きいと考
えられる。船体付着に対しては防汚剤の塗布や淡水への浸漬等が考えられるが,港湾施設などは物
理的に剥がし取る以外の有効な駆除策はない。
【引用文献】
岩崎敬二他. 2004. 日本における海産生物の人為的移入と分散.日本ベントス学会自然環境保全委員会によるアンケート調査
結果から. 日本ベントス学会誌 59: 22-44.
Kimura, T., Tabe, M. and Shikano, Y. 1999. Limnoperna fortunei kikuchii Habe, 1981 (Bivalvia: Mytilidae) is a synonym
of Xenostrobus securis (Lamarck, 1819): Introduction into Japan from Australia and or New Zealand. Venus (Jap.J.
Malac.) 58(3): 101-117.
【関連文献】
木村妙子. 1994. カワヒバリガイとコウロエンカワヒバリガイの形態的な識別点. ちりぼたん 25(2): 36-40.
木村妙子. 2001. コウロエンカワヒバリガイはどこから来たのか?-その正体と移入経路-. 日本付着学会(編), 黒装束の侵
入者-外来付着性二枚貝の最新学 pp.47-69. 恒星社厚生閣, 東京.
木村妙子. 2002. コウロエンカワヒバリガイ. 日本生態学会(編), 外来種ハンドブック p.188. 地人書館, 東京.
(木村昭一)
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