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NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
3色光電測光装置による夜間の大気混濁度の評価
Author(s)
荒生, 公雄; 秦, 久里子; 島浦, 恵一
Citation
長崎大学教育学部自然科学研究報告. vol.48, p.29-35; 1993
Issue Date
1993-02-28
URL
http://hdl.handle.net/10069/32250
Right
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長 崎 大 学 教 育 学 部 自然 科 学 研 究 報 告
第48号29∼35(1993)
3色 光 電 測 光 装 置 に よ る夜 間 の大 気 混 濁 度 の 評 価
荒生
公 雄 ・秦
久 里 子*・ 島 浦
恵二 紳
長 崎 大 学 教 育 学 部 地 学教 室
(平成4年10月30日
Estimation
by
of
the
Atmospheric
UBV
Turbidity
Astronomical
KiMi0 ARAO, Kuriko
受 理)
in
the
Photometric
Nighttime
System
HATA and Keiichi SHIMAURA
Department of Earth Sciences, Faculty of Education
Nagasaki University, Nagasaki 852, Japan
(Received October 30, 1992)
Abstract
The atmospheric turbidity in the nighttime, which is defined byÂngstrom's
turbidity
system
parameter,
was studied
of a 30cm-Cassegrain
days was also obtained
(1)
The turbidity
daytime
(2)
by applying
reflector.
the UBV astronomical
The turbidity
by using a sunphotometer
under a very clear condition
in the daytime
photometric
on the same
of 4 wavelengths.
kept the same level both
On the other hand,
in the case that
two succesive daytimes,
connective
the turbidity
the turbidity
changed
values in the night
significantly
between
them
on
showed
levels of their values.
(3) The turbidity
values in the nighttime
showed somewhat
wide dispersion
pared with the daytime values. This is probably due to the scintillation
light and the irregular variation in sky brightness.
(4) The present
study
can be determined
*現
in the
and in the nighttime.
indicates
that
the atmospheric
by the UBV photometric
在
大分県玖珠 町立塚脇小学校
**現 在
長崎県香焼 町立香焼 中学校
turbidity
comof star
in the nighttime
system with reasonable
accuracy.
30
荒生 公雄・秦 久里子・島浦 恵一
1.はしカごき
日中の大気混濁度はサンフオトメーターや直達日射計などによって測定されているが,
気象学的な観点でみると,夜間の混濁度はほとんど注目されておらず,筆者らの調査の範
囲内では論文等の報告も見当たらない。夜間の混濁度が測定可能になれば,いくつかの領
域において研究の拡張が期待できる。たとえば,黄砂現象が出現した際に,日中の混濁度
は把握されたとしても,夜間の状況が不明であるために,現象の変化や継続時問を正確に
見積もれない場合がある。このような時に夜間のデータは貴重である。太陽の代りに星を
