119 虫刺 に よ る蜂 窩織 炎 か ら重 篤 な無 顆粒 球 症 及 び 黄 疸 を きた した1症 例 小野市民病 院内科 吉原 良祐 八幡 知之 栗林 繁樹 花川 公麿 大西 正孝 大林 良和 清水 伸一 謝 詔銘 松 田 洋三 (平成2年2月6日 受付) (平成2年7月10日 受理) Key words : insect bite, agranulocytosis, cellulitis, endotoxin は じめ に 虫 刺 症 は 蚊1),イ エ ダ ニ,済 入 院 時 現 症: 癬 虫,シ ラ ミな ど 我 々 に 身 近 な 小 動 物 に よ り引 き起 こ さ れ,そ 状 も 軽 微 な こ と が 多 い が,時 jaundice, に は,ハ の症 チに よるア 分 整.意 Fig. 1 体 温38.2度,血 識 明 瞭.皮 Eschers zygomatic right Lesion ナ フ ィ ラ キ シ ー シ ョ ッ ク2)や ツ ツ ガ ム シ に よ る リ by cellulitis ケ ッ チ ア 症3)∼5),蚊 に よ る 日 本 脳 炎 の 媒 介 の よ う which Staphylococcus aureus に 生 命 に 危 害 を 及 ぼ す こ と も あ る. 今 回 我 々 は,虫 刺 に よ り黄 色 ブ ド ウ 球 菌 及 び ク ロ ス ト リ ジ ウ ム に よ る 重 篤 な 蜂 窩 織 炎 を 起 こ し, そ れ に 起 因 す る と思 わ れ た 無 頼 粒 球 症 及 び 黄 疸 を 伴 った 一 症例 を 経 験 した の で 若 干 の 考 察 を 含 め 報 告 す る. 症 例 患 者: 58歳,女 性(兵 主 訴: 発 熱,皮 膚 腫 脹,白 家 族 歴,既 現 病 歴: 往 歴: 庫 県 小 野 市 在 住) 血 球 減 少. 特 記 す べ き事 な し. 昭 和63年4月10日 た.4月16日 よ り,38度 に近 くの 山 へ 入 っ の 発 熱,関 節 痛 が 出 現, さ ら に は 右 大 腿 部 及 び 左 頬 部 に 発 赤,腫 し た た め,4月20日 脹 が出現 に 皮 膚 科 を 受 診 し,そ の皮疹 よ り ツ ツ ガ ム シ病 を疑 わ れ て ミノサ イ ク リンの 投 与 を う け た が,そ の 際 の 血 液 検 査 に て 著 明 な 白血 球 減 少 が 判 明 し た た め,4月22日 小野市民病 院内 科 へ 紹 介 入 院 と な っ た. 別 刷 請 求先: (〒650)神 戸市 中 央 区楠 町7-5-1 神 戸大 学 医学 部 第3内 科 平 成3年1月20日 and formed were detected. 吉原 良祐 拍120/ 膚 及 び 眼 球 結 膜 の 黄 染 あ り. of (A) region. 圧110/78,脈 thigh (A) a large ; and (B) left was accompanied amount of pus in and Clostridium spp. 吉原 120 Table 1 Laboratory 良祐 他 data on admission Fig. 2 Clinical course of agranulocytosis and jaundice due to insect bite. Her general condition and laboratory data became better in a few days by some medications. 感 染 症 学雑 誌 第65巻 第1号 121 虫 刺 に よる無 顆粒 球 症,黄 疸 の1症 例 右 大 腿 内側 部 に刺 し 口 と思 わ れ る黒 色 痂 皮 を 伴 う ツ ツ ガ ムシ病 が 最 も疑 わ れ た が,3回 び ま ん 性 の 発 赤 腫 脹 を 認 め た(Fig.1A).同 疫 血 清学 的検 査 に てす べ て陰 性 の結 果 が で てお 病 変 を左 頬 部 に も認 め た(Fig.1B).表 節 腫 脹 は右 鼡 径 部 に 認 め た が,そ 認 め られ な か った.口 様の 在 リンパ の 他 の部 位 に は 腔 内 に真 菌 症 を 疑 わ せ る 白 り,ま た 退 院 後 の検 査 で は あ る が,紅 斑 熱 群,発 疹 熱 群,野 兎 病 群 も陰 性 で あ った.さ れ るが,そ に触 知 した.神 経 学 的 に 異 常 所 見 は な か った. た 減 少 の 主 体 は,リ め た.生 CRP 32.2mg/dlと 化 学 で はD-Bil優 れ た 他ALP, γ-GTP等 た血沈 染 症3)∼6)は 否 定 的 で あ っ た.従 って,刺 虫 を 特 定 す 強い炎症所 見を認 る に は至 ら なか っ た が,未 知 の刺 虫 に よ る虫 刺 症 症,軽 昇が認 め ら の胆道系酵 素の上昇 を認 GPT等 概 ね正 常 範 囲 に 入 って いた.