CO2排出量計算講座

省エネ法「定期報告書」作成者必修
CO2排出量計算講座
(株)日本スマートエナジー 代表取締役
みすずサステナビリティ認証機構 上席審査員
大串 卓矢
向井 憲一
本連載の第1回では,省エネ法および温対法の特徴を述べ,CO2を算定する必要があること,算定対象温
室効果ガスはCO2の排出量に換算して評価する必要があることを理解していただいた。「CO2排出量の計算
ロジック,原油換算量計算との差異,まちがいやすい点」に関する今回の計算講座を参考にしていただき,
エネルギー起源のCO2排出量の計算の仕方,省エネ法のエネルギー使用量の算定との関連を理解していただ
きたい。
第2回 CO
原油換算計算との
第2回
2排出量の計算ロジック,
差異,まちがいやすい点 1.エネルギー使用量(省エネ法)の計算方法
1)燃料の使用
2)電気の使用
エネルギー使用量
=電気の使用量×一次エネルギー換算値
エネルギー使用量
=燃料の使用量×燃料種別発熱量
電気使用量の単位は,キロワット時(kWh)。一
次エネルギー換算値は,千キロワット時当たりの
燃料使用量の単位は,キロリットル(kl),トン
。燃料種別発熱量(表−
(t),立方メートル(m3)
1別表第1)の単位は,燃料使用量単位当たりのギ
ガジュール(GJ/kl,GJ/t,GJ/m3等)で示される。
ここで,ガス燃料の場合,立方メートル(m3)は
ギガジュール(GJ/千kWh)。ここで,一次エネル
ギー換算値は次の値を使用する。
・一般電気事業者(東京電力,関西電力等の電
力会社)から供給を受けている場合は,
昼間買電(8時から22時まで)
:9.97GJ/千kWh
0℃,1気圧の標準状態のことであることに注意。
夜間買電(22時から翌日8時まで):9.28GJ/
エネルギー使用量の単位は,基本的にはギガジュ
千kWh
ールGJ(109)であるが,使用量の大きさによりテ
,ペタジュールPJ(1015)で
ラジュールTJ(1012)
も報告できる。
・一般電気事業者以外から供給を受けている場
合は,
全日買電:9.76GJ/千kWh
なお,都市ガスを使用する場合は,供給会社に
なお,省エネ法は,多くを輸入に頼っている化
よる発熱量を使用する(定期報告書第1表の欄外
石燃料の消費量を削減し,国民経済の健全な発展
にその値を記入)
。
に寄与することを目的にしているので,非化石燃
料のみで発電された電気(太陽光,風力等によっ
省エネルギー
CO2 排出量計算講座 第2回
表−1 別表第1(第4条関係)
原 油
1キロリットル 38.2ギガジュール
うちコンデンセート
1キロリットル 35.3ギガジュール
揮 発 油
1キロリットル 34.6ギガジュール
ナフサ
1キロリットル 34.1ギガジュール
ジェット燃料油
1キロリットル 36.7ギガジュール
灯 油
1キロリットル 36.7ギガジュール
軽 油
1キロリットル 38.2ギガジュール
重 油
イ A重油
1キロリットル 39.1ギガジュール
ロ B・C重油
1キロリットル 41.7ギガジュール
石油アスファルト
1トン
41.9ギガジュール
石油コークス
1トン
35.6ギガジュール
石油ガス
イ 液化石油ガス
(LPG)1トン
50.2ギガジュール
ロ 石油系炭化水素ガス 1,000立方メートル 44.9ギガジュール
可燃性天然ガス
イ 液化天然ガス
(LNG)1トン
54.5ギガジュール
(窒素,水分その他の不純物を分離して液化したものをいう)
ロ その他可燃性天然ガス 1,000立方メートル 40.9ギガジュール
石 炭
イ 原料炭
ロ 一般炭
ハ 無煙炭
石炭コークス
コールタール
コークス炉ガス
高炉ガス
転炉ガス
て得られた電気)は報告の対象とならない。
3)熱の使用
1トン
28.9ギガジュール
26.6ギガジュール
27.2ギガジュール
1トン
30.1ギガジュール
1トン
37.3ギガジュール
1,000立方メートル 21.1ギガジュール
1,000立方メートル 3.41ギガジュール
1,000立方メートル 8.41ギガジュール
の熱の一次エネルギー換算係数にかえ,根拠が適
切な他の係数も使用できる。なお,電気の使用量
の報告と同様,非化石燃料のみで発生させられた
エネルギー使用量
=熱の使用量×一次エネルギー換算値
熱は報告の対象とならない。
4)エネルギー使用量の合計
エネルギー使用量の合計の報告値は,原油に換
熱の使用量の単位は,ギガジュール(GJ)。一次
算した値を用いる必要があるので次の通りとなる。
エネルギー換算値は,ギガジュール当たりのギガ
ジュール(GJ/GJ)。ここで,一次エネルギー換算
