薄層クロマトグラフィーを用いてアミノ酸を分離しよう 担当教員 黒木勝久

薄層クロマトグラフィーを用いてアミノ酸を分離しよう
担当教員 黒木勝久
TA 福島文恵
アミノ酸とは?
我々の体ではたらくタンパク質は、一つ一つのアミノ酸がつながることで出来
上がります。小さいものでも 50 個程度のアミノ酸が連なっている非常に大きな
分子です。
自然界には、約 500 種類のアミノ酸がありますが、その内、ヒトのタンパク
質は 20 種類のアミノ酸から合成されています。(現在までのところ、21 種類の
アミノ酸から合成されていることが知られていますが、その 1 種類は極めてレ
アなため通常はカウントされません。) このたった 20 種類しかないアミノ酸
から、50 万種類ほどの多様なタンパク質が生み出されることで、我々は健康に
過ごすことができます。そういう意味で、アミノ酸は我々の体には無くてはな
らない存在であるということができます。
アミノ酸はどんな形をしているの?
アミノ酸は、その名前が示すとおり、アミノ(塩基・アルカリ性)をもつ酸であ
ります。その中でも、タンパク質の材料となるアミノ酸は中心の炭素原子(C)に
アミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)が繋がっています(下図)。アミノ基と
カルボキシル基以外にも水素原子(-H)と“カメレオンのようにコロコロと姿が変
えるもの”も繋がっています。この“カメレオン”は 20 通りに変身することが
できるので、タンパク質を構成するアミノ酸は 20 種類ということになります。
アミノ酸の形
このカメレオンが水素原子のときはグリシンとよばれ、メチル基(-CH3)のとき
はアラニンとよばれます。うまみ成分の一つでもあるグルタミン酸は、この“カ
メレオン部位”が-CH2CH2COOH となっています。
グリシン
アラニン
グルタミン酸
アミノ酸の種類によって何が違うの?
たくさんの種類があるアミノ酸ですが、一つ一つのアミノ酸は形が異なるだけ
でなく、化学的性質も異なります。これらの違いにより、タンパク質合成に使
用されなかったアミノ酸(遊離アミノ酸)は様々な役割をもつことになります。
例えば、グルタミン酸のカメレオン部位には酸(カルボキシル基)があります。
ほかのアミノ酸に比べ、酸が一つ多いので酸性アミノ酸とよばれ、我々が食事
として摂取した際には、旨みを感じさせてくれる貴重な調味料成分として活躍
しています。ほかにも、フェニルアラニンと呼ばれるアミノ酸は、カメレオン
部位に芳香環(ベンゼン)を有しており、体内では、極めて重要な脳内ホルモン
の材料になります。また、カメレオン部位による化学的性質の違いは、アミノ
酸の種類を突き止めることにも利用することができます。アミノ酸の種類を突
き止める一つの方法として、“薄層クロマトグラフィー”が知られています。
薄層クロマトグラフィーとは何?
薄層クロマトグラフィーとは、物質(アミノ酸)の化学的性質の違いを利用
することで分離する解析法です。薄層プレートと呼ばれる“魔法の紙”を使用
する
わけですが、実は、薄層プレートの表面にはシリカゲルという物質がコーティ
ングされています。このシリカゲルが“魔法の正体”ですが、シリカゲルは“水
に溶けやすい物質”とくっつきやすいという特徴をもっています。このシリカ
ゲルへの吸着と薄層表面を這い上がってくる展開溶媒への“溶けやすさ”のせ
めぎあいで、物質(アミノ酸)は薄層表面を移動します。この移動距離は物質(ア
ミノ酸)の化学的性質のよって様々であることから、アミノ酸は薄層クロマトグ
ラフィーにより分離することができるわけです。
*化学的性質の一つに“水への溶けやすさ”というものがあり、水に溶けに
くい物質は“水への溶けやすさ”は低いということになります。この“水への
溶けやすさ”は物質の大きさや形、電荷など様々な要因が関係します。
アミノ酸を目でみるにはどうするの?
アミノ酸を薄層クロマトグラフィーで展開した後は、どこにアミノ酸がある
かを観察する必要があります。しかし、薄層プレート上では、アミノ酸を見る
ことはできません。そこで、アミノ酸に色つけることで目に見えるようにしま
す。アミノ酸に色をつける方法として、ニンヒドリン反応がよく利用されます。
この反応は、ニンヒドリンという物質がアミノ酸と化学反応を起こすことで、
紫色の物質が生み出され、アミノ酸の位置を教えてくれます。
実際にアミノ酸を薄層クロマトグラフィーで分離しよう
今回、皆さんには、6 種類のアミノ酸と 1 種類のアミノ酸混合溶液を薄層クロ
マトグラフィーにて分離してもらいます。そして、アミノ酸混合溶液にどんな
アミノ酸が含まれているのかを当ててもらいます。
以下が、今回、使用する 6 種類のアミノ酸です。
グリシン(G)
グルタミン酸(E)
メチオニン(M)
トリプトファン(W)
フェニルアラニン(F)
リシン(K)
実験
1. 600 ml のビーカーに展開溶媒を加える。ブタノール 4 ml, 酢酸 2 ml, 水 1ml
をマイクロピペットをもちいてビーカーに入れ、よく混合したのち、サランラ
ップで密閉する。
2. 薄層プレート上の鉛筆で記してある点に、各アミノ酸溶液をスポットする。
この際、マイクロピッペットもしくはマイクロキャピラリーを用いてスポット
する。G, E, M, W, F, K, X のアミノ酸溶液を対応する点にスポットする。
3. サンプルをスポットした薄層プレートをドライヤーで乾燥させたのち、展開
溶媒の入ったビーカーに入れる。
4. 展開溶媒が一番上に来るまで、待機する(1~1.5 時間程度)。
5. 薄層プレートを取り出し、ドライヤーで乾かしたのちに、噴霧器を使用して、
ニンヒドリン溶液を薄層プレートに吹き付ける。
6. 薄層プレートをホットプレート上に置き、スポットが確認できたら、直ちに、
薄層プレートを取り上げる。
実験終了。
*ニンヒドリンは、タンパク質などとも反応しますので、実験中は必ず手袋を
着用して操作をしましょう。