光源とすれば,類似の手法で夜間の大気混濁度が得られることは容易に予想できる。もち
ろん,星の光は太陽とは比べものにならないほどに微弱であるから,その測定にはかなり
異なった測定シズテムが必要である。そのような測定を可能にする有望な方法の一つが3
色光電測光システムの活用である。
そこで,本学部の30cm反射望遠鏡(カセグレン式)とその付属品である光電測光装置を『
用いて,夜間の大気混濁度を評価する手法を構築し,実際の測定と解析を試みた。ここで
は,夜間の光電測光法による測定結果ばかりではなく,日 中におけるサツフォトメーター
の測定結果も用いて,両者の比較を通して,光電測光方式による夜間の混濁度の評価につ
いて総合的に考察する。測定に用いた本学部のサンフォトメーターは4波長を干渉フィル
ターで太陽光を測定する方式であり,それらの波長は368,500,675,778nmである。な
お,本稿では夜間の混濁度の評価を主題とするため,サンフォトメーターに関する記述は
必要最小限に留める。また,光電測光法の原理や基本的な取扱いに関しては,Henden and
Kaitchuck(1982),大沢(1984)および大木・野村・横尾(1991)の解説書を参考にし
た。
2.大気混濁度の定義
大気混濁度にはいくつかの異なった定義が存在するが,ここでは最も一般的で物理的な
の
意義に富むAngstr6m(1964)の定義を用いる。一般に,太陽もしくは星から受ける直
達光の強さに比例する波長λの出力電圧Eα)は次の式で与えられる。
酬)〒E。α〉exp[一1τRα)+τdα)+τ。α)}肌] (1)
ただし,E。α):大気外{air mass(肌)=O lにおける理論的な出力値
τRα):純粋なRayleigh大気の光学的厚さ
τdα):エアロゾルの光学的厚さ
’τ。α):オゾンの光学的厚さ
であり,それぞれ波長の関数である。
波長が与えられば,τRα)とτ。α)は既知量として取り扱えるから,
τdα)=(1/漉)・1n{E。α)/齢)1−1τRα)+τQα)1 (2)
によって,エアロゾルの光学的厚さτdα)が得られる。ただし,太陽を光源する場合には,
E。α)を太陽一地球間平均距離(1AU)における値に対応させるために,τdのを求める前
に観測値Eα)には観測月日による距離補正を施す必要がある。もちろん,星の場合はその
必要がない。
3色光電測光装置による夜間の大気混濁度の評価
31
次に,且ngstr6mの混濁パラメーターは次式で定義される。
τdα)=βλ一α (3)
この式を変形すると
1nτdα)=1nβ一α1nλ (4)
となり,横軸に波長の対数値,縦軸にエアロゾルの光学的厚さの対数値をとれば, αは
図上の直線の傾きを意味する。また,波長をμmの単位にとれば,βはλ=1μmにお
けるエアロゾルの光学的厚さを与える。したがって,複数の波長についてτdのを測定し,
(4)式に基づいて対数1次回帰式を求めれば,αとβが決まる。なお,αは波長指数,β
は混濁係数と呼ばれている。
3.測定とデータの処理
第1図(写真)に,接眼部に光電測光装置を取り付けた30cm反射望遠鏡の状態を示す。
受光器にはUBVの3色のフィルターが内蔵されており,UBVごとに星と空について測
定が行なわれる。星の測定値から空の測定値を差し引いて星のみの出力が得られる。本装
置では光電子増倍管IP21によって微弱電圧が増幅されてペンレコーダに記録される。写真
の中央手前はペンレコーダーと高圧電源装置であり,電源装置は光電子増倍管にかける高
圧の供給装置である。もちろん,望遠鏡は駆動装置によって星を自動的に追尾する。測定
には実視等級が4∼5等で天頂付近まで達するG型(太陽と同じスペクトル型)の星を選
んだ。この程度の等級の星では600Vの高圧で十分測定できる。また,測定時の恒星時と
目的星の赤経・赤緯とから星の仰角を求め,これによりair mass(大気路程)を得た。
air mass計算にはKasten(1966)の式を用いた。
ところで,サンフォトメーターのフィルターは干渉フィルターであるから,十分に単色
的(monochromatic)である。しかし,第2図に示すように,3色測光系の透過波長特
性はかなり広域である。そこで,透過帯域において積算透過率が50%になる波長をもって
中心波長と定義し,その波長を用いて実際のデータ処理を行なった。第1表に中心波長と
Rayleighおよびオゾンの光学的厚さを示す。Rayleighの光学的厚さはFl6hlich and
Shaw(1980),オゾンの光学的厚さはKlondratyev(1969)によって示されたデータを
用いた。
さらに,測定値がそろった段階で,もう一つ大切な手続きが必要である。それは(2)式
