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Jul. 2013
Vol.34
Medical Device Daily
実⽤化段階に⼊った⼈⼯膵臓システム
メーカーの競争が開発を加速……1
Medical Device Daily
中国市場の落とし⽳……3
Same-Day Surgery
感染予防策の不備で罰⾦ 6.8 万ドル!……5
Healthcare Risk Management
曖昧な施設⽅針の抱えるリスク……6
インド専⾨ニュース
インド通信……8
メリー・コーベット/本誌 アドバイザリー・スタッフ
究極の治療は「体内ファーマシー」!?……9
The Academia Highlight[34]
低侵襲から⾮侵襲に向かう外科⼿術……10
by うのめ・たかのめ
Medical Device Daily……11
Kawanishi Hotline……19
ヒューマンドキュメント医療機器を開発した⼈たち
「ラップディスク開発物語」-9-……21
Jul. 2013
Vol.34
実用化段階に入った人工膵臓システム
メーカーの競争が開発を加速
JDRF人工膵臓プロジェクトリーダー Aaron Kowalski 氏インタビュー
――Jim Stommen/MDD シニア・エディター
いわゆる生活習慣によって引き起こされる 2 型
Aaron Kowalski 氏は、
JDRF(若年性糖尿病研究
糖尿病は、中国やインド、中東で大幅に患者数を
財団)のアシスタント・バ
増やしています。食事の欧米化が主な原因でしょ
イス・プレジデントである。
う。驚くべきことに、自己免疫性疾患である 1 型
JDRF は 1 型糖尿病研究に
糖尿病の患者も増えています。その理由ははっき
おける最大の慈善財団・擁
り分かりませんが、遺伝的特徴は変化していない
護団体で、研究支援を通じ
ので、環境の影響が考えられます。
て、糖尿病とその合併症の
1 型・2 型を問わず、糖尿病でいちばんやっか
治療法を発見・研究し、患
いな問題は、高血糖が合併症を引き起こし、患者
者が健康に暮らす手助けをしている。
とその家族に身体的・経済的に大きな負担を強い
Kowalski 氏は「JDRF 人工膵臓プロジェクト」の
ることです。我々の手で、それをどうにかしなけ
リーダーで、2005 年のプロジェクト開始以来、完
ればなりません。
全自動制御のインスリンポンプ(持続血糖モニター
とインスリンポンプを組み合わせたシステム)を始
JDRF では糖尿病患者の合併症対策に力
めとする糖尿病の治療技術の開発をめざしてきた。
を入れておられます。具体的にどのようなアプロ
インスリンポンプ療法は、従来のインスリン療法
ーチを取られていますか?
では難しい血糖コントロールを容易にし、生活の自
由度を高められる選択肢として、諸外国では広く認
Kowalski
知されているが、日本での認知度・普及率は低い。
めに、血糖コントロールに注目しています。患者
合併症の発症リスクを最小にするた
しかし、2012 年度の診療報酬改定で関連する診療
の A1C(過去 1~2 カ月の平均的な血糖状態を見
点数が引き上げられたことも後押しとなり、徐々に
る指標で、6.5%以上だと糖尿病が強く疑われる)
普及の機運が高まっている。Kowalski 氏に最先端の
の数値を改善できれば、合併症の発症を大幅に抑
インスリンポンプの開発状況をうかがった。
えられることは確実だからです。
また、合併症そのものに目を向けた場合、糖尿
病網膜症や糖尿病性腎症といった特定の合併症を
未然に防ぐための治療法の確立に力点を置いてい
ご自身も糖尿病ということですが、糖尿
ます。例えば、糖尿病性眼疾患における抗 VEGF
病は世界的に蔓延しているようですね。
療法の利用に注目した初期研究では、JDRF は主
Kowalski
1 型、2 型糖尿病ともに、世界的にか
導的な役割を果たしました。これは、糖尿病性眼
なり増加しており、その蔓延具合はパンデミック
疾患を実際に阻止し、何人かの患者の視力回復を
(世界的流行)と言ってもよいほどです。米国疾
助けた最初の薬です。
病管理予防センター(CDC)の最新の発表による
もちろん、我々は糖尿病そのものの治療法の発
と、米国の糖尿病患者は 3,000 万人以上いると言
見にも力を入れていますが、それにはしばらく時
われています。世界中では何億という人が糖尿病
間がかかるので、当面は患者の健康を改善し、糖
を患っていると推定されます。
尿病管理の負担を軽減することに注力します。
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Vol.34
JDRF のいう「人工膵臓」とはどのよう
も、糖尿病患者が現在行っている方法よりもよほ
ど安全です。
なものを指すのでしょうか?
我々は、人工膵臓システム開発においては J&J
Kowalski
Animas 社と、持続血糖モニターではメドトロニ
我々の「人工膵臓プロジェクト」では、
既存のインスリンポンプや持続血糖モニターを利
ックと協力関係にあります。無線通信技術につい
用し、自動でインスリン注入ができる製品を人工
ては Dexcom 社と協力しています。また、とても
膵臓と捉えています。重要なのは、人工膵臓は 1
ス マ ート な イン スリ ン ポン プを 開 発して い る
つのデバイスに限らないということです。膵臓の
Tandem Diabetes Care 社とは、2 種類のホルモ
機能すべてを 1 つのデバイスに代替させることは、 ンを注入するポンプの開発に取り組んでいます。
極めて高い目標と言わざるを得ません。しかし、
高性能の持続血糖モニターや注入セットの開発で
我々の人工膵臓でも患者の負担を軽減し、血糖コ
は、ベクトン・ディッキンソンの助力を得ていま
ントロールを改善することはできます。
すし、Insulet 社、ロシュ、バイエルのデバイス
この分野のリーダーは、メドトロニックです。
も利用してきました。
同社が開発した「Paradigm Veo インスリンポン
我々のシステムを使えば、A1C5.5%(正常値)
プ」は、低血糖となったときにアラームが鳴り、
を取り戻すところまでいかなくても、7.5%の A1C
自動的にインスリン注入を停止する機能がついて
を 6.5%へと低下させることはできるのではない
います。低血糖となってもポンプがインスリンを
かと考えています。今後 12~28 カ月の間に、こ
注入し続けていたり、長時間作用のインスリンが
れらのシステムを実際に日常生活のなかで使用す
効き続けていたりすれば、発作や死に至ることさ
る研究が行われる予定です。これは大きなインパ
えありますから、とても有用な機能と言えます。
クトをもたらすと思います。
このシステムはすでに米国を除く世界中で発売さ
れており、
米国でも年内に認可される見通しです。
人工膵臓の実現を支援するため、FDA な
どの規制当局とも連携しているそうですね。
Kowalski
Paradigm Veo
JDRF も FDA と同じく、安全で効果
的な製品を望んでいます。
そのためこの 7~8 年、
非営利団体という利点を生かして、FDA と話し合
いを重ねてきました。
以前の承認手続きにはガイドラインがなく、メ
ーカーは FDA のどのような期待に応えればデバ
(http://www.medtronic-diabetes.co.uk/)
イスが認可されるのかが分かりませんでした。正
さらに同社は、低血糖を予測し、低血糖を起こ
しい臨床試験とはどのようなものか、安全性のパ
す前に注入量を調整する次世代システムも開発し
ラメータは何か、どのように設計すべきかといっ
ています。まだ JDRF のめざす人工膵臓そのもの
たことが漠然としていたのです。そこで我々は、
とは言えませんが、実現に向けた重要な一歩であ
米国糖尿病学会や内分泌専門医といったすべての
ることは間違いありません。こちらは今年、欧州
関係者のコンセンサスを得られるようなガイドラ
で認可される予定と言います。
インを考案し、FDA に提出しました。FDA は昨
年、それをもとに新しいガイドラインを作成して
広く糖尿病患者やその家族からコメントを募り、
「人工膵臓プロジェクト」の進捗状況を
最終的なものを作成しています。
教えてください。
いまでは FDA の承認取得をめざすメーカーは、
Kowalski
まず試作デバイスの安全性と有効性を確かめる試
まだ技術的な課題は残っていますが、
験を行う必要があります。本当に安全であること
人工膵臓は大きな進歩を見せています。少なくと
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を確かめ、デバイスを利用する患者が大幅に増え
t:slim
ても対応できるようにしておくのです。
新しいデバイスが認可されれば、ほかの
システムの開発も加速すると思われますか?
Kowalski
まさに我々はそこに期待しています。
我々はこの領域のすべてのデバイスメーカーと仕
(http://www.tandemdiabetes.com/)
事をしていますが、どこも信じられないような進
歩を見せています。
競争は本当に良いことであり、
えれば、いくらかの症状の緩和でも彼らにとって
イノベーションを助け、物事を加速します。
は大きな意味があるのです。新しいデバイスが臨
今後、デバイスはますます自動化され、ますま
床で使用できるようになり、実際に機能すると分
す高度になっていくでしょう。先ほどお話しした
かれば、年内にも多くのデータが出てくるうえ、
新しい機能でさえ、すぐに小さな進歩の 1 つに過
ぎなくなります。JDRF はこの 6~7 年、世界中
急速な改善も期待できるでしょう。
我々は今後、生物学的アプローチで糖尿病の克
で行われている人工膵臓の研究に資金を提供して
服をめざしながらも、引き続き合併症の減少に貢
きましたが、ようやく実用化に向けて動き出して
献し、糖尿病患者の生活が少しでも楽になるよう
いるところです。
力を入れていくつもりです。
. ..
