3.3. 非心 χ 分布 (Non-central Chi-Square Distribution) 3.1 節で, Z1

3.3. 非心 χ2 分布 (Non-central Chi-Square Distribution)
n
2
j=1 Zj
3.1 節で, Z1 , . . . , Zn ∼ i.i.id. N(0, 1) のとき, Y =
n
j=1
i.i.d. N(μ, 1) のとき, Y =
なる分布である.
∼ χ2n であることを示した. では, Z1 , . . . , Zn ∼
Xj2 の分布はどうなるだろうか? 非心 χ2 分布は, その問に対する回答と
定義 1
Y ∼ χ2n (δ) であるとは, Y が従う分布の確率密度関数が,
⎧
∞
δ
⎪
⎨ 1 e−(y+δ)/2
n/2
4
2
f(y; n, δ) =
j=0
⎪
⎩
0
j
yn/2+j−1
j!Γ(n/2 + j)
(y > 0)
,
(3.14)
(y ≤ 0)
であるときのことをいう. このとき, n は自由度, δ は非心パラメータ (Non-central Parameter) と呼ばれ,
n > 0, δ ≥ 0 である.
非心パラメータが δ = 0 のとき, 00 = 1 であることに注意すれば,
f(y; n, 0) =
1
2
e−(y+0)/2
n/2
∞
j=0
0
4
j
yn/2+j−1
1
e−y/2 yn/2−1 ,
= n/2
j!Γ(n/2 + j)
2 Γ(n/2)
となり, (3.1) 式から, 自由度 n の χ2 分布の確率密度関数に一致していることがわかる. そのことから, 非
心 χ2 分布は特別な場合 (δ = 0) として χ2 分布を含む, χ2 分布よりも広いクラスの分布であることがわ
かる.
定義 2
Z1 , . . . , Zn は互いに独立に, Zj ∼ N(μj , 1) (j = 1, . . . , n) に従うとする. このとき, Y =
n
分布が χ2n (δ) である. ただし, δ = j=1 μ2j である.
n
2
j=1 Zj
が従う
特性
1. 自由度 n, 非心パラメータ δ を持つ非心 χ2 分布は右に歪んだ分布であり, n と δ はともに位置とばら
つきを表す母数である. また n または δ が大きくなれば正規分布に近づく.
2
2
0.1
0.05
0.05
5
10
15
2
χ3(3)
χ3(5)
0.15
0.1
0
0
2
χ3(1)
0.2
Probability
0.15
χ3(0)
0.25
2
χ3(3)
2
χ5(3)
2
χ10(3)
0.2
Probability
2
χ1(3)
0.25
0
0
20
x
5
10
15
20
x
Figure 3.2. 非心 χ2 分布の形
2. Y ∼ χ2n (δ) のとき, Y の特性関数は
C(t) = (1 − 2it)−n/2 exp
となる.
21
itδ
1 − 2it
, (t ∈ R),
(3.15)
(Proof) Z1 , . . . , Zn を独立な確率変数として, Zj ∼ i.i.d. N(μj , 1) (j = 1, . . . , n) とすると, 定義 2 か
ら Y = Z12 + · · · + Zn2 と置くことができる. よって
CY (t) = E[exp(itY )] = E[exp{it(Z12 + · · · + Zn2 )}] =
n
E[exp(itZj2 )],
(3.16)
j=1
となる. 今 Z ∼ N(μ, 1) とすると,
E[exp(itZ 2 )] =
=
∞
−∞
∞
−∞
∞
=
−∞
2
1
e−(z−μ) /2 dz
1/2
(2π)
1
1
1
exp − (1 − 2it)z 2 + μz − μ2 dz
1/2
(2π)
2
2
eitz
2
1
1
μ
exp − (1 − 2it) z −
1/2
(2π)
2
1 − 2it
= (1 − 2it)−1/2 exp
×
∞
−∞
2
exp
itμ2
1 − 2it
dz
itμ2
1 − 2it
2
1
1
μ
exp − (1 − 2it) z −
{2π/(1 − 2it)}1/2
2
1 − 2it
dz,
となる. ここで積分の中身は N(μ/(1 − 2it), 1/(1 − 2it)) の密度関数であるので, その全区間での積分
値は 1 となる. よって E[exp(itZ 2 )] = (1 − 2it)−1/2 exp(μ2 it/(1 − 2it)). これを (3.16) 式に代入し,
δ = μ21 + · · · + μ2n であることに注意すれば,
n
CY (t) =
(1 − 2it)−1/2 exp
j=1
μ2j it
1 − 2it
= (1 − 2it)−n/2 exp
δit
1 − 2it
,
となり, (3.15) 式を導くことができる.