ま た,低 の 肝 機 能 は, カ リウ ム血 度 の 血 糖 値 上 昇 を 認 め た.尿 で は タ ンパ ク (十),糖(3十)の 他,ウ ロ ビ リノ ゲ ン,ビ リル ビ ンが 高 値 で あ った.血 尿 は 認 め な か った.ツ ガ ム シ病 が 疑 わ れ た の でWeil ン パ球 で あ る と され て い る7)8).以上 よ り,こ れ ら既 知 の リケ ッチ ア群 の感 位 のBil上 め た が,そ れ に比 し,GOT, の 場 合 で も無 顆 粒 球 症 に は至 らず,ま 中球 液 学 上,好 減 少 優 位 の 著 明 な 白 血 球 減 少 を 認 め た.ま 141mm/h, らに ツ ツ ガ ム シ病 に お い て は 白血 球 数 は減 少 傾 向 を示 す とさ 苔 を多 数 認 め た.心 肺 に 異 常 な し.肝 を右 季 肋 下 入 院 時 検 査 成 績(Table1):血 にわ た る免 ツ は 否 定 し得 な い と思 わ れ た. 次 い で 無 顆 粒 球 症 に 陥 った 機 序 で あ るが,刺 し 口周 囲 の化 膿 巣 の 治 癒 に伴 って 白血 球 数 が 回 復 し て い る こ とか ら,刺 し 口 に お け る黄 色 ブ ドウ球 菌 とク ロス トリジ ウ ム属 の 重 篤 な 二 次 感 染 の 結 果 で あ る可 能 性 が 強 い.本 例 で は軽 い 耐 糖 能 低 下(糖 負 荷 境 界 型)が あ った 他 は,特 に免 疫 能 低 下 を示 -Felix反 応,蛍 光 抗 唆 す る所 見 も な く,感 染 が重 症 化 した原 因 は不 明 体 間接 法 を 行 った が,い ず れ も有 為 な上 昇 を 認 め で あ る が,刺 毒 の 関 与 も否 定 で き な い.ま た リン な か った(後 日2回 再 検 した が,同 様 の結 果 で あ っ パ 球 も減 少 し て い る点 か ら骨 髄 抑 制 も考 え られ る た). が,多 量 の 膿 を 生 成 した 事 か ら は,む 臨 床 経 過(Fig.2):入 院 時,山 へ 入 った と い う し ろ感 染 局 所 へ の顆 粒 球 の集 合 が 主 因 と思 わ れ る.グ ラ ム 陰 病 歴 や,そ の刺 し 口の 状 態 か ら ツ ツガ ム シ病 を強 性 菌 感 染 に お い て は,エ く疑 い,そ の第 一 選 択 薬 で あ る テ トラサ イ ク リン 積 作 用 に よ り顆 粒 球 減 少 症 が 起 こ る事 が 報 告 され 系 抗 生 物 質 を投 与 した.ま た 著 明 な 白血 球 減 少 が ン ド トキ シ ソの 顆 粒 球 集 て い る9)10).また グ ラ ム陽 性 菌 に お い て も,例 え ば あ るた め 二 次 感 染 に対 して は ピペ ラシ リン,γ-グ B群 溶 連 菌 に は 「エ ン ド トキ シ ン様 作 用 」 が存 在 ロ ブ リン製 剤 を 併 用 し,全 身 状 態 の 改善 の た め 中 す る とい う報 告11)もあ り,グ ラ ム陰 性 菌 感 染 症 で 心 静脈 栄 養 に て 管 理 した.白 血 球 数 は 入 院 後4日 は な い 本 症 例 に お い て も,類 似 の毒 素 作 用 が働 い 目 よ り上 昇 し始 め,9日 て無 顆 粒 球 症 に な った 可 能 性 が あ る.尚,本 に 至 った.そ 目に は平 熱 とな った.右 は,10日 目に は正 常 範 囲 に は い る の 動 き と平 行 して 解 熱 し始 め,13日 大 腿 内 側 部 皮 膚 の刺 し 口 目 ご ろ よ り 自潰 ・排 膿 し始 め た た め,切 開 排 膿 な どの 処 置 を行 った(後 日膿 か ら は黄 色 ブ ドウ球 菌 及 び ク ロス ト リジ ウ ム属 が 培 養 同定 され 症例 は好 気 性 菌 と嫌 気 性 菌 の混 合 感 染 で あ るが,「ガ ス 壊 疽 」の所 見 は な く,い わ ゆ るsynergistic necrotizing cellulitis12)にま で は 至 っ て い な か った. つ い で 本 症 例 の 黄 疸 の 成 因 で あ るが,全 身感 染 症 に お い て は 時 に 肝 機 能 障 害 を伴 うこ とが あ る と た).ま た,入 院 時 認 め られ た 高 ビ リル ビン血 症 も され る5)13).本例 は胆 汁 の 欝 滞 が 中 心 と思 わ れ,こ Fig.2に の よ うな病 態 を 示 す 既 知 の 感 染 症 に は レプ トス ピ 示 す ご と く,臨 床 症 状 ・白血 球 上 昇 と平 行 し て正 常 化 す る に至 った.以 上 の よ うな経 過 で ラ病13)があ るが,他 5月20日 に 軽 快 退 院 とな った. くい.