- 1 - Key Issues: 水質 貯水池の堆砂 気候区分: 温帯湿潤気候(Cf) 主題

Key Issues:
水質
貯水池 の堆 砂
気候区 分 :
温帯湿 潤気候 (Cf)
主題
: 貯水池 バイパス,出水時の濁水 バイパス
効果
: 濁水 の長期 化防止 ,貯水池 への土砂流入 防止
プロジェクト名
:
国
: 日本 、奈良 県 (アジア) (N 34° 10’
, E 135° 50’
)
旭ダム
プロジェクト実施機 関 : 関西電 力(株)
プロジェクト実施期 間 : 1980(竣工)∼
GP実施機関
: 関西電 力(株)
GP実施期間
: 1998(運用開始)∼
要旨 :
旭 ダムは、長 期間 、濁 水長期化 問題 に苦 しんでいたが、この問題 を解決 するために、貯水 池 の上流端 とダム下
流 とを結 ぶバイパストンネルが建 設 され、この濁 水 問 題 が解 決 しただけでなく、下 流 域 の生 態 環 境 の改 善 にも
つながった。
1. プロジェクトの概要
奥吉野発電所は、最大出力 1,206 MW で、喜撰山発電
所 (最 大 出 力 466 MW)、奥 多 々良 木 発 電 所 (最 大 出 力
1,212 MW)についで、関西電力 で第3番目 の純揚水発電
所 として計画 された。
奥吉野発電所は、増大を続ける電力のピーク供給力と
表 -1
Item
River system
Catchment
area
Asahi River, Shingu River System
39.2 km 2
Power plant
Name
(pure pumped
storage)
Max. out
Max.
discharge
Effective head
Type
Height
Crest length
Volume
Total storage
capacity
Live storage
capacity
利 用水 深
して、火 力 および原 子力 発電 所 と組 合 せ、系 統 の効 率運
用 を図 り、さらに近 畿 南 部 の電 源 を強 化 して、系 統 信 頼
Dam
度の向上 に寄与する重要 な電源拠点である。
発 電 所 の主 な特 徴 として、当 時 日 本 で最 高 クラスの総
落差 530 m と 12 時間発電可能 な池容量を持つことがあ
Reservoir
げられる。さらに、水 車 発 電機 を高 速 大容 量 機 とし、日 本
で初 めてサイリスタ起 動方 式を採 用 するなど、数多 くの革
新技術を導入 した。
奥吉野発電所は、昭和 46 年 より諸調査を開始 し、昭和
奥吉野 発電所主要諸元
Specifications
Okuyoshino Power Plant
奥 吉野 発電所
201 MW/unit
x 6 units
288.0 m 3 /s
505.0 m
Arch
86.1 m
199.41 m
147,300 m 3
15.47x10 6
m3
constructed)
12.63x10 6
m3
constructed)
32 m
Nara Pref.
50 年4月 に本格的 に工事に着手 した。最終的 には昭和 55
年4月 に、全号機 とも運転を開始 した。
主 な仕様を表-1 に、位置図を図-1 示 す。
Oku-yoshino
Power Plant
図-1 奥吉野発電所位置図
- 1 -
(when
(when
2. プロジェクト地域 の特徴
旭 ダムは、日 本 最 多 雨 地 帯 である紀 伊 半 島 南 部 の大 峰 山 系 を源 流 とする新 宮 川 水 系 に位 置 し、年 間 の降
水量は 2,000mm を越える。降水は、6 月の梅雨期から 9 月の台風期 に多く、出水もこの時期 に集中しており、
1990 年 9 月 には既往最大流量 662m 3 /s を記録 した。
流域は標高 1,000∼1,800m の壮年期 の急峻な山岳地形が発達 し、河川は V 字谷を形成 し河川勾配は 1/6
∼1/7 と急 勾 配 である。また、流 域 の急 傾斜 を利 用 して杉 、檜 等 の針葉 樹 が植 林 されており、その他 カシ、アカ
マツ等 の雑木林がみられる。流域は建設以来 、崩壊地が増 えつつあり、1966 年と 1990 年の調査結果 とを比較