JDRF の持つデータによると、米国の 10 代の
「Medical Device Daily」
患者の平均 A1C は 8.5%前後と、依然非常に高い
(2013 年 5 月 9 日& 5 月 16 日号)
状態にあります。血糖コントロールの大変さを考
中国市場の落とし穴
欧米の文化やビジネス戦略は全く通用しない
――Ames Gross/MDD 寄稿者(Pacific Bridge Medical 社 CEO)
国内総生産(GDP)の成長率こそ最近は鈍って
注意すべき点を紹介する。
きたが、中国経済は今なお急成長を続けている。
少し前まで、海外メーカーは中国メーカーと出
中間所得層の拡大により医療関連支出は増加する
資比率 50%のジョイントベンチャー(JV)を立ち
一方で、1人当たりの年間医療費は、この 5 年で
上げる傾向が見られた。しかし、JV 設立に合意
120 ドルから 260 ドルへと倍以上になっている。
したにもかかわらず中国メーカーから 50%の出
中国の医療機器市場は、米国、欧州に次ぐ規模
資を得られなくなり、海外メーカー70~90%、中
を誇る。年間 15~20%の成長を維持しており、
国メーカー30~10%の比率になることも多かっ
2020 年には 300 億ドルを超える見込みだ。
当然、
た。このように出資比率を変えても中国メーカー
多くの海外メーカーが参入を試みているが、中国
との JV 設立は困難を極めるため、今日では海外
市場には大きなチャンスもあれば落とし穴もある。 メーカーは 100%出資の子会社を好む傾向にある。
Pacific Bridge 社でアジア市場への参入をめざす
中国メーカーと JV を設立する際に問題になる
医療機器メーカーに対してコンサルティングを行
のは、出資比率だけではない。いちばんネックに
ってきた私の体験談を交えて、海外メーカーが
なるのは、欧米では常識の「利害関係」の概念が
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ための許可証を持っているかを確認すると、許可
ないことだ。
私は昨年、中国と米国メーカーの JV 設立に立
証はあったものの、それは数ブロック先にあるオ
ち会い、米国側の代表者 2 名とともに交渉の席に
ーナーの友人の工場のものだった。これは明らか
臨んだ。中国側は、メーカーのオーナー、中国国
に異なる施設・場所の許可証で、虚偽と言わざる
家食品薬品監督管理局(SFDA)の職員、市長の
を得ない。
3 名が出席した。あまりに立場の違う取り合わせ
また、中国では知的財産に対する認識が浸透し
だったため、私たちは誰と交渉して、誰のニーズ
ていないため、現地の従業員には知的財産とは何
を満たさなければならないのかが分からず、ひど
であるかを理解させることが欠かせない。
昨年、私が別の欧州メーカーを担当していた時、
く困惑した。
さらに交渉の途中、突然見知らぬ男性が入って
そのメーカーでアジアを担当する中国人の営業社
きて、中国側の席についた。オーナーは「交渉の
員と知り合った。その営業社員は毎年アジアでの
補助として来た私の友人」と紹介したが、実はそ
売り上げを 15%伸ばしているスタープレーヤー
の男性は競合メーカーの従業員だった。私が思わ
で、欧州メーカーの役員らは彼を高く評価してい
ず「利害関係の問題が発生しませんか?」と尋ね
た。私は彼が担当する製品のアジア市場は毎年
たところ、中国側はなぜ問題なのかを全く理解し
25%成長しており、彼の実力がそこまでではない
ていない様子で、
「問題ありません。完全に合法で
ことを知っていたが、それでも彼は親切で、欧州
す」と答えた。なぜ問題ないなどと言えるのか、
企業での就業マナーをしっかり認識している社員
欧米の常識から言えば全く信じられない。
だと感じた。
しかし数カ月後、私は中国で投資関連のビジネ
スを行う友人が抱えている案件の話を聞いて驚愕
した。友人が抱える案件は、以前私が担当した欧
州メーカーと酷似した製品を開発する中国メーカ
ーに関するもので、その中国メーカーの統括マネ
ジャーの名前が、くだんのスタープレーヤーの名
前と同じだったのだ。
友人に彼の外見を尋ねると、私の知る彼の特徴
と一致した。私はすぐに、彼が欧州メーカーの営
業社員と中国メーカーの統括マネジャーという 2
別の事例では、中国企業の調査や証明書の信頼
つの顔を持つことに気付いた。欧州メーカー製品
性の低さを目の当たりにした。
の顧客を知る彼は、似たような製品を独自に製造
ある欧州メーカーが、買収を検討している中国
メーカーの調査を Pacific Bridge 社に依頼してき
し、安い値段で売りさばこうとしていたのだ。
た。そのメーカーはすでに中国にある会計事務所
どんなに市場調査やトライアルをしても、文化
や法律事務所による調査は済ませていたが、当社
の違いや中国のビジネス戦略を理解することは難
にダブルチェックを頼んできたのだ。
私が調査を開始すると、後からあとから問題が
しい。これは中国企業が、利害関係や知的財産と
発覚した。まず、中国メーカーの企業登録・ISO・
いう概念を認識していないことに起因する。現代
品質などに関する証明書をよく見ると、とっくに
の中国人は、自らを資本主義者だと信じているよ
有効期限が切れ、更新されていない状態だった。
うだが、しばしば欧米人とはかけ離れた考えを持
品質マニュアルは完璧な英語で書かれ、アップデ
っている。中国市場でのチャンスにばかり目を奪
ートまでされていたが、実際に工場を訪問して従
われて落とし穴にはまらぬよう、海外メーカーは
業員に質問すると、彼らは口をそろえて「マニュ
気を引き締める必要がありそうだ。
アルなんて読んだことがない」
と答えた。
さらに、
「Medical Device Daily」
(2013 年 4 月 17 日号)
中国メーカーのオーナーが中国で工場を運営する
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感染予防策の不備で罰金 6.8 万ドル!
OSHA はスタッフへの血液曝露予防を強力に推進
先ごろ米国労働安全衛生局(OSHA)は、
「血液
AORN は 6 月の公表をめざし、針刺し事故防止
媒介病原体に関する基準(Bloodborne Pathogens
ガイドラインの見直しを進めている。
「AORN の
Standard)」に違反したとして、ある外来手術セ
ガイドラインは OSHA の基準にのっとり、安全対
ンター(ASC)に 6.8 万ドルの罰金を科した。こ
策をどのように実施するかを示したものだ。それ
の基準は、血液を介して感染する C 型肝炎・B 型
ぞれの対策の重要性は、200 以上のエビデンスに
より裏付けられている」と Ogg は説明する。
肝炎・HIV などへの感染を防ぐためのもので、安
全機構付きデバイスの使用、針やナイフ専用の処
OSHA のテネシー 州支部に勤める Stephen
分箱の設置、鋭利なデバイスを渡す際のトレーの
Morrison は、
「血液媒介病原体に関する基準に従
使用、防護用具の着用といった血液暴露予防策を
うことは、医師が自身のみならず、スタッフや患
医療機関に求めている。
者を守ることにもつながる。それなのになぜ医師
が基準に従うことに消極的なのか、私には理解で
今回罰金を科されたのはニュージャージー州に
ある Health East ASC で、針刺し事故を起こした
きない」と話す。
スタッフに対し、カウンセリングや迅速な血液検
デバイスや手技の変更に抵抗がある外科医は多
査、曝露後の適切な薬物投与を行わなかったこと
い。
例えば米国外科学会は、
筋肉や筋膜の縫合に、
など、OSHA から 10 以上もの同基準違反を指摘
先端が鈍角に加工された縫合針の使用を推奨して
された。これに対して Health East の医長 Anson
いる。鋭角の針よりもはるかに針刺し事故を抑制
Moise は、違反についての議論はなされているし、
できることがさまざまな研究で示されているが、
それに関する会議も予定されていたと声明文を出
多くの外科医は変更に消極的だ。
した。また、現在まで 8,000 人以上を治療してい
「慣れ親しんだ習慣を変えることは、誰にとって
るが、指摘された違反により患者・スタッフ・医
も難しい。医療従事者も同じだ」と Ogg は指摘す
師が感染した事実はないと主張する。
る。Ogg の同僚にも、針刺し事故の経験があって
OSHA は、各地で ASC を含む医療機関を対象
も、影響がなければ予防策を立てる必要はないと
主張する外科医がいるという。
に抜き打ち検査を実施しており、そこで重点的に
チェックされているのが同基準に対する違反だ。
これにはまた、初期の安全機構付きデバイスは
OSHA の広報担当者は、スタッフが死に至る、も
従来品より使い勝手の悪いものが多く、外科医に
しくは重大な身体的危害を受ける危険が極めて高
不評だったことも関係している。もっとも、メー
い違反を犯した医療機関には、是正勧告や罰金を
カーはその後改善を重ね、いまでは使い勝手の問
科すことがあると公言している。
題はほとんど解消されている。
米国周手術期看護師協会(AORN)の Mary Ogg
「安全対策は労力を要するし、簡単ではない。し
によれば、医療従事者は日々、HIV や C 型肝炎に
かし車に乗ったらシートベルトを締めるように、
感染する危険にさらされている。手術室では年間
一手間加えることで安全性は格段に向上する。い
約 8 万件の針刺し事故が起きているという試算も
ままで車で事故を起こしていないからといって、
ある。
「針刺し事故は医療従事者にとって危険であ
シートベルトを止めますか?」と Ogg は問いかけ
るだけではない。医療従事者の HIV や C 型肝炎
た。
が、逆に患者に感染した例も 132 件報告されてい
「Same-Day Surgery」(2013 年 5 月号)
る」と Ogg は警告する。
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Jun. 2013
Vol.33
曖昧な施設方針の抱えるリスク
心肺蘇生処置を拒否した施設看護師に非難が殺到
医療の進歩は目覚ましい。しかし、医療技術もそ
した日常生活が可能な高齢者が集まるインディペ
れを扱う医療従事者も万能ではないため、時に不幸
ンデント・リビング、軽度の要介護者に介護や家
な事故や思いがけない事態が発生する。医療事故や
事サービスを提供するアシステッド・リビング、
救急患者の受け入れ拒否などが起こると、原因より
重度の要介護者に医療や介護サービスを提供する
も結果責任を追及する報道がなされることが多く、
ナーシングホームの違いはとても分かりにくい」
それが医療従事者の苦悩や不安、ためらいを助長し
ている。規則に反するとして心肺蘇生措置を拒否し
た看護師のニュースが米国では話題になったが、こ
れも現代の医療が抱える倫理と法的ジレンマゆえに
起きた事故と言えるかもしれない。(編集部)
今年 2 月、高齢者向け施設に入居する 87 歳の
Glenwood Gardens (http://www.brookdaleliving.com/)
女性が意識不明になったと 911(救急)に通報が
あった。オペレーターは通報してきた看護師に心
死亡した高齢女性は、医療行為の提供が法的に
肺蘇生法(CPR)を行うよう指示を出したが看護
義務付けられていないインディペンデント・リビ
師はこれを拒否し、女性は亡くなってしまった。
ングに入居していた。通常、インディペンデント
この事故が起きたのはカリフォルニア州にある
の入居者が倒れても、看護師が助けにきてくれる
Glenwood Gardens Retirement Facility で、同施
ことはない。自力で緊急事態にうまく対処できな
設は「あらゆる医療行為を提供しない」という方
い場合は、誰かが救急車を呼んでくれるかもしれ
針を掲げていた。事故の後繰り返し放送された
ないが、その程度の対応しかしてもらえない。た
911 の音声記録には、施設方針に反するとして
だし、今回の事故がインディペンデントで起きた
CPR を拒否する看護師と、すぐに CPR を行うか、
からといって、必ずしもこの看護師の行動や施設
自分ができなければ別の人に代わるよう促すオペ
方針が適切だったわけではないと Koopersmith
レーターとの激しいやりとりが残されており、メ
は言う。
医療機関の管理者や弁護士は、今回の事故の本
ディアは施設を厳しく非難した。なぜこの看護師
なぜ施設方針で、 質は施設の種類ではなく、施設方針にあると口を
そろえる。広義で曖昧な方針は、別の状況でも今
訓練された医療従事者である看護師に、基本的な
はそれほど冷酷になれたのか?