原油換算エネルギー使用量
値は,産業用蒸気では1.02GJ/GJ,産業用蒸気以外
=エネルギー使用量の合計×原油換算係数
の蒸気,温水,冷水では1.36GJ/GJである。これら
表−2 エネルギー起源二酸化炭素
対象となる排出活動
燃料の使用
単位生産量当たりの排出量(排出係数)
区 分
単位
値
算定方法
(燃料種ごとに)燃料使用量×単位使用量当たりの発熱量
×単位発熱量当たりの炭素排出量×44/12
別表1
他人から供給された
電気使用量×単位使用量当たりの排出量
電気の使用
tCO2/kWh 0.000 555
産業用蒸気
他人から供給された (熱の種類ごとに)熱使用量×単位使用量当たりの排出量
蒸気
(産業用のもの
熱の使用
は除く),
温水,
冷水
tCO2/GJ
0.060
tCO2/GJ
0.057
表−3 別表1 燃料の使用に関する排出係数
対象となる排出活動
燃料の使用
区 分
原料炭
一般炭
無煙炭
コークス
石油コークス
コールタール
石油アスファルト
コンデンセート(NGL)
原油(コンデンセート(NGL)を除く)
ガソリン
ナフサ
ジェット燃料油
灯油
軽油
A油
B・C油
液化石油ガス(LPG)
石油系炭化水素ガス
液化天然ガス(LNG)
天然ガス(液化天然ガス(LNG)を除く)
コークス炉ガス
高炉ガス
転炉ガス
都市ガス
単位
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
tC/GJ
値
0.0245
0.0247
0.0255
0.0294
0.0254
0.0209
0.0208
0.0184
0.0187
0.0183
0.0182
0.0183
0.0185
0.0187
0.0189
0.0195
0.0163
0.0142
0.0135
0.0139
0.0110
0.0266
0.0384
0.0138
エネルギー使用量の合計の単位は,GJ(又は,
ギー”のことであり,化石燃料由来のエネルギー
TJ,PJ)。原油換算係数は,1GJあたり0.0258klを
であることに注意を要する。つまり,次に示す
用いる。
「燃料」
,
「電気」
,「熱」は化石燃料由来のエネル
5)計算結果の表示
ギーのことである。また,CO2計算に使用する単
エネルギー種別のエネルギー使用量,原油換算
位発熱量,排出係数は省令によりデフォルト値
エネルギー使用量の報告値は,すべて小数点以下
(表−2,表−3別表1)が示されているが,これら
を四捨五入した整数値での報告となる。
に替え根拠が適切な数値を用いて定期報告書での
2.エネルギー起源のCO2排出量(温対法)の計
算方法
省エネ法の第一種及び第二種特定事業者(年度
報告値を算定できる。
1)燃料の使用
燃料の使用による二酸化炭素排出量
間のエネルギー使用量が原油換算で1,500kl以上
=
(燃料の種類ごとに)
燃料の使用量×単位
の工場,事業場を設置している者)は,温対法の
発熱量×排出係数×44/12
エネルギー起源CO2排出量の報告義務を課せられ
た「特定排出者」となる。ここで,エネルギー起
燃料使用量の単位は,キロリットル(kl),トン
源CO2の“エネルギー”は,省エネ法の“エネル
。都市ガスを除き省エネ
(t),立方メートル(m3)
省エネルギー
CO2 排出量計算講座 第2回
法の別表1で示す燃料種別発熱量は温対法に示す
は異なり,省令値(デフォルト)では,昼間,夜
発熱量と同じである。都市ガスの発熱量は,温対
間の区別,供給事業者による区別は共に無い注2)。
法では,41.1GJ/千Nm3 注1)がデフォルトして示さ
3)熱の使用
れているが,省エネ法で使用した発熱量も使用で
きる。排出係数の単位は,燃料の使用量ギガジュ
他人から供給された熱の使用による二酸化炭
ール当たりの排出炭素量で示され,tC/GJである。
素排出量
CO2排出量を求めるのが計算の目的であるので,
=
(熱の種類ごとに)
熱の使用量×排出係数
炭素を二酸化炭素に換算する必要があり,換算係
数(44/12)を用いてCO2排出量(tCO2)を算出す
る。
熱の使用量の単位は,ギガジュール(GJ)。排出
係数の単位は,熱の使用量当たりの二酸化炭素排
出量で,tCO2/GJで示される。省エネ法では,使
炭素(C)と酸素(O2)が化学反応(酸化反
用した熱のエネルギーを一次エネルギーに換算す
応)を起こして二酸化炭素ガス(CO2)を発
ることになっているが,ここでの熱の使用量は,
生し,C+O2=CO2で示される。炭素の原子
供給されたエネルギー量そのもの,即ち,一次エ
量は12,酸素の分子量は32であるので,CO2
