45 積層型円板共振器の FDTD 法による共振モード解析 An Analysis of Resonance Modes of a Layered Dielectric Disk Resonator by the Finite Difference Time Domain Method 苫米地 義郎*,松原 真理* TOMABECHI Yoshiro, MATSUBARA Mari In this paper, resonance modes of a layered dielectric disk resonator are analyzed by using a finite difference time domain (FDTD) method. We pay our attentions to a process of establishment of intrinsic modes on the resonator. Namely, Are there any differences between even (symmetrical) and odd (asymmetrical) mode? In this paper, the even mode means that an electric radial component is symmetrical for z axis of the cylindrical coordinate. The odd mode is a symmetrical. As the result of our analysis, we can find that even mode disappears after the mode is completed, while odd mode is gradual strengthened. This is the most important result of our study. To deduce our conclusion, we have used animations of magnetic field distribution. Finally we can confirm that the FDTD method is effective for analyzing the resonance characteristics of the layered dielectric disk resonator. 1.まえがき 従来,解析的に解くことが困難であった電磁波に関する多くの問題がパーソナルコンピュータ(PC) の急速な発展に伴い,数値的に解くことができるようになった.このようにコンピュータを用いた解 析手法を数値電磁解析という.これら数値電磁解析法として有限要素法,境界要素法,モーメント法 および時間領域差分法 (1)(FDTD 法)等が挙げられる. これまでに筆者等は,誘電体円板共振器単体(円板が積層化されていない)の共振特性解析のため 近似変数分離法(2)や実効誘電率法(3)と呼ばれる近似的解析法を提案し,多くの研究成果を挙げてきた. また,この共振器に FDTD 法(Finite Difference Time Domain)を適用し,共振特性の解析を行ってきた (4). その結果,FDTD 法の有効性を示すとともに,過渡的な電磁界の流れを示すとともに,共振周波数や 電磁界分布を求めることができた. 本論文では FDTD 法を積層型誘電体円板共振器の共振モード解析に応用し,その有効性を示そうと するものである.特に,2 枚の誘電体円板を積層化することによって生じる偶モード(even mode)と 奇モード(odd mode)の生成の違いに着目をして解析を進めた.すでに報告したようにこの円板共振 器にはウィスパリングギャラリモードと称される周方向に伝播する進行波によって構成される固有 モードが生起する.さらに,これらのモードは主に横方向電界が半径方向に偏波している WGE モー ドと,軸(円筒座標系でZ軸)方向に偏波している WGH モードに分類される.本研究では前者の WGE モードに着目をするが,2 枚の誘電体円板を積層化することによって次のような電磁界分布を 持つモードが新たに発生する.すなわち電界の半径方向成分の軸方向変化が偶関数で変化するモード * 宇都宮大学教育学部技術教育教室 46 (磁界の軸方向成分は奇関数で変化)と奇関数で変化するモード(磁界の軸方向成分は偶関数で変化) である.前者を偶モード(even mode)と言い,後者を奇モード(odd mode)という.本研究では,これ らの 2 つのモードの過渡的な成り立ちを可視化することによって,どのようにこれらのモードが生起 するかを数値的に解析しようとするものである. 2.FDTD 法の概略 本論文で取り扱う FDTD 法では図 1 に示す解析領域を微小直方体 (一辺がそれぞれ dx,dy,dz)のセルに分割し,それぞれのセルで次式 のマックスウェルの方程式を中間差分で近似していく方法である. u E (r , t ) w B(r , t ) ・・・(1) wt 式(1)はファラディの電磁誘導の式であり , 式(2)はアンペアの 法則を表す式である. u H (r , t ) Fig. 1 Analyzed region w D(r , t ) J (r , t ) ・・・(2) wt o o o > @ またこれらの方程式で E >V / m@は電界ベクトルで,H >AT / m@ は磁界ベクトル, D C / m 2 は電束密度, o o > @ そして B >T @は磁束密度である.