に示したE。α)を決定することである。高圧電源装置はひと夜ごとにON/OFFを実行
せざるを得ないから,毎晩同じ電圧がかかる保障がない。したがって,毎夜E。α)を決め
直すことが必要になる。その決定は,原理的には気象学でlong method(たとえば,会
田,1982)と呼ばれる外挿法を用いる。air massの変化に対応してτdα)が変化するか
ら,もし混濁度が変わらなければ,第3図に示すような関係が得られ,air mass
に対して測定値をプロットすれば,E。(λ)が決められる。しかし,実際には混濁度は時
間変化するから,それほど簡単ではない。それでも,①混濁度の時間変化は比較的穏
やかな変化であること,および,②3波長のE。値の比率はつねに一定であること,とい
う原理を活用しながら,次のような手続きで,3波長におけるE。Q)を決めることができ
る。
32
荒生 公雄・秦 久里子・島浦 恵一
1、O
感
度
O.5
0
300
400 500 600
波長(nm)
第2図 3色測光システムの波長感度曲
線
第1図 30cm反射望遠鏡と光電測光装置:
第!表 3色測光系の波長特性
受光器,レコーダー,電源装置が
見える
波長名
U B V
まず,第3図のような混濁度と光の強さ
に関するモデル分布を波長ごとに3枚つく
る。その図はOHPシートのような透明
中心波長 Rayleighの
nm)
学的厚さ
368
0.4953
41
.2331
42
.IOOO
Ozoneの
学的厚さ
0.O
.0
,040
な用紙に作図しておくと便利である。それ
ぞれの波長ごとに実際の測定値をair massに対してプロットした図と,その波長の透
明なモデル図を重ね合せる。すなわち,縦軸方向に自由度のある重ね合わせ図が3組で
きる。その際,混濁度が変化していても,3枚は独立ではなく同じ混濁度の変化を示さ
なければならないから,3枚の実況とモデルとを見比べれば,その夜の平均的なαとβが
読み取れる。実際には一義的ではなく若干の任意性をもつが,その夜の大気状態は3枚
の図を総合的に使うことによって特定の状態に落ち着く。その混濁状態で測定値のデー
タを重ね合せて(大抵はすでに合致しているが),最終的に個々のE()α)を決定する。そ
して,すでに経験的に推定されている3つのE。α)問の比率と照合する。その比率と著し
く異なる場合は再検討を行なう。このような手続きは一見「long methodの微調
整」という作業のようにみえる。しかし,実際には「最適値探し」の簡単で確かな方法
の一つである。そして,十分確かなE。α)を得たのちに,吻式を用いて各測定時刻におけ
る τ、α)を算出し,さらに具体的に各測定時刻におけるαとβを求める段階に移行す
る。
実際の個々のデータを処理してみると,第4図に示す1例のように,τ、とλの両対数
値に対してほとんど直線的な関係が得られる。このような図において相関係数(r)がきっ
ちり(一!)である必然性はないが,大体は(一!)にかなり近い値を示すのが普通で
ある(おおむね,r<一〇。95)。したがって,第4図のようなグラフを描き,その直線
性を点検することによってもE()のの値の確かさを吟味することができる,、今回の測定デー
タの処理においては,いずれも良好な直線的関係が得られ,手続きの確かさも確認でき
た
3色光電測光装置による夜問の大気混濁度の評価
Q50
100
80
60
O、40
40
Q30
1991年11月1日 19時10分
目的星ペガスス座85番星
●
E
33
Q20
20
\.
\
●
τd
0.10
相関係数 r・=一〇.
999
α= 1.111
β置 0.118
O.05
Q3
O
1
2
m
3
Q4 Q5 Q6 0.7 Q8Q91.0
λ(μm)
4
第3図 Bフィルターにおける出力 第4図 エアロゾルの光学的厚さと波長の関係を
値とair massのモデル分 示す1例
布;α,βは混濁パラメーター
4、結果と考察
今回の夜問観測は,199!年10月から12月までのうち晴天の!4夜に実施した。測定の対象
とした星は,アンドロメダ座32番星(GH型,5.3等),さんかく座8一δ星(G O型,
4.4等),ペガスス座85番星(G皿型,5.8等)の3つある。ただし,ひと晩のなかでは,
このうちの1つの星だけを測光している。測定は日没2時間後から夜半までとしたため,
明け方の観測はない。もっともおそい観測はOl時40分であった。
の
第5図はll月8日夜から10日昼までのAngstr6mの混濁パラメーターの時間変化を示
す。晴天が長続きして2昼夜にわたってデータが得られた事例が2つあったが,そのうち
の最初の事例である。全体を通してみると,α,βともに8日夜から9日夜にかけて顕