ネルギーに換算する前の値を使用することに注意。
は,12+32=44となる。
4)二酸化炭素排出量の合計
したがって,Cの単位重量当たり発生する
各エネルギー起源のCO2排出量を合計した値が,
CO2量は,44÷12(=3.67)となる。
省エネ法の定期報告書での報告値となる。エネル
ギー起源のCO2,即ち,排出しているCO2そのもの
2)電気の使用
を計算しているので,他の温室効果ガスに求めら
れるCO2への換算は不要である。
他人から供給された電気の使用による二酸化
炭素排出量
=電気の使用量×排出係数
5)計算結果の表示
省エネ法とは異なり,有効桁数の考え方を取り
入れている。有効桁数を決めるにあたり排出係数
の有効桁数を知る必要がある。我が国の温室効果
電気の使用量の単位は,キロワット時(kWh)。
ガスの排出量を算定する場合の排出係数の有効桁
排出係数の単位は,電気の使用量当たりのCO2排
数は,寄与度が1%以上ものは3桁,それ以外は
出量で,tCO2/kWhで示される。省エネ法のエネ
2桁とすることが原則となっている。エネルギー
ルギー使用量の一次エネルギーへの換算の計算と
起源のCO2についての排出係数の有効桁数は,燃
注1)標準状態における体積の単位(立方メートル)
。環境庁ガイドラインではNm3と表記しているが,JISではm3Nと表記
している。
注2)「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度について」(環境省,経済産業省)ホームページQ&Aより
(http://www.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/)
実際の排出係数がわからない場合などに一般的に使用できる排出係数としては,電気を供給する者の区別による
ことなく一律の値として省令で0.000 555 tCO2/kWhが定められており,このような場合にはこの値を用いて算定し
てください。
なお,一般電気事業者と特定規模電気事業者(PPS)の排出係数については,環境大臣及び経済産業大臣において,
個別事業者別の係数の情報等を収集し,その内容を確認し,0.000 555 tCO2/kWhを下回る係数については公表する
こととしています。公表する係数については,現在準備中ですが,供給を受けている事業者の係数が公表された場
合には,この数値を用いて報告していただくことができます。
料の使用及び他人から供給された電気の使用では
なお,供給を受けたエネルギーはすべてビル
3桁,他人から供給された熱の使用では2桁であ
内で消費され,省エネ法の「販売副生エネル
る。したがって,報告値の有効桁数は,
2桁ないし
ギー等の量」に該当するエネルギーは無い。
は3桁となる。
また,ガス供給会社より,都市ガスの発熱
ただし,報告する主体が主に公的主体と考えら
量として46.1GJ/千Nm3の報告を得ている。
れる場合は,国又は地方公共団体の実行計画の制
度と合わせて,排出係数は3桁とする。
3.省エネ法の原単位の計算に使用するエネル
ギー量
省エネ法では原単位(単位生産量等当たりの原
【解答】
省エネ法エネルギー使用量
(定期報
告書 第1表での報告)
・都市ガス(報告値)
:712×46.1=32,823GJ
・電気(報告値)
:3,782×9.97=37,707GJ
油換算エネルギー消費量)を求め,
5年度間平均で
・熱(報告値)
:10,628×1.36=14,454GJ
1%の省エネを目標とすることになっている。
エネルギー使用量(報告値)
=32,823+37,707+14,454=84,984GJ
原単位計算のためのエネルギー消費量(原油
原油換算エネルギー使用量(報告値)
換算,kl)
=84,984×0.0258=2,193kl
=エネルギー使用量
(原油換算総量)
−販売
(報告値は,小数点以下を四捨五入した整数
副生エネルギー等の量
値)
ここで,販売副生エネルギー等の量=販売
された量+自らの生産に寄与しない量
【解答】
省エネ法CO2排出量(定期報告書 一方,温対法でのCO2排出量の報告値は次の通
り,
「販売された量」に相当するエネルギーのCO2
排出量を排出量の合計から控除できる。即ち,
第9表での報告)
・都 市 ガ ス:712×46.1×0.0138×
(44/12)
=
1,660.85392
「自らの生産に寄与しない量」に相当するCO2排
・電気:3,782,000×0.000555 注3)=2,099.01
出量は控除できない。
・熱:10,628×0.057=605.796
CO2排出量
エネルギー起源のCO2排出量(報告値)