回のような矛盾を生む可能性があり、関係者の懸
応急処置さえ禁じているのか?
法律事務所 Garfunkel Wild(ニューヨーク州)
念は深まるばかりだ。
のパートナーEve Green Koopersmith は、リスク
り上げられた以上に複雑で多岐にわたると語る。
施設からも批判された看護師
Glenwood Gardens は、施設内では CPR を含
「今回の事故で、一般の人々に高齢者向け施設の
むあらゆる医療行為を提供しないという施設方針
種類の違いをより理解してもらえるよう、関係者
を公式に表明していた。常務取締役の Jeffrey
は努める必要があることが明らかになった。自立
Toomer は、
「命にかかわる緊急事態が発生した場
マネージャーにとって、この問題はメディアで取
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Jun. 2013
Vol.33
合は直ちに救急車を呼び、救急隊員が到着するま
誰も彼女の意思を知らなかった。結果的に看護師
で患者を見守るという手順になっている」と説明
の行動は正しかったが、今回はたまたまそうなっ
し、看護師は施設方針に従っただけだという声明
ただけだ」と Blass は語る。
Koopersmith は、通報した看護師は、多くの要
を出して問題の看護師を擁護した。
しかし数日後、
Glenwood Gardens への批判が高まると、同施設
因により混乱していた可能性があると指摘する。
は、「この看護師は施設方針を誤解しており事故
①看護師は医療行為を行わないという契約を交わ
の調査が終わるまで自主的に休職している」との
している、②入居者たちは医療行為を受けられな
新しい見解を発表した。
いことに同意している、③施設方針が不明瞭であ
死亡した女性の家族も声明を出した。それによ
る、といった事実から考えて、
「看護師は業務外の
ると、女性とその家族は Glenwood Gardens が医
医療行為が問題になるのを懸念して、ケアを躊躇
療行為を行わないことを充分承知していた。女性
したとも考えられる」と話す。
から DNR(心肺停止状態になっても CPR を行わ
ず、静かに看取って欲しいという意思表示)は出
ていなかったが、本人は蘇生を望んでいなかった
と家族は語った。
死亡した高齢女性の意思が判明し、施設方針が
合法的で正しいという根拠が集まってもなお、今
回の看護師の行動についてはいくつかの組織で調
査が続けられている。
倫理的・法的ジレンマの解消をめざして
事故後、地元警察は、看護師が CPR を拒んだ
看護師は CPR を行うべきか?
たとえその看護師が医療提供者として施設に雇
われていなくても、看護師は CPR を含め、資格
ことに違法性がなかったかどうかを調査している。
を持つ者として最低限の応急処置を施す義務があ
また、地域の高齢者を支援する行政部門 Kern
ったと、元 Pepperdine 法科大学生命倫理学准教
授で、現在はジョンズ・ホプキンス大学病院に勤
County Aging and Adult Services Department
は高齢者虐待の可能性を調査中であり、カリフォ
める Tanvir Hussain は主張する。
「その看護師は、
ルニア州議会の高齢者ケアに関する委員会 Aging
死にゆく患者に対して医療を提供するという医療
and Long-term Care Committee は、法の改正を
従事者としての倫理的・道徳的な義務を果たさな
検討中だ。
さらに、高齢者向け施設の団体組織 Assisted
かった。米国看護師協会は、彼女の看護師資格を
Living Federation of America(ALFA)は、会員
見直すべきだ」
。
524 床の短期・長期滞在、回復期リハビリテー
の施設に倫理的問題を引き起こす可能性のある方
ション、看護施設部門を持つナーシングホーム
針を見直すよう要請している。ALFA の副会長
Workmen’s Circle MultiCare Center(ニューヨ
Maribeth Bersani は、たとえ施設がサービスの一
ーク州)の医長 Joel Blass も、Hussain の見解を
環として医療行為を提供していなくても、911 の
支持する。
「前もって DNR が出ていない限り、看
オペレーターが応急処置を行うよう指示したとき
護師は CPR を行うべきだ。それを妨げるような
には、施設の看護師は協力するべきだとの声明を
方針はあるべきではないし、そのような方針にと
出した。カリフォルニア州の正看護師団体 Board
らわれるべきでもない。道端やレストランなどで
of Registered Nursing は、看護師本人は施設の方
倒れている人がいたら応急処置をするように、
針に反するから CPR を行えないにしても、なぜ
CPR を知っているのなら、どんな状況でも CPR
ほかの助けられる人に電話を代わらなかったのか
を行うべきだ。後になって、死亡した女性は CPR
を調査中だと発表した。
「人々が憤りを感じているのはまさにその点だ。
を望んでいなかったことが判明したが、緊急時は
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Jun. 2013
Vol.33
この施設が医療行為を提供しないと明言していた
らなければ、訴訟に結びつくことは容易に想像で
ことは、確かに適切だった。しかし裏を返せば、
きる」と Abrams は注意を促す。
この方針は看護師が患者を救助したり、オペレー
Blass もまた、この事故から極めて重要なリス
ターの指示に従ったりするのを禁じているという
クマネジメントの教訓を学んだと話す。「今後私
ことだ。そんな方針はおそらく支持されないだろ
たちが事故を起こしてマスコミに原因を追究され
う」と Koopersmith は語る。
たとしても、
『当施設の方針に従ったまでです』と
Workmen’s Circle の管理部長 Larry Abrams は、 は決して言わないだろう。方針を盾に隠れている
ように聞こえるだけだから」
。
たとえ医療行為を提供しないと明言していても、
インディペンデント・リビングなどの施設が看護
今回のような事故を防ぐためにも、関係施設は
師を雇えば、今回のような倫理的・法的なジレン
倫理的ジレンマのない、組織を危険にさらさない
マが生じる可能性があると指摘する。正看護師の
施設方針に改めなくてはならない。その際には、
資格を持つスタッフがいれば入居者やその家族の
医師や看護師の医療行為を妨げることのないよう
信頼を得られるかもしれないが、同時に、資格の
に配慮が必要だろう。
あるスタッフがいるのだから緊急時には幅広く対
応してもらえるという間違った印象を与えるかも
「Healthcare Risk Management」
しれない。「もし入居者の希望どおりの結果にな
(2013 年 5 月号)
インド通信
インド専門ニュースサイト「インド新聞」より、運営会社ムロドーの
許諾を得て、最新情報をお届けします。(http://indonews.jp/)
QRG エンター、
病院運営事業に参入(6/17)
ラボラトリーズが安全性に問題のある製品を製
造・流通させたとして米国当局の捜査を受け、
「ジ
QRG エンタープライシズが、傘下に持つ総合電
ェネリックの世界的な製造拠点」というイメージ
機大手「ハベルズ」の高い知名度を活かし、病院
に傷がつくことを懸念していた国内医薬品業界
運営事業に参入する。5 年間で 100 億ルピー(約
にとって、ケリー氏の発言はこのうえない後押し
170 億円)を投じ、「QRG」の名を冠した総合病
となった。一方で FDA は、インドで違法行為を
院を北部中心に 4~6 カ所で建設する計画という。
監視する調査担当者の増員を決定している。
同社は 2007 年に買収した病院(140 床)をファ
医師と患者の間を取り持つ
ネットベンチャー、増加(6/21)
リダバードで運営しているが、新たに最新の医療
設備を導入した 450 床の「QRG ヘルス・シティ」
を建設中で、9 月の開業を予定している。
メルコム・キャピタル・グループの統計によると、
ネットを介して医療サービスを提供するベンチャ
米 FDA 報道官、インドの
医薬品メーカーに高評価(6/17)
ー企業に対する投資が増えており、1~3 月だけで
5 億 7,000 万ルピーにのぼっている。その 1 つ、
米食品医薬品局(FDA)のクリス・ケリー報道官
プラクト・テクノロジーズ(バンガロール)は、
は、インド製のジェネリック医薬品が米国で販売
患者に「理想の医師」との出会いを提供するサー
を伸ばしていることについて、「インドの医薬品
ビスを手がけている。登録した医師からの反応も
メーカーが海外と同水準の安全性や衛生環境を
上々で、年収が登録前より 30%増えたケースもあ
実現した結果」と述べ、高く評価した。国内最大
る。同社は年末までに「登録医師 10 万人」の目
手で第一三共の連結子会社であるランバクシー・
標を掲げ、さらなるサービス拡充を図っている。
88
Jul. 2013
Vol.34
究極の治療は「体内ファーマシー」!?