一 方 肝 外 グ ラ ム陰 性 菌 感 染 症 に よ って 幼 児 症 例 は,山 へ 入 っ た 日 よ り1週 間 後 に に 黄 疸 の発 症 を 見 る こ とが あ り,そ の機 序 と して 窩 織 炎 で 発 症 し,同 時 に 重 篤 な無 顆 粒 球 エ ン ド トキ シ ン の胆 汁 鬱滞 作 用 が 考 え られ て い る 考 案:本 発 熱,蜂 の 臨 床 所 見 か ら はや や 考 え に 症,黄 疸 を 伴 っ た もの で あ る.そ の 刺 し 口か ら, 平 成3年1月20日 事14)や感 染 病 巣 及 び顆 粒 球 数 の 改 善 と平 行 し黄 疸 吉原 122 良祐 他 も軽 快 した 事 か ら,や は り黄 色 ブ ドウ球 菌 お よ び ク ロス ト リジ ウ ム重 症 感 染 症 に 起 因 す る エ ン ド ト キ シ ンに 似 た 何 等 か の 毒 素 作 用 が 関 与 した 可 能 性 誌, 6) 110-113, 1987. 荒 瀬 誠 治, 7) 斉 藤 秀 晃: 8) に経 口 抗 生 物 質 を投 与 し て様 子 を 見 て い る と,重 篤 な結 果 を 招 く恐 れ が あ る.従 って,虫 刺 症 を み た 場 合, この よ うな 経 過 をた ど る可 能 性 も念 頭 に お い て 治 療 に 当 た る必 要 が あ る と思 わ れ た.ま た グ ラ ム陽 性 菌 感 染 症 に お け る顆 粒 球 減 少 や 黄 疸 の発 生機 序 に つ い て は,「 エ ン ド トキ シ ソ様 作 用 」の有 無 を 含 め て さ ら に今 後 の報 告 を 待 ち た い. 松 村 武 男, 木 村 英 二: 環 境 管 理 技 術, 露 木 重 明, 岩 嵜 哲 夫, 村国 に つ い て. 皮 膚 臨 床, 26: 5) 酒井 本 田 一 文, 大 和 田 篤 雄, 洋, 穣: -9 11-19, 埼 感 染 症 誌, 次 田 定 幸, 上野 60: 1258-1260, 後 藤 良 治, 川瀬 淳, 松 哲, 矢 崎 渡辺 早期 交 換 輸 血 勇, 戸苅 創, 症 の1例. 小 川 雄 之 亮: 小 児 科 臨 床, onset 信, type)敗 35:160-164, 血 1982. 12) Stone, H.H. & Martin, J.D. : Synergistic necrotizing cellulitis. Ann. Surg., 175 : 702-711, 1972. 13) 加 藤 活 大, 佐野 政 之, 神 崎 正 紀, 障 害. 第2報. 博, 片 田 直 幸, 小 山 泰 生: 山 本 正 之, 青 山 英 久, に よ る 黄 疸. 武市 J.L. : 飯村 譲, 死 亡 例 お よ び 過 去 の 死 亡 例 の 文 献 的 考 察. Med., 104 : 210-211, 菅 原 克 彦: 10:1997-2005, M., Henao, Acute multiple 最 1987. 消 化 器 外 科, G., Arbelaez, & Arango, 西 村 大 作, 全 身 感 染 症 に 伴 う肝 ウ イ ル ス 感 染 症 以 外 の 感 染 症. 42: 1251-1257, 玉 県 下 で み ら れ た つ つ が 虫 病 に よ る と 思 わ れ た1 日内 会 佳 子, 本 延 男, 荻 野 高 敏, 萩 沢 正 博, 杉 山 15) Media, 島 田 長 也: 米 つ つ が む し病 に お け , 1986. 岩 永 と よ 子, 新 医 学, 1984. 小 寺 顕 一, 橋 本 修 治: 術 が 著 効 したGBS1c型(early 6:72 新型 つ つ が 虫病 日 高 和 吉, 花 田 修 一, phonuclear leukocyte margination and sequestration in rabbits lungs and quantitation and kinetics of "Cr-labelled polymorphonuclear leukocytes in E. coli induced lung lesions. Exp. Lung Res., 4 : 47-66, 1982. 10) Cybulsky, M.I., Cybulsky, I.J. & Movat, H.S. : Neutropenic responses to intradermal injections of Escherchia coli. Am. J. Pathol., 124 : 1 14) 4) 1151-1165, 9) Cybulsky, M.I. & Movat, H.S. : Experimental bacterial pneumonia in rabbits : Polymor- つ つ が虫 とつ つが 虫 病一 兵 庫 県 下 の 発 生 例 を 通 し て. -81 , 1988. 11: 1986. 11) 文 献 1) 山本一哉, 福井岩生: 蚊 によるア レルギー. 