=1,660.85392+2,099.01+605.796=4,365.65992
=エネルギーの使用に基づくCO2排出量の
都市ガス及び電気の使用に伴う排出量の有
合計−販売された量に相当するCO2排出量
効数字は3桁,熱の使用に伴う排出量の有効
桁数は2桁であるため,ともに10の位まで有
効となる。
練習問題
したがって,エネルギー起源のCO2排出量
の報告値は,4,370tCO2となる。
【問】 都市ガスを712千Nm3を消費し,温水
10,628GJ及び,電気3,782千kWh(一般電気事
今回の練習問題はCO2排出量の求め方は,CO2
業者から昼間のみ)の供給を受けている事務
排出を実測するのではなく,省エネ法で求めるエ
所ビルの省エネ法のエネルギー使用量と温対
ネルギー使用量をもとに排出係数を掛けることで
法でのエネルギー起源のCO2排出量を求めよ。
計算することを理解する趣旨で作成している。次
省エネルギー
CO2 排出量計算講座 第2回
回は,ボイラ等のエネルギー設備を例に,省エネ
らの設備から発生するエネルギー起源以外の温室
法定期報告書の第1表,第4表,第9表で報告す
効果ガスの計算例も示す。
る数値を導き具体的な記入例を示すと共に,それ
第2回講座のまとめ
エネルギー使用量(省エネ法)の計算
エネルギー起源のCO2排出量(温対法 )の計算
1)燃料の使用
エネルギー使用量
=燃料の使用量×燃料種別発熱量
燃料使用量の単位は,ギガジュール(GJ/kl,
GJ/t,GJ/m3等)で示される。
燃料の使用による二酸化炭素排出量
=(燃料の種類ごとに)燃料の使用量×単位発熱量
×排出係数×44/12
燃料の発熱量は,都市ガスを除き省エネ法と同じ。
排出係数の単位は,燃 料の使用量ギガジュール当
たりの排出炭素量で示され,tC/GJである。
2)電気の使用
エネルギー使用量
=電気の使用量×一次エネルギー換算値
一次エネルギー換算値は,GJ/千kWh。一般電
気事業者か否か,昼間買電,夜間買電かで換算
値が異なる。
他人から供給された電気の使用による二酸化炭素
排出量
=電気の使用量×排出係数
排出係数の単位は,tCO2/kWhで,省エネ法のエネ
ルギー使用量の一次エネルギーへの換算の計算と
は異なり,省令値(デフォルト)では,昼間,夜間
の区別,供給事業者による区別は共に無い。
3)熱の使用
エネルギー使用量
=熱の使用量×一次エネルギー換算値
一次エネルギー換算値は,ギガジュール当たり
のギガジュール(GJ/GJ)。
他人から供給された熱の使用による二酸化炭素排
出量
=(熱の種類ごとに)熱の使用量×排出係数
排出係数の単位は,熱の使用量当たりのCO2排出量
で,tCO2/GJ。省エネ法では,使用した熱のエネル
ギーを一 次エネルギーに換算することになってい
るが,ここでの熱の使用量は,供給されたエネルギ
ー量そのもの,即ち,一次エネルギーに換算する前
の値を使用することに注意。
4)合計の計算
エネルギー使用量の合計の報告値は,原油に換 各エネルギー起源のCO2排出量を合計した値が報
算した値を用いる。
告値となる(排出しているCO2そのものを計算して
いるので,他の温室効果ガスに求められるCO2への
換算は不要)。
注3)「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル」第Ⅱ編より引用
排出係数
排出係数は,実際の算定に当たり,
①下表の値を下回る排出係数として個別事業者ごとに公表されるものについては,当該排出係数を用いて算定を
行い,
②①により排出係数が公表される電気事業者以外の者から供給される電気については下表の値又は電気使用者に
おいて把握できる係数として適切と認められるものを用いて算定を行う,
ことができます。各社別の排出係数の公表については,算定・報告・公表制度ホームページ
(http://www.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/)でご確認ください。
No
1
排出活動
他人から供給された電気の使用
排出係数
0.000 555 tCO2/kWh
(参考)
・上表の排出係数は総合エネルギー統計から算出した外部用発電及び自家用発電の原単位(1999∼2003の平均値)
であり,算定に用いた発電電力量には,送電ロス分なども含まれます。
・また,これらの係数は,特定排出者が電気の使用に伴う二酸化炭素の排出量を算定するに当たり用いることがで
きるものですので,電気の使用量の減少による温室効果ガスの排出量の削減効果の評価の考え方については,第
Ⅲ編をご参照ください。