自己治癒力に秘められた医学の可能性
――メリー・コーベット/本誌 アドバイザリー・スタッフ
この「体内ファーマシー」を操る人々がいる。
人間の体には、本来、健康な生活を送るために
あらゆる「乱れ」を修正するための仕組みが備わ
多重人格の研究機関 International Society for
っている。例えば内部環境の恒常性を維持する調
the Study of Trauma and Dissociation の報告に
節システムや免疫機構などは、体が順調に機能し
よると、ある 5 つの人格を持つ解離性同一性障害
ているときには、絶妙な連携プレーで良いコンデ
患者は、4 つの人格ではオレンジジュースに対す
ィションを維持する。逆にバランスが崩れたとき
るアレルギーを持ち、少しでも口にするとかぶれ
には、さまざまな物質を分泌して修正に努める。
とかゆみを訴える。しかし 5 番目の人格に切り替
そのなかには医薬品の成分と類似した物質もあり、 わると同時に症状は消え、いくらオレンジジュー
スを飲んでも平気になるという。ほかにも、人格
さながら体内に大きなファーマシー(薬局)を持
つかのように、すぐれた自己治癒力を働かせてい
が替わるごとに糖尿病の症状や腫瘍が出たり消え
る。科学が進歩したとはいえ、そのメカニズムは
たりする事例や、怪我や疾患の治癒期間が短い、
まだ多くの謎に包まれたままだ。
老化ペースが通常より遅い、睡眠をほとんど取ら
なくても平気という事例が、医学的にもたくさん
比較的身近な「体内ファーマシー」の例に、長
報告されている。
距離ランナーの多くが経験するランナーズハイが
ある。これは、激しい有酸素運動をしていると鎮
痛効果のあるエンドルフィンが分泌され、気分が
高揚してくる現象だ。ある進化論説によると、人
間は足が遅い分、長い距離を走るためにこの機能
を備えているという。
また、絶食時や糖尿病など、細胞が栄養とする
グルコースを吸収できない極限状態におかれると、
肝臓で脂肪を分解して作られるケトン体が分泌さ
こういった効果はすべて人格がトリガーとなっ
れて代替エネルギーとなる。最近では中鎖脂肪酸
て「体内ファーマシー」が発現されたために現れ
を豊富に含むココナッツオイルなどを摂取するこ
たものと思われるが、多くの患者は自らの意思で
とでケトン体の分泌を増やし、脳疾患を治療する
自由に人格をコントロールすることはできない。
試みも行われており、体内ファーマシーはさまざ
ただ、なかには精神科医やセラピストの誘導で切
まな研究の対象となっている。
り替えに成功する患者もある。
ほかにも、
「プラセボ効果」で一時的にせよ劇的
個人によって効果に差はあるものの、自然に備
に症状が改善したり、誘導瞑想(理想の姿をイメ
わった体内の仕組みを利用することで、副作用も
ージし、心の奥底から自分を変える方法)で血管
ほとんどなく疾患を治療できる可能性がある「体
を開いて血流を良くする、T細胞の働きを活発に
内ファーマシー」は、大いに追求されるべきだろ
するといったことも、体内ファーマシーの一例と
う。生物には寿命があり、再生を繰り返す人間の
言える。これらは何らかの物質が介在し、脳が免
細胞も 120 年が限界とされているが、
もしこの「体
疫機構に作用するために起こる現象と思われるが、 内ファーマシー」を医学で自在に調節できるよう
になれば、健康に一生を過ごすという夢の健康法
標準治療として同じ結果を毎回出すことは非常に
ができるかもしれない。
困難である。それでも世の中には、魔法のように
9
Jul. 2013
Vol.34
The Academia Highlight アカデミア・ハイライト [ 34]
低侵襲から非侵襲に向かう外科手術
うのめ・たかのめ
by
れている。非侵襲技術は、治療法の主役に躍
最近、女優のアンジェリーナ・ジョリーが
り出たのだ。
乳癌予防のために乳房切除・再建手術を受け
たとひとしきり話題になった。遺伝子検査で
内視鏡下手術 の非侵襲化 の試みは、 外 径
乳癌になる確率が極めて高いと診断されたた
1.2mm の細径内視鏡(経鼻内視鏡)法による
め決断したと報道された。
下垂体腫瘍手術が実効をあげている。先天性
このニュースは、遺伝子診断の活用に一石
代謝異常や神経疾患にともなう難治性てんか
を投じたことはもちろん、外科手術の技術進
んへの適応が期待される向きもあり、医療機
歩を評価するうえでも重要な示唆を与えてい
器の進歩がもたらした 1 つの可能性と言える。
る。ほんの 10 年ほど前までは、傷跡はどうあ
すでに副鼻腔炎には、ナビゲーション下でバ
れ癌は残さず取りきるのが第一で、内視鏡下
ルーンカテーテルを鼻腔から挿入してから経
の低侵襲手術はもとより、乳房温存手術は異
鼻内視鏡を挿入し、洞内での切除・洗浄を行
端視されていた。もっとも彼女の場合は予防
う、無痛・非侵襲の手術が行われている。治
であって癌ではないので別の話になるが、そ
療成績が芳しくない食道癌では、表在癌に対
れでも現在ほど低侵襲・非侵襲の手術が発展
してこの経鼻内視鏡を積極的に活用した治療
していなければ、整容性が大切な女優が手術
が試行中である。
最後に癌の集学的治療法にも触れておこう。
に踏み切れていたかは疑わしい。
非侵襲性手術の嚆矢は、1987 年の J.R.Adler
肝細胞癌に対する経カテーテル肝動脈化学塞
による、優れた治療精度を持ち、腫瘍の発症
栓術は、着実に症例が増えつつある。口腔癌
部位を問わない非侵襲性ロボット放射線手術
への超選択的動注化学放射線療法は、癌部位
システム(サイバーナイフシステム)の開発
に近接した動脈の分岐部までカテーテルを挿
成功であった。現在でも心血管・脳神経分野
入し、抗癌剤を注入後直ちに放射線を照射す
における放射線治療の評価は、画像誘導法の
ることで治療効果を高める試みだ。また、再
改良と相まって、インターベンション治療と
発性膠芽細胞腫に対し、頭皮の上から弱い中
並んで高い。以前本稿で述べた粒子線治療法
間周波数の交流電場をかけ、分裂の早い癌細
も、この延長線上にある。
胞の染色体分離を阻害する治療法が、米国で
今年、新たな治療選択肢に加わった。
次いで非侵襲治療にインパクトを与えたの
は、今世紀に入って登場した MR ガイド下の
外科手術の治療概念が、命を救いたい一心
集束超音波手術(FUS)である。周囲の組織
で体を傷つけていた段階から、術後 QOL を
への熱衝撃が最も少ない熱エネルギー源とし
高める・整容性を考慮する段階へ、さらに体
て注目され、薬事承認後、治療部位が比較的
を傷つけない段階へと進化したことが、癌治
広い肝癌や子宮筋腫への応用が急速に普及し
療の手技などの推移を振り返るとよく理解で
ている。狭い部位の腫瘍に対しては、冷凍療
きる。非侵襲的な外科治療は、部位別に多少
法・高周波アブレーション・マイクロウェー
の遅速はあっても、これからも洗練されてい
ブ凝固療法・レーザー組織内治療といった腫
くことは間違いない。
瘍組織の選択的壊死を誘発する方法が試みら
10
Jul. 2013
Vol.34
Medical
Device Daily
2013/6/1― 2013/6/30
(
)
Orthopedics
迫し、痛みや運動機能障害を引き起こす疾患だ。
米国では毎年 120 万人が LSS と診断され、治療
を受けている。
Osseon Therapeutics 社、
Vertos Medical 社が開発した LSS の低侵襲な
骨セメント注入器
治療法「mild」は、専用のトロッカー・軟組織カ
Osseoflex CD-H を発売
ッター・ボーンカッターなどを使用して、5.1mm
2013 年 6 月 17 日
ほどの切開孔から脊椎の神経を圧迫する靭帯や骨
脊椎圧迫骨折(VCF)の低侵襲治療デバイスを
万人に使用された実績を持ち、81%が術後の経過
開発する Osseon Therapeutics 社は、骨セメント
が良いと答えるなど、患者の評価は高い。安全性
を切除し、患部を除圧するというもの。すでに 1.5
や治療効果は 11 の臨床試験で証明済みだ。市販
の注入器「Osseoflex CD-H」を発売する。
前届 510(k)は 2008 年に完了しており、同社は現
Osseoflex CD-H は、水圧を利用して脊椎に骨
在、欧州での発売をめざしている。
セメントを注入するシステム。蒸留水の入った水
用シリンジと容量 12cc のセメント用シリンジが
(http://www.vertosmed.com/)
連結されており、ポリメタクリル酸メチル
Cardiology
(PMMA)を主成分とする高粘度の骨セメントで
も楽に注入できる。また、セメント用シリンジは
メモリ付で、注入量を正確に把握できる。
InterValve 社、BAV 用
バルーンカテーテル V8 の
同社は、すでにバルーンカイフォプラスティー
(BKP)用デバイス「Osseoflex SB」を発売して
市販前届を完了
おり、Osseoflex CD-H を加えることで、さらに
VCF 製品のラインナップ強化を図る。
2013 年 6 月 3 日
弁尖が石灰化する大動脈弁狭窄症は、弁を置換
することで死亡率を大幅に軽減できるが、合併症
のリスクを懸念して外科的治療に踏み切れない患
者も多い。そのため、より侵襲性の低い経カテー
テル大動脈弁置換術(TAVR)の登場は歓迎され、
エドワーズライフサイエンスやメドトロニック
(http://www.osseon.com/)
により市場が拡大している。
InterValve 社のバルーン大動脈弁形成術(BAV)
低侵襲的に LSSを治療できる
Vertos Medical 社の
用デバイス「V8」は、BAV 用として単体で使用
2013 年 6 月 20 日
8 の字のように中心部を絞ったデザインのバルー
するほか、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)
mild
の下地作りにも利用できるバルーンカテーテルだ。
ンのおかげで、大動脈弁からズレにくくしっかり
と拡張できる。また、バルーンが展開する速度が
腰部脊柱管狭窄症(LSS)は加齢にともなう脊
速いため、血流を止める時間も短くて済む。
椎の変性で、腰部の脊柱管が狭くなって神経を圧
11
Jul. 2013
Vol.34
CE マークは取得済みですでに欧州では販売さ
FotoFinder 社(独)が、皮膚癌を検知する全身
れており、新たに市販前届 510(k)も完了した。
撮影システム「FotoFinder bodystudio ATBM」
を発表した。bodystudio は、解析ソフトウェアを
組み込んだコンピュータ、ディスプレイ、撮影用
カメラ、ダーマスコープを、カート型プラットフ
ォームに集約したシステム。自動制御のカメラが
カートのフレームに沿って上下に移動し、約 3 分
で全身を撮影できる。皮膚癌の疑いのある母斑が
(http://www.intervalveinc.com/)
マーキングされた全身のマップが作成できるほか、
付属のフル HD デジタルダーマスコープを使えば、
セント・ジュード、次世代 ICD
Ellipse、Assura の