また, J A / m は電流密度である. 2 FDTD 法のアルゴリズムは時空間についての差分,電磁界の時間的配置及び電磁界の空間的配置の 3 つのステップにより定式化される. この方法のアルゴリズムは,1966 年 K. S. Yee(5) によって提案されており,すでに筆者はその内容に ついて詳しく報告している(4)ので,ここでは紙面の関係上省略する.また,FDTD 法に限らず,波動 を扱う数値解析法では必ず安定条件を満たす必要がある.FDTD 法では時間ステップ dt とセルの大き さの関係を表す Courant の安定条件 (1) と呼ばれるもので,次式で与えられる. dt 1 1 dx 1 dy 2 1 dz 2 x C 2 ・・・(3) 本解析では立方体セル(dx=dy=dz)でモデリングをしているので,式(3)は式(4)となる. dt dx 3c dx dy dz ・・・(4) 本研究では,この Courant の安定条件を余裕持って使用するために式(5)を用いて数値解析をした. dt 0.8 u dx 3c ・・・(5) なお,式(3)∼(5)でcは自由空間中の光速を表す. 3.物体のモデル化とプログラミング 積層型誘電体円板共振器をFDTD法によって解析するには,解析する空間とその中に含まれる共 振器及び入出力導波路のモデリングが重要になる. 本研究の数値計算で使用する誘電体円板共振器のサイズは,直径が 117.5[mm],厚さが 6.0[mm]で, 47 同じサイズの円板共振器を積層型に配置するものとする.FDTD法での周波数を30[GHz]から40[GHz] に設定し,セルサイズを一辺 0.6[mm]の立方体とした.従ってモデリングの円板のサイズは,直径 が 196[cell],厚さが 10[cell]となる.また,入出力導波路の実際の寸法は L = 603[mm],W = 6.0[mm], H=6.0[mm]であるので,セル寸法は 1005 × 10 × 10[cell]となる. これらの円板や入出力導波路を図 2 に示すように配置した.またそれぞれ,円内の数値の実際の寸 1 に示している . 法やセル寸法は表 պ ձ յ մ ո շ ղճ շ ո յ ռ չ վ մ ս ն ջ Fig. 2 The modeling of our dielectric layered disk resonator Table 1 Dimension and number of cells of the modeling ᑍἲ㹙㹫㹫㹛 ࢭࣝᩘ㹙FHOO㹛 ձ 㸱㸷㸬㸴 㸴㸴 ղ 㸯㸯㸵㸬㸳 㸯㸷㸴 ճ 㸯㸰㸶㸬㸲 㸰㸯㸴 մ 㸴㸬㸮 㸯㸮 յ 㸯㸬㸰 㸰 ն 㸮㸬㸴㹼㸱㸬㸮 㸯㹼㸳 շ 㸴㸬㸮 㸯㸮 ո 㸴㸬㸮 㸯㸮 չ 㸯㸯㸵㸬㸳 㸯㸷㸴 պ 㸴㸰㸮㸬㸲 㸯㸮㸱㸲 ջ 㸴㸮㸱 㸯㸮㸮㸳 ռ 㸯㸮㸳㸬㸴 㸯㸵㸴 ս 㸱㸬㸮 㸳 վ 㸰㸳㸮 㸲㸯㸵 48 誘電体円板の材質はテフロン(比誘電率 εr=2.05)である.また入出力用の方形誘電体導波路の比誘 電率は円板のそれと同じである.本研究では,前述したように微小セルの一辺の長さが 0.6[mm]の 立方体と考え( 'x 'y 'Z 0.6 ),式 (5) で示される Courant の安定条件を満たすように時間ステップ 't を 9.24 × 10 − 13 とした. 実行プログラムは,すでに作成されている FDTD 法の原形プログラム(Fortran 95 版)を改良し,表 1 に示した物体モデリングに一致するように誘電体を配置したものである.さらに図 2 の左下の入力 用導波路に電界の y 方向(図 2 において縦方向)成分として e y = e −α (τ −τ 0 ) で与えられるガウシャンビー 2 ムを励振する.そして図 2 の左上の出力導波路で磁界の z 軸(図 2 において紙面に直角方向)方向成分 に 着 目 し た. 本 研 究 室 の PC( ク ロ ッ ク 周 波 数 :3.70GHz,RAM:8GB, 64 ビ ッ ト,OS:Windows 7 Ultimate)用いて実際に数値計算を行った.1 つの時間ステップΔ t について計算時間は約 1 秒程度であ り総時間ステップ数は 215 = 32768 とした.この計算においては出力端での Hz 成分の時間的変化を得 ることができる.この結果に高速フーリェ変換(FFT)を施すことにより積層型誘電体円板共振器の透 過特性の周波数変化を求めることができる. また図 2 の最外周に沿っては Mur の2次の吸収境界条件が適用されている.そのため最外周ま で到達した電磁エネルギーがそこで吸収され,図 2 の中心部に戻ってこないように工夫されてい る. 4.数値計算結果 前節で述べたように円板共振器の透過特性の周波数変化を求めることができるが,2 枚の円板共振 器を積層化することで,偶モード(even mode)と,奇モード(odd mode)が生じる.また,従来の研究(6) より高い共振周波数が奇モードの周波数で,低いほうが偶モードのそれであることが分かっている. 本研究では,直径が 117.5[mm],厚さが 6.0[mm]の誘電体円板を間隔が 2.4[mm]になるように積 層化した.また 36.2[GHz]付近の共振周波数で,かつ共振次数が同じである 2 つの共振周波数に着目 した .FFT を施した結果より,偶モードの共振周波数が 36.183[GHz],奇モードのそれが 36.282[GHz] であることが分かった. 