皮膚 科 の臨床, 11: 465-470, 1969. 2) Schwartz, H.J., Squillace, D.L., Sher, T.H., Teigland, J.D. & Yunginger, J.W. : Studies in stinging insect hypersensitivity : Postmortem demonstration of antivenom IgE antibody in possible sting-related sudden death. Am. J. Clin. Pathol., 85 : 607-610, 1986. 潟 医 会 誌, る リ ン パ 球 数 の 変 動. よ る急 性 腎 不 全15)等で あ ろ うが,本 症 例 の よ うに お こ し うる事 を 念 頭 に お い て お か ね ば,単 宇 都 宮 与, 留 夫, 刺 毒 に よ る ア ナ フ ィ ラ キ シ ー シ ョ ッ ク2),刺 毒 に 特 に 免 疫 不 全 を 認 め な い個 体 に も重 篤 な 感 染 症 を 1988. 1957. 最 後 に,虫 刺 症 に お い て 臨 床 の 場 で 問題 と な る チ等 の 日本 の 紅 斑 熱 リ つ つ が虫 病 群及 び腺 熱 症候 群 に於 け る 血 液 像 に 就 い て.新 の は,刺 虫 に よ る種 々 の病 原 体 の 媒 介,ハ 馬 原 文 彦: ケ ッ チ ア 感 染 症. 皮 膚 病 臨 床, 10: 257-260, が あ る. 3) 76: 重 見 文 雄, renal stings by Africanized 感染 1987. J.E., Sus, A.A. failure due bees. Amm. to Int. 1986. 感 染症 学 雑 誌 第65巻 第1号 虫 刺 に よ る無穎 粒 球 症,黄 疸 の1症 例 A Case of Agranulocytosis 123 and Jaundice due to Cellulitis Caused by Insect Bite Ryosuke YOSHIHARA, Tomoyuki YAHATA, Shigeki KURIBAYASHI, Kimimaro HANAKAWA, Masataka OHNISHI, Yoshikazu OHBAYASHI, Shin-ichi SHIMIZU, Shomei SHA & Yozo MATSUDA The Department of Internal Medicine, Ono Municipal Hospital A 58-year-old female was introduced to our hospital for admission on April 22, 1988, because of high grade fever and agranulocytosis. She had eschers on her left zygomatic region and medial region of the right thigh. The latter lesion was accompanied by cellulitis. Laboratory tests showed her WBC was 600/mm3 and T-Bil was 6.51 mg/dl. By using minocyclin, piperacillin and other drugs, her general condition and laboratory data became better in a few days. Although her skin lesions resembled "Tsutsugamushi disease", serological tests showed no evidence for Rickettia infection. So we could not rule out that another kind of insect bite may also develop such a severe clinical course. Furthermore, Staphylococcus aureus or Clostridium spp., which were detected in her pus, might have the toxic effects of inducing agranulocytosis, which might mainly be the result from the local WBC emigration, and jaundice, just like the effects of the endotoxin of Gram negative bacteria. 平 成3年1月20日
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