市販前承認を取得
母斑の分析も行える。
皮膚癌のリスクがある患者は定期的に検査を受
ける必要があるが、従来の検査方法では撮影に時
2013 年 6 月 13 日
間がかかるうえ、特定の母斑に焦点を当てる傾向
セント・ジュード・メディカルが、次世代型の
て、母斑をくまなく検査できる。
があった。bodystudio は短時間で体全体を撮影し
植込み型除細動器(ICD)「Ellipse」と、最高出
力 40 ジュールを誇る「Assura」シリーズの市販
前承認(PMA)を取得した。Assura シリーズに
は、ICD の「Fortify Assura」
、両室ペーシング機
能付き植込み型除細動器(CRT-D)の「Quadra
Assura」と「Unify Assura」がある。
本体回路の一部がショートしても、自動で刺激
レベルを補正して高圧電流を流す DynamicTx
Over-Current Detection アルゴリズムが、いずれ
の機種にも搭載されている。本体表面の絶縁コー
ティングは本体とリード間の摩耗を軽減し、導線
露出を抑制する。さらに、不整脈と右室リードの
(http://www.fotofinder.de/)
ノイズを識別する技術 SecureSense RV Lead
Noise Discrimination により、不要なショックを
DiagnoCure 社の
防ぎ、心室頻拍(VT)または心室細動(VF)の
波形を感知した時のみ作動する仕様となっている。
同社は、今年第 3 四半期の米国発売をめざして
大腸癌の再発予測アッセイ
Previstage GCC
2013 年 6 月 4 日
いる。
(http://professional.sjm.com/)
DiagnoCure 社(カナダ)は、大腸癌の再発を
予測するアッセイ「Previstage GCC」の新しい臨
Oncology
床試験の結果を、米国臨床腫瘍学会(ASCO)で
発表した。これは、手術で摘出したリンパ節の組
FotoFinder 社の皮膚癌用
織からリンパ節内のグアニル酸シクラーゼ C
全身撮影システム
(GCC)の発現レベルを測定することで、リンパ
FotoFinder bodystudio
節転移陰性の大腸癌発生リスクを高感度で診断で
2013 年 6 月 4 日
きるアッセイで、化学療法の必要性などの判断材
12
Jul. 2013
Vol.34
料を提供してくれる。
Mauna Kea 社の
臨床試験では、まず外科的手術で大腸癌を切除
共焦点蛍光マイクロスコープ
Cellvizio、日本上陸間近
した患者 463 人を対象に、GCC の発現レベルと
再発率の関連を評価した。その結果、中リスク以
上の再発リスクありの患者は 42%となった。
2013 年 6 月 17 日
次に、試験を継続した 366 人をリスク別に 3 段
階に分類したところ、高リスク 21.8%、中リスク
Mauna Kea Technologies 社(仏)は、高解像
17.5%、低リスク 60.7%となった。この分類にお
度の共焦点蛍光マイクロスコープ(プローブ)
ける 5 年以内の再発率は、低リスク患者 8%、高
「Cellvizio」について、医療機器専門商社アムコ
リスク患者 22%になるという。
と 5 年間の販売契約を締結した。アムコは今後、
日本での薬事承認取得をめざす。
(http://www.diagnocure.com/)
Cellvizio は、粘膜を拡大観察するための高解像
度の共焦点蛍光マイクロプローブで、上部消化
Dignitana 社の頭皮冷却
デバイス DigniCap、
管・下部消化管・気管支内視鏡の鉗子チャネルか
ら挿入し、癌の疑いのある組織をリアルタイムで
米国で臨床試験を開始
検査できる。
Mauna Kea 社は、消化管、胆管、膵管、肺用
2013 年 6 月 10 日
として市販前届 510(k)を完了するだけでなく、CE
癌の化学療法の副作用の1つである脱毛に悩む
マークも取得しており、米国・欧州のほか、中国・
患者は多い。
特に乳癌は比較的若年の患者が多く、
ブラジル・インド・ロシア・トルコ・カナダでも
脱毛の精神的ストレスが治療効果に影響すること
販売している。同社は世界で 2 番目に大きい日本
もある。
の内視鏡市場に参入することで、事業を拡大でき
Dignitana 社(スウェーデン)の頭皮冷却デバ
ると意気込んでいる。
イス「DigniCap」は、この化学療法による脱毛を
防ぐシステムだ。CE マークはすでに取得してお
り、同社は 18 歳以上で低~中度の乳癌患者 110
人を対象に、米国で臨床試験を開始する。
DigniCap は、頭皮に密着するシリコン製のイ
ンナーキャップと、頭部全体を覆う合成ゴム製の
アウターカバー、本体コンソールからなる。イン
ナーキャップに液体の冷却剤を循環させて頭部全
体を冷やし、毛母細胞(毛根部分にある毛の成長
(http://www.maunakeatech.com/)
に重要な細胞)の化学物質の取り込みを軽減して
脱毛を抑制する。通常の冷却温度は 5℃で、内蔵
AngioDynamics 社の
の温度センサーと正確な冷却メカニズムにより微
軟組織用アブレーション
システム NanoKnife
妙な温度調整が行える。アウターカバーには保冷
効果もあるため、冷却を一時中断して席を立つこ
2013 年 6 月 20 日
とも可能だ。
化学療法では抗癌剤の投与終了後もしばらく血
AngioDynamics 社は、軟組織用として市販前
中に有害な化学物質が残留するため、同社は使用
した抗癌剤の種類や投与量に応じて、投与後も 30
届 510(k) を完了しているアブレーションシステ
~120 分間の連続使用を推奨している。
ム「NanoKnife」を、限局性前立腺癌の治療に使
用するための臨床試験を行う。
(http://www.dignitana.com/)
13
Jul. 2013
Vol.34
NanoKnife は、マイクロ秒周期の電気パルスを
Plan 1 Health 社の
癌細胞に当てて細胞膜に穴を開け、癌細胞を破壊
皮下埋め込み式カテーテル
ポート Healthport PLP
するシステム。熱や放射線を使用しないので周辺
の静脈・神経・リンパ管などへの影響はなく、標
2013 年 6 月 17 日
的細胞だけを焼灼できる。そのため、これまで治
療が難しかった部位にも使用可能だ。
今回の臨床研究は、前立腺癌患者 10 人未満を
Plan 1 Health 社(伊)は、皮下埋め込み式カ
対象に、NanoKnife の安全性・勃起能力の維持・
テーテルポート「Healthport PLP」の本体に、ポ
失禁のコントロールを評価する。試験は 1 年ほど
リサルホン(PSU)樹脂「Eviva PSU」を採用し
で完了し、市販前届 510(k)の適応拡大、もしくは
た。Eviva PSU は樹脂素材メーカーのソルベイス
市販前承認(PMA)の取得をめざす。同社は将来
ペシャルティポリマーズの製品で、生体適合性が
的に、この技術を膵臓癌や脳腫瘍の治療、または
高く、MRI にも対応している。
脂肪細胞の破壊へ転用することも検討している。
Eviva PSU 製の Healthport は、チタン製の従来
(http://www.angiodynamics.com/)
品に比べて軽量・低コストで、どんな患者にも使
用できる。ポートの内腔はチタンでできており、
Other Products
穿刺による損傷を防ぎ、本体と注入する薬剤が直
接接触しないようになっている。また、ポートの
中央にあるセプタム(穿刺エリア)
が大きいので、
クックが
胆管用ステントEvolution の
市販前届を取得
触診で位置を確認しやすいうえ、同じ場所に穿刺
が集中するのを軽減できる。接続コネクターは透
明で、カテーテルの接続が迅速・安全に行える。
Healthport にはほかにも、本体がチタン製のモ
2013 年 6 月 6 日
デルや、2 つのポートが一体化したデュアルチャ
ク ッ ク メ デ ィ カ ル が 、「 Evolution
ンバーモデルなどがある。
Controlled-Release Stent」シリーズの胆管用で
あ る 「 Evolution Biliary Controlled-Release
uncovered stent」の市販前届 510(k)を完了し、
7月から発売する。CE マークは昨年春に取得済
みで、米国外ではすでに発売されている。
Evolution Controlled-Release シリーズは、ト
リガーを引くことでステントの遠位端から少しず
つステントをリリースして留置する、独自のデリ
(http://www.p1h.it/)
バリーシステムを備えている。一部展開した後で
も回収でき、ガイドワイヤーにあるマーカーで回
TransEnterix 社の
手術ロボット SurgiBot、
収不能なポイントも一目で分かる。
胆管用の Evolution Biliary は、ズレなく正確に
ダヴィンチの対抗馬となるか
留置しやすいノンカバードステントで、特許申請
中の技術 Flexor Plus により、柔軟性と硬さをバ
2013 年 6 月 24 日
ランス良く両立している。狭く入り組んだ胆管で
TransEnterix 社は、腹腔鏡下単孔式手術用デバ
の操作性も良好で、先行販売されている欧州での
評価も高いという。
イス「SPIDER」をもとにしたロボット手術シス
テム「SurgiBot」を開発し、市販前届 510(k)の完
(http://www.cookmedical.com/)
了と CE マーク取得をめざしている。
14
Jul. 2013
Vol.34
SurgiBot は複数のチャネルを持つ先端部径
BD メディカルが
注射針 Ultra-Fine の
18mm ほどの内視鏡システムで、1 つの切開孔か
らリジッドの鉗子や、360 度回転可能なフレキシ
改良版を北米で発売
ブルの鉗子を展開できる。高画質の 3-D 画像が得
2013 年 6 月 24 日
られるので、医師は従来の腹腔鏡手術では確認し
にくかった奥行きを体感しながら鉗子を操作でき
BD メディカルは、ペン型インスリン注入器用
る。また、他社のロボット手術システムより小型
の注射針「Ultra-Fine Nano 4mm Pen Needle」
で持ち運びができ、低価格だという。
現在ロボット手術システムの市場は、Intuitive
の改良版を全米糖尿病協会(ADA)で発表し、米
Surgical 社の「ダヴィンチ」が高いシェアを誇っ
国・カナダで発売する。
ており、SurgiBot が薬事承認を得られれば、ダヴ
Ultra-Fine は、針先を 5 ベベル(5 面)にカッ
ィンチの有力な競合品となりうる。サイズや価格
トする PentaPoint Comfort 技術を採用し、穿刺
で勝りそうな SurgiBot がどこまでシェアを獲得
時の痛みを軽減している。改良版では、注射針の
できるかが注目されている。
外径はそのままに内径を広げ、流量を従来品の約
1.5 倍にする EasyFlow 技術が追加されており、