すると崩壊面積率は約 12 倍 に増大 していた。
一 方 、崩 壊 発生 の素因 として流 域 内 の伐 採跡 地 (植生 )や地 質 条 件および地 形 などに着 目 すると、崩 壊 面 積
率 の高 い流 域 源 流 部 は、伐 採 跡 地 の分 布 、大 峰 酸 性 岩 類 の分 布 と重 なっており、さらに地 形 的 には急 峻 な斜
面地形であることから、これらが崩壊発生の素因である可能性が高いと考 えられる。
3.主要 な影響
奥吉野発電所の下池 である旭ダム貯水池では、1978 年の完成以来 、選択取水設備の運用 、ダム直下流 へ
の濾 過 堰 の設 置 、調 整 池 周 辺 の地 山 崩 壊 防 護 工 事 により濁 水 問 題 に対 処 してきたが、上 流 域 における伐 採
等の流域 の状況変化、特 に 1989、1990 年の台風 による大規模出水時の山腹崩壊などにより濁水長期化問題
が顕在化 した。加えて当初計画以上の堆砂の進行も懸念 されたため、抜本的 な対策が必要 となった。
濁 水 長 期 化 問 題 の顕 在 化以 降 、ダム上 流 、ダム調 整池 内 、ダム下 流 の濁 度 、水 温 の計 測 を毎 日 実 施 してき
た。また、貯水池内 の水質についても毎月 1 回調査しているが、旭 ダム上流 には民家がなく、人工的 な流入負
荷 がないため、ダム調 整 池内 への濁 水 や土 砂 の流 入 、堆 積 の結 果 生 じる底 泥 からの栄 養 塩 の溶 出 、およびそ
れに伴 う富栄養化の傾向は全くなかった。
図-2 に旭ダム下流の濁水長期化日数および旭ダム上流域の崩壊面積率の推移を示す。この結果 によると、
ダムの運用開始以来、崩壊地が徐 々に増え、1989 年 、1990 年の大規模 な台風が発端 となり、これらの崩壊地
から土 砂 が大 量 に流 れ出 し、ダム調 整 池 内 に流 入 することによって非 常 に長 い期 間 の濁 水 問 題 が発 生 したと
考 えられる。
1 .2
300
250
P r o p o rt i o n o f b a r e l a n d ( % )
0 .8
200
0 .6
150
0 .4
100
0 .2
50
0
1978
1980
1982
1984
1986
Y e ar
1988
1990
1992
0
図-2 旭ダム下流 の濁水長期化日数および上流域 の崩壊地面積率
- 2 -
D ay s o f turb id it y pe rsis te nc e
Proportion of bare land (% )
D a y s o f t u rb i d i t y p e r si st e n c e
1 .0
4. 影響緩和策
表 -2 バイパス排砂設備主要諸元
ダムの運 用 開 始 以 来 、1990 年 に至 るまで上 述 のと
おり種 々の濁 水 長 期 化 対 策 を実 施 してきたが、非 常 に
堤 高 ×堤 頂 長
構造
高 さ×幅
長さ
堰
大 きな出水時 の濁水 長期化問題 に対 しては、はかばか
1991 年 から対策案 の検討を始 め、選 択取水 運用 の改
良 、崩 壊 地 の保 護 、下 流 河川 における礫 間 浄 化 、凝 集
剤 による強 制 沈 殿 、汚 濁 防 止 膜 による濾 過 、バイパス
バイ パス排 砂 設 備
しい効 果 がなかった。地 元 からの強 い改 善 要 望 もあり、
排 砂 など様 々な対 策 を検 討 した が、効 果 、実 現 性 、地
取水口
水路
トンネル
点 特 性 などから判 断 し、堆 砂 問 題 も同 時 に解 決 できる
抜 本的 な対 策 として、日 本 で初 のバイパス排砂設 備 (バ
放水口
構造
ゲート
高 さ×幅
長さ
勾配
最大通水能力
構造
幅 ×長 さ
構造
13.5×45.0 m
鋼製
14 .5×3.8 m
18 .50 m
鉄 筋 コンクリート造 り
鋼 製 ライニング
1門
3.8×3 .8 m (幌 型 )
2,350 m
約 1/35
14 0 m 3 / s
鉄 筋 コンクリート巻 立
8.0∼5 .0×15.0 m
鉄 筋 コンクリート造 り
イパス水路 )の設置を決定 した。これは、旭ダムの運用・