✷
3. Y ∼ χ2n (δ) のとき, E[Y ] = n + δ, Var[Y ] = 2(n + 2δ) が成り立つ.
(Proof) Y の特性関数の t に関する 1, 2 回微分にそれぞれに t = 0 を代入して, i と i2 で割れば E[Y ]
と E[Y 2 ] を得ることができる. 分散に関しては, これらを用いて, E[Y 2 ] − (E[Y ])2 を計算すればよい.
✷
4. 再生性 (独立に非心 χ2 分布に従う確率変数の和も非心 χ2 分布で自由度と非心度はその和となる): 互
いに独立な確率変数 Y1 , Y2 が, Y1 ∼ χ2n1 (δ1 ), Y2 ∼ χ2n2 (δ2 ) のとき, Y1 + Y2 ∼ χ2n1 +n2 (δ1 + δ2 ) となる.
(Proof) W = Y1 + Y2 とし, Y1 と Y2 の特性関数をそれぞれ CY1 (t), CY2 (t) とおくと, W の特性関数
CW (t) は,
CW (t) = E[exp(itW )] = E[exp{it(Y1 + Y2 )}] = CY1 (t)CY2 (t),
となる. ここで, (3.15) より, CYj (t) = (1 − 2it)−nj /2 exp{itδj /(1 − 2it)} (j = 1, 2) であるので, これ
を代入すると,
itδ1
1 − 2it
it(δ1 + δ2 )
,
1 − 2it
CW (t) = (1 − 2it)−n1/2 (1 − 2it)−n2/2 exp
= (1 − 2it)−(n1+n2 )/2 exp
exp
itδ2
1 − 2it
となる. これは自由度 n1 + n2 , 非心度 δ1 + δ2 の非心 χ2 分布の特性関数であり, 特性関数の一意性に
より W ∼ χ2n1 +n2 (δ1 + δ2 ) であることがわかる.
22
✷
3.4. ウィッシャート分布 (Wishart Distribution)
2.1 節では 1 次元正規分布を多次元に拡張した多次元正規分布を紹介した. では, χ2 分布を多次元に拡張す
ることができないのであろうか? ウィッシャート分布は, その問に対する回答となる分布である.
定義 1
S を対称で正則な p × p 確率変数行列とする. S ∼ Wp (n, Σ) であるとは, S が従う分布の確率密度関数が,
f(S; n, Σ) =
|S|(n−p−1)/2 exp{−tr(SΣ−1 )/2}
,
p
j=1 Γ((n − i + 1)/2)
2pn/2 π p(p−1)/4 |Σ|n/2
(3.17)
であるときのことをいう. このとき, n は自由度, Σ は平均パラメータと呼ばれ, n > 0, Σ > 0 である.
p = 1 のとき, |S| = s, S −1 = 1/s であることに注意すれば,
s(n−2)/2 exp{−s/(2σ)}
1
= n/2
e−(s/σ)/2 (s/σ)n/2−1 ,
2n/2 σ n/2 Γ(n/2)
2 σΓ(n/2)
となり, (3.1) 式から, σ = 1 のとき, 自由度 n の χ2 分布に一致することがわかる. そのことから, ウィッ
シャート分布は特別な場合 (Σ が単位行列で p = 1) として χ2 分布を含む, χ2 分布よりも広いクラスの分
布であることがわかる.
定義 2
X1 , . . . , Xn ∼ i.i.d. Np (0, Σ) とし, S =
n
j=1
Xj Xj とおく. このとき, S が従う分布が Wp (n, Σ) である.
特性
1. S ∼ Wp (n, Σ) のとき, S の特性関数は
C(T ) = |Ip − 2iΣT |−n/2 , (T は p × p の対称行列でそれぞれの成分は実数).
2. S ∼ Wp (n, Σ) のとき, E[S] = nΣ.
3. X1 , . . . , Xn ∼ i.i.d. Np (μ, Σ) とし, S =
である. このとき, S ∼ Wp (n − 1, Σ).
n
¯
¯
j=1 (Xj − X)(Xj − X)
23
¯ = n−1
とおく. ただし X
(3.18)
n
j=1 Xj