(http://www.transenterix.com/)
必要なインスリン量を短時間で注入できるように
なっている。
コヴィディエンの
IPC 装置 Kendall SCD、
脳卒中治療に効果的
216 人の糖尿病患者を対象とした臨床試験で使
用感を調査したところ、
「痛みが軽減した」と答え
た患者は 64%、「軽い力で注入できた」が 61%、
2013 年 6 月 24 日
「いままで使用していた製品よりも注入時間を短
縮できた」が 49%という結果となった。
コヴィディエンは、エジンバラ大学(英)が行
2 つの技術を組み合わせて注射時の快適性を大
った臨床試験で、寝たきりの脳卒中患者に対する
幅に向上したこの Ultra-Fine 改良版は、欧州諸国
間欠的空気圧迫(IPC)装置「Kendall SCD」の
でも近いうちに発売が開始される見込みだ。
有用性が判明したと、
欧州脳卒中学会で発表した。
Kendall は、加圧・除圧を繰り返すことで足の血
流を促す装置で、加圧ユニットと大腿部までを覆
うタニケット状のスリーブで構成される。
この試験は、2,876 人の脳卒中患者を対象に、
英国の 105 の医療機関で 2008 年から 4 年にわた
って行われた。Kendall を使用した群と一般的な
診 療 のみ の 群の 治療 効 果を 比較 し たとこ ろ 、
(http://www.bd.com/)
Kendall 群では深部静脈血栓症(DVT)の発症を
29.9%低減できた。さらに、脳卒中で入院してか
メドトロニックの
人工膵臓システム
ら半年間における死亡リスクも 14%低減できる
ことが判明した。
MiniMed 530G
試験に参加した研究者は、
「Kendall は DVT の
2013 年 6 月 25 日
発症リスクだけでなく、脳卒中後の死亡リスクも
低減できる有用な装置だ」と高く評価している。
メドトロニックは、全米糖尿病協会(ADA)で
(http://www.covidien.com/)
人工膵臓システム「MiniMed 530G」の臨床試験
の結果を発表した。MiniMed 530G は、持続血糖
15
Jul. 2013
Vol.34
M&A
モニターと完全自動制御のインスリンポンプを組
み合わせたシステムで、夜間低血糖を防ぐ
Threshold Suspend 機能を備えている。これは血
セント・ジュード、
電気刺激療法の Spine
Modulation 社買収を検討
糖値が規定値以下になるとアラームが鳴り、イン
スリンの自動供給を停止する機能で、米国外では
「MiniMed Paradigm Veo」として 2009 年より
2013 年 6 月 10 日
販売されている。
臨床試験では、1型糖尿病で夜間低血糖と診断
された患者 247 人を、Threshold Suspend 機能を
セント・ジュード・メディカルは、疼痛管理用
使用する群と使用しない群に分け、3 カ月間の血
の 電 気 刺 激 療 法 シ ス テ ム を 開 発 す る Spine
糖管理機能を比較した。その結果、Threshold
Modulation 社に対し、4,000 万ドルの株式投資を
Suspend を使用した群は使用しない群に比べて、
行った。これによりセント・ジュードは、Spine
Modulation 社の脊髄電気刺激(SCS)システム
低血糖の重症度を測る指標である血糖曲線下面積
(AUC)が夜間で 37.5%、終日で 31.4%低く、夜
「Axium」の販売権を取得した。セント・ジュー
間低血糖を起こした患者も 31.8%少なかった。両
ドはさらに、3 億ドル以上で同社を買収すること
群とも血中のヘモグロビン A1c の上昇は見られず、 も検討している。
Threshold Suspend 群では有害事象も起こらな
Axium はペースメーカ大の植込み型刺激装置
かったことから、この機能の有用性と安全性が示
で、脊髄を刺激する従来の SCS 装置と異なり、後
された。
根神経節を刺激する。これにより下肢や鼠径部な
どこれまで治療が困難だった部位も治療できるほ
(http://professional.medtronicdiabetes.com/)
か、消費電力も 95%低減できる。2011 年に CE
マークを取得しており、今年後半には米国で臨床
J&J Animas 社の
人工膵臓システム HHM
試験を開始する予定だ。
2013 年 6 月 25 日
J&J Animas 社 は 、 若 年 性糖 尿 病 研究財 団
(JDRF)と共同で、完全自動制御の人工膵臓シス
(http://www.spinalmodulation.com/)
テム「Hypoglycemia-Hyperglycemia Minimizer
(HHM)
」を開発している。同社は 6 月に開催さ
RTI Biologics 社、
れた全米糖尿病協会(ADA)で、HHM の良好な
整形商材メーカーの
Pioneer 社を買収
臨床試験結果を発表した。
HHM のインスリンポンプは、血糖値の上昇・
2013 年 6 月 13 日
下降を予測するアルゴリズムにより、インスリン
の投与量を自動的に調節できる。1 型糖尿病患者
20 人を対象に、夜間(午後 9 時~午前 7 時)のイ
生体材料メーカーの RTI Biologics 社は、骨充
ンスリンの自動調節機能を評価したところ、少し
填剤、椎体間スペーサー、脊椎固定用プレート&
でも夜間低血糖(70mg/dl 以下)を起こした患者
ペディクルスクリューシステムなどを開発する
は半数以下だった。また、平均 90%以上の時間帯
Pioneer Surgical Technology 社を 1.3 億ドルで買
で血糖値を 70~180mg/dl に保つことができ、こ
収する。これにより RTI 社は、Pioneer 社の製品
の制御アルゴリズムが効果的にインスリン投与量
ラインナップだけでなく、強力な販売網もあわせ
を調節していることが示された。
て獲得する。
RTI 社は、今年 3 月にウシ心のう膜パッチや移
(http://www.animas.com/)
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なくないという。
植用の真皮などの生体材料を、6 月にはブタ由来
の 無 細胞 性 皮膚 基質 で でき た軟 組 織用パ ッ チ
研究者が小児患者のデータベース Pediatric
「Fortiva」を発売したばかりだ。さらに、新たな
Health Information Systems の過去データをも
骨充填剤「map3」シリーズの発売を年内に控え
とに研究・分析を行ったところ、2004~11 年の
ており、獲得した Pioneer 社の販売網を最大限に
期間中に、対象者 410 万人の 3.3%が医療機器に
活用する。
起因する有害事象を経験していた。これは、毎年
(RTI Biologics>http://www.rtix.com/)
(Pioneer Surgical>http://www.pioneersurgical.com/)
12,000 件以上の頻度で有害事象が発生している
計算になる。また、有害事象のうち 44.4%は、中
心静脈カテーテルなどの血管アクセスデバイスか、
Global Market
脳内の髄液を排出するためのシャントチューブを
含む神経系デバイスに起因するものだった。
多くの機器は大人用に作られており、小児には
大手メーカーが注目する
アジアの拠点
シンガポール
適していない。例えば腎除神経術用の機器は、血
管径の細い小児には使用できない。そこで昨年
Vessix Vascular 社(昨年ボストン・サイエンテ
ィフィックが買収)は、豪州の 10 歳の治療抵抗
2013 年 6 月 3 日
性高血圧患者を治療するため、腎除神経術用バル
ーンカテーテル「Vessix V2」をカスタマイズして
世界で最も豊かな国のひとつであるシンガポー
この症例に対応した。
ルは、国民1人当たりの年間医療費支出が平均
2,286 ドルで、香港(1,562 ドル)や台湾(1,298
研究者は、今後メーカーが機器の安全性を改善
ドル)と比べて突出している。高い生活水準、優
し、市販後調査を強化するとともに、合併症やサ
れた教育制度、予防医学の普及のおかげで国民の
イズの問題を解決できる小児に特化したモデルを
医療に対する意識が高く、良質な医療を受けるだ
作っていく必要がある、と提言している。
けの経済的余裕もあるためだ。
Conference
シンガポールの医療機器市場は、毎年10%成長
しているとはいえ 2012 年で 5.35 億ドルほどだが、
同国にはアボットやボストン・サイエンティフィ
最も魅力的な
新興企業を選出する新企画
ック、GE ヘルスケアなど、30 以上の世界的メー
カーが進出している。海外メーカーはアジアの主
Medtech Idol
力市場に近いシンガポールをアジア展開の足掛か
2013 年 6 月 27 日
りと位置づけており、地方本部や製造工場、研究
開発拠点を設け、国内のみならず、アジア地域全
医療機器の起業家、ベンチャーキャピタル、弁
体に製品を供給している。
理士などが集う Medical Device Conference で、
65 の新興企業のなかから最も魅力的な企業を選
デバイスによる合併症から
小児を守れ
ぶ企画「Medtech Idol」が初めて開催された。米
国で人気の視聴者参加型オーディション番組「ア
2013 年 6 月 11 日
メリカン・アイドル」
の形式にのっとって行われ、
決勝に残ったのは下記の 4 社だった。
(https://www.medtechidol.com/)
医療機器の進歩により、重篤な病気を抱える小
児の寿命は延びた。しかし、医療情報誌『Journal
(1) LIM Innovations 社
of Hospital Medicine』に掲載された研究による
従来の義足ソケットは、製作に約 1 カ月かか
と、医療機器に起因する合併症に苦しむ小児も少
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るうえに断端の形状変化に対応できず、付け
今後は、医療機器メーカーなどが病院と連携し
心地も満足できるものではなかった。同社が
て患者データを利用する場合でも、個人の許可な
開発中の義足ソケットは、採型が1日で済み、
しには一切情報を得ることができなくなる。また、
患者自らが調節できるため、快適な付け心地
医療 IT を開発するメーカーは、HIPAA 法を遵守
を実現できる。
したシステムを開発する必要がある。
この規制は患者と直接かかわる医療機関だけで
(2) Somnarus 社
なく、医療情報を扱うすべての組織や団体を対象
閉塞性睡眠時無呼吸 (OSA)を診断するパッチ
としているため、医療機器業界は対応に追われて
「SomnaPatch」は、絆創膏に似た形状で、
いる。
寝ている間に鼻に貼るだけで OSA に関する
データを正確に収集できる。
医療機器にも
セキュリティを!