著な増加傾向を示し,2夜のあいだを繋ぐ9日の日中のデータとの接続性も良好である。
それを明瞭に示すのが第6図である。この図ではα・β平面の上に時間(昼夜)別に混
濁度を表示しており,αとβの変化傾向が同時に識別できる。第6図の場合,8日夜
1およそ α=0.6,β=0.lllから,9日昼1α=0.9,β=0。161,9日夜1α=L2,
β=0.21}と変化している。1日のなかでこのような大きな変化は稀であること,および,
夜間の大気状態は日中よりも比較的安定していることなどを考慮すれば,9日夜の高レベ
ルの原因は,1991年6月に噴火し,10月頃から日本上空の成層圏へ影響を与え始めたピナ
ッボ火山灰の流入の可能性も考えられる。
第7図と第8図は,もう1つの2昼夜にわたる連続観測の結果である。このときは清澄
なレベル1α=L2,β・=0.081で非常に安定していたことがわかる。特に,第8図に示
されているように,ll月15日では昼の混濁度と夜の混濁度が実際上一致している。この日
は日中から澄んだ状態であり,夜に入ってもその状態が維持されたことを物語る。売だし,
34
荒生 公雄・秦 久里子・島浦 恵一
20
O,25
∼躍
α1.0
8●の
∼
Q20
ロ ロロ
肉ρ Ooo o
嵩∼
痩胃
o
●●●
ロ
●
翻
0,、5
0
β
● 3
Q2
38
●1991年11月8日
夜間
●
β
σoo
Q1
●
O.10
0
o
●●●
0
0
0 0
o
QO5
●サ
1991年11月9日
日中
1991年11月 9日
夜問
OO
0 18 21
9 12 15 18 21
11月8日
11月9日
Q5 斗,0 1,5 20 25
α
12 15
第6図 1991年11月8∼9日の日
11月10日
1991年
中と夜間における混濁の状
第5図 !991年ll月8∼IO日における
能
’じ、
αとβの経時変化
20
0.25
。1991年11月15日
日中
、
αto
。 o o。 ・.」㌧ 。
嘱●
●
●
●●
Q20
o
●
1991年11月15日
夜閣
0.15
0
β
O.10
●憾
Q2
● ●
β
0
Q1
●
QO5
ロ くン ロ
..o
●’
o。 φ
00
O
1821 9121518219121518
11月14日 11月15日 11月16日
1991年
第7図 1991年ll月14∼16日におけるαとβの
Q5 1.0 1.5 20 25
α
第8図 1991年ll月15日の日中と
夜間における混濁の状態
経時変化
明らかに夜間のデータはばらつきが大きい。これはサンフォトメーターに比べて,測光方
式にはより厳しい観測上の制約があるためと考えられる。
その制約の1つはフィルターの透過域の広さである。狭いことは望ましいが,狭ければ
受光量が減り,測定が困難になる。光電測光方式を利用するかぎりこの制約は避けられな
い。もう1つは,大気状態の微妙な変動である。これによって測定値が影響を受ける。特
にUフィルターで空の明るさを測光する際にかなりの影響を受ける。その1例を第9図に
示す。図の縦軸はペンレコーダー上の記録幅を示すが,air massが大きくなるにっれて
星の測定値は低下する。一方,空の測定値は「町明かり」の散乱光のためにむしろ増加す
る。しかし,その変化傾向は一様ではなく,かなり不規則に変動する。今回は意識して太
陽と同じスペクトル型の星を選んだが,Uフィルターでの測定値を安定させるために,もっ
と表面温度の高い星を選ぶ方が望ましいという示唆が得られる。
35
3色光電測光装置による夜間の大気混濁度の評価
5.ま と め
300
\漁
30cm反射望遠鏡の光電測光装置を活用し,星の光
を用いて夜間の大気混濁度を評価した結果,次のよ
うな事項が明らかになった。
(1)日中において非常に清澄な状態で安定している
日には,夜間もその傾向を維持し,昼夜にわたっ
100
Uフィルター
50
1991年11月6日
30
E
目的昆
て十分な連続性がある。
さんかく座8番星
(2)日中の2日間で混濁度が著しく変動している場
10
合においては,それらに挾まれた夜問の混濁度は
5
3
その中間的なレベルを示し,昼∼夜∼昼に接続性
がある。
(3)光電測光では,大気状態に起因する星のシンチ
レーションや空の明るさの変化を受けやすく,混
1
濁度のばらつきは日中のサンフォトメーターの場
合よりやや大きい。
(4)夜間の混濁度は従来あまり注目されなかったが,
0 1 2 3 4
m
Uフィルターにおける星と
第9図
空の出力値の1例
3色測光システムを利用することによって十分有
用なデータが得られる。
参考文献
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