地 点 特 性 、すなわち揚 水 式 で あるた め流 水 の貯 留 が
必 要 なく 、流 域 も比 較 的 小 さい とい う特 性 を最 大 限 活
用 したものであり、バイパス水 路 により濁 水 、掃 流 土 砂
を貯 水 池 に流 入 させることなく下 流 河 川 へ排 出 する計
画 である。
設 備 の計 画 ・設 計 にお い ては 、 まず河 道 形 状 等 の
地 点 特 性 から基 本 レイアウトを決 定 し、濁 水 長 期 化 の
軽 減 、および堆 砂 の軽 減 の観 点 からウォッシュロードだ
けでなく、浮 遊 ・掃 流 砂 も対 象 とした。確 実 な効 果 を生
み出 す為 のトンネル最 適 通 水 量 の決 定 、およびトンネ
ル内 土 砂 閉 塞 の回 避 等 に対 しは、水 理 模 型 実 験 、数
値 シミュレーションを行 って技 術 的 な課 題 に対 応 した。
また、バイパスの上下 流 における河床変動 の予測 や水
理的 な安定性 、更 に摩耗 を初 めとする維持管 理 につい
て種々検討 している。1998 年の運用開始以降 、本バイ
パスは、基 本 的 に出 水 時 のみにトンネル内 に流 入 水 ・
①Tunnel ②Inlet ③Outlet ④Asahi reservoir
⑤Okuyoshino power plant (underground)
⑥Asahi dam ⑦Dam of splitter ⑧Flood
流 入 土 砂 を迂 回 させ、平 常 時 の清 水 はダム湖 へ流 入
図-3 旭ダムバイパス排砂設備 の概要
させている運用を行っている。これは、旭ダムは揚水式発電所の調整池 であるため流水 の貯留の必要はないが、
調整池内の水 の循環を良くし、水質の悪化を防 ぐためである。
表-2 にバイパス排砂設備の諸元 、図-3 にバイパス設備の概要図を示 す(以下 、バイパス排砂設備を「バイパ
ス」と呼ぶ)。
バイパス工事 は 1994 年に着工 し、1998 年 4 月より運用を開始 している。
なお、上 池 は貯 水 容 量 に比 べて流 入 量 が十 分 に小 さいため、旭 ダム貯 水 池 のような濁 水 問 題 は発 生 してい
ない。
5. 影響緩和策の効果
濁 水 長 期 化 軽減 、堆 砂 進 行軽 減 、その他 下 流 河 川環 境への影 響 を調 べるため、バイパス運 用 開 始 後 、その
効果 の確認 のため、表-3 に示 す水質調査 (濁水 長期化、富栄 養化)、調整池内 の堆砂 、河 川の土 砂堆積状況
(河床断面 )、河床粒度、瀬・淵調査 、水生生物調査などを実施 している。
- 3 -
表-3 バイパス運用 に伴う環境影響調査項目
これらの調 査 ・計 測 の結 果 によれば、バイパス排 砂 は、
濁 水 長 期 化 軽 減 、堆 砂 進 行 抑 制 、下 流 河 川 環 境 の復 元
調 査地 点
下流
ダム
河川
調 査項 目
に対 し多大な効果をあげていると考 えられる。
まず、濁 水 長 期 化 問 題 に対 する効 果 の一 例 として、バイ
パス運 用 前 と運 用 後 の出 水 時 のダ ム上 下 流 お よび貯 水
池の濁 り状況を比較した結果を図-4、5、6 に示す。比較に
水質
(濁 水 長期 化 )
水質
(富 栄 養化 )
調 査 内 容
●
●
水 温 、濁度
●
−
水 温 、濁 度 、BOD、COD、
T-N、T-P 等
堆 砂状 況
●
●
横 断測 量
瀬 、淵 状況
−
●
分 布調 査 、横断測 量
水 生生 物
−
●
生 息 環 境 、付 着 藻 類 、底
生 生物 、魚 類調査
用 いた出 水 はほぼ同 規 模 のものであるが、バイパス運 用
前 (図中の BO)には1ヶ月近く濁水長期化が続 いていた規
模の出水時 でも、バイパス運用後(図中 の AO)には出水終
了後 3 日目には上流の濁りと同 じく、平常時の河川状態にまで低減 しており、効果を明確 に確認することができ
た。また、調 整 池 内 の濁 度 は運 用 開 始 前 よりかなり低 いレベルで推 移 しており、堆 砂 進 行 も、運 用 前 に比 べて
約 1/10 程度に抑制 されていることがわかった。