(3) Endeau 社
2013 年 6 月 18 日
消 化 管 内 視 鏡 「 Water Aided Endoscopy
(WAE)」は、消化器官腔内を拡張する際に
FDA はこの 6 月、医療機器メーカーや医療機関
炭酸ガスや空気ではなく水を使用するため、
従来の内視鏡検査と比べ痛みが少ない。また、
に対し、患者情報や医療機器のセキュリティを強
患者の回復が早く、使用する鎮痛剤も少なく
化するよう勧告を出した。
て済むので、医療費を総合的に削減できる。
近年は、マルウェア(コンピュータウイルスな
ど悪意のあるソフトウェア)によって院内ネット
(4) Yolia Health 社
ワークや医療機器がウイルス感染するケースが増
老眼治療システム「True Vision Treatment
加している。ネットワークを利用する医療機器は
(TVT)」は、個人に合わせて作成した高酸素
利便性が高く急速に開発が進んでいるが、ウイル
透過性コンタクトレンズと点眼薬を併用する
スに対しては非常に脆弱だ。その理由としては、
ことで、非侵襲的に角膜形状を変化させ、老
Windows のような一般的な OS を搭載していない
眼を改善できる。自宅で 5 日間連続して使用
「組み込みシステム」と呼ばれる医療機器が大半
すると、最大で 1 年間、老眼鏡に頼ることな
であり、セキュリティソフトをインストールでき
く生活可能だという。メキシコではすでに承
ないことが挙げられる。
この弱点を克服するため、
認されていて、2008 年より発売している。
Icon labs 社は組み込みシステムを守るネットワ
ーク用ファイヤーウォールを開発している。
Administration
患者や医師が特に懸念しているのは、院内ネッ
トワークで情報を送信するインスリンポンプやペ
ースメーカへのサイバー攻撃だ。インスリンポン
患者のプライバシー保護に
関する規制強化で
医療機器業界に波紋
プをハッキングすれば、致死量のインスリンを投
与できることは実験で証明されている。また、外
部のハッカーによる不正操作だけでなく、内部の
2013 年 6 月 6 日
スタッフによる誤操作を招く恐れがあることが指
摘されている。
医療業界も、医療機器のセキュリティについて
近年、電子カルテやクラウド上で患者情報を共
考える時期が来ている。
有する動きが強まり、患者情報へのアクセス性が
格段に向上したため、患者のプライバシー保護に
――――――――――――――――――――――
関する規則が 1 月から HIPAA 法(医療保険の相
編集部注:本社所在地が米国の企業は、国名記載を省略し
ています。
互運用と責任に関する法律)に加えられた。
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Kawanishi Hotline
前号の Medical Device Daily から、カワニシグループの社員が選んだ注目の記事をご紹介します。
見落としが少ない EndoChoice 社の
大腸内視鏡 Fuse〈5/21〉
• この 6 月に日本初となる TAVR デバイス、エドワ
ーズライフサイエンスの「sapienXT」の薬事承
3 台の CCD カメラを搭載した大腸内視鏡「Full
Spectrum Endoscope(Fuse)
」は、一般的な
内視鏡の倍近い 330 度の視野を誇り、腸のひだ
に隠れたアデノーマなどの見落としが少ない。
市販前届 510(k)と CE マークは承認済み。
認がおりた。関連学会では以前から大きく取り上
• 大腸内視鏡では腸のひだが邪魔をして病変部を
療機関しか行えないため、いかにその限られた市
げられていただけに、いよいよといった雰囲気で
市場の期待も高まっている。TAVR は、重症の大
動脈弁狭窄症もしくは 80 歳以上の高齢患者が適
応と言われており、しかも施設基準を満たした医
場を押さえるかが重要になる。心臓血管外科医と
見落とすことがあり、操作技術を駆使して内視鏡
循環器内科医がチームを作って行うことになる
の先端部でひだを裏返して観察するなど、現場で
ので、現場では医師同士の関係構築といったソフ
は大変な努力がなされている。Fuse の視野角の
ト面での準備も進んでいるようだ。(瀬口)
広さがこの問題を解決してくれるならば、見落と
• TAVR の登場で、生体弁の弁置換術の適応年齢が
しリスクの低減とドクターの労力軽減に役立つ
下がるかもしれない。生体弁はワーファリンを飲
かもしれない。国内の内視鏡市場はオリンパスが
まなくて済むというメリットがあるが、弁の寿命
優勢で、富士フイルムがそれを追う形となってい
は長くて 20 年であるため、現在は 70 歳前後が適
る。日本への参入は難しいかもしれないが、富士
応となっている。今後は 60 歳で生体弁置換をし
フイルムが経鼻内視鏡や小腸検査用内視鏡など
て、80 歳で弁が悪くなったら TAVR を行うとい
で市場の高い評価を受け、専用のシステムの導入
う選択肢も考えられる。再手術を回避できる可能
に至ったように、自社製品の優位性を示せれば可
性があり、しかも低侵襲な手技であるため、患者
能性はある。ただ、他メーカーと同等と考えても
メリットは大きいだろう。(須田)
スコープが 300 万円、システム一式で 1,000 万円
程度になると思われ、価格がいちばんのネックと
ジンマーが保存的な膝関節治療製品を
開発するKnee Creations社を買収〈5/6〉
なるかもしれない。(牧)
• 精度を上げる意味では有用性が高いが、内視鏡医
にとっては、操作性の良さや処置ができるかでき
Knee Creations 社 の 骨 髄 浮 腫 治 療 シ ス テ ム
Subchondroplasty(SCP)は、炎症部分に骨充
填剤「AccuFill」を注入し、AccuFillが健康な骨
組織に置き換わることで炎症を治療する。人工
膝関節置換術より低侵襲で、日帰り手術も可能。
ないかも大事な判断要素となる。視野角の広さだ
けでは、予算に余裕のある一部の病院にしか受け
入れられないのではないか。(長﨑)
EuroPCRで次世代TAVRデバイスが
続々登場〈5/23〉
• 骨髄浮腫の治療システムとのことだが、再生医療
の 1 つと捉えれば、今後日本市場でもニーズが増
加すると考えられる。ほかの骨補填剤を使用する
第1世代の経カテーテル大動脈弁置換術
(TAVR)用の人工弁は、弁周辺のリークとい
う大きな問題を抱えていた。メーカー各社はさ
まざまなリーク対策を講じた次世代製品の開
発を続けている。
手技と比べて侵襲性が少ないなら、AccuFill を使
った SCP が有利になるだろう。AccuFill が医療
材料としての扱いか、医薬品としての扱いかが気
になる。(吉田)
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• 現在の治療法としては人工関節置換術が主流だ
注目のデバイス関連記事を
ピックアップ!(未掲載記事より)
が、将来的には保存的手術をドクターも期待して
いると思われる。競合品としては自家培養軟骨
「ジャック」あたりが考えられるが、AccuFill
■ ストライカーと OrthoSensor 社が
のほうがより簡便に使用できるのであれば競争
TKA 用システムでの連携を延長〈5/23〉
力はある。ただ、長期成績を提示できないと、継
OrthoSensor 社の圧力センサー内蔵インサー
続的な市場獲得は厳しいだろう。(森)
ト「Verasense」は、ストライカーの人工膝関
• 骨髄浮腫や変形性膝関節症は、関節注射や装具等
節システム「トライアスロン」の植込み時に膝
でごまかせるところまでごまかし、ごまかしが効
周辺の軟組織にかかる圧力を測定し、人工関節
かなくなれば人工膝関節置換術というのが一般
を最適に配置する手助けをする。
的な治療の流れになっている。SCP が根治療法
• Verasense と同じように手術を支援する消耗
品が、7 月の償還収載予定品に掲載されてい
た。従来はインプラントは保険が利いて、器
械や消耗品は持ち出しというのが一般的だ
ったが、少しずつ変化が見られるようだ。こ
の圧力センサーにも償還価格が適応される
ことを期待したい。(西山)
になるのであれば、市場規模は大規模なものにな
る。対象症例は人工膝関節症例の数倍あると予測
されるが、病院よりもいわゆるクリニックのほう
が対象患者は多いかもしれない。(二神)
Metabolomic社の大腸ポリープを
検知する尿検査キットPolypDx〈5/7〉
■ IonMed 社の低温プラズマシステム
「BioWeld1」
〈5/13〉
尿に含まれる癌などを引き起こす原因となる
腸内細菌の代謝物をマーカーとして、前癌性の
大腸ポリープを検出するキット。感度は便潜血
検査の 4 倍以上で、大腸内視鏡検査よりも簡便
な検査法として注目されている。
外科手術や創傷による切開創を溶着する低温プ
ラズマシステムで、滅菌・火傷治療・止血コン
トロールができる。縫合糸やステープルを使用
しないため、手術時間も短くて済む。
• 大腸癌患者は食事の欧米化や外食志向によって
• 縫合器やステープラーよりも短時間で縫合
でき、傷跡も目立ちにくい。抜糸も必要ない
ので術後のケアも簡素化できる。従来品より
安全性も高くなっているようだ。(中井)
今後も増えると言われている。厚労省は予防医療
に力を入れており、簡単に、しかも従来検査より
正確な結果が得られる PolypDx は早期発見・早
期治療に役立つ。外来受診や健診の際に行われる