次に,これらの二つの周波数を別々にして計算プログラムの励振周波数として用い CW(Contineous Wave)モードにて計算を実行する.このことにより着目をする平面内での電磁界分布の時間的変化の 様子が明らかになる.電磁界分布を「パラパラ漫画」を作る要領で時系列で重ねて行くと,ある平面 内での電磁界アニメーションが出来上がる.本研究では磁界のz軸成分に着目をした.次に磁界の推 移のアニメーションを作成する平面について説明する.本研究でのアニメーションでは,図 3 のよう に二枚の円板の間(z= 33[cell])の平面においてアニメーションを作成した.これは,円板共振器に 生起する偶モードと,奇モードの発生の違いを見るためである. 以下に示す時間毎の磁界分布において最大値を上回ると赤,最小値を下回ると青で表示され,最大 値と最小値の間の範囲ではカラーマップの色となる.本解析では,最大値を− 20[dB],最小値を− 40[dB]に設定した.デシベル表示はキャリブレーション用直線導波路の磁界強度を基準とした. また,時間ステップΔ t = 9.24 × 10 − 13 を1回としたときの計算回数をnとする.図4は n=100, 200,400,・・・,10000 と最初の 100 以外は 200 ずつ増加させて作成したものうち一部抜粋したもので ある. 49 Fig. 3 Animation Plane of Hz component 次に,図 4 に解析結果の画像をそれぞれの偶モードと奇モードに分けて示す. 本論文で選択した平面は,Z = 33 セルで入出力導波路から離れているため磁界強度が非常に弱く, 図4では円板部分の磁界分布の様子しか表示されない. (実際に入出力導波路上に平面を取ると,導 波路に沿って電磁エネルギーが伝播しているのが良く分かる. )これらの図で左上に見える分布は入 射部分近傍における磁界を示している. 偶モード 奇モード n=2400 n=2400 n=3000 n=3000 50 n=5000 n=5000 n=7000 n=7000 n=9000 n=9000 n=10000 n=10000 図 4 z= 33[cell] における磁界の時間的変化 51 5.結 論 本研究ではFDTD法を用いて,積層型誘電体円板共振器の共振特性を数値的に明らかにするとと もに共振時における電磁エネルギの時間的経過を可視化した.特に偶モードと奇モードにおいてモー ドの生起過程が異なることが初めて明らかになった.すなわち偶モードも奇モードも,時間ステップ 数n= 5000 くらいまでは,磁界成分の変化は同じように推移しているが,それ以降違った推移の仕 方をしている.偶モードでは,共振モードが構成され始めると,徐々に磁界強度が弱まっていく様子 が見られる.奇モードでは,徐々に磁界強度が強くなっていく様子が見られる.これは,偶モードの 時は磁界のz成分がz軸に対して奇関数であるため,共振モードが完全に構成された後に磁界強度が 弱くなることが分かった.逆に奇モードの Hz 成分は z 軸に関し偶関数なので共振モードが完全に構 成されるにつれ,磁界強度が強くなっていったのだと考えられる.このようにモードの生起過程が異 なることが初めて明らかになった.本研究では明示しなかったが,偶モードも奇モードも,まず励振 用導波路に近い下側の円板でまず共振モードが構成されるが構成時間に違いがみられた.すなわち偶 モードの方が奇モードよりも少し時間がかかっていることが分かった. 本来,目で見ることのできない磁界分布をアニメーションプログラムで可視化することで2つの モードで磁界成分の推移の違いがはっきりと見ることができた. 今後は,これらの研究結果や成果を生かし,より優れた帯域通過フィルタの実現に役立てる予定で ある. 参考文献 (1) 宇野亨;“FDTD 法による電磁界およびアンテナ解析”,コロナ社,(1998) (2) 苫米地義郎,松村和仁;“誘電体円板共振器のウィスパリングギャラリーモードの共振特性に ついて”,電子情報通信学会論文誌(C-1),Vol.J75-C-1, No.11, pp.687-639(1992) (3) Y. Tomabechi, Y. Kogami and K. Matsumura; “A novel analysis for eigenvalues of a dielectric disk resonator with a high dielectric constant” , Proc. of the 26th European Microwave Conference, Vol.2, pp.726-729, Sept., Czech Republic(1996) (4) 苫米地義郎,小野勝也,松原真理;“差分時間領域法による誘電体円板共振器の共振特性解析”, 宇都宮大学教育学部紀要 ,Vol.61,Pt.2(2011) (5) K.S.Yee; “Numerical Solution of Initial Boundary Value Problems Involving Maxwell’s Equations in Isotropic Media” ,IEEE Trans. Antennas Propagat.,14,4,pp.302-307,1996 (6) 二川学;“積層型誘電体共振器を用いた帯域通過フィルターに関する研究”,宇都宮大学教育学 研究科修士学位論文(2004)
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