次 に、下 流 の河 川 環 境 への影 響 として、従 来 、ダムで遮 断 していた上 流 域 からの土 砂 をバイパス排 砂 によっ
て下 流 河 川 に戻 すことができ、下 流 河 川 の河 床 低 下 、アーマコート化 を防 ぐ効 果 があると考 えられる。実 際 に
瀬 ・淵 調 査 や河 床 粒 度 調 査 から河 相 の変 化 (回 復 )が確 認 されており、地 元 の方 からも「ダム完 成 以 来 減 少 の
一 方 であった白 石 (上 流域 特有 のきれいな白 い石 )が戻 ってきた。昔 の川 に戻 りつつある。」との評 価 をいただい
ている。
300
300
1990.11 (BO)
250
19 90.11 (BO)
250
1993. 9 (BO)
1997. 7 (BO)
200
Turbidity (ppm)
Turbidity (ppm)
1993. 9 (BO)
1998. 9 (AO)
150
Pea k of Flood
100
50
1997. 7 (BO)
200
1998. 9 (AO)
150
100
50
Peak of Flood
0
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
0
8
-1
Days
[  10 ]
1990.11 (BO)
1993. 9 (BO)
Turbidity (ppm)
1997. 7 (BO)
1998. 9 (AO)
60
40
Peak of Flood
20
0
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
1
2
3
4
5
6
7
図-5 ダム下流河川 の濁度状況
120
80
0
8
* BO: Bef ore Operation of By pass conduit, AO: Af ter Operation of By pass conduit
図-4 ダム上流河川 の濁度状況
100
-1
Days
* BO: Bef ore Operation of By pass conduit, AO: Af ter Operation of By pass C onduit
8
Days
* BO: Bef ore Operation of By pass conduit, AO: Af ter Operation of By pass conduit
図-6 旭ダム調整池 の濁度状況
- 4 -
6. 成功の理由
成功の理由 としては、以下 の事項があげられる。
(1) 抜本的な対策 としてのバイパス排砂の立案 、実行
海 外 の事 例調 査 を含 め、種 々の対 策案 の比 較 、検討を行 い、地 点 の特 性 などを考 慮 し、抜 本 的 な解決 策
としてバイパス排砂を立案 、実行 した。
(2) 計画 、設計段階での詳細な調査 、分析、検討
計 画 、設 計 段 階 における水 文 、気 象 、地 勢 等 の詳 細 な調 査 、分 析 、および構 造 物 の水 理 設 計 に際 して学
識 経験者 のご指 導をいただき、大 規模 な水理模 型実験や数 値 シミュレーションを実施 し、その成 果を設計 に
反映 させた。
7. 第三者のコメント
<日刊工業新聞(平成 12 年 5 月 31 日)>
“関 西 電 力 は奈 良 県 の奥 吉 野 揚 水 発 電 所 ダムにわが国 初 の濁 水 バイパス放 流 設 備 を完 成 、ダムの堆 砂 量 や
河川の濁 りを大幅に減らし、下流の自然回復 にも大きな効果のあることを実証 した。”
8. 詳細情報の入手先等
●参考文献
1) Minoru HARADA , Masashi TERADA, Tetsuya KOKUBO: Planning and Hydraulic Design of Bypass Tunnel
for Sluicing Sediments Past Asahi Reservoir ,ICOLD 19 th ,1997
●問 い合わせ先
関西電力(株)
URL
:
http://www.kepco.co.jp/
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