■ Haldor Advanced Technologies 社の手術
器具トラッキングシステム「ORLocate」
〈5/7〉
RFID を埋め込んだ手術器具などを画面付きコ
ンソールでトラッキングして管理する。生産性
を上げ、コストを削減し、体内異物遺残を防止
できる。市販前届 510(k)は完了済み。
尿検査の一環として行えば、患者 QOL の向上や
効率化にもつながるだろう。(間中)
• 現行の便潜血検査、大腸内視鏡検査といった大腸
癌検査に比べ、感度が高い・簡便である・コスト
が安いなどの利点があり、競争力の高い製品だと
思う。尿検査は苦痛をともなわないので患者にも
• 国内でも同様のシステムを導入しようとす
優しい。現場からは、「日本で承認されれば大腸
癌検査の主流となる可能性がある」との声も上が
っている。(玉木)
• 検体は便よりも尿のほうが患者の負担が少なく、
しかも病院で採取できるので、受診率が上がると
思われる。尿検査を得意とするメーカーと組めば、
る動きがあるが、1医療機関が所有する手術
器具は平均 1 万 5,000 点と言われており、導
入コストがネックとなっている。また、RFID
タグを鉗子類に溶接すると滅菌等の妨げと
なり、操作性が損なわれる恐れもある。この
製品ではどうなっているか知りたい。
(片桐)
さらなる発展も見込めるのでは。便潜血検査より
はるかに大きな市場になる可能性がある。
(大嶋)
※〈 〉は MDD の配信日、
( )内は回答社員の名字
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ヒューマンドキュメント医療機器を開発した⼈たち
ハンドアシスト法を⽤いた腹腔鏡⼿術を普及させた
「ラップディスク開発物語 」-9-
―――取材・執筆
ふくやま
たけし
福⼭ 健
この「ラップディスク開発物語」(全 12 回)は、NPO
法人・日医文化総研の文化情報誌、
『知遊 Vol.15』
(2011
年 1 月刊)と『知遊 Vol.16』
(同 7 月刊)に掲載のヒュ
ーマンドキュメントを一部編集して転載したものです。
ラップディスクの利点と問題点を語る
山川達郎・帝京大学名誉教授。
○ 京 浜 総 合 病 院 に て 撮影 根 岸 聰 一 郎
利点と問題点の把握は、
内視鏡外科⼿術の発展を
左右する重要なカギ
(⼭川教授)
―――1990 年、腹腔鏡下胆嚢摘出術がわが国にも
たらされた。低侵襲治療としての内視鏡外科手術の
夜明けであった。以来、この 20 年間、内視鏡外科
手術は急速に普及し、これまでに約 100 万例に施行
されている。特に消化器領域における普及は著しい
た機能性に乏しい鉗子類を使用しての手術でありま
―――。
内視鏡外科学の歴史はこう記しているが、日本で
すので、その不備を補い、良好な視野を展開して、
最初の腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った山川達郎教授は、
開腹術と同等な精緻な手術をするため補助手段を開
ラップディスクの開発をどのように評価するのだろ
発する必要がありました。また、同時に、安全対策
うか。
すなわち緊急の出血あるいは臓器損傷が起きてしま
せいち
った時の対処法として、開腹するのではなく、あく
この点についてインタビューをする機会を得たが、
後日、正確を期すためにと文書による見解が示され
までもその低侵襲性を生かした手術法を追求して内
た。ラップディスクの利点とともに問題点も指摘し、
視鏡外科手術の利点を患者さまに享受していただく
外科医がそれらを把握しておくことは、今後の内視
ための打開策を打ち立てることも、外科医にとって
鏡外科手術の発展を左右する重要なカギを握る手段
大きな課題として浮かび上がりました。そして生ま
であると位置づけている。なお、下の文書中にある
れたのが Hand-port の開発です。従って、この手技
Hand-port(ハンドポート)は、ハンドアシスト用
の出現は、当然の成り行きであったと考えられます。
当時、最初は、米国で Hand-port が開発されまし
の器具を指す。
たが、日本で開発され、市販されたのが、下村考案
の LapDisc です。この利点は、安価であることと手
Hand-port の開発は、内視鏡下外科手術の導入段
指を挿入しない時には、その挿入孔を閉めることに
階で、内視鏡外科手術の問題点、偶発症や合併症を
より、ガスもれなく鉗子類の使用を可能としたこと
克服するための 1 方法として持ち上がったという原
であります。殊に脾臓、肝臓など実質性臓器の切除
点があります。すなわち内視鏡外科手術法は、開腹
と摘出、その他、胃、大腸手術においては、視野の
術と異なり、2 次元の術野で、触知感覚がなく、ま
展開、臓器損傷の予防その他、切除された大きな臓
ひぞう
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Vol.34
器の体外摘出に用いられ、その有用性が当時の学会
想像以上に制限されます。また手関節まで挿入でき
で報告されました。
るとはいっても、腹腔内に手関節まで挿入すると、
内視鏡外科手術は、開腹術と同様、助手に臓器を
腹腔鏡下では場合によるとそれが視野の妨げになる
あっぱい
圧排させて、得られる視野の中で、術者は、右手に
こともあり、一長一短、問題も多いことも判明しま
手術機器をもち、左手を補佐に使用して、両手の協
した。さらに、最近は、外科医の技術並びに機器の
調作業で、手術を進めていきますが、問題点は、術
進歩に伴い、視野の展開法にも工夫がもたらされ、
者ならびに助手が使用する鉗止類は、長くて細く、
初期にみた問題点も克服され、最近の外科医の視点
触知感覚に乏しく、また操作性に問題があると同時
は、創の縮小化、美容効果に視点が向いてきたので、
に、腹腔鏡の可視範囲には限界がありますので、初
Hand-port は使用される機会は少なくなっています。
期には、鉗子の視野外での操作による臓器損傷、こ
しかしながら Handport を利用することによって可
とに助手の鉗子による予期せぬ腸管損傷などの報告
能となった Hand-assisted EndoscopicSurgery(編
がなされました。また現在のように強力な凝固切開
集部注・ハンドアシスト法による内視鏡手術)手技
装置などもなかったので、出血などで開腹術にコン
の存在と、その利点と問題点を把握しておくことは、
バートしなければならないようなこともしばしばで
究極の段階で開腹術への移行率を減少させうる可能
した。従ってこのような状況を克服するための方策
性を秘めています。開腹術に移行しなければならな
が、当時、大きな問題となり、Hand-port が考案さ
い事態が発生した段階で、この方法を応用すること
れたことは当然の成り行きであったと考えられます。
により大切開を回避できる可能性を秘めており、外
しかしながら狭い体表面でありますから、手指挿
科医が、その利点と、問題点を把握しておくことは、
入に必要な腹壁切開を行う部位が規定されますし、
今後の内視鏡外科手術の発展を左右する重要なカギ
挿入部位によってはまったく手指を腹腔内に挿入し
を握る課題であるということは言を待ちません。知
た効力が得られません。さらに挿入できるのは左腕
っておかなければならない方法であるといえましょ
の手関節まででありますので、機能的にも限界があ
う。
きず
(次号に続く)
り、また腹腔内に挿入された片手手指の可動範囲は
日本で最初に腹腔鏡を用いて胆嚢摘出を行った山川達郎医師(帝京大学名誉教授、向かって右)と
ラップディスクの考案者の下村一之医師(帝京大学准教授、向かって左)。
○京浜総合病院にて。撮影 根岸聰一郎
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[出典紹介]
MDD (Medical Device Daily)
医療・検査器材を中心に、海外医療の最新情報や将来動向をたんねんに収録したデイリーニュース。
医療制度、市場動向、保険者や病院団体の動向、学会、新技術、FDA、新製品、VIP インタビュー等。
HRM (Healthcare Risk Management)
医療訴訟や医療機関におけるリスクマネジメントの最新情報。
CMA (Case Management Advisor)
入院から退院、在宅医療までのケース・マネジメントにまつわるさまざまな問題やその解決方法を収録。
HCM (Hospital Case Management)
病院が抱える多くの問題を病院間で共有・解決するためのアドバイスやテクニック、成功/失敗事例の紹介。
SDS (Same-Day Surgery)
感染症コントロールから償還、コスト削減策まで、日帰り手術の効果と安全性を高める情報を幅広く収録。
TR (Trauma Reports)
外傷患者の救急医療についての精査された情報を提供。
知遊 (CHIYU)
特定非営利活動法人(NPO 法人)・日医文化総研が、年 2 回刊行する文化情報誌。今日の医療を取り巻く
文化状況を、芸術文化・歴史・経済など幅広い視点から取り上げている。(http://www.chiyuu.com/)
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Jul. 2013 Vol. 34
[発行人]―――高井
平
[編集人]―――前島達也
[発行所]―――㈱カワニシホールディングス
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